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閑話休題 -次に向けての準備期間-
閑話休題 -86話-[フォレストトーレ鎮魂式①]
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精剣カレイドハイリアを受け取ってから数日後。
ついにフォレストトーレ開放宣言の日がやって来た。
二日前には表面上の瘴気は浄化が済んでおり、土精と光精が地上と地中の両面から瘴気の残りが無いか調べ尽くして最終的に宣言を出すこととなった。この二日間で本日フォレストトーレで聖女による鎮魂式が催されると各町に居るフォレストトーレの関係者には周知が行われていた為、朝から方々に繋げた[ゲート]から参列者が続々と集まっている。
その多くは当時フォレストトーレで亡くなった人の家族だったり恋人だったり友人だったりと幅広い。もちろん救出された方々にも知らせは届いているので何割かは顔を出すと思われる。
「宗八、準備は出来ているか?」
「雲を集める俺の役割は終わっているから後は頼りになる娘たちが上手くやってくれるよ。
そっちこそ開会式の挨拶の準備はしなくていいのか?」
見晴らしの良い木陰で[カレイドハイリア]の合体剣なのに継ぎ目の無い美しい剣身を眺めてボケっとしている所でラフィート陛下が声を掛けて来た。本来鎮魂式なんてものはこの世界には無い文化なのだが、俺が事後浄化をみんなに任せて離れる前に提案して実行される式にはすでに国賓として火の国以外の要職の方々を招き席も用意されているのにわざわざこの男は何用か?
俺が空を指差して役割は終わっている事を伝えるとラフィートと護衛に付いて来た数人も空を仰ぐ。
そこには丁度、今回の参列者が集まる区画上空を覆う積乱雲が視界に入る。俺が雲を集めたあとは風精のセリア先生とファウナが積乱雲を動かないように風を操り調整していて、式が始まったらウチの水精アクアと風精ニルが力を合わせた[デュオ魔法]を発動させて全員に[Omegaの視界]を付与する予定だ。
「鎮魂式は初参列だが似た様な行事はいくらでも参加経験があるからこちらも心配は不要だ。
それで? 精剣カレイドハイリアの具合はどうだ?」
「今までの片手剣に比べて長すぎるから少し苦戦はしているな。
幸い訓練相手は豊富だからこの数日はずっと振り続けているけど、生きた剣ってのを実感している所さ」
「そういえばファウナもその様に言っていたな。
俺が試しに握らせてもらった時は認められていないという理由で持ち上げる事も出来なかったが……」
「素材が七本のハイリアって事もあって本当に小さなグランハイリアなんだよ。
七本の剣それぞれに性格があるからその把握も面倒くさいけど面白い」
意思があるからこそ自身が認めていない者が扱おうとすれば重量を上げたり水をぶっ掛けたり強風を巻き起こしたりと色んな方法で抵抗するカレイドハイリアの姿を見た今となっては認めてもらえている事が嬉しく感じる。
ただ、水氷属性ばかり使っていると反対属性の火幻属性の威力が減衰したり柄が熱を帯びたりとヘソを曲げるのである程度満遍なく使ってやる心配りが必要になっている。
『(パパ、そろそろ始まるから戻ってってアルが言ってる~。
ラフィートもそっちに行ったから連れて来て~)』
「(はいはい)。そろそろ始まるそうだから一緒に向かおう」
「抜け出してきてすぐじゃないか……」
* * * * *
「式辞。本日此処にラフィート=フォレストトーレ陛下を始め、ご来賓各位、瘴気による被害者、ご遺族の方々のご臨席のもと、フォレストトーレ元王都瘴気死没者鎮魂式を挙行するに当たり、高濃度瘴気の犠牲となられた多くの御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます」
勇者プルメリオ=ブラトコビッチの式辞がセリア先生の魔法[エコーボイス]により静まり返るフォレストトーレ元王都に隅々まで響き渡る。
「本来我々の領内に存在しない瘴気が発生し、フォレストトーレ王都は徐々に、確実に蝕まれ、多くの尊い命が失われ、かろうじて生き延びた人々も人生を大きく歪められました」
今回の奪還作戦に於いてさらに一段勇者の名声を上げる為に恐縮仕切りで断り続けた勇者を祀り上げた事は本当に可哀そうな事をしたと思う。が、今後の事を考えれば名声が高まり広まれば様々な事件や不思議な現象について訪れる街の人々から相談を持ち掛けられる可能性は高まり、さらに躍進するチャンスが生まれるはずだ。
「瘴気被害者を始めとするフォレストトーレ領民はこうした悲惨な体験を根底に据え、何故もっと早くに気付かなかったのだと、何故もっと早く対処出来なかったのかと、フォレストトーレ王族に対し怨嗟の声を上げたいと願う方はいらっしゃる事でしょう。また、何故もっと早くに助けてくれなかったのかと、何故家族を救ってくれなかったのかと、我々ユレイアルド神聖教国を始め、アスペラルダ王国、アーグエングリン王国に恨むを持つ方もいらっしゃる事かと思います」
それに関しては[破滅]が関わっていた以上、呪いが発動して危機意識の欠如や異変の見逃し、忘却が原因に他ならない。
誰が悪いわけでもない。全員が被害者なのだと俺たちはわかっていても、実際に被害を受けられたフォレストトーレ国民にとってはこんなバカな話は無いと思うだろう。王都が、国の中心部が壊滅なんて聞いたことも無いような大失態に思うだろう。
だが、どれだけ言葉を重ねても事実を知らない、知っても忘れる彼ら国民の恨みの矛先は身近なラフィート陛下へとやがて収束することは陛下自身が理解した上で立ち上がったのだ。
「すでに各国の首脳が会談を重ね、自分達が万能ではない事を改めて再認識し、瘴気の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを示し、フォレストトーレを中心に世界に向けて強い平和のメッセージを発信していきたいと思っています。これからも平和を希求する人々と手を取り合い積極的に声を上げ、行動することで瘴気廃絶と世界恒久平和の実現に向けて全力を尽くすことをここに改めてお誓い申し上げます。本日の鎮魂式に当たり、瘴気の犠牲となられた御霊に対し謹んでご冥福をお祈り申し上げますとともに、今なお後遺症に苦しんでおられる被害者並びにご遺族の方々への援護をより一層の充実を念願いたしまして式辞といたします。
精霊歴千三百八年 風の月三十日。ユレイアルド神聖教国所属 勇者プルメリオ=ブラトコビッチ」
立派に務めたメリオが礼をして下がると、セリア先生が鎮魂式の進行を務め献花に進んだ。
名前を呼ばれる度にフォレストトーレ領の各町の町長が献花を行い、さらに王族。アスペラルダからはギュンター王が、ユレイアルドからはオルヘルム教皇、アーグエングリンからはアーグエングリン王、フォレストトーレからはもちろんラフィート陛下が献花をなさった。
『フォレストトーレ王、ラフィート陛下のお言葉』
続いて即席の石で出来た壇上に上がったラフィートがセリア先生へ目配せをして[セルフエコー]を掛けてもらい話し始める。
「先王、我が父は偉大で優秀な為政者であり、私と我が弟を大切に育ててくれた優しい父親であった。
そんな家族二人との別れが勇者へと付いて旅立ったあの日の朝が最後となるとは思いもしなかった……」
ラフィートの響く声が早くも時々震え、その悲しさ、その悔しさを物語っている。
誰かが気づければ防げた事かもしれない。自分が気づけていれば…。その思いが伝播して王都の各地で必死に抑え込む嗚咽が聞こえ始める。
「何の前触れもなく瘴気は我らが王都に蔓延り始め、先王は何者かに操られる事態となっていた。
私が王都を出てたかが数か月の間に事態は大きく変化し絶望的なまでに致命的なまでに進行してしまった。
いくつかの冒険者PTのリーダーや商人は亡者となって他の町を徘徊し、謎の力によって気付きや疑問は薄れて忘れ、やがて日常へと人々は戻ってしまう。そんな悪循環の地獄絵図に一筋の光を差してくれたのは、友好国アスペラルダのアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ王女殿下、勇者プルメリオ=ブラトコビッチ、聖女クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリ様であった」
「彼らが少数ながらフォレストトーレ王都に辿り着いた時には……っ…既に手遅れであった……。
我が父も弟も王都の国民も訪れただけの旅人も商人もっ!そのほぼ全員が瘴気の高濃度化に耐えきれず亡くなってしまっていた……。
そんな絶望的な中から命懸けで二千八百四名もの国民を救出いただけた事、偉大なるフォレストトーレ王、ローランドが長子!不肖の生き残りである我ラフィートが本来の王位継承者である我が弟アーノルドの代わりを務め王位を継承し、今ここで最大限の感謝を申し上げる!」
「加えて我らがフォレストトーレの国民よ。
アルカンシェ王女殿下の厚意により我々はこれより空の雨雲から降る雨粒に触れている間、王都に残る御霊を視認することが出来るようになる!一時間は降らせて貰えるように我自ら願いこれを快諾してくれたアスペラルダには感謝してもしきれない!
各々伝えたい想い、別れを伝いたい者たちよ!祈りを捧げよ!さすればそなた達の大切な、大事な死者は輪廻の理へと還る事が出来るであろう!降り始めれば、己の想いのままに思い出の場所へ駆け出せ!愛する国民よ!」
ラフィート陛下のメッセージが国民へと広がる中、俺へ向けられる視線にコクリと頷く。
それを合図にアクアとニルに念話で魔法の発動開始を伝えた。
『『共鳴魔法《Omegaの天泣!》』』
——ぽつ……ぽつ……
———サーーーーーーー……
ぽつり、ぽつりと降り始めた雨がすぐに連続した小雨音に変わるとラフィートの伝えたように廃墟となった王都へ各々が駆け出した。
先の数粒で既に御霊が見え始めた人から駆け始め、いまは全員が会いたい人が戻っていそうな場所へと一目散に向かっていく。
しかし、俺たちとの戦闘でさらに廃墟化が進んで街道などもどこがどこだか実際わからないエリアもある為、ラフィートや王族の計らいで各地に現在地を教える役割の兵士や騎士が点在していた。
「俺も行ってくる」
「あぁ。しっかりお別れは済ませろよ!未練を残させず成仏させて来い!」
友となったラフィートも国民に混ざって駆け出した。
彼には見えていた。雨が降る前からその眼差しは崩れた城へと向かっており、御霊が見えるようになってからは冷静さを装っていたがいざ駆け出してみれば父王と弟に別れを告げる為に一心不乱に駆けていく。他に勇者PTの三人もラフィートを追う形で走って行く姿が見えた。
気が付けば会場として設営した簡易的なこの場には俺たち護衛の兵士や騎士と王族だけが取り残されている。
先にこんな状況になると説明していたおかげで全員が多くの御霊が漂うフォレストトーレ王都を複雑な面持ちで眺めているのを横目に俺もなんだかんだで感傷的な気分になった。
『—っ…ぱぱ?』
『お父様?どうされましたのー?』
額を合わせ両手を握り合ったまま魔法の制御に集中していたアクアとニルを抱き上げると二人から戸惑いの声が漏れる。
王都は広い。アクアもニルも制御力いっぱいで雲に隙間が出ないように一生懸命にフォレストトーレ被害者の為に額に汗を浮かべながら無心に頑張っていた。
「優しいお前たちと一緒にパパも手伝わせてくれ」
『ですが、お父様っ!式典中はアスペラルダ騎士代表としてアルシェ様のお傍に控える必要があるのではっ!?』
せっせと忙しなく姉と妹の汗をハンカチで拭き取っていた次女クーデルカが俺の立場を気にして心配の声を上げた事に大丈夫だと伝える。
「アルシェは王族としてではなくギュンター王の守護の任に就いたよ。
周囲の護衛役も頼りになる人たちばかりだからって辛そうなアクアの方に行けってさ」
『そうですか…。
お父様が加わられるのであればクー達もシンクロで制御力の提供を致します』
『まぁ見ているしか出来ないよりは良い手です』
『姉様たちのお手伝いしますううう!』
『やる!』
クーの言葉にノイ、ベル、フラムがやる気になり俺たちの周りに集まる。
姉弟想いの良い子達に育ってくれて本当に良かった。
『仕方ないですね!ワタクシもアクア姉様とニル姉様のお手伝いをして差し上げますわ!』
「ツンデレ乙。アニマはまた肩車でいいのか?」
『ここが好きなんです!』
「はいはい。じゃあ皆で力を合わせるぞぉ」
『「《——シンクロッ!》」』
亡くなってしまったフォレストトーレ王都民と被害者の方々が安らかに輪廻の輪に戻れることを祈って……。
ついにフォレストトーレ開放宣言の日がやって来た。
二日前には表面上の瘴気は浄化が済んでおり、土精と光精が地上と地中の両面から瘴気の残りが無いか調べ尽くして最終的に宣言を出すこととなった。この二日間で本日フォレストトーレで聖女による鎮魂式が催されると各町に居るフォレストトーレの関係者には周知が行われていた為、朝から方々に繋げた[ゲート]から参列者が続々と集まっている。
その多くは当時フォレストトーレで亡くなった人の家族だったり恋人だったり友人だったりと幅広い。もちろん救出された方々にも知らせは届いているので何割かは顔を出すと思われる。
「宗八、準備は出来ているか?」
「雲を集める俺の役割は終わっているから後は頼りになる娘たちが上手くやってくれるよ。
そっちこそ開会式の挨拶の準備はしなくていいのか?」
見晴らしの良い木陰で[カレイドハイリア]の合体剣なのに継ぎ目の無い美しい剣身を眺めてボケっとしている所でラフィート陛下が声を掛けて来た。本来鎮魂式なんてものはこの世界には無い文化なのだが、俺が事後浄化をみんなに任せて離れる前に提案して実行される式にはすでに国賓として火の国以外の要職の方々を招き席も用意されているのにわざわざこの男は何用か?
俺が空を指差して役割は終わっている事を伝えるとラフィートと護衛に付いて来た数人も空を仰ぐ。
そこには丁度、今回の参列者が集まる区画上空を覆う積乱雲が視界に入る。俺が雲を集めたあとは風精のセリア先生とファウナが積乱雲を動かないように風を操り調整していて、式が始まったらウチの水精アクアと風精ニルが力を合わせた[デュオ魔法]を発動させて全員に[Omegaの視界]を付与する予定だ。
「鎮魂式は初参列だが似た様な行事はいくらでも参加経験があるからこちらも心配は不要だ。
それで? 精剣カレイドハイリアの具合はどうだ?」
「今までの片手剣に比べて長すぎるから少し苦戦はしているな。
幸い訓練相手は豊富だからこの数日はずっと振り続けているけど、生きた剣ってのを実感している所さ」
「そういえばファウナもその様に言っていたな。
俺が試しに握らせてもらった時は認められていないという理由で持ち上げる事も出来なかったが……」
「素材が七本のハイリアって事もあって本当に小さなグランハイリアなんだよ。
七本の剣それぞれに性格があるからその把握も面倒くさいけど面白い」
意思があるからこそ自身が認めていない者が扱おうとすれば重量を上げたり水をぶっ掛けたり強風を巻き起こしたりと色んな方法で抵抗するカレイドハイリアの姿を見た今となっては認めてもらえている事が嬉しく感じる。
ただ、水氷属性ばかり使っていると反対属性の火幻属性の威力が減衰したり柄が熱を帯びたりとヘソを曲げるのである程度満遍なく使ってやる心配りが必要になっている。
『(パパ、そろそろ始まるから戻ってってアルが言ってる~。
ラフィートもそっちに行ったから連れて来て~)』
「(はいはい)。そろそろ始まるそうだから一緒に向かおう」
「抜け出してきてすぐじゃないか……」
* * * * *
「式辞。本日此処にラフィート=フォレストトーレ陛下を始め、ご来賓各位、瘴気による被害者、ご遺族の方々のご臨席のもと、フォレストトーレ元王都瘴気死没者鎮魂式を挙行するに当たり、高濃度瘴気の犠牲となられた多くの御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます」
勇者プルメリオ=ブラトコビッチの式辞がセリア先生の魔法[エコーボイス]により静まり返るフォレストトーレ元王都に隅々まで響き渡る。
「本来我々の領内に存在しない瘴気が発生し、フォレストトーレ王都は徐々に、確実に蝕まれ、多くの尊い命が失われ、かろうじて生き延びた人々も人生を大きく歪められました」
今回の奪還作戦に於いてさらに一段勇者の名声を上げる為に恐縮仕切りで断り続けた勇者を祀り上げた事は本当に可哀そうな事をしたと思う。が、今後の事を考えれば名声が高まり広まれば様々な事件や不思議な現象について訪れる街の人々から相談を持ち掛けられる可能性は高まり、さらに躍進するチャンスが生まれるはずだ。
「瘴気被害者を始めとするフォレストトーレ領民はこうした悲惨な体験を根底に据え、何故もっと早くに気付かなかったのだと、何故もっと早く対処出来なかったのかと、フォレストトーレ王族に対し怨嗟の声を上げたいと願う方はいらっしゃる事でしょう。また、何故もっと早くに助けてくれなかったのかと、何故家族を救ってくれなかったのかと、我々ユレイアルド神聖教国を始め、アスペラルダ王国、アーグエングリン王国に恨むを持つ方もいらっしゃる事かと思います」
それに関しては[破滅]が関わっていた以上、呪いが発動して危機意識の欠如や異変の見逃し、忘却が原因に他ならない。
誰が悪いわけでもない。全員が被害者なのだと俺たちはわかっていても、実際に被害を受けられたフォレストトーレ国民にとってはこんなバカな話は無いと思うだろう。王都が、国の中心部が壊滅なんて聞いたことも無いような大失態に思うだろう。
だが、どれだけ言葉を重ねても事実を知らない、知っても忘れる彼ら国民の恨みの矛先は身近なラフィート陛下へとやがて収束することは陛下自身が理解した上で立ち上がったのだ。
「すでに各国の首脳が会談を重ね、自分達が万能ではない事を改めて再認識し、瘴気の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを示し、フォレストトーレを中心に世界に向けて強い平和のメッセージを発信していきたいと思っています。これからも平和を希求する人々と手を取り合い積極的に声を上げ、行動することで瘴気廃絶と世界恒久平和の実現に向けて全力を尽くすことをここに改めてお誓い申し上げます。本日の鎮魂式に当たり、瘴気の犠牲となられた御霊に対し謹んでご冥福をお祈り申し上げますとともに、今なお後遺症に苦しんでおられる被害者並びにご遺族の方々への援護をより一層の充実を念願いたしまして式辞といたします。
精霊歴千三百八年 風の月三十日。ユレイアルド神聖教国所属 勇者プルメリオ=ブラトコビッチ」
立派に務めたメリオが礼をして下がると、セリア先生が鎮魂式の進行を務め献花に進んだ。
名前を呼ばれる度にフォレストトーレ領の各町の町長が献花を行い、さらに王族。アスペラルダからはギュンター王が、ユレイアルドからはオルヘルム教皇、アーグエングリンからはアーグエングリン王、フォレストトーレからはもちろんラフィート陛下が献花をなさった。
『フォレストトーレ王、ラフィート陛下のお言葉』
続いて即席の石で出来た壇上に上がったラフィートがセリア先生へ目配せをして[セルフエコー]を掛けてもらい話し始める。
「先王、我が父は偉大で優秀な為政者であり、私と我が弟を大切に育ててくれた優しい父親であった。
そんな家族二人との別れが勇者へと付いて旅立ったあの日の朝が最後となるとは思いもしなかった……」
ラフィートの響く声が早くも時々震え、その悲しさ、その悔しさを物語っている。
誰かが気づければ防げた事かもしれない。自分が気づけていれば…。その思いが伝播して王都の各地で必死に抑え込む嗚咽が聞こえ始める。
「何の前触れもなく瘴気は我らが王都に蔓延り始め、先王は何者かに操られる事態となっていた。
私が王都を出てたかが数か月の間に事態は大きく変化し絶望的なまでに致命的なまでに進行してしまった。
いくつかの冒険者PTのリーダーや商人は亡者となって他の町を徘徊し、謎の力によって気付きや疑問は薄れて忘れ、やがて日常へと人々は戻ってしまう。そんな悪循環の地獄絵図に一筋の光を差してくれたのは、友好国アスペラルダのアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ王女殿下、勇者プルメリオ=ブラトコビッチ、聖女クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリ様であった」
「彼らが少数ながらフォレストトーレ王都に辿り着いた時には……っ…既に手遅れであった……。
我が父も弟も王都の国民も訪れただけの旅人も商人もっ!そのほぼ全員が瘴気の高濃度化に耐えきれず亡くなってしまっていた……。
そんな絶望的な中から命懸けで二千八百四名もの国民を救出いただけた事、偉大なるフォレストトーレ王、ローランドが長子!不肖の生き残りである我ラフィートが本来の王位継承者である我が弟アーノルドの代わりを務め王位を継承し、今ここで最大限の感謝を申し上げる!」
「加えて我らがフォレストトーレの国民よ。
アルカンシェ王女殿下の厚意により我々はこれより空の雨雲から降る雨粒に触れている間、王都に残る御霊を視認することが出来るようになる!一時間は降らせて貰えるように我自ら願いこれを快諾してくれたアスペラルダには感謝してもしきれない!
各々伝えたい想い、別れを伝いたい者たちよ!祈りを捧げよ!さすればそなた達の大切な、大事な死者は輪廻の理へと還る事が出来るであろう!降り始めれば、己の想いのままに思い出の場所へ駆け出せ!愛する国民よ!」
ラフィート陛下のメッセージが国民へと広がる中、俺へ向けられる視線にコクリと頷く。
それを合図にアクアとニルに念話で魔法の発動開始を伝えた。
『『共鳴魔法《Omegaの天泣!》』』
——ぽつ……ぽつ……
———サーーーーーーー……
ぽつり、ぽつりと降り始めた雨がすぐに連続した小雨音に変わるとラフィートの伝えたように廃墟となった王都へ各々が駆け出した。
先の数粒で既に御霊が見え始めた人から駆け始め、いまは全員が会いたい人が戻っていそうな場所へと一目散に向かっていく。
しかし、俺たちとの戦闘でさらに廃墟化が進んで街道などもどこがどこだか実際わからないエリアもある為、ラフィートや王族の計らいで各地に現在地を教える役割の兵士や騎士が点在していた。
「俺も行ってくる」
「あぁ。しっかりお別れは済ませろよ!未練を残させず成仏させて来い!」
友となったラフィートも国民に混ざって駆け出した。
彼には見えていた。雨が降る前からその眼差しは崩れた城へと向かっており、御霊が見えるようになってからは冷静さを装っていたがいざ駆け出してみれば父王と弟に別れを告げる為に一心不乱に駆けていく。他に勇者PTの三人もラフィートを追う形で走って行く姿が見えた。
気が付けば会場として設営した簡易的なこの場には俺たち護衛の兵士や騎士と王族だけが取り残されている。
先にこんな状況になると説明していたおかげで全員が多くの御霊が漂うフォレストトーレ王都を複雑な面持ちで眺めているのを横目に俺もなんだかんだで感傷的な気分になった。
『—っ…ぱぱ?』
『お父様?どうされましたのー?』
額を合わせ両手を握り合ったまま魔法の制御に集中していたアクアとニルを抱き上げると二人から戸惑いの声が漏れる。
王都は広い。アクアもニルも制御力いっぱいで雲に隙間が出ないように一生懸命にフォレストトーレ被害者の為に額に汗を浮かべながら無心に頑張っていた。
「優しいお前たちと一緒にパパも手伝わせてくれ」
『ですが、お父様っ!式典中はアスペラルダ騎士代表としてアルシェ様のお傍に控える必要があるのではっ!?』
せっせと忙しなく姉と妹の汗をハンカチで拭き取っていた次女クーデルカが俺の立場を気にして心配の声を上げた事に大丈夫だと伝える。
「アルシェは王族としてではなくギュンター王の守護の任に就いたよ。
周囲の護衛役も頼りになる人たちばかりだからって辛そうなアクアの方に行けってさ」
『そうですか…。
お父様が加わられるのであればクー達もシンクロで制御力の提供を致します』
『まぁ見ているしか出来ないよりは良い手です』
『姉様たちのお手伝いしますううう!』
『やる!』
クーの言葉にノイ、ベル、フラムがやる気になり俺たちの周りに集まる。
姉弟想いの良い子達に育ってくれて本当に良かった。
『仕方ないですね!ワタクシもアクア姉様とニル姉様のお手伝いをして差し上げますわ!』
「ツンデレ乙。アニマはまた肩車でいいのか?」
『ここが好きなんです!』
「はいはい。じゃあ皆で力を合わせるぞぉ」
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