特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
212 / 450
第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -33話-[VS叢風のメルケルス]

しおりを挟む
『《ハイソニック!》』
「《疾風怒濤!》」

 やる気の無い叢風むらかぜのメルケルスと戦い始めて私は一度も被弾していない。
 けれど、向こうへもダメージは今のところ与えられていない。

 ガンガンッ!ガガンッ!!

 というか、全部風の盾に阻まれて届いてすら居ないという有様だ。

「音的にやっと風の層は抜けたね」
『わかったところで盾も抜けるかって話ですわー!
 姉様達と違ってニルは加階かかいが足りていませんものー!』

 弾かれた足の感触からも風の層に隠された盾の存在を確信する。
 そして、ニルの言う通り。
 精工アーティファクトの有無による攻撃力の差が今は欲しい。

『それにしても勇者はダメダメですわねー!
 風の盾と言っていましたけど、実際は違っているではないですのー!』
「まぁ、あの人は役者不足と私も思うけどさ。
 風の層に関しては物理の威力が激減するし、私たちみたいに風の層を散らせるか隊長みたいな高濃度一閃が必要だと思うよ」

「《撃ち抜いて》」

 メルケルスの羽が一回り大きく羽ばたく動作に合わせて、
 不可視の風の羽根が私たちを狙って複数打ち出される。
 これは直線のみなので回避行動を取れば簡単に避ける事は可能。
 ただし、羽ばたく動作は最初の一度だけで、
 以降はメルケルスが向きを調整すればずっと撃ちっ放しで私たちを補足し続ける。

「どこまでが詐欺かな?」
『なんでもかんでも嘘だと思っておいた方が良いですわー!
 驚いて硬直でもすれば馬鹿丸出しですものー!』

 私とニルが称する詐欺、そして嘘。
 これがメルケルスと戦って見えてきた本性だ。

 まず、風の能力者。これは確実な情報であると考えている。
 実際に攻撃に風を使っているし、
 風の盾とやらにも使用している事からの判断だが、
 風の盾は風の盾では無く、風に護られた盾であった。

 原理は知らない。
 でも、ラウンドシールド型に圧縮された風の外郭を纏わせると、
 その姿は完全に見えなくなり強力な攻撃で護りを散らしてやっと見えたひとつの確かな情報であった。

 続いてあの羽ばたきから開始される風の羽根撃ち。
 最初以外は羽ばたきもせずに身体は浮かんでいるし、
 攻撃は継続するしで本当は羽なんて無くてもいいんじゃないかと疑っている。

 他にも小さな違和感はあるものの情報の確保には至れていない。
 引き出すにしても事実メルケルスの防御は固いし近寄るのも大変なのだ。

「《風玉ふうぎょく!》」

 羽根の追撃が止んだタイミングで周囲の風を一瞬でかき集めた風玉を複数作成し、
 次々と角度を変えて蹴り込んでいく。

 三発は時間差で打点はズラして接近させたが不可視の盾に護られた。
 しかし、最後の三発目と同時着弾を狙った風玉が反対から接近。

 バシュンッ!

 メルケルスは回避もせずに無防備な状態で風玉を受けた。
 受けたのは受けたが、
 厚い何かに防がれて風玉はそのまま消え去った。

『あれが風の鎧ですわねー、厄介ですわー!』
「でも、風の盾はひとつだけみたい。
 もしかしたらオートガードなのかもしれない…」

 威力は全て統一している[風玉ふうぎょく]が一部は防がれ、
 一部が対象にHITした。
 結果としてメルケルスが何もせずともダメージに繋がらないにも関わらず防御をしていた事からマリエルはそのように考えた。

『《風珠かざだま!》』

 メルケルスが攻勢に動き出さないので、
 別の小さな魔法を試しに撃ち込んでみる。

 先日メルケルスが起こした竜巻で巻き上がってきた瘴気を集める役割を果たした魔法は、
 風の盾に防がれる直前で止まり周囲の空気を強烈な勢いで吸い込み始めた。

 これの狙いは纏っているであろう風を剥がせないかと考えてのものだったが、
 この程度では揺らぎもしないのかただただ関係のないメルケルスの周囲を漂う空気だけが集まってしまった。

「無駄ね…」
『もぉ!解除パージですわー!
 こういう考えて効率を出すのは姉様達の仕事ですのにー!
 ニルとマリエル向きの戦い方ではありませんわー!!』

 心象に映るニルが頭を掻いて叫んでいる。
 そこに私の名前も並べるとは…、哀しいけど私も同意だよぉ!

「頭良くないから考え過ぎると隙が多くなっちゃうんだけど、
 考えないとメルケルスの観察も出来ないんだよねぇ」

 風の盾を突破する攻撃力は捻り出すことは出来ても、
 継続的な高威力は現状難しい。
 原因はひとえに私の魔法熟練度とニルが風精で有り裏属性が得意では無い事。

『風属性なら9:1でいいですわー!
 でも、攻撃力の高い雷属性なら5:5、もしくは6:4にはして欲しいですわねー!』
「うぅぅ、時間がないよぉ~」

 もっと早く、せめて二ヶ月前に真なる加護を得ていれば訓練も十分に出来たのに。
 隊長と姫様が私の行く末を考えて悩んで下さったのはわかっていて、
 自分たちもようやく決断出来て風精の祝福を頂けた。

 現時点で限界いっぱい。
 現在の私が一番強い。
 オベリスクが無いから魔法生物を弱らせるデバフ効果はなく、
 精霊石のお守りも外して妖精の力も十全、
 真なる加護で魔法関係は全体的に底上げされていて、
 契約精霊のニルと一体となる[ユニゾン]でさらにパワーアップしている。

 足りなかったのは訓練時間だろうか。
 足りなかったのは私の才能だろうか。

『マリエルだけではありませんわー。
 姉様達の努力は凄いですし、特にアクア姉様は才能もあって凄まじいですわよ』
「じゃあ、お互い足りない事を再確認したうえで今度はどうすればいいかな?」

 霹靂へきれきのナユタ戦の時に力不足をまざまざと理解させられて加護を得た。
 そして、大して日数も経っていないのに新たにこんな壁にぶつかるとは…。
 あ~、魔神族の相手が嫌になってきた。
 隊長達もこんな挫折感味わってんの?

宗八そうはちもアルシェもバトルマニアですわ…。
 挫折も次に克服すべきお題程度に考えていると思いますわよ…』

 現実逃避してても仕方ないか。

「メルケルスって絶対に本気出せばナユタより強いよね?
 実力だけじゃなくて何か色々隠してるっぽいし」
『確実ですわねー!』

 今、自問自答をしてメルケルスを観察することが出来ているのもおかしな事だ。
 だって、現在進行形で戦闘中だもん。
 メルケルス以外の魔神族が相手なら常に戦闘して動き続けているはずだもん。

 ボ~っと何を見てんだろ。
 私たちを視界内には捉えていても直視はして来ない。

『コミュ障って奴ですわー!』

 知らない言葉だけど、
 ニルとシンクロしている関係で隊長からニル、ニルから私へと意味が伝わってくる。
 隊長の世界は人と人との繋がりが薄いみたいね。

 話を戻そう。

「[天羽あまはね]を雷に出来ない?」
『出来ますわよ-!
 ただし、いまの制御力では浮遊が出来ないから止まると落下してしまいますわー!
 というか、おそらく止まれない…ですわー』

 制御力不足……。
 それに浮遊出来ないってところが…。
 いや、現時点でって事みたいだから生き残った先で物にしてやる!

『う~ん、ここで諦めるから姉様達に置いて行かれるんですわー!
 とりあえず、四割を雷に転換したやりますわー!』
「落ちても[天歩エアストジャンプ]で真っ逆さまにはならないし、採用!」

 実践!!

『《天羽あまはね!》シフト:雷天翔らいてんしょう!』

 膝まで護るゲルミナスブーツに[武器加階ウェポンエヴォルト]を掛けた末に、
 大空を翔け、脚技に風を纏わせて威力を上げてくれる[天羽あまはね]。

 くるぶし付近から生えるは主翼の一対だった物が、
 ニルのシフトチェンジで主翼は少々縮まり副翼が出現した。
 その副翼は雷で出来た菱形のコレらしい。
 なるほど、四割がコレか。

 安定感が減ったのは理解したわ。

『タクトも練習ついでに使いますわよー!』
「うぇ~い…」

 ニルの意思に従いどこからともなく現れた[タクト]を握る。
 これはニルとシンクロしようがユニゾンしようが、
 加護を得ようが正直理解出来るとは思えない。

 風だって感覚でしかまだ理解してない状態なのに、
 空気の振動だの音だのどこまで進んじゃってるのよニルは。

『ガタガタ五月蠅いですわー!』

 こういう所が隊長にそっくりだよ!
 結果だけを求める効率厨だからさぁ、気持ちが追いつかない人を置いてきぼりにするんだよねぇ。
 それさっき済んだ話でしょ?まだ言ってんの?的に数秒前まで話していた内容ですらそんな扱いをするときもある。

「アルカンシェ護衛隊、副隊長!マリエル=ネシンフラ!推して参りますぅ!!」

 やっぱり私たちの戦いは接近戦がメインだ。
 一気に最高速に持ち込む[ソニックブースト]でスタートすれば一瞬で飛ぶ速さの違いに目を見開く。
 ただ、直線に強くなる代わりに弧に弱くなっている。

風神脚ふうじんきゃく《韋駄天っ!》」
「《切り裂いて》」

 雷速に及ばずとも高速よりも速い移動に合わせて、
 メルケルスが高速の鎌鼬かまいたちを四連続で放ってきた。

『シザースですわー!』

 短い間隔でジグザグの機動を取って鎌鼬かまいたちを回避。
 そのまま風の盾があるであろう箇所を思いっきり蹴り上げる。

 ガイイイイィィィィィィィィィンッ!!!!

 横方向に発動出来る最強の脚技と風の盾が衝突した音は、
 広範囲に広がり鈍い金属音を響かせた。
 盾が纏う風の護りは全て消し飛び、奥に隠されていた盾にきちんとマリエル達の技は通じている。

「威力○!」
『空いた足を絡めますわよー!』

 はいはい、よっと。

「ぶっとべぇ~~~~~~~っっっっっ!!!あー!駄目だ~!」

 マリエルが足を引っかけ力の限りこの場から離そうとしてみたけれど、
 盾は、飛ばなかった。
 空間に張り付いているかのように全く動かない。
 その短いチャレンジの間にメルケルスは片腕をゆるりとあげて手の平をマリエルへ向ける。

「《吹き飛んで》」
『蹴って!《ディスウェーブボム!》』
「んおりゃああああ!!!」

 風精にも見えない風の衝撃波が手の平から発生する直前にマリエルの持つタクトからこちらも爆弾を放り込むことに成功する。
 直後、足を入れ替える反動で放たれた蹴りと衝撃波が衝突して空間が爆発した。

「んいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!ぽっと出しただけにしては威力デカ過ぎでしょ!!」

 衝撃波は半球状だったらしく、
 マリエルの足は風の脚甲グリーブで護られ、
 その蹴りは常時[極地嵐脚ストームインパクト]で威力を極限まで高めている。

 風の衝撃波の威力は嵐に護られ緩和された上で、
 マリエルは発生した凄まじい爆風で上空へと遠く飛ばされたのだ。

「ゴホッ、ゴホッ…」
『マリエル、メルケルスを見て下さいまし』

 空気が薄く酸欠気味のマリエルを余所に、
 ニルは自身が指示して放った魔法の行く末が気になったらしくマリエルを急かす。


「――わぁ~お、そういうカラクリ?」


 先ほどまで戦っていたメルケルスは薄着のワンピースに白い翼が生えた薄幸美少女であった。
 もちろん武器や防具の類いは視覚内に無く、
 風に隠れた浮かぶ盾だけが本人を護る。
 そんな謎の存在であった。

 しかし、滑り込ませた不愉快な振動数の爆音爆弾が彼女の側で爆発した結果。
 範囲を定めておいたおかげでこちらには影響は何もないけれど、
 メルケルスは常に風の鎧で護られている事が油断に繋がったのか、
 常軌を逸した音波攻撃をまともに食らったいた。


『やっぱり、あの態度はまやかしでしたわねー!』


 理論的な事は全く理解出来ないけれど、
 メルケルスの関しては効果は顕著に発揮されその薄幸だった印象もガラリと変わった。

 薄着のワンピースの上からは上下に分かれた薄黄緑色の鎧が着込まれ胸と両腕を守り、
 白い肌の手にも同系統の手甲が装備されている。
 翼には翼鎧が、足には脚甲グリーブが、腰回りから美しいラインが入った大きなスカートがはためいている。

 身体全体を眺めた最後にこちらにぼーっとした視線を送るメルケルスと目と目が合う。
 途端、無表情から子供のような無邪気な笑みを浮かべ、
 黒いオーラが漏れ出し受け入れがたい不快感が私の全身を駆け巡った。

「やっと……遊べそう…。
 全てを貫く風よ我が手に!《アストラエア!》」

 ナユタのミョルニルと同じ、魔神族の武器の召喚。
 以前に隊長が[召喚器]と呼称していたかな。
 風がメルケルスの手の中で巻き起こりランスの形で固定化され、
 空いたもう片方の手は宙に浮かぶ盾を握り込む。

 その姿は力を抜いて構えも取って居ないにも関わらず、
 先ほどまでの様相と真逆の貫禄がにじみ出ていて、
 今はっきりと格の違いに恐怖が全身を駆け巡った。

「《ノックアップバースト》」

 先の衝撃で開いた高低差。
 それを合わせる為にメルケルスは上昇する竜巻を一時的に中空に発生させ、
 翼を上手く利用してクルクルと回転しながら同じ域まで昇って来て、
 水平になったところで風は止み翼をバサッ!と広げ停滞に入る。

 精神はもう、獲物を狙う目に魅入られた小動物と同じだった。

『ま、マリエル!来ますわよー!来ますわよー!逃げますわよー!!』
「《ソニックブースト!》」
「《コンコルドバースト!》」

 私たちは加速した瞬間に逃げの姿勢で飛び始めたけれど、
 メルケルスの初速は遅く、一瞬で距離は思った以上に開いて内心一安心した。
 しかし、ニルが黙って考え込んでいるのが気になる。

「どうしたの?」
『メルケルスは先ほどの詠唱にコンコルドと言いましたわー!
 宗八そうはちの記憶の中に確か…あったはず………ありましたわー!!!』

 共有される情報と記憶。
 そこまでニルが焦る理由を私はすぐに理解した。
 コンコルドとは異世界の鉄の鳥の事であり、
 その最高速度はマッハ2の超音速飛行が可能である。

 と、同時にメルケルスから轟音が響き始めた。

『始まりましたわー!!あわわわわ-!!』
「ニル、落ち着いて。
 やり合うなら止まってちゃ良い的だし対処も出来ない。
 でも、飛行しながらなら二倍速の敵を相手にするだけでいいでしょ
 」
『マリエルは馬鹿ですわー!
 天羽あまはねも速くなっていますけれども制御出来ているとは言い切れませんわー!
 メルケルスに完璧な動きで来られでもすれば、
 どっち付かずになって制御が乱れるのが関の山ですわよー!』

 ニルに馬鹿と言われると納得いかないなぁ。
 ただ、いつになくニルの精神が乱れて慌てている様子を聞いていると不思議と落ち着いていく自分がいる。
 大丈夫とかは口に出来ないくらいのピンチだし、
 隊長や姫様も今は別の魔神族を相手に戦っているから援軍は期待出来ない。

 なら、やるしかないんだ。
 覚悟が決まるってこういうことなんだろう。

「ニル、いざとなったら身体操って助けてね」
『ん~~、泣きそうですわー!宗八そうはちぃ~!!』
「いや、ここは私の名前を呼ぶか任せて下さいましー!のどっちかで答えてよっ!」
『んんん~~~っ!やりますわよー!任せて下さいましー!!』

 聞き慣れない轟音が目と鼻の先まで近付いている。
 先に距離を離して逃げているはずなのにメルケルスは羽ばたきもしない翼を広げて盾を構え槍の切っ先はこちらを狙っている。

 その時・・・。

「(ニル~、呼んだかぁ~?)」
宗八そうはちぃ~♪
 マリエルは少しの間耐えててくださいましー!』
「ちょ!?」

 さっきまで泣きべそ掻いてたのに急に元気になりましたがっ!?
 この姉妹は本当にお父さんが大好きですよねっ!!
 っていうか、メルケルスも待って欲しいなぁ!!?

 ガイイイイイイインッ!!

「っぶなああああいっっっ!!」
「まだ…続く…」

 ガイイイイン!!ガンッ!ガンガンッ!ガアアアアンッ!!

「ひぃぃぃぃぃぃ~~!!!ニル~~~!!ニル~~~~~!!!」
「ちょっと…面白い……かも…」

 弱い者虐めを楽しんでるよコイツ!!
 後ろから容赦なく叩いて来やがって!!
 振りが速いからパリィの技術もつたない私じゃ穂先を蹴り上げて無理矢理生き残っている状態だ。
 虫が死なないように足掻いてるのと今の私は何が違うというのかっ!!
 虫の気持ちがわかった!!


 * * * * *
 一方その頃…。

『(宗八そうはちぃ~!もう少しでニル、泣く所でしたわー!)』
「(パカタレ。戦闘中に泣いちゃ駄目だろうが)」
『(だって、ニルは姉様達みたいに加階かかいが足りていませんものー!
 アーティファクトも無くて制御力もカツカツですわよー!!)』
「(確かにアレはヤバいだろうな。
 シュティーナも珍しいとか言ってたし)」

 むぅ~。
 姉様たちより数ヶ月遅れてお父様と契約しただけで今ピンチなんて、
 ニルは運命に文句を言いたいところですわー!!
 もっと余裕を持って戦わせて欲しいですわねー!!

「(制御力だけでいいならボジャ様とシンクロすれば持ち直せるだろ)」
『(おー!すっかり忘れてましたわー!
 そういえば、マリエルがボジャ爺と仮契約していましたわねー!)』

 そうですわ、そうでしたわー!!
 いつもはお父様かマリエルしかニルとシンクロしませんから忘れてましたわー!

『(でも、後方は禍津核まがつかくモンスターが湧いていましたわよー?
 ボジャ爺から制御力を分けて貰って大丈夫ですのー??)』
「(ゼノウとセーバーがカバーに入ったから大丈夫だろ。
 ヤバかったらちゃんとボジャ様は言うよ)」
『(わかりましたわー!マリエルに伝えてすぐになんとかやってみますわー!
 終わったらニルもマリエルもいっぱい褒めて下さいましー!)』
「(はいはい、デートもしてやるから頑張れよ)」

 デート!
 休日に姉妹の中でも1人だけを連れ回してくれて欲しい物も買って貰えるあの!?
 姉様達から聞いて羨ましかったのですわー!
 これは俄然やる気になってきましたわー!!


 * * * * *
『ということですわー!』
「ずいぶんとごゆっくりでしたねっ!!」

 人が…いや、妖精が虫の気持ちを理解しているうちにニルが解決策を持ち帰ってくれた。
 だけどね。

「お父さん好きなのはいいんだけど、今は魔神族相手にしてるんだからね!?」
『早くボジャ爺に念話してくださいましー』

 語尾に!もない!?
 私の扱いが本当に雑になったわね、ニル!
 先日一緒に頑張ろうってユニゾンを選択したときは心も揃った心地よさもあったのに…。グスン…。
 隊長に娘の教育どうなってんのって文句言ってやる…。

「(ボジャ様、魔神族相手に制御力をお借りしたいのですがシンクロよろしいでしょうか?)」
『(応、マリエルか。
 こっちはオベリスクに囲まれて役立たずじゃて、好きに使うと良い)』
「(ありがとうございます!)《シンクロ!》」

 念話で許可を頂いてすぐに青いオーラが私に混ざる。
 息苦しかった制御力もずいぶんと解放されて、
 ようやっとまともにランスを蹴り返す事が出来た。

「何か・・・・・・変わっ・・・た?」
「ふぅ~、持ち直せたぁ~!」

 このまま加速して逃げることも出来るけど、
 結局メルケルスには追いつかれて同じ流れを踏む可能性もある。
 だったら、併走しながら攻防して生き残った方がマシかな。

『バレルロール!』
「《雷神衝らいじんしょう!》」
「逆巻いて」

 背後から私を貫こうとメルケルスがランスを全面に構えて突撃してきたのを回避し、
 上を取ったので無防備な背に向けて雷を拳に纏い振り下ろすと、
 突然出現した盾に阻まれて攻撃は届かなかった。

『逆巻いてはあの盾を自動防衛に切り替える言葉の様ですわねー!』
「せめて一発は入れたいなぁ」

 空中で身体を回転させたメルケルスは、
 盾の再装備とランスでの横薙ぎも加えてきたけれど、
 これは見え見えだったから余裕で回避する。

「《フォノンメーザー!》」
「《エメラルダシールド》」

 ボジャ様のおかげで攻撃にも回せた制御力を持って、
 極太へと変貌を遂げた[フォノンメーザー]を隙を見せるメルケルスへと撃ち込む。
 だが、これは構えた盾から広がる光の大盾に防がれてしまった。

「《雷竜一鎚らいりゅういっつい!!》」

 そこを重ねて魔力砲を撃ち込む。
 こちらも隙を見せる事に繋がることよりも盾の耐久力などを調べる事を優先した結果だ。

 予想通り盾を展開したまま一鎚いっついを受けたメルケルスの周囲は、
 白煙で視界は不良となり残留電流がバチバチと走り回っている。

『マークは付いたはずですわ-!まねっこですけど、やってしまいましー!』
「《翠雷すいらいを砕け!雷刃剣戟らいじんけんげき!》」

 掲げるはニルのオプション、タクト。
 本来は白く多少透明感のあるそれも全体的に翠雷すいらい色を纏い神々しく存在感を示す。

「《翠雷無双突すいらいむそうづき!!》」
「《アクセラレータチャージ》」

 大空と大地の二面から放たれた翠雷すいらい
 本来一瞬で敵を飲み込む雷は、
 見たこともない軌跡を残しながら曲線を描いてそのまま消えてしまった。

『雷より早く動いた…めちゃくちゃですわーっ!!!』
「やっぱ基本的には大型モンスター相手用の技だよね。
 にしても避けられるとは思わなかったけどさ…」

 幸いなのは直線のみしか対応出来ないっぽいってところかな。
 隊長が創作した[翠雷無双突すいらいむそうづき]もそこまで誘導製はなかった。
 まぁ、雷速を越える速度で逃げる敵はいないから、
 魔神族相手に詰められていなかったというだけなんだけどね。

『絶対戻ってきますわよ-!』
「ですよねー。
 でも、どうしよ。目で追えないし身体も間に合わないよ…」
『回避に集中すればなんとか…なるかもしれませんわー…』
「それって、そういうことだよねぇ~。
 ニルの保護者として情けないなぁ~……」

 シンクロしているからこそ伝わるニルのアイデアは、
 以前にも利用した私の肉体をニルが生体電流で操って危機回避をしようという話。
 通常では考えられない無茶な動きが可能になる一方、
 その後は筋肉痛とか筋を痛めたりとかする可能性がある。

 一緒に戦って助けてもらうのと、
 全部任せてしまうこれは根本的に心持ち受け止め方が違ってくる。
 これは本当に。本当に情けなくなる。

『そんなに嘆かないで欲しいですわー!
 宗八そうはちだって持ちつ持たれつで良いと言っていましたわー!!
 今回はニルの加階かかいが進んでいなかった事も原因なのですからあまり気にしないで欲しいですわねー!!』
「ごめん!魔神族相手だと全然勝てなくて心が弱ってた!
 ここはニルに任せるね!よろしく!!」
『対処出来なかったら許して下さいまし-!』

 ミスったら死ぬからね。
 それを私は聞けないから。
 全力で避けて頂戴。

『《エレクトリックマリオネット》《ハイソニック》《ハイソニック》《ハイソニック》』

 禊ぎを済ませてすぐに、
 遙か彼方で不自然なソニックブームが発生した瞬間。

 私には認識出来ていなかったけれど、目の前にはメルケルスが居た。
 自分は認識出来ていなかったけれど、一体となったニルが認識出来ている。
 その二重の認識の差に混乱する間もなく、
 斜め上に脚を振り上げた状態の私はニルに操作されるままにメルケルスの首元を狙って振り下ろす。

「《断頭嵐だんとうらん!》」

 身体も制御力もニルに任せて敵の動きに集中出来ている所為か、ゆっくりと見えた。
 メルケルスのランスを避けたのは例の電子化。
 次に出現したのが今の位置ですでに脚は振り下ろすだけの状態だった。

 メルケルスは最後の一押しにランスを突き出した状態で急停止したらしい。
 衝撃波はすぐ隣から発生していたけど、
 それが通り過ぎる先に私たちはいないからどうでもいいかな。


 バキッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 凄い綺麗に、理想的な角度で蹴りが入った。
 ボジャ様の制御力をお借りした威力マシマシの断頭嵐だんとうらんは、
 本来発動に必要な高度からの急降下を省いた上で尚超威力に仕上がっている。
 ニルと私で発動するには10年くらい先に出せる威力だろう。

 それがメルケルスの首元に叩き込まれた音は聞き覚えのない撃音だった。

『追撃すると身体壊しますわよー』
「いや、既に折れてるから追撃なんて考えてないからね」
『脚はもう一本ありますわよー』
「いやいや、せめて片脚は残しておかないと。
 治療に時間使ってらんないでしょ。
 アスペラルダだけ聖女様のお世話になりすぎも他国の印象良くないよ」

 ぽっきりぷらん、という皮一枚繋がっている訳では無く、
 精々がヒビって感じの痛みが撃ち込んだ脚から響く。

 落下したメルケルスは少し高度が下がったものの、
 翼を大きく広げて姿勢制御を行って今は停止している。
 握っていた盾は再び宙を浮き、
 空いた手で首筋を擦っているけれど、視線は私たちを向いていない事に気が付く。

 …ゴゴゴゴゴゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!!!

「地響き!?って、城が持ち上がっていく!??!?」

 ツタで覆われダンジョンと化した城が、
 今度は急激に成長する樹木に飲み込まれ地面から離れて高度を上げていく。
 全身はとてつもなく大きく、
 脚は大樹の根が代わりを果たして移動が可能であり、
 城は中間ほどに完全に飲まれてうろみたいになっている。

 生い茂る葉の他に赤い実のようなモノが複数付いていて、
 自衛用の根なのか地面からは何本かエグい見た目の何かも生えている。

『時間切れって事ですわねー!』

 視線をメルケルスに戻すと、
 ニルの言う通りなのか役目を果たした様子で姿が薄くなっていく。
 高度を合わせることもなく視線を向けてくるでもなく、
 本当にやりたくなかったひと仕事が終わったかのような感じで魔神族が持つ威圧感も同時に薄れていく。

 やがて、完全に姿は消え圧迫感もなくなり空気も軽くなったことで、
 魔神族が去ったことを改めて認識して私は[揺蕩う唄ウィルフラタ]に手を添える。

「隊長、片脚折れたんですけどこのまま続投しますかぁ?」

〔すぐクレアに治して貰ってこい!〕

 はぁ、今回も生き残れたけど付け焼き刃が酷かったなぁ。
 もっと色々と頑張らないと。本当に色々と。
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...