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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -05話-[紅い夜の帳が下りる頃]
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「ん?」
いま後方から変な魔法の気配がしたな。
まぁアルシェとアクアのどちらからの連絡もないし問題らしい問題でもないんだろう。
それよりも問題はこっちで起こっている。
「テルナローレッ!浄化が間に合ってない!」
〔戦闘のテンポが速過ぎます!私だけでは対処が追いつきませんっ!〕
「アルシェ達の方と俺達はどうにかする!
他の兵士と冒険者のサポートに集中すればなんとかなるか!?」
〔冒険者は光属性武器も少ないのでサポートは必要ですよね?
兵士で言えば四割程度であれば・・・〕
少ねぇ!と言いたい所だけど、
数万を相手によく粘っていたと評価はしている。
やっぱりもっと早い段階で使える精霊使いを育てておくべきだったか・・・。
「それでいい!
様子を見つつ問題が出れば報告頼む!」
〔わかりました!〕
「ポシェント、一旦引けっ!
一瞬の穴はリッカとメリー達で対処!」
「「了解!!」」
ひとっ飛びで俺の元へと戻ってきたポシェントの槍に手をかざす。
「今から魔法を込めるけど、
制御はポシェントに譲渡しても大丈夫か?」
『宗八が使っている魔法剣と同様の物か・・。
あの一閃などは感覚で出来る物ではないんだろう?
そこは余剰魔力を抜くことで対処してもいいか?』
「それでかまわない。
武器に俺なりの浄化魔法を込める事が目的だからな」
『わかった、やってくれ!』
よしキタ!
「《聖水》セット:細波のランス」
ポシェントの武器はこれで良し。
メリー達はすでに同種の闇魔法[月光]を使用して戦っているから、
残るはリッカだけど・・・。
あいつ魔法はからっきしだからなぁ。
制御はこっち持ちじゃないといけないかな?
「ポシェント、リッカと交代だ」
『了解』
『主、いい?』
「どした、フラム」
ポシェント戦場に戻る。
視線は次に後退指示を出したリッカにターゲッティングしていた矢先、
剣の姿で特製の鞘に収まるフラムが話しかけてきた。
『自分がリッカに付く』
「・・・制御出来るか?」
『完璧にとは言えないと思う。
でも、アクア姉様やクー姉様に色々教わったから・・・。
主の役に立ちたい』
いや流石に・・・。
いやいや、フラムも俺が何をするのか理解はしているんだ。
1から効率を考え魔法剣の制御の感触を確かめるなんて工程をアクア達の教えですっ飛ばせているのなら任せたい。
制御のひとつが手放せるなら喜ばしいし、
リッカは攻撃こそ最大の防御を地で行く女だし守ってくれるだろう。
「隊長、お待たせいたしました」
「・・・先に試してみて問題なさそうであれば少し任せる」
『少し?』
「一度加階しているとはいえ長く戦闘を行うのは初めてだろう。
制御もずっとじゃなくて魔力がいっぱいになる前に放出すればいい」
『わかった。頑張る!』
直に俺が目で見て肌で感じた事の無いフラムの制御。
それを実際に試させる為にリッカに剣を出させる。
「あ、あの隊長。私魔法は・・・」
「わかってる・・フラム準備はいいか?」
『ん!』
ニュートラル型へ姿を戻したフラムが拳を握る。
その姿に昔のアクアを見たような気がして頬が緩む。
頑張れよ。
「《聖火》セット:竜宮ノ太刀」
手のひらに発生せし炎は小さな光が周囲を漂い、
神聖さを感じさせる見た目として顕現した。
その聖火はリッカに差し出され俺が触れている極大剣に吸い込まれていく。
「フラム、普通の武器よりも大きい分精霊石の欠片は多く混入している。
落ち着いてまずは内蔵できる量を把握しろ」
『わかった』
剣身が薄らと赤みを帯びたことでリッカは若干挙動がおかしい。
安心せい。問題ない。
フラムは返事をしてからリッカの肩へと移動し目を閉じた。
今まさに剣に意識を集中している様子。
『把握出来た』
「思ったよりも早かったな」
『自分、剣だよ?』
元が剣だから剣の状態などに関しては把握しやすいということだろう。
「次に魔力を少し抜いてみろ」
『わかった』
これが出来ればひとまず武器に負担を掛けることはなくなる。
余裕があれば一閃まで扱えると尚良い。
魔力を武器から抜く作業は問題なさそうかな。
『どう?主の役に立てそう?』
「いいだろう。無理はしないように頑張れ。
どうしても制御が出来ないってなったら魔力は全部解除しろ」
『わかった』
頭を撫でる。
役に立てるとわかって嬉しいのか年相応に可愛らしい笑顔を浮かべる。
「リッカ、今武器には浄化が出来る魔法が込められている。
お前は魔法が扱うことがまだ出来ないから、
今回はフラムをお前と組ませる。しっかり守ってやってくれ」
「わ、わかりました。
フラム・・フラムさん・・・フラム様、よろしくお願いいたします」
『ん、がんばる!』
「よし、行ってこい!」
「はい!」『ん!』
リッカは精霊の呼び方を侍女仲間であるメリーを参考にして様付けで行うことに決めたらしい。
でも、メリーは略称じゃないけどな。
今回で言えばフラムキエ様が正解だったかもしれないぞ。
さて、仲間の攻撃に浄化効果を付与することには成功した。
最後は俺なんだけど広範囲攻撃の一閃と超威力の一閃が扱えるようにとアクアから借りてきている[お魚さんソード]が右手にあり。
そして左手にはノイが創ってくれた[ガントレット]がある。
ガントレットは聖水や聖火を合わせた[氷結衝]や[紅蓮衝]で瘴気の鎧を剥ぎながら戦うことが出来るから、
威力を上げて浄化範囲を広げることも出来る。
いざとなれば龍の魔石を使うことにもなるけれど、
周囲への影響も考えると仲間と共に戦う今回はなかなか使いどころが難しい。
〔お兄さん!大型動き出しましたよ!〕
「了解っ!」
展開も早い。
もう少し前進させて全体が城下町の壁に張り付いたタイミングがベストじゃ無いのか?
そこまで進んでしまえば後退もなかなかスムーズには行かないから、
そのタイミングで大型を一気に解放すればかなりの損害を出すことが出来ると思うんだけど。
「少し後退するぞ!
大型は面倒だから魔石一閃で殺す!巻き込まれるなよっ!」
「「『了解!』」」
選ぶは氷竜一閃。
フォレストトーレへのダメージは極力減らしたい。
それは本当だ。
しかし、水竜一閃の切断特化では足止めも広範囲へと影響も少ない。
「《来よ!》《氷竜一閃!》」
おそらく。
この後に本命が来るっ!
「隊長・・・噂に違わぬこの威力・・・っ!」
『主ぃ~っ!格好いい!』
「褒めてる場合じゃネェ!もっと下がれ馬鹿リッカ!!!!」
「は、はい~~~!!!!」
雑魚はもちろん大型の瘴気モンスターも氷の斬撃で悉くが凍り漬けとなり、
小さなモノから砕けていく。
大きいモノも一旦は下がったポシェント達が再び前進して攻撃すれば簡単に砕けていった。
「ご主人様、禍津核は冷気で凍てついていないようです」
「ちっ」
肉体諸共に凍てついてくれれば良い物を・・・。
「硬度はどんなもんだ?」
「内部に含まれる魔力によって上がっています。
カティナ様からのご報告に相違ないかと」
『今のままであれば問題はありませんが、
ランクが4つも上がれば砕くには相応の負担が必要です』
馬鹿を言うなよクー。
今潰した大型でさえランク6だぞ。
4つもランクが高ければこちらの戦力でレベル100じゃねぇと太刀打ち出来ないってことになる。
それにそんなレベルを生み出すには中位階精霊が必要だ。
「最低でも1体は出てくるだろうけどな・・・」
知り得ている中で厄介になるのはハルカナムの守護者。
こいつは中位風精で既に魔神族に捕らえられていると思われる。
「テルナローレ!怖気が止まらんっ!
感覚の話でいいから状況を教えてくれ!」
〔先の万を超える瘴気モンスターは、あくまで足止めや誘導かと。
我々が感じているソレは城下町の中で未だに・・・えー、煮込まれています〕
感覚で良いとは言ったが煮込まれているとはこれ如何に!?
多分魔神族が魔女で大鍋が城下町で、
ネルネルネルネはヒェヒェヒェヒェ状態って事だろう。
〔ですが、数は絞られていると感じます。
各方面・・・3つずつ!〕
〔お兄さんっ!空に異常発生!注意を!〕
おいおいおい、一気に事を動かしすぎだ。
夜から動いている俺達も混乱する早さで戦場に変化が起こっているのに、
朝から飛び起きて動き始めた連中は尚のこと混乱が酷くなって足を引っ張るぞぉ・・・。
空を見上げる。
そこには、不気味な月が、浮かんでいた。
* * * * *
『朝なのに変な色の月が出てるよぉ~?』
「いえ、本来の月はまだ見えています。
マリエル!あれはいつからありましたかっ!?」
位置的には丁度フォレストトーレ王城の真上。
私とアクアちゃんも戦闘をこなしながらとはいえマリエルの動きも把握していた。
なのに、アレの出現に気が付けていなかった。
〔すみません姫様。
アレの出現に私たちは全く気づいていませんでした〕
〔今の距離で魔力はほとんど感じませんわー!
でも、アレはきっと魔道具の類いではありませんのー?〕
マリエル達も気が付かなかった?
普段は年相応の女の子であるマリエルも自由人気質のニルちゃんも事が戦場に及べばちゃんと仕事はこなす。
なのに気が付かなかったという事はアレ事態に意思が篭もっていない。
攻撃魔法ではなく魔道具の類いというニルちゃんの見解は正しいと私も思う。
「紅い空・・・月・・・」
太陽も出ていて本来の月とは別の存在が現れ、
それが不気味な印象を私たちに与えている。
そもそもなんで月だと思った?
何で空は徐々に紅く染まっている?
心と記憶の奥底に眠る何かが警鐘をけたたましく鳴らす。
『わかったよ!アルの記憶から見つけた~!』
「警戒心の原因はなんですかっ!?」
『[紅い夜]だよぉ~!』
* * * * *
「紅い夜?それって冒険を始めた当初だけ流れていた噂の奴じゃないのか?」
〔えぇ、その通りです。
その効果はメリーが集めていた情報から味方もモンスターに見えるというモノでした!〕
アルシェとの連絡で思い出した[紅い夜]の噂。
ずいぶんと前過ぎる情報だが、
確かに聞き覚えのある情報でもあった。
ってことは・・・?
戦場がさらに混乱する上に最悪どことかではなく全体が瓦解する、か?
「精霊は魔力を臭いで判断できる。
問題は人間の方だ、こんな戦場でまず信じるのは自分の視認能力。
うまく処理しないと人間同士で同士討ちは始まっちまう・・・」
〔どうしましょうか、お兄さん・・・〕
「こっちはなんとかなる、問題は兵士と冒険者達だ・・・」
どうする・・・時間が無いぞ・・・。
まずは落ち着いて整理をしよう。
状況は拮抗。
敵は物量で時間稼ぎをしておそらく秘密兵器のような強いのを出してくる。
土の国アーグエングリンは拳聖が。
光の国ユレイアルドは勇者メリオが。
水の国には俺もアルシェも居る。
しかし、強敵を相手にしている間も戦場の兵士たちは混乱する。
前後左右が本当に噂通りモンスターに見える状態になれば冷静では居られない奴も絶対に出る。
先にどうにかすべきは。
「『紅い夜』」
肩に乗るノイと声が重なる。
そういえば今シンクロしていて思考も繋がっているんだったな。
『落ち着くですよマスター。
ボク達は十分に強い味方を得ているです。
勝てずとも防御に専念すれば負けることもないと思うですよ』
そうだな。
敵がどれほど強大でもポシェントにメリーとクー、そしてリッカとフラム。
こいつらは簡単に殺される程ヤワではない。
なら、確かに任せても大丈夫だ。
勝手に背負っていた荷を下ろそう・・・。
「ふぅ・・・。ありがとう、ノイ。
アルシェ、俺は空に上がってアレをどうにかしてみる。
兵士や冒険者の方はうちと同じく選抜隊だけ前進させて、
混乱が起こるであろう不安要素はフリューネの弱い息吹でラインを引いてくれ。
もちろん変化が起こらなければ戦闘継続で良いがな」
〔わかりました、アインスさん経由で各国にもアスペラルダの方針を伝えます〕
さて、空に上がるだけであれば簡単だけど、
妨害が予想される事を考えるとニルが必要だな。
「マリエル、
そこはアルシェとクランメンバーに任せて俺の元まで来い。
俺達で紅い月をどうにかするぞ!」
〔了解でっす!すぐ向かいます!
ちなみに隊長、アレをどうする予定なんですか?〕
「正直わからん。
魔道具にしろアーティファクトにしろ俺達に不利なモノが発動したなら敵の手札だ。
破壊か無効化かどうにかしないと戦争もままならん」
〔隊長にしては歯切れが悪いですね〕
「夜から働いて朝になったと思えば急展開だからな。
これでも一生懸命考えてはいる」
〔頼りにしてます〕
「お前も考えろ、馬鹿たれ」
それにしても紅い夜とはよく言ったモノだ。
やっと抜けた暗闇だったのに訪れたのは朝ではなく不気味な紅い空に原因と思われる月のような何か。
効果範囲は広大で、おそらく三国全員を覆うのだろう。
オーロラのように空から紅いカーテンが降り注ぎ、
アスペラルダ全軍の後方に流れていくのを見送る。
もう今から移動していては範囲外に逃げるのは間に合わない。
「全員悪いが後退しながら戦闘継続。
ボジャ様とスィーネは兵士の方へ支援に向かってくれ。
テルナローレはメリー達と合流後はアルシェの元へ退いて、
冒険者の方を集中して支援してくれ」
『何が起こっている?』
「正直に言うとわからん。
空のアレが噂通りなら人間がモンスターに見えるようになる」
瘴気モンスターを倒して次が押し寄せる少しの間に、
ポシェントは空を見上げながら質問してきた。
一度経験していれば対処も事前に考えられたんだけどな・・・。
「精霊は魔力で判断出来るだろうけどリッカは無理だから」
「先に指示をいただけていれば無闇と攻撃はいたしませんけれど・・・」
「ポシェントは精霊だし、メリーも今は半分精霊と変わらん。
前に出ているメンバーでリッカだけが人間だからフラムの言うことは絶対に聞いておけよ」
「かしこまりました!」
『任せて』
一閃で前衛を支援しながら指示も続ける。
はっきりと言えば戦力がやはり不足していると痛感する。
俺が居ればなんとかなるとか安易に考えるタイプでは元より無いんだけど、
それにしても敵の先兵は数を減らしているのにまだまだ沸いてくるし、
テルナローレ達光精は今まさにフォレストトーレ城下町の中で何かが産まれる予兆を感じ取っている。
「たいちょ~、お待たせしました!」
『ノイ姉様もお疲れ様ですわー!』
「よし、ニルとノイは交代。
ノイはニルの代わりにマリエルを守ってやってくれ」
『かしこまりですわー!』
『空ですか・・・』
元気なニルは俺に飛び込んでくるが、
空で飛び回る事に慣れていないノイは少し憂鬱そうだ。
ノイ、頑張ってくれ。
『風精霊纏!』
空を飛ぶ為にマントと化したニルを纏う。
続けて離れる戦場の引き継ぎも続けて行った。
「メリー、ベルを頼む」
「かしこまりました」
『よろしくおねがいします』
まずは調査同時対処に力の付いていないベルを連れて行くことは出来ないので、
後方に合流する予定のメリーに預ける。
「アルシェも少し前進してくるはずだ。
お前達はこのまま周囲の兵士に合わせて交代してアルシェのPTに合流してくれ。
以降はアルシェの指揮下で紅い夜が終わるまで戦闘継続」
『「了解!」』
アスペラルダ軍は全体的に後退を始めていた。
その代わり、よく見れば将軍と副将の他合計2万程度かな?
全体から見れば一部が逆に前進している。
アルシェから伝えさせた指示が全体に広がったのだろう。
仲間を信じて戦いに専念出来る信頼の置けるメンバーだけで構成された複数のグループ。
それが、現在前進している兵士達の正体だ。
〔お兄さん、位置に着きました。
兵士たちも指示には従ってくれていますが混乱はさせてしまっています〕
「紅い夜が本物なら今以上に地獄になる。
とりあえず指示に従ってくれただけ王国軍のアルシェへの信頼が高くて助かった」
〔どちらかと言うと私たちだと思いますが・・・。
将軍隊が率先して動きを見せてくれたおかげですね〕
「そうだな・・・。
じゃあ、俺とマリエルは空に上がって対応に当たる。
前衛はこのまま後退しながら戦闘を続けるから支援と合流とその後の対応も任せるぞ」
〔わかりました。お気を付けて〕
アルシェとの連絡が終わる。
近くで俺の指示だしが終わるのを待っていたマリエルと視線が合うと笑顔を見せた。
ここからは予定外の動きとなる事を彼女も理解している。
臨機応変に・・など、簡単に言えれば楽なのにな・・・。
「何が起こるかわからないからな。
第一に情報を伝える努力、第二に命大事に、第三にぶっ飛ばせ!」
「了解!」
「行くぞ!」
気合いを入れて、そうマリエルに言った瞬間。
紅い夜は発動した。
* * * * *
「フリューネ様!戦場に線引きを!」
『わかったよぉ』
「セリア先生!上がってきてもらえますか?」
「すぐ参りますわ!」
お兄さんとの通話が終わった時にはわかっていた。
私は地上よりも高い位置に居て、
遠くまで見通せる[ウォーターレンズ]も常に掛かっている状態だったから。
「うわ・・・酷いですね・・・」
「・・・アルシェ様も人の事言えませんわよ?」
風精の服を着て空を飛べる状態のセリア先生が私の指示に従って氷上へと昇ってきた。
しかし、発動した紅い夜の効果は絶大であった。
美しい風貌のセリア先生は、醜い、とても醜いフェアリーオークの姿に変わっていた。
私自身も同じように変わっていると言われたのでインベントリから手鏡を取り出し確認すると、
確かにセリア先生並みに酷い姿の自分が映り少し目眩を覚えたほどだ。
「声が変わっていないのが幸いですね」
「水無月君が昔予想したという内容は強ち間違っていないのかもしれませんわね・・・」
お兄さんの推測では、
人の姿をモンスターに変化させる効果から火属性の裏。
つまりは幻属性の魔法が働くからではと言っていた。
とはいえ、この広範囲幻をすぐに解く方法も検討が付かないんですけどね・・・。
『(アル~、兵士とかゼノウ達はただのオークみたいだよぉ~)』
「確かにアクアちゃんの言うとおりですね。
魔力量によって見た目が醜くなるのでしょうか?」
「それなら私やアルシェ様の見た目も納得の醜さですわね。
それにしても龍はそのままだなんて・・・流石というべきでしょうか?」
セリア先生の言葉に上を見上げれば、
空に悠然と佇む依然と変わらぬ姿のフリューネ様が見える。
抵抗力があるとかでしょうか?
「ともかく兵士や冒険者の混乱が広がる前に上手く伝令を走らせることは出来るでしょうか?」
「いえ、今はあまり動かない事が良いかと。
下手に動けばその者は目を引きますし危険ですわ」
確かに悪目立ちして最も後方の兵士が騒ぎでもすれば・・・。
「そうですか・・・。
おそらくこれまでの比ではない瘴気モンスターが産まれるかと思います。
そちらの対処は私たちで1体、将軍達が2体でなんとかします。
セリア先生は・・・」
「地上から調査、ですわね」
「話が早くて助かります。
幸い視界は日中ほどでは無いにしろ問題はないほど確保できています。
ただ世界が紅く染まっただけ。
そしてもっとも目を引くのが偽りの月ですが、
別視点からの調査も同時に行いたいので、お願いします」
「かしこまりましたわ、姫様」
私のお願いに恭しく美しい姿勢でお辞儀をするセリア先生。
しかし、見た目がフェアリーオーク・・・。
きっと先生も良い顔を作ってお辞儀してくださったのだろうに、
本当に色々と残念にしてくれますね・・・紅い夜・・・。
さてと。
「皆さん、お互いが誰だか判別は可能でしょうか?」
〔ゼノウPT、問題ありません。
事前に話を伺えていたのと、それぞれの得物に変化もありませんので〕
〔セーバーPTも同様です。
特に醜いのが魔法使いで醜いチビがリュースィと判れば、
それも特徴になりますね〕
確かに言い方は悪いですが、
魔力量による違いも人物特定の役に立っていますね。
あ、リュースィにセーバーが怒られてる。
「残党が残っていますから自身の状況の確認はしておいてください。
いつ解除出来るかもわかりませんからね」
〔〔了解〕〕
「メリー達は一時的ではありますが私のPTに入ってもらいます。
ポシェントとリッカもよろしいですね?」
〔〔かしこまりました〕〕
〔了解〕
パーティ申請をさっさと送ってしまい、
それぞれの了承も得て無事にPTを組むことに成功した。
こういう準備は早めにしておかないとね。
『(アル、冒険者の方がさぁ~、戦闘慣れしてな~い?)』
「そうですね。
兵士は訓練はしても対人ばかりでダンジョンに長期間潜る訳にもいきませんから・・・。
必然的に今回の戦闘の単純な経験差は冒険者に分がありますね」
足場を伸ばして高所に居るのでよく見渡せる視界の隅に映る冒険者の一団。
アクアちゃんが指摘するように、
テルナローレさんの光魔法支援が厚いとはいっても戦闘の組み立て方がやはり巧いと言わざるを得ません。
汎用魔法もコンビネーションの上手さも、
高レベルと高熟練度が揃えばここまで頼もしくなるのかと目から鱗ものだ。
対人なら流石にうちの将軍達の方が強いですけれどね!
〔アルカンシェ!産まれましたよ!
予想通り各国に3ずつ、小さい取り巻きも複数確認できています!〕
テルナローレが揺蕩う唄越しに声を張り上げる。
ずっと騒いでいるのは気づいていましたが、
全員と繋げて必要な情報を受け取る為に敢えて無視していましたが、
動き出したのであれば今度は彼女の話を優先しましょう。
「総員、状況開始と致しましょう!」
いま後方から変な魔法の気配がしたな。
まぁアルシェとアクアのどちらからの連絡もないし問題らしい問題でもないんだろう。
それよりも問題はこっちで起こっている。
「テルナローレッ!浄化が間に合ってない!」
〔戦闘のテンポが速過ぎます!私だけでは対処が追いつきませんっ!〕
「アルシェ達の方と俺達はどうにかする!
他の兵士と冒険者のサポートに集中すればなんとかなるか!?」
〔冒険者は光属性武器も少ないのでサポートは必要ですよね?
兵士で言えば四割程度であれば・・・〕
少ねぇ!と言いたい所だけど、
数万を相手によく粘っていたと評価はしている。
やっぱりもっと早い段階で使える精霊使いを育てておくべきだったか・・・。
「それでいい!
様子を見つつ問題が出れば報告頼む!」
〔わかりました!〕
「ポシェント、一旦引けっ!
一瞬の穴はリッカとメリー達で対処!」
「「了解!!」」
ひとっ飛びで俺の元へと戻ってきたポシェントの槍に手をかざす。
「今から魔法を込めるけど、
制御はポシェントに譲渡しても大丈夫か?」
『宗八が使っている魔法剣と同様の物か・・。
あの一閃などは感覚で出来る物ではないんだろう?
そこは余剰魔力を抜くことで対処してもいいか?』
「それでかまわない。
武器に俺なりの浄化魔法を込める事が目的だからな」
『わかった、やってくれ!』
よしキタ!
「《聖水》セット:細波のランス」
ポシェントの武器はこれで良し。
メリー達はすでに同種の闇魔法[月光]を使用して戦っているから、
残るはリッカだけど・・・。
あいつ魔法はからっきしだからなぁ。
制御はこっち持ちじゃないといけないかな?
「ポシェント、リッカと交代だ」
『了解』
『主、いい?』
「どした、フラム」
ポシェント戦場に戻る。
視線は次に後退指示を出したリッカにターゲッティングしていた矢先、
剣の姿で特製の鞘に収まるフラムが話しかけてきた。
『自分がリッカに付く』
「・・・制御出来るか?」
『完璧にとは言えないと思う。
でも、アクア姉様やクー姉様に色々教わったから・・・。
主の役に立ちたい』
いや流石に・・・。
いやいや、フラムも俺が何をするのか理解はしているんだ。
1から効率を考え魔法剣の制御の感触を確かめるなんて工程をアクア達の教えですっ飛ばせているのなら任せたい。
制御のひとつが手放せるなら喜ばしいし、
リッカは攻撃こそ最大の防御を地で行く女だし守ってくれるだろう。
「隊長、お待たせいたしました」
「・・・先に試してみて問題なさそうであれば少し任せる」
『少し?』
「一度加階しているとはいえ長く戦闘を行うのは初めてだろう。
制御もずっとじゃなくて魔力がいっぱいになる前に放出すればいい」
『わかった。頑張る!』
直に俺が目で見て肌で感じた事の無いフラムの制御。
それを実際に試させる為にリッカに剣を出させる。
「あ、あの隊長。私魔法は・・・」
「わかってる・・フラム準備はいいか?」
『ん!』
ニュートラル型へ姿を戻したフラムが拳を握る。
その姿に昔のアクアを見たような気がして頬が緩む。
頑張れよ。
「《聖火》セット:竜宮ノ太刀」
手のひらに発生せし炎は小さな光が周囲を漂い、
神聖さを感じさせる見た目として顕現した。
その聖火はリッカに差し出され俺が触れている極大剣に吸い込まれていく。
「フラム、普通の武器よりも大きい分精霊石の欠片は多く混入している。
落ち着いてまずは内蔵できる量を把握しろ」
『わかった』
剣身が薄らと赤みを帯びたことでリッカは若干挙動がおかしい。
安心せい。問題ない。
フラムは返事をしてからリッカの肩へと移動し目を閉じた。
今まさに剣に意識を集中している様子。
『把握出来た』
「思ったよりも早かったな」
『自分、剣だよ?』
元が剣だから剣の状態などに関しては把握しやすいということだろう。
「次に魔力を少し抜いてみろ」
『わかった』
これが出来ればひとまず武器に負担を掛けることはなくなる。
余裕があれば一閃まで扱えると尚良い。
魔力を武器から抜く作業は問題なさそうかな。
『どう?主の役に立てそう?』
「いいだろう。無理はしないように頑張れ。
どうしても制御が出来ないってなったら魔力は全部解除しろ」
『わかった』
頭を撫でる。
役に立てるとわかって嬉しいのか年相応に可愛らしい笑顔を浮かべる。
「リッカ、今武器には浄化が出来る魔法が込められている。
お前は魔法が扱うことがまだ出来ないから、
今回はフラムをお前と組ませる。しっかり守ってやってくれ」
「わ、わかりました。
フラム・・フラムさん・・・フラム様、よろしくお願いいたします」
『ん、がんばる!』
「よし、行ってこい!」
「はい!」『ん!』
リッカは精霊の呼び方を侍女仲間であるメリーを参考にして様付けで行うことに決めたらしい。
でも、メリーは略称じゃないけどな。
今回で言えばフラムキエ様が正解だったかもしれないぞ。
さて、仲間の攻撃に浄化効果を付与することには成功した。
最後は俺なんだけど広範囲攻撃の一閃と超威力の一閃が扱えるようにとアクアから借りてきている[お魚さんソード]が右手にあり。
そして左手にはノイが創ってくれた[ガントレット]がある。
ガントレットは聖水や聖火を合わせた[氷結衝]や[紅蓮衝]で瘴気の鎧を剥ぎながら戦うことが出来るから、
威力を上げて浄化範囲を広げることも出来る。
いざとなれば龍の魔石を使うことにもなるけれど、
周囲への影響も考えると仲間と共に戦う今回はなかなか使いどころが難しい。
〔お兄さん!大型動き出しましたよ!〕
「了解っ!」
展開も早い。
もう少し前進させて全体が城下町の壁に張り付いたタイミングがベストじゃ無いのか?
そこまで進んでしまえば後退もなかなかスムーズには行かないから、
そのタイミングで大型を一気に解放すればかなりの損害を出すことが出来ると思うんだけど。
「少し後退するぞ!
大型は面倒だから魔石一閃で殺す!巻き込まれるなよっ!」
「「『了解!』」」
選ぶは氷竜一閃。
フォレストトーレへのダメージは極力減らしたい。
それは本当だ。
しかし、水竜一閃の切断特化では足止めも広範囲へと影響も少ない。
「《来よ!》《氷竜一閃!》」
おそらく。
この後に本命が来るっ!
「隊長・・・噂に違わぬこの威力・・・っ!」
『主ぃ~っ!格好いい!』
「褒めてる場合じゃネェ!もっと下がれ馬鹿リッカ!!!!」
「は、はい~~~!!!!」
雑魚はもちろん大型の瘴気モンスターも氷の斬撃で悉くが凍り漬けとなり、
小さなモノから砕けていく。
大きいモノも一旦は下がったポシェント達が再び前進して攻撃すれば簡単に砕けていった。
「ご主人様、禍津核は冷気で凍てついていないようです」
「ちっ」
肉体諸共に凍てついてくれれば良い物を・・・。
「硬度はどんなもんだ?」
「内部に含まれる魔力によって上がっています。
カティナ様からのご報告に相違ないかと」
『今のままであれば問題はありませんが、
ランクが4つも上がれば砕くには相応の負担が必要です』
馬鹿を言うなよクー。
今潰した大型でさえランク6だぞ。
4つもランクが高ければこちらの戦力でレベル100じゃねぇと太刀打ち出来ないってことになる。
それにそんなレベルを生み出すには中位階精霊が必要だ。
「最低でも1体は出てくるだろうけどな・・・」
知り得ている中で厄介になるのはハルカナムの守護者。
こいつは中位風精で既に魔神族に捕らえられていると思われる。
「テルナローレ!怖気が止まらんっ!
感覚の話でいいから状況を教えてくれ!」
〔先の万を超える瘴気モンスターは、あくまで足止めや誘導かと。
我々が感じているソレは城下町の中で未だに・・・えー、煮込まれています〕
感覚で良いとは言ったが煮込まれているとはこれ如何に!?
多分魔神族が魔女で大鍋が城下町で、
ネルネルネルネはヒェヒェヒェヒェ状態って事だろう。
〔ですが、数は絞られていると感じます。
各方面・・・3つずつ!〕
〔お兄さんっ!空に異常発生!注意を!〕
おいおいおい、一気に事を動かしすぎだ。
夜から動いている俺達も混乱する早さで戦場に変化が起こっているのに、
朝から飛び起きて動き始めた連中は尚のこと混乱が酷くなって足を引っ張るぞぉ・・・。
空を見上げる。
そこには、不気味な月が、浮かんでいた。
* * * * *
『朝なのに変な色の月が出てるよぉ~?』
「いえ、本来の月はまだ見えています。
マリエル!あれはいつからありましたかっ!?」
位置的には丁度フォレストトーレ王城の真上。
私とアクアちゃんも戦闘をこなしながらとはいえマリエルの動きも把握していた。
なのに、アレの出現に気が付けていなかった。
〔すみません姫様。
アレの出現に私たちは全く気づいていませんでした〕
〔今の距離で魔力はほとんど感じませんわー!
でも、アレはきっと魔道具の類いではありませんのー?〕
マリエル達も気が付かなかった?
普段は年相応の女の子であるマリエルも自由人気質のニルちゃんも事が戦場に及べばちゃんと仕事はこなす。
なのに気が付かなかったという事はアレ事態に意思が篭もっていない。
攻撃魔法ではなく魔道具の類いというニルちゃんの見解は正しいと私も思う。
「紅い空・・・月・・・」
太陽も出ていて本来の月とは別の存在が現れ、
それが不気味な印象を私たちに与えている。
そもそもなんで月だと思った?
何で空は徐々に紅く染まっている?
心と記憶の奥底に眠る何かが警鐘をけたたましく鳴らす。
『わかったよ!アルの記憶から見つけた~!』
「警戒心の原因はなんですかっ!?」
『[紅い夜]だよぉ~!』
* * * * *
「紅い夜?それって冒険を始めた当初だけ流れていた噂の奴じゃないのか?」
〔えぇ、その通りです。
その効果はメリーが集めていた情報から味方もモンスターに見えるというモノでした!〕
アルシェとの連絡で思い出した[紅い夜]の噂。
ずいぶんと前過ぎる情報だが、
確かに聞き覚えのある情報でもあった。
ってことは・・・?
戦場がさらに混乱する上に最悪どことかではなく全体が瓦解する、か?
「精霊は魔力を臭いで判断できる。
問題は人間の方だ、こんな戦場でまず信じるのは自分の視認能力。
うまく処理しないと人間同士で同士討ちは始まっちまう・・・」
〔どうしましょうか、お兄さん・・・〕
「こっちはなんとかなる、問題は兵士と冒険者達だ・・・」
どうする・・・時間が無いぞ・・・。
まずは落ち着いて整理をしよう。
状況は拮抗。
敵は物量で時間稼ぎをしておそらく秘密兵器のような強いのを出してくる。
土の国アーグエングリンは拳聖が。
光の国ユレイアルドは勇者メリオが。
水の国には俺もアルシェも居る。
しかし、強敵を相手にしている間も戦場の兵士たちは混乱する。
前後左右が本当に噂通りモンスターに見える状態になれば冷静では居られない奴も絶対に出る。
先にどうにかすべきは。
「『紅い夜』」
肩に乗るノイと声が重なる。
そういえば今シンクロしていて思考も繋がっているんだったな。
『落ち着くですよマスター。
ボク達は十分に強い味方を得ているです。
勝てずとも防御に専念すれば負けることもないと思うですよ』
そうだな。
敵がどれほど強大でもポシェントにメリーとクー、そしてリッカとフラム。
こいつらは簡単に殺される程ヤワではない。
なら、確かに任せても大丈夫だ。
勝手に背負っていた荷を下ろそう・・・。
「ふぅ・・・。ありがとう、ノイ。
アルシェ、俺は空に上がってアレをどうにかしてみる。
兵士や冒険者の方はうちと同じく選抜隊だけ前進させて、
混乱が起こるであろう不安要素はフリューネの弱い息吹でラインを引いてくれ。
もちろん変化が起こらなければ戦闘継続で良いがな」
〔わかりました、アインスさん経由で各国にもアスペラルダの方針を伝えます〕
さて、空に上がるだけであれば簡単だけど、
妨害が予想される事を考えるとニルが必要だな。
「マリエル、
そこはアルシェとクランメンバーに任せて俺の元まで来い。
俺達で紅い月をどうにかするぞ!」
〔了解でっす!すぐ向かいます!
ちなみに隊長、アレをどうする予定なんですか?〕
「正直わからん。
魔道具にしろアーティファクトにしろ俺達に不利なモノが発動したなら敵の手札だ。
破壊か無効化かどうにかしないと戦争もままならん」
〔隊長にしては歯切れが悪いですね〕
「夜から働いて朝になったと思えば急展開だからな。
これでも一生懸命考えてはいる」
〔頼りにしてます〕
「お前も考えろ、馬鹿たれ」
それにしても紅い夜とはよく言ったモノだ。
やっと抜けた暗闇だったのに訪れたのは朝ではなく不気味な紅い空に原因と思われる月のような何か。
効果範囲は広大で、おそらく三国全員を覆うのだろう。
オーロラのように空から紅いカーテンが降り注ぎ、
アスペラルダ全軍の後方に流れていくのを見送る。
もう今から移動していては範囲外に逃げるのは間に合わない。
「全員悪いが後退しながら戦闘継続。
ボジャ様とスィーネは兵士の方へ支援に向かってくれ。
テルナローレはメリー達と合流後はアルシェの元へ退いて、
冒険者の方を集中して支援してくれ」
『何が起こっている?』
「正直に言うとわからん。
空のアレが噂通りなら人間がモンスターに見えるようになる」
瘴気モンスターを倒して次が押し寄せる少しの間に、
ポシェントは空を見上げながら質問してきた。
一度経験していれば対処も事前に考えられたんだけどな・・・。
「精霊は魔力で判断出来るだろうけどリッカは無理だから」
「先に指示をいただけていれば無闇と攻撃はいたしませんけれど・・・」
「ポシェントは精霊だし、メリーも今は半分精霊と変わらん。
前に出ているメンバーでリッカだけが人間だからフラムの言うことは絶対に聞いておけよ」
「かしこまりました!」
『任せて』
一閃で前衛を支援しながら指示も続ける。
はっきりと言えば戦力がやはり不足していると痛感する。
俺が居ればなんとかなるとか安易に考えるタイプでは元より無いんだけど、
それにしても敵の先兵は数を減らしているのにまだまだ沸いてくるし、
テルナローレ達光精は今まさにフォレストトーレ城下町の中で何かが産まれる予兆を感じ取っている。
「たいちょ~、お待たせしました!」
『ノイ姉様もお疲れ様ですわー!』
「よし、ニルとノイは交代。
ノイはニルの代わりにマリエルを守ってやってくれ」
『かしこまりですわー!』
『空ですか・・・』
元気なニルは俺に飛び込んでくるが、
空で飛び回る事に慣れていないノイは少し憂鬱そうだ。
ノイ、頑張ってくれ。
『風精霊纏!』
空を飛ぶ為にマントと化したニルを纏う。
続けて離れる戦場の引き継ぎも続けて行った。
「メリー、ベルを頼む」
「かしこまりました」
『よろしくおねがいします』
まずは調査同時対処に力の付いていないベルを連れて行くことは出来ないので、
後方に合流する予定のメリーに預ける。
「アルシェも少し前進してくるはずだ。
お前達はこのまま周囲の兵士に合わせて交代してアルシェのPTに合流してくれ。
以降はアルシェの指揮下で紅い夜が終わるまで戦闘継続」
『「了解!」』
アスペラルダ軍は全体的に後退を始めていた。
その代わり、よく見れば将軍と副将の他合計2万程度かな?
全体から見れば一部が逆に前進している。
アルシェから伝えさせた指示が全体に広がったのだろう。
仲間を信じて戦いに専念出来る信頼の置けるメンバーだけで構成された複数のグループ。
それが、現在前進している兵士達の正体だ。
〔お兄さん、位置に着きました。
兵士たちも指示には従ってくれていますが混乱はさせてしまっています〕
「紅い夜が本物なら今以上に地獄になる。
とりあえず指示に従ってくれただけ王国軍のアルシェへの信頼が高くて助かった」
〔どちらかと言うと私たちだと思いますが・・・。
将軍隊が率先して動きを見せてくれたおかげですね〕
「そうだな・・・。
じゃあ、俺とマリエルは空に上がって対応に当たる。
前衛はこのまま後退しながら戦闘を続けるから支援と合流とその後の対応も任せるぞ」
〔わかりました。お気を付けて〕
アルシェとの連絡が終わる。
近くで俺の指示だしが終わるのを待っていたマリエルと視線が合うと笑顔を見せた。
ここからは予定外の動きとなる事を彼女も理解している。
臨機応変に・・など、簡単に言えれば楽なのにな・・・。
「何が起こるかわからないからな。
第一に情報を伝える努力、第二に命大事に、第三にぶっ飛ばせ!」
「了解!」
「行くぞ!」
気合いを入れて、そうマリエルに言った瞬間。
紅い夜は発動した。
* * * * *
「フリューネ様!戦場に線引きを!」
『わかったよぉ』
「セリア先生!上がってきてもらえますか?」
「すぐ参りますわ!」
お兄さんとの通話が終わった時にはわかっていた。
私は地上よりも高い位置に居て、
遠くまで見通せる[ウォーターレンズ]も常に掛かっている状態だったから。
「うわ・・・酷いですね・・・」
「・・・アルシェ様も人の事言えませんわよ?」
風精の服を着て空を飛べる状態のセリア先生が私の指示に従って氷上へと昇ってきた。
しかし、発動した紅い夜の効果は絶大であった。
美しい風貌のセリア先生は、醜い、とても醜いフェアリーオークの姿に変わっていた。
私自身も同じように変わっていると言われたのでインベントリから手鏡を取り出し確認すると、
確かにセリア先生並みに酷い姿の自分が映り少し目眩を覚えたほどだ。
「声が変わっていないのが幸いですね」
「水無月君が昔予想したという内容は強ち間違っていないのかもしれませんわね・・・」
お兄さんの推測では、
人の姿をモンスターに変化させる効果から火属性の裏。
つまりは幻属性の魔法が働くからではと言っていた。
とはいえ、この広範囲幻をすぐに解く方法も検討が付かないんですけどね・・・。
『(アル~、兵士とかゼノウ達はただのオークみたいだよぉ~)』
「確かにアクアちゃんの言うとおりですね。
魔力量によって見た目が醜くなるのでしょうか?」
「それなら私やアルシェ様の見た目も納得の醜さですわね。
それにしても龍はそのままだなんて・・・流石というべきでしょうか?」
セリア先生の言葉に上を見上げれば、
空に悠然と佇む依然と変わらぬ姿のフリューネ様が見える。
抵抗力があるとかでしょうか?
「ともかく兵士や冒険者の混乱が広がる前に上手く伝令を走らせることは出来るでしょうか?」
「いえ、今はあまり動かない事が良いかと。
下手に動けばその者は目を引きますし危険ですわ」
確かに悪目立ちして最も後方の兵士が騒ぎでもすれば・・・。
「そうですか・・・。
おそらくこれまでの比ではない瘴気モンスターが産まれるかと思います。
そちらの対処は私たちで1体、将軍達が2体でなんとかします。
セリア先生は・・・」
「地上から調査、ですわね」
「話が早くて助かります。
幸い視界は日中ほどでは無いにしろ問題はないほど確保できています。
ただ世界が紅く染まっただけ。
そしてもっとも目を引くのが偽りの月ですが、
別視点からの調査も同時に行いたいので、お願いします」
「かしこまりましたわ、姫様」
私のお願いに恭しく美しい姿勢でお辞儀をするセリア先生。
しかし、見た目がフェアリーオーク・・・。
きっと先生も良い顔を作ってお辞儀してくださったのだろうに、
本当に色々と残念にしてくれますね・・・紅い夜・・・。
さてと。
「皆さん、お互いが誰だか判別は可能でしょうか?」
〔ゼノウPT、問題ありません。
事前に話を伺えていたのと、それぞれの得物に変化もありませんので〕
〔セーバーPTも同様です。
特に醜いのが魔法使いで醜いチビがリュースィと判れば、
それも特徴になりますね〕
確かに言い方は悪いですが、
魔力量による違いも人物特定の役に立っていますね。
あ、リュースィにセーバーが怒られてる。
「残党が残っていますから自身の状況の確認はしておいてください。
いつ解除出来るかもわかりませんからね」
〔〔了解〕〕
「メリー達は一時的ではありますが私のPTに入ってもらいます。
ポシェントとリッカもよろしいですね?」
〔〔かしこまりました〕〕
〔了解〕
パーティ申請をさっさと送ってしまい、
それぞれの了承も得て無事にPTを組むことに成功した。
こういう準備は早めにしておかないとね。
『(アル、冒険者の方がさぁ~、戦闘慣れしてな~い?)』
「そうですね。
兵士は訓練はしても対人ばかりでダンジョンに長期間潜る訳にもいきませんから・・・。
必然的に今回の戦闘の単純な経験差は冒険者に分がありますね」
足場を伸ばして高所に居るのでよく見渡せる視界の隅に映る冒険者の一団。
アクアちゃんが指摘するように、
テルナローレさんの光魔法支援が厚いとはいっても戦闘の組み立て方がやはり巧いと言わざるを得ません。
汎用魔法もコンビネーションの上手さも、
高レベルと高熟練度が揃えばここまで頼もしくなるのかと目から鱗ものだ。
対人なら流石にうちの将軍達の方が強いですけれどね!
〔アルカンシェ!産まれましたよ!
予想通り各国に3ずつ、小さい取り巻きも複数確認できています!〕
テルナローレが揺蕩う唄越しに声を張り上げる。
ずっと騒いでいるのは気づいていましたが、
全員と繋げて必要な情報を受け取る為に敢えて無視していましたが、
動き出したのであれば今度は彼女の話を優先しましょう。
「総員、状況開始と致しましょう!」
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