特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第06章 -大樹の街ハルカナム編-

†第6章† -05話-[樹頂戦線と周辺探査]

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 翌日、早朝6時。
 有志の冒険者が数多くギルド前に集まっており、
 全パーティリーダーは、
 エクソダスをしっかりと登録するように事前に通告をしていた。
 そのせいもあって、
 ギルドは通常営業よりも大変忙しい状況に見舞われたようだ。

 こちらも彼らを一刻も早く上に送る必要がある為、
 仮眠を3時間だけ摂らせてもらい、朝食を食べる暇もなくこの場に移動してきた。

『《うぉーたーぼーる》』
「あんがと・・」
『ニル、眠いですわー・・・ふああ』
「俺も眠い・・・」

 昨夜の会議が始まる前に影の中に移動した精霊達は、
 ちゃんとあちらで回収されて睡眠を取れている。
 なのに、ニルは眠いと抜かしている事から低血圧なのかも知れない。
 顔を洗ってシャキッとしたところで自分の役割を全うする。

「はい、ではひとりずつお手を取って下さい。
 影に落ちたら女性が引き上げますので、
 そちらで指示を聞いて下さい」
「「「「「はい、よろこんでぇ~!!!!!」」」」」

 それここでも流行ってるのかよ・・・。
 戦術はアルシェに伝えてあるし、
 こっちも新たに浮上した地震の問題に取り組む事を伝えているので、
 今回もあいつらとは別行動になる。
 ただ、今回はマリエルも十分戦力として活躍できており、
 ある程度任せられるくらいには育った事から、
 俺たちが別行動出来るようになった。
 その事実がすごく貴重な気がしている。

 次々と冒険者を影に放り込んでいく事1時間。
 ようやく全冒険者と研究員をあちらに渡す事が出来た。
 これでひとまず彼ら冒険者はエクソダスがあるので、
 俺達がいちいち移動に世話を焼く必要がなくなった。

「さて、ギルドでこの辺の魔物情報を聞くとするか・・・」


 * * * * *
「《ヴァーンレイド!》」

 バアァァァァァァンッ!
 アルシェが放った火の魔法は固い繭に触れた途端に爆発を起こす。
 煙もそれなりに立ち込めたが、風の通りがいいこの樹頂では、
 すぐさま視界が回復する。

「はっ!」

 魔法の直撃によりうっすらと表面が溶け、
 柔らかくなった部分が冷えて再び固まる前に、
 メリーが駆け込んでナイフで斬りつけると簡単に刃は刺さり裂けていく。

 バシャァァァァァァアアアア・・・
 メリーが斬りつけた穴から溶けてドロドロになったアタランテが流れ出し、
 最後に繭の中を転がってくるのは魔力をほぼほぼ失った禍津核であった。

「マリエル様!」
「まっかせてください!《氷の撃鉄フローディングインパクト!》」

 バキィィィィィン!!!
 転がり出た禍津核を枝に押しつけるようにして殴りつけるマリエルの攻撃は、
 核の芯を捉えて綺麗に砕け散る。

「皆さんご覧になりましたかっ!
 このような順番で行えば簡単に倒す事が出来ますっ!
 繭を正面突破するのは時間が掛かりますので、
 ヴァーンレイドを撃ち込んで柔らかくなったところを切り開いて下さい!!」

 響くアルシェの声に呼応して「オォォォォ!!」と野太い声、
 それに女性の声も混じって反応を返してくる。
 宗八の指示でメリーは昨夜アルシェ協力の元禍津核の摘出をして、
 カティナに連絡を入れていた。

 〔わっかりましたヨー!ゴミ箱に入れておいて下さいデスカラ!
 すぐにうちのチームの人間に取りに行かせるデスカラ!〕

 インベントリを開いた時に見えるアイテム枠の横にはゴミ箱が設置されており、
 そちらへ不要なアイテムをドラッグ&ドロップすることで、
 魔法ギルドの倉庫へと自動的に送られる。
 これがレアアイテムなどであれば研究に使われ、
 どういう形かは定かではないがいずれ生活に還元される。
 そのシステムを使用してカティナのいる魔法ギルドへ禍津核を送り混む事に成功し、
 カティナチームが確認したところ、
 魔力が溜まった状態でなければ精霊は吸い込まれないとの事。

 今回の状態では、
 浮遊精霊をギリギリ閉じ込めておける程度しか魔力は残っておらず、カティナを吸い込むには全然全く魔力が足りないと判明。

 禍津核モンスターの進化については禍津核の研究も同時進行で進める旨となり、
 アルシェ達は朝から安心してアタランテ駆除に取りかかったのである。

「では、私たちは他のアタランテを倒して回りますね」
 〔応、気をつけてな〕
「お兄さん達もよろしくお願いしますね。
 協力が必要であれば呼び出して下さい」
 〔わかった。そっちも何かあれば遠慮なく声を掛けろよ〕
「はい!じゃあ行きますよ!」
「了解です!やってやります!」
「全力にてサポートいたします」
『お父さまに代わり護衛させて頂きます!』


 * * * * *
「バイトルアントの情報はこちらになります」

 昨夜からギルドマスターのホーリィ以下数名のギルド職員は、
 残業をとある冒険者から強要された様子で、
 朝の時間だというのに皆疲れ切った顔をしている。

 現在俺の受付を担当している女性は、
 さきほど出社した受付嬢なのでこちらのお願いも元気にハキハキと案内してくれたのである。

「習性とかまでわかりますか?」
「ランクは3の魔物なのですが、
 集団で巣を作って生活しているので、
 人間が挑発するような事をしない限りは脅威になりません。
 というよりも、その集団が数としては数百から数千匹になるので、
 出来れば挑発して欲しくない・・というのが本音ですが」

 この蟻型の魔物がもっとも怪しいと町長邸を出る前に、
 ゲンマール氏から直接伝えられた為、
 ギルドで詳しい情報を開示してもらったが・・・。

 巣を作り数千ほどが生活・・・そう聞けば、
 俺たちの世界にいるアリンコと大して習性は変わらないか・・。
 ただ、大きさはやはり違い過ぎていて、
 高さも人間の大人と大して変わらない。
 そう考えれば地球○衛軍に出てくるアリのデカさは異常だし、
 数も無制限と来ているからまだマシだと思えるな。

「もしかして種類がいたり役割が分かれていたりします?」
「えーと・・あ、本当だ。
 そうですね、巣を拡大する[バイトル]が群れの大半で、
 外敵を倒す[ウォーリアー]、仲間を守護する[ナイト]、
 そして群れの長[マザー]ですね。
 この戦闘をするアントの中で強い上位の雄がマザーと子を作れるようです」
「なるほど・・・。
 ちなみに巣はどの辺にあるか確認は取れていますか?」
「巣はここにひとつ、こちらにひとつ、ここの3カ所です。
 縄張り意識も強いのでこの辺ではこの3グループしか残らなかったんです」

 地図に○を付けていく受付嬢の手元を見ると、
 それぞれが街からそれなりの距離があり、
 綺麗に三点の中心にこのハルカナムがあるようだ。
 つまり可能性としたら、新たな第4グループが生まれたか、
 こいつらが何かしらの事情によりこの地に移動してきたかだと思う。

 牧場でのハイイヌの件を考えれば、
 バイトルアントの巣がある距離は短いと感じる。
 アクアとニルの協力のもと急げば、
 今日中に全ての確認が出来るかもしれないな・・・。

「ありがとうございました、助かりました」
「いえ、お気を付けて。
 こちらでも町長からの指示が来ておりますので、
 引き続きクエストを掛けさせて頂き、
 街の周囲に巣穴がないかの確認をいたしますので」
「あぁ、そうなんですか?じゃあ、よろしくお願いしますね。
 戻ったら進捗の確認に寄りますんで・・」
「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」

 町長有能やんけ。
 もう、俺たちが抜けてもなんとか出来るんじゃないか?
 そんな事を考えている隙に完全に忘れていた準備も思い出す。

「あっ!今後の事を考えると、
 上から紐だか滑車を付ける必要があるんだったな・・・」
『じゃあさきにけんきゅうじょ~?』

 いやぁ・・・、
 流石に俺たちの速度で何時間も掛かる距離の紐を、
 すぐに用意できるとも思えない。
 俺が研究員ならその先の事に着手して、
 食われてしまった葉や枝の修復の為に薬品を調合している頃だろう。
 ならこれだけ大きな街なのだから、
 他の手を用意出来る可能性の方が高いか・・・。

 ギルドから出た直後ではあったが、
 すぐに翻して先の案内をしてくれた受付へと再び声を掛ける。

「あのっ!グランハイリアの上までいける上昇機を付けるような話は、
 町長辺りから何か聞いてますか?」
「えっと・・・、あ。ありました。
 所長と町長の共同依頼として数組のパーティにクエストを発行しております。
 エクソダスを利用して数ヶ月計画で契約をしていますので、
 いずれは頂上までの上昇機も取り付けられると思われます」
「そうですか。ありがとうございます」

 やっぱ町長有能やんけ。
 ここまでのサポートが受けられるのってアスペラルダの王都以来じゃないか?
 ポルタフォールの町長は逃亡してたし、
 アクアポッツォはそこまでの問題はなかったし、
 マリーブパリアは既に操られていた。
 なんというか、俺の存在が正しく機能しているって初めて実感している。
 そうなんだよな!
 本来俺は表に出ずに破滅の調査をするのが目的でアスペラルダ王都を出たんだよ!
 なのに、気が付けば戦場を走り回る事になってて、
 魔神族ともニアミスしかけたりと結構危ない橋を渡らされたもんだ。

 こういったサポートが受けられれば俺たちの調査も順調に行くと思うんだけど、
 やっぱりなかなか上手く行かないもんだ・・・。
 それとも、そういう運命的な妨害も破滅の一端なのかも知れんな。


 * * * * *
「マリエルっ!1匹目は蹴り上げて2匹目を対処っ!」
「はいっ!とっべーーーーーっ!!!
 からのぉーー・・《氷の撃鉄フローディングインパクト!》」
「《勇者の剣くさかべ!》」

 群れの最後に残る2匹が、
 ほぼ同時に前衛を務めるマリエルに突進してきた。
 しかし、アルシェの指示に従ったマリエルが接敵した1匹目を高く蹴り上げ、
 それをアルシェがエリアルショットで撃ち抜き、
 下ではマリエルが接敵した2匹目を拳で撃ち抜いていた。

「アルシェ様、周辺に敵影はございません」
『ここも討伐完了ですね。チェックをします』

 始まった時は群れであったからこそ頭数も40匹を超えていたアタランテも、
 接敵前に次々と禍津核を破壊され、
 10匹以上減らされた時点でマリエルが待つ前衛に到達。
 だが、昨日と今日で戦闘のコツを掴んだアルシェ達を相手に40匹では力不足であった。
 安全域まではメリーとクーも群れの背後に回って、
 戦闘に参加するアタランテの数を調整していたが、
 十分に数を減らしたところでアルシェが次の指示、哨戒を言い渡した。

 その哨戒も終わり、
 アルシェの後ろに姿を現した2人は、
 アルシェへの報告と影を通して宗八に渡されていたグランハイリアの地図に殲滅エリア拡大を記していく。

「マリーブパリアで、
 レベル上げとランク3モンスターとの戦闘に慣れていて正解でしたね」
「流石にあのダンジョンまではご主人様も予想外だったかと思いますが、
 確かにあの数日がなければこうもスムーズに動けませんでしたね」
「お疲れ様でぇーす!この辺はもう大丈夫なんですかぁ?」
「えぇ大丈夫よ、マリエルもお疲れ様。
 クーちゃん、あとどのくらいかしら?」
『昨日と違って朝から動けたので稼げはしましたけど、
 それでもグランハイリアは広大です。
 地図上では5分の4までは掃除出来た計算です』

 アルシェがステータス画面を開いて時間を確認すると、
 16時を回っている。
 そろそろ頼りの兄にどうするべきか連絡を取りたいと内心では叫んでいるけれど、
 あちらから朝以来連絡がない事から、
 継続を暗に指示されているのだとも思う。

「どうしますか、姫様ぁ?
 昨日で5分の1ほどで、今日で5分の4まで進んでるんですよね?
 なら、このまま今日中に終わらせるのも手かと思いますけど」
「そう・・・。あと数百・・・」
「私たちはアルシェ様の指示に従いますが、
 念の為冒険者達の様子も見ておいた方がいいかと進言いたします」
「そうでしたね、そちらに戻る時間も考えておかないと・・・。
 明るいうちに戻るのがベストですね・・・・」

 兄ならばどうするか・・・。
 そうですね、安全マージンを取ろうと言いますね。
 なら・・・。

「今日は引き上げましょう。
 冒険者の方達と合流して残りの時間は繭の掃除に充てましょう」
『「かしこまりました」』
「わっかりましたぁー」


 * * * * *
 昼前に出発したにも関わらず、
 俺達は3カ所の蟻の巣を回って生息地域を確認するだけで、
 もう空は暗くなっており、
 さらに少し前にはいつもの門扉が閉まる大きな音が遠くから聞こえてきた。

『やっと終わりましたわー・・』
「いや、お前はほとんど俺にくっついてただけだろ・・、
 俺とアクアが頑張ったんだよっ!」
『ほんとほんと~!ニルなにもしてないよ~!』

 ニルのした事と言えば移動をする度に[ソニック]をかけ直したくらいで、
 各所の調査は俺とアクアが飛び回って頑張ったのだ!本当に!
 巣の入り口がいくつもあって、現場は広大だったのだ!本当に!

「まぁ、ソニックがないと今日中に回る事が出来なかったんだけどさ、
 俺とアクアがバイトルアントについて調べてたときお前何してたよ」
『動物さんと遊んでましたわー!』
『あくあもあそびたかったのに~!』

 そうなのだ・・・。
 遊びたい盛りのアクアも頑張ったのだ!
 気も漫《そぞ》ろにアクアがなる度に水精霊纏エレメンタライズが解けて何度空から落下した事か・・・痛かったのだ!
 一応伝えておくけどね、
 シンクロ然り、精霊纏エレメンタライズ然り、
 精霊と心を一つにして集中しないと使用出来ない技なのよ?
 結構簡単そうにいつも使っていますけどね、精霊使いの奥義みたいなものなのよね。
 日頃から精霊達を躾けて、
 俺がやると決めたことには一緒に取り組むようにと言い含めている。

 なのにだ!
 この風精霊ニルチッイは、属性柄仕方ないのかも知れないんだけども、
 話をしているといつの間にかいなくなっているし、
 アクアの精神構造がまだ幼いと潜在意識で感じるのか、
 気づいた時にはすごいタイミングで遊びに誘ってるし、
 自由奔放な感じがもぅすっっっっごぉぉぉぉいのっ!!

 気づく度に注意はしているけど、
 その都度『わかりましたわー!』と元気に返事をした数秒後にはどっか行ってる。
 末っ子って・・・すげぇよ・・・。
 お前らも子供は二人までにしとけよな・・・。
 長女はアホ可愛いし、次女はしっかり者だぞ・・・。

 そうこうしている内にハルカナムの塀を越え街に入ったので、
 出来る限り目立たないように降り立つ。

「長かった・・・」
『つかれたね~・・・』
『ニルは元気ですわー!はわっ!』

 アクアとの水精霊纏エレメンタライズを解きつつ着地しながらお互い愚痴が漏れる。
 そんな中一人元気アピールをするニルが癪に障ったので、
 両手でサザエさんのEDのように上下で閉じ込める。

「アクア。アルシェに今日は迎えに行くから、
 エクソダスで帰ろうって伝えておいてくれ」
『あ~い』
『・・・っ!っ!っ!』

 両手がくすぐったいのを我慢しつつ、
 足を進めてギルドを目指す。
 出発の時点で話していた街周辺に新たに作られた巣穴があったかの確認も先にしておかないといけない。
 というか、こっちの調べも合わせるとあると思うんだよなぁ。


 * * * * *
「アクアちゃんから今日は迎えに来てくれるそうです」
「やったぁー!お風呂だぁー!」
「では、冒険者の方々にも説明して参ります」
「お願いね、メリー。
 こっちは時間まで整理をしましょうか、クーちゃん」
『はい、アルシェ様』

 予定通りに冒険者達と合流したあとは、
 戦力と戦闘域の拡大率から時間内ギリギリと思われる繭の破壊を手伝った。
 現在はすでに何組かの冒険者は[エクソダス]で帰還しており、
 残っているのはアルシェ達、研究所雇われのパーティ数組、
 そしてアルシェ達の戦闘に惚れて自ら護衛をする為に勝手に残っていたパーティ数組だった。

『本日のアタランテ討伐数は幼虫、644体。繭形態は215体です。
 足場が枝という事もあり、
 冒険者の方々は滑落《かつらく》を気にして慣れなかったようですね。
 真ん中以外は丸くなっていますから歩いたり走ったりし辛いですから仕方ないですね』
「私たちも同じ条件じゃないのぉー?」
『クー達はお姉さまとアルシェ様が開発した[ライド]や、
 素早く動く訓練を日頃してきています。
 なので、ゆっくり動くよりもバランスが取りやすかったんです』

 当然落ちれば浮遊精霊の加護など意味がないくらいの衝撃で死ぬ。
 その事をこの場で意識しない冒険者はいなかったのだ。
 それは生き物の本能なので責める事は出来ないし、
 アルシェ達のようにクーデルカという名の安全装置が付いているわけではない。

『マリエルさんは攻撃に移る時にライドの制御が甘くなる傾向になりますので、
 気をつけて下さいね』
「うぅー、隊長みたいな事言わないでよぉ・・」
『今日はお父さまに代わってクーがお小言を言わせて頂きます!』
「姫様、自発的な冒険者の方々には帰還して頂きました」
「そうですか、じゃあ暗くて足場も悪いですしお兄さん達を待ちましょうか」
「残念ながらもう迎えに来たぞっと・・・」

 メリーがアルシェの元へ戻り、
 報告をしている間にその背後の影から宗八・アクア、
 そして瓶詰めにされたニルが姿を現した。

「おかえりなさい、お兄さん」
「そっちもお疲れ様、アルシェ」
『お父さまっ!』
「クーもお疲れ様。ありがとうな、助かったよ」

 飛び込んでくるクーを抱き留めると、
 アルシェ、メリー、マリエルもこちらへと近づいてくる。

「隊長、なんでニルちゃんは瓶に入れられてるんですか?」
「言う事を聞かないからな。丁度良い瓶が売られてたからそれに詰めてやった」
「ご主人様、ニル様は精霊ですから魔法で脱出出来るのでは?」
文字魔法ワードマジックで沈黙にした。
 効果が単純だから負担が少ない分効果時間は長いらしい。
 良い実験になったよ、フフフ」
『お姉さま、ニルは何をしたんですか?』
『なにもしなかった』

 瓶詰め妖精と化したニルの心配はしつつも、
 全員疲れの見える顔をしているのがお互いに分かり、
 一旦宿に戻る事とした。

「今日はお疲れ様でした!明日までは参加しますので、
 引き続き繭の破壊はよろしくお願いします!」
「お疲れ様でした。
 アルカンシェ様御一行は今日一番お仕事をされましたから、
 今夜はぐっすり休まれて下さい。
 貴男の話も町長と所長から聞いています。
 本日はお疲れ様でした」

 俺がアルシェ達を連れて引き上げる事を知らせる為に、
 冒険者のグループに挨拶をすると、
 代表なのか超絶ガタイの良いお兄さんが対応してくれた。
 ってか、町長も所長も俺の事は話さなくて良いんだよ・・、
 アルシェを筆頭に立たせておいてくれ。

「じゃあ帰るぞ。
 サッパリして飯を食ったら俺はゲンマール氏の所に行ってくるから」
「あら?お兄さん達のお仕事はまだ終わってなかったんですか?」
「移動に超時間が掛かったからな・・・、
 クタクタだけど早めに対応策を立てたいし、
 王都にも早く着きたいからな・・・」
「超?」
『とってもっていみだよ~』

 そんな会話をしながら[エクソダス]を発動させ、
 ギルドの帰還門から地上へと足をつける。

「あぁ~、久しぶりの地面っ!!
 そしてこの身体に掛かる重量感っ!!
 姫様・・・この現象はなんですか!?」
「さぁ・・・?
 私も身体の変化について行けてないんです・・・」
「ご主人様、これはどういうものでしょうか?」
「グランハイリアは地上からとても高く、
 気圧が低い、つまり簡単に言えば重力が若干小さかったんだ。
 っていうか、雲より上だった事から確実に重力に違いが出てる。
 そのせいでいま重く感じてるんだろうさ、しばらくすれば慣れるからとりあえず足を進める事をお勧めする」

 俺はほとんど上にいなかったが為に現在は重力の差を大して感じないが、
 昨日の夜は結構しんどかったのは覚えている。
 ベッドに横になれればしんどさから逃げる為に意識も落ちやすくなるだろう。

「とりあえず、宿に帰るか・・」


 * * * * *
「・・・おや?今日はアルカンシェ姫殿下もご一緒ですかな?」
「おぉ~、なんとも愛らしくもあり美しい・・・。
 私はグランハイリア研究所で所長をしております、ウクリールと申します」
「これはご丁寧に。
 初めまして、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダです。
 状況を分けて対応しておりましたので、
 グランハイリア樹頂対応の代表として報告に参りました」

 今回はパーティを2つに分けて対処に中っていたので、
 あちらに関しての報告も俺にして俺が一括で報告するよりも、
 当事者が話す方がいいだろうと、アルシェが!言い出したので町長邸に連れてきた。
 所長の名乗りにアルシェも相応の返しをする。

「そうでしたか・・、ご足労痛み入ります。
 では、さっそくお聞かせ願えますかな?」

 俺は仮眠を取ったし、
 それぞれも自身の部下や使用人がいるので息抜きなどは出来ていたが、
 やはり疲れ蓄積するもので、
 この場にいる全員が疲れが分かる顔つきをしていた。

「派遣されてきた冒険者の方々には繭の対処をお願いしまして、
 私たちは禍津核製のアタランテの幼虫討伐を進めました」
「幼虫の対応は姫様達だけでですか?」
「はい。私たちはオリジナルの魔法による機動力があります。
 冒険者の方々は戦力はあっても流石に着いては来られないので、
 一カ所に集まる繭の対処をしていただきました」
「ふむふむ、その成果は如何ほどでしょうかな?」
「幼虫は昨日の討伐も合わせて、644体。
 繭・・えっと蛹《さなぎ》でしたか?あちらは215体です」
「「・・・・え?644体ですか?」」
「・・?えぇ、そうですけど。
 侍女のメリーとクーちゃんが調べたのでまず間違いはないかと」

 町長と所長と立場は違えども一角の長である年寄り二人。
 幼い日から今日まで長くグランハイリアという大樹の大きさ、
 その存在を強く意識し理解をしているからこそ、
 その数を倒す為にはあの広大な樹頂を動き回らなければならないという事を理解した。
 それに戦闘時間を考えれば、
 おそよ一つのパーティが成した事とは思えなかった。

「あー、思い違いをしているようですが、
 今回の敵は禍津核というウィークポイントがあります。
 ランクがどれだけ高くてもそこを砕ければ簡単に倒す事が出来るんですよ」

 なんか勘違いしていそうなので、
 俺が補足をつける。
 あと、当たり前だけど砕ければ簡単なだけで、
 砕くまでは大変だからな。
 今回は敵が紙装甲の蟲野郎だったからこその討伐効率だ。

「・・・それにしても・・いや、そうだな・・・。
 アルカンシェ姫殿下、ご協力に感謝する」
「えぇと、では、状況としてはどのようになりましたかな?」
「細かな取りこぼしはメリーとクーちゃんの哨戒で常に潰したので、
 ここからこの範囲にアタランテ幼虫は存在しません」
「残りの範囲を考えれば明日にでも・・、
 おっと失礼姫様。明日もご協力頂けるのでしょうか?」
「えぇ、あと少しですし明日で幼虫は駆逐いたします」

 インベントリから地図を取り出して二人に見せながら説明するアルシェ。
 見た限り残りの範囲を考えれば3~4時間で討伐は完了できそうだ。

「感謝いたします、アルカンシェ様。
 蛹《さなぎ》は動き回らないのでこちらで引き続き処理出来ますし、
 なんとかなりそうですな、ゲンマール町長」
「あぁ、問題も全て解決したわけではないが、
 なんとか目処が早い段階でつけて良かった。
 とはいえ、気を揉んだだけでほとんど姫様方の手柄ですけれどね」
「私たちが必要だと判断して行動をしただけですよ。
 ゲンマール町長はグランハイリアの調査を許可下さいましたし、
 ウクリール所長もフラジリオさんをお貸し下さいました。
 どの要素が欠けても私たちだけでは、
 問題の解決に向かう事はありませんでした。
 それこそみんなで成せた事でしょう」

 姫様しているアルシェを眺めながら、
 頭の中で俺は今日の報告内容を整理する。

「そう言って頂けるだけで光栄でございます」
「まさに・・・光栄です」

 アルシェの言葉に頭を下げる大人2人。
 実際のところは魔神族襲来の可能性があるので、
 一番厄介な問題は残ったままになっている。
 さらに言えば・・・。

「次に私の調べを報告します」
「うむ、頼む」
「南東、北東にあるバイトルアントの巣は健在でしたが、
 北西にあるはずの場所に巣穴はあっても姿はありませんでした。
 そこに問題自体はありましたが、一旦省きます。
 街に戻ってからギルドに寄ってからゲンマール氏が出したクエストの成果も聞いてきました」
「それで、どうだった?」
「周辺に巣穴は・・5つありました」
「ふむ・・それで、バイトルアントはやはり街の下に?」
「そう判断してもいいかと思います」

 出発時にギルド職員が言っていたように、
 無闇矢鱈と刺激して現在のハルカナム周囲に数百のバイトルアントが出てきても、
 冒険者の多くはグランハイリア樹頂にいて連絡も取れないし、
 下にいる冒険者もいきなりの事態でまともに判断して動けるか怪しい。
 そのため、俺のように巣の中まで調べる事は出来なかったが、
 巣穴が街を囲むように配置されていると報告を受ければ、
 否が応にも街の現状を鑑みれば居る寄りの判断になるだろう。

「俺たちは明後日の朝には出発したいので、
 明日の内になんとかバイトルアントの件に対策をしておきたいです」
「それが出来るのであればおまかせしたいところだが、
 何か心当たりがあるのかね?」
「私とアルシェ様、それと俺の契約精霊でなんとか出来るかと・・、
 ただ念の為に俺たちが入る巣穴以外には冒険者を配置して頂きたい」
「それはかまわん。手順はどうするかね?」
「明日の朝から我々はアタランテの幼虫を殲滅してきます。
 そちらが終わり次第巣穴の配置に付くので、
 午後からスタート出来るように冒険者の手配と兵士の手配をお願いします」

 明日もまたギチギチのスケジュールを組むハメになるけど、
 そうでもしないとまた滞在時間が延びて王都に着く事が出来ない。
 この街にグランハイリアが有ったせいで・・・、
 いやそもそも先祖の方々がハイリアの根元に街を作ったせいで対処する内容が増えたようなもんだ。
 グランハイリアが無ければバイトルアントの件だけだったわけだし、
 実質2つの事件を調べる時間を取られる事もなかったのだ。

「お兄さん、愚痴を言っても仕方有りませんよ」
「え?口に出してたか?」
「顔を見ればわかります。
 明日までは気を抜かずに頑張りましょう!
 私だって中途半端に協力して街を離れるのは嫌ですけど、
 それが必要なことだと理解していますから。
 出来る限り明日で決着がつけられるように尽力しましょう」
「・・・ふぅ、そうだな」

 ハルカナムに着いて明日で4日。
 ここまで面倒な事態に直面しつつも、
 いつもの滞在よりも短く出来ているのは、
 単《ひとえ》に全員の努力の結果だし、
 アルシェが先ほど言ったとおりに町長や所長が全面的に協力的だったからだ。
 現状出来るパフォーマンスとしては、
 確かに上出来な部類だ。
 熱くなった頭を冷やして、再び冷静さを取り戻す。

「兵士は門を守らせれば良いかな・・・。
 そちらの指揮は倅《せがれ》に取らせようかと思うがいかがかな?」
「問題ないかと。
 操られているとはいえ基本の生活は彼自身ですから」
「わかった」
「では、ゲンマール町長。
 私どもは明日も引き続き薬の調合でよろしいのですかな?」
「ですな。近いうちにグランハイリアへ与えられる準備を進めてくれ」
「わかりました」
「明日の午前、そして午後始めの手配は了解した。
 それで?南西の巣穴にあった問題とは何かね?」
「オベリスクがありました」
「・・・っ!」

 オベリスク。
 グランハイリアに存在する穴に撃ち込まれると思っていたオベリスクは、
 バイトルアントの巣穴の近くに突き刺さっていた。
 俺の言葉にアルシェが小さく反応を示す。

「オベリスクとは?」
「詳しくはお伝えできませんが、
 黒い柱が建つ地の魔力が無くなっていく・・そういう物です」
「報告すると言う事はそれが原因なのかね?」
「バイトルアントが巣穴から姿を消した原因ではあります。
 この世界の生き物は多かれ少なかれ魔力を持っていますから、
 その魔力が無くなるのを嫌ってバイトルアントは移動をしたのです」

 アクアポッツォ、ネシンフラ島にあったオベリスクと同じく、
 周囲に居たはずの魔物はおろか小動物もいないのは確認済み。
 しかし、魔力減衰の範囲は狭かったように感じたのは、
 おそらく野生の勘のようなものですぐにバイトルアントが移動した事が要因だろう。

「それは水無月殿が対処したのかな?」
「いえ、残念ながら私と精霊達だけでは対処は出来ませんでした。
 なので、ギルドに寄った際にクエストの発行がある事と、
 冒険者の選定条件を伝えています」
「なるほど、それを私名義でまた発行すれば良いのかな?」
「勝手ながらよろしくお願いします。
 それと近いうちにグランハイリアの中央の穴にも、
 同じ柱が刺さると予想されます」
「ふむ、話せない理由は聞かない方が良さそうですな姫殿下」
「申し訳ありません、町長。
 国家的な問題もありますが、情報漏洩を出来る限り防ぐ為の処置と理解して下さい」
「申し訳ない」

 魔神族に続いてオベリスクもあまり関係者を増やす事が出来ないワードだ。
 牧場近くのオベリスクに対してクエストを発行した際にもオベリスクではなく、
 正体不明の黒い柱を折れという謎に満ちた内容の記載にしてもらった。
 これで折りに行った冒険者が、
 もしも魔神族に捕まったとしても理由は知らないし、
 クエスト発行者を探られても町長、
 もしくはギルドマスターまでしか情報は出てこないように調整はしている。
 まぁ、ギルマスの中でも命を張っている自覚があるのはアインスさんだけだけどな。
 協力をしてくれる町長方には悪いが、
 察して守ってくれる事を願うばかりだ。
 流石に俺も「俺の代わりに死んでくれ」とは言えない。

「わかった。
 クエストと報酬もこちらで手配しておくし、
 水無月殿が警戒しているグランハイリア関連も所長と共に対策を嵩じる。
 その代わり、明日はよろしく頼めるかな?」

 やっぱ、有能やんけ。

「・・・お任せを」
「全力にて」

 ゲンマール町長の言葉に感謝と覚悟を込めて、
 俺とアルシェは返事を返した。
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都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

優の異世界ごはん日記

風待 結
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月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
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記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
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【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

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12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

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世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

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とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

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 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

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