特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第05章 -海風薫る町マリーブパリア編-

†第5章† -11話-[ニルチッイ、精霊使いを知る]

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 ダンジョンが先着30組とはいえ、
 もともとダンジョンもなかった町なので、
 朝からギルドに足を向ける冒険者もそこまで多くなかった。
 その為、解放初日は余裕で受付を済ませることが出来た。

 クーとメリーの侍従組がいつも行っている、
 朝修行が終了したのは10時。
 情報収集のついでに集まった冒険者情報を総合すると、
 確かにマリーブパリアにいる冒険者は60組以上いるのだが、
 そのうちでも定期的にギルドに顔を出すようなパーティは多くなかった。
 その結果、焦らずとも受付は可能と判断を下したアルシェは、
 侍従修行が終わるまで読書で時間を潰し、
 クーが宗八の元へ影を使って移動するのを見届けてから、
 メリーを連れてギルドへと移動した。

「え?町の外で木が倒れたんですか?」
「はい、それも木と地面に大きな爪痕が出来ていて、
 冒険者の方々へ注意を促しているんです」
「ちなみにその場所ってどの辺でしょうか?」
「えっと・・このあたりですね」

 受付嬢にメリーが倒木の位置を尋ねると、
 カウンターの下から簡易的な町周辺の地図を取り出して指を指しつつ範囲を描く。

「(お兄さんでしょうか?)」
「(可能性は十分かと。先日もこの辺りで訓練しましたし)」

 案の定、町まで届く大きな地響きと舞い上がった土煙が目印となり、
 すぐに町民や冒険者が気がつき、
 駐在兵士に通報されて各員が現場へと到着すると、
 凄惨な現場が広がっていたという。
 しかし、爪痕の大きさを考えればこの犯人もかなりの巨体なはずなのに、
 足跡などの痕跡が一切見つかっておらず、
 逆に人の靴跡が発見された為、襲われた可能性が濃厚・・らしい。

「ありがとうございました。
 ダンジョンは午後から入る予定なんですけど、
 大丈夫ですか?」
「はい。アルカンシェ様方は今後いつでも潜って頂いて大丈夫です。
 以降は申請も必要ありません」
「??わかりました、ではこれで失礼します」

 ちょっと受付嬢の言っている意味がよくわからなかったけれど、
 要約すると明日以降はわざわざ朝からギルドへ来なくても、
 ダンジョンに潜ることが出来るという事らしい。

「あと1時間くらいだし、町を歩いて時間を潰しましょうか・・」
「どちらか寄られたいお店はありますか?」
「私は先日買っちゃったし、
 メリーこそ次の出発前に補充したい物とかないの?」
「確かにありますが、ご主人様からその分の時間はいただけると思います」
「今日済ませられればその分ゆっくり眠れると思わない?」
「こちらです姫様・・っ!すぐ行きましょう!」
「そんなに急がなくても時間はありますから大丈夫でしょう。
 マリエルもその辺を歩いてると思うから合流しましょう」

 睡眠欲に流されたいメリーは、
 主の1人から唆されて足を進めようとする。
 そんな慌てる従者に落ち着くようにと声を掛け、
 もう1人のバイト戦士と合流するべく、
 歩きながらコールを掛けるのであった。


 * * * * *
「どうだ・・・アクア・・・」
『ひとがあつまってるよぉ~』
「やっぱりそうなるよなぁ・・、すぐに離れて正解だったな」

 ドキドキしながら現場から遠く離れた木の上で、
 アクアの操るウォーターレンズを駆使して倒木の付近を確認する。
 予想通りに時間をおかずに人が徐々に集まり、
 兵士の方々も数名姿を見つけることが出来た。

『犯人は現場に戻るんですわ-!』
「嫌だ、絶対に戻らない!」
『おこられちゃうかもしれないしねっ!』

 似たもの思考の精霊使いと水精は再び1つとなり、
 巻き添えで逃げている風精を引き連れて、
 現場からさらに離れていくのであった。

「2人とも、アルシェ達には内緒だぞ」
『残念ながらギルドにこれから向かうそうですから、
 そこで耳に入るかと思います』

 高い位置を飛ぶ宗八一行だったが、
 マントの下に出来上がった影からクーが這い出てきて、
 そのまま完全犯罪にはならない事を伝えながら、
 肩口から顔を出す。

『あ、クーデルカさんですー!お疲れ様ですわー!』
「お疲れ、クー。
 じゃあ聞かれないうちは俺たちから口にしないようにしような」
『あい!』
『ですわー!』
『クーは何も聞かなかったことにします』

 娘達に犯罪の口止めをする悪い父親は、
 町から相当に離れた林の中に降り立った。

「ここまで来れば足取りを捉えられまい、フフフ」
『ますたー、離れる?』
「だな、ちょうどクーも来たし、
 ニルについでに見せておきたいし」
『クーデルカさんも同じように纏うことが出来るんですの-?』
『勿論です、プロですから』

 こいつはまた俺の記憶から古いネタを引っ張り出しやがって。
 娘が無意識にオタク化していく姿に嘆息しながら、
 アクアとの水精霊纏エレメンタライズを解除する。

精霊纏エレメンタライズも属性によって・・・、
 というかアクアやクーの特性が出てくるから、
 能力も変わって用途も違うんだ。
 今からクーとの闇精霊纏エレメンタライズも見せてやるから、
 いずれの自分を考えながら見てくれ」
『わかりましたわー!』
「じゃあやろうか、クー」
『はい、準備は出来ています』

 ニルの相手をしている間に、
 背後で闇纏マテリアライズを済ませたクーが準備万端で待っていた。
 アクアの[竜]の後は、
 クーの[天狗]を久しぶりに解禁する。
 アクアの時と同じく手を片手を合わせて同じ詠唱を再び口にする。

「『シンクロ!闇精霊纏エレメンタライズ!』」

 今度は黒い膜に飲み込まれる俺とクー。
 綺麗にすっぽりと覆われると、
 クーを構成する身体が闇に溶けていき、
 シュルリと音を立てて俺に纏っていく。

 マントとなったクーの長い切れ端を操って、
 膜を斬り裂いて天狗状態になった俺たちが登場する。

「ニルも連れて転移べるか?」
『空間を指定してであれば可能です』
「よし、じゃあニル、アクア。
 一旦首付近に捕まって居てくれ」
『あい』
『わかりましたわー!
 まぁ!クーデルカさんの匂いがしますわー!』

 2人がしっかりと捕まったのを確認してから、
 役割をクーと調整する。
 伸縮はクーの制御で行ってもらい、
 木を掴むのと離すのは俺が担当する事にした。

「じゃあ出発!」
『はい!』

 捕まる大木目指して両の手を前に突き出すと、
 クーがマントの両端に存在する特に太く、
 特に長い帯を大木目掛けて伸ばしていく。
 伸びる帯の先端は本来は刺突用に鋭利になっているのだが、
 移動に使う際は人の手のように形を変えて木に迫る。

 ガシッ!と掴んだのを認識すると、
 クーが一気に縮め始めるので、俺は姿勢制御に重きを置いて、
 ロケットの様に木々の間を飛んでいく。
 次に掴む大木を選択していると、
 首元から再びニルの質問が飛び込んでくる。

『このままだと木にぶつかりますわー!!』
「大丈夫だ。そのままじっとしていろよ!クー!」
『はい!』

 ぶつかると思われた瞬間、
 目の前にある大木の表面に波打つ波面が発生する。
 その空間の水面に恐れることなく飛び込むと、
 次の瞬間にはぶつかりそうだった大木の向こう側へと飛び出していた。

「今のが短距離転移だ。
 壁やさっきの大木程度の厚みなら回避することが出来る」
『すごいですわー!』
「次は平原に行くぞ!」
『はい、お父さま!』

 そのまま次の大木を掴んでは飛んでいく立体機動を取りつつも、
 ぶつかる大木は転移を繰り返して避け続ける。

『そろそろ平原です』
『もう木がないですわよー!』
「それも大丈夫!クー、行けそうか?」
『問題ありません』

 平原へと勢いよく飛び出した俺たちの速度は、
 普段のライドよりも出ている。

「認識OK!」
『出します!』

 再びクーが帯を伸ばしていくが、
 前方には掴めるような大木はない。
 しかし、ずっと先、もしくは後方にはまだ大木が存在している。

 先ほどから続いている動作とほぼ変わらずに伸び続けていた帯がいきなり空間の揺らぎに飲み込まれる。

『っ!?』
「掴んだ!」
『縮めます!』

 驚く暇もなく、また引っ張られるような衝撃を覚え、
 一旦高度が低くなるものの再度高く射出される。

『何が起きてますの-!?』
「クーの力だと、まだ俺たちを遠くまで転移出来ない。
 けど、質量の少ない帯だけならもう少し遠くまで転移出来るんだ。
 つまり、帯の先端は別の場所にある大木を掴んでいるわけだ」

 消えた帯の先は後方に広がる森の縁の大木へと伸びており、
 帯の出発地点は俺たちだし、俺たちの前方に向かって伸びた帯は、
 空間を置換されて後方で再び姿を現していた。

 しかし、帯を縮めて飛び出す先はそのまま前方に飛ばされる。
 現在の俺たちが出来る最大級の移動方法だ。

「次!アクア、ランスを適当に生やしてくれ」
『あいさ~!《あいしくるらんす!》』

 アクアの魔法が発動して飛び出した先に、
 幾本か氷で出来た無骨な槍というより氷柱に近い塊が地面から生えてくる。

『ありがとうございます、お姉さま!』

 二度目の置換立体機動を無事に終えたクーはアクアにお礼を述べて、
 帯を槍に向かって伸ばし、
 森で行っていた様な立体機動を、
 今度は大木ではなく氷の槍で実行し始める。

『おぉー!すごいですね-!
 合わせ技はかっこいいですわー!』
「その分タイミングがシビアだから、
 普段から連携について合わせたりしていないと上手くはいかないからなぁ!」

 クーが二度目の置換立体機動の体制に入った時にアクアは詠唱した。
 そして出てきた氷の槍は俺たちの進路を塞ぐことなく計算された位置取りで生やされていた。

『いつもあいたじかんにくーとはなしてるからねっ!』

 仲間内で時々行う模擬戦では、
 クーとアクアは戦闘が終わる度に色々と話し合っている姿を見ることが出来る。
 その戦闘内容を糧にしてちゃんとお互いの特性を理解しようと努力し、
 それをプラスに出来る支援を考えたりと、
 彼女たちは彼女たちなりに成長しているのだ。

 勢いを弱めてから最後は地面に着地をする。
 置換は空間の計算やらを平行して行う必要があるので、
 純粋な集中力が要求されて、
 まだまだ実用的ではないが、それも慣らして行ければと思っている。

 流石にまだまだ運用に疲れが伴うため、
 近くにある大木の木陰に身を寄せて一息入れる。

「ステータスが落ちているとはいえ、
 個人での戦闘が難しくなるだけで、お前達と一緒ならそこまでじゃないな」
『そ~だね~、きもたおしたしね~』
「一応これが今のところ精霊使いとしてアクアとクーを育ててきた成果かな?
 他にも竜玉や閻手もあるけど、
 それは時間があるときに2人にじっくり見せてもらいな」
『わかりましたわー!2人のようにかっこよくなりたいですわー!』
「そかそか。俺はちょっと休憩するから3人で遊んでおいで」
『わぁ~い!』『いってきます!』『ですわー!』

 良い感じに興味を持ってもらえたみたいで一安心だ。
 俺もニルをしっかりと見分けて彼女に見合った運用方法を考えないといけない。
 アクアは戦闘系、クーは支援系、
 ノイも防御力を上げるのが得意だからどちらかと言えば戦闘系。
 ニルは風属性に適性があることを考えれば支援に分類されるんじゃないか?
 クーの支援を考えると、
 皮膚の表面に膜を張り防御力を上げる[コーティング]、
 敵に見つからないよう休める[セーフティフィールド]、哨戒に便利な[隠遁ハイド]、
 状態異常をもたらし復調も出来る[ブラックスモッグ]、
 敵の動きを阻害する[影縫]。
 こう考えると、前衛系支援とも言えるのか・・・。
 じゃあ、後方での支援と考えると、
 セリア先生のように弓に[ソニック]を使って射速を上げたり、
 見えない風の刃で魔法攻撃を放ったり、
 でもそれって一般的なセオリーとも言える程度な気がする。

「もっとユニークな運用はないかなぁ・・」


 * * * * *
「「お疲れ様でした」」
「はい、お疲れ様。明日が最後だけどよろしくね」

 アルシェとマリエルはいまお昼のバイトが終わったところであった。
 メリーも仕事の最中は邪魔にならないようにと、
 目を光らせながら店の中にいたのだが、
 いつの間にか注文を取っており、最後にはお給料まで頂いてしまっていた。

「やっぱり人手が増えるとその分負担が減りますね」
「そうね、そのことを考えると明日で最後というのは本当に申し訳ないわ」
「それは割り切って下さいアルシェ様。
 お店の都合とこちらの都合をすり合わせて出来たサポートなのです。
 次に働く方も決まっていると聞いておりますし、
 そのことについてはあまり考えないようにお願いします」
「隊長からも言われてますしね」
「そうでしたね・・」

 宗八の懸念は的を射ており、
 アルシェとマリエルの人手についての理解を深めた為に、
 悩みを拗(こじ)らせていた。
 マリエルは少しすれば人手が増える事と、
 宗八からも気にすることではないと伝えられていたので、
 持ち前のポジティブを発揮して前向きに考えているが、
 アルシェは姫という立場上、責任の重要性を理解しているからこそ、
 途中で投げ出すような事になり申し訳なさでいっぱいだった。

 店を出てからもメリーとマリエルが言葉を重ねて沈むアルシェを励ますが、
 なかなか心優しい姫様は持ち直すことが出来なかった。
 と、その時背後から小さな衝撃がぶつかってきた。

「っ!」
『いたた~、でもまにあった?』
『お姉さま、慌てすぎです。
 アルシェ様にぶつかっていますよ』
『え~?あ、ほんとうだぁ~!ある~、おまたせ~!』
「アクアちゃん・・・。
 いえ、ちょうど良い時間でしたよ」
『ほんとうぉ~!よかったぁ~!』

 宗八に言われるまで時間を忘れて遊んでいた2人の精霊は、
 慌てて影に飛び込み、そのまま飛び出したが故に、
 着地を考えておらずアルシェの背中にぶつかる結果となった。
 しかし、ぶつかったのはアクアのみで、
 クーはすでにそこにいたと演出しようと落ち着いたフリをしていた為、
 アクアに続いてぶつかるような事にはならなかった。

 よじよじとアルシェのマントを登っていき、
 アルシェの肩へと腹這いになってぶら下がる。

 登場から一瞬でアルシェに笑顔を取り戻すことが出来たアクアを見て、
 マリエルとメリーはずるいなぁと思いつつ、
 先ほどまでの会話を続けずに、
 ダンジョンに向けての会話に切り替えるのであった。


 * * * * *
「ニルには唄を歌ってもらおうと思う」
『唄ですのー?吟遊詩人が唄うようなものですのー?』
「いやいや、あんな物語を歌うものじゃなくて、
 ラだけとか簡易的な唄でいいんだよ。
 いずれシンクロ出来るようになったら、
 俺の知っている知識を教えてあげるから、
 簡単なものから魔法を交えつつ覚えていこう」
『ですわー!』

 最終的に俺が出した結論としては、
 確かにゲームなどに出てくる吟遊詩人という職業に近いが、
 実際の吟遊詩人なんて見聞きした物語を勝手に音楽に合わせて歌うだけなので、
 吟遊詩人によってはリズムも善し悪しもずいぶん印象が変わる。
 しかし、俺のイメージするものはゲームに出てくる吟遊詩人なのだ。
 すなわち・・・。

「唄に魔法を乗せて広範囲にバフを掛けられるようにしたい」
『バフ?』
「ステータスの上昇って言えばわかるか?
 ニルで言えばソニックって魔法を使えば速度が上がるだろ?」
『そういうことですのー!わかりましたわー!』

 ソニックは掛ける対象によって効果が異なる。
 矢なら射速、剣なら剣速、人間なら移動速度が上がる。
 これはすべて空気を斬り裂きながら起こす行動で発生する、
 風との接触を緩和し、
 追い風も起こす魔法なのだ。
 本人や矢自体が劇的に早くなるわけではないが、
 受ける空気抵抗がなくなっているだけでも、
 その恩恵がなかなか馬鹿に出来ない為、
 ここまで汎用的な利用方法が出来るというわけだ。

「他にも防御力だったり魔法ダメージ緩和させたり出来たら嬉しいけど、
 ひとまずはソニックの広範囲掛けに集中しよう」
『ですわー!』
「じゃあ、魔法を組み込む前に唄の練習をするぞ。
 俺の後に続けて歌ってみてくれ」
『わかりましたわー!』

 唄というのは、
 高揚感を上げるのに最適なものだと思う。
 ゲームに然り舞台に然り、
 物語の盛り上げの一助となる為、
 もしも多対多での戦場にもしも俺たちが介入するような場面がもしも合った場合、
 ニルの唄によっては戦況を逆転させることが出来るかも知れない。

 さて、子供の時に俺はなんて唄を初めに歌ったのだったか?
 ドングリ、キラキラ、大きな栗、古時計・・・。
 まぁ、片っ端から歌っていくとしようか。

「どんぐりころころ、どんぶりこー。はい」
『どんぐりころころ、どんぶりこー』


 * * * * *
 店の解体作業が進むのを尻目に店舗内へと入っていくと、
 ダンジョンへの下り階段前には駐在兵の方が門番のように立っていた。

「お疲れ様です、ダンジョンの攻略に来ました」
「あぁ、いらっしゃいませ。
 話を伺っていた冒険者は貴女方が最後になります」
「怪我人などは出ていませんか?」
「レベルも考慮して30以上の冒険者だけしか受けられないので、
 その辺は引き際もわかっている冒険者ばかりですから」
「え?私たちまだ30に達してませんよ?
 私なんて10未満ですし・・・」
「貴女方はドーキンスの後押しもあって、
 特別枠の31組目に登録されております。
 ギルドからも危ないのではとの声も上がったのですが、
 実際に目で見て判断したからと強く推薦をして許可が下りた形です」

 そりゃあ推奨レベルから8も落ちるアルシェですら危険なのに、
 現在Lev.9のマリエルなんて論外もいいところであった。

「まぁ!出発前に感謝を述べに伺わないとね」
「菓子折も用意いたしましょう、アルシェ様」
「期待に応えられるようにあまり怪我しないように気をつけないとですね」
「はい、無理せずにお願いします。では、お気をつけて」

 兵士達から伝えられる驚きの事実。
 青年兵士のドーキンスへ感謝を伝える術を考えつつ、
 アルシェ達は長い階段を降りていく。
 昨日振りに降りきった先に広がる広い部屋には、
 見覚えのない立て札が立て掛けられていた。

「え~と、このダンジョンの各所にはキノコが生えております。
 しかし、地上の店舗で提供した事で数名の方が意識不明となっております。
 毒の特性を持っている可能性が非常に高い為、
 持ち帰る事はないようにお願いします。
 もしもギルドへ売却された場合は、
 規約違反として相応の処置を取らせて頂きます・・ですって」
「あぁ、そんなキノコもありましたね。
 この札を立てたのもドーキンスさんでしょうし、
 見つけたら燃やしておきましょうか」
「そう致しましょう」
『もやせ~!』
『どんな因果で口に入るかも分かりませんし、そうすべきですね』

 アルシェはもとより炎魔法の[ヴァーンレイド]を使える。
 マリエルも宗八の指示によって覚えさせられ、
 メリーもついでにと覚える運びとなった為、
 人間陣は全員キノコを見つけ次第燃やす事は可能となる。
 森を燃やせ~!
 火~をつ~けろぉ~!
 これから毎日キノコを焼こうぜ?

「とりあえず、昨日とは別の道で進んでいきましょうか」
「姫様の指示に従います」
「クーデルカ様、アクア様、よろしくおねがいします」
『ごえいはまかせろ~!』
『お父さまの指示もありますので、全力でサポート致します』

 とはいえ、ギルドの受付時に改めてモンスターの情報を確認し直した為、
 昨日戦った経験のあるモンスターに関しては然程問題なく討伐出来た。
 変わった点と言えば名称をギルドで与えられていた程度だ。

 リザードマン・槍→リザードランサー
 リザードマン・篭手→リザードモンク
 毒蛙→ポイズントード
 大型スライム→マザースライム
 岩吐き花→ボーリングフラワー
 半漁人→バリアブルマーマン

「昨日観察して戦ったから動きも予測しやすいですね、姫様」
「ですね。アクアちゃんたちのサポートも絶妙ですし、
 一層をマッピングし終わったら二層目に行きましょうか」
「ご主人様がいらっしゃらないので帰りは影から戻る事になります。
 明日も潜る際は再び一層からになりますのでマッピングは大事ですね」

 雑談をしながらも一層目は1時間と30分程度で周り終え、
 マッピングも出来上がった。

「夜の時間って伸びたんでしたっけ?」
「はい。夜に歩くモンスターが、
 23時以降にしか出現しないことが判明したので、
 22時まで歩く事が許可されております」
「じゃあギリギリまで潜りましょうか。
 お兄さんが欲しがるアイテムも見つかるかも知れませんし」
「本当に数時間潜りっぱなしなんですね・・・、
 隊長の言うとおりに日頃体力作りしていて正解でした」
「お兄さん様々でしょう?」

 ドヤ顔で自慢げなアルシェ。
 その左右で同じくドヤ顔をして腰に手を当てているアクアとクー。

「そうですね、隊長様々です。
 ・・じゃあ潜りましょうか」
「あれ?マリエル・・少し冷たいですぅ」
「だって、隊長を褒める度に姫様もアクアちゃん達も同じ顔をするんですもん。
 毎回反応するのも面倒になりますよ・・」
「面倒・・・」

 マリエルの塩対応にしょんぼり顔をして抗議するアルシェ。
 その顔に若干の罪悪感がマリエルの小さな胸を締め上げ、
 言葉を選んで再び口を開く。

「えっと・・・・やっぱり面倒ですね」
「言葉選びに悩まれた結果がそれではあんまりです、マリエル様」
「じゃあなんて言えば良かったんですか?」
「流石は宗八様ですね!でよろしいかと」
「・・・姫様、さすそう!」
「マリエルっ!♪」

 目の前の茶番に目を瞑り、
 マリエルの回答に感動をするアルシェ。
 マリエルも面倒だと思ったら、今度からさすそう!を使おうと心に決めた瞬間であった。


 * * * * *
「あめんぼあかいな、あいうえお」
『あめんぼあかいな、あいうえお』
「うきもに、こえびもおよいでる」
『うきもに、こえびもおよいでる』


 * * * * *
 二層目も出現するモンスターは変わらず、
 部屋の広さも変わらなかった。

「死霊王の呼び声であれば三層目からモンスターが変わりましたけど、
 ランク3のダンジョンはどうなっているんでしょうか?」
「私そのダンジョンを知らないんですけど、
 ランクが上がると危険度も上がるんですよね?
 じゃあ階層もさらに深くなって敵の種類も同時に変わるんじゃないですか?」
「その可能性はありますね。
 二層目は一層に比べると明らかに部屋数が増えておりますし、
 その分広大になっているかと・・」
『その辺はクー達の知るべき事ではないかと。
 あと1日で最下層まで辿り着くのが目的ではないのですから、
 その深度などに関しては他の冒険者にまかせておけばよろしいかと』

 確かにアルシェ達は宗八とのレベル差を埋める為と、
 マリエルのレベル上げが目下の目標だ。
 ついでにレアアイテムでも回収して旅の賃金に回すことが出来ればとも考えていた。

『あいてむは~かげにいれればいいし~、どんどんすすもう~!』
「じゃあ、続けてマッピングしましょうか」
「はい、姫様!」
「先行して確認して参ります」
『ご一緒します』


 * * * * *
 宗八は地面に木の枝で横線を5本書いている。
 その5本の横線が合計で3つ書かれており、
 いまからその説明に入るところであった。

「まず、これがト音記号」

 下から二本目からスタートし、
 くるりと一回転してから最上部の線を超えて折り返し、
 5本の横線をすべて下に貫き通し、
 最後に再びくるりと進行方向を変えて黒丸で終了する。

『ト音記号ですわー・・こうですのー?』
「うんうん、うまいぞ。
 で、一番下の横線のさらに下に串団子」
『串団子ー』
「ここがド、間にレ、一番下の線に串団子がミ、
 続いてファ・ソ・ラ・シ・ドと続く」
『ふんふんですわー』

 次に二つ目の横線集に移り、
 再び枝を動かして別の記号を書き上げていく。
 上から二番目の横線に黒丸を加えて、
 そこから線を上から下にくるりと少し大きめに湾曲させながら描き、
 下から二番目を刺し貫いたところで止める。
 さらに記号の横に黒丸を2つ付け足して完成させた。

「これがヘ音記号」
『ヘ音記号ですわー』

 同じく手元で木の枝の枝程度の小さな木片を握って地面に横線を増やして、
 俺の手本を真似ながら同じように記号を書き上げていく。

「今度のドは別のところにあってな、
 ヘ音記号は真ん中の線の下の空間にある」
『なんで違うんですの-?』
「なんで・・・?えっと・・・確か・・・、
 音域の高さによって違ったんだったか?」

 流石に詳しい記憶は遠い彼方にあり、
 学生時代に吹奏楽に所属していただけのサボり魔の頭に残った記憶なんて、
 金管楽器がへ音記号で、木管楽器がト音記号・・・だっけ?逆?
 ちなみに俺はユーフォニアムだったから、
 アニメが始まったときは嬉しかったなぁ。
 安済知佳さんに出会えたのもあのアニメからだったし、
 やっぱりユーフォは最高だぜ!

『ふーん』

 もうちょっと興味持ってよニルちゃん・・・。

「ゴホン・・最後にハ音記号だ。
 これは偶々知っただけでよく知らないけど、
 ドの位置はわかるから教えておくな」
『お願いしますわー!』

 五線譜の中心線に矢印のような烏賊の頭部のような形を描き、
 全体像は五線譜に綺麗に収まる漢字の弓に酷似した姿をしている。

「ドがこの真ん中に来るから1番わかりやすいかもしれないな」
『ハ音記号ー』

 これを知った経緯としては、
 学校では教えてくれないアニソンの譜面が欲しくて、
 ネットに流れている譜面を見つけた際に、
 吹いてみたら音が違うことに気がつき、
 先生に聞いてみたらハ音記号であったことが判明した。
 サイト名にはオカリナの表記が書かれていた。
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スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

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