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第02章 -大滝の都ポルタフォール編-

†第2章† -05話-[まだ見えぬ敵の真意:2日目後編]

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 ー15:32

 [エクソダス]で1番水源からポルタフォールへ戻った俺達は、
 それぞれが報告をする為に一旦分かれることにした。
 メリー達はセリア先生とイセト氏へと報告と、
 この数時間の成果を確認する事。
 俺達はギルドへ報告と、
 落ち着いて話し合いをしてお互いをもっと知る事。

「こっちがひと段落ついたら、
 迎えに行くからそれまで手伝ってあげて」
「かしこましました」
『ボクはそのままセリア先生についてていいんです?』
「あぁ、敵が動かない限りはもう仕事を頼むことにはならない。
 存分にのんびりとしていろ」
『わかったです』

 2人と別れて歩き始める。
 アクアは黙って俺に抱かれたまままだ一言も発していない。
 しばらくお互いに話しかけないまま歩き、俺はやっと口を開く。

「ごめんなアクア」
『・・・・・』
「一言お前に伝えておけば良かったよな。
 あっちでモンスターの姿が見えなくてな、
 浮遊精霊と仮契約して話を聞こうかと何度か考えた。
 けど、アクアが嫌がるだろうってわかってたから、
 1人で探していたらスィーネに出会ったんだ」
『・・・・・』
「スィーネの能力は俺達にとっては優用で、
 全員の危険を回避する為に早く合流したい俺には必要だった。
 ここまではわかるか?」
『・・・・うん』
「アクアは俺にとって大切なパートナーだし、
 娘のようにも思っている。
 まだ、幼いから仕方ない部分もあるけれど、
 時々は今回みたいに現地の人とで協力することもある。
 でも本契約をするつもりはないさ、
 なんでかわかるか?」
『・・うんう』フルフル

「アクアが大切だからだよ。
 信頼しているし、
 俺の中の優先順位はアルシェとアクアが同列1位なんだ。
 アクアが嫌がる事は出来る限りしたくないんだよ」

「だから、今回は俺が悪かった。
 アクアに話をしても進まないと諦めてしまった。
 もっとアクアを信じればよかった。
 もっと早くにこんな話をしていれば良かった。
 ごめんなアクア」
『・・・あくあもごめんなさい』

 ようやくアクアが口を開いて、
 胸のうちに溜め込んだ想いを伝えてきた。

『ほかのせいれいならきにしなかったけど、
 みずせいれいは・・・いやだった。
 いやだっておもったらおさえきれなくなって、
 いじわるしてた』
「うん、すごく困ったよ」
『ますたーがあやまってくるのが、
 うれしくて、
 あくあがいらないこじゃないんだってわかって、
 すごくうれしかったの。
 でも、ますたー・・・おこった』

 スィーネも言っていたが契約者マスターとは精霊にとって、
 特別な存在なのだろう。
 今まで精霊2人を見ていたが、甘える時とか、悪戯する時とか、
 見ている俺が子供の頃を思い出す事が多々あった。
 あの時は深く考えていなかったが、
 本当に容赦がないんだよな。
 悪戯ですら俺にする内容と他のメンバーにする内容に差がある。
 俺にする時に度が過ぎるのは甘えなのだろう。

『ますたーからおこられたら、
 すごくかなしくなって、
 やっぱりあくあはいらないのかなって、
 おもったら・・・なみだがでてきて、
 うっ・・うっ・・』
「ちゃんと聞いてるから。
 頑張れ、アクア」

 抱く手で背中をポンポンと叩いて励ます。
 ぶつかり合ってこその家族なのだから、
 言いたい事があるなら聞きたいし、
 俺だって遠慮なくぶつかりたい。
 頑張れ、頑張れ。

『うっ・・・うっ・うっ・・・ゴクン。
 かなしかったの。
 ますたーにきらわれたくないの。
 あくあをみてほしかったの。
 ほかのみずせいれいと・・・、
 けいやくしないでほしかったよぉぉぉぇぇええーーーん!!』
「よく頑張ったな。
 よく言ってくれたな。
 偉いぞアクア。
 俺だってアクアに嫌われたくないんだよ。
 アクアと仲良く一緒に居たいんだよ」
『ますたー!ます、たー!!うわあぁぁぁぁん!!』

 結局、会話が足りない家族の親子喧嘩みたいなものだった。
 話してみればお互いが嫌われたくない、
 という1点を共有しながら溝が出来てしまった。
 俺の父親は小学5年の時に離婚して家を出て行った。
 もちろん男親だから夏休みとかに遊びに行く事はあったが、
 お互いが我儘とか言わなかったなぁ。
 口喧嘩もした記憶があまりない。
 もっと話し合ったり喧嘩すればよかったなぁ。

 宿に着く前に話が終わってしまい、
 道中は泣くアクアをあやしながら歩く。
 セリア先生とイセト氏の演説が終わっている為か、
 街中に人がちらほら出ているので、すっごく見られる。
 商店の前を通る時なんか飴ちゃんを貰ってあやしてもらった。
 外には出ずともずっと静かだった街中に、
 子供の泣き声が響き渡れば皆が皆、窓を開けて確認してくる。
 人攫いかと思う人もいたみたいだが、
 女の人からすぐに止められていた。
 女性から見れば俺達は親子に見えるのかもしれないな。

 宿に着く頃には泣き止んでいた。
 ひとまず主人に挨拶をして、休憩に戻った事と、
 解決に向かっている事を伝えた。

「流石はアルカンシェ姫殿下の一行ですね。
 到着してから二日目でもう解決の目が見えるとは!」
「俺達だけじゃなくて色んな人が動いた結果です。
 街の事を考えて動く人、水災を考える人、
 問題点の考える人、解決に向かう人。
 貴方は我々をサポートしてくださる人です」
「へい!この問題解決に自分も参加していると言われると、
 ムズ痒いものがありますが、
 やっぱり嬉しいです!」
「解決に向かってはいますがまだ日数は掛かります。
 その間のサポートをお願いしますね」
「へい、夜の仕込みもばっちりでさぁ!」
「夜にみんなを連れて戻ります。
 1時間ほど休憩したらまた出ますので」
「わかりました。1時間したらお声を掛けます」
「お願いします」
『します~』

 ともすれば、部屋でする事もなく、
 アクアは泣き疲れてすぐに眠ってしまった。
 俺もそんなアクアを撫でているうちに瞼(まぶた)が落ちてきて、
 微睡みから睡眠へと移行していった。


 * * * * *
 ー16:11

「ちゃんと話し合えてますかねぇ」
『念話なので詳しくはわからなかったですが、
 最後にすごく怒気を感じました』
「やっぱり怒られてましたよね。
 まずいとは思っても、
 不得意な炎魔法ではアクアちゃんに対抗出来ないですから」
『仕方ないわよ、受肉はしてるけれど幼いんでしょ?』
「そうですね。元は浮遊精霊ですし」
『クーもです』
『浮遊精霊が念話じゃなくて言葉を話すのも驚きだわ。
 貴女は闇精霊でしょう?
 闇精霊なんて一生に1回見掛ける程度と聞いているわよ』
「同じ精霊ですら一生に1度ですか・・・」
『日光の降り注ぐ生き辛い地上よりは地下の生活を選びますからね』

 排水作業を進めながら件(くだん)の2人を心配する面々。
 始めにスィーネが亜空間の向こうへ飛び込んだ時は驚いたが、
 話を聞けば納得がいった。
 曰く、精霊はある程度進化すると、
 自身の周囲の環境を支配できるらしく、
 スィーネは水精霊に加えて水源の守護者。
 当然アクアよりも成長しており、
 何もかも上位互換な彼女は、
 好き勝手に排水作業を進めていた。

『亜空間内はこちらとは別世界扱いなのよ。
 だから私の支配が及ばず排水が出来なかったのよ。
 亜空間内に入れる亀裂がなかったから諦めていたけど、
 貴方達のおかげで何とかなりそうね』

 確かに亜空間から飛び出した水は勢いを無くして、
 下方へ落ちる。
 それでも支配の範囲外に出ても操作をして街へ向かわせる。

「スィーネさんはずっとポルタフォールにいたのですか?
 水精霊が管理しているなんて話は聞いたことがないのですが」
『この姿に成ったのは4年前で、ここに来たのが3年前。
 先代が進化しそうだからって交代で守護者になったわ』
「もしかして、他の地方にもスィーネさんのような精霊がいるんでしょうか?」
『それはそうでしょうね。
 属性に応じて進化した精霊を保護する為に、
 浮遊精霊の発生率が高い地域にそれなりのがいるはずよ』


 * * * * *
 ー17:10

「お客様!1時間経ちましたよぉ!」
「『・・・はーーい」』

 何故かテンションの高い宿の主人のドアドンで起こされる。
 俺とアクアは揃って気の抜けた返事をあげた。

「おはよう、アクア」
『おはよう、ますたー』

 ニッコリ(  ^ω^ )( ^ω^  )
 二人揃って笑ってしまう。なんだろうなこれ。
 喧嘩してしまったけれど、絆が強まったというか、
 アクアが俺を想ってくれている事がわかって素直に嬉しい。
 アクアも同じだといいんだけれど。

「じゃあ、町長邸に移動して状況次第でアルシェ達を一旦迎えに行こうか」
『わかった~!』

 ンバッ!と俺の頭に飛び乗るアクア。
 もう手のひらサイズではないから、下半身がぶらつくが、
 次に進化したらこれも出来なくなるだろうし、
 俺も嫌ではないからこのまま移動を開始する。

「あ!ギルドに報告忘れてた!」
『ますたーおっちょこちょいだね~。
 ぎるどはこっちだ~!』
「アクアの事で頭がいっぱいだったんだよぉ!」

 途中の十字路手前ですっかり頭から抜けていたギルドへ向かう。
 もしかしたら、メリーが代わりに報告しているかもしれないけれど、
 念のために顔だけは出しておこう。


 * * * * *
「10分ほど前までイセト町長代理とセリア様が来てましたよ。
 相談をしに来たそうで、決めることだけ決めて帰られました」
「やっぱりかぁー!!」
「まぁ、作戦が順調で良かったじゃないですか!
 このまま何事もなく解決すれば最高ですね!」
「おっと、フラグが立ったぞ。
 禍津核(まがつかく)の方は何か報告上がってますか?」
「それに関しては首謀者と話がしたいと、担当の方がいらしてます」
「は?いらしてます?1晩で到着ってそんなに近くだったんですか?」
『何を馬鹿な事を言ってやがるデスカラ!
 私のチカラで来たに決まってると思いマスカラァ!』

 どこぞで聞いたような似非日本語・・・、
 違うな、この世界の言語を喋る黒ローブが奥から現れる。
 白衣のように着崩した黒ローブのせいで、
 完全にマッドサイエンティストに見える。

『やっと来たデスカラ!待ちくたびれたと思いマス!
 どこに行ってやがったんデスカ!』
「いや、水源に行ってたんだけど・・・どなた?」
『おめぇが脅(おど)しつけて研究させたんデスカラ!
 魔法ギルドで幹部張ってマス、カティナ言いマース!』
「あ、これはご丁寧に。冒険者をしてます、水無月(みなづき)といいます」
『あくあーりぃ!』
『小さいのに用はないデスカラ!『がーん・・・』ミナヅキ?
 そう、おまえと思いマス!
 ミナヅキも爺ぃにみかじめ納めてるデスカ?』
「みかじめ?いや、特には払ってませんね。逆に眷属を預かりましたが」
『ナンダッテ!?
 ・・・ミナヅキのアニキ。お会いできて光栄ッス!』
「えっと、突然の登場と態度の変化に混乱してるんですが、
 何か用があってわざわざこちらに出向いたんでしょう?」
『あ、気安く声かけて欲しいデスカラァ!
 ミナヅキのアニキが送ってきた禍津核(まがつかく)デスカァ?
 あれヤバイっすよ!核の構成が一部上書きがされてたデスカラ!
 しばらくしたら普通の核に戻ったデスケド、
 一時支配下に置かれていたのは確かだと思いマスカラァ!』
「つまり、スライムの核を通して支配下に置いていた、
 俺達が支配をしていた本体の核を破壊したため、
 支配下から抜けた。しかし、しばらくは最後の指令に従うって感じかな?」
『かしこい!』
「馬鹿にしとるんか!範囲とかその先の可能性とかは?」
『さっきまでいたメリーとかいうのが戦ったスライムは土精霊も含んでたそうデス。
 スライムの核には精霊を2体閉じ込めるほど力はないデスカラ、
 その魔神族(まじんぞく)達が造った核ということデス』

 アクアの進化にスライムの核は耐えられなかった。
 本来精霊に使用する物ではないからわからないが、
 進化1回で核は許容オーバーだから、
 今のアクアの潜在能力は浮遊精霊2体以上ということか。

『出来れば次に遭遇した場合はその造られた核の回収をお願いしマス。
 ミナヅキのアニキからいただいた核では、
 核持ちを支配する力がある事、その構成記述だけデス。
 対策は考えるデスケド、おそらく種類もいくつかあるデスカラ』
「魔力を蓄えておくタイプが大きい禍津核(まがつかく)なんだが、
 以前はその敵を倒すより核を破壊するのが一番効率的だった。
 魔力を使い切るには時間がかかるんだ。大型の回収は難しい」
『魔力を吸い出す技を考案するといいデスカラ!』
「カティナ・・さん?は吸収する魔法を持っているんですか?」
『呼び捨て上等デスケドォ!あちしは魔道具専門デスカラ、
 魔法はアニキが考えて欲しいと思いマスカラ!うちの眷属いるデショ?』
「眷属って事はクーの事?
 やっぱ吸収とかなら直接攻撃が苦手な闇属性か。
 まぁ、色々試すよ」

 核の回収の為にクーと早めの魔法開発が必要になった。
 それでも魔法ギルド幹部のカティナとの繋がりが出来たのは大きく、
 肉体労働の俺達とは別に頭脳労働のチームが動いてくれるのは、
 すごく心強いし、対策も立て易くなっただろう。

『今日来たのは他にもあるデス。
 亜空間が自然発生していると聞いたデスケド、
 それを閉じる為に来たデスヨ。
 爺ぃからそういうのは消すように一族郎党言われてるデスカラ』

 一族郎党って自分の家族に使う言葉だっけか?
 なんで時々極道みたいな言葉を使うのだろうか。
 もしかしてアルカトラズ様って隠居した組長とかなのか?

「それは助かるな。
 うちのクーだと亀裂は広げられても空間の消滅は出来ないらしいから」
『まだまだ舎弟になったばかりなんデスカラ、
 仕方ないデスケド、今回はあちしがやると思いマスカラ』

 やるのかやらないのかイマイチわかりづらい言葉尻だが、
 顔はやる気みたいだし、一回みんなを回収するついでに見てもらっておこうか。

「そうだ・・・。俺達に協力してくれるならちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・」


 * * * * *
 ー18:19

 ギルドにカティナを置いて、一旦町長邸に向かう。
 戻るにしても街の状況を聞いてから次の行動を考えないといけないから、
 大急ぎでイセト氏とセリア先生のもとに辿り着く。
 邸宅の門前には門番をする若い冒険者風の男がいた。

「こんばんわ。イセト氏に取り次いで欲しいんですが」
「確認を取ってまいります。どなたでしょうか?」
『あくあーりぃ!』
「冒険者の水無月(みなづき)です」
「あ、話は聞いていますのでどうぞお通りください」
「ありがとうございます」

 メリーが先に来ているはずなので、話が通っていてもおかしくはないと思っていたが、
 まさかボディチェックもなく宅内へ上げるって防衛意識低すぎないか?
 まあ、インベントリとか魔法とかあるから暗器の隠し場所に事欠かない世界だし、
 その辺は防ぎようがないって事かな?

 宅内に入ると見た事のある使用人の方々に出迎えられた。
 初見のときはビビリまくっていたが、
 敵じゃないと理解したのか愛想良く挨拶してくれる。
 挨拶もそこそこにイセト氏達がいる部屋へ案内してもらう。

コンコンッ
「水無月(みなづき)様をお連れしました」
「おぉ!来たか!通してください」

 部屋へと入ると案の定、
 イセト氏、セリア先生、メリー、ノイが居た。

「半日振りです。水源側の情報はメリーから?」
「はい、聞かせてもらいました。
 まさか2日でここまで解決するとは思いませんでしたよ」
「セリア先生。あの話はしましたか?」
「えぇ、こちらへ来て一番にお伝えしましたわ」
「聞きはしましたが、現状我々に気付けないものを考えても仕方ありません。
 それは今回の問題が解決してからでもいいと判断しました」
「わかりました。水嵩の確認とかはしましたか?」
「セリアさんから指示を受けてすぐに手配はしましたが、
 一気に流れ込む事はないとも言われましたので、
 いま3回目の確認に行かせています。
 何せ穴が大きいので変化もわかりずらくて・・・」
「そこは仕方ありません。このまま数日は掛かるから、
 その間の水嵩の変化には注意をしてほしい。
 たぶん、もう3番水源も浄化されているだろうと思うけれど、
 このあと増え続けるはずの水嵩が減るような事があれば・・・」
「敵が近くに居て、まだ諦めていないという事ですわね」
『姿も目的もわからなくて気味が悪いです』
「今日中に動きがあるかと思ったけどまだアルシェ達に接触して来ないし、
 完璧主義では無さそう。
 あのまま水嵩が減っていた場合、
 橋が落ちて街が孤立して救援も脱出も困難になる程度」
「程度と言っても貯蓄もないので、ひと月もしたら死人が出始めてしまいますよ」
「俺が敵なら孤立後に溜めた水を開放して水没までさせる。
 亀裂を一気に開ける方法を持っている可能性を捨てられないんだ」
「水無月(みなづき)君は意外と黒いですわね」
「最悪は常に考えておくべきでしょう?
 何か手を打たれる前に空間を消滅させないと・・・」
『クーデルカには無理です?』
『クーじゃ精霊としての技量が足りないみたいだ。
 幸い魔法ギルドに連絡した時に脅した奴が来てくれたから、
 この後そいつを連れてみんなを迎えに行ってくるよ』
『闇精霊が魔法ギルドに所属していたです!?良く人前に出て来たです』
「上位精霊の名前を出したらすぐだったぞ」

 亜空間について話を進めているうちに扉向こうが騒がしくなっていた。

コンコンッ
「ルブセス様!水嵩検査に向かった者達が戻りました」
「すぐに通してください!」
「増えているといいのですけれど」
「現段階で出来る事はしていると思うので、
 出来れば成果を持ってみんなに報告したいですね」

 すぐに扉を開いて現れたのは使えないギルド職員代表のミミカさんであった。
 他にも数人の使用人と冒険者風の方々、計5人が部屋へ入ってきた。

「ご報告いたします!
 トーレス班、アンカラズ班、ハーディン班、ダイタス班、ホレイナズ班、
 無事帰還いたしました!各班共に1Mの上昇を確認!」

「よっし!」「やりましたわねっ!」
『わぁーい!』『苦労した甲斐があったです!』
「・・・ふぅ」「・・・っ!!」
「「「「「「「よっしゃあああああああ!!!!!!!」」」」」」」

 お互い労いながら顔も始めて見たのにハイタッチや握手をして、
 みんなで喜びを分かち合う。
 あと一歩という所でギリギリ回避出来た絶体絶命だ。
 そりゃ嬉しいに決まっている。

「通常の水嵩に戻るまではあと何Mくらいですか?」
「はい!あと7Mです!」

 7M・・・マジで?
 あの大きさの大穴に溜まる水があと7M足りない?
 本当に亜空間だけに収容されているのか?自身の目で確認していないし、
 亜空間なんて知識がほとんどないから違和感を覚えるのか?
 チラリとセリア先生に目を向けると、
 先生もどこかで引っかかりを覚えている思案顔になっている。
 
「イセト氏、ひとまずセリア先生と1番水源の様子を見に行こうかと。
 連れて行っても大丈夫ですか?」
「はい、協力ありがとうございました。
 こちらはもう大丈夫ですので、あとをお願いします!」

 セリア先生にアイコンタクトを飛ばして、
 アクアとノイを連れて一緒に町長邸を出る。

「どう思いました?」
「少し水量に違和感が」
「同じくです。どうにも、もうひとつ先がある気がします」
「水量を計測しない事にはわからないですわ。すぐに行きませんと」
「いえ、ギルドに協力者がいるので連れて行かないと」
『闇精霊ですね』
『あくあはにがてー』
「空間を消してくださるなら助かりますわね。どうやってこちらへ?」
「当然、空間を跨いで来たのでしょう。
 エクソダスで一緒には行けませんから、彼女だけ自力で着いて来てもらいますけどね」


 * * * * *
 ー18:52

 アルシェ達の目の前に最近は見慣れた亀裂が生まれ、
 そこから宗八(そうはち)とセリアが出てくる。
 その亀裂とはまた違った空間のねじれが隣に生まれ、
 そこから見た事のない黒ローブの女性が出てきた。
 生活が乱れていそうな無造作ヘアーをしてはいるが、
 顔立ちは整っており、セリア先生と同質の美しさがある。

「3人ともお疲れ様」
『くー、むかえにきたよ~』
「やっと自分の目で水源の異常を見ることが出来ますわ」
『ここが問題の水源です・・・』
『さぁて、さっさと調べてしまいマスカラァ!』

 クーがスッと駆け出し、宗八(そうはち)へと纏わり着く。

「お疲れさまですお兄さん、セリア先生。アクアちゃんと仲直りできたんですね」
「ははは。アクアの不満も聞いたし、これからも協力者と仮契約することがあるかもって、
 そういう話をしてたよ。なんとか納得もしてくれた」
「そうですか・・。スィーネさんなら亜空間の向こうにいますよ」
「私はそちらを見てきますわね」
『あちしも着いて行けばいいデスカ?』
「お願いします」
「あちらはどうでしたか?」
「水嵩は回復に向かっているのは確かだ。
 現段階で1M戻ってきているそうだ」
「本当ですか!?1時間ほど前にスィーネさんから3番も管理下に戻ったって聞きましたし、
 これで排水を続ければいずれ解決しますね」
「いや、俺とセリア先生の見解としてはまだ一手、魔神族の方が上手に感じる」
『みずが7Mたりないんだって~』
『7M・・・』
「亜空間の奥行きも深度も確認できてませんから、可能性という段階ですよね」
「そうだ、スィーネとセリア先生で水量の計算をして足りているのか、
 もしくは足りてないのかで今後の動きも変わってくる」

 アルシェに軽い報告をしつつ、駆けて行った2人を歩いて追う。
 カティナの事も説明する中で、クーに今後は吸収系の魔法の開発をする事を伝える。

『吸収ですか・・・ちょっと想像できないですね』
「感覚としては俺の魔力を食べる時と同じだと思う。
 浮遊精霊ならいざ知らず、いまの状態なら補給量も違うし認識しやすいんじゃない?」
『魔力だけでいいんですか?』
「いや、出来れば体力の吸収と分配まで出来るようになりたい」
「それはいいですね!敵から奪うだけじゃなく仲間に与えられるなら、
 継続戦闘率も上昇しますし」
「闇属性魔法は攻撃向きじゃなくて支援と妨害に向いているから、
 アクア達よりも色んな方向を考えていかないとな。
 逆に攻撃面はアクアとアルシェが水魔法を考案していくだろうし」
『まかせて~』
「でも、私は氷でアクアちゃんは水に適正があることがわかってからは、
 お互いでアイデアを出しても少し勝手が違うんですよね。
 氷は完全に攻撃型なんですけど、水は支援も出来そうで、
 まぁ色々考えてはいますが」
「クーは俺と考えていこう。
 カティナから学べる部分もあるはずだし。
 彼女は魔法より魔道具に精通しているみたいだけれど、
 時空に関してなら知識が豊富と思う。
 ここに来た時もエクソダスじゃなくて自力で来たしね」
『では、時空はカティナ様にご指導いただいて、
 闇魔法はお父様と考案することにします』

 水源まではそこまで離れていなかったため、すぐに辿り着いた。
 カティナは亀裂の入り口を触ったり中を覗いたりしており、
 スィーネとセリア先生、ついでにノイは居なかったのでおそらく水量調査だろう。
 量が量なだけに時間も掛かるだろうし、先にカティナとクーをちゃんと会わせる事にする。

「カティナ、少しいいかな?」
『ミナヅキのアニキ!爺ぃから聞いた時は勝手に空間なんて開くかって思いマスケド、
 これは本当に誰も管理していない亜空間デスカラ!』
『「アニキ?』」
「そこは気にするな。ちょっと時間がある時でいいんだけど、
 うちのクーに時空魔法のイロハを教えて欲しいんだけど」
『クー?あぁ、クーデルカとかいう眷属デスネ!
 アニキの舎弟ならあちしの姉妹みたいなものデスカラ。
 成長によって出来ることが限られマスケドォ!いいデスか?』
「それはかまわないよ。出来ないことを教えられてもお互い困るしね。
 クーの能力を見極めて教えられる範囲でいいから」
『お願いします、カティナ様』
『アネゴと呼ぶデスよ、クーデルカ!』
『は、はい。お願いします、クーデルカのアネゴ・・・』

 テンションの高いカティナに少し引き気味のクー。
 とりあえずお互いの紹介は俺から話を聞いていたと言うことで飛ばされ、
 時間があるときに教わる約束を取り付けたので、亜空間についての話を聞く。

「亜空間を消すことは出来そうか?」
『今はまだ水が溜まってるデスカラ、閉じれないデスケドォ!
 少しずつ縮小させていくことは出来るデス!』
「水を抜いてからならどのくらい掛かる?」
『そうデスネ、2日もあれば閉じる事が出来ると思うマス!』
「他に亜空間があるかどうかはわかるか?」
『すぐにはチョット・・・排水を進めている間に調査しておきまショウ。
 範囲としてはどのくらいデス?』
「ポルタフォールを中心に半球状」

 亜空間の調査もしてくれるらしいから、気軽に範囲を伝える。
 時空を越えて遠路はるばるこの街まで来たくらいだから余裕だろ。

『エッ!?アニキィ・・それは広過ぎデスカラァ・・・。
 お空の上なんてどうすればいいと思いマスカラ』

 めっちゃ動揺してる。

「転移しまくればいけないかな?」
影転移シャドーテレポと違ってただの転移は魔力食うデスヨ!』
「アルカトラズ様の使われていた[シャドームーブ]の上位互換魔法でしょうか?
 確かにあれは近距離移動向け魔法ですよね」
「あぁ、突然後ろに現れるアレか。いずれクーも使えるようになるといいなぁ」
『頑張って覚えます!待っててくださいお父様!』
『ハァ?アルカンシェでしたか?
 貴女が言ってる魔法は昔の呼び方なだけで、内容は同じデス。
 爺ぃは古い精霊だから今風に変えても昔のままデスカラ』
「影と言う媒体を通しての移動と時空を越える移動は確かにな。
 あれ?アクアやクーは浮遊する事ができるけどカティナは出来ないのか?」
『もうここまで成長すると浮遊なんて出来ないデスカラ!
 あの浮遊力は幼少期だけの特典デシテ、
 冒険者に纏う移動手段なだけデスカラ!』
「じゃあ次にアクアが進化したら飛べない可能性があるのか・・・。
 今のうちから歩く練習をさせておくべきかな・・・」
「いまは教育方針より調査の話をしましょうよっ!」
「『あ」』

 話は逸れたが良い話が聞けた。
 アクアの身長は赤ちゃんサイズだからハイハイから始めよう。
 いまは亜空間の話に戻るとしよう。

「セリア先生が風魔法で浮遊とか出来ないかな?」
「うーん、聞いた事はないですね。
 魔法の授業も屋内ばかりだったので飛行とか飛翔とかの話にはなりませんでしたし」
「帰ってきたら確認してみようか。
 排水はアクアとスィーネの2人掛かりで進めれば日数を縮められる。
 アクアも喧嘩しないで教えてもらえる事があれば吸収しろよ」
『んむぅ~、わかってるよ~。ますたーはいじわるだよ~』
「以前より仲良く見えますね。羨ましいです」
『アルシェ様は・・・どっちに対して言ってるんですかね』


 * * * * *
 ―19:40

 遅くね?
 ここに到着してから割りとすぐにセリア先生は水源へ走って行き、
 俺達が到着した時点で水量調査に出発していた。
 あれからだから1時間近くか?
 念話でスィーネに問題が起きていないか確認をしてみたけど、
 「(大丈夫ですよ。ってか、お兄ちゃん戻ってたんですね
   あと少しで戻りますよ)」
 とか能天気な回答が返ってきた。

「正直に言えば今日は夕食を宿で取りたいんだが」
「疲れもないし食べてから十分休めますよ。
 もう少しで帰ってくるんですよね?」

 アクアとアルシェは排水、クーはカティナに付いて魔法の勉強をしつつ、
 亜空間の調査をしている。
 本来は頭脳労働担当ではない俺は細かな報告を聞いてもわからない部分が多い。
 そういうときは王族として英才教育されているアルシェに任せている。
 そもそも計算方法とか俺の世界とは違っていて話に混ざれないしな(笑)

 結局ほとんど1人で剣を振っているだけで、
 時々アルシェが俺の話し相手にと気を使って声を掛けてくる。
 最終的に2人が戻ってきたのは・・・


 * * * * *
 ―20:14

「ただいま戻りましたわ」
『あー疲れたわぁ。お兄ちゃん肩揉んでよぉ』
「おかえり。何があと少しで戻るだよ。
 あれから20分は掛かってるんだぞ」
『え~、だってそれは・・・』
「それは私に責任がありますわ。隅から隅まで見てもらうように頼みましたの。
 予定よりも30分ほど遅れてしまいましたわ」
「まぁ、責めている訳ではなくて心配していたって話なんですが。
 目的の調査はどうでしたか?」

 そう、俺達の目的はいくつもあるが、
 現時点で一番知りたい情報はセリア先生が調査してきた水量なのだ。
 他にも調べていたようだし、その答えも一緒に聞かせてもらおう。
 文字数も1万文字を越えて、俺もそろそろ2日目を終わらせたいし。

「えぇ、水量に関して私と水無月(みなづき)君が気にしているような事は、
 一切ありませんでしたわ。
 念のため、何処かに転送するような魔道具が置いてあるかと見て回りましたが、
 そちらもありませんでしたわ」
「そうですか・・・、
 そうなると本当に迷惑を掛けたいだけの悪戯って印象になりますね」
『いたずらしたならおこらないとね~、ますたー!』
「それにしては、規模が大き過ぎますけど。
 ひとまずは此処の排水を続ければ解決するという事でいいのですか?」
「はい。ただし、水量はかなりありますので、
 少なくとも5日~7日掛かりますわ」
「それはアクアとスィーネが2人掛かりでということですか?」
『そうよ。それでも1人でやるよりは短く目標を達成できるんだから、
 そこで満足しましょう。いいかしら?アクアちゃん?』
『わかってるー』
「スィーネには水の扱いとか魔法についてアクアに色々教えて欲しいんだけど、
 いいかな?報酬として欲しいものがあれば用意するけど」
『マジっすかミナヅキのアニキ!?』
『カティナじゃないよ。スィーネに言ったんだよ』
『あちしにも御慈悲ヲ!!日々の研究をほっぽリ出してこちらに来たんデスカラァ!
 報酬くれてもいいじゃないかと思うマスカラァ!』
「お兄さん、今回はカティナさんがいないと最終的な解決になりませんし・・・」
『お父様・・』
「なんなら私が報酬を用意いたしましょうか?
 魔法ギルド所属なら研究材料とかかしら?」
『いえ、研究材料は世界中から集まるデスシ、
 その、クーデルカと時々話をしたいのデスヨ』
「クーと?」
『カティナ様、何故クーなのですか?』
『眷属の目線で契約者との旅はどう映るのか知りたいデスヨ。
 あちし達精霊の新しい契約方法の先に興味があるデスカラ』
「流石アルカトラズ様の眷属だな。同じようなこと言ってやがる。
 それはクーが許可するならいいと思うよ。
 連絡手段とかあるのか?」
『もちろんあるデスケド!一回取りに戻らないとデスネ!』
『クーは問題ありません』
『ヤッタゼ!』
「で、スィーネは報酬とかどうだ?」
『ん~、とりあえずこの地を守れたって事で報酬はいいかな。
 貴重な契約って経験も出来たしね!』
「まぁ、今決めなくてもいいんじゃないですか?
 排水の間にでも考えておいてください」
『はいはーい』

 もしかしたら大穴の上空に大き目の亜空間が広がっていて、
 そちらへ水を転送しているかもと思ったけどそれもないらしい。
 正確には確定ではないけれど、ほぼ無いと思う。
 確認するにしても明日になるし、今日はこれで引き上げたい。

「じゃあ今日は街に戻ってあとは明日の作業としよう」
「「わかりました」わ」
『はいよ~』『はい、お父様』
『ボクもいるの覚えてますです?』
『私はここで別れるわ。何かあればお兄ちゃんに念話するし』
『あちしもギルドに帰って寝ますデスカラ』

 さあ帰ろう。って所で俺達だけが頑張っている訳ではない事を思い出す。

「帰る前に冒険者に報告しないと。
 あいつらもそろそろ布団で寝たいだろうし」
『それは私がしておくわ。3番に行けばいい?』
「あぁすまんな。お願いするわ。
 2番にいた連中に先に声掛けろよ?危ないと思ったらすぐに逃げろよ?」
『わかってるわよ、心配し過ぎだし』
「お兄さんは優しいですから!」ドヤ
「なんでアルシェがドヤ顔するんだよ・・・お前らもだよ」

 アクアとクーも同じ顔をしていた。

「じゃあ後は頼むな。おやすみ」
『任せておいて。みんな、おやすみなさい』
「「『『おやすみなさい』』」」
『おやすみー』『おやすみデスカラ』

 [エクソダス]でギルドへ帰り、アインスさん達に今日はもう休むことを告げる。
 カティナとも別れ、明日の朝にまた会おうと言葉を交わし、
 俺達は宿へ戻る。
 ようやっと晩御飯を食べられると考えると足取りも軽くなるというもの。

「そんなにご飯が楽しみなんですか?」
「いや、お腹空いてるし・・・アルシェは空いてないの?」
「いえ、それは空いてますけど・・・」
「乙女に聞かないで下さるかしら」
「あ、はい」
「メリーは戻ってますかね?」
「気が利く娘だしアルシェの寝巻きを用意して待ってるんじゃないか?」
「その可能性は高いですわね」

 その予想は見事に的中し、
 彼女は寝巻きだけでなくアルシェとセリア先生のお風呂セットまで用意していた。
 宿に帰って主人にご飯の用意を頼んでお風呂へ。

 ―21:42

「「「「『いただきます!』」」」」

 俺達とアクア以外のクーとノイは、
 まだ受肉していないので既にベッドでお寝んねしている。
 ノイ?あいつ一人称がボクだから男の子かと思ったら女の子らしいので、
 セリア先生と同じベッドで寝るってさ。
 ややこしくね?これで俺以外は女と言うことになる。
 ポルトーが懐かしいなぁ。

「「「「『ごちそうさまでした!』」」」」

 そのまま主人、そして女の子の皆様におやすみを言って、
 アクアを連れて自室のベッドに倒れこむ。
 クーはまだ起きていたようで俺達に寄り添って寝始める。

「アクア、クー。おやすみ」
『『おやすみなさい』』
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