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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -01話-[流星開戦]
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ついにこの時がやって来てしまった。
ただのオタク時代の水無月宗八であれば胃に穴が開く程のストレス案件だったことだろう。
いや、実際はまだ胃が痛くはある。
場数を踏もうが基本の俺は変わらないのだ!
「皆様、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。
これより大戦前の情報共有を行わせて頂きます」
俺の言葉に各国のお偉方が会釈をする。
ここはフーリエタマナのギルド。
その中でも比較的利用頻度の高い会議室である。
室内へご招待した時に挨拶は恙なく終えており、
俺も気を回して身分的には王族にも聖女にも劣る土の国アーグエングリンの将軍達の扱いには特に気を配った。
ちなみに俺が立っている位置は、
4面のロの字に配置されたテーブルの1面だ。
もちろんアルシェが座るアスペラルダ陣営ではない。
説明役が前に出る必要のある配置なのだ。
「さっそくですが、
私個人の知人達が協力してくれることとなりましたので、
各国に役割の説明と共に分担させていただきます」
うち以外の視線は当然アルシェ達の背後に立つ精霊達へと注がれる。
水精、闇精、土精、光精が揃っているのだ。
この世界の人間からしてみれば常軌を逸した事態であろう。
なんと言ってもこの世界で精霊と出会うことなんてまず無いという話だからな。
「ユレイアルド神聖教国。
そちらへの派遣は闇精クロエ、土精ネルレント、光精ナチュラルとエトランゼ」
『『『『はい』』』』
「役割はクロエが空間探知と聖女の護衛。
これは浄化の関係上相性も悪くはありますが一瞬で移動出来る魔法を利用するにはこれが効率的で安全だからです。
次にネルレントは敵からの攻撃を防ぐ盾役となります。
これは魔法だけでなく大型個体が広範囲の被害を出さない様にすることが目的なので全てから護る訳では無いとご理解ください」
「わかりました」
「また、光精につきましては浄化の手助けをしていただきますので、
手札などはきちんと聞いてから運用に取り組んでください」
「精霊様方、教国を代表して聖女クレシーダがご協力に感謝致します」
クレアのお辞儀に合わせて教国メンバーは全員が頭を下げる。
その中には教国のギルマス、プレイグの姿もあった。
「土の国アーグエングリン。
そちらへの派遣は闇精ムーンネピア、土精パラディウム、光精クリームヒルトとヘルムート」
『『『『はい』』』』
「役割はユレイアルド神聖教国と同じとなります」
「精霊様方、土の国を代表して本作戦を指揮するタラスク=ファグスがご協力に感謝致します」
ファグス卿の隣には副将と小さな体の女性が一緒に頭を下げている。
彼女がハイドディアと人間のハーフ。
セリアンスロープのリリトーナ=イブニクスか。
「合わせて自国ではありますがアスペラルダも精霊に協力していただきます。
水精スィーネとボジャ様、さらに水精ポシェント、光精テルナローレ」
『『『はい』』』
「アスペラルダに闇精と土精が居ないのは何故でしょう?」
クレアが手を上げて質問をしてきた。
日曜学校のくせが出ているぞ。
俺達は協力関係にあるんだから手を上げなくても良いとトーニャが素早く伝えている。
「闇精と土精に関しては単純に人手不足です。
急な手配でありましたので最大限の協力で2名ずつでした」
「それではアスペラルダの防衛が薄くなりませんか?」
「ご心配には及びません。
精霊にはそれぞれ位階と呼ばれるランクがあります。
スィーネとボジャ様は防衛に特化した守護者ですし、
攻撃面もポセイドンの位階であるポシェントがおります。
苛刻のシュティーナに関してはうちのクーデルカが察知して対応いたします」
「そうであれば確かに心配はなさそうですね、差し出口でした。
流石は水の国。水精と仲がよろしくて羨ましいです」
「聖女さまもこれから仲良くなれると存じます。
ソレイユ様からの寵愛は本物でしたからね」
クレアは頭を下げない。
この場で同じ扱いになるのは聖女とアルシェと総大将の3名となる。
他は下っ端だ。
謝罪は口でしても頭を下げるわけにはいかないのだ。
「以上が精霊使いとして出来る協力範囲となります。
各国上手く精霊と協力して被害を少なくしてください」
「「感謝します」」
「続きはギルドマスター方にお任せ致します」
「かしこまりました」
俺が説明席を外すしてアスペラルダ席に戻ると、
アスペラルダからはアインスさんとパーシバルさんが。
ユレイアルドからはプレイグ氏が。
アーグエングリンからはリリアーナさんが立ち上がり入れ替わった。
パーシバルさんはフォレストトーレのギルマスだが、
本拠地の首都は廃都と成っている為アスペラルダに座っていた。
他にも理由はあって、
フォレストトーレの兵士には生き残りもいるけれど、
各街に十数名~数十名なので戦争に参加させるよりも街の護りに集中させたのだ。
そして今回は代わりに冒険者を起用したのでそちらの指揮系統を担当してもらう為にアスペラルダに席を用意した。
「これより作戦の流れを再度ご説明させて頂きます」
* * * * *
胃が痛い。
『お兄ちゃん、顔色悪いね』
『今まで通りに好き勝手出来るのじゃろう?』
「今までは俺達だけだったから気が楽でしたけど、
今回は3カ国合同作戦ですからね・・・。
大きさがちょっと受け止めきれないです」
痛たたたた。
隣に立つスィーネとボジャ様は落ち着いていていいなぁ。
瘴気が人間の領地に存在するのは良くないし、
魔神族も無視出来ない観点からアスペラルダが主導でこの大戦は成った。
でも、俺が方々に顔を出している所為か、
俺が主導のような幻想に囚われている。
つくづくリーダーには向かねぇな。
「お兄さんそろそろ皆に見える位置に上がりましょう。
スィーネさんとボジャ様も定位置で足場を作って全体を見守ってください」
『うむ、では行くかの。頑張れよ、宗八坊』
『お兄ちゃん、頑張ってねぇ!』
アルシェに呼ばれる。
お兄さん!お仕事ですよ!と声が聞こえる。
働きたくないでござる。
しかし現実は非常であり、
マリエルとニルは既に空に上がって堂々とした態度でフォレストトーレを睨んでおり、
アルシェにメリーも覚悟の決まった顔つきになっていた。
マリエルとメリーに関しては俺とアルシェに付いていくだけという意思が強いのだが、
アルシェに到ってはガチで覚悟が決まっている。
本当に姫様なんだなって思い出すレベルで心持ちが違うのだ。
『マスターの内面ってどうなってるです?
自信がこれっぽっちもないと口に出しつつ確かに不安でいっぱいなのに、
ちらちらと自信が顔を出しているです』
「渦巻くもんが色々あるんだよ。
努力をした面で自信もあるけど戦争を目の当たりにするのは初めてだし・・・」
まさか自分が戦争に参加するコトになるとは夢にも思っていない人生でした。
資料館とかに行ってもほぇ~としか感想はなかった。
地元に爆弾落ちなくて良かったぁ~とかな。
自由に動いてもいいとか言われても、
銃器が無いとはいえやっぱりリアルは迫力が違うっての。
はっきり言ってブルってる。
『ぬし様、ベルが居ますので大丈夫かと!』
『ベルは前向きで明るい娘ですね。
ボクたち姉弟の中でもまた少し違う性格をしているです』
新しく加わった契約精霊、光精のベルトロープ=リュミエール。
愛称ベルと呼ばれる手のひらサイズの女の子だ。
性格は真面目で前向き。
アクアはアホ前向き、クーは真面目冷静、ニルは馬鹿前向き、
アニマは威厳冷静、ノイは真面目堅実、フラムは実直甘えん坊。
フラムは俺のジョブレベルが足りていなくて契約は出来ていないし、
ベルが加わったのは2日前だ。
精神と時の部屋が間に合わなかったのでシンクロは出来ない。
絆を育むには時間が足りなかったのだ。
しかし、光精も男の子ならフラムと兄弟になれたのに、
まさか最後も女の子とは思っていなかった。
7姉弟のうち1人だけ男の子では肩身も狭くなるだろう。
俺がしっかりと育てていかないとな!
「《アイシクルキューブ!》」
アルシェの詠唱によって地面から氷が発生し、
俺たちを乗せたままリフトして上がっていく。
氷の下にはリッカとメリーも控えている。
言ってしまえば最後の砦というラインだな。
「広めに取ってあるのに安定して揺れもなくなってるな」
まるでエレベーター並の安定感だ。
「そりゃ私も努力してますからね。
アンカーも使えるようになりましたし、
後方支援も自分の守りもかなり向上していますから安心してくださいね」
「努力はよく存じているよ。
でもアンカーが間に合って良かったな」
「効率の良い魔法を付属出来れば尚良かったんですけどねぇ。
間に合いませんでしたから結局魔力砲・・・。
魔力効率が悪いからあまり多様はしたくないです」
アンカーの正式名称は[アイシクルアンカー]と言って、
アルシェ自身をオートで守る氷のアンカーを地面から生やす魔法だ。
しかし、元の構想をすぐに形に出来るわけではなかったので、
つい最近まではアンカーをそのまま撃ち出して攻撃に使用していた。
今回は元の構想である程度扱える状態に持ち込めたのは正直デカイ。
アンカーの操作を精霊に任せる[エレメントコントロール]を使えば、
勝手に守って勝手に攻撃してくれるセントリーガンみたいな働きをしてくれるはずだ。
「スィーネさん達には悪いことをしたと思っています」
「なんで?」
「仮契約とはいえちょっと強制的になっちゃったかなって・・・」
「俺たちだけで全部をやるには厳しいって判断だったろ。
シヴァ様の采配のおかげで予定通りに事が進むんだし問題ないよ。
ちゃんと皆理解して仮契約してるんだから」
今回の開幕を告げるために、
俺たちは初手を担当することとなっている。
内容は単純。
3方面のオベリスクを全て破壊し各国の兵士が満足に戦える環境を整えること。
その為には俺たち護衛隊だけでは制御力が厳しいので、
一部分のオベリスクは破壊できないと判断していた。
しかし、スィーネとボジャ様とポシェントの水精3名が参加してくれたおかげでなんとか制御力を調達できたのだ。
「あんな裏技みたいな方法。よく思いつきましたね?」
「俺の質だとベルとの契約がやっとなんだから、
思い付かないとどうにもならなかったろ?
それに念話も出来るようになるし、
守りの面で言えばやりやすくなるだろう?」
「それはそうですけどね・・・」
アルシェの言う裏技。
それは契約精霊とシンクロすると制御力が統合されるという現象がある。
それを今回はサブマスターだけではなくサブマスターと仮契約している精霊からも徴収しようという裏技の事だ。
例えば今回の大魔法に必要な制御力が50だとする。
俺は2、精霊5人がそれぞれ6とすると合計32となる。
これには契約のないフラムとシンクロの出来ないベルを除いている。
さらにサブのアルシェが3、マリエルが1、メリーも1とすると、
合計はこれでも37だ。
ここで上位精霊の制御力を引っ張ってくるには問題点がある。
1つ、俺の同時シンクロ出来る精霊数は5人で既に頭が割れそうな負担がある事。
2つ、信頼がなければシンクロは出来ない事。
3つ、契約者が契約できる資質を持っていなければならない事。
4つ、仮契約は制御力の徴収が本来の半分しか出来ない事。
まぁ全部なんとかなったので問題はないとも言える。
中位水精のスィーネはアルシェと仮契約をさせた。
本人は俺と仮契約を従ったけど限界なのでアルシェとしてもらった。
元から魔法の相談だったりアクアと一緒に制御力訓練を受けたりと仲は良いので仮契約もすんなりと進んだ。
次にボジャ様だが、
こちらはマリエルの故郷周辺の守護者をしている方なので、
快くマリエルと仮契約をしてくださった。
マリエルの爺さんと酒を飲んだりしていたしカエル妖精一族の為になるならと力を貸してくれた。
アルシェもマリエルも訓練を続けてきていたし、
俺とは違ってサブマスターとして1人としか契約していない。
資質への影響も1人程度ならそこまでの負担にはなっていなかったらしいので、
精霊使いとしての資質は十分に仮契約できるほどにはジョブレベルも上がっていた。
ポシェントは魔法も使うけど武器で戦う武人だから、
制御力も半分になってしまうならと辞退した。
残るサブマスターはメリーだけど、
こちらも水精関係の加護があるわけでもないし、
種族的に水氷属性に偏りもないので同じく断念した。
それでもスィーネは8、ボジャ様が15と制御力は半分になっても高く、
俺たちと合計すると制御力はなんと60となる!
必要制御力は50なのに10も余裕があると言うことは、
精度を上げて狙い撃つことが出来るということだ。
これで壊し損ねたり、無駄撃ちするといった行動を取らなくてよくなる。
「高さはこの程度でしょうか?」
「そうだな。全体が見渡せるし、
角度がないと前衛を援護するのも調整が面倒だろ」
1キロほど前方では、
スィーネとボジャ様がアルシェと同じように氷の足場を伸ばして調整に入っていた。
2人にはアスペラルダの兵士に対する強攻撃を防いでもらう役割がある。
大型モンスターの体当たりか、大型の魔法か、予想も付かない何かか。
どれが来ようと守護者2人が兵士を守ってくれる安心感は半端ないよ。
「《コール》ギルドマスター」
ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ、ポロン♪
初めのポロン♪の後に3回同じ音が続く。
〔お疲れ様です、水無月様〕
〔こりゃいいのぉ〕
〔爺さん、興奮すると血糖値上がんぞ〕
〔ちょっとパーシバルさん、一応就業中なので口調を整えてください〕
四者四様で精霊達とはまた違う賑やかさだ。
ギルマスの4名には互いの情報を揺蕩う唄で共有してもらい、
各大隊長や指揮官に状況を伝えるという任務をしてもらう。
もちろん作戦開始に伴う大魔法の発動に関しても今から伝えて各国に開戦を知らせてもらわねばならない。
「お兄さん、ブルー・ドラゴン様にお願いして参りますね」
アルシェは俺の返事も待たずに[アイシクルライド]で今し方生成した氷の柱を滑り降りていった。
「あいよ。
皆様、そろそろ開戦の準備を始めます」
〔かしこまりました〕
〔勇者メリオはすでに準備は出来ておるようじゃ〕
〔冒険者もうずうずしてるし早めに開始してくれ〕
〔動き出した際に龍が見えると周知済みです〕
「念のため再度説明しますが、
俺とアルシェ様は魔法に専念しますのでほぼ無防備になります。
アルシェ様の護衛はマリエルと風精ニルチッイが担当しますし、
足場としてブルー・ドラゴンもいるので大丈夫かと思います。
俺の方も土精、火精、光精を連れていくのと、
勇者メリオに手助けいただく事になります」
3方面のオベリスク除去を行うのは俺たちの役目だが、
その数は300本以上あるのでかなり集中しなければならない。
視覚で認識し照準を合わせる為、
高所から見下ろせる位置取りが必要となった。
俺はアクアと水精霊纏で空を飛べる。
アルシェはブルー・ドラゴンを足場にして空を飛ぶこととなった。
これはオベリスクの範囲外からという点でも有効な手段だ。
今の時点でフォレストトーレ上空には数十体の瘴気モンスターが飛んでいる事からも警戒を怠るわけにはいかないので勇者メリオには俺たちの護衛をお願いした。
光魔法で瞬間移動出来るしな。
他の空の対処が出来ない仲間は地上で待機を命令している。
〔認識に相違ありません〕
〔〔〔同じく〕〕〕
「オベリスクが破壊されましたら何が起こるかわかりません。
その時点で開戦されたと判断して動いていただくようにお伝えください」
〔〔〔〔かしこまりました〕〕〕〕
バサッ!バサッ!バサッ!
通話を切ると今度は周囲のどよめきと供に背後から巨体が現れる。
それは元の体より少し小さいサイズのブルー・ドラゴンだ。
その頭の上にアルシェとお目付役のフロスト・ドラゴンが乗っている。
「安定はしているな」
『頭の位置を固定するくらいは訳ないさ。
それよりも本当に僕たちの魔力を使わないのかい?』
「通常魔力の回復ならお前らを使うけど、
オベリスク相手じゃ高濃度魔力じゃないと意味がないからな。
初めの魔法はお前達が頑張って用意してくれた専用魔石を使って行う必要がある」
『わかったよ。僕は戦闘してもいいんだよね?』
「申し訳ないけれど、
動かれると集中力を欠くから戦闘は極力マリエル達に任せてくれ」
『ちぇ』
暴れたいなら後々兵士を休ませる為に暴れさせてもいいけどな。
アルシェはフリューネの頭の上で俺たちの会話を笑っている。
「魔力の散布も十分です。
配置に着きましょうお兄さん」
「よし、アクアも準備はいいな!」
『アクアにおまかせ~!』
「『水精霊纏!』」
* * * * *
「勇者様、よろしくお願いします」
〔お任せください。オベリスクはお願いします〕
多少前後する足場の上で私は勇者メリオ様へ指示を出し終えた。
すでに上空へと上昇を始めており、
耳には力強い羽ばたきと地上ではあまり聞かない強風の音がビュービューと耳に響いてくる。
「姫様、敵が出てきました」
「様子を見ながらアインスさんへ敵の情報を伝えて、
正確な敵の詳細を聞き出して戦うようにね」
「はい、行ってきます」
『アルシェも頑張るのですわー!』
マリエルの声に反応して視認した敵は3体。
いずれも大型の個体という点からランクは5~6と想定して指示を出す。
いくらなんでもレベル50程度のマリエルとニルちゃんのペアがランク上位を3体は分が悪すぎますからね。
勇者様の方にも同じく3体が近づいていくのが見える。
『アルカンシェ、予定のポイントに到着したけど目標は見えるかな?』
「少々お待ちを・・・」
私が担当する範囲はアスペラルダ側半分とユレイアルド神聖教国側。
お兄さんが担当する範囲はアスペラルダのもう半分とアーグエングリン側。
多少はズレても魔力爆発を着弾時に発生させるので、
数本破壊出来なかったとしても各国で十分に対応は可能と判断はしている。
「もう少し上にお願いします」
『りょーか~い』
担当範囲は視界内に収まったところでフリューネ様にはその場で停滞してもらう。
体は翼の動きに合わせて大きく上下しているけれど、
私が乗る頭だけはほとんど動く感覚はない。
これなら集中して魔法を発動できそうですね。
〔アルシェ、始めるぞ!〕
「いつでもどうぞ!」
「〔シンクロ!〕」
私とお兄さんのシンクロの声と供に、
地上に待機しているメンバーも同時にシンクロが発動して、
それぞれの体から属性に合ったオーラが漏れ出して光っている。
空から見下ろすと光るだけでなんと目立つことでしょう。
「っ!」
多重シンクロの影響による軽い頭痛が痛いけれど、
お兄さんの意識が詠唱に集中するのを感じ、
私もその感覚に合わせて詠唱を開始した。
「《蒼天に広がる星々よ、魔力の奉納を持って我は願う。》」
詠唱を始めると、
私の持つ魔石の魔力と周囲に散布していた高濃度魔力がさらに空へと昇っていく。
空には上位精霊でも個人では運用の叶わない程に重く大規模な魔法陣が展開され、
神々しい蒼天色に輝きを放ち始めている。
「《時には雨を、時には礫を、閉ざされた大地を白銀に染める。》」
フォレストトーレを覆うまではいかずとも負けず劣らずの魔法陣だ。
普通濃度の魔力では満たすのみ足りず、
制御力も1人2人では足りず、
今までの旅の1年を集大成するような大魔法に仕上がっている。
「《永久とは願わぬ、今一時の安寧を降り注ぐ氷刃にてもたらし示せ。》」
瘴気モンスターが明らかに私とお兄さんを意識した動きに切り替わっている。
マリエル達と勇者様が必死に気を引き立ち回っているのがわかる。
地上からは矢が飛んできて支援している様子から、
トワインかモエアも頑張ってくれているようだ。
「《邪悪な意思を撃ち貫け、邪悪な存在を斬り払え。
亭々たる我らが意思を理解し世界を守る糧と成れ!!》」
「〔《氷剣流星群》!!!〕」
詠唱は完了した。
魔法陣からは名前の通り魔法の氷剣が生えては流星群のように射出されていく。
ただの魔法で造った剣ではない。
私の魔法[氷属性武器精製]で造る氷剣を高濃度魔力で生成し、
それをさらにお兄さんの魔法[武器加階]でグラキエスブランドへ昇華。
その剣に高濃度魔力を込めて片っ端から地上へと射出され続ける。
一つ一つの剣が魔力の帯を引きながら降り注ぐ様を空から見つめる。
自分達を避ける軌道でオベリスクに向かう様は、
自分たちで発動させておきながら、
まさに流星を彷彿とさせる美しさを感じざるを得なかった。
* * * * *
真っ昼間だというのに日光とは違う光と供に天から星々が降り注いでいく。
遠目から見てもほぼ直撃の軌道でコントロールされた星は、
確実に機能しているオベリスクの数を減らしている。
「メリオ様は撤退出来ましたか?」
「無事に戻られております」
「そうですか」
勇者メリオは無事と側仕えのトーニャが伝えてくれる。
光魔法の瞬間移動で戻っていたようだ。
その報告にホッと息を吐く。
美しい空を見上げながら私はすぐ近くで同じく見上げている闇精に声を掛けた。
「クロエ様、あのような魔法は他にもあるのですか?」
『いいえ、私は存じませんね。少なくとも普通の魔法生物、
普通の人種であの規模の魔法を発動させることは出来ませんから、
完全に精霊使いのオリジナル魔法ですね。
私も生まれて初めてこんな魔法を見ました』
闇精の上位階と伺っていたクロエでも見たことがない規模の魔法。
それを友人であるアルシェや水無月さんが発動させているという事に内心すごい興奮状態だ。
やっぱり2人は普通じゃないですよ。
一応水氷魔法なので属性が一致する水精2人に協力を仰ぐとは事前に聞いていました。
そこまでしなければ発動出来ないという時点でもう私の理解を超えています。
空からは尚も流星が降り注ぎオベリスクを破壊していく。
「前線はどんな様子ですか?」
「ギルマス、プレイグ様の連絡網から指揮官へ伝令があり前進を始めております。
各国もギルマス経由の情報からすでに動き出している模様です」
「ついに始まってしまいましたね・・・」
「ご不安ですか? クレア様」
私の不安そうな顔と声音に心配そうに覗き込んでくるサーニャへ微笑む。
「大丈夫です。
一人ではないですし今回はトーニャとサーニャ以外にも、
教国の方々が大勢一緒に戦ってくださいますから」
「確かに以前に比べれば心強くはありますね。
ですが、今からが本番ですよクレア様」
「魔神族というのが前線に出てくればどのような被害が出るかも我々は予想が付きませんから」
瘴気モンスターはどうにでもなる。
瘴気の浄化も水無月さんの協力で対処出来るようになった。
オベリスクもアルシェ達が今も対応してくれている。
教国が直面していない脅威は残り3つ。
禍津核モンスター、瘴気禍津核モンスター、魔神族ですね。
水無月さんの予想ではハルカナムの守護者が行方不明とのことで、
その風精を使った禍津核モンスターがここで出てくるのではと言っていた。
ランク13か14辺りと伺っていますし、
アナザー・ワンも勇者メリオも水無月さんも投入した戦闘になるでしょうね。
物思いから思考が現実に戻りふと気が付けば、
契約光精のハミングが私の袖口を握って空を見上げていた。
「ハミングは水無月さんの精霊達に憧れているのですか?」
『憧れはしますけど成れるとは思えないですよ。
話を聞く限りでは毎日訓練訓練だとぼやいていましたから。
ハミングでは耐えられないと思っちゃいました』
ハミングはそう言うと再び空を見つめ始めた。
私も同じく空を仰ぐ。
確かにこの光景を見て憧れはしますけど、
あの2人のように努力できるかと聞かれれば難しいと思ってしまう。
でも、一緒には肩を並べられなくても、
同じ戦場で出来る限りの協力はしたいなぁとは思っちゃいますねぇ。
ただのオタク時代の水無月宗八であれば胃に穴が開く程のストレス案件だったことだろう。
いや、実際はまだ胃が痛くはある。
場数を踏もうが基本の俺は変わらないのだ!
「皆様、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。
これより大戦前の情報共有を行わせて頂きます」
俺の言葉に各国のお偉方が会釈をする。
ここはフーリエタマナのギルド。
その中でも比較的利用頻度の高い会議室である。
室内へご招待した時に挨拶は恙なく終えており、
俺も気を回して身分的には王族にも聖女にも劣る土の国アーグエングリンの将軍達の扱いには特に気を配った。
ちなみに俺が立っている位置は、
4面のロの字に配置されたテーブルの1面だ。
もちろんアルシェが座るアスペラルダ陣営ではない。
説明役が前に出る必要のある配置なのだ。
「さっそくですが、
私個人の知人達が協力してくれることとなりましたので、
各国に役割の説明と共に分担させていただきます」
うち以外の視線は当然アルシェ達の背後に立つ精霊達へと注がれる。
水精、闇精、土精、光精が揃っているのだ。
この世界の人間からしてみれば常軌を逸した事態であろう。
なんと言ってもこの世界で精霊と出会うことなんてまず無いという話だからな。
「ユレイアルド神聖教国。
そちらへの派遣は闇精クロエ、土精ネルレント、光精ナチュラルとエトランゼ」
『『『『はい』』』』
「役割はクロエが空間探知と聖女の護衛。
これは浄化の関係上相性も悪くはありますが一瞬で移動出来る魔法を利用するにはこれが効率的で安全だからです。
次にネルレントは敵からの攻撃を防ぐ盾役となります。
これは魔法だけでなく大型個体が広範囲の被害を出さない様にすることが目的なので全てから護る訳では無いとご理解ください」
「わかりました」
「また、光精につきましては浄化の手助けをしていただきますので、
手札などはきちんと聞いてから運用に取り組んでください」
「精霊様方、教国を代表して聖女クレシーダがご協力に感謝致します」
クレアのお辞儀に合わせて教国メンバーは全員が頭を下げる。
その中には教国のギルマス、プレイグの姿もあった。
「土の国アーグエングリン。
そちらへの派遣は闇精ムーンネピア、土精パラディウム、光精クリームヒルトとヘルムート」
『『『『はい』』』』
「役割はユレイアルド神聖教国と同じとなります」
「精霊様方、土の国を代表して本作戦を指揮するタラスク=ファグスがご協力に感謝致します」
ファグス卿の隣には副将と小さな体の女性が一緒に頭を下げている。
彼女がハイドディアと人間のハーフ。
セリアンスロープのリリトーナ=イブニクスか。
「合わせて自国ではありますがアスペラルダも精霊に協力していただきます。
水精スィーネとボジャ様、さらに水精ポシェント、光精テルナローレ」
『『『はい』』』
「アスペラルダに闇精と土精が居ないのは何故でしょう?」
クレアが手を上げて質問をしてきた。
日曜学校のくせが出ているぞ。
俺達は協力関係にあるんだから手を上げなくても良いとトーニャが素早く伝えている。
「闇精と土精に関しては単純に人手不足です。
急な手配でありましたので最大限の協力で2名ずつでした」
「それではアスペラルダの防衛が薄くなりませんか?」
「ご心配には及びません。
精霊にはそれぞれ位階と呼ばれるランクがあります。
スィーネとボジャ様は防衛に特化した守護者ですし、
攻撃面もポセイドンの位階であるポシェントがおります。
苛刻のシュティーナに関してはうちのクーデルカが察知して対応いたします」
「そうであれば確かに心配はなさそうですね、差し出口でした。
流石は水の国。水精と仲がよろしくて羨ましいです」
「聖女さまもこれから仲良くなれると存じます。
ソレイユ様からの寵愛は本物でしたからね」
クレアは頭を下げない。
この場で同じ扱いになるのは聖女とアルシェと総大将の3名となる。
他は下っ端だ。
謝罪は口でしても頭を下げるわけにはいかないのだ。
「以上が精霊使いとして出来る協力範囲となります。
各国上手く精霊と協力して被害を少なくしてください」
「「感謝します」」
「続きはギルドマスター方にお任せ致します」
「かしこまりました」
俺が説明席を外すしてアスペラルダ席に戻ると、
アスペラルダからはアインスさんとパーシバルさんが。
ユレイアルドからはプレイグ氏が。
アーグエングリンからはリリアーナさんが立ち上がり入れ替わった。
パーシバルさんはフォレストトーレのギルマスだが、
本拠地の首都は廃都と成っている為アスペラルダに座っていた。
他にも理由はあって、
フォレストトーレの兵士には生き残りもいるけれど、
各街に十数名~数十名なので戦争に参加させるよりも街の護りに集中させたのだ。
そして今回は代わりに冒険者を起用したのでそちらの指揮系統を担当してもらう為にアスペラルダに席を用意した。
「これより作戦の流れを再度ご説明させて頂きます」
* * * * *
胃が痛い。
『お兄ちゃん、顔色悪いね』
『今まで通りに好き勝手出来るのじゃろう?』
「今までは俺達だけだったから気が楽でしたけど、
今回は3カ国合同作戦ですからね・・・。
大きさがちょっと受け止めきれないです」
痛たたたた。
隣に立つスィーネとボジャ様は落ち着いていていいなぁ。
瘴気が人間の領地に存在するのは良くないし、
魔神族も無視出来ない観点からアスペラルダが主導でこの大戦は成った。
でも、俺が方々に顔を出している所為か、
俺が主導のような幻想に囚われている。
つくづくリーダーには向かねぇな。
「お兄さんそろそろ皆に見える位置に上がりましょう。
スィーネさんとボジャ様も定位置で足場を作って全体を見守ってください」
『うむ、では行くかの。頑張れよ、宗八坊』
『お兄ちゃん、頑張ってねぇ!』
アルシェに呼ばれる。
お兄さん!お仕事ですよ!と声が聞こえる。
働きたくないでござる。
しかし現実は非常であり、
マリエルとニルは既に空に上がって堂々とした態度でフォレストトーレを睨んでおり、
アルシェにメリーも覚悟の決まった顔つきになっていた。
マリエルとメリーに関しては俺とアルシェに付いていくだけという意思が強いのだが、
アルシェに到ってはガチで覚悟が決まっている。
本当に姫様なんだなって思い出すレベルで心持ちが違うのだ。
『マスターの内面ってどうなってるです?
自信がこれっぽっちもないと口に出しつつ確かに不安でいっぱいなのに、
ちらちらと自信が顔を出しているです』
「渦巻くもんが色々あるんだよ。
努力をした面で自信もあるけど戦争を目の当たりにするのは初めてだし・・・」
まさか自分が戦争に参加するコトになるとは夢にも思っていない人生でした。
資料館とかに行ってもほぇ~としか感想はなかった。
地元に爆弾落ちなくて良かったぁ~とかな。
自由に動いてもいいとか言われても、
銃器が無いとはいえやっぱりリアルは迫力が違うっての。
はっきり言ってブルってる。
『ぬし様、ベルが居ますので大丈夫かと!』
『ベルは前向きで明るい娘ですね。
ボクたち姉弟の中でもまた少し違う性格をしているです』
新しく加わった契約精霊、光精のベルトロープ=リュミエール。
愛称ベルと呼ばれる手のひらサイズの女の子だ。
性格は真面目で前向き。
アクアはアホ前向き、クーは真面目冷静、ニルは馬鹿前向き、
アニマは威厳冷静、ノイは真面目堅実、フラムは実直甘えん坊。
フラムは俺のジョブレベルが足りていなくて契約は出来ていないし、
ベルが加わったのは2日前だ。
精神と時の部屋が間に合わなかったのでシンクロは出来ない。
絆を育むには時間が足りなかったのだ。
しかし、光精も男の子ならフラムと兄弟になれたのに、
まさか最後も女の子とは思っていなかった。
7姉弟のうち1人だけ男の子では肩身も狭くなるだろう。
俺がしっかりと育てていかないとな!
「《アイシクルキューブ!》」
アルシェの詠唱によって地面から氷が発生し、
俺たちを乗せたままリフトして上がっていく。
氷の下にはリッカとメリーも控えている。
言ってしまえば最後の砦というラインだな。
「広めに取ってあるのに安定して揺れもなくなってるな」
まるでエレベーター並の安定感だ。
「そりゃ私も努力してますからね。
アンカーも使えるようになりましたし、
後方支援も自分の守りもかなり向上していますから安心してくださいね」
「努力はよく存じているよ。
でもアンカーが間に合って良かったな」
「効率の良い魔法を付属出来れば尚良かったんですけどねぇ。
間に合いませんでしたから結局魔力砲・・・。
魔力効率が悪いからあまり多様はしたくないです」
アンカーの正式名称は[アイシクルアンカー]と言って、
アルシェ自身をオートで守る氷のアンカーを地面から生やす魔法だ。
しかし、元の構想をすぐに形に出来るわけではなかったので、
つい最近まではアンカーをそのまま撃ち出して攻撃に使用していた。
今回は元の構想である程度扱える状態に持ち込めたのは正直デカイ。
アンカーの操作を精霊に任せる[エレメントコントロール]を使えば、
勝手に守って勝手に攻撃してくれるセントリーガンみたいな働きをしてくれるはずだ。
「スィーネさん達には悪いことをしたと思っています」
「なんで?」
「仮契約とはいえちょっと強制的になっちゃったかなって・・・」
「俺たちだけで全部をやるには厳しいって判断だったろ。
シヴァ様の采配のおかげで予定通りに事が進むんだし問題ないよ。
ちゃんと皆理解して仮契約してるんだから」
今回の開幕を告げるために、
俺たちは初手を担当することとなっている。
内容は単純。
3方面のオベリスクを全て破壊し各国の兵士が満足に戦える環境を整えること。
その為には俺たち護衛隊だけでは制御力が厳しいので、
一部分のオベリスクは破壊できないと判断していた。
しかし、スィーネとボジャ様とポシェントの水精3名が参加してくれたおかげでなんとか制御力を調達できたのだ。
「あんな裏技みたいな方法。よく思いつきましたね?」
「俺の質だとベルとの契約がやっとなんだから、
思い付かないとどうにもならなかったろ?
それに念話も出来るようになるし、
守りの面で言えばやりやすくなるだろう?」
「それはそうですけどね・・・」
アルシェの言う裏技。
それは契約精霊とシンクロすると制御力が統合されるという現象がある。
それを今回はサブマスターだけではなくサブマスターと仮契約している精霊からも徴収しようという裏技の事だ。
例えば今回の大魔法に必要な制御力が50だとする。
俺は2、精霊5人がそれぞれ6とすると合計32となる。
これには契約のないフラムとシンクロの出来ないベルを除いている。
さらにサブのアルシェが3、マリエルが1、メリーも1とすると、
合計はこれでも37だ。
ここで上位精霊の制御力を引っ張ってくるには問題点がある。
1つ、俺の同時シンクロ出来る精霊数は5人で既に頭が割れそうな負担がある事。
2つ、信頼がなければシンクロは出来ない事。
3つ、契約者が契約できる資質を持っていなければならない事。
4つ、仮契約は制御力の徴収が本来の半分しか出来ない事。
まぁ全部なんとかなったので問題はないとも言える。
中位水精のスィーネはアルシェと仮契約をさせた。
本人は俺と仮契約を従ったけど限界なのでアルシェとしてもらった。
元から魔法の相談だったりアクアと一緒に制御力訓練を受けたりと仲は良いので仮契約もすんなりと進んだ。
次にボジャ様だが、
こちらはマリエルの故郷周辺の守護者をしている方なので、
快くマリエルと仮契約をしてくださった。
マリエルの爺さんと酒を飲んだりしていたしカエル妖精一族の為になるならと力を貸してくれた。
アルシェもマリエルも訓練を続けてきていたし、
俺とは違ってサブマスターとして1人としか契約していない。
資質への影響も1人程度ならそこまでの負担にはなっていなかったらしいので、
精霊使いとしての資質は十分に仮契約できるほどにはジョブレベルも上がっていた。
ポシェントは魔法も使うけど武器で戦う武人だから、
制御力も半分になってしまうならと辞退した。
残るサブマスターはメリーだけど、
こちらも水精関係の加護があるわけでもないし、
種族的に水氷属性に偏りもないので同じく断念した。
それでもスィーネは8、ボジャ様が15と制御力は半分になっても高く、
俺たちと合計すると制御力はなんと60となる!
必要制御力は50なのに10も余裕があると言うことは、
精度を上げて狙い撃つことが出来るということだ。
これで壊し損ねたり、無駄撃ちするといった行動を取らなくてよくなる。
「高さはこの程度でしょうか?」
「そうだな。全体が見渡せるし、
角度がないと前衛を援護するのも調整が面倒だろ」
1キロほど前方では、
スィーネとボジャ様がアルシェと同じように氷の足場を伸ばして調整に入っていた。
2人にはアスペラルダの兵士に対する強攻撃を防いでもらう役割がある。
大型モンスターの体当たりか、大型の魔法か、予想も付かない何かか。
どれが来ようと守護者2人が兵士を守ってくれる安心感は半端ないよ。
「《コール》ギルドマスター」
ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ、ポロン♪
初めのポロン♪の後に3回同じ音が続く。
〔お疲れ様です、水無月様〕
〔こりゃいいのぉ〕
〔爺さん、興奮すると血糖値上がんぞ〕
〔ちょっとパーシバルさん、一応就業中なので口調を整えてください〕
四者四様で精霊達とはまた違う賑やかさだ。
ギルマスの4名には互いの情報を揺蕩う唄で共有してもらい、
各大隊長や指揮官に状況を伝えるという任務をしてもらう。
もちろん作戦開始に伴う大魔法の発動に関しても今から伝えて各国に開戦を知らせてもらわねばならない。
「お兄さん、ブルー・ドラゴン様にお願いして参りますね」
アルシェは俺の返事も待たずに[アイシクルライド]で今し方生成した氷の柱を滑り降りていった。
「あいよ。
皆様、そろそろ開戦の準備を始めます」
〔かしこまりました〕
〔勇者メリオはすでに準備は出来ておるようじゃ〕
〔冒険者もうずうずしてるし早めに開始してくれ〕
〔動き出した際に龍が見えると周知済みです〕
「念のため再度説明しますが、
俺とアルシェ様は魔法に専念しますのでほぼ無防備になります。
アルシェ様の護衛はマリエルと風精ニルチッイが担当しますし、
足場としてブルー・ドラゴンもいるので大丈夫かと思います。
俺の方も土精、火精、光精を連れていくのと、
勇者メリオに手助けいただく事になります」
3方面のオベリスク除去を行うのは俺たちの役目だが、
その数は300本以上あるのでかなり集中しなければならない。
視覚で認識し照準を合わせる為、
高所から見下ろせる位置取りが必要となった。
俺はアクアと水精霊纏で空を飛べる。
アルシェはブルー・ドラゴンを足場にして空を飛ぶこととなった。
これはオベリスクの範囲外からという点でも有効な手段だ。
今の時点でフォレストトーレ上空には数十体の瘴気モンスターが飛んでいる事からも警戒を怠るわけにはいかないので勇者メリオには俺たちの護衛をお願いした。
光魔法で瞬間移動出来るしな。
他の空の対処が出来ない仲間は地上で待機を命令している。
〔認識に相違ありません〕
〔〔〔同じく〕〕〕
「オベリスクが破壊されましたら何が起こるかわかりません。
その時点で開戦されたと判断して動いていただくようにお伝えください」
〔〔〔〔かしこまりました〕〕〕〕
バサッ!バサッ!バサッ!
通話を切ると今度は周囲のどよめきと供に背後から巨体が現れる。
それは元の体より少し小さいサイズのブルー・ドラゴンだ。
その頭の上にアルシェとお目付役のフロスト・ドラゴンが乗っている。
「安定はしているな」
『頭の位置を固定するくらいは訳ないさ。
それよりも本当に僕たちの魔力を使わないのかい?』
「通常魔力の回復ならお前らを使うけど、
オベリスク相手じゃ高濃度魔力じゃないと意味がないからな。
初めの魔法はお前達が頑張って用意してくれた専用魔石を使って行う必要がある」
『わかったよ。僕は戦闘してもいいんだよね?』
「申し訳ないけれど、
動かれると集中力を欠くから戦闘は極力マリエル達に任せてくれ」
『ちぇ』
暴れたいなら後々兵士を休ませる為に暴れさせてもいいけどな。
アルシェはフリューネの頭の上で俺たちの会話を笑っている。
「魔力の散布も十分です。
配置に着きましょうお兄さん」
「よし、アクアも準備はいいな!」
『アクアにおまかせ~!』
「『水精霊纏!』」
* * * * *
「勇者様、よろしくお願いします」
〔お任せください。オベリスクはお願いします〕
多少前後する足場の上で私は勇者メリオ様へ指示を出し終えた。
すでに上空へと上昇を始めており、
耳には力強い羽ばたきと地上ではあまり聞かない強風の音がビュービューと耳に響いてくる。
「姫様、敵が出てきました」
「様子を見ながらアインスさんへ敵の情報を伝えて、
正確な敵の詳細を聞き出して戦うようにね」
「はい、行ってきます」
『アルシェも頑張るのですわー!』
マリエルの声に反応して視認した敵は3体。
いずれも大型の個体という点からランクは5~6と想定して指示を出す。
いくらなんでもレベル50程度のマリエルとニルちゃんのペアがランク上位を3体は分が悪すぎますからね。
勇者様の方にも同じく3体が近づいていくのが見える。
『アルカンシェ、予定のポイントに到着したけど目標は見えるかな?』
「少々お待ちを・・・」
私が担当する範囲はアスペラルダ側半分とユレイアルド神聖教国側。
お兄さんが担当する範囲はアスペラルダのもう半分とアーグエングリン側。
多少はズレても魔力爆発を着弾時に発生させるので、
数本破壊出来なかったとしても各国で十分に対応は可能と判断はしている。
「もう少し上にお願いします」
『りょーか~い』
担当範囲は視界内に収まったところでフリューネ様にはその場で停滞してもらう。
体は翼の動きに合わせて大きく上下しているけれど、
私が乗る頭だけはほとんど動く感覚はない。
これなら集中して魔法を発動できそうですね。
〔アルシェ、始めるぞ!〕
「いつでもどうぞ!」
「〔シンクロ!〕」
私とお兄さんのシンクロの声と供に、
地上に待機しているメンバーも同時にシンクロが発動して、
それぞれの体から属性に合ったオーラが漏れ出して光っている。
空から見下ろすと光るだけでなんと目立つことでしょう。
「っ!」
多重シンクロの影響による軽い頭痛が痛いけれど、
お兄さんの意識が詠唱に集中するのを感じ、
私もその感覚に合わせて詠唱を開始した。
「《蒼天に広がる星々よ、魔力の奉納を持って我は願う。》」
詠唱を始めると、
私の持つ魔石の魔力と周囲に散布していた高濃度魔力がさらに空へと昇っていく。
空には上位精霊でも個人では運用の叶わない程に重く大規模な魔法陣が展開され、
神々しい蒼天色に輝きを放ち始めている。
「《時には雨を、時には礫を、閉ざされた大地を白銀に染める。》」
フォレストトーレを覆うまではいかずとも負けず劣らずの魔法陣だ。
普通濃度の魔力では満たすのみ足りず、
制御力も1人2人では足りず、
今までの旅の1年を集大成するような大魔法に仕上がっている。
「《永久とは願わぬ、今一時の安寧を降り注ぐ氷刃にてもたらし示せ。》」
瘴気モンスターが明らかに私とお兄さんを意識した動きに切り替わっている。
マリエル達と勇者様が必死に気を引き立ち回っているのがわかる。
地上からは矢が飛んできて支援している様子から、
トワインかモエアも頑張ってくれているようだ。
「《邪悪な意思を撃ち貫け、邪悪な存在を斬り払え。
亭々たる我らが意思を理解し世界を守る糧と成れ!!》」
「〔《氷剣流星群》!!!〕」
詠唱は完了した。
魔法陣からは名前の通り魔法の氷剣が生えては流星群のように射出されていく。
ただの魔法で造った剣ではない。
私の魔法[氷属性武器精製]で造る氷剣を高濃度魔力で生成し、
それをさらにお兄さんの魔法[武器加階]でグラキエスブランドへ昇華。
その剣に高濃度魔力を込めて片っ端から地上へと射出され続ける。
一つ一つの剣が魔力の帯を引きながら降り注ぐ様を空から見つめる。
自分達を避ける軌道でオベリスクに向かう様は、
自分たちで発動させておきながら、
まさに流星を彷彿とさせる美しさを感じざるを得なかった。
* * * * *
真っ昼間だというのに日光とは違う光と供に天から星々が降り注いでいく。
遠目から見てもほぼ直撃の軌道でコントロールされた星は、
確実に機能しているオベリスクの数を減らしている。
「メリオ様は撤退出来ましたか?」
「無事に戻られております」
「そうですか」
勇者メリオは無事と側仕えのトーニャが伝えてくれる。
光魔法の瞬間移動で戻っていたようだ。
その報告にホッと息を吐く。
美しい空を見上げながら私はすぐ近くで同じく見上げている闇精に声を掛けた。
「クロエ様、あのような魔法は他にもあるのですか?」
『いいえ、私は存じませんね。少なくとも普通の魔法生物、
普通の人種であの規模の魔法を発動させることは出来ませんから、
完全に精霊使いのオリジナル魔法ですね。
私も生まれて初めてこんな魔法を見ました』
闇精の上位階と伺っていたクロエでも見たことがない規模の魔法。
それを友人であるアルシェや水無月さんが発動させているという事に内心すごい興奮状態だ。
やっぱり2人は普通じゃないですよ。
一応水氷魔法なので属性が一致する水精2人に協力を仰ぐとは事前に聞いていました。
そこまでしなければ発動出来ないという時点でもう私の理解を超えています。
空からは尚も流星が降り注ぎオベリスクを破壊していく。
「前線はどんな様子ですか?」
「ギルマス、プレイグ様の連絡網から指揮官へ伝令があり前進を始めております。
各国もギルマス経由の情報からすでに動き出している模様です」
「ついに始まってしまいましたね・・・」
「ご不安ですか? クレア様」
私の不安そうな顔と声音に心配そうに覗き込んでくるサーニャへ微笑む。
「大丈夫です。
一人ではないですし今回はトーニャとサーニャ以外にも、
教国の方々が大勢一緒に戦ってくださいますから」
「確かに以前に比べれば心強くはありますね。
ですが、今からが本番ですよクレア様」
「魔神族というのが前線に出てくればどのような被害が出るかも我々は予想が付きませんから」
瘴気モンスターはどうにでもなる。
瘴気の浄化も水無月さんの協力で対処出来るようになった。
オベリスクもアルシェ達が今も対応してくれている。
教国が直面していない脅威は残り3つ。
禍津核モンスター、瘴気禍津核モンスター、魔神族ですね。
水無月さんの予想ではハルカナムの守護者が行方不明とのことで、
その風精を使った禍津核モンスターがここで出てくるのではと言っていた。
ランク13か14辺りと伺っていますし、
アナザー・ワンも勇者メリオも水無月さんも投入した戦闘になるでしょうね。
物思いから思考が現実に戻りふと気が付けば、
契約光精のハミングが私の袖口を握って空を見上げていた。
「ハミングは水無月さんの精霊達に憧れているのですか?」
『憧れはしますけど成れるとは思えないですよ。
話を聞く限りでは毎日訓練訓練だとぼやいていましたから。
ハミングでは耐えられないと思っちゃいました』
ハミングはそう言うと再び空を見つめ始めた。
私も同じく空を仰ぐ。
確かにこの光景を見て憧れはしますけど、
あの2人のように努力できるかと聞かれれば難しいと思ってしまう。
でも、一緒には肩を並べられなくても、
同じ戦場で出来る限りの協力はしたいなぁとは思っちゃいますねぇ。
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