特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-

†第8章† -10話-[エピローグ]

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「メリオ!!どうしました!?」
「生きてんのか?おいっ!メリオっ!」

 ギリギリ見逃されてすぐに迎えに来てくれたクーのおかげで、
 王都から影の中へと命辛々戻ってこられたが、
 出迎えの為に影の中で待っていたのは、
 先に王都を脱出させていた勇者PTの男性陣2人だった。

 体力の低下も著しい彼らのうち魔法で後方からの支援が出来る魔法使い2人は護衛に参加し、
 前衛のマクラインと弓使いのヒューゴは俺たちの引き上げ手伝いの為に影の中で待機していたらしい。

 鎧を着込むメリオはマクラインに任せ、
 軽装の俺はヒューゴに肩を貸して貰いながら影と繋げているゲートから外界へと脱する。

「お疲れ様でしたご主人様。
 勇者様は息が止まっていたのでクレシーダ様が介抱を担当されております。
 ご主人様はひとまずこちらをどうぞ」

 影の外で待っていたのは久しぶりに姿を見ることになったメリー。
 その手にはフルハイポーションが握られており、
 勇者の救護情報とともに意識があり撤退のためにやらねばならない事もある俺の口へと、
 言葉を掛けながら見せつけてくる。

「飲めん」
「では、飲んでいただきます。
 ヒューゴ様、失礼ながらご主人様の身体をそのまま支えておいてください」
「え?お、おう・・・」
「失礼します」
「んぶぅ・・!?」

 いまの状態では飲むことは出来ないとはっきり告げる俺に対し、
 身体を支えてくれているヒューゴも戸惑いを浮かべる中、
 目元に手を当てて鼻を摘まみ、まるで人工呼吸のように強制的に上を向かせられる。
 そしてだらしなく開いてしまった俺の口にフルハイポーションの飲み口が突っ込まれ飲まされる苦い良薬。

「おい、アルカンシェ様のとこの侍女。
 ご主人様って言ってるくらいなんだからこいつを立てなくていいのか?」
「現状戦線をギリギリまで下げておりますが、
 戦闘が終わっているわけではありません。
 皆様もとうに限界を過ぎていますから、作戦終了の為にご主人様の力が必要なのです」

 2人が現状を話すその間もゴキュゴキュと息継ぎも許されない薬責めを受けるが、
 さっそくポーションの効果が現れ始めたのか、
 薄らしか保てていなかった意識が次第にクリアになっていく。

 ぽんぽんとフルハイポーションを支える手を叩いて、
 ひとりで飲めると意思を伝えるが、
 それでもメリーは許してくれない。なしてっ!?

「その死に体の様子ではまだ安心出来ませんから、
 全てこのまま飲みきってください」

 確かに体中の服も破れ傷や打ち身が見えている状態で、
 その上怠いというのが分かる精神状態では他の皆も心配さらに心配させてしまう。
 アルシェを筆頭に宗八サイドのメンバーの多いこの戦場では、
 彼の身体状況も言葉も大きく皆に影響を与えることを理解しているからこそ、
 メリーは無理にでもほぼ空っぽになった宗八の回復を優先させたのだ。

 約1分ほど掛けて飲みきった薬瓶からようやく解放され、
 キュポンと小気味良い音を立てて口から離された。
 ヒューゴの支えも必要ない程度に身体に力が戻ってきた俺は、
 身体を離してもらいゆっくりと息を吸う。
 あぁ・・・空気が美味い・・・。
 王都を離れ落ち着いて深呼吸して改めて思う。

 瘴気の混ざる空気はとても吸えたものではないと。

「クー」
『はい、ニルと変わりますね。《闇精霊纏エレメンタライズ!》』

 漆黒の膜に覆われてすぐに切り裂いてから姿を現す。
 その手には傷だらけになった風精が抱きかかえられていた。
 契約して受肉した精霊が初めて傷ついている姿を見て、
 本当に必死に護ってくれたんだなと感謝と後悔と、
 なんか色々と複雑な感情が混ぜっかえる心境で愛おしく思うニルの頬に自身の頬を合わせる。

「お疲れ様。
 それと、ありがとうな」
『ありがとう、ニル。お父さまを護ってくれて』
『ワタクシだけでは護り切れなかったのが問題なの、です・・。
 もっと頑張りますわ』

 傷だらけではあれど息は整ったまま眠るニルに、
 俺たちは感謝を伝える。
 もう娘達に無理をさせるような事にはしたくない・・。

「メリー、剣を貸してくれ」
「用意してございます。こちらをどうぞ」

 作戦開始前に借りたものと同じ[アサシンダガー]をメリーから借り受ける。

『《エンハンスダーク》シフト:オプディシアン!』

 クーの魔法により、
 整ったナイフ状だったアサシンダガーに黒い煙が纏わり付いていき、
 無骨で荒削りな見た目に変化する。

『《セーフティーフィールド》セット:アサシンダガー!』

 時空魔法をアサシンダガーが吸い込んでいき、
 刃の表面に目に見えない何かに包まれる。
 時間もないのでそのままクーの影倉庫シャドーインベントリと繋がるゲートに向けて構える。

「《黒鍵こっけんアサイン:影倉庫シャドーインベントリ》」
『《ロック!》』

 クーの言葉に合わせて横方向に刺さっていたアサシンダガーを回して縦に立てると、
 ガチャッと幻聴が聞こえてゲートはその姿をその場で少しづつ溶けていく。
 背景と同化して徐々に薄れ完全に繋がりは途切れる。

「ここにいる全員ハルカナムでいいのか?」
「はい、フーリエタマナでは落ち着いて身体を休めることも出来ないと思いますし、
 ギルドマスターに依頼をしてすぐに休める準備も整えております」
「わかった」

 予想済みとはいえ今回の戦闘に参加したものは、
 シュティーナの監視も懸念して王都からもうひとつ離れたハルカナムに退くのが正しいだろう。
 閉じたゲート設置位置から離れ、
 先のゲートと同じくフーリエタマナに繋がるゲートに向けてロックを掛ける。

「アルシェ、あとはハルカナムだけだ。
 撤退を始めるぞ」
〔・・はい、すぐに準備します〕

 何か言いたげな声音なのには気がついたがここでは互いに何も言わない。
 無事を確認したい。
 怪我をしているのか、どんな状態なのか・・・。
 それでも今必要なのは心配をする言葉を掛けることではなく、
 すぐに撤退をしてこの場を離れる事。
 互いが互いを大事に思えば、それが正しいのだと理解する。

「水無月さん・・・」
「ん、クレアか・・・。お疲れ様。
 お前ももう向こうに行ってろ・・すぐに皆も退くから」
「わかりました、あちらで待っていますから。
 落ち着いたら色々と言いたいことがありますから覚悟して置いてくださいね」

 心配そうな声で話しかけて来たくせに、
 言葉もはっきりして応答をする俺の姿に安心したのか、
 憎まれ口というか恨み口を伝えてくる。
 まぁ、勇者の様態はヤバかったみたいだし、
 その延長で俺の様態も想像してからここに来たらしい。

「今日は勘弁してくれよ。
 明日ならそれなりの時間を取ってやるからさ」
「ん、待っています。
 それと殿にサーニャを残しますからちゃんと帰ってきてくださいよ」

 優しく言いつけながら頭を撫でてやると、
 少し大人しくなるクレアは撤退の殿にと、
 ずっと戦闘に参加していなかったサーニャを残すと告げてくれる。

「聖女さまの護衛は僭越ながら私が勤めさせていただきます。
 それとニルチッイ様もこちらで・・」
「あぁ、そうだな。頼むわ」
「では、サーニャよろしくお願いしますね」
「心得ております。
 メリーさん、よろしくお願いしますね」
「身命を賭してもお守り致します」

 そうしてハルカナム行きのゲートを超えて向こうへ消えるクレアとメリーを見送り、
 残るは俺とクーとサーニャ、
 勇者PTの勇者以外の4人、
 セーバーPT5人とゼノウPT4人、
 マリエルとトーニャとアルシェとアクア。

「先に勇者PTとゼノウPTを退かせる」
〔わかりました〕
「サーニャさん、ゼノウPTの空きに入ってください。
 撤退は徐々にこちらへ下がりますから、
 足取りは揃えてくださいね」
「かしこまりました、行って参ります」

 俺たちの指示に文句も言わず従い、
 駆けていくサーニャと勇者PTのマクラインとヒューゴ。
 しばらく待てば、
 ふらつく勇者PTの魔法使い2人をマクラインとヒューゴが支えながら戻ってきた。

「先に退かせて貰う。
 話す機会は作れますか?」
「必要はあるでしょう?
 俺たちが最後に戦う羽目になった敵の正体とか」
「だな。
 じゃあすまねぇが、先に行ってる」
「メリオの行方はギルド職員に聞いてください」
「了解です」

 話す気力もない女性陣に代わりこの後の予定も確認してくる男性陣に答えて、
 ハルカナムに撤退していくのを見守る。
 勇者だけを鍛えればどうにかなるとは思えないほどの強さをまざまざと感じただけに、
 こちらとしても彼ら勇者PTの仲間には今以上に強くなってもらわないといけない。
 その案や強化に関わる情報の提供も出来うる限り協力していかなくてはならない。

 次に同じくふらつく身体を互いに支えて現れたのはゼノウPTの面々。
 足りないスタミナを各町から来た冒険者と代わり休憩を挟んだとはいえ、
 やはり戦闘力を直に鍛えただけは有り、
 アルシェの信頼も厚かった為、最後までギブアップが許されなかった。

「お疲れ様、みんな」
「先に休む」
「申し訳ありませんが先に退かせて貰います」
「気にしないで。
 ギルドで先に休んでてください。
 話は明けてからにしましょう」

 喋る気力が残っていたゼノウとフランザと少しだけ会話を交わし、
 明日の用件だけ伝える。
 俺たちもそうだが、
 こいつらもギルドの用意した部屋ですぐにベッドインして気を失うんだろうな。
 残るはうちのPTとセーバーPT。

「次はセーバー達だ」
〔はい。
 私たちも下に降りて徐々に下がります〕

 氷の高台に登って木々の上から敵の動きと仲間を確認し、
 魔法での支援と指示出しをしてきたアルシェ。
 いま、前衛を勤めていた3PTのうち2PTが撤退するタイミングで俺の待つ方へと敵を蹴散らしながら徐々に徐々に下がり始める。

 そして姿を見せるセーバー達。
 リュースィも疲れ果てているのが分かる表情ながらゆるふわな雰囲気がまだ保てていることに素直に驚く。

『そうはち~、生きていましたのね~』
「そりゃそうだ。
 生きてないとあの姫様や水精が黙っちゃいないだろうしな」
「いえ、死んでいたとしても状況終了までは表に出しませんよ」
「感服するわ、いろいろとな・・・。
 じゃあ悪いけど先に休むからな、流石の俺たちも限界だ」
「分かってるよ、お疲れ様。
 明日時間を頂くから呼ぶまで休んでいてくれ」
「はいよ」

 これで残るは殿の俺たちとシスターズか・・・。

「アルシェ、先にマリエルか?」
「そうですね。
 でも、お兄さんもあっちで閉じる準備をした方がいいのでは?」
『ますた~!!!しんぱいしたんだよぉ~!!!』
「はいはい、生きてるから大丈夫だよ」

 セーバー達からそれほど遅れずに森の中から姿を見せるアルシェが、
 揺蕩う唄ウィルフラタではなく直接言葉を返してくる。
 瞳の奥からは安堵の色がしっかりと見え、
 アクアに至っては大声で胸の内を叫びながら胸元に飛び込んでくる始末だ。

「では、マリエル。
 あとは2人に任せて退きなさい」
「そのあとはアルシェ、俺が退いて、
 タイミングを見て2人に退かせよう」
「姉妹でアナザー・ワンですしね。
 私たちが残るよりお任せした方が無難ですね」

 揺蕩う唄ウィルフラタでマリエルに最後の指示をして、様子を見る。
 考えてみれば朝に見てからマリエルとは全く顔を合わせていない。
 基本脳天気なあいつも、
 今回の長期戦には参っているだろうな・・・。

「姫様ぁ~・・・!
 マリエル・・いま・・・戻りましたぁ~・・!」

 ほらみろ、あの甘えた声。
 なんだかんだであの声を聞くと安心する俺がいるが、
 日常のムードメーカーとしても俺のなかでマリエルは居て当然になってるんだなぁ。
 フラフラと疲れていますアピールをしながら遅くない速度で駆けてくる。

「うあぁ・・・隊長がいるぅ~」
「うあぁじゃないんだよ。
 とっととハルカナムに撤退して軽食の準備でもしてろ」
「鬼だぁ~、鬼が居るぅ~!
 姫様ぁ~!姫様ぁ~!」
「ギルドに先に行ってなさいマリエル。
 案内される部屋で先に休んでて良いから」

 何故か俺の姿に謎のメッセージを口にしながらアルシェに抱きついて崩れ落ちるマリエル。
 実際お腹は減っているには減っているんだが、
 疲れとか身体の痛みが激しく、
 おそらく俺も案内された部屋ですぐに眠りに落ちることだろう。

 へろへろでも普段通りのマリエルの背中を擦りながらハルカナムのゲートに案内するアルシェ。

「アクアちゃんはどうしますか?」
「無理しない程度の最後の支援だけしてくれれば、
 一緒に連れて行ってくれて良い。
 どうせ俺もすぐに後を追うからな」
「アクアちゃん、どうですか?」
『おうとにむけてうっちゃう~?』
「それでいいよ」

 アクアの言葉の意味には、
 いまは制御して氷鮫の刃ブレイドシャークを敵に向けて地面を走らせているけれど、
 自分たちが離れると制御の手から離れてしまう。
 最後だから沸いてくる王都に向けて放しちゃってもいい?って事だ。

 ここからでは広範囲攻撃も出来ない為、
 とりあえず敵に向けて放つことにする。

『おっけ~』
「とりあえず敵の集まっている場所に向けておきました。
 トーニャさん、サーニャさんとタイミングを見計らってゲートを超えてください」
 〔かしこまりました、殿しんがりはお任せを〕
「じゃあ行きましょうかアクアちゃん。
 先にお部屋で待っていましょう」
『ますたー、くー!はやくきてね~!』
「はいはい。
 ここ締めたらすぐに行くよ」
『お疲れ様でした、アルシェ様。お姉さま』

 アルシェとアクアの後に続いてハルカナム側へと移動をして、
 2人が町に向かって少し不安な足取りで進んでいくのを見送る。
 アクアもいつもならアルシェに抱かれたりして楽をしようとするのに、
 気を遣ってかちゃんと自分で浮遊してから移動をしている。

「はぁ・・・はぁ・・・」
『お父さま、大丈夫ですか?』
「あぁ、いやすまんな。
 やっぱ一度死にかけた身体は薬だけじゃすぐに持ち直せないな・・」

 完全に無意識に肩で息をしていた俺に、
 クーが心配そうな声を掛けてくる。
 本当なら心配いらないと言いたいところなのだが、
 全身の怠さと身体の節々の鈍痛がどんどんと強まっている事も相まって、
 強がる余裕も無い。

 やはりアニマとニルの防御を持ってしても内部にダメージが通っているらしい。
 最悪気づいていないだけで骨にヒビくらいは入っていてもおかしくは無いほど、
 手足の感覚がいつもとは異なっている。
 流石にこのままは辛いので、
 痛み止め程度にはなることがわかったポーションを再び口にしながら2人が戻るのを待つ。

『来ます』
「あいよ」

 目を瞑って眠気なのか痛みなのかなんなのかもうわからないが、
 意識が途切れないようにと耐えていたら、
 クーからのお声が掛かる。
 ゲートの脇で鍵となるアサシンダガーを握り直すと同時にゲートからサーニャ、
 トーニャの順で駆け込んでくる。

 いつもなら流石は姉妹だ、
 妹を先に通すとは良い姉妹愛だ・・・掛け値なしに。
 と、戯れ言を挟むところなのだが、
 いまの身体の具合ではそんな思考は淘汰され、
 2人が出てきたのを確認してからすぐに施錠に取りかかる。

『ロック完了です、お父さま』
「お疲れ様でした、お2人共。
 話は明日全員にしようと思いますので、とりあえず2人をクレアの元へお連れします」
「「お願い致します」」

 両の手で2人の手を握ると、
 クーが影の中へと俺たちを飲み込んでいき、
 そのまま俺たち3人はメリーの影から再び姿を表した。

「メリー」
「お疲れ様です、ご主人様。クーデルカ様」
『クレシーダ様は・・・あ、お休みになられているのですね』

 室内に移動したため、
 闇精霊纏エレメンタライズを解除してクーが肩の上に移動する。
 俺たちがメリーの背後からクレアを探して顔を覗かせると、
 聖女様は与えられた部屋のベッドで安らかな顔で眠っていた。

「先ほどまでは皆様のお帰りを待たれていたのですが、
 疲れもピークだったようで、
 今し方眠ってしまいましたので失礼ながらベッドへ移させていただきました」
「ありがとうございます、メリーさん」
「9歳の女の子がするには大変な一日だったんだ。
 ここまで持ってくれた・・頑張ってくれたのには感謝しないとな」
「お心配り感謝します」
「あとは私共で対応いたしますので、
 皆様も本日はお休みください」

 うちのもおそらくすでにベッドで休んでいるであろうこと事も容易に予想が出来たし、
 ここには教国の聖女とシスターが揃っている。
 なら、こちらはもうお言葉通りに任せてしまおう。

「お2人も協力してくださり感謝します。
 とりあえず今日はお風呂とご飯もギルドに依頼すれば用意してくれるので、
 眠る前にやることがあるなら職員に声を掛けてください」
「かしこまりました」
「お疲れ様でした」

 疲れはあっても汚れたまま空腹のままでは落ち着いて眠ることが出来ない人はいる。
 その為、ハルカナムのギルドに協力してもらい、
 風呂と飯の準備も出来るようにしてもらっている。
 とはいえ、ギルドにあるのは簡易的なシャワーとキッチンしかないので、
 提携している近場の宿屋で風呂とご飯の面倒を見て貰うことになるらしい。

 その説明だけはシスターズにしておいて、
 俺はメリーとクーを伴ってその部屋を足早に出て行く。

「アルシェ達は?」
「アルシェ様とアクアーリィ様、
 ニルチッイ様はご主人様の部屋ですでにお休み中でございます。
 マリエル様は女性部屋でフランザ様とトワイン様と共にこちらもお休みになられています」
「・・・まぁいいや。ニルは無事なんだな?」
「はい。聖女様が治療してくださいましたので、
 呼吸も安定してお休みになられております」

 それは朗報だな。
 傷だらけのニルを抱き上げた時は青ざめてしまったが、
 いま無事ならば一安心だ。
 明日になったらクレアにも改めて感謝を伝えよう。

「この後はすぐ休まれますか?」
「いや、風呂と軽食だけ貰って寝るわ」
『賛成、です!
 私も見ての通り汚れてしまっていますから、
 王として皆の見本になるために身は綺麗に整えておかなくては』
『汚れたまま眠るのは嫌ですしね』

 俺の身体から勝手に出てくるアニマが俺の顔に張り付いて汚れを訴えてくる。
 近い過ぎて見えねぇよ。
 身体はバキバキだし、リフレッシュ出来る風呂と昼抜きで激しい戦闘を続けた結果すっからかんになった腹に少しは入れておきたかった。

「そうですか。
 姫様がすぐにでも眠りに落ちそうでしたから、
 宿まで行かずにギルドのシャワーを一緒に済ませておりますので、
 私はここで失礼させていただいても?」
「あぁ、いいよ。お疲れ様。
 昼過ぎには全員に説明とかいろいろ話さなきゃいけないから、
 早寝なんだからちゃんと起きてくれよ」
「かしこまりました。では、失礼致します。
 お休みなさいませ、クーデルカ様、アニマ様」
『はい、お休みなさい。メリーさん』
『しっかりと休むのですよ』

 メリーも肉体的には疲れていないかもしれないけれど、
 戦場のど真ん中で行った救出活動は彼女の精神に多大な疲労を与えたことだろう。

 お辞儀をしてさっさと女性陣に与えられた部屋に向かうメリーを見送り、
 外に出る前に途中で見かけたギルド職員から提携の宿の位置を教わってそちらへと向かう。

「すみません、ギルドからこちらでお風呂と食事を頂けると聞いてきたのですが・・・」
「あぁ、話は聞いています。
 お名前だけこちらに書いて貰えますか?」
「はいはい。
 これは俺だけですか?それともこの娘たちも書いた方が良いですか?」
「えっと・・・そうですね・・、
 一応書いておいて貰えますか?」
「わかりました」

 まぁ、収支とか報酬みたいな感じで貰えるお金に記入した名前が影響するんだろう。
 人間だけでなく小さいこの娘らの分も貰えるのか決めていないのか、
 念のため記入だけはしておくに越したことはないだろうな。

 水無月宗八、クーデルカ=シュテール、アニマの名前を記入をする。

「食事の仕度をしておきますので、先にお風呂をどうぞ」
「ありがとうございます。食事は軽食を1人分と・・、
 クーはどのくらい食べる?」
『う~ん・・、お父さまの3分の1程度あれば食べきれなくても』
「そうだな、食べきれなくても俺が食べれば良いか。
 じゃあ軽食1人分とその3分の1程度の量を別皿でもうひとつお願いします」
「わかりました。お風呂は階段したの通路からお進みください」

 受付の人から案内された順路で風呂場を目指し、
 脱衣所に到着後に服を脱ごうと腕を持ち上げ身体を動かすと、
 語彙力がなくて申し訳ないがヤバイくらいの痛みが身体全体に響き渡る。

「う”っ・・・」
『お父さま・・・やはり・・』
『護りきれてはいませんから、内部にダメージが入ってしまっているん、です。
 一旦あの文字魔法ワードマジックで身体を治したほうが良いと思います』
「ふぅ・・・・。
 やっぱりポーションで騙してたけど、
 戦場を離れて気が緩んだのもあってもう限界だな」

 指先に魔力を集め、痛む身体をなんとか動かし文字を中空に描いていく。
 当然骨やら筋肉やらがイカレている身体の内部を回復させる文字は、
 献身的に自身の身体を張って実験に協力してくださったラフィート王子で判明した文字。

 [修復]

『クーが!』
『いえ、護りきれなかったワタクシが!』
『クーが先に言い出したからクーがやります!』
『いえ、責任を持てる王としてワタクシが!』
「どっちでもええから、はよ口に運んでくれ・・・」

 俺の文字魔法ワードマジックの発動条件は基本的に服用が必要なのだが、
 腕を動かして口に運ぶのも、
 身体を屈めて口を持って行くのも辛いことを察した次女と四女が優しさの喧嘩を始めてしまった。

 でもな、俺は早く風呂に入って疲れを取り、
 ご飯を食べて微かな満腹感を持ってさっさと眠りにつきたいんだよ。
 結局、2人で修復の文字を俺の口へと運ぶことで合意をなり、
 ようやっと服用することが出来た。

「・・っ!?」

 身体に文字が溶け込んだ途端に異音が全身から鈍く響く。
 とはいえ、完全に折れて他所を向いている訳でもないし、
 四肢を失っているわけでもないから、
 しばらく歯を食いしばって堪え忍んでいれば自然と全身の痛みと異音は収まっていく。

『お父さま?』
「大丈夫、収まったよ」
『これで治ったのですか?』

 念のため腕を伸ばしたり屈伸もしてみるが、
 一切の痛みを感じはしないし、今日の戦闘ダメージだけではなく、
 肩こりなどの身体中の疲れが取れているみたいだ。

「実験体ではわからなかった部分も予想外ではあるけどプラス要素だし、問題ない。
 あとは、良く休めばいままで通りの生活に戻れる」
『流石はお父さまが考えられた魔法です!』
『デメリットもあるのではない、です?』

 そう、文字魔法ワードマジックは短い時間のパワーアップを代償に、
 今まで様々な副作用をもたらしてきた。
 [集中]が3秒間の効果に対し激しい倦怠感と頭痛。
 [覚醒]が4秒間の効果に対し1週間程度のステータス低下。
 他にも軽い効果の文字であれば効果は薄いがデメリットは無いとも確認が取れている。

 大体が身体に無理をさせる事が原因になるので、
 予想される今回の修復のデメリットは、
 骨の修復と筋肉の回復がメインになるので栄養失調とかかな??

「デメリットはすぐにわからないし、ひとまず仕事は終わったんだ。この後はしばらくはのんびりするつもりだしいいさ。
 ほら、お前らも服脱いでさっさと入っちまうぞ」

 風呂に入る前にある意味肩こりなども解消してリフレッシュしてしまったが、
 身体汚れを落とすためにも精霊達を綺麗に洗ってあげ、
 俺も背中を洗って貰う。

 風呂から上がると丁度ご飯も用意が出来ており、
 指定通りの軽食を俺もクーも全部平らげるのを横で羨ましそうに見ているアニマ。
 次に進化するときに受肉すれば食べられると慰めながら宿からギルドへの道中を歩き、
 ハルカナムの門扉が閉まる前にギルドの与えられた部屋に辿り着くことが出来た。

 ただし、まだ試練は終わっていない。

「そういえば、アルシェが先に俺のベッドで寝てるんだった・・・」
『もう・・寝ましょうよ。お父さま・・・ふわああぁぁぁ』

 大きな欠伸をするクーの助言には、
 眠気マックスの俺も抗おうとは思わなかった。
 アルシェは膨らむ掛け布団に潜っているらしく、
 顔も隠れてしまっていた。
 起こさないようにとゆっくり持ち上げようと端を握ったときにふと気がつく。

「あれ?アルシェはいつもこっちで眠るけど、
 反対はアクアがいるはずだよな?
 なんで膨らんでるんだ?」

 いつものアクアであればいるのかいないのか、
 分からない程度の膨らみしか掛け布団に影響を及ぼさない小ささだ。
 なのにアルシェより小ぶりとはいえアクアが寝ているであろう部分の掛け布団が少しだけ膨らんでいるのだ。

「おわっ・・・」
『そろそろかと聞いていましたが・・・』
『なんともまぁ・・』

 布団を剥がしたそこには、
 丸まって眠るアルシェとその反対側に進化の卵に包まれたアクアが眠って?いた。
 ってか、こいつ寝ながら進化するとか・・・。

「まぁ、いいか。
 明日になれば進化も終わってるだろうし、明日のお楽しみといこう」
『そうですね』
『ニルも良く眠っていますね』

 枕の横にはスヤスヤと小さな身体を上下させて眠るニルの姿が確かにあった。
 元気そうな様子に安心しつつ、2人の間に身体を潜り込ませると、
 アルシェは眠っているだろうにスッと俺に身を寄せてくる。
 クーも猫モードとなって定位置の俺のお腹の上に丸くなる。
 アニマは眠る時も俺に纏って眠る為お休みの言葉とともに姿を溶かしていった。

 今日も疲れたなぁ・・・。
 明日からどうするかなぁ・・・。
 そんな事を考えながら意識は急速に沈み込んでいった・・・。
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 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

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