特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第11章 -休日のユレイアルド神聖教国-

†第11章† -08話-[戦術会議とおかしな訓練]

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「じゃあ朝食の時にでも伺いに来そうですね」

 時は晩ご飯。
 あの後すぐに食堂まで移動したのだが、
 移動中はずっとクレアへの態度に対してサーニャの小言が続いて俺の精神はげんなりしていた。

「アルシェもマリエルも面倒をかける・・・。
 たぶんメリーにも似たような状況になるだろうから、
 飯前の時間にクーの念話で伝えた」
「まぁ私は別にいろんな人と訓練出来るなら文句はありませんけど、
 なんだか隊長にしては珍しい行動ですよね?」

 アルシェは先の話し合いに、
 勇者の仲間とクレア達が立ち会った事を伝えた時点で片眉がぴくりと動き、
 明日の行動制限やその後の上級アナザー・ワンが行う各国訓練も伝えるとまた綺麗に整った眉毛が動いた。

「確かに独断専行はいつもの事ですが、
 今回お兄さんにしては感情論で動いているところが気になりますね」
「勇者を過剰に期待しすぎていた自分を恥じた結果、
 その苛立ちを八つ当たりしただけだ」
「ふぅ~ん・・。
 それで隊長のストレスはどのくらい解消したんですか?」
「なんで?」
「だって、そのストレスの捌け口って訓練の激しさに直結しそうなんだもん。
 かなりスッキリしてるなら安心かなぁ~って・・・」

 口調は軽いマリエルだが、
 食事の摂り方はずいぶんとアルシェとメリーに鍛えられており、
 食器の音も立てずに綺麗に切り分けた肉を口に運ぶ。
 仲間になりたての頃なんて喋りに合わせてナイフかフォークを振り回していたもんだ。

「いやぁ~今以上に厳しい訓練は無理だろ。
 お前は経験者だからわかるだろうけど、
 この1年で少し限界を超える程度の訓練を続けてきたけど、
 もうそろそろ一般的な訓練だと割と耐えられちゃからなぁ・・・」
「確かに体力は第一にして、
 肉体改造も私たちの知識では限界ですよね。
 マリエルは攻撃力を上げるためにもう少し筋肉を付けてもいいかもしれませんが、
 私はこれ以上付けると回避に影響が出ます」
「現時点でノイちゃんの重力有りでメニューこなせてますもんねぇ。
 ポルトーさんの訓練メニューは全部制覇しちゃいましたしね」

 ポルトーをお忘れの方の為に説明すると、
 アスペラルダの新兵の時点で筋肉もりもりだったお風呂場が初登場のポルトー=サンクスの事である。

 彼や体を虐めるのが大好きな将軍や兵士を混ぜ合わせた結果、
 効率的な訓練方法をまとめた資料を俺達は受け取っており、
 旅を続ける一方でしっかりと地道に体をレベルに合わせて鍛えていた。

「マリエルは楽しそうに訓練しますよねぇ」
「だって実際楽しいですもん。
 前までは妖精の力が開花して、
 隊長と姫様には気を遣わないといけなかったので微妙な時期もありました。
 でも、隊長がスキルのおかげで直接打ち合えるようになったのでまた楽しくなりました」
「その分俺の疲労は増してるんだよなぁ・・・。
 まぁ体に魔力を浸透させる速度を上げるには慣れが必要だから、
 そのついでに訓練をするのはやぶさかじゃあない」
「私はお兄さんを生け贄にして得た時間を利用して、
 高濃度魔力武器の精製を調整していますからこれもチームワークですね」

 仲間を生け贄に捧げるチームワークとか聞いたこと無いよ。
 ともかく一般人が思いつくレベルの訓練では、
 不必要な場所に必要以上の筋肉を付ける結果に繋がるため、
 最近はよく頭を悩ませているのだ。

 チラリ。

「なんでしょうか、水無月みなづき様?」
「いや、俺達はメリー等侍女隊をアナザー・ワンの訓練に混ぜることで訓練方法を得るけど、
 アナザー・ワンって本当にどんな訓練してるわけ?」
「メリーさんが戻られてから聞かれるといいではありませんか」
「メリーさんっていつ合流するんですか?」
「メリーは私たちが帰る明日の夕方まではアナザー・ワンに預ける事になっているわ。
 丁度アスペラルダに戻ったらセリア先生も合流するし、
 やっと色々と動けそうね」
「戻ったら俺とアルシェはアイアンノジュール経由で土の国との接触だぞ」
「・・・そうでした。
 ここ最近の戦闘や下準備の忙しさは異常ですね」
「まだ体バキバキですもんねぇ」

 数日前まではアインスさんやパーシバルさんに準備や伝令関係は任せて、
 俺達は戦力増強に勤しんでいられたのに龍の巣で魔神族に会ったり、
 ユレイアルド神聖教国に休暇に来たら100人組み手させられたり、
 アスペラルダに帰ったら今度は土の国との調整役・・・。
 セリア先生と魔法についての打ち合わせや相談ももちろんしたいけど、
 タイミング的に土の国との直接接触はギリギリだから逃すことは出来ない。

「ん?そういえばこっちのギルマスにも手伝ってもらっているとアインスさんが言ってたな。
 時間をみて滞在中に会えないかな?」

 かな?の部分で再び見やるはサーニャ。

「教都のギルドマスターは妖精のクォーターやドワーフ族のように長命ではないですよ?
 荒事はクエストに依頼するまでもなく教徒で解決出来ますし、
 冒険者もそれがわかっているので教都であるこちらには集まりません」

 そこはアインスさん経由で聞いている。
 人間の男性で好々爺のじいさんらしい。
 教皇の幼なじみで休日などは二人で会ってはどちらの仕事が忙しいかを雄弁する姿が酒の場でよく見かけられるとの事。

「他国のギルドの情報ってあまり聞かないですね。
 隊長は土の国に単独で入っていますけど、
 そっちのギルマスとか調べてるんですか?」
「一応はそっちも調べてあるぞ。
 土の国は獣人族の領域と隣接しているからか、
 獣人族の女性がギルマスに就いている。
 とは言ってもセリアンスロープだけどな」
「セリアンスロープ?
 お兄さん、種族はどちらのハーフなんですか?」

 セリアンスロープは獣人族と人間のハーフの事を指す言葉で、
 獣人は人の様な骨格をしているけれど、
 顔や手足の先まで爪や牙や毛など動物要素の多い人種なんだが、
 ハーフであるセリアンスロープは俗に言う猫耳やウサ耳の権化とも言うべき姿をしているのだ!

 ちなみに見た目で騙されてはいけない。
 どれだけ可愛かろうが半分受け継いだ獣人の血が際限なく流れているので、
 戦闘素人でも怒らせると強靱な肉体から放たれる攻撃によりボコボコにされてしまう。

「種族はハイドディア族。鹿だ」
「ハイドディアがよく人間と出会って子まで成しましたね・・・」
「どんな種族なんですか?」
「岩陰の死角が多いところを入り口にして
 大きな空間を作って隠れ里として暮らす獣人族だ。
 まず、極度の恥ずかしがり屋で視界に入った途端すぐ逃げる。
 しかも岩山などの崖でもひょいひょい登っていく素早さと優秀な肉体。
 追い詰められたら意識を失って暴走する特異性から「見て無ぬ振りしろハイドディア」ということわざまで出来るくらい危ないってのが集めた情報だな」
「なんか情報だけだと可愛くないイメージになりました・・・」

 マリエルが目を閉じて俺の説明から想像したハイドディアは可愛く出来なかったみたいだ。
 まぁ実物を見たことはないし、
 一時期討伐対象になりかけた事もあるくらいの危険性を秘めているのは確かだが、
 諺通りに見ても近づかなければ問題は起こさないので、
 当時のギルドマスターが全力で阻止した事で事なきを得たとは聞いた。

「ハイドディアは体が小さいんですよね。
 たぶん男性でも私達くらいの身長しかなかったはずですよ」
「あ、可愛くなった・・・」

 良かったなマリエル。

「でも、ハーフなら身長も大きくなっているんじゃないですか?」
「それがちっこいままなんだけど、
 恥ずかしがり屋なところは態を潜めて割と普通に有能なギルマスになっているらしい」
「優秀でなければ首都のギルドマスターには成れませんから、
 協力いただけるように手は回しておきたいところですね」
「俺達も勇者も土の国をちゃんと調査していないから接触はしてないけど、
 動き始めたらアインスさん達経由で連絡だけは取る予定だよ。
 初対面でも話が通しやすいようにね」

 首都のギルドマスターさえ押さえておけば、
 他の街のギルドマスターも従順に協力させることが出来る。
 水の国アスペラルダはスタート地点にアインスさんが居たし、
 王様達の手配で協力態勢はすんなり構築出来たけど、
 風の国フォレストトーレは首都が遠いし廃都になってるし魔神族出るしで最悪だったからな・・・。

 光の国ユレイアルドは勇者の魔法のおかげで一息で首都に来られたので、
 これから協力態勢を整えることになるだろう。
 まぁ現状は勇者が長く滞在していることもあって、
 陣営的には勇者側ってことなら無理に協力をしてもらうつもりはないが。

「あ、明日って隊長はどうするんですか?
 朝の訓練で聖女様に付き合うのとフリューネ様の息吹ブレス以外は予定無いんでしょ?」
「今のところはなぁ。
 でもアナザー・ワンの希望はクレチアさんや他の人たちと相談するって言ってたし、
 何かしらで引っ張り出されるとは思う」
「魔法教室と模擬戦を考えると訓練場で全て行いますから、
 その場には居てもらいますけれど・・・お兄さん暇になりますよね?」
「一応、組み手で目を付けたセンスのある奴をピックアップして、
 魔法剣の指導をするつもりだぞ?
 瘴気の浄化はともかく払う役割くらいは増す予定だったろ」

 戦争が始まればどのくらいの期間が掛かるか分かった物では無い。
 基本的に数日で問題解決に当たっていた今までとは違い、
 王都として立派な広さを持つ範囲全てが敵の拠点になってしまっているうえに、
 瘴気モンスターが半永久的に出現する地獄となっている。

 それに周辺三カ国が対応する事でいったい何万人投入されるんだろうな。
 具体的な部分は王様や将軍が詰めているから知らないけど、
 三〇万が過ごす都市って今更ながらデカすぎるよな・・・。
 そんなわけで瘴気モンスターは倒れた場所に瘴気を残し、
 時間が経てば再び復活するやっかいな特性があるので、
 そういう残滓を掃除する人間が多いに越したことは無い。

「私もある程度はクレアから事前に情報をもらったり、
 書庫での知識で魔法式の草案はあります。
 それに勇者様が使っていた魔法は操作と非殺傷設定に出来ればかなり役に立ちますよ」
「流石はアルシェ、上手くいけば楽になりそうだな。
 掃除用と浄化用でひとつずつは欲しいな」
「わかってますけど、時間がないのが一番の問題ですよねぇ」

 時間もないけど、
 やっぱり一番は破滅の呪いが痛い。
 無精と無理矢理契約させて汎用精霊使いを量産し始めたけれど、
 どうにも俺が想定していた感覚はない。

 元の想定では精霊使いなら誰でも呪いを撥ね除けると思っていたのだが、
 契約させた奴らを見ていると、
 破滅の情報が思い出せなくなったりという症状は収まるのだが、
 危機感がいまいち足りておらず必死さに欠ける。

 自分が被験者となっての調査分野だし、
 研究して成果が出るものではなく目に見えない感覚の話なのでどうも核心が持てない。
 アルシェとマリエルとメリーの三人に関しては、
 常に行動を共にしているから聴取してもわからない。
 クランメンバーであるゼノウPTとセーバーPTも、
 ほぼ何か事を構える時は協力させているからかこちらもわからず、
 セリア先生やスィーネやボジャ様、最近だとポシェントも加わった精霊組は一緒に行動はしていなくても揺蕩う唄ウィルフラタでよく話はしているから破滅に対する認識は俺達と同じだ。

 つまり具体的に何が原因になっているのかはっきりしない。
 情報共有をしっかりしていれば精霊使いでなくてもいける?
 いや、それはアインスさんが証明してくれたか・・・。
 精霊使いは必須。
 精霊使いでなくても業務として破滅を意識しなければ、
 記憶の改ざんや意識の誘導は発生しないのでサポートは可能らしい。

「はぁ、色々と頭が痛いな」


 * * * * *
 バシン、バシン。

「魔力消費は上げざるを得ませんね。
 表面上だけではなく時間を掛けて染みこんだ瘴気を浄化する必要がありますから」
『アクアはよく見えぬ魔法を打ち払えるね』
『魔法だもん、目に見えなくても兆候っていうのがあるんだよ~。
 フリューネは気にするほどのダメージを受けないから鈍感なんじゃないの~』
『なるほどな』

 バババシン、バシン。

『アクア姉様、速度と数どちらを上げますの-?』
『どっちも上げて大丈夫~。二割くらい増やして~』
『了解ですわ-!』
『こちらも速度をあげてほしいです』
『はいはい、頑張ってくれよ』

 バシバシバシン、バババシン。

「どのくらい増えますか?」
「四割は増えると思いますよ。
 時間はあまり裂けないとは思いますが、
 クレアはレベルを上げてステータスを上げるべきですね」
「アルカンシェ様、私たちに扱えないのでしょうか?」
「私も使えれば使いますけど、
 現段階で扱えるのは光精と契約のある人だけなんです。
 つまりはクレアと勇者様だけ・・・。
 扱えるようにするには光精と契約をするか、
 魔法ギルドに魔法陣と魔法式を提出して魔導書に仕上げていただかないといけません。
 それも時間が掛かりすぎて次には間に合いません」
「アルカンシェ様でも無理なのですね・・・」

 魔法の訓練と熟練度上げを行う次女以外の精霊姉妹と、
 それに付き合うフリューネ。
 アクアの方は魔法で造り上げた水の尻尾でニルが撃ち込んでくる魔法を打ち落とし、
 フリューネは自前の青い鱗に覆われた尻尾を動かし、
 その動く尻尾を狙ってノイは魔法を遠慮なしに撃ち込んでいた。

 別のところではアルシェを中心にクランメンバーの魔法使いと、
 教国からはクレアが熱心に新しい魔法の組み上げや効果について話し合いを続けていた。
 一応背後にはクルルクス姉妹も見守り、
 話も聞いてはいるのだが知らない知識と次元が違う会話について行けてはいなかった。

「お兄さん達の成長が間に合う可能性も捨てきれませんから、
 クレアと直接顔を合わせて話し合えるうちに組み上げておかないと・・・」
「クランリーダーは間に合うのですか?」
「確か精霊使いとしての資質が成長しないければ、
 今以上の契約は出来ないと伺っていましたけど?」

 アルシェの言葉に続いた疑問口調は、
 ゼノウPTのフランザとセーバーPTのアネスだ。

「・・・アルシェ。
 昨日の水無月みなづきさんから直接聞いたのですが、
 1年で今の強さになるのはあまり現実的では無いらしいのです。
 このまま同じ鍛え方が出来るのであればアナザー・ワンに頼らなくてももっと強くなれるのでは・・・というのが私たちが出した答えなのですが・・・」

 クレアは言葉尻で視線を背後に立つクルルクス姉妹に向けた。
 おそらくその答えに辿り着くには経験の豊富なクレチアさんにでも相談したのだろう事をアルシェは見抜いていた。

「お兄さんの強さの秘密は【おこぼれ経験値】のおかげです」
「おこぼれ経験値?」
「聞いたことがありませんね。
 ギルドでもそのような説明を受けた記憶もありません」
「私もです」

 聞いたこともない単語に疑問を浮かべ、
 それぞれが顔を見合いながら口々に知らないと言っているのを無視してアルシェは語り始める。

「ステータスを上げると戦闘力に直結する自身を高めることが出来ます。
 しかしステータスを上げる為の[ジェム]は敵を倒して得る経験値を稼ぎレベルを上げる必要があります」
「そうですね」
「その通常のレベルとは別に職業にも[資質]と呼ばれる物が存在します。
 これをわかりやすく[ジョブレベル]と言いましょう。
 このジョブレベルを上げるにはその職業にあった鍛え方があり、
 敵を倒すことではなく戦場以外の努力がこれに当たると考えています」
「なんとなく納得はいく話です。
 戦士が剣を振るって訓練するように、
 他の職業も似た事をしてそれぞれ得物を上手く扱う為の努力をしますから」

 トーニャはアナザー・ワンだ。
 強さもレベルだけでは説明が出来ない部分があるし、
 世界で確率されていない[ジョブレベル]の存在に関しても実体験を元に納得をしている様子。

「その努力とおこぼれ経験値の繋がりはなんですか?」
「お兄さんの強さの秘密の大半は魔法によるブーストです。
 足の速さは風の力、白兵戦の強さは重力の力、剣での受け流しは水の力など、
 他にも細かに制御力を使って自身の戦闘力を上げているのですが、
 それ相応の[ジョブレベル]に達しているからこその結果なのです。
 そして、[ジョブレベル]を上げる為の[ジョブ経験値]を稼ぐ為の訓練を契約精霊からもらっているのです」
「契約精霊から・・・」
「もらっている・・?」
「もちろんおこぼれと言っている通りその割合は少ないです。
 おそらく0.1%程度かと思います。
 私もアクアちゃんと契約があるのでアクアちゃんが稼いだジョブ経験値のおこぼれをいただいています」

 姉妹で前半後半を分けて口にして驚くクルルクス姉妹と、
 周囲の者が口にはしなかったけれど同じように驚く顔が内心を如実に語っていてアルシェは少し笑ってしまう。

「アクアちゃんの方ももらえているのですか?」
「もちろんです。
 おこぼれ経験値は稼ぎ元となる人の経験値は減らず負担にはなりませんので、
 互いに高め合い支え合う精霊使いにとっては有効利用しない手はないものですね」
「では、クランリーダーは・・・全員からもらっているのですか?」
「そうですね。
 アクアちゃん、クーちゃん、ニルちゃん、ノイちゃん、アニマちゃんのおこぼれをもらう訳ですから、
 同じ経験値を稼いだ場合は、1.5倍の経験値を稼いでいることになりますね」

 戦士や剣士といった剣を使う職業なら剣速が上がり剣の扱いも上手くなり、
 魔法使いや他の職業も当然同じように戦闘力に直結する技術が上昇する事は周知の事実だ。

 精霊使いは契約精霊の属性によって得意な武器が異なる。
 水精は槍や剣、闇精は得手不得手なし、風精は投擲や弓、
 土精は素手や棍棒が得意なので精霊使いというジョブレベルが上がれば自ずとオールマイティーに仕上がるのは当然の帰結だ。

 つまりジョブレベルが上がった場合、
 剣の扱い上昇等ではなく全武器の扱い上昇だとわかる。
 誰でも成れる訳では無いレア職業らしいチート能力だが、
 これも普段の訓練がおろそかになって居れば宝の持ち腐れとなるのだから、
 全体的に戦闘を熟せる水無月みなづき宗八そうはちの戦闘力を見ればどれほどの努力を重ねたのかが見えてくる。

「まぁ、これは私たちの妄想の話です」
「え”!?も、妄想?」
「すごく真剣に聞いてしまいましたが、実際の話ではないのですか?」
「だって武器の扱いが上手くなるなんて訓練を重ねれば当然じゃないですか?
 ギルドでもその程度は把握しているでしょうけれど、
 ジョブレベルという話までまとまっている訳ではないですから。
 お兄さんの場合は契約容量というものがあるとアニマ様から教えられましたから先ほどの仮説を立てたに過ぎません」

 晴れやかな顔で両の掌を広げて肩をすくめるアルシェ。
 他の職業であれば努力したからで済まされる話でもあるため、
 今のところ仮説を立てるには精霊使いという存在があってこそだ。

 そして契約精霊との繋がりは細い線などではなく、
 それはもうしっかりとした荒縄ではないかと思えるほどに感じ取れているアルシェからすればあながち間違った解釈では無いと思っていた。

「先ほども伝えたとおり、
 成長が早くとも契約一人に付き0.1%の経験値なら実感はほとんどありません。
 これを実感出来るのは世界でもお兄さんだけですから、
 今のところは妄想と言ったのですよ」
「アルシェ~・・・」
「クレアのレベルはまだ低いのですから、
 クレアは現状を変えずにハミングちゃんだけが頑張れば答えが見えてくると思いますよ?」
「今必要なのは私のレベルなんだから無理じゃないですかぁ~!」
「そうなんですよねぇ~、アハハ。上手くいかないものですねぇ~」

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。

「アルカンシェ様。
 龍の息吹ブレスの件で教国の準備は整いましたが・・・、
 水無月みなづき様はずいぶんと熱心に・・・頭のおかしな訓練をしておりますね」
「その相手役は貴女の部下ですよ、クレチア」
「お疲れ様ですクレチアさん。
 お兄さんの新しいスキルの実験にリッカさんの剣速が丁度良い感じらしいので、
 流石に得物は木刀ですけれど少しお借りしています」

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。

 訓練場に新たに登場したのはアナザー・ワン最強のクレチア。
 用件はもちろん元から滞在計画に含まれていた龍の息吹ブレスを受けて魔神族の攻撃力を教国が知る為だが、
 彼女の視線は近寄って行くアルシェやクレアではなく、
 その先で行われている凄まじい剣速で連撃を繰り出す部下のリッカ=二階堂と、
 アスペラルダ姫の護衛隊長のこれまた凄まじい速度で回避を繰り広げる頭がおかしいと言っても過言では無い訓練に釘付けであった。

「いえ、訓練になるならばいくらでも使ってくださってかまいません。
 まだ主候補もいない新人アナザー・ワンですから。
 それにしても組み手では手も足も出なかった水無月みなづき様がよくもまぁ一日で化けましたね」
「先ほども言ったように新しいスキルの調整も兼ねていますし、
 今は回避にしか集中していませんからこれからどうするかが課題ですよ」
「アハハ・・・、姫殿下ひめでんかはずいぶんと厳しいですね。
 というか、私ですら避けきれないあの剣速をよく動いて回避出来ていますね」

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。

 朝練が終わり、朝食を食べ、
 再び訓練が始まった時からずっと繰り返しているあの動作。
 始まりからしばらくはボコボコと殴られていたけれど、
 今となっては九割避けられるところまで精度を高めていた。

 宗八そうはちが使っている魔法は[文字魔法ワードマジック]、
 そして試しているスキルは[精霊の呼吸エレメンタルブレス]と同時に発現したスキルは[魔導拡張]。

 その内容は多岐に渡り、
 以前から使っている[ブレイズレイド]はヴァーンレイドを風を送り込んで強化していた。
 そういう強化魔法を段階を踏む必要なく発動出来るようになり、
 今回の[文字魔法ワードマジック]も御多分に漏れずその効果は拡張されており・・・。

「なんというか、
 聞いただけでも解釈次第でどこまでも・・・という感じですよね」
「クレアだけでなく誰でもそう思いますよ。
 ただこれは今まで色んな魔法をイメージしてきたお兄さんだからこそ発現したスキルでして、
 他の方に発現してもおそらく宝の持ち腐れになりますよ」
「アルカンシェ様、クランリーダーのあの魔法はデメリットがあるのでは?」

 首を傾げながらそう聞いてきたのはフランザ。
 クランパーティーには緊急時には使うけれどデメリットがある為、
 あまり好んで使いたくはないと説明していたのでそれは当然の疑問である。

「いま使っているのは[集中]の文字ですけど、
 以前使った時は三秒の効果と引き替えに酷い頭痛で意識を失っていましたが、
 拡張と今までの訓練が功を奏して上手く噛み合ってやっと1分の無茶が出来るようになりました」
「え”ぇ”!?1分ですかっ!?
 でもアレずっと続けてますよ!?」
「我慢出来る頭痛の限界が1分。
 それを文字魔法ワードマジックの[鎮静]で抑えて、
 また[集中]でブーストを掛ける。この繰り返しているんです」
「・・・頭がおかしいのはあの訓練以前の問題だったようですね。
 どのくらいお待ちすればよろしいでしょうか?」

 驚く一同の顔を見るアルシェは苦笑いを浮かべ、
 考えるのが馬鹿らしくなったクレチアは改めてアルシェへと問う。
 一応教国の準備は整って居る為、
 待ち時間があるのであれば伝える必要があるからだ。

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン。

「ニルちゃん、次で終わりと伝えて頂戴」
『ん!わかりましたわー!
 アクア姉様!こちらも終わりますわよ-!』
『わかった~』
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