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第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-

†第9章† -02話-[生きて帰れたアスペラルダ]

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 パシュンッ!
 という光の膜が無くなる際に発せられる小さな音が静かな環境に良く響く。
 場所は少し遠くに以前水脈移動で使った小さな泉も確認が出来る城下町入り口から少し逸れた位置に着いたようだ。

「夕方になる前に到着できて良かったな。
 俺たちはこのまま登城するけど、メリオ達は捕まると面倒だろうし、
 一旦ハルカナムに戻っておいてくれ」
「確かに勇者様の顔は広く割れておりますし、
 私たちと一緒に登城すると今後の動きに支障が確実に出ますね。
 どうしますか?」
〔2人の言うとおり、俺たちはここで一旦別れます。
 また今日中にハルカナムに来られるんですよね?〕
「あぁ、帰ったという報告とゲートを城の中に設置したら、
 すぐ合流するから1~2時間くらいをみておいてくれ」
〔わかりました。では、皆さんまたお会いしましょう〕

 それぞれが手を振ったり一声掛けて別れを告げるなか、
 勇者とPTの魔法使い2名は光の膜に包まれて、
 再びパシュンッ!という音を残してその姿は一瞬にして消える。

「勇者魔法便利で良いなぁ・・・」
「しかもMP消費も2程度らしいですよ?」
「こちとらゲートを繋げるのに距離比例で結構消費するってのに・・。
 さぁ、切り替えて城に上がるぞ!
 連絡は入れているからすんなり謁見まで行けると思うけど、
 ゼノウ達はたぶん別室で待機になるかな?」

 彼らはそもそもアスペラルダの人間では無いし、
 風の国の冒険者であることから俺のクランに加わったとはいえ、
 俺たちと同じように謁見するのは難しいのではないかと考えてメリーに視線を送る。

「いえ、身元も割れている冒険者ですし、
 クラン所属と言うこともおそらくアインス様から聞き及んでいるでしょう。
 そのうえで謁見には姫様の久し振りの帰省ということもあり、
 将軍も控えておりますから・・」
「情報と安全は確保していますから一緒に通されますね」
「なるほどね。ってことで覚悟しておけよ」

 当初からの話では謁見の話は一切出ていなかっただけあり、
 彼らの頭の中では修練場を借りるだけとかそんな甘っちょろい考えがあったのだろう。
 実態は俺たちの仲間になった時点で城暮らしは確実だし、
 飯とか寝室とか生活という空間がまるで今までと違うものに変化してしまう。

 さきほどまでと打って変わって明らかに顔色がすごい勢いで悪くなっていく。
 冷静に考える事が出来るゼノウですら、
 そのことに思い至っていなかった事から、
 冒険者が王城で謁見するというのはそうそうある事では無いというのが理解できる。

「別に取って食われるわけじゃないんだから・・・。
 マリエルを見てみろ、こんなに堂々としているだろうが!
 こいつだって初めての登城なんだぞ?」
「いや、マリエル嬢はまた別なんじゃねぇか?
 歳の割に落ち着いてるとは思うけどよ、
 実は状況を理解してねぇだけじゃねぇのか?」
「まぁそれはありますよね!私がどうしたって決定権はありませんし!」
「アホ、お前が答えるな。
 逆にここまで諦めれば人間覚悟を決められるもんだ」
「あはは~、隊長ったら。私は人間じゃ無くて妖精・・痛いっ!」

 せっかくゼノウ達の緊張を和らげようと、
 戦場でも登城でもあっけらかんとしているマリエルを例に挙げたのに、
 このカエル娘は余計な口を挟みやがって・・・。

「とりあえず、あまりメリオ達もクレア達も待たせるわけにはいかない」
『お父さま、以前と同じく城に侵入致しますか?』
「城下町を通りますとおそらく・・・はっ!」
「ひぃっ!!」

 城下町に近づくと一般人にアルシェが見つかり、
 超が付く人だかりが出来てしまい登城に時間が掛かってしまう。
 それを考えてクーが言うとおりに天狗てんぐで侵入しようかと検討を始めた矢先に、
 メリーが影縫かげぬいに使用している魔法で生成した漆黒のナイフを背後に投擲すると、
 一人の兵士が外壁に伸びた影で縫い止められて動きを硬直させていた。

「さっそく見つかったか・・・」
「物音も声も抑えていませんでしたしね。
 私が誰かわかりますか?声は抑えなさい」
「は、はい。我が国の宝、至高の結晶、
 アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ様でいらっしゃいます」
「模擬戦の時にアインスさんが同じような紹介をしていたけど、
 これって国で定めたアルシェの紹介方法なの?」
「いえ、決めていませんが臣民が勝手に言い始めて、
 放置しているだけでございます」
「へぇ」

 流石は国をあげて大事にされている姫君だこと。
 俺なら恥ずかしくてすぐに止めさせるけど、
 アルシェの顔を見れば気恥ずかしさはある様子だけど、
 国民に愛されているのを感じられて嬉しいといった気配もする。

 さて、この兵士はアルシェの存在に気づいた唯一の兵士だ。
 おそらく門番をしている一人なのだろうから、
 あまりここの縛り続けるのも余計な事案を招いてしまう。

「全員影に入れ。やっぱり前と同じくアルシェの部屋に向かうぞ」
「それが一番騒ぎが広がらない方法ですね。
 私たちは城に向かいます。
 離れて少しすれば動けるようになりますから、騒がず職務に戻りなさい」
「は、はい!命令通り職務に戻ります!」

 アウェー感を感じていたのか俺の命令からすぐに影の中に入っていくゼノウPT。
 続けてマリエルとメリーも落とし込んで、
 最後に兵士へと命令を下し終えたアルシェを影に誘ってから、
 精霊と共に久し振りの城下町を屋根伝いに駆け抜ける。

『確かここでしたね』
「あぁ・・・、ん?鍵が開いてるな」
『前とおなじだから、王様があけてたのかな~?』
「まぁ、開いているんならさっさと入っちまおう。
 部屋でアルシェ達を出して、謁見の間の前でゼノウ達を出すか」
『初めての大きな家ですわー!』
「家じゃ無くて城だからな」

 これまた半年ぶりに侵入するアルシェの部屋は、
 毎日掃除がされているのか塵一つ落ちていない。
 扉を隔てた廊下の気配も以前は感知出来なかったが、
 今は4人待機している事がわかる。

「ゼノウさん達はどうされますか?」
「ここはアルシェの部屋だし、
 出すにしても廊下がいいかなって思ってさ」
「そう・・ですね。
 では、広い通路に出てから引き上げましょうか」

 アルシェの後にメリーとマリエルも引き上げ、
 最後に影倉庫シャドーインベントリで大人しく待機しているゼノウ達に向けて、
 もう少し待っているようにと伝えた。
 その頃には少し落ち着きを取り戻しており、
 覚悟を決めた様子であった。

 まぁ実際何かをするわけではないだろうし、
 やったとしても名乗りをする程度では無いだろうか?

「では、私が先頭で場内を移動しましょう」
「お願いねメリー。
 マリエルは私の左後ろに居てちょうだい」
「わかりました」

 そして俺は自然と右後ろに移動する。
 メリーが扉を開けると察知したとおりに兵士が3人とメイドが1人通路で待機しており、
 話には聞いていたけどまさか本当に出てくるとはって顔をした兵士が2人。
 残る兵士1人とメイドは以前にも俺たちと関わりがあったのか、
 表情は特に変わらず俺たちと行動を共にし始める。

「このまま謁見の間で大丈夫ですか?」
「はい、王様も王妃様もお待ちになっております」
「今回は報告会はする予定もないし、
 挨拶だけしたらアインスさんが先に伝えているだろうけど、
 改めてこの後の動きを伝えてハルカナムに戻ろう」

 細い通路を進んだ先で広い廊下に突き当たった。
 メリーがこちらに視線を送ってきているから、
 ここでゼノウ達を出せってことなんだろうと判断し、
 影倉庫シャドーインベントリから一人、また一人と合計4人がメンバーに加わると流石に先ほどは驚かなかった兵士もメイドも目を見開いてビックリしている。

「ここが場内か・・・、すごいな・・・」
「しばらく過ごすことになるんだから迷子にならないようにな。
 これから謁見の間だから、名乗りくらいはあると思っておいてくれ」
「了解だ、リーダー殿」
「後ろの3人も大丈夫か?」
「緊張で吐きそうだ・・・」
「ライナー、王様の前で吐いたら国は違っても打ち首間違いなしよ」
「私たちの為にも吐かないでね」

 さっき覗いたときは落ち着きを取り戻していたというのに、
 外に引っ張り出して視界全体に映る城内の光景を前にまた緊張が高まってきたらしい。
 でも、待つ時間も惜しいので込み上げるソレは必死に飲み込んで頂いこう。

「なんなら、文字魔法ワードマジックで抑えるか?」
「デメリットは?」
「肉体に無理を強いるタイプならデメリットは発生するけど、
 緊張を鎮めるだけならデメリットはないよ」
「ならお願いするわ」

 さらさらさらっと[弛緩しかん]と中空に書き上げて、
 若干ぐったりしているライナーの口へと押さえ込むように含ませるとゴクリと喉を鳴らして飲み込むのを確認できた。

「どうだ?落ち着いたか?」
「・・・大丈夫だ、問題ない」
「なんだか口調が・・・」
「問題だわ・・・」
「ちょっとおかしいけど吐かないならいいだろ。
 クランリーダーの命令。ライナーの事はこれ以上気にするな。
 さぁ、いくぞ」

 言葉だけで無く視線でもメリーとアルシェに指示を出すと、
 改めて歩の進みが再開される。
 通路をいくつか曲がり進んだ先には、
 何度か見た記憶のある大きな扉が見えてきた。

「アクア、ちゃんと歩くんだぞ。
 こっちはお前の歩幅を考えて少しゆっくりめに歩くけど、
 お前は急ぎ足で進めよ」
『わかった~!がんばるよ~!』
『クーとニルはいかが致しましょうか?』
「クーはメリーの側に居れば良い。
 ニルはアクアの隣に浮遊していろ。
 頭を下げたら上げて良いって言われるまであげるなよ」
『かしこまりました』
『かしこまりですわー!』
「アニマ様はどうされますか?」

 そういえば、俺の浮遊精霊ふゆうせいれいの鎧に融け込んでいるアニマは大精霊の卵だ。
 意識は当時のままだし、
 人の王にへりくだるのもおかしな話か?

「とりあえず、面倒だし顔を出すのは謁見のあとでいいかな?」
「そうですね、話すのもお父様よりお母様の方が適正でしょうし。
 では、入りますよ」


 * * * * *
「アルカンシェ姫殿下ひめでんか、以下護衛隊!入室致します!」

 大扉の脇を挟むように配置された兵士が大きな声で入室の合図を口にして、
 数秒扉を開けずにこのまま待機する様子を見たゼノウ達が視線で確認をしてくるけど、
 もうここからは雑談をするのはNGだから答えない。

 そうこうするうちに部屋の内側から扉が開けられていき、
 ゴゴゴゴと重たい音を響かせながら向こうの様子が見えてくる。
 あ~、生きて帰ってきた・・・。
 内心の安堵感がヤバイのは、
 あの危険なフォレストトーレ王都からアルシェを連れ帰って、
 心配しながら待っていた王様達に再び元気な姿を見せる事が出来た事への達成感だろうか。

 通路を歩く先頭はメリーが務めていたけれど、
 謁見の間での先頭はアルシェが切ることになっている。
 そのアルシェの動きに合わせてこちらも三角形の形を意識して位置を調整する。

「アルカンシェ、ただいま戻りました」

 頭(こうべ)を垂れるアルシェの優雅な動きに習い、
 後ろにいる俺たち及びゼノウPTの面々も同じように頭を垂らしていく。
 唯一発生したアルシェの生還報告が静かな謁見の間に浸透していく空気を感じる。

「・・・よくぞ無事に帰還したな、アルシェ。ご苦労だった。
 宗八そうはちもアルシェを守ってくれたようだな」
「私の役目ですから確かにその通りですが、
 守りは新たに加入したカエル妖精の少女が大きく働いてくれました」
「うむ、報告は聞いている。
 マリエルだったな、面を上げよ」
「はい!」

 アルシェは自分たちの前にしゃがんでいる為、
 マリエルは王様の命令について俺に視線で確認をしてくる。
 頷いて顔を上げろと指示をすると、
 元気な返事と共に顔を上げた。

「幼いアルシェと遊んでいた少女がこうも頼もしい娘に成長するとはな。
 いずれゆっくりと話をする場を設けたいと思う」
「はい、ありがとうございます!」

 俺だったら変な言葉遣いになって「ありがたき幸せ」とか答える場面だったけど、
 マリエルはその辺気にせずに普通通りの返事をした。
 この胆力よ、すげぇなおい。

「アルシェ、宗八そうはち、マリエル、メリー、精霊達も表を上げよ。
 後ろに控えている者たちも報告で聞いた者達であると思うが・・・、
 名を聞かせてもらえるかな?」
「・・・ゼノウ、ライナー、トワイン、フランザの順で」
「・・・」コクン

 王様の命令に従い顔を上げる際に、
 近くでひざまづいているゼノウ達にギリギリ聞こえる声で、
 余計な混乱をしないように指示をボソッと伝えると、
 4人とも聞こえたようで頷いて答えてくれた。

「クラン[七精の門エレメンツゲート]所属!ゼノウPTリーダー!
 ゼノウ=エリウスと申します!」
「同じく、ゼノウPT!ライナー=ライボルトと申します!」
「同じく、トワイン=エレオノーラでございます!」
「同じく、フランザ=メリオールでございます!」
「此度は我が娘、アルカンシェへの手助け誠に感謝する。
 諸君らの国の大事ではあるが、
 我らアスペラルダも心添えはする故、続けて協力を要請したい」
「「「「はっ!」」」」

 とりあえずの名乗りまでは予定通り行われたけど、
 この後どうするんだろ?
 俺もあまりこう格式張った場所には慣れていないから困惑してしまう。

「ではアルシェ達はこの場に残り、
 ゼノウ達は客室へと案内せよ」
「かしこまりました。
 ゼノウ様、以下PT3名、退室します!」
「失礼致します」

 王様の命令により、
 謁見の間室内の扉側で待機していたメイドさんが、
 外にいる兵士にも聞こえるように大きめの声を発する。
 これでゼノウ達は一旦退場となり、
 少しの間宛がわれた客室でのんびり出来るだろう。

 視線で先に行くとゼノウが送ってきたので、
 とりあえず頷いておく。
 次に会うのは晩飯の時かな?

 メイドさんに引き連れられて退室するゼノウ達の気配が遠のいていくのと同時に、
 間の扉が再び音を立てて閉まっていく。
 閉じきったのを確認してから王様へOKかとアイコンタクトを送ってみると、
 口角を上げて微笑み返してきた。
 それってOKの意味ですかね?

「もう肩の力を抜いて大丈夫よ。
 改めておかえりなさい、アルシェ」
「ただいま帰りました。お母様、お父様」
「うむ。宗八そうはちも重ねて礼を言おう」
「いえ、無事にまた帰ってこられて良かったです。
 詳しい報告書はハルカナムに居る、
 ギルドマスターのパーシバルさんとホーリィさんがまとめた物が、
 アインスさん経由で届くと思いますので」
「了解した。
 それで今回の帰省はどのくらい残るのだ?」
「2ヶ月は猶予があるので、
 こちらの滞在がほとんどになりますが、
 1週間ほどはネシンフラ島へ行きます」
「マリエルの故郷だな。
 あいわかった!部屋は準備させているからあとは自由にするといい」

 話が早い王様との対話で滞在中の自由を許してもらえた。
 それとは別にこちらも下準備があるので、
 もう少し話を探る。

「時に王様。
 遠征軍はもう出発しておりますか?」
「いや、報告を受けてからでないと対策もなく行かせる事になるからな・・・。
 いつでも動けるようにはしているが?」
「実は今回フォレストトーレからアスペラルダまで戻れたのは勇者の魔法なのですが、
 それとは別に私も遠距離を移動する魔法をクーデルカと共に創りましたので、
 行軍せずとも城から一歩手前のフーリエタマナまで移動することが可能なのです」

 昨日の時点で王都の状況はアインスさん経由で伝わっていただろうから、
 先に出発していたらどうかと懸念をしていたけど、
 勇者タクシーを利用して本当に良かった。

「なるほど・・それはまたすごい魔法だな・・・。
 それを使って疲労無く送ってもらえるということだな?」
「はい。ただ、旅の続きの為にも他の町へその魔法を設置する必要がありますので、
 今日はアルシェも連れて一旦別行動を取ります」
「神聖教国へ行って参ります」
「二人だけでかね?」
「フォレストトーレ王都では聖女クレシーダと勇者プルメリオも参加しました。
 なので、聖女を教国に送るのに便乗して教皇様への挨拶と、
 魔法の設置も済ませてきます」
「それは許可をもらっているのかね?」
「聖女様からは許可を頂いておりますよ。
 お兄さんも懐かれておりますしね・・・」
「あら?宗八そうはち・・・浮気かしら?」
「浮気ではないですね・・・、
 アルシェとは兄妹で通してますので」

 アルシェからは甘えてきたり、
 焼き餅を焼かれることも多いけれど、
 その横には大体アクアがいるからか、
 そこまでマジ恋な印象を受け止めていない。

 そもそも元の世界でも年下からは甘えられる場面も多かったし、
 恋愛模様よりは兄妹や先輩後輩的な感情が先行してしまう。

「とりあえずどういう物かを今からお見せしますので、
 確認されましたら俺たちは一旦別行動に移ります。
 マリエルの事はお任せします」
「あいわかった」
「あのぉ~、隊長・・・」

 お二方からのセクハラ紛いの団欒だんらんを無理矢理修正して、
 王様からの了承も得たことで、
 さっそくこの場に危険の無いアクアポッツォ行きのゲートを設置しようと腕を動かそうとしたところでマリエルからふにゃふにゃとした声が上がった。

「私一人だとそのぉ・・・流石に不安なんですけど・・・」
「メリーも残すし、なんなら修練場で時間を潰してても良いぞ。
 付いてきたいならそれでもいい」
「ただ、あちらは私も客となるので、
 アスペラルダとは比でないくらいに圧迫感はあるわよ?」
「うぅ・・、大人しく待ってます・・・」
「王様から許可は頂いているんだから、
 城内を散歩でもして時間を潰せ。
 何かするときはそこら辺を歩いている兵士やメイドさんに聞けばなんとかなる」

 マリエルがいつでも落ち着いて慌てない泰然自若とした態度の裏には、
 俺やアルシェが大きく起因していることはわかっていた。
 島から出ることの無かったカエル妖精のマリエルからすると、
 外の世界の危険度から始まり何もかもの基準という物が無い為、
 その基準を信頼するアルシェ、そしてリーダーとして認めた俺を基準とするようになった。

 つまり、俺たちが同じ場所にいて、
 なおかつ落ち着いていればマリエルもそれに合わせて落ち着くことが出来るのだが、
 神聖教国ではアウェーという事と、
 教皇と初顔合わせという二点に於いて、
 俺もアルシェも必然的に緊張状態になってしまうことが予想できた。

「クー」『はい』
「『《シンクロ!》』」


 * * * * *
『《ロック》完了です!』
「んじゃ、メリオにクレアと合流するかね」
『ますたー、疲れた~』
「はいはい、おいで」

 王様並びに将軍達にゲートの有用性を宣伝して、
 兵士の移動にも使うことが決定した為、
 晩飯に間に合うようにと急いで常用してもいいゲートの設置位置を決めてもらい、
 ハルカナムに戻った頃にはギリギリ陽が暮れかけていた。

「急がないと謁見も出来なくなってしまいますね」
「それはそれで面倒になるから急ぐか・・・」

 アクアを背中に張り付かせながら、
 猫と兎の姿になったクーの首根っことニルの両耳を摘まみ上げながら、
 走って待たせている二組のお偉いさんの元へと急いで向かう。

「すまん、待たせたか?」
「お疲れ様です水無月さん、アルシェ」
「待たせちゃってごめんなさいね、クレア。
 すぐに移動しようかと思いますけど、
 勇者様方の準備はよろしいのでしょうか?」
〔えぇ、こちらはいつでも大丈夫です。
 皆さんが大丈夫なら町の外へ移動しましょうか〕

 ハルカナムへと戻る前にクレアに渡していた揺蕩う唄ウィルフラタで、
 もし外出して買い物でもしているのであればギルドに戻るように伝えておいた。
 その甲斐もありクレア達もメリオ達もギルドで待っていてくれた為、
 すぐに神聖教国へ向けて動き出すことが出来た。

 わざわざ町の外へ移動してから魔法を使用するのには訳が有り、
 メリオの移動魔法の欠点が勇者魔法としてはあまりにも有名な1点と、
 陽の落ち具合による1点の合計2点による為だ。

 1.建物内では使えない。
 光の速さで移動できるように膜に包まれるからといって、
 別に障害物をすり抜けるわけではないので、
 周囲に何も無い事と向かう方向を確認する必要があるらしい。
 でないと死ぬことはなくとも、
 障害物に光の速さでぶつかるのでダメージは桁違いだし、
 自身の耐久力よりも堅い物とぶつかった場合は悲惨な事態になるのが容易に想像できた。

 2.発動時の発光
 正確には黄昏時たそがれどきになる前でないと、
 発動時の強烈な発光が大変目立つ為、
 時間を注意しないと各町に余計な警戒や兵士の展開などをさせてしまうらしい。

「いや、1に関しては理解できるけどさ、
 2については町長とかに了解を取れば、
 兵士やギルド経由で勇者の魔法の影響だって事で収拾できるだろ」
「もっと勇者という称号を利用されてもいいんですよ?
 我々の都合で呼び出した手前、各国もそれなりの協力を致しますから」
〔そうなんですけど・・・、
 俺の勘違いで起こしてしまった例の勇者行為の影響で、
 どうしても勇者だと名乗りづらくって・・・〕
「出会った頃はいろんな方に迷惑をかけていましたからね、
 私も勇者について行こうと決めた際に、
 はっきりと犯罪行為だと伝えてようやく己の罪に気づいたのです」

 なるほど、勇者行為が止まったのは仲間となったマクライン氏の助言があったからか。
 それでもアスペラルダ国内では好き勝手に各家からいろんな物を拝借していた為、
 その被害については町長が立て替えをしていたと聞いている。

「という訳で、
 被害総額の確認が取れたら請求するから払ってくれ」
〔・・・マジですか?〕
「反省してないなら払わなくても良いぞ。
 その場合はおそらく申し訳なさからお前の仲間が支払うだろうしな」
「あはは・・・」
「もしもがあればだけれどね」
「メリオは払う。大丈夫だ」

 仲間と視線を合わせながら苦笑を零すメリオ。
 お仲間も支払いが発生することについて仕方が無いと受け入れている様子だ。
 ただ、前回の戦闘風景を見るに、
 勇者の仲間として彼らが確定なのかと疑問も覚えている。
 武器の強さはともかく、
 戦闘技術が断トツで飛び抜けていたりはしなかったのだ。
 これは俺には関係ないかもしれないけど、
 テコ入れなどをすべきなのでは無いかと思っていたりする。

「アーティファクトの情報も集めといた方が良いか・・・」
〔何か言いました?〕
「いや、なんでもない。
 またで悪いけど教国までよろしくな」

 魔女が持っていたあの鎌が本当にアーティファクトなのであれば、
 奴を倒すことで手に入れることに繋がるだろうけれど、
 人間サイドには有名で強力な武器の名前などは、
 それこそエクスカリバーしか耳にしない。

 敵の手にあそこまで強力な武器が渡っている事を考えると、
 まだ見つかっていない、もしくは見つかっているけど名乗り上げられていなかったり、
 使い方がわからなかったりするのか?

『(ますたー、アテーファクト?ってさ~、カティのところにあるんだよね~?)』
『(でも、流石のアネゴでも、
 魔法ギルドに保管されたアーティファクトを好きに出来ませんよ?)』
『お~、アーティファクト~!』
〔?〕

 念話で話していたくせにいきなり普通に喋るアクアの言葉に、
 メリオが疑問を浮かべた顔を向けてきた。
 返答に無言で放っておけという意味を込めてこちらも首を振って伝える。

『(アネゴ?カティ?とは誰ですの-?)』
『(クーと同じ闇精で魔法ギルドで幹部を張っている上位精霊です。
 名前がカティナと言います。
 ニルは会ったことありませんでしたっけ?)』
『(さいごにあったのは・・・さくせんまえだね~。
 ついかぶんの揺蕩う唄ウィルフラタをもってきてくれたとき~)』
『(・・・あぁー!挨拶はしましたわー!
 なるほど、あの方がカティナさんですのねー!)』
『(それでも技術協力をしてくれているとはいえ、
 アーティファクトは研究対象のはず、です!
 そう簡単に持ち出すことは出来ないと思いますけど?)』

 そうなんだよなぁ・・・。
 最後に精霊会議に加わったアニマが言うとおり、
 魔法ギルドで研究する為に保管されているアーティファクトは、
 カティナやカティナが所属する研究チームの一存で持ち出すことはできないことは容易に想像が出来る。

 以前マリーブパリアに持ち出してきたのは、
 俺の世界でも見たことのある医療機器だった事もあり、
 アーティファクトと呼ばれる品物のうちの数割は俺の知っている物である可能性がある。
 だから見せてもらうことが出来れば使い方も教えることが出来るし、
 その空いた研究時間を武器のアーティファクトに回してもらえれば、
 早い段階で勇者達に渡すことも出来るんじゃ無いかと考えている。

「(手を回すにしても、
 腰を据えて話をしないといけないし、
 仮に場が整ったとしても魔法ギルドの本拠地は秘密にされているんだから、
 よくわからない色んな制限があるんだろうさ)」

 そんな話を人の耳に届かない念話で繰り広げながらも歩を進めていれば、
 自然と町の外へと足は踏み出され、
 予定の出発地点へと到着する。

〔ここいらで出発は大丈夫かと〕
「じゃあ、さっそく移動を始めよう。
 こっちも時間が推しているんでな」
「何かあるんですか?」
「久し振りの帰郷なので、
 いろいろと楽が出来ると考えているんでしょうね」
「?」

 あー、教皇がどんな人かはわからないけど、
 挨拶だけですんなり終われればいいんだけどなぁー・・・。
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