特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第03章 -港町アクアポッツォ編-

†第3章† -01話-[ある真夏の物語-港町アクアポッツォ-]

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 ポルタフォールを発ってから休憩の頻度も落ち、
 速度も上がったのに六日目の夕方にアクアポッツォへ辿り着いた。
 メリー曰く、

「アスペラルダポルタフォール間より距離はあるのですよ?」

 私は主を誇らしく思っているのに、
 何が不満なんですか?って顔をされてしまった。
 精霊纏いのままでは怪しまれるので歩いて30分ほど手前で解除し、
 やっと街に入ることが出来た。

「宿を取ってから町長にアポを取りに行こうか」
「いえ、観光客がかなり多いのでおそらく宿は満室でしょう。
 メリー、先に行って話を通しておいてください」
「かしこまりました」
『おいしそうなにおいがする~』
『お姉さま、はぐれてしまいますよっ!』

 アクアを止めようとクーが閻手えんじゅで体に巻き付いているが、
 アクアに引き摺られてズルズル移動していた。
 片手でアクアをつまみ上げながら、空いた手でクーも確保して、
 アルシェの道案内に従う。

「マントは要らないか?」
「町長は顔見知りですし問題ありません」
「ここの町長は大丈夫か?」
「そこは安心してください。
 ここの町長は長く務めている方ですから大丈夫ですよ」
「わかった。あ~それから、軽く摘める屋台を先に案内してくれ」

 さきほどから手元でアクアが暴れたい放題であった。
 何か与えておけば暫くは静かになるだろう。

「では、こちらですね」

 案内された通りは屋台がひしめく場所であり、
 アクアだけでなく俺たちまでお腹がなる結果となる。

「メリー抜きで食べるのは気が引けるし、アクアの分だけ買おう」
「ですね。基本的には魚貝類を調理しているはずです」

 見た感じ知っていそうな形の魚はいるが、
 色とか角とか色々と違いがあって、
 確信を持ってコレ!とは言えなかった。
 そんな中、臭って来た美味しそうな香りに釣られてひとつの屋台へ辿り着いた。

「これは貝かな?なんで鶏肉みたいな匂いがするんだ?」
「いらっしゃいお客さん!
 この貝は海鳥つむりと言って貝類なのに焼くと、
 鶏肉のような味に変わるんだよ!
 もちろん、焼かなければ瑞々しい貝の味だよ!」

 焼く前の姿はミル貝がつむりになった見た目で、
 そのつむり殻からびろーんと長い身が出てる感じだ。
 大きさもファミ〇キ位だし、ひとつ買ってひと口貰おうかな。

「すみません、じゃあこれひとつお願いします」
「はい、まいど!
 お会計は隣の会計担当へお願いしますね」
「わかりました」

 ギルドカードでお会計と引き換えに商品を頂く。
 予定通りにアクアに差し出すと一気に半分ほど喰われてしまったが、
 俺がひと口食べてから、アルシェにも目線で食べるか確認する。

「え?貰ってもいいんですか?」
「いいよ。アクアもしばらくはこれで持つだろうし、
 町長と話が終わってから晩御飯になるだろうから、
 これくらいはお腹に入れておきな」
「わかりました、有難く頂きます!」

 軽く興奮状態になりながらも、
 俺の手からそのままパクつく姫様。

「本当に鳥の味がしますね」
「食べたことはないのか?」
「多分、城の食事に出た事はあるのでしょうけど、
 食材までは伝えられないので」
「それもそうか。じゃあ、このまま町長の所に行こう」
「はい。人も多いので迷子にならないでくださいね」
「はいよー」

 ポルタフォールよりも小さい街らしく、
 割かしすぐに辿り着いた。

「お待ちしておりました、アルカンシェ姫殿下」

 使用人と共に入口まで挨拶に来た先頭のおっさんが町長らしい。
 40代後半って見た目だが、目力はあるし、信用できそうだ。
 奥の部屋へ案内され、アルシェと町長がソファへ向かい合わせに座り、
 俺と精霊達はアルシェの背後に待機する。

「改めて、よくいらっしゃいましたアルカンシェ姫殿下」
「ベイカーもお疲れ様です。夜分に押しかけて申し訳ありません」
「いいえ、姫様の従者が訪れた時は驚きましたが、
 寝所の準備もいま整えておりますので、しばしお待ちを」

 社交辞令のような挨拶を終えた頃合を見透かしたように、
 メリーがお茶と茶菓子を持って現れた。

「して、今回の訪問はどういったご要件で?
 従者もメリー殿一人に護衛もそちらの若い方一人のように見えますが」
「駆け落ちです」
「ブッー!」
「大丈夫ですか、ベイカー様」

 噴き出したベイカー氏にすぐさまタオルを差し出すメリー。
 俺は微動だにせず、アクアはアルシェから恵んで貰った茶菓子を隠れて食べている。
 クーは大人しく俺の足元で待機していた。

「冗談ですよ」
「あまり心臓に悪い事は仰らないでください。
 駆け落ち先にアクアポッツォを選ばれたのかと思って、
 王様になんと報告すればいいのかと冷や汗をかきましたぞ」
「すみません。では、紹介致しますね。
 今回私を護衛してくださる水無月宗八です」
「ほう、珍しい名前ですな。
 確か東方にある島国の民でしたか?」
「彼はその末裔ですね。
 お父様からも認められて護衛をしてくださってます」
「それは凄いですな!
 あの子煩悩の王が姫様に特定の男を付けるとはっ!」
「頑張ってくださいましたから」

 頑張ったけど、アルシェの為ではないよ?
 問題が起こったから必死に解決しただけだからね?

「・・・さて、社交辞令はここまででいいですか?」
「そうですな、長旅お疲れ様でした姫様。
 それに水無月殿、メリー殿」
「お兄さんもこちらに座っていいですよ。
 喋るのも構いません」

 目線をベイカー氏に合わせると、
 頷いてくれたのでアルシェの隣に座らせてもらう。

「初めまして、水無月宗八と申します。
 現在我々は各街の視察のような事をしております」
「ご丁寧にどうも。
 アクアポッツォ町長、ベイカー=トレンドと言います。
 視察と言うと何か良くない事が?」
「いえ、街の者が何か悪事を働いているから来たというわけではなく、
 異変などが無いか調べております」
「異変とは?」
「アスペラルダの闘技場や、
 ポルタフォールの水難の話は届いておりますか?」
「それは聞き及んでおります。
 なるほど、そういった異変を探しておられるわけですか」
「・・・」
「ん?どうされました?」
「ポルタフォールの町長は街を捨てて避難しておりましてね。
 これが本来の町長の姿なのかと感動していただけですよ。
 察しも良いですし、ご協力頂けるということで?」
「それはもちろんですとも、
 何かあれば町長として手助けいたします!」

 話はトントン拍子で進み、
 一旦外で食事を取ることにした。

「これから調理に掛かるのでかまいませんが、
 食事ならこちらで用意いたしますが?」
「屋台も多かったのですし、色々見ながら食べたいので。
 そういえばブルーウィスプはいつ出現する予定なんですか?」
「明後日辺りから1週間ですね。
 このあとは街の外にもテントを張る人が出てきますので、
 姫様の選択は正しいですね」
「わかりました。では、朝食だけお願いします。
 昼と夜はそれぞれ観光がてら屋台などで摂ります。
 問題が見つからなければ観光して次の街に行くつもりなのですから」
「ふふふ、わかりました。
 もし必要になりましたら誰かに言付けてください」
「ありがとうベイカー、いってきますね」
『お~』
『お姉さまっ!一人ではいけませんよっ!』
「2時間ほどで戻りますので」
「失礼いたします」


 * * * * *
 街はそこまで広くないので、
 町長邸を中心にぐるっと回る事にした。

「何か食べたいのがあれば言えよー」
『あーい!』
『クーも授肉していれば・・・』
「そろそろクーちゃんともお兄さんと契約してひと月ですか」
「アクアと違って効率的に魔力運用したと思うから、
 進化してもいいとは思うけど、
 その辺のタイミングはわからないからなぁ」
「アクアちゃんは良く眠るようになりましたよね?」
「でもあれは、核の劣化もあったからで、
 クーの場合は定期的に交換してるから当てはまらないと思う」
『確かに眠気はないですね』
「まぁ、夜に時間が取れたらチャレンジしてみようか」
『わかりました!頑張ります!』

 余程一緒に食事がしたかったようだ。
 授肉しても体の規模はそこまで変わらないから少しずつ食べさせてあげよう。

『あ~まようなぁ~、どれにしようかな~』
「出来ればあまり食べる機会のないものが食べたいな」
「そういうのは当日の期間限定ですから、
 まだ屋台には出てないはずですよ」

 それもそうだな。
 本番は1週間あるらしいし、その間は特に書き入れ時だろう。

「しかし、この人の量だと下手に外で訓練するのも、
 問題視されかねないな」
「そうですね。やるなら孤島に行った時ですかね。
 あそこなら観光客はいないので、
 カエル妖精の方々に説明をしていれば大丈夫でしょう」
「明日にでも行ってみようか」
「ベイカーの許可も必要なのでどうですかねぇ」

 その後はそれぞれが食べてみたいと思った商品を2つずつ購入しては、
 全員で食べ比べを行った。

「やっぱり、貝なのに鶏肉の味がするアイツが一番インパクトがあったな」
「どれも美味しかったですけどね」
「大変満足です」
『まんぷく!』
『この街で進化して見せます!』


 * * * * *
 屋敷に戻ると風呂の用意が出来ていると伝えられた。
 女性陣はそのまま入浴に向かい、
 俺は先に精霊も一緒でいいか確認を取るためベイカー氏の元へ向かった。

「水無月です、少しよろしいですか?」
「あぁ、鍵は開いてますのでどうぞ」

 ノックをして声を掛けるとすぐに招き入れてくれた。
 自室らしく小洒落た雰囲気の部屋であった。
 彼は書き物をしていたのか先程は掛けていなかったメガネをしていた。

「お仕事中でしたか?」
「いえ、個人的な日記ですのでお気遣いなく。
 それでどうされました?」
「今からお風呂を頂こうと思ったのですが、
 うちの身内も一緒に入ってもいいかと伺いに」
「ふむ、身内とはそちらの小さなレディですかな?」
「この娘とこの娘ですね」
「精霊と姫様から伺っておりますし、
 毛も抜けないのでしょう?
 ならば、問題はありませんよ」
「ありがとうございます」
『ありがとう~』
『ありがとうございます』

 俺に合わせてお礼を言って頭も下げる。
 ベイカー氏もニコニコ顔で対応してくれた。

「物は相談なのですが、
 お風呂にご一緒してもよろしいでしょうか?」
「はぁ、私はかまいませんが」

 チラリと娘達を見ると、
 両手で丸を描いていた。
 クーも閻手で丸を作っている。

「ついでと言っては何ですが・・・、
 息子が一緒でもいいですかね?」
「・・・おいくつで?」

 父として娘を護らなければならないのだ。

「10歳です・・・」

 10歳かぁ。小学四年生くらいか?
 まぁ、まだ性に目覚めてないだろうし、問題ないか?

「娘に不埒をしたらお仕置きをしても?」
「かまいません!」

 凄い必死の形相で許可をくれた。
 話を詳しく聞くと、最近話をする時間を設けられず、
 話の種もないので困っていたそうだ。

「そういう事なら協力しましょう」
「ありがとうございます!」

 がっしりと握手を交わして、ベイカー氏との壁も難なく壊れた。
 なかなか気心の知れる御仁のようだ。


 * * * * *
「こらアクア、前にも言ったが走り回るなっ!」
『ぶぅ~』
「ぶぅ~じゃない、浮遊しろという意味でもない!」
『お父さま、洗ってください』

 相も変わらず騒がしい浴室だが、
 この場には俺達以外にも2人の人物がいるのだ。

「本当に精霊なんですか?」
「そうだよ、話も出来るそうだから話してみなさい」

 キラキラした目で娘を見る子供はベイカー氏の息子。
 名をライラス君10歳。
 遅い結婚だったようだな。

「ぼく、ライラスっていいます」
『あくあはあくあだよ~』
『クーデルカと言います』

 挨拶もそこそこに俺はアクアとクーを、
 ベイカー氏はライラス君の背中を洗い始める。
 前は自分で洗える為、洗われていない娘と話をしている。
 ベイカー氏は息子と話したかったのではなかっただろうか?

 洗い終えるとクーの浴槽に桶風呂を用意して、
 アクアは縁に捕まりながらお湯の中で浮かんでいた。
 すんなり話し始めた3人を見届けて、
 ベイカー氏が俺の横に腰を落ち着ける。

「息子さんと話をしたかったのでは?」
「まぁ、精霊という存在を前にしたら父親なんてこんなものでしょうね。
 今回は足掛かりとして頑張ることにします」
「そうですか。
 こちらとしては暴れ回らないので助かるだけですね」
「ふふふ、精霊を育てるなんて初めて聞きましたよ」
「まぁ、たまたまが重なっただけですがね。
 血は繋がってないし、出会って2ヶ月くらいですが、
 愛着は湧くもんですよ」
「それはそうでしょう。
 あれ程懐かれ、頼りにされればねぇ」

 他愛もない子育て談義をしていると、
 子供達が近寄ってきた。

「マスターさん、お父様。
 少しいいでしょうか」
「なんだいライラス」
「アクアちゃんがまだ0歳と聞いたのですが、
 本当に産まれて1年経ってないんですか?」
「出会った時は浮遊精霊だったからなぁ。
 流石に出会う前の事はわからないけど、
 出会ってからは2ヶ月ほどだよ」
「おぉー!!
 く、クーデルカちゃんが、
 そろそろ進化するかもしれないというのは!?」
「可能性があるだけで、まだわからないんだよ。
 今夜辺りに試してみようと話してはいるけどね」
「観させてもらってもいいですか?」

 見学か・・・。目を閉じて思考する。
 魔力の精密作業があるから余り人の気配は感じたくないんだけど、
 アクアの水レンズで遠くからとかならいいかな?
 クーは夜に能力が上がるから、
 気配探知も視線も気になるかもしれないし。
 いや、それ以前に。

「作業中は膜に覆われるから見えないと思うよ」
『あ、そっか』
『確かにお姉さまの時も水の膜がありましたね』
「「そ、そうですか・・・」」

 何故か息子だけでなくベイカー氏も落ち込む。
 似たもの親子やないか。

「核を創り終えれば、見に来てもいいですけど。
 それも進化の工程に入ったら膜に覆われますよ」
「そうですか。わかりました。
 それでもいいです!」
「良く言った息子よ!」
「精霊の進化の場に立ち会えるなんて一生に一度、
 いえ、一族の人生でもあるかないかです!
 ならばこのチャンスを見逃せませんよ!」

 ベイカー氏はライラス君の発言に肯定し、
 うんうんと頭を振っている。

『クーはかまいませんよ』
「まぁ、クーがいいなら見学を許しますが、
 終わるまでは喋らないでくださいね」
「「わかりました!」」


 * * * * *
 思った以上に長湯をしていたらしく、
 風呂上がりにアルシェ達とばったりと会う。

「これから部屋でクーの核を創るから」
「わかりました、私達はそのまま部屋に戻りますので。
 クーちゃん、頑張ってくださいね」
『ありがとうございます』
「アクアーリィ様はどうされますか?」
『う~ん、どうしよっか~?』

 居ても問題は無いけど、アクアの時もそれなりに時間が掛かったし、
 どうせならアルシェに預かってもらおう。

「今夜はアルシェ達と先に寝てな」
『あ~い』
「じゃあ行きましょうかアクアちゃん」
『ますたー、クー、おやすみ~』
『おやすみなさい。お姉さま、アルシェさん、メリーさん』

 女性陣を見送り、
 そのままベイカー氏とライラス君とも分かれる。
 核が出来たら知らせると伝えておくのも忘れない。

「それじゃあ部屋に行こうか」
『はい!』


 * * * * *
 インベントリから[スライムαの核]を取り出して、
 掌に乗せてあの時の感覚を静かに思い出す。

「先に言っておくがアクアもクーも、
 精霊としては進化の方法が違う。
 だから、進化の為の条件も確定で判っているわけじゃない」
『・・・はい』
「失敗に終わるつもりはないけど、
 その可能性はあると理解はしておけよ」
『・・・わかりました』

 俺の真剣な雰囲気に真剣な表情で俺の話を聞くクー。
 言葉通りに失敗するつもりで行わないが、
 もしも失敗した時、幼いクーの感情がどう動くかわからない。
 正直、進化の成否よりクーの事が心配でなのある。
 進化のタイミングに確実性がない以上、
 こういった試しが必要になる。

「『シンクロ』」

 俺とクーの体から黒いオーラが漏れ出し、
 そのまま第一段階に進む。

「核の中心にある異物を消すんだ」
『・・・《イレイズ》』

 個人ではまだ精密な作業が必要なイレイズを扱えないので、
 シンクロでサポートしながら内部を消す。
 クーの魔法により、核の中心にあった異物は消え去り、
 内部に空洞が出来る。

「よし」

 ここからが第二段階の魔力込めだ。
 以前と同じく俺がクーの魔力をイメージし、
 クーが俺の魔力をイメージする。
 俺は杯を制御して、
 クーは魔力の混ぜ合わせを制御する。
 意識を完全に集中させる為に、
 部屋の灯りは消し、カーテンも閉めている。

「大丈夫だ、絶対に出来るからな」
『はい』

 両手をくっつけ仰向けにし、
 右手の中心に核を、
 左手の上にクーが鎮座する。

 意識を杯へ向けてクーの魔力を流し始める。
 クーも遅れずに俺の魔力を杯に向かわせ、
 真上に両方の魔力が来た時点でクーが魔力を混ぜ合わせ始め、
 俺は核の杯の上部を開くイメージで口を開かせる。

 魔力は渦を巻き、捏ねられ、
 やがては一色の魔力となって器に注がれ始める。
 トプトプと音を立てながら、
 ゆっくりとゆったりと落ち続け、
 器を内側から満たしていく。

 クーの魔力は毛艶からもわかる濡羽色に、
 脆さも幼さも加味して、少し白を足した色。
 黒に近い、でも灰色じゃない艶のある白濡羽色。

 それが俺の魔力と混ざり合い、
 どんどん器に注がれ続ける。

 トプトプ、トプトプ・・・トプンッ。

 魔力が器を満たしたのを確認して開けた口を閉じていく。
 魔力が零れないように気をつけながら、
 ゆっくりとゆったりと閉じていく。
 閉じきった途端に魔力は黒く輝き出し、
 直視出来ないほどの輝きを放ち、イメージの世界から弾き出された。

『っ!?』
「・・・ふぅ」

 暗くとも分かる閻光は、
 核を中心に徐々に収束していき、
 瞼越しで光が収まるのを確認してから目を開く。

 見事右手の中にあったスライムαの核は色を変え、
 不思議な優しさを持つ黒い核へと変化していた。

 宝玉:クーデルカの核【レアリティ】鬼レア
 @闇精霊クーとその主との絆の結晶@

『や、やったぁ・・・やりましたよ!お父さま!!』
「あぁ、よく頑張ったなクー」

 本当に嬉しそうなクーの姿を見てホッとする。
 成功して良かった。
 クーが悲しむような事にならなくて良かった。
 核に頬摺りするクーを見ながら心から安堵した。

「ベイカーさんとライラス君を呼んで、さっそく進化するか?」
『もちろんですっ!お願いします、お父さまっ!』

 興奮を抑えきれないクーの姿を微笑ましく思う。
 加階してから今日まで割りと無茶をさせた事を思うと、
 この喜びようも理解出来るというものだ。
 時空を理解し、少し使えるようになった時点で旅に出て、
 旅の途中でもあれこれと試して、
 挙げ句にシンクロや精霊纏いエレメンタライズだからな。
 アクアは進化しているからそこまで辛くはないだろうが、
 加階しただけのクーは結構辛い所もあったはずだ。
 それでも愚痴を零さず、一心に努力した結果がこの核なのだ。
 俺も嬉しい!

 呼ぶとすぐに飛んできた2人を部屋へ迎え入れ、
 椅子に座ってもらう。
 部屋に火も入れ明るくし、
 俺達はカーペットに直に座って心を落ち着ける。
 やがて、期待に胸を膨らませて詠唱を口にする。






「《幽世(かくりよ)の戸(と)を開(ひら)き、冥暗(めいあん)に迷(まよ)わず隔世(かくせい)に惑(まど)わず、我(わ)が元(もと)に来(こ)よ、閻光(えんこう)を刻(きざ)め!精霊加階(せいれいかかい)!来(こ)よ!・・・クーデルカ=シュテール!》」






 詠唱に反応して核が淡く光る。
 それを見てクーが核に触れようとして・・・、
 触れられないでいた。
 まるで何かに阻まれているかのように、
 抵抗を受けているかのように、
 クーの手は核に触れることが出来なかった。
 それでもクーには、それを超えれば進化が出来ると信じて、
 思いっきり手を押し込んだ瞬間。

 バチンッ!!
 という何かが弾ける音と共にクーが壁に飛ばされる。
 受け身も取れずに背を打ち、そのまま床に落ちる。

「クー!!」
「「っ!?」」

 失敗の原因などは後回しに、
 急いでクーの元に駆け寄り、手を差し出す。
 クーはフラフラと立ち上がりはしたが、
 顔は伏せたままであった。

『・・・っ!・・・グッ!・・・フグッ!』

 クーの顎に手を差し込み、顔を挙げさせる。
 大きな瞳から大きな涙がポロリと勢いで落ちる。
 すぐにクーを抱き込み、己の影に飛び込む。

「すみません、失敗しました。
 今夜はこれで失礼します!」

 咄嗟に言葉を伝える事が出来たが、
 いまはクーに集中したい。

『お゛どう゛ざま゛ぁ・・!
 な゛ん゛・・な゛ん゛でぇ・・!?』

 影倉庫シャドウインベントリに落ちた直後にクーの口から漏れる言葉。

『な゛ん゛ででずが・・?グーがん゛ばり゛ま゛じだ!
 な゛の゛に゛・な゛ん゛でぇ・・!!』

 なんでなんでと繰り返し、俺に問いかけてくる。
 俺だって核が出来た時点で成功すると思っていたが、
 核の完成と進化はまた別の条件が必要だったらしい。

「わかってる。クーがどれだけ頑張っていたか、
 俺が1番わかっているから。大丈夫だ、大丈夫」

 泣きじゃくるクーに慰めの言葉を投げながら、
 頭を撫で続ける。

『お゛どう゛ざま゛ぁ、お゛どう゛ざま゛ぁ・・!
 グー、な゛にがわ゛る゛がっだでずがぁ・・?
 グー、や゛ぐだだずでずが・・?
 グー、ずでら゛れ゛ま゛ずが・・?
 お゛どう゛ざま゛と、
 お゛ね゛ぇざま゛どい゛っじょに゛い゛だい゛ですぅ!!』
「大丈夫だ、お前は何も悪くない!
 大丈夫だから、いつもクーがいてくれて助かっているよ。
 クーを捨てるわけないだろ、大丈夫だぞ。
 俺ともアクアともずっと一緒だから大丈夫だ」


 * * * * *
「アクアちゃん?なんで泣いているのですか?」

 私とベッドに入り、そろそろ寝入ろうかと思っていた矢先に、
 アクアちゃんをふと見るとポロポロと泣いていました。

『くーがないてるの。かなしいかなしいってないてるの』

 止まらない涙をポロポロと流しながらアクアちゃんが感じ取っている事を教えてくれました。

「クーちゃんが泣いているのですか?
 では、進化出来なかったということでしょうか?」

 屋台巡りをしている間のクーちゃんは、
 それはそれは希望を持っていたのを見ていただけに居た堪れない。

「でも、お兄さんの部屋からは泣き声が聞こえませんね」
「アルシェ様、こちらへ」

 メリーが床にしゃがみ込み、手を当てている。
 アクアちゃんを抱き上げてメリーの側へ行く。

「まずこちらへ手を当ててください」

 カーペットの敷かれた床に言われたとおりに手を当てるが、
 特にこれと言って変わった所はない。

「お次にこちらへ」

 次はメリーの影が掛かったカーペットに導かれ、
 同じく言われるがまま手を当てると。

 ビリビリビリッ!
 影から振動が伝わってくる。

「これは・・・」
「おそらく御主人様がクーデルカ様を連れて、
 倉庫に籠られたのでしょう」
『ぐー・・・』

 その振動は定期的にビリビリと伝わって来ることから、
 クーちゃんがまだまだ泣いているのだとわかりました。
 アクアちゃんもおそらくお兄さんを通してクーちゃんの感情を受け取ってしまっているのだと思います。
 泣いているアクアちゃんを見ていると私まで泣けてきちゃいました。

「クーちゃん、がんばれ。がんばれ」
『ぐー、がんばれ~・・グスッ』


 * * * * *
 どれくらい時間が経っただろうか。
 クーは長い事泣いていた為、泣き疲れて寝てしまった。

「出るにしてもいま外にいるのはアルシェとメリーだからなぁ」

 どうしようかと考えていたら倉庫の上部から手が生えてきた。
 そのままその手の持ち主は顔まで中に入れてきて。

「御主人様、迎えに上がりました」
「ありがとう、メリー」

 引っ張り出してもらった先はやはり女性部屋であったが、
 アルシェもアクアも既に夢の世界に旅立っているようだ。

「よく気付いたな」
「クーデルカ様の感情がアクアーリィ様に流れ、
 アクアーリィ様からアルシェ様に流れた為、
 お2人して寝入るまで泣いておりましたので。
 影の方は振動をしておりました」
「振動?影がか?
 やっぱり俺の知ってる影とこの世界の影は別物なのか・・・?」
「御主人様、現在深夜も回っております。
 ベイカー様方もこちらに伺われましたが、
 対処しましたので、
 考え後もあとにして、もうお休みください」
「あ、あぁ、そうだな。
 じゃあ部屋に戻るよ。
 今日はありがとう、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
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 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

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