特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-

†第10章† -05話-[氷龍接触]

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「た~だいま」
『疲れたよぉ~』
「おかえりなさい、お兄さん。
 さっそくですけど報告良いですか?」

 ゲートを潜って中央に戻って来ると、
 さっそくアルシェが出迎えの言葉と共に近づいてきた。

「報告?」
「ゼノウ達の方面での話なのですけど、
 彼らのPTからお兄さんに連絡はありませんでしたか?」
『あったですね。
 オベリスク対処中だったからすぐにNOを押していましたです』
「あぁ・・・!そういえばコールが掛かってきてたわ。
 じゃあ、あの後アルシェに連絡が入って対応したってことか」
「そういうことですね」

 ノイが言うように確かアクアが海に潜った辺りで連絡が来たようなきがするけど、
 表示されたウィンドウがオベリスクの影響で乱れていたから、
 ちゃんと読もうという思考にもならなかった。
 あれがゼノウ達からの連絡だったのか・・・。

「ゼノウ達の方は氷では無く陸地が伸びている場所でオベリスクを発見したようですが、
 氷塊が多く視界にはなかった為にどうすればいいかと相談の連絡を受けました」
「ふぅ~ん、それにアルシェはどんな指示を出したんだ?」
「方向の正確な確認に無精の力を借りた[ブレイズレイド]、
 そして氷塊の破壊に同じく[ブレイズレイド]と[バーストアロー]を魔力厚めで、と」
「いいんじゃないか、それで。
 ここは人が住んでいない所為か不純物も少なくて氷塊もくそ固いからな。
 オベリスクを破壊できれば全て融かす必要もないしな。
 その後の連絡は?」
「ありませんから解決したと判断しています」

 あいつらはなんだかんだで俺たちを認めている事は知っているし、
 仲間としても俺側も信頼をしている。
 そんな彼らが成功云々の報告をしないという状況は、
 連絡を受けたのが俺であったとしてもアルシェと同じ判断を下すことだろう。
 それだけ信頼関係を互いに築いている事を再認識して自分でも驚いた。

「お兄さん?」
「いや、戦力として期待したり努力しているのも知っていたけどさ。
 俺自身はあまりゼノウ達に関わっていないと思っていたから、
 アルシェと同じくらいの信頼を寄せていたことにびっくりした」
「お兄さんは自分を鑑みることが少なさそうですからね」
「ご主人様はご自分を大切にしておりませんからね」
「隊長は私たちPTメンバーしか見ませんからねぇ」

 えぇ~・・・、三者三様でそんな認識だったのぉ・・。
 ゼノウ達と関わったのは風の国に入ってすぐくらいからだし、
 なんだかんだでマリーブパリア・ハルカナム・フーリエタマナに加えて、
 廃都フォレストトーレでも協力してもらったからそれなりに付き合いはあったようなもんか・・・。
 アルシェ達の評価にぐぬぬ・・・と唸っていると、
 ポシェントが疑問点を口にしながら近寄ってきた。

宗八そうはち達の上下関係はどうなっているんだ?
 アルカンシェはシヴァ様のご息女なのだよな?』
「人間社会の中ではアルシェが上になるのは確かです。
 この点はポシェントがアルシェを呼び捨てにするのに対して、
 シヴァ様を敬っているのと同じです。
 ただ、個人的な扱いであれば妹のような対応をしています」
『あー、それならわかる。
 俺は人間との関わりが薄いからアルカンシェが姫と言われても、
 精霊としてなら下の扱いでいいが、
 人間としてであれば正しい扱い方はわからない』
「私もお兄さんと同じで時には宗八そうはちと呼び捨てますもの。
 精霊社会からすれば私もいち人間ですから、今の扱いで問題ありません」
『人間と関わるとややこしくて困るな。
 シヴァ様や各四神は面倒なことをよくやるものだ・・・』

 俺とアルシェの説明に納得が出来たらしいポシェント。
 さて、雑談もそこそこに状況がはっきりした以上は、
 こちらもあまりのんびりもしていられなくなってしまった。
 環境の厳しさから生き物が少なかったのが幸いして、
 島の外周に設置されたオベリスクは効果が高まっていなかった。
 しかし、中心に設置されたオベリスクについてはドラゴン達がいる。
 絶対ヤバい。

 地上に刺さっている事だけが唯一の救いで、
 今なら魔力量のゴリ押しで俺たちでも比較的簡単にブチ折ることが出来るからだ。
 空気を変える為にパンッ!と手を叩き耳を傾けさせる。

「外周のオベリスクは全てゼノウPTとセーバーPTに任せて、
 俺たちは警戒は緩めないけれど中心に向かって急ぐ必要が出てきた」
「中心部分に近づくならまずアイス・ドラゴンと接触しますよ?
 意識を保っていた場合襲われるんじゃ?
 あっちは私たちが助けに来たとか理解できないんじゃないですか、隊長?」
「マリエルの懸念はわかるが、
 こっちにはシヴァ様が選ばれたポシェントと細波のランスがある。
 戦力と鎮静は整えてもらっている状況だからそこは気にするだけ無駄だ。
 いいですね、ポシェント」
『大丈夫だ。シヴァ様の慧眼に曇りが無かったと俺自身で証明してみせよう』

 槍を握り込み意気込むポシェントの瞳にやる気が漲る。
 どうして自分が選ばれたのかとか言ってたけど、
 こういう奴は実際に役立つのだと状況に飛び込ませれば納得するし、
 その後は自信を持ってさらに俺たちの力になってくれるだろう。

『お父さま、ドラゴンが動かなかった場合はどうしますか?』
「息さえしていればいいし、
 していない個体については今の俺たちには手札がないからどうしようもない。
 どっちにしろ時間切れだろ」
「そうですね・・・残念ですけれど、
 死んでしまっていた場合は死んでから10分以内で無いといけませんからね・・・」

 アルシェの説明の通りに蘇生魔法には10分以内という制限がかかる。
 そもそも俺たちは誰一人として蘇生魔法を所持していない為、
 使用するのであれば聖女クレアの協力を求めることとなり、
 立場上すぐに動くことは出来ないと思われる。
 つまり、死んでいればもう詰んでいるのだ。

「まず先に俺とマリエルはオベリスクの破壊を優先する」
「了解です!」
「次にメリーとポシェントはアイス・ドラゴンの息があるかの確認。
 なければ切り捨てて別個体の確認に動いて、
 もしも暴れ始めたらポシェントの槍の効果で静めてくれ」
「かしこましました」
『任せてくれ』
「アルシェはドラゴンが排出した魔石を探してくれ。
 魔法付与マジックエンチャントを施して生きているドラゴンの口に突っ込んでおけば、
 生物上自然と魔力を吸収し始めると思う」
「元の予定通り魔法剣のように反復させるのですね。わかりました」

 人間と協力者への指示出しが終われば次にうちの5姉妹への指示出しだ。
 だが、内容としては簡単なので指示とも言えないかもしれないな。

「お前らはサブマスターと一緒に行動して各自協力して事に当たれ。
 ノイとアニマは俺と一緒だ」
『あい!アクアはアルシェと~!』
『クーはメリーさんですね』
『ニルはマリエルですわー!』
『ボクはこのままですね』

 俺の体に引っ付いていた精霊たちは、
 それぞれが離れて行き各サブマスターの元へと飛んでいく。
 アクアはアニマル形態のままアルシェの頭の上に蜷局とぐろを巻き、
 クーはメリーの肩口に飛び乗り、
 ニルがニュートラル形態に戻ってマリエルの側に寄り添ったのを確認して、
 ノイを胸元のポケットから引っ張り出してこちらも肩に乗せる。

「アクアはアルシェの護衛も兼ねているけど、
 魔法付与マジックエンチャントの手伝いもしっかりしてくれよ」
『任せて~!
 でも、ドラゴンの口に手を入れるのって危なくな~い?』
『魔法を込められた魔石を頂ければ、
 クーとメリーさんで口に入れますから大丈夫です。
 閻手えんじゅの細かい扱いも慣れて来ましたから』
「そうですね、姫様やアクアーリィ様にお任せするには危険かと思いますので、
 ここはクーデルカ様と協力して私が対応致しましょう」

 よし、役割分担はこれでいいんだけど・・・。
 残る問題はブルー・ドラゴンの状態とアイス・ドラゴンのデカさだ。
 巣の中央はさらに風の逆巻きも酷く、
 吹雪も合わさってアイス・ドラゴンから向こうが全然見えない。
 道案内も欲しいからアイス・ドラゴンの中で喋れる個体とかが居ればめっちゃ助かるんだけどなぁ・・・。

『お父さま、いざとなれば文字魔法ワードマジックでなんとか致しましょう!』

 あぁ~、それがあったわ。
 食料に翻訳と書いて翻訳蒟蒻ほんやくこんにゃくのようにするか、
 擬人化とかでも対応可能かもしれないな。
 効果が単純ではないから時間制限は短いだろうけれど、
 少し話せればいいからこれは検討の価値はある。

「クーのアイデアは採用としよう、
 元気な個体が居てくれればいいんだけどな・・・。
 ポシェントは付いてこられますか?」
『アクアが魔法を掛けるよ~!』
『感謝する』
「じゃあ状況を開始するぞ!」


 * * * * *
「行け!マリエル!」
「了解!」
『ソニックの出力を上げますわー!』

 陸地に上がって4本目のオベリスク効果範囲内に入る感覚を覚え、
 それぞれの感覚と契約精霊の感性から方向を導きだし、
 速攻で破壊を続けていた。
 もうアイス・ドラゴンとの接触も目前というところで、
 俺たちはまた発見したオベリスクの対処にマリエルとニルを派遣する。

 その指示に従ってアイシクルライドの速度を上げて、
 オベリスクを覆っている氷塊に向けて接近するマリエルは動きながら構えを取る。

 その構えは氷竜一槌ひょうりゅういっついと同じに見える構えだが、
 後ろに引いている手は握られておらず、
 開かれた状態で待機していた。
 引き絞られた腕は氷塊への接触に合わせて、
 詠唱と共に前に捻りながら掌底しょうていが叩き込まれる。

「《紅蓮衝ぐれんしょう!!》」

 手から発せられたのは炎の砲撃。
 氷竜一槌ひょうりゅういっついに比べれば2mもない程度しか射程は短いものの、
 従来の爆発する火属性魔法と違って、
 打ち込んだ対象とその周囲への火炎放射攻撃と考えればわかりやすいかもしれない。
 手の捻りに合わせて放出された炎も螺旋をえがきながら氷塊を融かし、
 その芯部に納まっていたオベリスクを露出させる。

 紅蓮衝ぐれんしょうは魔法の込もっていない右手で打ち込まれていた。
 続けてオベリスクを破壊する為の左手に装備されたガントレットは、
 水色の魔力を帯びたまま主の命令を待っていた。

「《氷の波撃フローディングインパクト》」

 魔力の飛沫を手甲から一瞬吹き出しながら打ち込まれる左拳。
 その攻撃によってオベリスクは中心部からポッキリと折れ、
 魔力消失現象の収束が確認できた。

「よしっ!初めてオベリスク破壊の許可が貰えたけど、
 ちゃんと私も皆んなの役に立てた!」
『マリエルはいつも前に出て戦っていたではありませんのー!
 役立たないなんて皆んな思っていませんわー!』
「うんう、そうじゃなくて・・・。
 オベリスクを対象に動いたのが初めてだったからさ、
 打撃専門の拳士としては妖精だからって理由で、
 破壊担当から除外されてた今まではずっとモヤモヤしてたんだよね。
 それが今日初めて問題なく破壊できた事で・・なんだろ。
 自信になったって感じかな?」
『ソウハチに認められたかっただけではありませんのー?』

 ニルのその発現はある意味マリエルの核心を突いていたのか、
 マリエルは慌ててニルの口に手をあてがって塞いでしまう。

「あまり迂闊なことは言わないでよニルちゃん!
 隊長のことは・・まぁ出会った当初に比べれば尊敬はしているし、
 リーダーとか師匠として認めているけど、
 私に隊長への恋慕とかはないんだよ!
 そういった発言は姫様の前では絶対禁止だからね!」
『ままみまみままー!』
「マリエル!置いて行かれてしまいますよ!」
「あ、はい!すぐ戻ります!」

 確か自分の向かったオベリスクとは別方向にオベリスクの反応があったから、
 隊長がそちらへと向かったのだと思うけれど・・・。
 そういえばさっき衝突音みたいな振動をニルちゃんを通じて感じたけど、
 隊長もすでに破壊したあとってことだよね・・・。
 絶対あの人なら本当に置いて行っちゃうから急いで戻らないとっ!

 マリエルの考えていたとおり、
 宗八そうはち宗八そうはちでもう1本反応のあったオベリスクの破壊へ動き、
 ノイティミルと協力して一撃のもとに粉砕して次へと進み始めていた。
 アルシェの言葉に危機感を覚えたマリエルは飛ばし気味でアルシェの元へと戻って行った。


 * * * * *
「不測の事態に備えて準備を怠ることは出来ない。
 クーは全員に闇精外装ブラックコーティングを、ニルはマリエルの靴を造ったら風精の遁走曲フーガを頼む」
『《闇精外装ブラックコーティング!》』
『《ウィンドアクセサリー》シフト:ブーツ!
 《ウィンドブラスト》セット:ゲルミナスブーツ!
 最後に-!《遁走曲フーガ♪》』

 アイス・ドラゴンとの接触を前に、
 俺たちは一時足を止めて補助魔法や戦闘準備を整えていた。
 それぞれクーの闇精外装ブラックコーティングで影から生えてきた黒い手が体に巻き付いていき、
 いつものパワードスーツへと最後の締め上げで変わり、
 マリエルの方もニルの新魔法によって造られた風のゲルミナスブーツを靴のまま履き、
 最後にブーツ自体に風魔法を込める。

 魔力が溜まれば武器加階ウェポンエヴォルトも出来て、
 膝下までしかない丈もサイハイブーツ程度まで足をカバーしてくれるようになる。

 そして、風精の遁走曲フーガ
 他にもあと3種類似た魔法を創作したが、
 元々単体が対象のソニックを多数に施すにはニルの負担も大きく、
 タクトの効果で歌をベースにした創作はまだ安定しない為、
 先にソニックに似た効果をPTに施す演奏魔法を創作するに至った。
 今回の[風精の遁走曲フーガ]はPTのAGIを少し上昇させる効果だ。

 ニルがタクトを振る度に色んな音が発生し、
 それらが混ざり合い演奏となって俺たちにバフを掛けてくれる。
 効果時間はニルが演奏を続ける限り継続される。

「準備は出来たな。
 それぞれ指示通り且つ迅速な動きで頼むぞ」
「はい!」『あい!』
「『かしこまりました!』」
「了解!」『かしこまりーですわー!』
『マスターを守り切ってみせるです!』
『アルカンシェの護衛と鎮静は任せてくれ』

「行くぞ!」

 * * * * *
 アイス・ドラゴンが無数に存在する中心部にほど近いこのエリアは、
 龍の間にもオベリスクが数本見えており、
 動きを阻害し押さえ込むことが目的なのだと明確に認識できた。

「マリエル!左は任せるぞ!」
「了解です隊長!ご武運を!」

 俺は魔力縮地まりょくしゅくちを、マリエルはアイシクルライドで、
 それぞれが左右に分かれてオベリスクの破壊へと向かう。
 後方ではアルシェもアイシクルライド、
 メリーはクーの魔法である風影輪ウンブラ・ロタで速力を高めて道が開くのを待っている状況。

「ぜええええええい!!!」

 魔力縮地まりょくしゅくちで中空を駆けて龍の間を駆け抜けた先に刺さるオベリスクへ一撃を加える。
 手にする武器はノイの精製した魔法のガントレット。
 いつもはメイン攻撃である魔力砲はオベリスクとの相性が最悪の為、単純な硬化だけを重ね掛けさせて、
 攻撃ではなく勢い付けの為の魔力運用でオベリスクを中心から打ち抜く。

『《地の波撃グランドインパクト!》』

 ガントレットの肘部分から魔力の噴出による拳速と威力をブーストした俺の拳は、
 オベリスクを真っ二つにへし折りその効果は沈黙した。

「おりゃあああ!!」

 折れたオベリスクの残骸がそのまま倒れると龍の上に落ちてしまいそうだったので、
 それを蹴り飛ばしてその辺に転がしておくこととし、
 俺たちは次なるオベリスクへと自身をはじき飛ばす。

「ノイ!」
『《硬化スチール!》』
「ぜあっ!!」

 先のオベリスクとの直接接触で失った硬化を再びノイに施してもらい
 、
 2本目も破壊に成功するが、
 さらにアルシェ達から離れた氷塊の中にオベリスクの存在を感じ取る。
 しかし、その覆っている氷塊が島の中央から伸びてきている氷塊である事が、
 自然に埋もれてしまったわけではない現実を突きつけてくる。

「ありゃ無理だな。
 一旦外殻になっている厚い氷塊を砕かないと・・・ノイ」
『はいはい、わかってるです! 《守護者の腕マイストガーディアム!!》』

 既存の武器を一致属性で精製する[アイシクルウェポン]や[グランドウェポン]。
 それらは入手済みだったりと条件をクリアする必要があるのに対し、
 土精であるノイが詠唱した魔法は、
 創作クリエイトの特徴を持つ土精ならではのオリジナル武器精製をするものだ。

 ノイの詠唱に合わせて俺の手に装備されていたガントレットは姿を分解され、
 他にも土や石が魔力により生み出されていく。
 それらが渦を巻きながら指先から精製されていき、
 手首、腕と先ほどとは全く違う巨大な腕が精製されていく。

 巨腕精製魔法きょわんせいせいまほう[守護者の腕マイストガーディアム]。
 先まで使用していた武器精製魔法とは違う、
 俺たち専用の守護者しゅごしゃの役割に納まったノイが、
 攻撃こそ最大の防御をコンセプトに創った魔法で、
 今まさに俺の腕の動きに合わせて動く巨大な守護者しゅごしゃの腕が、
 腕のすぐ側の中空に浮かんでいる。

「ちゃんと調整出来てるな」
『当たり前です。
 遅れている分を取り戻すにはこのくらい出来ないとですから』


 構えにもしっかりと反応し、
 指の感覚にも細かに応えられているのはノイがシンクロを利用して都度調整をしているからだ。
 これも類に漏れず精霊魔法である事もあって、
 制御は大変難しいのに突貫で創って使えるまでにしてくれたノイには感謝しかない。

「いくぞ!」
『どうぞ!』
「《滅・紅蓮衝ぐれんしょう!!》」

 構えから放つまでの動きまで全くマリエルの物と同じであるのがだ、
 込められた魔力の一点のみが段違いの掌底しょうていが厚い氷塊へと打ち込まれる。
 単純な魔力制御力の差であるはずの同技は、
 氷塊を融かすだけに留まらず、
 最後の爆発によって凝り固まった厚い氷を内側からの衝撃を加えて、
 オベリスク一部露出どころか中心部をほぼ露出する形にまで持ち込んだ。

『時短の為とはいえ、守護者の腕マイストガーディアムに滅・紅蓮衝ぐれんしょうですか・・・』
「普通のガントレット程度じゃ自分にもダメージが出るくらいの威力なんだ。
 そこは仕方ないし、
 魔力消費を増やすだけで余計な苦労を掛けるよりはずいぶんマシだよ。
 にしても、魔法剣以外で似た攻撃をって考えた挙げ句に素手で行う技を創ったけど、
 なんだかんだでマリエルとノイに相性が良くて良かった」
『マスターも本来は[雷神衝らいじんしょう]しか創る予定はなかったのに、
 精霊使いの質が増して火が扱えるとか思ってもみなかったです』

 基本の4属性のうち3属性の加護を亜神とはいえ授かった為か、
 試しに火属性も意識してやってみたら何か知らんけど制御出来たので、
 [紅蓮衝ぐれんしょう]も創ることが出来たけど、
 やはり加護が無いから扱いはまだまだな部分がある。

 だから俺の紅蓮衝ぐれんしょうは制御力で発動させているけど、
 加護関係は全く無いマリエルの紅蓮衝ぐれんしょうは、
 アルシェが汎用火魔法の魔法陣から解析して組み上げた魔法を使用している状態となる。

「魔神族がいる可能性を考えるともう少し範囲を広げて潰したい」
『了解です、次に行きましょう』
「(マリエルにも伝えておいてくれ)」
『(かしこまりですわー!)』


 * * * * *
「姫様、ご主人様とマリエル様のオベリスク対処にて道が出来ましたが、
 動いても大丈夫でしょうか?」
「そうですね。
 私たちの方はもう一歩破壊が終われば動き始めますから、
 二人はもうお役目を果たして来て頂戴」
「かしこまりました、行って参ります」
『ポシェント様、アルシェ様をよろしくお願い致します』
『承知した』
『アクアも居るから大丈夫だよぉ~!』

 オベリスクの破壊作業を進めるに中って、
 魔力減少の被害は必然的に仲間の誰かが被ることとなり、
 それは当然前衛を務めるご主人様とマリエル様の役目が担ってくださいました。

 私が言う道というのも双方の直近オベリスクが破壊された結果であり、
 被害を抑える為にアルシェ様はもう少し動きやすくなるまで待つことを選ばれたようです。

『ではお姉さま、行ってきます』
『いってらっしゃ~い!』
『《風影輪ウンブラ・ロタ!》』

 クーとアクアの姉妹が出発の挨拶を交わし終えたのを確認してから、
 メリーは後ろ髪を引かれる事無く足を踏み出す。
 本来護衛である宗八そうはちとマリエルは事情もありこの場を離れてはいるが、
 それは護衛に残るのがアクアであるという事。
 そして、自身が仕えているアルカンシェの強さを知っているからこそだ。

 比べる相手が自国の将軍やこれまで出会った冒険者や七精の門エレメンツゲートのメンバーであるのだけれど、
 魔法の才能は以前から格が違っていてさらにセリア先生の教育に加え、
 宗八そうはちを通して精霊との交友が始まったことから、
 元々あった才能に拍車を掛けて開花させたようにメリーは感じていた。

 踏み出した一歩目以降からとても常人の出せるスピードではない速度で疾走するメリーは、
 シンクロするクーデルカの感覚を頼りに前衛二人が開けた細道を通り抜けて行く。
 目指すはアイス・ドラゴンが数体集まって横たわるエリア。

 700mの距離を一気に駆け抜けてたどり着いたアイス・ドラゴンは、
 今まで見たことのある生物と明らかに違うことがありありと分かった。
 まず大きさが全長が2m~10mほどもあり、
 体高も自分のお腹辺りから身長程度もある。
 とにかく間近で見ると大きいのだ。
 ただ、物語に出てくる姿を想像していたメリーにとって、
 背中に体を覆うほどの巨大な翼もない今のアイス・ドラゴンの姿は・・・。

「ノイティミル様のようですね・・・」
『確かに見た目だけはノイ姉様に似ていますね。
 生物としては段違いの強さなので見た目で油断は出来ませんが・・・』
「そうですね。さっそく務めを果たしましょう」

 メリーも内心はこのような物語に出る生物に近寄りたくは無い。
 魔神族に比べれば弱っている今の龍は恐るるに足りないのかもしれないが、
 それでも未知との遭遇に警戒心はひと欠片も薄れはしなかった。

『小さい個体から調べるようにお父さまは言われていました。
 大きければそれだけ生存率は高くなるから、と』
「かしこまりました、では小さい龍から診断を始めます」

 クーデルカ様からご主人様の伝言を受け取ると、
 私は早速その場で最も小さい個体へと近寄っていきました。
 人間やアニマル形態となった精霊姉妹の健康診断方法も模索していたおかげと、
 見た目がノイティミル様に似ていることから、
 表皮は固く脈の反応は見ることが出来ないことはわかりきっておりました。

 まずは口元。
 噛み付かれる可能性も考慮して防御面にはクーデルカ様の闇精外装ブラックコーティング
 そして手をすぐさま引っ込める心積もりもして細心の注意をもって息の確認を開始致しました。

「・・・・風が強くて微弱なのか息をしていないのか判断できませんね」
『じゃあ、次はお腹ですね。
 クーの閻手えんじゅでひっくり返します』
「お願いします」
『《多重閻手マルチプルダーク!》』

 すでにオベリスク効果範囲が解除されたこの場で、
 クーデルカ様は存分に魔法を発揮され、
 影からは普段使われる閻手えんじゅが重なり合った大きな手が出現しました。
 その大きな黒い手は小さな龍をそっと優しく持ち上げ始め、
 親指で片腕を挟むように徐々にその真っ白いお腹が視界に入り始めました。

「弱っている龍をひっくり返すのはやり過ぎかもしれません。
 クーデルカ様、ひとまずそのままお待ち頂けますか」
『わかりました。あまり長くは出せませんので急いでください』

 闇魔法の特性上、魔力を通していても物理的な固定は非常に難しい。
 闇精霊でもそれは変わらず、
 戦闘の場であれば当たる瞬間だけ固定すればいい話であるのに対し、
 今回のような運用にはあまり向いていない。

 その事を理解しているメリーは素早い動きで、
 持ち上がった状態の小さな龍のお腹に耳を当てて心音と温もりを確かめる。
 本来暖かなはずの柔らかな腹部へ触れた手に、
 生物の温もりは返って来ずひんやりとした冷たさと分厚い皮膚の弾力が返ってきた。
 続けて耳にも集中するが・・・。

「・・・・反応はありません」
『・・っ!そうですか・・・では、次の個体の確認を致しましょう』
「かしこまりました」

 小さい生き物は弱い。
 大きくなれば強大な生き物のはずの龍ですら、
 小さいうちに死ぬような事態が現実に訪れるとは、
 メリーは想像だにしていなかった。

 フォレストトーレでは人が死んでいた。
 あれはオベリスクと瘴気が合わさった最悪の状況だったのもあるが、
 人が死ぬ事案など数えていけばいくらでもあるくらいに人は弱い。
 しかし、龍ほどの生き物がオベリスクのみによって実際に死んでいる姿をみると自分の中に冷水が注がれたように血液が冷めていくのがわかった・・・。

 怖いですね・・・。
 ご主人様が初めの頃から想定していた事が現実になり始めて・・・、
 ネシンフラ島では妖精が体調を崩し浮遊精霊ふゆうせいれいも他の生物も姿を消していた。
 このまま魔神族の動きを許せば本当に人が、妖精が、精霊が・・・。

『大丈夫ですよ、メリーさん』
「・・えっ?」
『シンクロ中ですから、不安な気持ちはすべて理解したうえで・・、
 クー達精霊の心配をしてくれているうえで言わせて頂きますが』

 そうだった・・・。
 シンクロは魔法の扱いを強化するだけでなく、
 戦闘に集中出来るように以心伝心するという特性を忘れていた・・・。

『きっと最後はお父さまがどうにかしてくれます』
「しかし、ご主人様は魔神族とは戦わないと公言しておりますし、
 私自身もあのような埒外な存在と戦うのは賛同出来ません」
『クーの考えですけれど・・・。
 勇者であるメリオ様は人間に喚ばれた人間の救世主で、
 お父さまは・・・世界に喚ばれた救世主ではないかと思っています』
「せ・・かい?」

 メリオ様が人間の救世主という部分は納得出来ますが、
 世界とはどういう意味でしょうか?
 ご主人様が異世界人ということはご本人も認めていることから間違いありません。
 でも、あの召喚の塔にある魔法陣はあの時魔力が満たされて居なかったと伺っ・・て・・・。

『そうです。
 誰も喚んでいないのにお父さまは召喚されました。
 もしかしたら四神が喚んだのかもしれないと思って、
 王妃様やアルカトラズ様に聞いてみたことがあります。
 お父さまの称号にも精霊の救世主がありましたから。
 でも・・・、精霊だけで召喚などは出来ないと言われました』
「確か精霊だけでは新しい魔法は創ることが出来ず、
 人間の知識やアイデアが必要なのでしたね」
『というわけで精霊の中でも別格である大精霊二名からの回答でこの考えは除外。
 では、各地の状況を考えれば誰かと考えました。
 勇者に比べてもお父さまの考え方や予想の的中率を思えば、
 魔王うんぬんよりも破滅をなんとかするために喚ばれたように感じたんです』

 それに関しても一理どころか核心に近いのではないかと私も思います。
 ご主人様が来なければ、気づかなければ、
 アスペラルダやフォレストトーレはもっと悲惨な状況になっていたはずだし、
 破壊したオベリスクは今なお健在だったらと想像するとどれほどの被害が発生していたのかわかりません。

『お父さまは面倒くさがりですし、
 戦闘も積極的にしたいとも思っていません。
 なにより責任や特別な立場に立ちたくないと心底考えておられる方ですから、
 クーも直接は言いませんが、
 きっと・・・最終的には選択されるような宿命が待っているように思えます』

 ご主人様をご自分の持論で語るクーデルカ様は、
 言葉を一度切ると確信を持っているかのような強い意志を込めて次の言葉を口にされました。

『誰にも喚ばれていないのではなく・・・、
 世界が・・・、
 世界の意思が・・・、
 破滅に飲まれて死ぬ運命から逃れる為に喚んだのだと信じています』

 世界の意思?
 そのようなものが存在するかはわかりませんが、
 ご主人様の突然の登場が都合良く好転する機会となるとは考えづらい。
 そんな安易な考えでは、
 異世界に介入したご主人様の功績と釣り合いが全く取れない。
 少し整理の出来た頭で考えをまとめた結果出てきたのは、
 自分が幼い頃から見守り続け、今では美しく成長された姫様だ・・・。

「そうであれば、アルシェ様はどうされると思いますか?」
『アルシェ様はお父さまと運命共同体を望んでおられますから、
 やはり最後まで隣に立ちたいと行動されると思います』

 クーデルカ様は私の質問に悩むこと無く即答されました。
 実のところ私自身も内心では答えを知っていたのに、
 この問いは聞かずにいられなかったのは自分の弱さです・・・。

「では、私も早いうちに覚悟を決めて、
 恐怖を克服する必要がありますね・・・」
『メリーさんは一人ではありません。
 お父さまやアルシェ様、マリエル様も居ますし、
 クーやお姉さま達も居ます。
 クー達だってそれぞれ不安は持っているのですから一人で抱え込まずに愚痴を言われてください』
「・・・・ありがとうございます、クーデルカ様」

 小さくもご主人様の背中とアクアーリィ様の背中を追うクーデルカ様が、
 優しさと強さを兼ね備えた大きな瞳で笑いかけてくださいました。
 このお言葉に感謝しつつも、
 弱い私の心はすぐに応えられないことに悔しさを覚えながらも、
 次に倒れているアイス・ドラゴンの元へと駆け始めました。
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【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
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記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
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【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

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手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

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12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

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世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

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とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

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