164 / 450
第11章 -休日のユレイアルド神聖教国-
†第11章† -01話-[ユレイアルド神聖教国-情報共有-]
しおりを挟む
「んああぁぁぁ・・・まだダルいなぁ・・・・」
アスペラルダにある龍の巣での出来事から早2日。
昨日は全力を用いてセリア先生との合流地点にいち早く到着し、
ゲートだけ設置しておいた。
今日は以前から予定はしていたけれど、
完全な休日扱いとしてついでに教国の書庫で調べ物をしようとクレアに連絡を取って手続きを進めた。
もう恒例になってきているが、
何か大きいことを済ませた後って2~3日はこんな感じで朝練もせず、
いつもより1~2時間のんびり寝過ごす事が多い。
それにしても・・・。
「腹が減ってるからかな・・・クーが重く感じるなぁ・・・」
精霊姉妹の配置はいつも通り。
寝る時はほとんどの娘がアニマル形態なのだが唯一ニュートラル形態のアクアが右側、
お腹のうえにクー、枕の左右にニルとノイ。
アニマが俺に纏ったままだ。
いつもは微かな重さしか感じないくらい軽いのに、
今日は珍しく少し重さを感じている。
布団の中に収まっている両腕を動かせば、
右腕にアクアの伸びた髪に触れたあとにお腹で丸くなっているクーデルカに触る。
向きなどもいつも同じなので頭に手を持って行くと、
寝ぼけているからか撫でるクーの頭が大きく感じる。
『んん・・・ふああああああ・・・・・・・。
お父さま、起きられたんですか?』
「ごめん、起こしたか?」
『いいえ、ウトウトはしておりましたので。
おはようございます、お父さま』
俺に撫でられた事で覚醒の早まったクーが、
モゾモゾとお腹から首元までトテトテ移動し、
布団から顔を出して俺の顔をぺろぺろ舐めてきたので、
左手で彼女の後を追って体を触るとやはり違和感を覚えたので眠気眼に瞑っていた目を開いて愛しの次女を瞳におさめる。
「・・・クー、進化したのか?」
『え?』
まだ頭がきちんと起ききっていないので確実ではないけれど、
思い起こせばそろそろアクアが進化してひと月だし、
進化してもおかしくはないかと考えて念の為クーに聞いてみたところ。
クー自身もわかっていないのか、
自分の体を俺の胸の上でキョロキョロと見回りクルクルと尻尾を追い確認を完了からストンとお座りをしてから再び俺に顔を向けた。
『クー・・・進化しています』
「アクアの時もだったけど、寝ている間に進化したんだな。おめでとう」
『お父さま、ありがとうございます。
これからはもっといっぱいご奉仕いたしますからね』
ゴロゴロゴロという猫特有の撫で声をあげながら、
俺の口元に頭を擦りつけてくるクーを俺も撫でくり回して朝から喜びのある目覚めを迎えた。
* * * * *
「そろそろ行ってきます。お父様、お母様」
「あぁ、ゆっくりしておいで。
予定では2~3日滞在するのだったね?」
「はい。やる事や調べたいことが多いですし、
魔神族についての新しい情報はお兄さんが居ないといけませんし」
「宗八。
クランメンバーも全員連れて行くと聞いているけれど、
一応注意はしておきなさいね」
「部下扱いにして教皇には会わせませんので大丈夫ですよ。
ゼノウ達ならともかくセーバー達はちょっと怪しいですからね・・・」
流石は王妃様だ。
この前の初謁見の様子から他国に出すには危機感を覚えたらしい。
俺も気づいていますし、
同じ懸念を抱いたアルシェとも相談して調整したのでご安心を。
連れて行くのは俺とアルシェ、護衛のマリエルはもちろん、
俺たちのお世話とアナザーワンの勉強にメリーと選抜メイドが数名。
戦闘技術の底上げ目的にゼノウPTとセーバーPTの計9名。
魔石の精製と興味本意でブルー・ドラゴンとフロスト・ドラゴン。
ちなみに龍共の寝床は小さい姿をとっている点と、
魔石を作る役目があるという理由で俺の部屋の一角を占領して結局ゴロゴロしているだけであった。
外に小屋でも建てると思っていたのに・・・。
もちろん朝のクーとのイチャイチャの隣でこいつらは寝ていた訳だな。
謁見の間を出るとそのまま新設された[ゲート]用の張りぼての扉に向かう。
ゲートの周囲には、
マリエル、ゼノウ達やセーバー達、
それと龍二匹が俺たちを待って集まっていた。
「《来よ、ガルヴォルン》」
詠唱をすれば目の前に黒い剣が出現し、
剣を手に取り張りぼてに近づければこの場所に設置したゲートが反応し魔法の鳥居が目に見える形で何もなかった空間に浮き上がってくる。
「《黒鍵》アサイン:ユレイアルド神聖教国」
ガチャリンコ。
鍵となるガルヴォルンを差しゲートに差し込みクルリと90度回すと、
ゲートは広がっていき、
その向こうは本来壁のはずなのに教国で与えられた家の内装がはっきりと映っている。
「先に入ってくれ。
先にメリーとクー達が掃除とかをしてくれているけど、
たぶん男と女で数名ずつの部屋割りになるからな」
「了解」
「はいはいっと」
ゼノウPT、そしてセーバーPTがいそいそと命令に従ってゲートを通っていく。
『エルレイニアはアクアーリィの相手で忙しい。
僕も役目を果たすために宗八に乗らせてもらおうかな』
「いや俺の魔力を直接飲まなくても、
すでに俺の魔力から造られた魔石があるんだからわざわざ乗る必要はないだろう。
その動くのが億劫な癖は直した方が健康にいいぞ、フリューネ」
精霊姉妹の長女であるアクアは、
今日の朝からフロスト・ドラゴンの背中に引っ付いて、
今度は彼女専用の魔石の精製に取り組んでもらっている。
その光景に本日の話し相手を取られたと思ったのか、
ブルー・ドラゴンがバッサバッサと小さくなった体躯を大きな翼ではためかせて近寄ってきたので頭を掴んで阻止をする。
巣では敬語を使って話していたのだが、
これからしばらくは一緒に行動することになるうえに、
自分たちは龍の恩人という部分も加味して、
特別に俺たちは堅っ苦しい喋り方を解放されていた。
『固い奴だね』
「フリューネの性根がだらけているだけだ。
というかお前達は小さくなってもかなり重いから嫌だ」
『ちっ、薄情な人間め』
どうせ、戦闘や魔石の精製以外では、
基本的にその辺に寝転がってウトウトしているだけの連中が龍という種族だ。
神聖教国に行ってもやることの大半はこいつらも寝ているだけだろうし、
せめてここで運動させておかないと。
そのまま俺たちは、
龍を引き連れてユレイアルド神聖教国内へと足を踏み入れた。
* * * * *
「で、なんでサーニャさんがこちらに?」
ゲートを超えた先はもちろん、
教皇から与えられた神聖教国側の拠点である家の中。
先発で来ていたメイド達に混じって何故か見覚えのある妹の方が一緒になって働いていた。
「魔法剣の件もあり、滞在中は水無月様を仮の主として扱うようにと命令を受けております」
「いや、うちには・・・」
『お父さまの身の回りのお世話はクーがおりますので結構です』
「申し訳ございませんが私も不本意ながら命令ですので」
まぁここでいくら押し問答をしても、
サーニャさんはサーニャさんで不本意とか言っちゃってるし。
サーニャさんと正面から睨みを効かすクーを抱き上げて話を進める事を選択する。
「こらこら、クー。それで?もう行っちゃってもいいのか?」
「ご用件はアルカンシェ姫殿下から伺っております。
準備は出来ておりますので行かれても問題ございません。
籠もるとも聞いておりますので飲み物のご用意や案内が私の仕事となります」
「って事らしい。流石に他国で勝手にウロウロは出来ないだろ?」
『・・・ご無礼を言いました。申し訳ありませんでした』
「こちらこそ大人げございませんで申し訳ありませんでした」
「片は付きましたか?」
「そっちも引き継ぎが終わったか」
アルシェがメリーとマリエルを引き連れてタイミングよく現れる。
俺たちが図書館で書物を漁っている間、
本当に従事をしに来たメイドはここに残すのだが、
メリーを筆頭にアナザー・ワンから指導を受けることとなっている。
もちろん、戦闘面の強化でだ。
「こんなにぞろぞろ動いたら目立つなぁ・・・。
ここって教徒しか住んでいないんだろ?」
ついでに龍まで居るしな・・・。
「そうですね。でも、分けて移動も出来ませんし。
アルカンシェ様を筆頭にアスペラルダからの一行と示すのが最適解かと」
「では、アルシェ様。マントの装着を致しましょう」
『当然、お父さまもですね』
メリーが影倉庫からアルシェの衣装箱を引っ張り出し、
中からアスペラルダ印の入った正式なマントを取り出すのに合わせ、
クーも俺の衣装箱から同じ大きさだけが違うマントを出して俺に付けようとしたが。
『うぅぅ・・・、成長して閻手の扱いが巧くなったのは嬉しいですが、
自分の手で直接お付けできないのが残念で仕方ありません・・・』
「加階して大きくなったし少し大人びた顔付きになった。
浮遊出来なくなっても従事に不満はないし不足はないよ」
『うぅぅ・・・、ありがとうございますお父さまぁ』
* * * * *
久しぶりに歩く町並みはやはり白を基調とした建物ばかりで、
初めて訪れたゼノウPTとセーバーPTは落ち着かない顔で俺たちの後を付いてくる。
先頭にアナザー・ワンとして顔も知られるサーニャさんが案内役に居るので、
露骨にジロジロ見られる事はないが、
もし居なかった場合面倒な事になっていたと思う。
クレアか教皇かは知らないけど、
配慮に感謝しよう。こっちは人間だけじゃなく龍も居るわけだし。
「アスペラルダ、アルカンシェ姫殿下一行をお連れしました。
一般兵訓練所への案内、アナザー・ワン訓練所への案内でここから案内役が分かれます」
道中すごい行列の出来ている部分が有り、
それを横目に大聖堂内に入ることが出来たけれど、
おそらくあれってクレアを目当てに来た列だよな・・・。
「わかりました。
ゼノウとセーバー達はひとまずいろんな環境を経験するために一般兵の方へ、
メリーと新部隊候補従者はアナザー・ワンの方へ。
私は教皇様へ挨拶をしておきたいのですが・・・」
「教皇様は現在も仕事で手が空きませんのでご挨拶は夕食時にお願いいたします。
クレシーダ様も同じく仕事をされておりますが、
後数刻もすればお昼の休憩に数時間空きますのでその際にお願いいたします」
「わかりました。では、私たちはこのまま予定通り図書館へ向かいましょう」
「勇者様方は如何される予定なのですか?」
サーニャの最後の質問を聞いたアルシェが振り返り俺を見つめる。
そういえば勇者たちの進捗も聞いておいた方がいいんだよなぁ。
こっちはこっちで忙しかったし・・・、
でもせっかくの休日だし出来れば読書で潰したい。
「2~3日の滞在中にメリオ達が暇になったらで良い」
「との事です。今回のメインはあくまで教国の書物ですので」
「かしこまりました。
では、各々あとはお願いします」
「こっちもここで分かれる事になる。
一応同盟関係になってるけどホームではないからな」
「いや・・・」
「俺たちにとってはアスペラルダもホームではないから身の振り方に違いはないだろ」
確かにその通りだ。
なんで俺はホームのアスペラルダ出身者を確保していないのだろうか。
「勇者達が居たら見といてくれ」
「「了解」」
「メリー達も無理をしないようにね」
「ありがとうございます、アルシェ様」
さて、あれから一ヶ月は経ったしどのくらい強くなったんだろうな。
装備や防具の強化ももちろんだけど、
精霊使いとしての成長だとか仲間がどうなっているとか、
ゼノウとセーバーの目にどう映るのかは気になるところだ。
「アルカンシェ様方はこちらへどうぞ」
サーニャの案内で図書館への案内を再開したわけだが、
龍共はこちらに付いてくるらしい。
「フリューネ、エルレイニアはアクアの魔石を造っているから付いてくるのはいいけど、
お前さんはこっちじゃなくて勇者かアナザー・ワンでも見といた方が得じゃないのか?」
『戦場は彼らとは別なのだよね?
だったら協力関係を結んだ君たちの側に居た方が安心して居眠りできるってものだよ』
「寝てる間って魔石造れているのか?」
『効率は落ちるけれど、
品質はまだもう1段階更新を挟まないといけないんだからね。
もっとどっしり構えておいた方が良いよ』
「俺だけじゃなくてアクアとアルシェの魔石が続くのも忘れるなよ」
現在フリューネは俺の魔石の2段階目を。
フロスト・ドラゴンがアクアの1段階目を造っているのだが、
2段階目以降はフリューネが担当することにしているので、
彼が居眠りをすればするほどフォレストトーレの戦争に間に合わないかもしれない恐れを抱いている。
「こちらが神聖教国で納められている書庫になります。
古い文献などはまだ精査の途中となりますので、
すべてをお見せできるわけではありませんが調べ終わった物はお見せするようにとクレア様から承っております」
「失われた文献についてはどうなった?」
「いつ誰に貸し出したという書類はございましたので、
いくつかは回収出来ましたが、
貸りた者が死亡しておりその後については追えない文献もございました」
まぁ俺たちは警察でもないし、
情報収集して足で捜索するにしても時間はないから、
クレアが合流したらそういう部隊を作る手を伝えておこう。
さながら探偵部隊かな?
「欲しいのはレベル上限の解放と聖剣と聖女の関係。
後は勇者様PTに使っていただく為のアーティファクトでしょうか」
「レベル解放はまだ見つかっておりません。
聖剣と聖女の関係についてはなんとか見つけることが出来ました。
お話はクレア様から伺ってくださいませ。
アーティファクトに関しても具足が1つといった進捗でございます」
サーニャの説明から感じた印象ははっきり言って微妙だ・・・。
見つかった文献は俺の予想と違ったところで、
既に勇者の手にエクスカリバーが渡っているのだから意味はあまりないだろうし、
アーティファクトの防具ってことは結局攻撃に期待出来るのは勇者だけってことになる。
「お兄さん、とりあえず片端から読んで行きましょう」
「そうだな。
じゃあ、サーニャさん。何かあれば声を掛けてください」
「かしこまりました。
後ほどお飲み物を運んで参りますのでごゆるりとおくつろぎくださいませ」
サーニャの案内は終わり、
アルシェに促されるままに書庫へと足を踏み入れる。
ざっと見た感じだとアスペラルダの2倍くらいの書物が収められており、
その一部の棚には本ではなく報告書のような紙を紐でまとめた冊子を集めた棚もあった。
失われた文献はあそこに納められていたのかな・・・?
『お父さまとアルシェ様はいつもの様に座っていてください。
マリエルさんも離れすぎないようにお願いします。
クーが本をお持ちいたしますの』
「はぁーい」
「頼む。お前らは子供椅子用意するか?」
『ますたーの上に寝転がるからいらな~い』
『ニルも上でいいですわー!』
『ボクは腰に座ります』
「おい、アニマ。お前も協力してくれ」
『わかりました。ワタクシァ適当に座って読んでいます、です』
俺が子供達に確認をしている間にも、
アルシェは長いソファの一番端に座ると影倉庫から枕をひとつ取り出すと少し離れた位置にそっと置いて待機する。
「お兄さん、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「(あまぁ~~~~~~~い!!!)」
いつもの流れでいつものようにアルシェの膝の上に頭を誘導され、
そのまま長ソファに寝転がり枕を腰の下に挟み、
クーが配給して積み上げた本を上から取るとそのままの体制で読み始める。
「お兄さん、シンクロを忘れていますよ」
「あ、そうだった。
今のところは3人までだから・・・説明の下手なアクアとニルは確実だな。
あとはノイもシンクロしておこうか」
『クーでなくていいのです?』
『クーは報告などの業務に慣れておりますし本の配給と返却も致しますから、
本日のシンクロはノイ姉様にお譲りいたします』
『なるほど、そういうことならありがたく受けるです』
「「「『『『《シンクロ》』』』」」」
アルシェとマリエルも含める6人の体からそれぞれを象徴するオーラが吹き出し、
俺だけは3色の魔力が体の縁をなぞるような形に収まっている。
このシンクロの戦闘以外の利用法が存外馬鹿に出来ず、
今回のような情報を集める必要があるときなどに人海戦術を取りやすくなっている。
俺が本を読み始めると、
俺の胸の上にアクアが寝転がり、ニルがお腹の上に降り立ち、
ノイが腰に座ってソファにもたれ掛かりそれぞれが本を読み始める。
マリエルとアニマも空いたソファに寝転がりながら読み始め、
フリューネとフロスト・ドラゴンはそれぞれ俺の近くに丸くなって居眠りを始めた。
* * * * *
コンコンッ!
「クー」
『はい。どちら様でしょうか?』
「クレシーダです。入室してよろしいですか?」
「クレア様、ここは教国の書庫なのですから確認は不要かと・・・」
しばらく読書に集中していた俺たちは、
クレアの訪問で昼を回っていることに気がついた。
「開けてあげて」
『はい、お父さま。クレシーダ様、どうぞ』
「あ、ありがとうございます。
アルシェ、水無月さんお久しぶりです」
「クレア、久しぶり。
こんな姿ですみません・・・」
「久しぶり。俺もすぐには動けなくてな、申し訳ない」
「あはは・・・、相変わらずなようで・・・。
私はこれから昼食なんですけど一緒にしませんか?」
もちろん朝ご飯を食べて以降何も口にしてはおらず、
昼食を今の今まで忘れていたのだからご相伴させていただこう。
アクア達に退いてもらって立ち上がるためにソファに座り直していると、
クレアの肩に小さい精霊が乗っかっているのを発見する。
「クレアの精霊、もう加階したのか?」
「あ、気づきました?ハミング、ご挨拶を」
『お久しぶりでございます精霊使いのお兄さん。
クレアの契約精霊、ハミングウェイでございます。
お気軽にハミングとお呼びください』
肩口からちゃんと姿を現し正面まで進んで来て挨拶してくれた。
以前に教国に来た際にクレアと契約させたのだが、
その際に名前は決まっていなかった。
手のひらを出すとフワリと乗ってくれたので改めて姿を眺めると、
クレアとお揃いの格好をしていることがわかる。
「核は専用核に変更したか?」
『そうでございます』
「眠気はあるか?」
『交換するまではございましたが、今はありません』
ハキハキと喋る姿にノイと同じように浮遊精霊時代の長さを感じる。
しかし、あれからひと月と少ししか経っていないのに加階するとは・・・。
俺はクレアに顔を向け直し質問をした。
「クレア、あれからハミングに何をさせてた?」
「何を・・・?
う~ん、水無月さんの言う通りに魔力は基本的に使わせていましたし、
夜はランタンが無くても昼間の様な明るさにしてもらったりしていましたね」
契約をさせた時は確かにそんな感じの話はしていた。
フォレストトーレでは光魔法が役に立つと思ったし、
戦力は多いに越したことはなかったから。
スライムαの宝玉も事前に用意しておいた物を渡して、
加階の手順も紙に残してクレアと念の為シスターズに渡していた。
「飯を食いながらちょっと話を詰めるか・・・」
「わかりました。
トーニャ、サーニャ、場所を移しましょう」
「「かしこまりました」」
クレアの護衛で付いていたトーニャさんも合流し、
俺たちを引き連れて客人を招く為の食堂へと案内された。
「侍従部隊の方はアナザー・ワンの空きメンバーで対応しており、
食事もそちらでいただくこととなっております。
また、兵士の訓練所へ向かわれた方々も別室にて食事を提供しております」
「あっちはあっちで上手くやるだろうから別でかまわない」
サーニャさんに椅子を引かれ座りながら話を通す。
子供用の椅子も用意されており、
しっかりと人数分を用意してくれていた。
フリューネ達も俺たちが落ち着いたら動線から外れた位置に居座りまた眠り始めた。
「食事は静かにお願いしたいのですが・・・」
「話す時間をなかなか確保出来ないんだろう?
いまのうちに話しておかないと夜だと疲れが出てまともに話せないんじゃないのか?」
「それは・・・」
「サーニャ、こちらも話がある以上時間を無駄には出来ません。
普段であればいけないことでしょうけれど、目を瞑ってください」
「・・・かしこまりました」
渋々クレアの言葉に従いクルルクス姉妹が黙るのを確認してから、
まずは簡潔に先日俺たちが体験した巣での出来事を伝え、
メリーがまとめた報告書を背後に立つトーニャに渡す。
「詳しくはその報告書とギルドから上がってくる報告書で確認して対策は立てて欲しい」
「お預かりいたします」
「先に教国の進捗を聞いてもよろしいですか?」
「わかりました。トーニャ、こちらの書類もお渡しして」
「こちらが進捗報告書となります」
『クーがお預かりいたします』
報告書と言っても進展がなければ書くことも少ない。
トーニャが差し出す報告書は5枚しかなく、
それをクーデルカが代わりに受け取りすぐさま影の中に落とした。
「まず、メリオ様が文献から見つけて手にしたアーティファクトですが、
ブーツ型の物でした。
効果は装着者の魔力を自動的に吸い上げて空を舞うという感じと報告を受けています」
「機動力は魔法でどうにでもなるから出来れば防具か武器が欲しかったな・・・」
「魔法で補うにも空を舞う魔法は現在存在していませんよ?」
「お兄さんがニルちゃんと一緒に創りました。
トーニャさんに渡した報告書にも情報は載せています」
アルシェの言葉に驚きの顔をするクレアとは対照的に、
表情は動かさずに息だけを飲んだクルルクス姉妹は互いに見つめ合うと、
トーニャさんは俺の後ろからクレアの側へと移動して報告書をぱらぱらとめくり始める。
「ありました。こちらです、クレア様」
「・・・・確かに。
これでは期待には応えられてはいませんね」
「まぁ誰でも扱えるわけではないし、
うちのPTで使うのは専らそっちのマリエルだ」
クレアに視線を向けられたマリエルは城で教えられたとおり、
無駄口は叩かず口をナプキンで拭くと軽く会釈をする。
「お兄さんは別の方法で空を移動出来ますし、
私は後方で指示出しや支援を行うので不要なのです」
「アーティファクトは理解した。
あとは・・・サーニャさんが言ってたけど聖剣関連の文献の件だ」
「はい、無事に見つけることが出来ました。
とはいえ、1ヶ月掛けてやっと1つという体たらくですが・・・」
「失せた紙の捜索なんてやったことはないんだろうし、
ひと月で見つけられただけで重畳だろう」
「内容はどういう物でしたか?」
「水無月さんが仰っていたように聖剣への魔力供給が記載されていた他、
聖剣は800年ほど前の魔王との戦闘に用いられていたとのことです」
見つかった文献についてアルシェが中の質問をすると、
クレアが元より用意をしていた様にすらすらと報告を始める。
前半は予想通りだから別に興味を引かれる物ではなかったのだが、
後半は興味を引かれる内容だった。
「800年前にも魔族と争っていたのか?」
「私も初耳です。
ただ、アスペラルダもどんなに古くとも600年前程度までしか資料は残っていなかったはずです」
それは俺も知っている。
だから、アスペラルダやフォレストトーレといった各国が建国したのは近年であり、
アスペラルダになる前には別の国が長くあの地に存在していた事もわかっていた。
戦争を操っていた魔王を古の時代の勇者が倒し、
痛み分けで築いた長い平和の後に政変と共にアスペラルダへと国名を変え、
程なくして魔族と人間の戦争が再び始まった・・・。
今回の戦争は魔族側から仕掛けてきたとも聞いている。
「その時の勇者はどうなった?」
「魔王を倒した記述は残っておりますし、
その後決戦の舞台となった国から火の国に戻り感謝祭を開いた・・・、
ところまでは分かるのですが以降は不明です」
「私たちが用いた魔法陣で召喚されたのであれば、
役目を終えた後に元の世界へと帰還を果たすかと思いますが?」
「はい、教国もその判断を下しておりますので、
その後は帰還して消息を絶ったと考えております」
個人的には異世界人の話であるし興味はある。
しかし、それ以上の文献は見つけられていないそうなので深掘りも出来ないか・・・。
はい、次。
アスペラルダにある龍の巣での出来事から早2日。
昨日は全力を用いてセリア先生との合流地点にいち早く到着し、
ゲートだけ設置しておいた。
今日は以前から予定はしていたけれど、
完全な休日扱いとしてついでに教国の書庫で調べ物をしようとクレアに連絡を取って手続きを進めた。
もう恒例になってきているが、
何か大きいことを済ませた後って2~3日はこんな感じで朝練もせず、
いつもより1~2時間のんびり寝過ごす事が多い。
それにしても・・・。
「腹が減ってるからかな・・・クーが重く感じるなぁ・・・」
精霊姉妹の配置はいつも通り。
寝る時はほとんどの娘がアニマル形態なのだが唯一ニュートラル形態のアクアが右側、
お腹のうえにクー、枕の左右にニルとノイ。
アニマが俺に纏ったままだ。
いつもは微かな重さしか感じないくらい軽いのに、
今日は珍しく少し重さを感じている。
布団の中に収まっている両腕を動かせば、
右腕にアクアの伸びた髪に触れたあとにお腹で丸くなっているクーデルカに触る。
向きなどもいつも同じなので頭に手を持って行くと、
寝ぼけているからか撫でるクーの頭が大きく感じる。
『んん・・・ふああああああ・・・・・・・。
お父さま、起きられたんですか?』
「ごめん、起こしたか?」
『いいえ、ウトウトはしておりましたので。
おはようございます、お父さま』
俺に撫でられた事で覚醒の早まったクーが、
モゾモゾとお腹から首元までトテトテ移動し、
布団から顔を出して俺の顔をぺろぺろ舐めてきたので、
左手で彼女の後を追って体を触るとやはり違和感を覚えたので眠気眼に瞑っていた目を開いて愛しの次女を瞳におさめる。
「・・・クー、進化したのか?」
『え?』
まだ頭がきちんと起ききっていないので確実ではないけれど、
思い起こせばそろそろアクアが進化してひと月だし、
進化してもおかしくはないかと考えて念の為クーに聞いてみたところ。
クー自身もわかっていないのか、
自分の体を俺の胸の上でキョロキョロと見回りクルクルと尻尾を追い確認を完了からストンとお座りをしてから再び俺に顔を向けた。
『クー・・・進化しています』
「アクアの時もだったけど、寝ている間に進化したんだな。おめでとう」
『お父さま、ありがとうございます。
これからはもっといっぱいご奉仕いたしますからね』
ゴロゴロゴロという猫特有の撫で声をあげながら、
俺の口元に頭を擦りつけてくるクーを俺も撫でくり回して朝から喜びのある目覚めを迎えた。
* * * * *
「そろそろ行ってきます。お父様、お母様」
「あぁ、ゆっくりしておいで。
予定では2~3日滞在するのだったね?」
「はい。やる事や調べたいことが多いですし、
魔神族についての新しい情報はお兄さんが居ないといけませんし」
「宗八。
クランメンバーも全員連れて行くと聞いているけれど、
一応注意はしておきなさいね」
「部下扱いにして教皇には会わせませんので大丈夫ですよ。
ゼノウ達ならともかくセーバー達はちょっと怪しいですからね・・・」
流石は王妃様だ。
この前の初謁見の様子から他国に出すには危機感を覚えたらしい。
俺も気づいていますし、
同じ懸念を抱いたアルシェとも相談して調整したのでご安心を。
連れて行くのは俺とアルシェ、護衛のマリエルはもちろん、
俺たちのお世話とアナザーワンの勉強にメリーと選抜メイドが数名。
戦闘技術の底上げ目的にゼノウPTとセーバーPTの計9名。
魔石の精製と興味本意でブルー・ドラゴンとフロスト・ドラゴン。
ちなみに龍共の寝床は小さい姿をとっている点と、
魔石を作る役目があるという理由で俺の部屋の一角を占領して結局ゴロゴロしているだけであった。
外に小屋でも建てると思っていたのに・・・。
もちろん朝のクーとのイチャイチャの隣でこいつらは寝ていた訳だな。
謁見の間を出るとそのまま新設された[ゲート]用の張りぼての扉に向かう。
ゲートの周囲には、
マリエル、ゼノウ達やセーバー達、
それと龍二匹が俺たちを待って集まっていた。
「《来よ、ガルヴォルン》」
詠唱をすれば目の前に黒い剣が出現し、
剣を手に取り張りぼてに近づければこの場所に設置したゲートが反応し魔法の鳥居が目に見える形で何もなかった空間に浮き上がってくる。
「《黒鍵》アサイン:ユレイアルド神聖教国」
ガチャリンコ。
鍵となるガルヴォルンを差しゲートに差し込みクルリと90度回すと、
ゲートは広がっていき、
その向こうは本来壁のはずなのに教国で与えられた家の内装がはっきりと映っている。
「先に入ってくれ。
先にメリーとクー達が掃除とかをしてくれているけど、
たぶん男と女で数名ずつの部屋割りになるからな」
「了解」
「はいはいっと」
ゼノウPT、そしてセーバーPTがいそいそと命令に従ってゲートを通っていく。
『エルレイニアはアクアーリィの相手で忙しい。
僕も役目を果たすために宗八に乗らせてもらおうかな』
「いや俺の魔力を直接飲まなくても、
すでに俺の魔力から造られた魔石があるんだからわざわざ乗る必要はないだろう。
その動くのが億劫な癖は直した方が健康にいいぞ、フリューネ」
精霊姉妹の長女であるアクアは、
今日の朝からフロスト・ドラゴンの背中に引っ付いて、
今度は彼女専用の魔石の精製に取り組んでもらっている。
その光景に本日の話し相手を取られたと思ったのか、
ブルー・ドラゴンがバッサバッサと小さくなった体躯を大きな翼ではためかせて近寄ってきたので頭を掴んで阻止をする。
巣では敬語を使って話していたのだが、
これからしばらくは一緒に行動することになるうえに、
自分たちは龍の恩人という部分も加味して、
特別に俺たちは堅っ苦しい喋り方を解放されていた。
『固い奴だね』
「フリューネの性根がだらけているだけだ。
というかお前達は小さくなってもかなり重いから嫌だ」
『ちっ、薄情な人間め』
どうせ、戦闘や魔石の精製以外では、
基本的にその辺に寝転がってウトウトしているだけの連中が龍という種族だ。
神聖教国に行ってもやることの大半はこいつらも寝ているだけだろうし、
せめてここで運動させておかないと。
そのまま俺たちは、
龍を引き連れてユレイアルド神聖教国内へと足を踏み入れた。
* * * * *
「で、なんでサーニャさんがこちらに?」
ゲートを超えた先はもちろん、
教皇から与えられた神聖教国側の拠点である家の中。
先発で来ていたメイド達に混じって何故か見覚えのある妹の方が一緒になって働いていた。
「魔法剣の件もあり、滞在中は水無月様を仮の主として扱うようにと命令を受けております」
「いや、うちには・・・」
『お父さまの身の回りのお世話はクーがおりますので結構です』
「申し訳ございませんが私も不本意ながら命令ですので」
まぁここでいくら押し問答をしても、
サーニャさんはサーニャさんで不本意とか言っちゃってるし。
サーニャさんと正面から睨みを効かすクーを抱き上げて話を進める事を選択する。
「こらこら、クー。それで?もう行っちゃってもいいのか?」
「ご用件はアルカンシェ姫殿下から伺っております。
準備は出来ておりますので行かれても問題ございません。
籠もるとも聞いておりますので飲み物のご用意や案内が私の仕事となります」
「って事らしい。流石に他国で勝手にウロウロは出来ないだろ?」
『・・・ご無礼を言いました。申し訳ありませんでした』
「こちらこそ大人げございませんで申し訳ありませんでした」
「片は付きましたか?」
「そっちも引き継ぎが終わったか」
アルシェがメリーとマリエルを引き連れてタイミングよく現れる。
俺たちが図書館で書物を漁っている間、
本当に従事をしに来たメイドはここに残すのだが、
メリーを筆頭にアナザー・ワンから指導を受けることとなっている。
もちろん、戦闘面の強化でだ。
「こんなにぞろぞろ動いたら目立つなぁ・・・。
ここって教徒しか住んでいないんだろ?」
ついでに龍まで居るしな・・・。
「そうですね。でも、分けて移動も出来ませんし。
アルカンシェ様を筆頭にアスペラルダからの一行と示すのが最適解かと」
「では、アルシェ様。マントの装着を致しましょう」
『当然、お父さまもですね』
メリーが影倉庫からアルシェの衣装箱を引っ張り出し、
中からアスペラルダ印の入った正式なマントを取り出すのに合わせ、
クーも俺の衣装箱から同じ大きさだけが違うマントを出して俺に付けようとしたが。
『うぅぅ・・・、成長して閻手の扱いが巧くなったのは嬉しいですが、
自分の手で直接お付けできないのが残念で仕方ありません・・・』
「加階して大きくなったし少し大人びた顔付きになった。
浮遊出来なくなっても従事に不満はないし不足はないよ」
『うぅぅ・・・、ありがとうございますお父さまぁ』
* * * * *
久しぶりに歩く町並みはやはり白を基調とした建物ばかりで、
初めて訪れたゼノウPTとセーバーPTは落ち着かない顔で俺たちの後を付いてくる。
先頭にアナザー・ワンとして顔も知られるサーニャさんが案内役に居るので、
露骨にジロジロ見られる事はないが、
もし居なかった場合面倒な事になっていたと思う。
クレアか教皇かは知らないけど、
配慮に感謝しよう。こっちは人間だけじゃなく龍も居るわけだし。
「アスペラルダ、アルカンシェ姫殿下一行をお連れしました。
一般兵訓練所への案内、アナザー・ワン訓練所への案内でここから案内役が分かれます」
道中すごい行列の出来ている部分が有り、
それを横目に大聖堂内に入ることが出来たけれど、
おそらくあれってクレアを目当てに来た列だよな・・・。
「わかりました。
ゼノウとセーバー達はひとまずいろんな環境を経験するために一般兵の方へ、
メリーと新部隊候補従者はアナザー・ワンの方へ。
私は教皇様へ挨拶をしておきたいのですが・・・」
「教皇様は現在も仕事で手が空きませんのでご挨拶は夕食時にお願いいたします。
クレシーダ様も同じく仕事をされておりますが、
後数刻もすればお昼の休憩に数時間空きますのでその際にお願いいたします」
「わかりました。では、私たちはこのまま予定通り図書館へ向かいましょう」
「勇者様方は如何される予定なのですか?」
サーニャの最後の質問を聞いたアルシェが振り返り俺を見つめる。
そういえば勇者たちの進捗も聞いておいた方がいいんだよなぁ。
こっちはこっちで忙しかったし・・・、
でもせっかくの休日だし出来れば読書で潰したい。
「2~3日の滞在中にメリオ達が暇になったらで良い」
「との事です。今回のメインはあくまで教国の書物ですので」
「かしこまりました。
では、各々あとはお願いします」
「こっちもここで分かれる事になる。
一応同盟関係になってるけどホームではないからな」
「いや・・・」
「俺たちにとってはアスペラルダもホームではないから身の振り方に違いはないだろ」
確かにその通りだ。
なんで俺はホームのアスペラルダ出身者を確保していないのだろうか。
「勇者達が居たら見といてくれ」
「「了解」」
「メリー達も無理をしないようにね」
「ありがとうございます、アルシェ様」
さて、あれから一ヶ月は経ったしどのくらい強くなったんだろうな。
装備や防具の強化ももちろんだけど、
精霊使いとしての成長だとか仲間がどうなっているとか、
ゼノウとセーバーの目にどう映るのかは気になるところだ。
「アルカンシェ様方はこちらへどうぞ」
サーニャの案内で図書館への案内を再開したわけだが、
龍共はこちらに付いてくるらしい。
「フリューネ、エルレイニアはアクアの魔石を造っているから付いてくるのはいいけど、
お前さんはこっちじゃなくて勇者かアナザー・ワンでも見といた方が得じゃないのか?」
『戦場は彼らとは別なのだよね?
だったら協力関係を結んだ君たちの側に居た方が安心して居眠りできるってものだよ』
「寝てる間って魔石造れているのか?」
『効率は落ちるけれど、
品質はまだもう1段階更新を挟まないといけないんだからね。
もっとどっしり構えておいた方が良いよ』
「俺だけじゃなくてアクアとアルシェの魔石が続くのも忘れるなよ」
現在フリューネは俺の魔石の2段階目を。
フロスト・ドラゴンがアクアの1段階目を造っているのだが、
2段階目以降はフリューネが担当することにしているので、
彼が居眠りをすればするほどフォレストトーレの戦争に間に合わないかもしれない恐れを抱いている。
「こちらが神聖教国で納められている書庫になります。
古い文献などはまだ精査の途中となりますので、
すべてをお見せできるわけではありませんが調べ終わった物はお見せするようにとクレア様から承っております」
「失われた文献についてはどうなった?」
「いつ誰に貸し出したという書類はございましたので、
いくつかは回収出来ましたが、
貸りた者が死亡しておりその後については追えない文献もございました」
まぁ俺たちは警察でもないし、
情報収集して足で捜索するにしても時間はないから、
クレアが合流したらそういう部隊を作る手を伝えておこう。
さながら探偵部隊かな?
「欲しいのはレベル上限の解放と聖剣と聖女の関係。
後は勇者様PTに使っていただく為のアーティファクトでしょうか」
「レベル解放はまだ見つかっておりません。
聖剣と聖女の関係についてはなんとか見つけることが出来ました。
お話はクレア様から伺ってくださいませ。
アーティファクトに関しても具足が1つといった進捗でございます」
サーニャの説明から感じた印象ははっきり言って微妙だ・・・。
見つかった文献は俺の予想と違ったところで、
既に勇者の手にエクスカリバーが渡っているのだから意味はあまりないだろうし、
アーティファクトの防具ってことは結局攻撃に期待出来るのは勇者だけってことになる。
「お兄さん、とりあえず片端から読んで行きましょう」
「そうだな。
じゃあ、サーニャさん。何かあれば声を掛けてください」
「かしこまりました。
後ほどお飲み物を運んで参りますのでごゆるりとおくつろぎくださいませ」
サーニャの案内は終わり、
アルシェに促されるままに書庫へと足を踏み入れる。
ざっと見た感じだとアスペラルダの2倍くらいの書物が収められており、
その一部の棚には本ではなく報告書のような紙を紐でまとめた冊子を集めた棚もあった。
失われた文献はあそこに納められていたのかな・・・?
『お父さまとアルシェ様はいつもの様に座っていてください。
マリエルさんも離れすぎないようにお願いします。
クーが本をお持ちいたしますの』
「はぁーい」
「頼む。お前らは子供椅子用意するか?」
『ますたーの上に寝転がるからいらな~い』
『ニルも上でいいですわー!』
『ボクは腰に座ります』
「おい、アニマ。お前も協力してくれ」
『わかりました。ワタクシァ適当に座って読んでいます、です』
俺が子供達に確認をしている間にも、
アルシェは長いソファの一番端に座ると影倉庫から枕をひとつ取り出すと少し離れた位置にそっと置いて待機する。
「お兄さん、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「(あまぁ~~~~~~~い!!!)」
いつもの流れでいつものようにアルシェの膝の上に頭を誘導され、
そのまま長ソファに寝転がり枕を腰の下に挟み、
クーが配給して積み上げた本を上から取るとそのままの体制で読み始める。
「お兄さん、シンクロを忘れていますよ」
「あ、そうだった。
今のところは3人までだから・・・説明の下手なアクアとニルは確実だな。
あとはノイもシンクロしておこうか」
『クーでなくていいのです?』
『クーは報告などの業務に慣れておりますし本の配給と返却も致しますから、
本日のシンクロはノイ姉様にお譲りいたします』
『なるほど、そういうことならありがたく受けるです』
「「「『『『《シンクロ》』』』」」」
アルシェとマリエルも含める6人の体からそれぞれを象徴するオーラが吹き出し、
俺だけは3色の魔力が体の縁をなぞるような形に収まっている。
このシンクロの戦闘以外の利用法が存外馬鹿に出来ず、
今回のような情報を集める必要があるときなどに人海戦術を取りやすくなっている。
俺が本を読み始めると、
俺の胸の上にアクアが寝転がり、ニルがお腹の上に降り立ち、
ノイが腰に座ってソファにもたれ掛かりそれぞれが本を読み始める。
マリエルとアニマも空いたソファに寝転がりながら読み始め、
フリューネとフロスト・ドラゴンはそれぞれ俺の近くに丸くなって居眠りを始めた。
* * * * *
コンコンッ!
「クー」
『はい。どちら様でしょうか?』
「クレシーダです。入室してよろしいですか?」
「クレア様、ここは教国の書庫なのですから確認は不要かと・・・」
しばらく読書に集中していた俺たちは、
クレアの訪問で昼を回っていることに気がついた。
「開けてあげて」
『はい、お父さま。クレシーダ様、どうぞ』
「あ、ありがとうございます。
アルシェ、水無月さんお久しぶりです」
「クレア、久しぶり。
こんな姿ですみません・・・」
「久しぶり。俺もすぐには動けなくてな、申し訳ない」
「あはは・・・、相変わらずなようで・・・。
私はこれから昼食なんですけど一緒にしませんか?」
もちろん朝ご飯を食べて以降何も口にしてはおらず、
昼食を今の今まで忘れていたのだからご相伴させていただこう。
アクア達に退いてもらって立ち上がるためにソファに座り直していると、
クレアの肩に小さい精霊が乗っかっているのを発見する。
「クレアの精霊、もう加階したのか?」
「あ、気づきました?ハミング、ご挨拶を」
『お久しぶりでございます精霊使いのお兄さん。
クレアの契約精霊、ハミングウェイでございます。
お気軽にハミングとお呼びください』
肩口からちゃんと姿を現し正面まで進んで来て挨拶してくれた。
以前に教国に来た際にクレアと契約させたのだが、
その際に名前は決まっていなかった。
手のひらを出すとフワリと乗ってくれたので改めて姿を眺めると、
クレアとお揃いの格好をしていることがわかる。
「核は専用核に変更したか?」
『そうでございます』
「眠気はあるか?」
『交換するまではございましたが、今はありません』
ハキハキと喋る姿にノイと同じように浮遊精霊時代の長さを感じる。
しかし、あれからひと月と少ししか経っていないのに加階するとは・・・。
俺はクレアに顔を向け直し質問をした。
「クレア、あれからハミングに何をさせてた?」
「何を・・・?
う~ん、水無月さんの言う通りに魔力は基本的に使わせていましたし、
夜はランタンが無くても昼間の様な明るさにしてもらったりしていましたね」
契約をさせた時は確かにそんな感じの話はしていた。
フォレストトーレでは光魔法が役に立つと思ったし、
戦力は多いに越したことはなかったから。
スライムαの宝玉も事前に用意しておいた物を渡して、
加階の手順も紙に残してクレアと念の為シスターズに渡していた。
「飯を食いながらちょっと話を詰めるか・・・」
「わかりました。
トーニャ、サーニャ、場所を移しましょう」
「「かしこまりました」」
クレアの護衛で付いていたトーニャさんも合流し、
俺たちを引き連れて客人を招く為の食堂へと案内された。
「侍従部隊の方はアナザー・ワンの空きメンバーで対応しており、
食事もそちらでいただくこととなっております。
また、兵士の訓練所へ向かわれた方々も別室にて食事を提供しております」
「あっちはあっちで上手くやるだろうから別でかまわない」
サーニャさんに椅子を引かれ座りながら話を通す。
子供用の椅子も用意されており、
しっかりと人数分を用意してくれていた。
フリューネ達も俺たちが落ち着いたら動線から外れた位置に居座りまた眠り始めた。
「食事は静かにお願いしたいのですが・・・」
「話す時間をなかなか確保出来ないんだろう?
いまのうちに話しておかないと夜だと疲れが出てまともに話せないんじゃないのか?」
「それは・・・」
「サーニャ、こちらも話がある以上時間を無駄には出来ません。
普段であればいけないことでしょうけれど、目を瞑ってください」
「・・・かしこまりました」
渋々クレアの言葉に従いクルルクス姉妹が黙るのを確認してから、
まずは簡潔に先日俺たちが体験した巣での出来事を伝え、
メリーがまとめた報告書を背後に立つトーニャに渡す。
「詳しくはその報告書とギルドから上がってくる報告書で確認して対策は立てて欲しい」
「お預かりいたします」
「先に教国の進捗を聞いてもよろしいですか?」
「わかりました。トーニャ、こちらの書類もお渡しして」
「こちらが進捗報告書となります」
『クーがお預かりいたします』
報告書と言っても進展がなければ書くことも少ない。
トーニャが差し出す報告書は5枚しかなく、
それをクーデルカが代わりに受け取りすぐさま影の中に落とした。
「まず、メリオ様が文献から見つけて手にしたアーティファクトですが、
ブーツ型の物でした。
効果は装着者の魔力を自動的に吸い上げて空を舞うという感じと報告を受けています」
「機動力は魔法でどうにでもなるから出来れば防具か武器が欲しかったな・・・」
「魔法で補うにも空を舞う魔法は現在存在していませんよ?」
「お兄さんがニルちゃんと一緒に創りました。
トーニャさんに渡した報告書にも情報は載せています」
アルシェの言葉に驚きの顔をするクレアとは対照的に、
表情は動かさずに息だけを飲んだクルルクス姉妹は互いに見つめ合うと、
トーニャさんは俺の後ろからクレアの側へと移動して報告書をぱらぱらとめくり始める。
「ありました。こちらです、クレア様」
「・・・・確かに。
これでは期待には応えられてはいませんね」
「まぁ誰でも扱えるわけではないし、
うちのPTで使うのは専らそっちのマリエルだ」
クレアに視線を向けられたマリエルは城で教えられたとおり、
無駄口は叩かず口をナプキンで拭くと軽く会釈をする。
「お兄さんは別の方法で空を移動出来ますし、
私は後方で指示出しや支援を行うので不要なのです」
「アーティファクトは理解した。
あとは・・・サーニャさんが言ってたけど聖剣関連の文献の件だ」
「はい、無事に見つけることが出来ました。
とはいえ、1ヶ月掛けてやっと1つという体たらくですが・・・」
「失せた紙の捜索なんてやったことはないんだろうし、
ひと月で見つけられただけで重畳だろう」
「内容はどういう物でしたか?」
「水無月さんが仰っていたように聖剣への魔力供給が記載されていた他、
聖剣は800年ほど前の魔王との戦闘に用いられていたとのことです」
見つかった文献についてアルシェが中の質問をすると、
クレアが元より用意をしていた様にすらすらと報告を始める。
前半は予想通りだから別に興味を引かれる物ではなかったのだが、
後半は興味を引かれる内容だった。
「800年前にも魔族と争っていたのか?」
「私も初耳です。
ただ、アスペラルダもどんなに古くとも600年前程度までしか資料は残っていなかったはずです」
それは俺も知っている。
だから、アスペラルダやフォレストトーレといった各国が建国したのは近年であり、
アスペラルダになる前には別の国が長くあの地に存在していた事もわかっていた。
戦争を操っていた魔王を古の時代の勇者が倒し、
痛み分けで築いた長い平和の後に政変と共にアスペラルダへと国名を変え、
程なくして魔族と人間の戦争が再び始まった・・・。
今回の戦争は魔族側から仕掛けてきたとも聞いている。
「その時の勇者はどうなった?」
「魔王を倒した記述は残っておりますし、
その後決戦の舞台となった国から火の国に戻り感謝祭を開いた・・・、
ところまでは分かるのですが以降は不明です」
「私たちが用いた魔法陣で召喚されたのであれば、
役目を終えた後に元の世界へと帰還を果たすかと思いますが?」
「はい、教国もその判断を下しておりますので、
その後は帰還して消息を絶ったと考えております」
個人的には異世界人の話であるし興味はある。
しかし、それ以上の文献は見つけられていないそうなので深掘りも出来ないか・・・。
はい、次。
11
あなたにおすすめの小説
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される
秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる