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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-
†第10章† -21話-[エピローグⅡ]
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『ん~、魔法陣あった方が楽かも~?』
「その辺は任せるよ。
細かくは俺は使えるようになってからになるし、
ひとまずの試しで魔法式を組むのはありかな」
『あい~』
魔法陣のカートリッジシステムとかあれば、
俺は楽にかなぁとか思惑もあったり、
でもアクアが扱うならもっと細かな調整が出来るから魔法陣みたいな重い運用に固定しない方が良いかなぁとか色々と考えて試して決めて行かないといけないな。
「クーは筋力がまだ無いから双剣しか使えないだろうし、
次に進化をしても[虚空暗器]の中でクーが扱えるのは、
軽い箒と双剣くらいだろうから捌くことに集中して隙が生まれたら閻手で串刺しにした方が良いな」
『わかりました』
今回のようにクー達が戦力として戦場を駆けるような状況には、
出来ればしたくはないのだが手札が多くは無い現状では、
ゼノウ達やセーバー達よりは時間稼ぎに向いている事ははっきりしている。
だからと言ってクーが双剣を持って近接戦闘をすることを、
サブマスターのメリーが譲らないし俺も許さない。
しかし、攻撃手段の隠し球としては用意するに越した事はないし、
いずれ俺がいなくなった後とかに必要になる場面に出くわすかも知れない。
そんないろいろを考えると、
クーデルカに剣を握るなとは言えなかった。
『じゃあ、身体の動きだけ確認しよ~』
『お姉さま、急に走ると危ないですよ』
アドバイスをもらった二人は再び先の場所に陣取ると、
殺陣のようにゆっくりとした動きで振りや構えの練習を再開した。
その姿を見届けると膝の上に乗せていたノイを地面に下ろし頭をひと撫でするとその場を離れる。
「フロスト・ドラゴン、あとどれくらいで魔石は出来そうですか?」
『低品質の魔石であれば夕方には排出可能だ』
「ブルー・ドラゴンもまだ起きない、か・・・」
大型魔石にアクエリアスをセットしてからは、
アルシェの手を離れて現在はアクアが片手間に制御を行い続けているのだが、
かれこれ四時間ほど様子見をしているのにウンともスンとも動き出さない。
ポシェントは朝から周囲の海に潜り、
セーバー達と行動を共にした際に見つけていた禍津モンスターの討伐に出ている。
発見した奴らだけでなく、
おそらく周囲にいくつかのグループで散開している可能性を考慮して、
ポシェントには広範囲の捜索を頼んでいるからまだまだ帰って来ないだろうし、
さて、どうしようか・・・。
「あ・・・」
忘れていた。
俺は視界に入ってきたドラゴンへと歩いて近づいて行くと、
俺の気配に気付いたそいつが残された片目で俺を見下ろしてくる。
「傷の具合はどうですか?」
『変化は無い。
鱗であれば修繕されるし多少の抉れであれば自然と回復するが、
今回の傷はそのレベルを超えてしまった。
もう戻る事は無い』
龍は生命力がずば抜けて高く、
魔力を餌にする魔法生物でもあるので、
肉体の方も魔力の吸収に合わせて肉が盛り上がりやがては回復するらしい。
それでも限度はあり、
目の前にこのフロスト・ドラゴンは通路でオベリスクに捕らわれていた時点で片目を失っていた。
その後の戦闘で、
潜口魚の一撃によってさらに片腕も失われている。
「その傷を癒やす事が出来る可能性があるとすれば、
貴方はどうしますか?」
『否定。
どのような手段を取るかもわからぬうちに意思を示す気にはならん。
現状、ブルー・ドラゴンが目覚めぬ限り、
我はこのままで居よう』
じゃあ、実験はすぐには出来ないか・・・。
時刻はまだ昼を過ぎたばかりだし、
俺がやりたい事はここでは出来ない事ばかりなのがネックだなぁ。
「仕方ないか。
ちょっと外に出てくる!中で待機よろしく!」
「応」
セーバーに声かけだけ行い、
精霊も連れずに俺は中央の巣から外へと出てくる。
まぁアニマは俺に纏っているので連れていないわけではないのかな?
『何をするのだ?』
「忘れないうちに魔法剣の感覚を研ぎ済ませるんです。
結局、テストで1度、戦闘で2度魔石による高濃度攻撃を行いましたけど、
もう少し小規模な一閃をコンスタントに撃ちたいので訓練します」
『納得』
この島には大きな岩が存在しない。
全てが長い年月の吹雪やドラゴンの移動と共に踏み抜かれ、
あとに残るはフラットに近い平らな島だった。
何も目標物となるものがないのだけれど、
ひとまずは何も無い空間へと一閃を放つ事としよう。
「《来よ!アイスピック!》」
俺の呼び掛けに[宝物庫]に収まっていたアイスピックが、
武器加階した[グラキエスブランド]の状態、さらに魔力も満たされた状態で目の前に出現する。
『魔力の流れに微かな違和感があるな』
「高濃度一閃に剣本来の耐久力が見合っていませんでしたからね。
魔神族と戦うにはあれが一番効果があったとなれば、
これ以上この剣で戦うには厳しいとは分かっていますよ」
ネシンフラ島で長老であるマリエルのお爺さんから頂いてはや半年。
クエストの報酬とは言え、
長老が長く愛用していたらしいアイスピックを頂いたからには、
それなりに大事に扱って来たのだが、
運用方法と釣り合いが取れなくなって来ている。
ガタが見え始めてしまったアイスピックを手にすると、
素早く構えの姿勢を取り、一息に俺は叫ぶ。
「《水竜一閃!》」
一閃は吹雪の中を切り裂きながら進んでいき、
やがてその姿は見えなくなる。今のが従来の一閃。
普通のモンスターや魔物と戦う程度であればこれで十分だと理解できる威力には整っていると自分でも満足のいく物に仕上がっていると手応えを感じる。
しかし、もうひとステージ上がる必要がある。
今度はゆっくりとした動作で一閃を放ついつもの構えを取る。
深呼吸をひとつ。
龍の巣に吹き荒ぶ凍える空気が肺へと溜まり、
熱くなっていた筋肉も血もすべてが冷えて落ち着いていく。
もう一度息をゆっくりと吸い込んで肺を満たすと、
息を止めてこの世界に来て磨かれた魔力制御に意識を集中させ、
魔法剣に宿る魔力を拙い技術で編み込んで行く。
『限界、です』
「っ!《水竜一閃!》」
俺の見極めはまだ行けそうだと思っていたが、
突如アニマが介入してきて上限一杯だと告げてきたので、
慌てて剣を振るって一閃を放つ。
魔力を編み込んで濃度を上げられる限り上げた一閃は、
先に放った一閃に比べると、
魔力の輝きがほんの少しだけ濃くなったということが認識出来る。
「これが限界か?」
『限界、です。
本来なら宗八の考え通りのラインまで上げられたはずですが、
魔神族戦の時の後遺症とでもいうのでしょうか・・・。
宗八の懸念しているように耐久力が落ちている、です』
「はぁ・・・。まぁ助かったよ。ありがとう、アニマ」
『他の姉妹が居ないから仕方なく、です』
器用に顔だけ俺のお腹から上向きで生やしていたアニマに感謝を告げると、
いつものそっけない感じでそそくさと戻っていく。
頭を撫でたり甘えさせようとする俺を警戒しているのだろう。
「限界点は見えたし、
耐久を犠牲にするけど今のうちに試しておくか・・・」
『何を試すのだ?』
「勝手ながら説明したオベリスクを一本残しているので、
それを相手に俺の一閃がどこで通用するのかの確認です。
魔神族には高濃度魔力が効いたのであれば、
もしかしたら苦労なく破壊できるようになるかもしれません」
『・・・ふむ、承諾』
オベリスクを勝手に残した事に関して一物ある沈黙後に了承をしてくれた。
場所は被害の出ないところを選んで残させたので、
アイス・ドラゴン達は平穏無事にまたいつものダラダラとした生活に戻りつつある。
そういうこちらの意図も加味しての渋々承諾なのはわかる。
だが、こちらも実験出来るうちにやっておかないと、
いざ実戦でとなった際に無駄な労力を使う羽目になる。
「フロスト・ドラゴン。
ここからオベリスクの範囲ですから一旦離れてもらえますか」
『了承』
フォレストトーレは、
前回破壊したオベリスクが再び再設置されていると報告は受けているので、
出来れば兵士達には禍津モンスターや瘴気モンスターの相手をしてもらい、
オベリスクの破壊は慣れている俺達で対処したいと考えている。
「カティナの報告通り、
オベリスクの魔力霧散効果も上限があるみたいだ。
アニマ、お前達はどんな具合だ?」
『宗八の魔力を吸収すれば問題はありません、です。
ただ、人間の魔力量は精霊や龍に比べればかなり少ないですから、
やはり早めに砕いてしまうべき、です』
「了解だ」
「《水竜一閃!》」
まずは通常の一閃を放つが、
これは届く前に込めた魔力を全て霧散させられて消失。
「すぅ・・・。《水竜一閃!》」
先のテストの感覚を思い出し、
編み込みも最速で一気に進めて束ね上げた魔力を、
一息に一閃を撃ち放つ。
一閃はオベリスクの範囲に入ったばかりの位置から撃ち放った一閃は、
最大距離の1㎞を順調に進み、
今度は霧散しきる前にオベリスクへと到達し、
微かな手応えを残してそのまま消失していった。
近づいて確認をしてみれば、
オベリスクの表面に確かな傷跡がついていた。
オベリスクは近づけば近づくだけ霧散効果が強くなるので、
近くで魔法を撃つ際は魔法として完成させることがまず難しく、
遠くから魔法を撃てば届く前に消失というのがほとんどだが、
とりあえず俺の一閃は傷を作るに至れるレベルという事は証明できた。
成長は着実にしている。
しかし、足りない。
「《来よ!》《水竜一閃!》」
ショートカット詠唱で呼び出した魔石をかませて、
今度は新しい一閃を先ほどと同じ位置まで戻ってから撃ち放つ。
通常一閃、強化一閃の後にオベリスク環境下で見れば、
霧散効果の影響の中でも十分な威力を保ちつつ、
攻撃範囲も大きくなった一閃が力強くオベリスクへと迫っていき、
見事真っ二つに切断する様子を見届けた。
軽くなった空気のなか、
背後からフロスト・ドラゴンが近寄ってくる気配を感じ、
後ろを振り返る。
「ご協力ありがとうございました」
『あれ以上はないのだな?』
「はい。これが正真正銘、最後の一本でした」
『其方が期待するに値する効果を発揮したようだが・・・。
やはり、その武器ではこれ以上の酷使は出来そうにないな』
「もう通常の一閃ですら騙し騙しってレベルで、ですね」
前半の言葉の後からモゾモゾと俺の頭に登りながら、
フロスト・ドラゴンは後半の言葉を続ける。
手にするアイスピックからは今まで感じていた心強さは疾うに失われており、
一閃を放つ度にその存在感が徐々に失われていく感覚を確かに感じていた。
力の弱まったアイスピックを宝物庫に仕舞うと、
俺達は再び中央の巣へと足を向けて歩き出す。
龍への影響を考えて島の隅っこに残していたオベリスクを破壊したので、
行きも帰りも少々時間がかかってしまう。
その時、島の中心部。
つまりは俺達が現在拠点としている巣の中央から龍の鳴き声が微かに聞こえてきた。
島の空気も多少変わり、
生命の息吹とでもいうのか・・・。
『ブルー・ドラゴンが目覚めたようだ』
「そういう事ですか。
じゃあ急いで戻った方がいいですね」
『肯定。宜しく頼む』
* * * * *
戻ってくるまでの道程で気が付いてはいたのだが、
何やらブルー・ドラゴンが起きてからと言うもの、
ずっと地面が揺れており、
巣に近づくにつれてその振動も大きくなっている。
ようやっと巣の入り口に戻ってきたのだが、
明らかに先ほどまでとは異なり、
ビュービューと凍える冷気が内部から外へと吹き抜けてくる。
あと、威圧感も感じる。
「(おーい、どうなってんだ?)」
『(青いのが起きたんだけどねぇ~暴れてる~)』
『(正確にはブルー・ドラゴンの記憶は、
魔神族に襲われていたところで途切れていたようで・・・)』
『(今はフロスト・ドラゴンが説得しているですけど、
中心で暴れ回って吹雪いてるです!)』
なるほど。
とりあえずはフロスト・ドラゴンの片割れが抑えようとしているみたいだけど、
残念ながら効果はあまり無いらしい。
「急ぎましょうか」
『肯定』
説得にはもう一匹も居た方が良さそうだ。
残ったのは片目と片腕を失った方だし、
身内のその姿を見れば混乱をしても仕方が無いと思う。
魔力縮地でバランスを気をつけながら通路を駆け抜ける。
吹雪に対抗してこちらも制御力で風の守りを纏っているが、
吹雪の方が強力で距離がなかなか稼げない。
それでもなんとか中心部に到着すると、
一番内側の壁を隔てた通路にセーバーPTと娘達を見つけた。
『我はあちらに合流する』
「わかりました」
そういうと、フロスト・ドラゴンは内部へと突入できる亀裂から頭を突っ込み消えていった。
俺は俺で仲間の安否や状況の整理をする為に合流を急いだ。
「お前等無事か?」
『ますたー!アクアは元気だよ~!』
『全員すぐにフロスト・ドラゴンの指示で避難したので無事ですが、
あの暴走が収まらない事にはここから動く事が出来ません』
『多少避難で危ない場面もありましたが、ちゃんと皆を守ったです』
「ノイ、良くやってくれた。
とりあえず、さっき一緒に戻ったフロスト・ドラゴンも説得に当たるから、
俺達はしばらく待機になる。
でも、安全を考えて巣の外に移動しておいてくれ」
「「「「「了解」」」」」
さて、俺も避難をしておきたいところではあるんだけど、
流石に当事者としてはフロスト・ドラゴンに任せっきりというわけにもいかない。
だからといって無闇に姿を現そうものなら、
せっかく説得してくれているフロスト・ドラゴンの行為を無に帰す可能性もある。
『結局どうするの~?』
「様子見は変わらないけど、
タイミングを見て説得に参加したい・・・かな?」
『お父さま、あの様子では難しいのではありませんか?』
「まぁ・・・難しいわな。
あんなデカイ奴相手にした事ないし」
キュクロプスもデカイと思っていたけれど、
その数倍デカイ奴がバタバタ暴れてるんだ。
それを少し小さいフロスト・ドラゴン二匹でなんとか抑えているような状況だし。
これが敵なら攻撃という手段が取れる。
しかし、ブルー・ドラゴンは敵では無いので攻撃を加える事は出来ない。
『もし突入するならボクを纏った方がいいです。
完全には防げなくともダメージは抑えられるです』
「人でも精霊でもない姿で登場したらそれこそ混乱に拍車を掛けかねん。
出るなら人として対応しないと」
ノイの発した俺の安全を考えての意見だったが、
初対面で精霊纏状態だと敵か味方か第一印象ではわからない。
せめて人間であればある程度の予測が出来ると初めは安易に考えていたけど、
魔神族に襲われている時点で人型であったとしても警戒はされるだろう。
いずれにせよ、味方であると認識して貰わないとならない。
「そういえば、魔石はまだ口の中にあるのか?」
『ん~、もう吐き出してるね~』
『・・・・お父さま、ブルー・ドラゴンの目が紅くありませんか?』
「ん?紅い?」
暴れ回る身体は大きいし、
それを抑え込もうと二匹のフロスト・ドラゴンが周囲に居る為、
俺には見えてはいなかった事実をクーデルカが指摘してきた。
デカイから自然と全体像に意識しがちだったけれど、
瞳に注視すれば確かに他の龍たちと違い、
見覚えのある真っ赤に染まっている。
「瘴気に犯されてるのか?」
『でも、前に見たのって身体は黒っぽく変色してたよ~?』
「だよなぁ・・・」
『ボクはその様子を見た事ないですけど、
龍は生き物の中で上位の存在ですから抗っている・・・とかです?』
そういう可能性もあるのか。
俺達は瘴気に対してそこまで理解が進んでいるわけでは無いし、
フォレストトーレでは瘴気に犯された植物がモンスターに変化した奴を相手にしていた。
死体や植物、果ては鉱物も犯す事が出来るなら、
生きている俺達や龍ですら浸食されてもおかしくはない・・・か?
とりあえず、暴れ回るブルー・ドラゴンの顔に注視してしばらく見守る。
『見覚えのある紅ですよね?』
『見覚えのある紅だねぇ~』
「見覚えのある紅だな。
フロスト・ドラゴンの話も聞いてないみたいだし。
じゃあ、あれは魔神族や俺達を警戒しての混乱では無く、
瘴気に犯されていると仮定した場合助けるには・・・魔法剣か」
『やる前にフロスト・ドラゴンに話を着けておいた方がいいです』
それもそうだ。
瘴気の浄化の為とはいえ、
いきなり後ろから光竜一閃を撃った場合、
多少のダメージは通ってしまうのだから先に伝えておかないと余計面倒になるな。
「(おい、ニル)」
『(はぁーい、何ですのー?もう戻ってきますのー?)』
「(いや、そうじゃない。
ちょっとブルー・ドラゴンを抑えるからこっちに召喚するぞ)」
『(・・・OKですわー!)』
念話で遠くにいるこの場に居ない娘に話しかける。
流石にあのデカイ奴を三人で抑えられるとも思えないし、
浄化がすることで解決するなら少しの間だけこちらに救援に呼ぶことも致し方ない。
ニルがアルシェ達に確認を取ってOKを取り付けた言葉を聞いてから召喚の詠唱をする。
「《召喚:ニルチッイ》」
『呼ばれて飛び出てニルチッイ!ババァーンですわー!』
その名乗りはうるせぇよ。
「お前等、全力でブルー・ドラゴンをバインドで抑えつけろ。
その間に俺が近づいてフロスト・ドラゴンに用件を伝えてみる」
『あい』
『かしこまりました』
『守りには回す余裕はないですよ』
『ここしか魔法使いませんし全力を抑えますわー!』
なんか一人元気が空回っているきがしなくもないが、
全力でやらざるを得ないのは確かだしもういいや。
「《シンクロ!》」
俺の詠唱でそれぞれの身体からシンクロのオーラが吹き上がり、
俺だけで言えば四色のオーラがごちゃごちゃユラユラと揺らめく始めるのと同時に具合も悪くなる。
三人までは身体に異変は起こらない程度には精霊使いとしての質が上がっているのだが、
流石に四人になると激しい頭痛が頭を直撃する。
でも、これを行わないと解れを補填する為の制御力運用が上手く機能しないし仕方が無い事だ。
「行ってくる・・・、フロスト・ドラゴン!」
『《ウィンドバインド!》』
まずはニルの[ウィンドバインド]。
一番初めのバインドなので、
全員の制御力をつぎ込んだダウンバーストがブルー・ドラゴンを上空から襲いかかり、
強烈な勢いで地面に叩きつけそのまま抑えつける。
「ひとつ確認したい事があるんだ!」
『《シャドーバインド!》』
『《アースバインド!》』
身体を起こすには腕を使う必要がある。
続けて魔法を使ったクーデルカが、
ブルー・ドラゴンの上半身をぐるぐる巻きにしていく。
重ねて同時に下半身の身動きをノイが地面から生えてきた石の錠前で抑え込んでいく。
『何を確認したいのだ』
「ブルー・ドラゴンは瘴気に犯されている可能性がある。
証拠は弱いけれど目が以前に見た瘴気モンスターと同じなんです」
『確かに普通の状態ではない。
瘴気はこちらでは見かけない』
「魔神族が別の土地で瘴気を利用していました。
ステルシャトーの置き土産の可能性もありますが、
ひとまず浄化を試みたいので許可を頂きたい」
『《アイシクルバインド!!》』
ブルー・ドラゴンを抑えつける魔法群と、
俺を交互に見てから二匹のフロスト・ドラゴンは少し離れたところで止まった俺の元へやってきた。
俺が二匹に説明をしている間にも最後にアクアが全身を氷で覆い、
四種の魔法の檻はこれにて完成した。
あとは話が終わり、浄化が済むまで現状維持をしておいてもらうだけだ。
『お姉さま、すみません』
『問題ないよ~』
『これニルのバインド意味ありますのー?』
『無いわけないです。つべこべ言ってないで集中するです』
なんだろう・・・。
アクアがすごく頼りがいのある雰囲気があるな。
『確認』
『危険はあるか?』
「光属性の魔法剣を撃ちますが、
あまり私は使いこなせてはいないので幸いダメージは少なく済みます」
『・・・・我々が抑えるにも声を掛けても反応は無い』
『・・・・時間もないか』
「如何でしょう。
試してみて浄化が成功すれば落ち着きを取り戻すと思うのですが・・・」
まぁ本当に瘴気に犯されていたらの話だけれど。
証拠も目の紅さだけだし、効果がなかったら結局二匹に頼る事となる。
振り返った二匹の目には、
うちの娘達総出で抑え込んでいたブルー・ドラゴンがジワジワと力押しで勝ち始めている様子が窺えた。
『ますたー、もう持ちそうに無い~』
たかが2分されど2分。
全力で各自の魔法による拘束が綻びる度に調整をしていたのだが、
それでも単純に格が違う相手を抑えているのだ。
こんな化け物をよくもまぁ魔神族も倒せたな・・・。
『一撃のみ許可しよう』
『一撃であれば見逃そう』
「ありがとうございます!お前等もうちょっと耐えろよ!
《来よ!クラウソラス!》」
許可をもらってすぐにブルー・ドラゴンへと向き直る。
武器加階出来るほど光魔法に慣れていない為、
今回は素のクラウソラスを上段に掲げ魔法剣の奥義を叫ぶ。
「《星光よ煌やけ!星光天裂破っ!!》」
一閃や一刀は何度も撃つことを目的に組み立てているので、
浄化効果も必然的に薄くなってしまう。
今回の相手は超大物である事に加え、
生き物を相手に浄化ができるのかも試しのひとつとなる。
故に詠唱の前半で大きく掲げたクラウソラスが眩しいほどに輝き出し、
全力で振り下ろしながら後半の詠唱を行うと、
真上の空を漂う雲の一部が文字通りに裂け、
その裂け目から光の柱が降り注ぎブルー・ドラゴンをすっぽりと覆ってしまう。
『GUAAAAAAAAAA・・・・・!!!』
振り切ったクラウソラスに溜まっていた魔力はすべて失せ、
完全に光の中に飲み込まれたブルー・ドラゴンの悲鳴が、
始まるや否やニルが抑えつけに使っていた魔法制御力をフル活用してすべての空気振動をシャットダウンした。
『ニルの繊細なお耳にはキツかったのですわー』
「別にいいよ」
五月蠅かったのは事実だし。
子供たちが役目を終えて順々にアニマル形態へと姿を変えると俺の体をよじ登り、
精霊会議で決まった定位置へと巻き付いたり飛び乗ったりと纏わり付いてくる。
元々それほど長く効果のある技ではなく、
一撃で大型を屠る為に編み出した[蒼天氷覇斬]の派生になるわけだし、
しばらくすれば光の柱は上の方から薄れていき、
やがてブルー・ドラゴンが再び姿を現した時には、
こいつもまた地面に突っ伏して倒れた状態であった。
『『ブルー・ドラゴンっ!』』
「これで治っていればいいんだけどな」
『ぐったりしてるし大丈夫じゃない~?』
『瘴気ではなくショック療法になった可能性もありますね』
『うまくいけば明日にはアスペラルダに戻れそうです』
『ニルはもう帰っていいですのー?』
さて、実際どうだったのかな。
「その辺は任せるよ。
細かくは俺は使えるようになってからになるし、
ひとまずの試しで魔法式を組むのはありかな」
『あい~』
魔法陣のカートリッジシステムとかあれば、
俺は楽にかなぁとか思惑もあったり、
でもアクアが扱うならもっと細かな調整が出来るから魔法陣みたいな重い運用に固定しない方が良いかなぁとか色々と考えて試して決めて行かないといけないな。
「クーは筋力がまだ無いから双剣しか使えないだろうし、
次に進化をしても[虚空暗器]の中でクーが扱えるのは、
軽い箒と双剣くらいだろうから捌くことに集中して隙が生まれたら閻手で串刺しにした方が良いな」
『わかりました』
今回のようにクー達が戦力として戦場を駆けるような状況には、
出来ればしたくはないのだが手札が多くは無い現状では、
ゼノウ達やセーバー達よりは時間稼ぎに向いている事ははっきりしている。
だからと言ってクーが双剣を持って近接戦闘をすることを、
サブマスターのメリーが譲らないし俺も許さない。
しかし、攻撃手段の隠し球としては用意するに越した事はないし、
いずれ俺がいなくなった後とかに必要になる場面に出くわすかも知れない。
そんないろいろを考えると、
クーデルカに剣を握るなとは言えなかった。
『じゃあ、身体の動きだけ確認しよ~』
『お姉さま、急に走ると危ないですよ』
アドバイスをもらった二人は再び先の場所に陣取ると、
殺陣のようにゆっくりとした動きで振りや構えの練習を再開した。
その姿を見届けると膝の上に乗せていたノイを地面に下ろし頭をひと撫でするとその場を離れる。
「フロスト・ドラゴン、あとどれくらいで魔石は出来そうですか?」
『低品質の魔石であれば夕方には排出可能だ』
「ブルー・ドラゴンもまだ起きない、か・・・」
大型魔石にアクエリアスをセットしてからは、
アルシェの手を離れて現在はアクアが片手間に制御を行い続けているのだが、
かれこれ四時間ほど様子見をしているのにウンともスンとも動き出さない。
ポシェントは朝から周囲の海に潜り、
セーバー達と行動を共にした際に見つけていた禍津モンスターの討伐に出ている。
発見した奴らだけでなく、
おそらく周囲にいくつかのグループで散開している可能性を考慮して、
ポシェントには広範囲の捜索を頼んでいるからまだまだ帰って来ないだろうし、
さて、どうしようか・・・。
「あ・・・」
忘れていた。
俺は視界に入ってきたドラゴンへと歩いて近づいて行くと、
俺の気配に気付いたそいつが残された片目で俺を見下ろしてくる。
「傷の具合はどうですか?」
『変化は無い。
鱗であれば修繕されるし多少の抉れであれば自然と回復するが、
今回の傷はそのレベルを超えてしまった。
もう戻る事は無い』
龍は生命力がずば抜けて高く、
魔力を餌にする魔法生物でもあるので、
肉体の方も魔力の吸収に合わせて肉が盛り上がりやがては回復するらしい。
それでも限度はあり、
目の前にこのフロスト・ドラゴンは通路でオベリスクに捕らわれていた時点で片目を失っていた。
その後の戦闘で、
潜口魚の一撃によってさらに片腕も失われている。
「その傷を癒やす事が出来る可能性があるとすれば、
貴方はどうしますか?」
『否定。
どのような手段を取るかもわからぬうちに意思を示す気にはならん。
現状、ブルー・ドラゴンが目覚めぬ限り、
我はこのままで居よう』
じゃあ、実験はすぐには出来ないか・・・。
時刻はまだ昼を過ぎたばかりだし、
俺がやりたい事はここでは出来ない事ばかりなのがネックだなぁ。
「仕方ないか。
ちょっと外に出てくる!中で待機よろしく!」
「応」
セーバーに声かけだけ行い、
精霊も連れずに俺は中央の巣から外へと出てくる。
まぁアニマは俺に纏っているので連れていないわけではないのかな?
『何をするのだ?』
「忘れないうちに魔法剣の感覚を研ぎ済ませるんです。
結局、テストで1度、戦闘で2度魔石による高濃度攻撃を行いましたけど、
もう少し小規模な一閃をコンスタントに撃ちたいので訓練します」
『納得』
この島には大きな岩が存在しない。
全てが長い年月の吹雪やドラゴンの移動と共に踏み抜かれ、
あとに残るはフラットに近い平らな島だった。
何も目標物となるものがないのだけれど、
ひとまずは何も無い空間へと一閃を放つ事としよう。
「《来よ!アイスピック!》」
俺の呼び掛けに[宝物庫]に収まっていたアイスピックが、
武器加階した[グラキエスブランド]の状態、さらに魔力も満たされた状態で目の前に出現する。
『魔力の流れに微かな違和感があるな』
「高濃度一閃に剣本来の耐久力が見合っていませんでしたからね。
魔神族と戦うにはあれが一番効果があったとなれば、
これ以上この剣で戦うには厳しいとは分かっていますよ」
ネシンフラ島で長老であるマリエルのお爺さんから頂いてはや半年。
クエストの報酬とは言え、
長老が長く愛用していたらしいアイスピックを頂いたからには、
それなりに大事に扱って来たのだが、
運用方法と釣り合いが取れなくなって来ている。
ガタが見え始めてしまったアイスピックを手にすると、
素早く構えの姿勢を取り、一息に俺は叫ぶ。
「《水竜一閃!》」
一閃は吹雪の中を切り裂きながら進んでいき、
やがてその姿は見えなくなる。今のが従来の一閃。
普通のモンスターや魔物と戦う程度であればこれで十分だと理解できる威力には整っていると自分でも満足のいく物に仕上がっていると手応えを感じる。
しかし、もうひとステージ上がる必要がある。
今度はゆっくりとした動作で一閃を放ついつもの構えを取る。
深呼吸をひとつ。
龍の巣に吹き荒ぶ凍える空気が肺へと溜まり、
熱くなっていた筋肉も血もすべてが冷えて落ち着いていく。
もう一度息をゆっくりと吸い込んで肺を満たすと、
息を止めてこの世界に来て磨かれた魔力制御に意識を集中させ、
魔法剣に宿る魔力を拙い技術で編み込んで行く。
『限界、です』
「っ!《水竜一閃!》」
俺の見極めはまだ行けそうだと思っていたが、
突如アニマが介入してきて上限一杯だと告げてきたので、
慌てて剣を振るって一閃を放つ。
魔力を編み込んで濃度を上げられる限り上げた一閃は、
先に放った一閃に比べると、
魔力の輝きがほんの少しだけ濃くなったということが認識出来る。
「これが限界か?」
『限界、です。
本来なら宗八の考え通りのラインまで上げられたはずですが、
魔神族戦の時の後遺症とでもいうのでしょうか・・・。
宗八の懸念しているように耐久力が落ちている、です』
「はぁ・・・。まぁ助かったよ。ありがとう、アニマ」
『他の姉妹が居ないから仕方なく、です』
器用に顔だけ俺のお腹から上向きで生やしていたアニマに感謝を告げると、
いつものそっけない感じでそそくさと戻っていく。
頭を撫でたり甘えさせようとする俺を警戒しているのだろう。
「限界点は見えたし、
耐久を犠牲にするけど今のうちに試しておくか・・・」
『何を試すのだ?』
「勝手ながら説明したオベリスクを一本残しているので、
それを相手に俺の一閃がどこで通用するのかの確認です。
魔神族には高濃度魔力が効いたのであれば、
もしかしたら苦労なく破壊できるようになるかもしれません」
『・・・ふむ、承諾』
オベリスクを勝手に残した事に関して一物ある沈黙後に了承をしてくれた。
場所は被害の出ないところを選んで残させたので、
アイス・ドラゴン達は平穏無事にまたいつものダラダラとした生活に戻りつつある。
そういうこちらの意図も加味しての渋々承諾なのはわかる。
だが、こちらも実験出来るうちにやっておかないと、
いざ実戦でとなった際に無駄な労力を使う羽目になる。
「フロスト・ドラゴン。
ここからオベリスクの範囲ですから一旦離れてもらえますか」
『了承』
フォレストトーレは、
前回破壊したオベリスクが再び再設置されていると報告は受けているので、
出来れば兵士達には禍津モンスターや瘴気モンスターの相手をしてもらい、
オベリスクの破壊は慣れている俺達で対処したいと考えている。
「カティナの報告通り、
オベリスクの魔力霧散効果も上限があるみたいだ。
アニマ、お前達はどんな具合だ?」
『宗八の魔力を吸収すれば問題はありません、です。
ただ、人間の魔力量は精霊や龍に比べればかなり少ないですから、
やはり早めに砕いてしまうべき、です』
「了解だ」
「《水竜一閃!》」
まずは通常の一閃を放つが、
これは届く前に込めた魔力を全て霧散させられて消失。
「すぅ・・・。《水竜一閃!》」
先のテストの感覚を思い出し、
編み込みも最速で一気に進めて束ね上げた魔力を、
一息に一閃を撃ち放つ。
一閃はオベリスクの範囲に入ったばかりの位置から撃ち放った一閃は、
最大距離の1㎞を順調に進み、
今度は霧散しきる前にオベリスクへと到達し、
微かな手応えを残してそのまま消失していった。
近づいて確認をしてみれば、
オベリスクの表面に確かな傷跡がついていた。
オベリスクは近づけば近づくだけ霧散効果が強くなるので、
近くで魔法を撃つ際は魔法として完成させることがまず難しく、
遠くから魔法を撃てば届く前に消失というのがほとんどだが、
とりあえず俺の一閃は傷を作るに至れるレベルという事は証明できた。
成長は着実にしている。
しかし、足りない。
「《来よ!》《水竜一閃!》」
ショートカット詠唱で呼び出した魔石をかませて、
今度は新しい一閃を先ほどと同じ位置まで戻ってから撃ち放つ。
通常一閃、強化一閃の後にオベリスク環境下で見れば、
霧散効果の影響の中でも十分な威力を保ちつつ、
攻撃範囲も大きくなった一閃が力強くオベリスクへと迫っていき、
見事真っ二つに切断する様子を見届けた。
軽くなった空気のなか、
背後からフロスト・ドラゴンが近寄ってくる気配を感じ、
後ろを振り返る。
「ご協力ありがとうございました」
『あれ以上はないのだな?』
「はい。これが正真正銘、最後の一本でした」
『其方が期待するに値する効果を発揮したようだが・・・。
やはり、その武器ではこれ以上の酷使は出来そうにないな』
「もう通常の一閃ですら騙し騙しってレベルで、ですね」
前半の言葉の後からモゾモゾと俺の頭に登りながら、
フロスト・ドラゴンは後半の言葉を続ける。
手にするアイスピックからは今まで感じていた心強さは疾うに失われており、
一閃を放つ度にその存在感が徐々に失われていく感覚を確かに感じていた。
力の弱まったアイスピックを宝物庫に仕舞うと、
俺達は再び中央の巣へと足を向けて歩き出す。
龍への影響を考えて島の隅っこに残していたオベリスクを破壊したので、
行きも帰りも少々時間がかかってしまう。
その時、島の中心部。
つまりは俺達が現在拠点としている巣の中央から龍の鳴き声が微かに聞こえてきた。
島の空気も多少変わり、
生命の息吹とでもいうのか・・・。
『ブルー・ドラゴンが目覚めたようだ』
「そういう事ですか。
じゃあ急いで戻った方がいいですね」
『肯定。宜しく頼む』
* * * * *
戻ってくるまでの道程で気が付いてはいたのだが、
何やらブルー・ドラゴンが起きてからと言うもの、
ずっと地面が揺れており、
巣に近づくにつれてその振動も大きくなっている。
ようやっと巣の入り口に戻ってきたのだが、
明らかに先ほどまでとは異なり、
ビュービューと凍える冷気が内部から外へと吹き抜けてくる。
あと、威圧感も感じる。
「(おーい、どうなってんだ?)」
『(青いのが起きたんだけどねぇ~暴れてる~)』
『(正確にはブルー・ドラゴンの記憶は、
魔神族に襲われていたところで途切れていたようで・・・)』
『(今はフロスト・ドラゴンが説得しているですけど、
中心で暴れ回って吹雪いてるです!)』
なるほど。
とりあえずはフロスト・ドラゴンの片割れが抑えようとしているみたいだけど、
残念ながら効果はあまり無いらしい。
「急ぎましょうか」
『肯定』
説得にはもう一匹も居た方が良さそうだ。
残ったのは片目と片腕を失った方だし、
身内のその姿を見れば混乱をしても仕方が無いと思う。
魔力縮地でバランスを気をつけながら通路を駆け抜ける。
吹雪に対抗してこちらも制御力で風の守りを纏っているが、
吹雪の方が強力で距離がなかなか稼げない。
それでもなんとか中心部に到着すると、
一番内側の壁を隔てた通路にセーバーPTと娘達を見つけた。
『我はあちらに合流する』
「わかりました」
そういうと、フロスト・ドラゴンは内部へと突入できる亀裂から頭を突っ込み消えていった。
俺は俺で仲間の安否や状況の整理をする為に合流を急いだ。
「お前等無事か?」
『ますたー!アクアは元気だよ~!』
『全員すぐにフロスト・ドラゴンの指示で避難したので無事ですが、
あの暴走が収まらない事にはここから動く事が出来ません』
『多少避難で危ない場面もありましたが、ちゃんと皆を守ったです』
「ノイ、良くやってくれた。
とりあえず、さっき一緒に戻ったフロスト・ドラゴンも説得に当たるから、
俺達はしばらく待機になる。
でも、安全を考えて巣の外に移動しておいてくれ」
「「「「「了解」」」」」
さて、俺も避難をしておきたいところではあるんだけど、
流石に当事者としてはフロスト・ドラゴンに任せっきりというわけにもいかない。
だからといって無闇に姿を現そうものなら、
せっかく説得してくれているフロスト・ドラゴンの行為を無に帰す可能性もある。
『結局どうするの~?』
「様子見は変わらないけど、
タイミングを見て説得に参加したい・・・かな?」
『お父さま、あの様子では難しいのではありませんか?』
「まぁ・・・難しいわな。
あんなデカイ奴相手にした事ないし」
キュクロプスもデカイと思っていたけれど、
その数倍デカイ奴がバタバタ暴れてるんだ。
それを少し小さいフロスト・ドラゴン二匹でなんとか抑えているような状況だし。
これが敵なら攻撃という手段が取れる。
しかし、ブルー・ドラゴンは敵では無いので攻撃を加える事は出来ない。
『もし突入するならボクを纏った方がいいです。
完全には防げなくともダメージは抑えられるです』
「人でも精霊でもない姿で登場したらそれこそ混乱に拍車を掛けかねん。
出るなら人として対応しないと」
ノイの発した俺の安全を考えての意見だったが、
初対面で精霊纏状態だと敵か味方か第一印象ではわからない。
せめて人間であればある程度の予測が出来ると初めは安易に考えていたけど、
魔神族に襲われている時点で人型であったとしても警戒はされるだろう。
いずれにせよ、味方であると認識して貰わないとならない。
「そういえば、魔石はまだ口の中にあるのか?」
『ん~、もう吐き出してるね~』
『・・・・お父さま、ブルー・ドラゴンの目が紅くありませんか?』
「ん?紅い?」
暴れ回る身体は大きいし、
それを抑え込もうと二匹のフロスト・ドラゴンが周囲に居る為、
俺には見えてはいなかった事実をクーデルカが指摘してきた。
デカイから自然と全体像に意識しがちだったけれど、
瞳に注視すれば確かに他の龍たちと違い、
見覚えのある真っ赤に染まっている。
「瘴気に犯されてるのか?」
『でも、前に見たのって身体は黒っぽく変色してたよ~?』
「だよなぁ・・・」
『ボクはその様子を見た事ないですけど、
龍は生き物の中で上位の存在ですから抗っている・・・とかです?』
そういう可能性もあるのか。
俺達は瘴気に対してそこまで理解が進んでいるわけでは無いし、
フォレストトーレでは瘴気に犯された植物がモンスターに変化した奴を相手にしていた。
死体や植物、果ては鉱物も犯す事が出来るなら、
生きている俺達や龍ですら浸食されてもおかしくはない・・・か?
とりあえず、暴れ回るブルー・ドラゴンの顔に注視してしばらく見守る。
『見覚えのある紅ですよね?』
『見覚えのある紅だねぇ~』
「見覚えのある紅だな。
フロスト・ドラゴンの話も聞いてないみたいだし。
じゃあ、あれは魔神族や俺達を警戒しての混乱では無く、
瘴気に犯されていると仮定した場合助けるには・・・魔法剣か」
『やる前にフロスト・ドラゴンに話を着けておいた方がいいです』
それもそうだ。
瘴気の浄化の為とはいえ、
いきなり後ろから光竜一閃を撃った場合、
多少のダメージは通ってしまうのだから先に伝えておかないと余計面倒になるな。
「(おい、ニル)」
『(はぁーい、何ですのー?もう戻ってきますのー?)』
「(いや、そうじゃない。
ちょっとブルー・ドラゴンを抑えるからこっちに召喚するぞ)」
『(・・・OKですわー!)』
念話で遠くにいるこの場に居ない娘に話しかける。
流石にあのデカイ奴を三人で抑えられるとも思えないし、
浄化がすることで解決するなら少しの間だけこちらに救援に呼ぶことも致し方ない。
ニルがアルシェ達に確認を取ってOKを取り付けた言葉を聞いてから召喚の詠唱をする。
「《召喚:ニルチッイ》」
『呼ばれて飛び出てニルチッイ!ババァーンですわー!』
その名乗りはうるせぇよ。
「お前等、全力でブルー・ドラゴンをバインドで抑えつけろ。
その間に俺が近づいてフロスト・ドラゴンに用件を伝えてみる」
『あい』
『かしこまりました』
『守りには回す余裕はないですよ』
『ここしか魔法使いませんし全力を抑えますわー!』
なんか一人元気が空回っているきがしなくもないが、
全力でやらざるを得ないのは確かだしもういいや。
「《シンクロ!》」
俺の詠唱でそれぞれの身体からシンクロのオーラが吹き上がり、
俺だけで言えば四色のオーラがごちゃごちゃユラユラと揺らめく始めるのと同時に具合も悪くなる。
三人までは身体に異変は起こらない程度には精霊使いとしての質が上がっているのだが、
流石に四人になると激しい頭痛が頭を直撃する。
でも、これを行わないと解れを補填する為の制御力運用が上手く機能しないし仕方が無い事だ。
「行ってくる・・・、フロスト・ドラゴン!」
『《ウィンドバインド!》』
まずはニルの[ウィンドバインド]。
一番初めのバインドなので、
全員の制御力をつぎ込んだダウンバーストがブルー・ドラゴンを上空から襲いかかり、
強烈な勢いで地面に叩きつけそのまま抑えつける。
「ひとつ確認したい事があるんだ!」
『《シャドーバインド!》』
『《アースバインド!》』
身体を起こすには腕を使う必要がある。
続けて魔法を使ったクーデルカが、
ブルー・ドラゴンの上半身をぐるぐる巻きにしていく。
重ねて同時に下半身の身動きをノイが地面から生えてきた石の錠前で抑え込んでいく。
『何を確認したいのだ』
「ブルー・ドラゴンは瘴気に犯されている可能性がある。
証拠は弱いけれど目が以前に見た瘴気モンスターと同じなんです」
『確かに普通の状態ではない。
瘴気はこちらでは見かけない』
「魔神族が別の土地で瘴気を利用していました。
ステルシャトーの置き土産の可能性もありますが、
ひとまず浄化を試みたいので許可を頂きたい」
『《アイシクルバインド!!》』
ブルー・ドラゴンを抑えつける魔法群と、
俺を交互に見てから二匹のフロスト・ドラゴンは少し離れたところで止まった俺の元へやってきた。
俺が二匹に説明をしている間にも最後にアクアが全身を氷で覆い、
四種の魔法の檻はこれにて完成した。
あとは話が終わり、浄化が済むまで現状維持をしておいてもらうだけだ。
『お姉さま、すみません』
『問題ないよ~』
『これニルのバインド意味ありますのー?』
『無いわけないです。つべこべ言ってないで集中するです』
なんだろう・・・。
アクアがすごく頼りがいのある雰囲気があるな。
『確認』
『危険はあるか?』
「光属性の魔法剣を撃ちますが、
あまり私は使いこなせてはいないので幸いダメージは少なく済みます」
『・・・・我々が抑えるにも声を掛けても反応は無い』
『・・・・時間もないか』
「如何でしょう。
試してみて浄化が成功すれば落ち着きを取り戻すと思うのですが・・・」
まぁ本当に瘴気に犯されていたらの話だけれど。
証拠も目の紅さだけだし、効果がなかったら結局二匹に頼る事となる。
振り返った二匹の目には、
うちの娘達総出で抑え込んでいたブルー・ドラゴンがジワジワと力押しで勝ち始めている様子が窺えた。
『ますたー、もう持ちそうに無い~』
たかが2分されど2分。
全力で各自の魔法による拘束が綻びる度に調整をしていたのだが、
それでも単純に格が違う相手を抑えているのだ。
こんな化け物をよくもまぁ魔神族も倒せたな・・・。
『一撃のみ許可しよう』
『一撃であれば見逃そう』
「ありがとうございます!お前等もうちょっと耐えろよ!
《来よ!クラウソラス!》」
許可をもらってすぐにブルー・ドラゴンへと向き直る。
武器加階出来るほど光魔法に慣れていない為、
今回は素のクラウソラスを上段に掲げ魔法剣の奥義を叫ぶ。
「《星光よ煌やけ!星光天裂破っ!!》」
一閃や一刀は何度も撃つことを目的に組み立てているので、
浄化効果も必然的に薄くなってしまう。
今回の相手は超大物である事に加え、
生き物を相手に浄化ができるのかも試しのひとつとなる。
故に詠唱の前半で大きく掲げたクラウソラスが眩しいほどに輝き出し、
全力で振り下ろしながら後半の詠唱を行うと、
真上の空を漂う雲の一部が文字通りに裂け、
その裂け目から光の柱が降り注ぎブルー・ドラゴンをすっぽりと覆ってしまう。
『GUAAAAAAAAAA・・・・・!!!』
振り切ったクラウソラスに溜まっていた魔力はすべて失せ、
完全に光の中に飲み込まれたブルー・ドラゴンの悲鳴が、
始まるや否やニルが抑えつけに使っていた魔法制御力をフル活用してすべての空気振動をシャットダウンした。
『ニルの繊細なお耳にはキツかったのですわー』
「別にいいよ」
五月蠅かったのは事実だし。
子供たちが役目を終えて順々にアニマル形態へと姿を変えると俺の体をよじ登り、
精霊会議で決まった定位置へと巻き付いたり飛び乗ったりと纏わり付いてくる。
元々それほど長く効果のある技ではなく、
一撃で大型を屠る為に編み出した[蒼天氷覇斬]の派生になるわけだし、
しばらくすれば光の柱は上の方から薄れていき、
やがてブルー・ドラゴンが再び姿を現した時には、
こいつもまた地面に突っ伏して倒れた状態であった。
『『ブルー・ドラゴンっ!』』
「これで治っていればいいんだけどな」
『ぐったりしてるし大丈夫じゃない~?』
『瘴気ではなくショック療法になった可能性もありますね』
『うまくいけば明日にはアスペラルダに戻れそうです』
『ニルはもう帰っていいですのー?』
さて、実際どうだったのかな。
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