特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-

†第10章† -12話-[空の戦場]

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「《鮫、鮫、鮫。我が嘆きは津波となりて涙を隠す。
 我らの大敵は今まさに眼前ぞ!全てを洗い!世界を浄化せよ!》」

「《ライニグングウェイブ!!》」

 どんな魔法かはすでに把握済みの魔法とだけあり、
 アルシェは槍を[アイシクルアンカー]の要領で壁の高い位置に撃ち込み、
 アクアの手伝いも借りて氷のジャンプ台を素早く精製すると、
 アイシクルライドで滑って行き中空に飛び出しそのまま槍を掴んで器用に一回転すると槍上に着地する。

『アルシェは姫様の割に身軽に動きますですね』
「そりゃ固定砲台だけでなく、
 槍で近接戦もやる為に鍛えてるからな」

 対する俺達も二度目という事で、
 波の高さも把握済みなので足場をサンドボックスゲームのように、
 聖壁の欠片モノリスを用いて組み上げた上で氷垢ひょうくのステルシャトーを静止していた。

「《硬化スチールはどの段階だ?」
『とっくに強化限界です。
 次に再強化したら指が曲がらなくなるですよ』
「いつの間に・・・そんな長く戦ってたかな?」
『敵の攻撃に対処に追われていたから短く感じていたのでは?』

 確かに広範囲攻撃のオンパレードだし、
 おそらくはまだまだ手の内を晒してもいないんだろうさ。
 鎧魚エノハといい潜口魚といい、
 ソードフィッシュの群れにあの珊瑚礁・・・。

「ステルシャトーは召喚士の類いかな?」
『どういうことです?』
「護衛の生物、回復をさせる珊瑚礁、津波を起こす鮫に敵を捕縛する海月くらげ
 全体攻撃に適しているという事も考えると、
 契約がある生き物に力を借りているのか、
 はたまたゲームのように何かしらのシステムで覚えたか・・・」
『では、あの生き物って殺しても意味ないです?』
「多分な。鎧魚エノハ達はわからないけど、
 波紋から出てくる方は半透明だし意味ないと思う。
 止まってくれるなら攻撃するけど、
 発動したあとに潰される攻撃を使うアホはいない」

 どっちかと言えば詠唱を妨害した方が確実だしな。
 とりあえず、現在最高攻撃力と防御力を満たしたノイと俺の土精霊纏エレメンタライズ[不動]は、
 ずっと横たわったまま動かないブルー・ドラゴンの戦線離脱をさせることを最優先として動く事に決める。

「(波が治まり次第全力の魔力縮地まりょくしゅくち突喊とっかんして龍をどかす)」
『(隙が出来たら珊瑚はこっちで壊しま~すってさ~)』

 アクアに念話で次の行動を伝えると流石はアルシェだ。
 敵の様子を見ながら俺達がステルシャトーの手足をもぎ進めている事を理解している。
 その言葉をアクアから伝えられると、自然と口角が上がる。

「行くぞノイ!武器の次はブルー・ドラゴン珊瑚ポーションだっ!」
『アニマも足と腕は護って下さいですっ!』
『護りますけれどその分身体は手薄になります、です!気をつけて行きなさい、です!』

 波が治まっていくのと同時に、
 足場となっている聖壁の欠片モノリスを消す。

「《海豚、海豚、海豚・・・》」

 地面に向けて落下を始めた俺は視線をあげて次の詠唱を始めるステルシャトーの姿と、
 ブルー・ドラゴンの位置を確認しながら地面に降り立つとスタートダッシュの構えを取る。

「《アイシクルアンカー》」
『《氷属性武器精製アイシクルウェポンシフト:ランサー》』

 反対の壁方面からはアルシェとアクアの詠唱も聞こえた来た。
 足に魔力を集める。
 敵までの距離はアルシェ達が動かないところから見るに300mほどか?
 全力だと二歩ほどの距離だな・・・。
 ノイの《硬化スチールを重ね掛けしないと身体はおろか、
 眼を瞑っていても瞼ごと眼が潰れかねないGを一身に受けてしまうから、
 早々こんな無茶はしたくないんだけどな。

 魔力を炸裂させると、俺達はいつにも増して視線では追えない速度で射出される。
 出発地点の地面が大きくひび割れている事からもその威力の高さが窺えた。

「・・っ!?《・・・哀れなる漂流者よ、いま救いの使者が舞い降りる》」

 地面の破壊による地響きが良く反響する大広間を直撃し、
 一瞬詠唱が途切れたが、
 この程度では中断判定にはならないらしい。
 残念だが、現在は瞼を閉じているので状況を正確に把握できない。
 まぁ、何かあってもアルシェ達がなんとかしてくれるだろうさ。

 二歩目。

『《ジオ!》』

 俺は見えていないが現在はマントと化し、
 視界は思念体のノイが目標との距離を把握してブルー・ドラゴンの身体を軽くする魔法を唱えた。
 と、同時に移動時は邪魔になる為発動していなかった[守護者の腕マイストガーディアム]を制御力のみで発動させる。

「させないのだわっ!!」
「『《守護者の波動ガーディアムブラスト!》』」
「『《ピラミッドアンカー!》』」

 全力の魔力縮地まりょくしゅくちによる急接近速度には、
 流石の魔神族でも一瞬遅れての対処であったが、
 それでも攻撃を妨害する為に氷の盾を間に合わせるのだから怖い怖い・・・。

 が!しかしだ!
 その一瞬出来た隙をアルシェ達も見逃さずに魔法を射出した!
 俺と同時に詠唱を合わせたことで、
 より近くに居てわざと大声で魔法名を響かせた俺達にその詠唱は隠れ、
 ステルシャトーはその発射に気がつけなかったようだ。


 * * * * *
 時は遡り、空へと鎧魚エノハと共に戦場を移したマリエルとニルは、
 いま正に自分たちの決戦を始めようとしていた。

「体勢を整える前に戦闘準備をしておきましょう、ニルちゃん!」
『かしこまりーですわー!
 《天羽あまはね!》解放ですわー!!』

 現在履いている風の靴は、
 ニルの魔法によって精製されたゲルミナスブーツであり、
 それをさらに武器加階ウェポンエヴォルトで成長させて膝上まであるブーツへと変化させていた。

 そして、大広間へと空から急速落下で登場した時と同じように、
 ニルの詠唱によって履いている風の靴の側面から魔力の羽が左右合わせて計四枚が大きく羽ばたく。

「バランスとか諸々はお願いね」
『ニル的には実戦投入は早いと思いますわー・・・』
「お父さんの指示なんだから頑張ってね♪」
『他の魔法はほとんど使えませんからねー!
 そこのところは覚えておいてくださいましー!』

 カエル妖精のマリエルは水氷属性に適正があり、
 現在発動している魔法は全て風雷属性の為、
 シンクロしているとはいえまだまだマリエルが操るには経験が圧倒的に不足していた。
 その為風属性靴精製ウインドアクセサリー、溜まった魔力の排出、武器加階ウェポンエヴォルト、その派生である天羽あまはね
 これらは全て覚えたてで有る事、維持と制御が大変難しい事もあり、
 いくら風精霊といえども他に割く余裕はなかった。

 天羽あまはねのおかげで安定して中空で停滞出来るようになった2人に視線は、
 会話をしつつも鎧魚エノハを捕らえており、
 ついに身を翻した奴が動き始めた。
 その動きはこちらを無視して一直線に魔神族の元へと戻ろうとしているように見える。

「戻らせないよっ!怒られんの私なんだからっ!!」
『ニルも瓶詰めされるんですからねーですわー!』

 翠と水色の魔力が混じり合った不思議な色の軌跡を残しながら、
 綺麗な姿勢制御を保ったまま空を舞う。

「はあああああ!!」

 鎧魚エノハへと接近した2人は流れのままに大振りの蹴りを放つ。
 が、鎧魚エノハは魚とは思えない冷静さでマリエル達の素早い飛行を認識しており、
 今度は魚らしい急激な軌道修正を行って楽々と攻撃を回避して別√から真下の大広間へとなおも向かおうとしている。

『生きている魚ってこんなに早いんですのねー』
「まさか敵として認識されてないっ!?」
『優先順位が目前の敵よりも魔神族の元に戻る事が最優先になっているのではないですのー?』

 なるほど。視線は・・・どこを見ているかはわからないけど、
 こっちの動きは認識してきっちり避けている。
 でも目的はあくまで合流にあるってことね。
 でも、私たちの役割は合流させずに姫様と隊長達の戦闘を邪魔させないこと。

「相反しているから徹底的に邪魔して、
 私たちを倒さないと行けないんだって学習させましょう!
 《風竜一閃ふうりゅういっせんっ!》」
『すぐに回り込みますわー!』

 空中という足場のない空間であるにも関わらず、
 鋭い蹴りを魚に向けて放つマリエルの足先からは、
 宗八そうはちと同様の一閃が鎧魚エノハへ向かって鎌鼬かまいたちを伴って飛んでいく。

 しかし、少しでも足留めになればと放った一閃だったが、
 鎧魚エノハは特に気にした様子もなく、
 一旦その場で静止して正面から受ける動きを見せた。
 キィィィィイン!カカカカッ!キキンキンッ!

『効いているようには見えませんわねー』
「本体の一閃以外の鎌鼬かまいたちなんてめちゃくちゃ軽い音じゃないっ!
 こなくそー!」

 一閃の効果のなさに文句を言いつつも、
 間髪入れずに急接近からの蹴りを放つ。

「おらーーーーー!」
『《嵐脚ストームインパクト!》』

 マリエルが内心また避けられるだろうな~と思いながらも打ち放った蹴りは、
 ドッ!と魚の横顔を穿ち帰巣行動を阻害する。
 当たった事に意外感を持ちながらも、
 このチャンスで目の前の魚に自分たちを無視できないと悟らせなければならない。

「《コブラ・・・》」

 蛇が飛びかかる前の我が身を引き絞るように、
 マリエル達はその場から風の制御を使い急速落下を始め、
 敵を真下から蹴り上げられるところまで落ちた辺りで足下に魔力の波紋が広がる足場に着地し膝を屈める。

『《エアキックターン!》ですわー!』

 空を飛び回る事が出来ても急カーブやVターンなどが出来ない[天羽あまはね]にとって、
 攻撃の要と言っても過言では無い[エアキックターン]。
 天歩エリアルジャンプの派生である天羽あまはねである故に、
 当然ながら元の技となる[エアキックターン]も使える。

 身体を回転させながら、
 屈めていた足を伸ばして再び鎧魚エノハへと向かって自身を射出するマリエルの後方には、
 足から伸びる魔力の軌跡も螺旋を描きながら空に刻まれる。

「はあああああ!!」
『追撃ですわー!お覚悟ー!』

 真下からほぼ真っ直ぐに伸びる一筋の魔力を残しながら放たれた嵐脚ストームインパクトは、
 死角となっているだけでなく鎧が薄い鎧魚の腹部分にHITし上空へと吹き飛ばす。

 若干縮まっていた地上までの距離が再びリセットされ、
 距離を離さないようにと吹き飛んでいった鎧魚エノハの後を追い、
 対象を中心にぐるりと周囲を回るような動きで高さを調整するマリエル。

 鎧魚エノハとの距離は20mほど。
 この距離ならどんな動きをしても追いついて攻撃をする事が出来る。

「正直、焦っちゃった・・・。
 あんな動きするとは思わなかったし」
『ニル達の仕事次第では怒られる事も出来なくなっちゃうかもですわー!
 絶対にしくじる事は出来ませんのー!』

 そりゃこっちは戦う相手を決めてここまで来てるけど、
 相手がこっちの都合に合わせる必要はないもんね。
 流石に無視されてスルーされかけたのは焦った・・・。

 ニルちゃんの言う通りさっき下で受けた威圧感はヤバいと感じたし、
 実際あのとき走馬燈が流れ掛けた。
 でも、隊長が存在感を出してくれた・・・というか、
 多分魔神族の威圧に対抗して戦意を上げただけなんだろうなぁ・・・。
 とにかく、隊長のおかげで持ち直せたけど、
 初見の魔神族相手に隊長と姫様は大丈夫かな・・・。
 まぁ私が心配するのも烏滸おこがましいのはわかってるけどさ、
 隊長と姫様の本気を私見た事ないし・・・。

『マリエル、考えるだけ無駄ですわー!
 あっちにはノイ姉さまとアクア姉さまが居るんですわよー!
 ニル達はニル達の仕事をすればひとまず怒られませんわー!』
「・・ふふっ」

 ぐるぐるしていた私の思考をシンクロで共有しているニルちゃんが聞いていたらしく、
 彼女らしい一言で私は笑ってしまった。
 どうやらニルちゃんにとっては、
 この大事な局面でもお父さんに怒られないことが最優先事項のようだ。
 おかげで自分の中にあった得体の知れない不安は吹き飛び、
 目の前の鎧魚に集中出来るようになった!
 そう!私たちの合い言葉は!

『「仕事をすれば怒られない!」ですわー!』

 鎧魚もこちらの意気の変化に気が付いたのか、
 体勢を整えたあとは鎧の隙間に隠れていた背びれと尾びれがブルブルと高速で震え、
 不快な音が空一杯に響き渡る。

 あら、やだ。
 鳥肌が立っちゃったわ。

『うぅ~、気持ちの悪い音ですわー・・・。
 せっかくなら心地良い音楽でも鳴らして下さいなー!』
「じゃあ、お手本をお願いしてもよろしくて?」
『仕方が無いですわねー!《タクト!》
 どのような音楽がご希望ですのー?』
「機動力は勝ってるけど機敏性は負けてる、
 これは勝負を付けなくてもいいから・・・攻撃力をお願いしますわ」
『マリエル、賢い判断ですわー!《火精の狂詩曲ラプソディ!》』

 なんだか無性にニルちゃんに私の事をどう思っているのか聞きたくなったけど、
 なんとかこの場は我慢して眼前の魚に集中する。
 でも、終わったら絶対聞いてやる。絶対だ!

 いや、わかってるんだけどねっ!シンクロしてるんだから以心伝心してるんだもんっ!
 きっとニルちゃんはあっけらかんと言うだろうさ!
 マリエルはニルの仲間ですわー!とねっ!

 ニルちゃんがタクトを手にして振り回すとは違う、
 肘まで使った不思議な振り方で音楽を奏で始めると、
 ほんの少しだけ筋肉が引き締まる感覚が身体全体に行き渡る。
 あちらも振動による威嚇が終わったらしく、
 先ほどよりも若干前屈みに見え身体も力が漲っている様子から攻撃を始めるのだろう。

 その様子から目を離さずにこちらも空中で両足を開き、
 両手もその中心に添えるように身を屈めてスタートの姿勢を取る。
 足元には魔力の波紋も広がる。

「落ちないでよ、ニルちゃん」
『マリエル以外見ていませんし、落とされないのでご安心くださいなー!』

 さぁ、仕切り直しだ!
 ぶっ飛ばしてやる!


 * * * * *
 困ったな・・・。さっきから睨み合いが続いちゃってる・・・。
 この感じってどっちが先に動くかってよりも、
 何か・・・何か・・・無いのぉ~~~~!?
 その願いが届いたのか・・・瞬間。

 バッガッドドドドドガァアアアアッッッ!!!
 とか何とかよくわかんないけど、
 下の方から聞いた事も無い破砕音が響き渡り、
 それを互いに開始の合図と受け取って戦端が切って落とされた。

「やあああああああ!」

 空だというのに水の中に居るかのような急加速で接近する鎧魚エノハと、
 魔力の足場を蹴り飛ばして空を舞うマリエルが正面衝突を起こし、
 ギイィィィィィン!とおよそ生鮮食品とぶつかったとは思えない衝突音を皮切りに、
 一旦離れては互いが半円を描く動作で何度も何度もぶつかり合う。

 その度にどんどんと空高く上がっていき、
 衝突する都度接触時の対処が互いに若干の変化を起こす。

「この魚、頭良いっ!!」
『ニルも負けていませんわー!』
「魚と一緒で良いんかぁーーーい!」

 ツッコミではあるが攻撃のタイミングと相まって、
 大声と共に蹴り放った一撃は魚の良いところに入ったのか相手は大きくノックバックする。

『死角に入りますわよ-!』
「その案、賛成ですわー!」
『真似するんじゃありませんわー!
 早くローヨーヨーに入って下さいな-!』
「はいはい~」

 追撃を掛けるのに開いた敵との距離を縮める為、
 ニルの案を採用したマリエルは急かされ怒られながら、
 重力を利用した下降をしつつ加速を掛け、
 その加速を利用して鎧魚の死角である腹へ向けて上昇する。

 が、鎧魚エノハも甘くは無かった。
 身体の中心に反重力でも持っているかのように、
 頭が加速中にも関わらずずっっっとこちらをロックオンして向きっぱなしになっている。

「あれ、どうなってんの?」
『犬が西向きゃ尾は東ってやつですのー!』
「なんか違うってことはわかるぅ~」
『ともかく、これではどこに回り込んでも一緒ですわ-!』

 危機感を感じて途中で進路を変更したり、
 ぐるりと回って上空へ逃げたりもしてみたのに、
 鎧魚はずっっっとこちらへと頭を向け続けている。
 っていうか、あの魚の平衡感覚は魚としてどうなのっ!?
 腹が上を向いても関係なしにこちらを狙い澄ましている!

「もう!行っていいよね!」
『面倒ですしニルも賛成ですわー!』
「ヤバそうだし全力で行った方が良さそう!」
『かしこまりですわー!』

 加速は十分!ニルちゃんの魔力の高まりも感じる!

「行きます!」

 自分の掛け声にニルちゃんが反応をして足から生える四羽が大きく羽ばたき、
 出来うる限りの制動で急カーブを行って一気に魚へと向けてさらに加速を掛ける。

 だが、しかし。
 こちらの意気を感じ取れるっぽい魚の方も、
 覚悟が決まった事を察したらしく、
 自分自身で螺旋を描きながら射撃魔法のように撃ち放って私たちに向かってくる。

「はああああああああ!」
『《嵐脚ストームインパクト》』

 最大威力だと分かる攻撃に対してこちらも持てる力を注ぐのは、
 当然と言えると思う。
 だってこれを捌くなんて無理だし防御も出来ないなら、
 打ち合って攻撃を受けない方法しかなくない?

 そんな考えで正面から受けて立った今回の衝突だったけど、
 どうやら私たちはもう少しちゃんと考えて行動をしなきゃいけなかったらしい・・・。

 スゥゥゥシャイイイィィィィィィィイイインッ!!
 残響が耳に残るなか、
 私は一瞬何が起こったのかわからなかった・・・。
 だって、突然ゆっくりとした時の流れに落とされて、
 今まさに鎧魚の必殺の一撃が私たちに直撃する瞬間を長い時間を掛けて見ているかのような感覚。

 多分、攻撃が鎧の高速回転で捌かれた・・・。
 多分、防御しないと即死する・・・。
 多分、ニルちゃんも・・・ニルちゃんっ!!

 この場で一番の護るべき対象を思い出し私は我に返った。
 ニルちゃんはゆっくりな時間の中でも、
 タクトを構えてこの状況に何か手を打とうとしているみたいだけど、
 この子に何かあっては隊長に合わせる顔が無いっ!
 ニルちゃんには悪いけれど、
 雑な扱いでその小さな身体を掴み、
 胸に抱き寄せてせめてもの抵抗として腕に装備しているガントレットで防御の姿勢を図る。

 そんな私の焦りとは裏腹に、
 胸の抱きしめたニルちゃんから聞こえた声は落ち着いたものであった。

『少し痛むかも知れませんけど、我慢してくださいなー!』

 一体この一瞬の間に何が出来るのだろうか?
 シンクロ率の悪い私たちでは全てを以心伝心する事は出来ない為、
 ニルちゃんが何に希望を持っているのかちゃんと理解出来ないのが今はとっても悔しい・・・。

『《エレクトリックマリオネット!》』
「う”え”っ!?」

 ニルちゃんの発動した魔法によって四肢が体が無茶な動きを勝手に行い始めた途端、
 骨が鳴り、筋肉が捻れ、悲鳴が口から漏れる。
 蹴り放った足はもうこの際どうにもならなかったけれど、
 逆の足は折り曲げた構えのままだったその足も、
 ニルちゃんの魔法で勝手に動きガントレットの防御の前に割り込んで来る。

 キイイイイィィィィィィィィィィイイイイイイン!!!!
 と、態勢は無茶苦茶ながらも足裏での防御が間に合った為、
 鎧魚エノハの回転する摩擦とこちらの受け止めた足裏から甲高い音が響き始める。
 単純な防御ではなく膝のクッションも上手く使って受け止める要領でダメージを抑えたニルちゃんに感謝はするが、それはそれ!これはこれだ!

「ニルちゃん!身体の権利返して!」
『いまは天羽あまはねの制御をほとんど手放していますわー!
 交代する瞬間は一瞬ぐらつきますから一歩ミスをすると次は直撃ですわよ-!』
「了解!」

 いつの間にか小さくなっていた天羽あまはねが大きく成長するのと同時に、
 自分の身体の感覚が思い通りになるのを感じる。
 ニルちゃんに注意を受けた通りに現状からズレが出ないように調整した。

 現在は鎧魚エノハの回転突進を受け止めて、
 防御をしながらずっとノックバックが続いているような状況だ。
 空をぐるぐると好き勝手に動き回る魚の先端に必死に防御してくっついているのが私たちだ。
 この状況を脱するにも下手な事をすれば今度こそニルちゃんの言う通りに直撃からの死亡コースだし・・・。

「何か良い手は?」
『バレルロールで逃げようにも自分たちのスピードに乗っていないと出来ませんわー。
 嵐脚ストームインパクトも現状効いているとはとても言えませんのー。
 唄があってこれではニル達には倒せないと思いますわー!』
「そこは諦めないでほしいかなぁー・・・。
 何かもっと・・・雷魔法は?」
天羽あまはねを手放せば撃てますけれど、
 その瞬間普通は落ちますわー!
 さっきは攻撃を受け止めたお陰で落ちなかっただけですわー!』

 魚だし鎧着てるから効果的だと思ったのに、
 雷魔法は撃てないのかぁ・・・。
 じゃあ・・・じゃあ・・・・他に出来そうなのって・・・。

「あっ!」

 その時マリエルの頭の中にはひとつの情景が思い起こされた。
 龍の巣へ突入する前にポシェントさんが話していた内容。

「確か・・・そう!」

 マリエルは自分の首に掛けられた精霊石のネックレスを取り出し、
 そのポシェントが言っていた言葉を口にする。

「魔法生物の特性を抑える関係でオベリスクから護られる代わりに、
 魔法生物としての戦闘力も多少抑えられてしまう!なら!」
『どうするのですのー?』
「外してみるに・・・っ!決まってるじゃないっ!!」

 ニルの問いかけにニヤリと口角を上げて答えると、
 マリエルはネックレスを力任せに引っ張り上げて紐を引きちぎりインベントリに投げ込んだ。

『・・・何か変わりましたのー?』
「・・・わかんない。
 でも、オベリスクは全部隊長と私と姫様が壊したんだから、
 もうこれを外しても問題は無いはず!試してみようよ!」
『ダメ元で試すのはありありですわー!
 マリエルの力がどのくらい解放されるのか試しますわよー!!』

 精霊使い見習いのペアは足裏から感じる熱量からあまり時間が残されていない事を察し、
 すぐに次の行動の為に足に力を溜め始めるのであった。
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