特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -52話-[黒い欠片と黒い何かと黒い誰か④]

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「ふぅ~ん、アレか……」

 目的地に到着するまではあれやこれやと考えが巡っていたけれど、
 流石に戦場に1年も身を置き続ければ意識の切り替えはパッと出来るもんだ。
 今は突入前にひとまず遠目に観察することにして眺めている。

『仲間という感覚はあるが…』
『あれは違うですね。精霊は精霊でしょうけど違うです』
「じゃあ何ぃ~? タルにも精霊に見えるんだよ?」

 土精ウォルベズと聖獣タルテューフォには精霊に見えているらしい。
 いや、俺たちにも精霊に見えるんだけどね。

「アレは魔力が意思を持つ精霊とは違って、
 瘴気が意思を持った存在と言えばいいのかな。
 ともかく似て非なる精霊の姿だよ」
『では、敵という事で間違いはないんだな?』
「それがわからんのよ。
 瘴気の混ざる敵とは戦ったことあるけど基本的に戦闘狂だったんだ。
 アレはどうみても落ち着いてる……」

 マジでわかんねぇ。
 見た目は浮遊精霊ふゆうせいれいが数倍大きくなっただけの球体型を維持したまま、
 浮遊をしている個体も居ないから加階がどの程度の瘴気精霊なのか察しがつかない。
 ただ地面に居る状態でも形状が変わらないのでスライムみたいな奴ではなさそうだ。

 それに奥の洞穴の中にも変な気配があるし、
 おそらくあっちが俺たちの目的の精霊使いになるのだろう。

「遠くから見るだけじゃちょっとわからんし、アレをこっちに引っ張るから少し場所を開けてくれ」
『???わかった』
『ほら、タルも動くですよ』
「このくらいかな?」

 ノイの誘導もあってすぐに場所が開いたので、
 アレを引っ張ってくる為の魔法を発動させる。

「《イグノアパースペクティブ》」

 本当は制御力だけで出来るようになりたかったが、
 現状では魔法式を組み上げて魔法として運用しないと上手く扱えないこの魔法は、
 直訳[遠近法無視]という単純な内容だ。

 腕を伸ばして遠くに見えるアレをそっと指先でつまみ、
 グッ!と手前に引っ張りながら摘まんでいた感覚が掴んでいる感覚に変わるのを感じ取りながらそれに従い握りを変える。
 すると、なんと言う事でしょう。
 さっきまで遠くに居たアレが俺の手に収まっているではありませんか!

「お~♪ にーにぃ凄い!」
「まだ微調整が必要な粗削りだけどな。
 正直使いどころは少ない研究中の魔法だよ」

 タルは素直に褒めてくれたけれど実際使いどころは多くは無い。
 今回の様に人を摘まんでも抵抗されれば引き寄せるのも容易ではないし、
 木を折ろうとしてもそこまでの力を加えることも出来ない。
 ただし、軽い物であれば一気に手元に集めることは可能だから掃除には便利かも。
 戦闘中に使うにも精々相手の動きを阻害までは行かなくても、
 触られたと感じさせて戦闘に集中させない程度にしか使えない代物だ。

『近くで見ても脅威は感じないね。
 敵意はあっても手から逃れようとするだけで攻撃もして来ないし』
『瘴気から生まれた無精かも?』
『ベルもフラムの考えに賛成。何の属性も感じないもん』

 フリューネが言う通り手の中でプルプル蠢くだけで攻撃魔法を撃って来ず、
 フラムとベルも感じ取った属性も確かにこの個体からは瘴気以外何も感じない。

「アニマ、お前の考えを聞かせてほしい」
『こういう時しか頼られないのも無精王としては悲しいですね』

 悪いね。でも、お前だって表に顔を出さない引き籠りじゃないか。

宗八そうはち達が考えている通りコレは瘴気無精で、わたくしの眷族ではありません。
 でも、この世界で本来生まれないはずですから、
 何かしらが起こっているのは確かですね』
『条件が揃えば生まれるには生まれるですか……。
 それでもここは大地の力が一部失われているだけの場所ですよ?』
『ノイ姉様の言う通り。この程度では条件は満たされません。
 ですが、[移動してきた]という事なら理解は出来ます。
 わたくしの考えは以上です。あとは勝手にしてください』

 ヒントだけ残してアニマは役割が終わったとでも言う様にスッと俺の身体に戻って行った。
 移動してきたってことは誰かが連れて来た、もしくは飛ばされて来たって事だ。
 瘴気無精の群れを改めて眺めてみても混乱している様には見えないから、
 かなり前にここに移動してきたと考えるべきか…。

「にーにぃ!こいつ大地の力吸ってるよ!」
「じゃあ原因はこいつで間違いは無いか。
 攻撃性も無く力を食う代わりに瘴気を吐くわけでもないのが幸いだな」

 暴れ疲れてぐったりし始めた瘴気無精の危険性は理解できた。
 元から無精は回復魔法しか使えず人に纏うだけしか能がないので、
 魔力から瘴気に反転した無精であっても攻撃手段はないらしいな。

 ところでさっきからウォルベズが静かだな。

『さっきの無精は本当に無精王様…なのか?』
「自称だけどね。ただ、水精王と闇精王と光精王と土精王は何故か頭を下げていたけど」
『それは本物だからではないのか?』
「本物らしいところは今のところ見たことないからさ。
 転生したとは本人の談だけど只の痛い妄想をした無精の可能性も捨てきれないだろ。
 まだ子供なんだしさ」

 ウォルベズが静かだったのは自称無精王様が登場したから唖然としていた為だった。
 本心では本物だってわかっているんだけどね、
 好きな子に意地悪してその反応に一喜一憂する気持ちで否定を続ける男親心もわかっていただきたい。
 対象が子供でも心に傷が付かない程度に弄ってコミュニケーションを取っているのだ。

『冷めた奴だな…娘の妄想だったとしても優しく肯定してやれ』
「夢ばかり語る分不相応な大人に育つより現実を見据えた大人に育てる教育方針なんだ。
 うちの子供たちを過度に甘やかすのは許さんからな。飴も鞭も俺が与える!」
『……お前たちも大変だな』
『実際はそれほどでもないです。
 アニマは素直じゃないからそういう構われ方をするだけですから』
『お父さん、基本的に甘い』
『良い子にしてたらすごく優しいよ!』

 ドヤァ!!!

『……まぁいいか。
 それでコイツラはどうするんだ?』
「害はないしアニマも知らないとなれば下手に浄化をすると死ぬ可能性もある。
 大地の力とやらが回復できる代物なら共存の道も模索すべきとは考えてる。
 ひとまずは放置かな」

 それに言語体系が違うのか話しかけてみても反応の意味が俺にもわからなかった。
 まるで[異世界]の住人の様に互いに意思疎通は出来なかったが、
 とりあえず雑に扱われはしたが俺たちに攻撃的な意思が無いことは伝わったらしく今は大人しくなっている。

「《イグノアパースペクティブ》」

 観察する為の先ほどと違い、
 今度は戦闘になったら巻き込むことになるので全員避難させようとギュムっと握ってポイっと後ろに放り投げれば、
 群れになっていた一部がごっそり居なくなり自分たちの足元に山となる。
 彼らは何が起こったのか理解できず混乱の只中にあっても、
 俺は気にせず魔法を繰り返して100以上のまっくろくろすけ共を全員強制的に避難させた。

「目に見える範囲は引っ張ったから残るはあの洞穴だけだな。
 フラム、また頼むよ」
『《幻影ブリンク!》』

 息子フラムが発動した魔法は、
 火属性の裏である扱いの難しい幻属性なのでまだまだ未熟なれど、
 形にはなっているので幻影の俺が岩などを避けながら段々と例の洞穴にデコイとして近づいていく。

『やっぱり動きがおかしいです』
『わかってる。だからノイ姉様、それ以上は言っちゃ嫌だ』

 ノイが口を挟みたくなるのも分かるっちゃ分かる。
 何故ならフラムの[幻影ブリンク]の動きがクソゲーみたいな動き方をするからだ。
 歩く姿が平坦な道ならともかく岩山を登るのも手を付いたりはせず歩く姿のまま登り、
 崖を飛び降りればスンと直下で落ちては、流石お父さん!何ともないぜ!と言わんばかりに歩きを再開する。
 しかし、人間相手ならまずおかしいと警戒される不出来っぷりでも未知の敵を相手にするならば役目は果たせるので問題はない。

『そろそろだね。今までの洞穴は何も潜んでいなかったけど今回はどう出るかな』
「フリューネはいざという時以外は働かなくていいからな」
『もちろんそのつもりだよ。黄竜を余計に刺激したくないからね』

 幻影ブリンクの若干怪しい挙動を全員で見守り始めてわずかな時間でそろそろ入口というところまで進んだ。
 瘴気が関係しているから魔神族関連なら相手の手札がまた開示されたとある意味喜ぶことも出来るけど、
 第3勢力とかなら本当に面倒くさいのでやめていただきたいところ。

 皆で見守りながらようやっと幻影ブリンクが入口に辿り着き、
 奥へ進み始めた直後……。
 突如、巨大な腕が奥から伸びてきて幻影ブリンクは呆気なくその姿は霞みと消えた。

「あの爪!にーにぃ!あれ!」
「はいはい、わかってるから興奮すんな」

 タルが興奮した理由は島の各地で見つけた黒い欠片。
 それと同じ材質、もしくは類似した素材と思われる物が洞穴から飛び出て来た巨腕の爪であった。
 というか、見たことの無い全体的に黒っぽい巨腕は洞穴ギリギリの大きさをしている為、
 中に潜む奴は小さく成れるのか逆に部分的に大きく成れるのか……。

 ともかく、いい加減直接訪問してみよう。
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