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第16章 -勇者 VS 魔王-
†第16章† -52話-[ストレス発散①]
水無月宗八は魔族領の荒野に佇んでいた。
彼から離れた位置で雑談に興じているのは、アルカンシェとマリエルだ。
その二組が米粒レベルで映る巨大な映像を前に複数の影がある。
場所はエムクリング山脈を越えた人族領に位置する、火の国ヴリドエンデ王国の闘技場。
光魔法と闇魔法の応用で簡易的な映画館が闘技場に展開され、遠く離れた三人が映像として巨大な光のカーテンに映し出される。
「えっと……どなたか説明をお願いしたい……。イクダニムに誘か…連れて来られただけで状況を理解出来ていないのだが……」
観客の中には額から様々な角を生やす者たちが居た。
魔族だ———。
宗八からこの場に招た…誘拐された魔族は、一様に魔力量の高い魔王を名乗っている者たちだ。
魔王ヴェルザーは、魔王同盟のメンバーの中で一番宗八と関わりがあった為、同じく誘か…招待された魔王たちから圧力を掛けられ、何故自分達がこの場に招た…誘拐されたのかと理由を求めて誰とも知れぬ人間たちに問いかけた。
ヴェルザーの言葉が聞こえたものは複数居た。
しかし、今回集まった目的はレクリエーションであり、協力者同士が仲良くする為のものではない。
———超越者同士の模擬戦を観戦する。
ただそれを観て、白熱し、日ごろの疲れやストレスを癒す。全員が同じ目的で集まっていた。
というより、宗八企画案をアルカンシェ達各国の王族が了承して、重鎮に掛けている負担を格闘技(※異世界版)で労う事を目的とした興行でもあった。
本来なら武闘大会などで同じく労う機会を作るものだが、各国の状況から頻繁に開けるものではない。
だからこそ適度に行われる、普通ではない超越者の宗八たちの模擬戦は一線を画す興奮と解消を部下に与える機会となるのだ。
「申し訳ありませんヴェルザー様。魔王さま方も。お館さまに代わり、諜報侍女隊侍女頭ミアーネが本日の側使いとしてご説明させていただきます」
魔王たちに臆さず近づいたメイドが頭を下げる。
見知らぬ人間ばかりの場所に見知った衣装のメイドが居るだけでヴェルザーは安堵した。
いつも自分に従い先代からも付き合いのある宰相アンデスヘルの裏切りで、何故かひとりで人族領に送り込まれたのだ。
同列の魔王たちも同じ様に一人でこの場に送り込まれている。
———つまり同様に信頼する側近から快く送り出されたのだ。
「この場は我が主、水無月宗八が提供するエンターテイメント。我らが戦力の筆頭を披露すると同時に、皆様に熱狂と興奮を提供する場にございます」
魔族領は厳しい魔素環境により植物も多く育たない。
故に興行としての武闘会など開く余裕はなかったからこそ、その知らせから受けた衝撃は凄まじかった。
この場への勧誘で魔王たちの前に現れたイクダニムは、ようやっと人間の水無月宗八が魔族に化けていたことを明かし、人の身で莫大な魔力を持つ事に更にドン引きされていた。
周囲の鍛えた個人の影響を受けないように、魔王たちが落ち着いて楽しむ為、魔法抵抗力の高い素材で作られた角カバーも送られている。
宗八の気遣いなのだが、無言実行が原因で魔王たちは戦々恐々と強者からの圧力に屈して角カバーを各々装備していた。
「彼の方々は、人族領の王族やその護衛となります。お館様の協力者として少々無茶を通してもらう事も多いので、今回の様なストレス発散の場を提供させていただいているのです」
魔王たちが周囲を見回せば、自分達が居る席には豪華な衣装の者が多い。
そして、他の観客席には様々な衣装を来た者が多かった。
実際、諜報侍女が持って来た案内書には、好きなだけ部下を連れて来ていいと書かれてあったのだ。
各国の人族領の王族たちは、これ幸いと直臣を多く送り込み、この機を利用して部下の慰安を行っているのだが、魔王たちは今回が初参加なのでそんな事に考えが及ばず単身で部下に送り込まれたのだった。
その熱狂たるや凄まじかった。
高ランクの冒険者たちがギルドの訓練所を利用して模擬戦するのとはわけが違う。
レベル上限を突破し、称号稼ぎで高ステータスを得た超越者同士の模擬戦など見ようと思って観られるものではない。
高速で動き回り、派手な魔法が飛び交う宗八たちの模擬戦は、文官でも楽しめるように広範囲が観られる巨大スクリーンに、各々をピックアップする別画面も用意されているのだ。
もちろん全て魔法で成すことなので、現場にはカメラマン役の光精使いアネスが配置され、会場には元聖女クレシーダが受信と上映役として配置されていた。
本来ならば元とはいえ「聖女にこんなことをさせるのはっ!」と文句の一つも出そうなものだが、クレシーダはすでに【七精の門】に参加している。それも嬉々として参加しているので、ユレイアルド神聖教国としても文句は言えず、彼の意思を尊重して黙るしかなかった。
「お一方ずつ席にお座りください。飲み物や食べ物も希望されればご用意させていただきます」
魔王たちが案内された席には名札があった。
ヴェルザー=グリウス様———。
トリトリス=ウェイバー様———。
リリアン=クルセイダー様———。
ゲージス=クローゼット様———。
サージェス=パニング様———。
各地で宗八に協力してくれた魔王五名分の用意された席に腰を降ろすと、心地よい沈み具合に緊張した身体が脱力する。
その表情を確認したミアーネがすぐに指示を出し、各々に飲料と軽食を用意された。
「そろそろ始まりますので上映中は御静かに願います」
気付けば映像の中で雑談していたアルカンシェとマリエルの視線が宗八に向き、表情も真剣なものへ変わっていた。
「セリアティア様。音響も開始していただけますか?」
『では、開始しますわね』
会場に居た風精王セリアティアの分御霊がミアーネの言葉に応えると、一気に会場で現地の空気を感じられるようになった。それは緊張感や彼女たちの覚悟といった感情すら伝播するほどで、全員が黙り込み始まるのを見守る。
痛いほどに張り詰めた緊張感は、マリエルの姿が超高速で動き出し、宗八が軽く跳ねた事で幕は切って落とされた。
* * * * *
「≪韋駄天≫断空!」
マリエルは強力な横移動と同時に、空気を上下に断つ蹴りを宗八に放っていた。
その初動を見逃さず軽く跳ねた宗八が勢いそのままにマリエルに攫われ高速戦闘に入る。
ここの時点で能力が足りない者や能力は足りていても鍛錬が足りておらず動体視力が弱い者は、二人の戦いが見えなくなってしまう。
しかし、これは観客に観せるエンターテイメントだ。
ロングショット画面はアルカンシェも含めて画角に収める為に一気に引き、各自をクローズアップする画面がどういう動作を起こしているのかをしっかりと観客に伝える。
現地で頑張るカメラマン役の光精使いアネスとサーニャの努力の結晶だ。それを受け取りスクリーンに反映させるだけの元聖女クレシーダは一人の観客として興奮して大声を上げていた。
縦横無尽に地に足を着かぬままに繰り出されるマリエルの脚撃を宗八は冷静に捌いていく。
その一撃一撃の威力を物語る様に、風圧だけで周囲の岩が砕け吹き飛ぶ。
対する宗八も攻撃に集中しているマリエルのに戯言を言う余裕はない。
しっかりと蹴りの動作から発生する軌道を読み、剣で逸らし続けている。
「あっれぇ~!? どうしたんですかぁ? やけに口数が少ないですけどぉもしかしてビビってますかぁ!?」
自分の攻撃を脅威と感じていると理解した上で宗八を煽るメスガキマリエル。
「そんなわけないだろ。神力も使いこなせてないただの蹴りに誰がビビるか」
確かにマリエルの蹴りを一撃でも受ければ態勢が崩されてピンチになる。
だからこそ、いま意識を向けなければならないのはこちらを狙うアルカンシェの視線だ。
「おっと……。早速来たか……」
マリエルの蹴りを剣で捌く瞬間を狙いすまし放たれた氷の弾丸を身体を捻って避ける。
避けたは避けたが高速戦闘をしている二人の合間を狙える技量に笑みがこぼれた。
「ほんっとうにアルシェは最高だなっ!」
この音声はしっかりと現地の風精使いライナーに拾われ、上映会場の風精セリアティアが観客に聞かせている。
愛し合いながらも模擬戦に遠慮のない二人の姿に感動する者が続出する一方、女性陣の多くは頬を赤らめてこれほどに強く認められるアルカンシェを羨ましく思うのであった。
「推せる」
「わかるぞ」
誰とも知れぬ者の溢した言葉。
これに思わず返したのは、一番宗八の行動に負担を強いられているラフィート=フォレストトーレだった。
元婚約者候補と言う立場でありつつ、親友とも言えるほどに親しくなった宗八と二人の関係を肴にしつつ、ラフィートはこの酒を飲みながら会合を楽しんでいた。
現場の宗八は、的確な支援射撃を行うアルカンシェに舌を巻いていた。
「(良くアクア抜きにこれだけの技量を磨いたもんだな……)」
その言葉に応えたのは、仮契約をしていた水精アクアーリィだ。
『(アルは最初から筋が良かったよぉ~。今は魔法に集中出来ているから、尚更エアリアルショットがエグいけどねぇ~)』
まだ本気を出していないから射撃地点も複数では無く、アルカンシェ自身だけなのだ。
ここから神力も使い始めればその威力も馬鹿に出来ず、射線も複数存在する事となる。
この模擬戦の行方を考えるだけで宗八の口角は早くも上がり始めていた。
「笑ってる場合じゃないですよっ!≪雷瞬≫」
契約精霊が風精ニルチッイから水精ヴォジャノーイに変わったとはいえ、完全に雷化が無くなったわけでは無い。
宗八の余裕を察したマリエルが、勢いを殺さぬままに一瞬で宗八の背後に移動して攻撃の開始モーションが完了している。
「これだけは本当にっ!厄介だな!」
恨み節の言葉と共に振られた剣は間に合わず、被弾した宗八は地面に叩きつけられる。
盛大な土煙だけではなくひび割れる地面を見て観客は、少女の蹴りのひとつひとつがあの威力なのだと感嘆する。
当然、宗八を知る者は誰一人として心配をしていない。
マリエルも手加減する必要は無いと考えており、いまのHITはそれなりに全力で蹴り落としていた。
雷速移動は現代人の宗八だからこそ恐怖であった。
自身を雷と成し、目標地点で再構築する。アニメや漫画からそのリスクを知る宗八からすれば、マリエルの選択は異常行動だ。
しっかりと青竜の蒼天籠手で受けた宗八は、足首まで地面に埋まりながらも立っていた。
「……《竜突き!》」
竜眼を通して土煙の向こうで、自身に向けてアルカンシェの魔力が収束していく様が見えた。
水精ポシェントが得意としていた【猪突き】と似ているが、明らかに濃度が違う。
相応に高くなった威力を考えれば、出来れば受けたくはない牙が目前に迫る。
「———≪置換≫」
「はいっ!?それは卑怯ですってっ!」
宗八の居た場所にはマリエルが入れ替わっていた。
代わりに宗八はマリエルが居た安全な場所に移動していた、が。
「甘いです———」
安全地帯と思われた位置に対してもアルカンシェは、《竜突き》を発動していた。
「最高かよっ!」
マリエルへ向かう魔法は解除され、宗八に向けられた魔法だけが続行される。
誉め言葉と共に届いた牙を先と同じ様に青竜の蒼天籠手で受けた宗八が態勢を崩す。
「マリエルッ!」
隙は一瞬だ。
アルカンシェの叫びに即応するマリエルの姿が消える。
「任せてくださいっ!≪韋駄天≫神威蛇!」
先の置換で地面に降りていたマリエルは、一瞬で宗八の真下に現れコブラの如く飛び掛かった。
真下からの強烈な気配の動きが早すぎて宗八の動作が遅れた結果……。
見事に宗八の防御を掻い潜った蹴りが炸裂し、聞いた事も無い撃鉄音が木霊する。
その衝撃波が荒野を駆け抜ける様が映像に映り、誰もが決まったかと固唾を飲んだ。
「———《雷神衝!》」
威力の代償に硬直していたマリエルの土手っ腹に宗八の雷拳がめり込み叩き落とす。
「痛ああああああっ!」
マリエルが悲鳴を上げながら地面に叩きつけられる。
痛いで済んでいるマリエルにもドン引きだが、宗八があの蹴りを受けてピンピンしている事も観客の多くは信じられないと驚きを隠せない。
数秒だけ防御力を極大UPさせる魔法《金剛》。
これを発動して尚、脇腹に軽い痛みが残るマリエルの蹴りの威力に身震いする宗八に向けて、アルカンシェの魔法が掃射される。
勇者の剣が正当進化した【≪捻氷柱弾≫】と【青竜の蒼天咆哮】の弾幕に対し、宗八は七精剣カレイドハイリアハイリアを構えた。
『(聖壁の欠片はいらないです?)』
「(もうちょっと俺だけで楽しませてくれ)」
地精ノイティミルの提案を蹴った宗八は、ライフルの如き超速度で複数迫る螺旋貫弾を斬り払う。
竜眼を発動させ、動体視力を向上した宗八の視界と思考が未来視と見紛う正確さで必要な弾だけを見極め落とす。
弾幕の対処方法は簡単だ。
むやみやたらに動き回らず、自分に当たるものだけを潰せばいい。
「【高速剣】《空間征服》」
ただでさえ早かった振りが戦技で高速化する事で、観客には宗八の右腕が消えたように見えた。
甲高い通過音が周囲から聞こえる中でも自分の動きに影響を与えるものだけを次々と斬り払っていく。
しかし、それだけでは対策出来ない魔力砲が放たれる。
凍結効果を持つ強力な魔力砲———青竜の蒼天咆哮だ。
文字通りその場を動かぬままに魔法の弾幕を対処していた宗八も魔力砲には別の対応を求められる。
射撃ポイントに視線を送れば、マリエルが時間を稼いでいる間にアルカンシェは支援展開を完了していた。
彼女の周りには浮遊する射撃ポイント【氷銃追従核】が四基。
地面を這う【氷竜追従核】が二基。
『(アレ、アクアが魔法組んだんだぁ~♪)』
嬉しそうに報告する水精アクア―リィは置いておいて、宗八の加速する思考が時間を延長して迫る魔力砲がゆっくり映る。
『(お父さん……)』
「(まだだっ!)」
楽しみたい宗八は、再び地精ノイティミルの提案を蹴り飛ばし、魔力砲に立ち向かった。
彼から離れた位置で雑談に興じているのは、アルカンシェとマリエルだ。
その二組が米粒レベルで映る巨大な映像を前に複数の影がある。
場所はエムクリング山脈を越えた人族領に位置する、火の国ヴリドエンデ王国の闘技場。
光魔法と闇魔法の応用で簡易的な映画館が闘技場に展開され、遠く離れた三人が映像として巨大な光のカーテンに映し出される。
「えっと……どなたか説明をお願いしたい……。イクダニムに誘か…連れて来られただけで状況を理解出来ていないのだが……」
観客の中には額から様々な角を生やす者たちが居た。
魔族だ———。
宗八からこの場に招た…誘拐された魔族は、一様に魔力量の高い魔王を名乗っている者たちだ。
魔王ヴェルザーは、魔王同盟のメンバーの中で一番宗八と関わりがあった為、同じく誘か…招待された魔王たちから圧力を掛けられ、何故自分達がこの場に招た…誘拐されたのかと理由を求めて誰とも知れぬ人間たちに問いかけた。
ヴェルザーの言葉が聞こえたものは複数居た。
しかし、今回集まった目的はレクリエーションであり、協力者同士が仲良くする為のものではない。
———超越者同士の模擬戦を観戦する。
ただそれを観て、白熱し、日ごろの疲れやストレスを癒す。全員が同じ目的で集まっていた。
というより、宗八企画案をアルカンシェ達各国の王族が了承して、重鎮に掛けている負担を格闘技(※異世界版)で労う事を目的とした興行でもあった。
本来なら武闘大会などで同じく労う機会を作るものだが、各国の状況から頻繁に開けるものではない。
だからこそ適度に行われる、普通ではない超越者の宗八たちの模擬戦は一線を画す興奮と解消を部下に与える機会となるのだ。
「申し訳ありませんヴェルザー様。魔王さま方も。お館さまに代わり、諜報侍女隊侍女頭ミアーネが本日の側使いとしてご説明させていただきます」
魔王たちに臆さず近づいたメイドが頭を下げる。
見知らぬ人間ばかりの場所に見知った衣装のメイドが居るだけでヴェルザーは安堵した。
いつも自分に従い先代からも付き合いのある宰相アンデスヘルの裏切りで、何故かひとりで人族領に送り込まれたのだ。
同列の魔王たちも同じ様に一人でこの場に送り込まれている。
———つまり同様に信頼する側近から快く送り出されたのだ。
「この場は我が主、水無月宗八が提供するエンターテイメント。我らが戦力の筆頭を披露すると同時に、皆様に熱狂と興奮を提供する場にございます」
魔族領は厳しい魔素環境により植物も多く育たない。
故に興行としての武闘会など開く余裕はなかったからこそ、その知らせから受けた衝撃は凄まじかった。
この場への勧誘で魔王たちの前に現れたイクダニムは、ようやっと人間の水無月宗八が魔族に化けていたことを明かし、人の身で莫大な魔力を持つ事に更にドン引きされていた。
周囲の鍛えた個人の影響を受けないように、魔王たちが落ち着いて楽しむ為、魔法抵抗力の高い素材で作られた角カバーも送られている。
宗八の気遣いなのだが、無言実行が原因で魔王たちは戦々恐々と強者からの圧力に屈して角カバーを各々装備していた。
「彼の方々は、人族領の王族やその護衛となります。お館様の協力者として少々無茶を通してもらう事も多いので、今回の様なストレス発散の場を提供させていただいているのです」
魔王たちが周囲を見回せば、自分達が居る席には豪華な衣装の者が多い。
そして、他の観客席には様々な衣装を来た者が多かった。
実際、諜報侍女が持って来た案内書には、好きなだけ部下を連れて来ていいと書かれてあったのだ。
各国の人族領の王族たちは、これ幸いと直臣を多く送り込み、この機を利用して部下の慰安を行っているのだが、魔王たちは今回が初参加なのでそんな事に考えが及ばず単身で部下に送り込まれたのだった。
その熱狂たるや凄まじかった。
高ランクの冒険者たちがギルドの訓練所を利用して模擬戦するのとはわけが違う。
レベル上限を突破し、称号稼ぎで高ステータスを得た超越者同士の模擬戦など見ようと思って観られるものではない。
高速で動き回り、派手な魔法が飛び交う宗八たちの模擬戦は、文官でも楽しめるように広範囲が観られる巨大スクリーンに、各々をピックアップする別画面も用意されているのだ。
もちろん全て魔法で成すことなので、現場にはカメラマン役の光精使いアネスが配置され、会場には元聖女クレシーダが受信と上映役として配置されていた。
本来ならば元とはいえ「聖女にこんなことをさせるのはっ!」と文句の一つも出そうなものだが、クレシーダはすでに【七精の門】に参加している。それも嬉々として参加しているので、ユレイアルド神聖教国としても文句は言えず、彼の意思を尊重して黙るしかなかった。
「お一方ずつ席にお座りください。飲み物や食べ物も希望されればご用意させていただきます」
魔王たちが案内された席には名札があった。
ヴェルザー=グリウス様———。
トリトリス=ウェイバー様———。
リリアン=クルセイダー様———。
ゲージス=クローゼット様———。
サージェス=パニング様———。
各地で宗八に協力してくれた魔王五名分の用意された席に腰を降ろすと、心地よい沈み具合に緊張した身体が脱力する。
その表情を確認したミアーネがすぐに指示を出し、各々に飲料と軽食を用意された。
「そろそろ始まりますので上映中は御静かに願います」
気付けば映像の中で雑談していたアルカンシェとマリエルの視線が宗八に向き、表情も真剣なものへ変わっていた。
「セリアティア様。音響も開始していただけますか?」
『では、開始しますわね』
会場に居た風精王セリアティアの分御霊がミアーネの言葉に応えると、一気に会場で現地の空気を感じられるようになった。それは緊張感や彼女たちの覚悟といった感情すら伝播するほどで、全員が黙り込み始まるのを見守る。
痛いほどに張り詰めた緊張感は、マリエルの姿が超高速で動き出し、宗八が軽く跳ねた事で幕は切って落とされた。
* * * * *
「≪韋駄天≫断空!」
マリエルは強力な横移動と同時に、空気を上下に断つ蹴りを宗八に放っていた。
その初動を見逃さず軽く跳ねた宗八が勢いそのままにマリエルに攫われ高速戦闘に入る。
ここの時点で能力が足りない者や能力は足りていても鍛錬が足りておらず動体視力が弱い者は、二人の戦いが見えなくなってしまう。
しかし、これは観客に観せるエンターテイメントだ。
ロングショット画面はアルカンシェも含めて画角に収める為に一気に引き、各自をクローズアップする画面がどういう動作を起こしているのかをしっかりと観客に伝える。
現地で頑張るカメラマン役の光精使いアネスとサーニャの努力の結晶だ。それを受け取りスクリーンに反映させるだけの元聖女クレシーダは一人の観客として興奮して大声を上げていた。
縦横無尽に地に足を着かぬままに繰り出されるマリエルの脚撃を宗八は冷静に捌いていく。
その一撃一撃の威力を物語る様に、風圧だけで周囲の岩が砕け吹き飛ぶ。
対する宗八も攻撃に集中しているマリエルのに戯言を言う余裕はない。
しっかりと蹴りの動作から発生する軌道を読み、剣で逸らし続けている。
「あっれぇ~!? どうしたんですかぁ? やけに口数が少ないですけどぉもしかしてビビってますかぁ!?」
自分の攻撃を脅威と感じていると理解した上で宗八を煽るメスガキマリエル。
「そんなわけないだろ。神力も使いこなせてないただの蹴りに誰がビビるか」
確かにマリエルの蹴りを一撃でも受ければ態勢が崩されてピンチになる。
だからこそ、いま意識を向けなければならないのはこちらを狙うアルカンシェの視線だ。
「おっと……。早速来たか……」
マリエルの蹴りを剣で捌く瞬間を狙いすまし放たれた氷の弾丸を身体を捻って避ける。
避けたは避けたが高速戦闘をしている二人の合間を狙える技量に笑みがこぼれた。
「ほんっとうにアルシェは最高だなっ!」
この音声はしっかりと現地の風精使いライナーに拾われ、上映会場の風精セリアティアが観客に聞かせている。
愛し合いながらも模擬戦に遠慮のない二人の姿に感動する者が続出する一方、女性陣の多くは頬を赤らめてこれほどに強く認められるアルカンシェを羨ましく思うのであった。
「推せる」
「わかるぞ」
誰とも知れぬ者の溢した言葉。
これに思わず返したのは、一番宗八の行動に負担を強いられているラフィート=フォレストトーレだった。
元婚約者候補と言う立場でありつつ、親友とも言えるほどに親しくなった宗八と二人の関係を肴にしつつ、ラフィートはこの酒を飲みながら会合を楽しんでいた。
現場の宗八は、的確な支援射撃を行うアルカンシェに舌を巻いていた。
「(良くアクア抜きにこれだけの技量を磨いたもんだな……)」
その言葉に応えたのは、仮契約をしていた水精アクアーリィだ。
『(アルは最初から筋が良かったよぉ~。今は魔法に集中出来ているから、尚更エアリアルショットがエグいけどねぇ~)』
まだ本気を出していないから射撃地点も複数では無く、アルカンシェ自身だけなのだ。
ここから神力も使い始めればその威力も馬鹿に出来ず、射線も複数存在する事となる。
この模擬戦の行方を考えるだけで宗八の口角は早くも上がり始めていた。
「笑ってる場合じゃないですよっ!≪雷瞬≫」
契約精霊が風精ニルチッイから水精ヴォジャノーイに変わったとはいえ、完全に雷化が無くなったわけでは無い。
宗八の余裕を察したマリエルが、勢いを殺さぬままに一瞬で宗八の背後に移動して攻撃の開始モーションが完了している。
「これだけは本当にっ!厄介だな!」
恨み節の言葉と共に振られた剣は間に合わず、被弾した宗八は地面に叩きつけられる。
盛大な土煙だけではなくひび割れる地面を見て観客は、少女の蹴りのひとつひとつがあの威力なのだと感嘆する。
当然、宗八を知る者は誰一人として心配をしていない。
マリエルも手加減する必要は無いと考えており、いまのHITはそれなりに全力で蹴り落としていた。
雷速移動は現代人の宗八だからこそ恐怖であった。
自身を雷と成し、目標地点で再構築する。アニメや漫画からそのリスクを知る宗八からすれば、マリエルの選択は異常行動だ。
しっかりと青竜の蒼天籠手で受けた宗八は、足首まで地面に埋まりながらも立っていた。
「……《竜突き!》」
竜眼を通して土煙の向こうで、自身に向けてアルカンシェの魔力が収束していく様が見えた。
水精ポシェントが得意としていた【猪突き】と似ているが、明らかに濃度が違う。
相応に高くなった威力を考えれば、出来れば受けたくはない牙が目前に迫る。
「———≪置換≫」
「はいっ!?それは卑怯ですってっ!」
宗八の居た場所にはマリエルが入れ替わっていた。
代わりに宗八はマリエルが居た安全な場所に移動していた、が。
「甘いです———」
安全地帯と思われた位置に対してもアルカンシェは、《竜突き》を発動していた。
「最高かよっ!」
マリエルへ向かう魔法は解除され、宗八に向けられた魔法だけが続行される。
誉め言葉と共に届いた牙を先と同じ様に青竜の蒼天籠手で受けた宗八が態勢を崩す。
「マリエルッ!」
隙は一瞬だ。
アルカンシェの叫びに即応するマリエルの姿が消える。
「任せてくださいっ!≪韋駄天≫神威蛇!」
先の置換で地面に降りていたマリエルは、一瞬で宗八の真下に現れコブラの如く飛び掛かった。
真下からの強烈な気配の動きが早すぎて宗八の動作が遅れた結果……。
見事に宗八の防御を掻い潜った蹴りが炸裂し、聞いた事も無い撃鉄音が木霊する。
その衝撃波が荒野を駆け抜ける様が映像に映り、誰もが決まったかと固唾を飲んだ。
「———《雷神衝!》」
威力の代償に硬直していたマリエルの土手っ腹に宗八の雷拳がめり込み叩き落とす。
「痛ああああああっ!」
マリエルが悲鳴を上げながら地面に叩きつけられる。
痛いで済んでいるマリエルにもドン引きだが、宗八があの蹴りを受けてピンピンしている事も観客の多くは信じられないと驚きを隠せない。
数秒だけ防御力を極大UPさせる魔法《金剛》。
これを発動して尚、脇腹に軽い痛みが残るマリエルの蹴りの威力に身震いする宗八に向けて、アルカンシェの魔法が掃射される。
勇者の剣が正当進化した【≪捻氷柱弾≫】と【青竜の蒼天咆哮】の弾幕に対し、宗八は七精剣カレイドハイリアハイリアを構えた。
『(聖壁の欠片はいらないです?)』
「(もうちょっと俺だけで楽しませてくれ)」
地精ノイティミルの提案を蹴った宗八は、ライフルの如き超速度で複数迫る螺旋貫弾を斬り払う。
竜眼を発動させ、動体視力を向上した宗八の視界と思考が未来視と見紛う正確さで必要な弾だけを見極め落とす。
弾幕の対処方法は簡単だ。
むやみやたらに動き回らず、自分に当たるものだけを潰せばいい。
「【高速剣】《空間征服》」
ただでさえ早かった振りが戦技で高速化する事で、観客には宗八の右腕が消えたように見えた。
甲高い通過音が周囲から聞こえる中でも自分の動きに影響を与えるものだけを次々と斬り払っていく。
しかし、それだけでは対策出来ない魔力砲が放たれる。
凍結効果を持つ強力な魔力砲———青竜の蒼天咆哮だ。
文字通りその場を動かぬままに魔法の弾幕を対処していた宗八も魔力砲には別の対応を求められる。
射撃ポイントに視線を送れば、マリエルが時間を稼いでいる間にアルカンシェは支援展開を完了していた。
彼女の周りには浮遊する射撃ポイント【氷銃追従核】が四基。
地面を這う【氷竜追従核】が二基。
『(アレ、アクアが魔法組んだんだぁ~♪)』
嬉しそうに報告する水精アクア―リィは置いておいて、宗八の加速する思考が時間を延長して迫る魔力砲がゆっくり映る。
『(お父さん……)』
「(まだだっ!)」
楽しみたい宗八は、再び地精ノイティミルの提案を蹴り飛ばし、魔力砲に立ち向かった。
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草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
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五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
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⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
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神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
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いわゆる"神々の愛し子"というもの。
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そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
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えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
無能な悪役に転生した俺、10年間で集めたハズレスキル4000個を合成したら最強になっていた
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ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
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30年待たされた異世界転移
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