特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-

†第10章† -14話-[高濃度魔力砲]

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「させないのだわっ!!」
「『《守護者の波動ガーディアムブラスト!》』」
「『《ピラミッドアンカー!》』」

 氷垢ひょうくのステルシャトーは、
 俺達が何を成す為にブルー・ドラゴンへ攻撃するのかわからないだろうに、
 とにかく何もさせたくないのか俺達の拳を一度は止めた強固な氷の盾で防ごうとしてきた。

 しかし、少し前の俺達とは決定的に違う点があることにステルシャトーは気が付いて居らず、
 また、後方から穿たれたアルシェ達の射撃にも面白いくらいに気が付いていなかった。

 氷の盾は音を立てて簡単に砕け。
 その砕けた音も後に寸分遅れず発生したズドンッ!という単純にして重たい音にかき消され、
 その背後からもガシャンッ!という思ったよりも簡単に砕けた珊瑚の音も聞こえた。

「何!?何何!?」

 デカくて邪魔なブルー・ドラゴンが生きているかどうかは後回しにし、
 とにかく最優先で戦場からの排除を選択した結果。
 龍の口からは掌底しょうていをぶち当てた瞬間に『ブッ・・』と、
 声を漏らしたから生きているのだろうと予想外の方法ではあるが生存確認も出来た。

 が、そのまま衝撃だけで砕け散った壁の瓦礫を追うように、
 ブルー・ドラゴン自身も宙を舞い巣の外へと轟音をもたらしながら消えていく。

「掃除完了!」
『二度と邪魔するんじゃねぇですよっ!』

 シンクロ中の宗八そうはちに感化されて言葉遣いとテンションが引き攣られたノイは、
 ガッツポーズをしながら消えたブルー・ドラゴンに追い打ちの言葉を吐き付ける。

「お兄さん!」
「わぁかってる・・よっ!」

 気配で察していた接近に構えを取り、
 横降りの攻撃に左腕のガードを合わせて防ぐが、
 防御力は拮抗し足も少しながら後ろに押されてしまう。

「召喚魔法が十八番じゃあ無かったのかっ!?あぁん!?」
「こんな近くまで寄られる予定はなかったのだわっ!
 油断して遊んでいたとは言え、まさかこの世界にここまでやれる魔法使いがいたとは驚きなのだわっ!」

 今までは遠距離からの攻撃が主体であったステルシャトーが、
 豪奢なメイスで殴りかかってきた単純な攻撃なのに、
 めちゃくちゃ重い!

『この女、魔法タイプじゃないのです!?』
「シュティーナも同じ感じだったけど、
 基本スペックが違うみたいだなっ!よっと!」
「《氷結覇弾ひょうけつはだん!》」
「っ!?こいつ等・・・」

 拮抗していた状況から踏ん張る力を抜いて自分からノックバックして距離を調整し、
 離れた隙にアルシェの魔法が降り注ぐ。
 それに対し防御姿勢を取るそぶりは見せずに悪態を付く様子を眺める。

「(手応えなし)」
「(だろうな、防御もしなかった)」
『(次は魔力上げて試すよ~)』
『(その前にこちらが仕掛けさせてもらうです!)』

 幾本も氷の塊が地面に突き刺さり冷気の霧で包まれたステルシャトーは、
 メイスの横振りですべてを薙ぎ払って勇者の剣くさかべも砕き霧も吹き飛ばす。

 キッと睨まれたけどこちらはあまり時間も掛けられない事情があるので、
 再び接近して近接戦闘に持ち込む。
 でないとまた召喚魔法でアルシェたちも足留めを食らってしまうからな!

「ぜえええい!」
「っ!」
「ふっ!っ!はあああ!!」
「・・・っ!」

 威力は絶大なれど、
 硬化スチールを限度上限まで重ね掛けし、
 さらにその副産物でも有りデメリットでもある魔力が身体に溜まってしまう現象によって・・・。

「素手による攻撃に魔力が乗る!
 時間が経てば濃度が上がり威力も上昇する!」
「だからっ!なんなのだわっ!」
「さっさと諦めてくれないかっ!今なら痛い目を見ないぞっ!」
「せっかく久々に戦い方を知る者との遊びなのだわっ!
 玩具を奪ったのだからまだ付き合ってもらうわっ!」

 糞が!
 高濃度魔力の扱いにはまだ触れ始めたばかりで今はまだ毒なんだぞっ!
 まだ魔力が溜まり始めたばかりだから恩恵だけで済んでいるけど、
 このまま戦闘が長引けばこっちはどんどん苦しくなって戦闘を維持出来なくなってしまう。

『心配せずともまだ行けますですよ!』
「応!」

 尚も続く攻防と間に撃ち込まれる支援。
 素手での戦闘は基本的に高速の打ち合いとなり、
 魔法を撃つ暇を与えないはずなのに動作が魔法と連動している魔法剣と同じく思わぬ魔法が俺やアルシェを襲う。

 そのうちの半分は邪魔をして発動を阻止しても、
 まだ半分の発動を許してしまうけれど、
 アルシェが丁寧にひとつひとつ潰してくれる。
 支援魔法は自前の魔力で、高濃度魔力を使う必要のある魔法潰しは蒼槍そうそうで。

「それでも、増幅より消費が大きいですね」
『ますたーの方も苦戦中~、しかも魔力が溜まってきてるよぉ~』
「このままではあまり長くは持ちませんね・・・」
『ノイと交代出来ればなぁ~』

 広間を動き回りながら戦闘を繰り広げる俺とステルシャトーの所為で、
 地面はかなり凸凹になってきているなか、
 支援をする為に同じく位置取りを変えて動き回るアルシェ達は、
 その足場の悪さをものともせずに氷の足場を一時的に精製して乗り越えていく。

『はっ!クー達が混ざってきた!』
「あちらからシンクロしてきたということは緊急事態ですね」

 念話事態は誰かとしていると認識はしていたアクアだったが、
 相手がクーなのかニルなのかはわかっていなかった。
 しかし、突如として精霊使いネットワークにクーとメリーが参入して来てその存在をアルシェも感じ取る。

「アルシェ!アクア!
 今から潜口魚せんこうぎょの対応を一発するから、
 その間の時間を稼いでくれっ!」
「わかりましたっ!」
『お姉ちゃんとして妹のお尻も拭くよ~。おまかせ~』

 宗八そうはちがステルシャトーから魔力縮地まりょくしゅくちで離れたと同時に追おうとしたステルシャトーの前に滑り出る。

「弱い魔法で邪魔するしか能がないならこれ以上出張らないで欲しいのだわっ!」
「そうもいかない理由がありましてね」
『少しだけアクア達に付き合ってもらうよぉ~』

 悪態を付く魔神族の娘を初めて近い距離で目にしたアルシェは内心驚いた。
 耳は尖りエルフに見えるのに肌の色は青白く、まるで雪原のエルフだと思った。
 見た目年齢もだ。
 この見た目の年齢であればおそらく自分と大差は無い。
 そんな少女が自分の兄とノイのペアを正面から肉弾戦で勇戦していたなんて・・・。

「(内容は理解しました)」
『(時間稼ぎやりま~す~)』

 だが、驚いてばかりも居られない。
 アイシクルライドの魔力を厚くして機敏な動きに無理が利くように調整ししつつ念話にてメリー達に連絡を取る。

「(申し訳ございません、アルシェ様)」
『(お姉さまもすみません)』
「『(気にしないで、こっちはまかせて!)』ください!)」
「(クー達は位置把握と攻撃準備をしておけ!)」
「『(かしこまりました!)』」

 念話の会話をしながらも戦闘の火蓋は開きっぱなしなので、
 槍とメイスが何度もぶつかるが、
 兄が苦戦した理由が直接打ち合えば自ずとわかった。

「重過ぎる・・・油断すればすぐ折られてしまいそうですっ!」
「こいつっ!受け止めずに・・・面倒な女なのだわっ!」
『それはお互い様なの~!』
「ちびには言ってないのだわっ!」

 アルシェとアクアが回避主体で牽制を始めたのを見届けずに背を向け、
 視線はクー達からもたらされる大まかな位置情報を元に、
 既に大広間へ侵入している潜口魚せんこうぎょを感覚で向ける。

『確実な位置がわからないです』
「クーの予想だと音に反応しているのではって話だ。
 だったらこちらに誘き寄せれば良いだろっ!オラ!」

 足踏みふたつ。
 マリーブパリアから鍛えていた音を増幅する制御で、
 地面の中にも響く音へと変化させドンドンッ!と重低音が走り、
 異空間の中で蠢くソレの意思が明確に俺達を目標にしたのを感じる。

「特定した!砕く方は任せる!」
『砕くのは得意です!お任せあれっ!』

 芸術家が指で枠組みを作って景色を眺める時のように、
 両の手はL字を取り、付け根をガッチリと合わせると、
 範囲指定を広げながら詠唱を開始する。

「《範囲指定爆ぜろリアル!》」
『(《ロック!》)』

 指を離し始めた瞬間から数m先に出現した不可視の揺らぎが、
 手の動きに合わせて広がっていき、
 指を反転させるのに合わせてクーが指定を固定する。

「《湾曲弾けろシナプス!》」
『(《ロック!》)』

 一旦前に押し出しすぐに引く事で曲面ディスプレイのように広角となり、
 先と同じくクーが湾曲を固定する。
 続けてノイは自分の役割の為に、
 引き絞り握りしめていた[守護者の腕マイストガーディアム]を
 見えない揺らぎに全力で前に突き出す。

「『《消滅しやがれ!糞世界!バニッシュメント・ディス・ワールド》』」」

 湾曲指定範囲を殴り付けた巨大な拳は打ち抜く事は出来ず空間に受け止めらた。
 しかし、これは攻撃力不足などでは無く、
 空間に干渉するだけでも事実すごい事なので、
 一撃の下に砕く事自体がありえないのだ。

 初めに大きなヒビが一枚の空間にピキピキと広がっていき、
 パキリ・・・パキリッとその大きなヒビを網目状に小さなヒビがどんどんと増えていく。

「これ以上余計な事はさせないのだわっ!」
「逃がしませんっ!」
「はあああ!」
『《竜玉りゅうぎょくショットガン!》
 もう必要魔力量はわかってるもんねぇ~』
「ちび~っっ!」

 アルシェから離れて魔法で俺達の魔法に介入しようと、
 ステルシャトーは大きく後ろに飛んだが、
 それをアルシェはアイシクルライドの出力を上げて追い回す。
 ステルシャトーの魔法杖まほうじょうが振るわれ、
 巨大な氷のクリスタルが4つ出現しアルシェとアクアを襲うが、
 それも試し撃ちを繰り返した二人に容易く対処される。

 ヒビは枠内に映る全てに広がりきると、
 巨腕の進みは再開されて堰き止められていた力が振り抜かれる。
 ズドンッ!と初動は壁と地面が砕け散り、
 壁向こうの通路へと瓦礫が転がり初めた。

 パリパリパリパリバババリバリバリバリバリバリバリバババパリパリパリパリパリ・・・・

 中動は地面の砕けた瓦礫が剥がれていき、
 その課程で不可視の異空間に隠れていた潜口魚せんこうぎょも姿を暴かれ、
 指定範囲内限定ではあるものの異空間との境目を破壊せしめる。

『姿を現したです!』
「構うな!あっちで対処するから、ノイはこのまま魔力を使い続けろ!」

 最後まで魔力の消費が激しいこのアホみたいな時空破壊魔法は、
 途中で魔力を途切れさせないように注ぎ続ける必要があり、
 今はクーからの供給がされているので後先考えずに注ぎ続ける。

 終動。振り抜いた衝撃波が魔力を乗せて指定範囲の向こうへと駆け抜け、
 床も壁も瓦礫も関係なく外まで吹き飛ばし、
 凄まじい衝撃波は潜口魚せんこうぎょにも届き、
 その威力に潜口魚せんこうぎょが大口を開けて暴れ回る。

『《猪突いのづき!》』

 ぶっ飛んでいった潜口魚せんこうぎょをさらにポシェントの槍技が外へと誘い、
 巣の外へと排出された潜口魚せんこうぎょを追ってポシェントが飛び出して行く姿が見え、
 その後をクーとメリーが俺とのシンクロを切って追っていった。

『今のでだいぶ進行しちゃいましたですね・・・』
「正面から打ち合うには十分だったけど、
 まだ実用的じゃないからな・・・。
 一発撃ってからアクアと交代しよう。いいか?」
『ここはしょうがないです。
 交代後はアルシェの護衛に集中ですよね?』
「そういうことだな。行くぞ」


 * * * * *
 身体中の筋繊維に魔力が染みているような感覚が広がり、
 心肺機能が低下してきているのが分かる。

「すぅ~~~~~、ふぅ~~~~~」
『ずいぶんと動かしづらくなりましたです』

 さながら矯正ギプスでもしているかのように身体が高濃度魔力でギチギチに固まっていて、
 故に攻撃力も高まるのだがここまで症状が進行すると、
 もうデメリットにしかならない。

 時間進行でも症状は進むのだが、
 もっとも効率的に進行させるのであれば魔法を使えばいい。
 今回は時空魔法という使い慣れていないうえに魔力消費も大きい魔法を使用した為に一気に末期まで進行したようだ。

「(ニル。ノイとの砲撃を撃つんだがそっち必要か?)」
『(え!?もうですのー!?ノイ姉さま早すぎですわー!)』
『(うるさいですねっ!クーの手伝いをしたからですよっ!)』
『(なら仕方ないですわねー!)』

 俺が話しかけた念話は何故かノイとニルの口喧嘩へと変わり、
 相変わらずクー好きのニルは限界が早まった理由がクーであることを知ると意見を180°変えた。

「(お前等いまどんな状況なんだ?
 ニルの気配が空でぐるぐるしてんだけど・・・)」
『(鎧魚の必殺の突進を防ぎながら押されているところですわー!)』
「(ニル、シンクロするぞ。タイミングを合わせて撃ち抜く)」
『(かしこまりですわー!)』

「「『『シンクロ!』』」」

 話を聞くに苦戦しているのは確実の様子なので、
 即決で砲撃を用途を決めてしまう。
 俺達の身体を包むオーラに翠雷すいらい色が混ざり、
 内側にニルとマリエルの存在を感じ取れるようになる。

「(どうすればいいですかっ!?
 早く脱出しないと靴が溶けちゃいますっ!)」
「(ある程度の誘導は出来るか?)」
「(本当にある程度ですけど可能です)」
「(じゃあ俺達の真上に誘導しろ。
 魔力は身体に溜まりきってるからすぐに撃てる)」
『「(了解)」ですわー!』

 マリエルたちとの打ち合わせが終わるとすぐに上空のマリエル達へ向けて、
 両の手をガッチリと噛み合わせて構える。

 《硬化スチール重ね掛けの鎧は、
 身体を循環する魔力の動きを滞らせ排出にも悪影響を及ぼす。
 結果、身体に魔力が溜まり続け濃度が上がると拳にもその魔力分が乗り威力が増すが、
 いつまでも留まらせ続ける訳にもいかず、
 タイムリミットが出来てしまう代わりに、
 どこぞの排熱噴射機構のような高濃度魔力砲が可能となっている。

 今から行う高濃度魔力砲は、
 どちらかと言えば副産物の類いなので一回撃てば撃ち止めだし、
 ノイの重ね掛けした[《硬化スチール]も全て剥がされてしまい、
 この後ノイはぐったりすることになるので、
 以降はアルシェの護衛に回り、アクアと交代することとなる。

 体中に浸透した高濃度魔力が足先から抜けていく感覚と同時に、
 手の中心から魔力が排出され始め、
 指の隙間からオレンジ色の魔力光が漏れてきた。

『おえっ・・。
 身体の奥底から魔力が抜かれていくこれには慣れないです』
「俺も気持ち悪いけど、
 時間経過か砲撃かしか魔力を抜けないからな。
 戦闘も続くしさっさと蓄積魔力を消費しないと」

 魔力の高まりによって噛み合っているトゲトカゲの顔に似た左手が、
 魔力に押し上げられて顎門あぎとを開き始める。

「邪魔をするなと言っているのだわっ!
 《海月、海月、海月。得難き強者はまだ強い。されど我は殺したい。
 存在認めぬ彼の者の全てを奪い、我が足下へ連れて参れ!》
 《フリーゲギフト!》」
「それは」『もう見た~!』
「『《蒼天そうてん・ハーケンスラッシュ!》』」

 背後からの激しい攻防が手に取るようにわかる。
 どうにも自分の都合良く事が運ばないと気が済まないタイプにも見えなくはないが、
 もう一点の可能性は、
 実はずっと疑っている高濃度魔力での攻撃であれば芯に届くのではないかという事。

 普通の無詠唱の魔法杖ですら通常の魔法程度では潰しきれなかったのに、
 本体である魔神族にそれが効くとは思えない。
 まぁ疑っているだけで、
 まだ直接攻撃や魔法を当てられたわけでは無いから、
 俺としては可能性として観察を続けているが・・・。

「あいつら試し始めているじゃねぇか・・・」
『楽しそうです・・・おえ・・・』
「オプションは使えるんだったよな?」
『そのくらいは出来るですよ。
 あれは魔力をほぼ使わないのに防御力凄いですからね・・・おえ・・・』

 嘔吐くノイは現在俺にフード付きマントとして纏っているのだが、
 こいつが吐いた場合はどうなるのだろうか・・・。
 不安が募る・・・。

 続けて魔力が集まり手の中では、
 高濃度魔力が球となって目に見えて危ない威力を持つ事がわかる光を漏らしながら、
 次に下顎となっている右手が魔力により大きく押し開かれ、
 空気もビリビリと震え地面では石や氷の粒がカタカタ音を鳴らし、
 もう間もなく砲撃が始まることを知らせる。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。

「(ちょ、ちょっと隊長!?
 私さっき思い出したんですけど、それを見た事無いんですけど!)」
「(だからなんだ?)」
「(・・・どのくらい?)」
「(俺を起点に60度くらいだ。当たれば死ぬ)」
「(・・・どのくらい?)」
「(全力で逃げれば間に合うだろ、ニル)」
『(ギリギリですわー!)』
「(たいちょおおおおおおおおお!)」

 うるせぇな。
 いざとなれば龍の魔力を使ってオーバースペックなスピードを出せばいいだろ。
 ・・・あれ?あいつ、[ソニックブースト]使えたっけ?
 いやいや、ニルがそこは上手くサポートするだろ。

「(隊長が何を考えているかニルちゃんを通じて伝わっていますからねっ!)」
『(ソニックブーストはニルが主導権を握って使いますわー!)』
「(なら、大丈夫だろ。そろそろ撃つぞ)」
「(了解!)」

 準備が整った事を伝えると、
 マリエル達の気配も大きく円を描く動きに切り替わり、
 徐々に中心、つまりは俺達の真上に移動し始める。
 ただ、こちらも高濃度魔力の一点集中に伴い、
 重低音の轟きや振動に留まらなくなってしまい、
 俺達の回りの地面が何カ所も盛り上がって断層を形成してしまっている。

『ねぇ、マスター』
「なんだ」
『ここってブルー・ドラゴンの寝所ですよね?』
「そうだな」
『ボク達荒らしすぎって言われないです?』
「見て見ぬ振りをしなさい。
 聞かれてもやったのは魔神族だと言っておけ」

 両の手で作られたトカゲの口が限界まで開かれ、
 その口内では橙色とうしょくの魔力球が強い光を発しており、
 陽炎のように空間も揺らいでいる。

鎧魚エノハ!避けなさいっ!」

「『《高濃度魔力砲ドルオーラ!》』」

 これだけ離れていても指示出しが出せるのかという思いも直ぐ思考から追い出され、
 俺とノイの手からは極太の魔力砲が鎧魚エノハを撃ち落とさんと、
 空へと撃ち放たれた。


 * * * * *
 巨大な鎧魚エノハを飲み込むには十分な太さの魔力砲撃は、
 吹き抜けの天井から外へと流れて出ていき、
 視界にも二人と一匹の動きが砲撃の当たる軌道を取っているように見えた。

 が、氷垢ひょうくのステルシャトーの指示が聞こえたのか、
 それまで上手く誘導出来ていた鎧魚エノハが突然動きを変え、
 マリエルから離れ魔力砲の範囲から外れていく。

「まぁ、そう上手くいかないか」
『ここまで割と順調でしたが、やはり実戦は違うですね』
「(追いますっ!)」
「待て!馬鹿たれっ!」

 今、無理に追わずともこちらの戦場に影響を与えないよう引きつけるだけでいい!
 倒す必要は無いのだから、
 ここは見逃してもいい場面なのだ!
 下手をすればマリエル達に被弾して戦況がガラリと変わりかねない!

 しかし、互いに素早い動きを行う鎧魚エノハとマリエルへの指示は後手に回ってしまい、
 マリエル達が鎧魚エノハを範囲内に蹴り戻した時には、
 もうどちらも飲み込まれる未来を回避出来ない位置取りとなっていた
 。

「(あ・・・)」
『(終わ・・・)』
「(クー!)」
『(荒くなりますよっ!ニルっ!)』

「『《シンクロっ!!》』」

 視界はすでに魔力砲で見えなくなっており、
 正確な状況は視認できない。
 無理に現在の体勢から動けば俺達が魔力砲に振り回されてどうなるかわかったものじゃない。
 3重シンクロでちとキツくなるが、
 ニルとマリエルを助けるにはクーの魔法しか方法は無い。

 すでに戦況を見ていたクーとメリーが動き出していたらしく、
 シンクロするまでに巣の外壁を走り近場まで来ており、
 シンクロ後は短距離転移ショートジャンプを連続で設置し、
 一気に空へと昇っていく。

「(・・・救出完了!)」
「よしっ!」
『(ギリギリでしたわー!)』
「(すみませんでした、隊長・・・)」

 あのアホアホコンビ!心配させやがってっ!

『(ついで報告となりますが、対象へ着弾を視認)』
「(ありがとうな、クー。メリー。持ち場に戻ってくれ。
 マリエルとニルは無理無茶は絶対禁止だぞ)」
「『(かしこまりました)』」
「(了解)」
『(かしこまりーですわー!)』

 高濃度魔力砲ドルオーラも収束していき、
 射線上には黒い点が残るのみで与えたダメージがどの程度か全くわからない。
 だが、クーの報告で当たったことに違いはないのだし、
 後はマリエル達に鎧魚エノハは任せて俺達は俺達の戦闘を続ける事としよう。

 マリエル達の救出が完了すると、
 すぐにニルとクーのシンクロは解除され、
 身体へと負担が一気に軽くなる。
 とはいえ、最近は精霊使いの質も上がってきているから、
 三人とのシンクロであれば負担とも思わなくなってきたが。

「きゃっ!!」
『ぎにゃ~!』

 ノイが高濃度魔力砲ドルオーラの影響で脱力してしまった為、
 土精霊纏エレメンタライズで[不動]となっている俺の身体は、
 大変にダルくなってしまっているが、
 背後にノックバックしてきたアルシェ達が背中合わせになる形で吹き飛んできた。

「何がきゃっ!だよ」
「さっきの砲撃から威力が上がっているんですよ。
 飛ばされる方向を調整出来ただけ褒めて下さいよ、お兄さん」
『その余裕があるというのが驚きです・・・』
「アクア、ノイと変われ」
『あいあいさ~』

「『《チェンジ!水精霊纏エレメンタライズ!!》』」

 アクアが俺達に体当たり気味に突撃してきたと同時に発した詠唱により、
 俺達は蒼天そうてん色の膜に包まれてノイとアクアは交代する形で片や精霊からマントへ、
 片やマントから精霊へと姿を変えた。
 膜を片手で切り裂くように割るとすぐにノイをアルシェに託す。

「よろしくね、ノイちゃん」
『こちらこそよろしくです』

 背中合わせであったアルシェから離れ、
 俺達は振り返ってアルシェの横からステルシャトーを見つめる。
 ここまでそれなりの戦闘をしてきたはずなのに、
 疲れはおろかダメージも入っていないように見える。
 拳や魔法は時々当たっていたはずなのに・・・だ。

「姿が変わったところで私には勝てないのだわ。
 それにその姿・・・龍?本物の龍があの程度なら偽物の高も知れるというものだわ」
「《来よ、アイスピック!》」

 成長したアクアが纏う[竜]の姿は各所が異なり、
 以前は不随となっていた下半身は動くようになり、
 両手も剣を握るに支障の無いように大きな手袋を装備しているかのような感覚だ。

 手を握って感覚を確かめている間に、
 ステルシャトーが竜を煽ってくるが龍の本来の力を知らない俺達に取っては対した煽りでは無い。
 その言葉を無視して[宝物庫]から愛剣を召喚する。

「ここからが本当の戦いだ。
 そのまま舐めてると痛い目に遭うぞ」
「はいはい。精々私のストレス発散の玩具として頑張ってほしいものだわ」
「後ろに下がります」
『ぶっとばしてやる~!』
『アルシェの守りは任せて下さいです』

 剣を握ると切っ先をステルシャトーに向けて言葉を吐くが、
 まだまだ舐め腐って退く気は微塵も沸いてはなさそうだ・・・。
 その様子を確認したアルシェとノイは後方へと下がっていき、
 俺とアクアは改めて再度正面からぶつかる為、
 ゆっくりを空気を吸い込み肺を満たしてから息を止めた。
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