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第13章 -1st_Wナユタの世界-
†第13章† -01話-[リッカの処遇。五者面談]
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鎮魂式が無事に終わり俺たちも日常に戻る事となった。
とは言っても目下の危機として既に確認されている黄竜の巣に時折出現している異世界の入り口。アレが魔神族の一人、霹靂のナユタの世界であり世界樹を破壊して異世界を消滅させれば敵の戦力を一人減らせる。と想定して準備を進めているところだが……。
「ふぅ……こっちもまだ肌寒いなぁ」
「そうですね。やはり風の月六十日を超えるあたりでやっと暖かく感じますから」
『お父様、リッカさん。通りの人はまだ多くありませんから早めに向かいましょう』
今日はお借りしているリッカ=ニカイドウの今後について親御さんと話し合う為にユレイアルド神聖教国に来ております。
朝早くの時間しか確保が出来ない人が参加するからこんな時間に俺たち用の拠点に[ゲート]で渡ってきたが、俺とリッカが気温の低さを話している間に次女で闇精のクーデルカ=シュテールはさっさと玄関から外を確認して人通りの少なさを報告してくる。
「じゃあ、先にクレチアさんと合流しよう」
『「はい」』
一応リッカがアスペラルダに正式所属した暁には長男の火精フラムキエ=メギドールと副契約者契約をする為連れて来てはいるものの、本人がまだ幼く時刻も早朝という事もあって剣の姿で今もお寝んね中だ。
そうこうしている内に通りを抜けて目的の大神殿が見えて来た。
「おはようございます。アスペラルダ所属、水無月宗八です。
約束がありクレチア=ホーシエム様にお目通りを……」
「話は伺っております。案内しますので彼に付いて行ってください」
「はい。案内よろしくおねがいします」
「おおお、お疲れ様です!」
聖女クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリを通して伝言をしておいたがちゃんと門番にも話は伝わっていた様で何よりだ。
もしここで止められたら連絡が取れるクレアに何とかしてもらわなきゃならなかったからな。
それにしてもリッカの緊張癖は相変わらずだな。人見知りでというか緊張しいというか、喋り慣れていない相手だとどもりから始まって気合いの入った締めで終わる。大人になってこういう癖が残るって相当に特殊な環境で育たないとならないと思うんだよなぁ。
「あら、水無月様にリッカ。もうこちらに着いていたのですね」
「お久しぶりですクレチアさん」
「お客様を案内中ですがどう致しますか?部屋で待っていただく予定でしたが…」
「私が引き継ぎますから貴方は仕事に戻ってください。ここまでありがとう」
「勿体ないお言葉です。それでは失礼いたします」
いやぁ流石はアナザー・ワンのトップ。威厳が違いますなぁ。
「本来は合流予定の部屋に案内するつもりでしたがこのまま目的地まで行きましょう」
それだけ言うとさっさと踵を返して目的地へと風を切りながら進み始めるクレチアさんを俺たちも遅れずに追った。
部下のマリエル=ネシンフラは「姫様の為に頑張る!」ってわかりやすいタイプだったから親御さんも割とすんなり理解を示して危険な旅に出させてくれたが、リッカはどうにも今までの生き方からなのか流されるタイプで自分で決める事が出来ないらしい。
だから今回は親御さんと元上司も含めてリッカの今後を決めるべく鍛冶場のある離れへと俺たちは向かうのだった。
* * * * *
「本日はお時間をいただきありがとうございます」
「あぁいや、こちらこそ。いつも娘がお世話になっています。
水無月殿、ご息女、クレチア様もようこそいらっしゃいました」
この状況に慣れないのか自宅のテーブルだというのに鍛冶師マサオミ=ニカイドウ氏は目を白黒させながら戸惑いつつも俺たちへ歓迎の言葉をくれた。同席しているのは俺、マサオミ氏、奥さんのルビディナさん、二人の娘でリッカ、娘の元上司クレチアさん。その中心となる人物はリッカだ。
以前はアナザー・ワンの任務先が決まっていない補欠扱いだったリッカだが誤魔化されている情報の中に彼女と父親の出身がネックとなっている。実際リッカは優秀だ。しかし、おそらく元はやんごとなき立場であった父親の娘であるリッカはアナザー・ワンの立場に納得が出来ていない様子だった。そして扱いに困った元上司のクレチアさんが俺たちに押し付け彼女の世界を広げようとしたのが事の経緯である。
「今日の目的はお嬢さん、リッカの今後について話し合おうと思ってお時間をいただきました。
現在のお嬢さんの立ち位置はご理解いただいてますか?」
「クレチア様から話は伺っています。アルカンシェ王女殿下のアナザー・ワンの仮奉仕中だと……」
「事実は少し異なりまして、うちの王女にも子供の頃から付いている専属侍女がいます。
なので侍女業務のほとんどは振り分けられていない状態になります。あくまで専属侍女が別の対応中に代わりに入る程度です。
メインとしては戦力としてしか現状見る事が出来ていません」
アナザー・ワンは侍女業務だけでなく主を一人でも多数を相手に立ち回れる戦闘力を有した万能メイドの事を指す。
つまり彼女を正式採用しても数少ない万能メイドの無駄遣いにしかならないのでどうするのか?という相談をしたいのだ。
「アスペラルダに所属してからは欠点であった移動しながらの戦闘を行えるように修正を加える毎日です。
王女の近くで侍女業務を行えるのなんて一日のうち一時間もないくらいなので、元上司のクレチアさんも含めてどうするかを話したいのです」
「わかりました。リッカ、貴女は何か希望はありますか?」
「わわわっ!私はっ……今の生活も楽しいと思っていますっ……。
アルカンシェ様や水無月様が私を不要というのであればそれは私の力不足ですし……。教国に戻れというのであればそれに従う所存です……」
「俺はリッカの戦力は純粋に欲しいと思っています。あくまでアスペラルダの益の為ですが……。
もしアスペラルダに正式に所属するならばアルカンシェ王女を頂点にした部隊の隊長にやがては据える事になるでしょう」
俺が居なくなった後の構想はずっと前から考えていたし幹部候補たちには伝えている。
現在はアルシェの水、マリエルは風、メリーは闇の直属部隊の設立を予定していて、他の土・火・光も併せて構想を練っているところだ。
まぁ、タルを隊長にするなら彼女よりも知能が低い魔物の部隊も検討するべきだろうか?
「ウチに来るなら俺の息子。火精フラムキエの副契約者にしてもっと踏み込んだ訓練もします。
待遇はアナザー・ワンではなくアルカンシェ王女の幹部候補。侍女業務は本人が希望するのであれば専属侍女と要相談となります」
「教国に戻るのであればアナザー・ワンとしての人生を歩むことになるでしょう。ただし、主人を得られるかは本人次第です。
これは一生の問題です。アスペラルダ所属にしろユレイアルド所属にしろ、元の地位に戻ることは出来ません」
元の地位とは出身地である[リクオウ]の話だ。
リッカとは事前にある程度話は済ませて今日に臨んでおり、クレチアさんにも同じく話は通しているからこそ方向性はある程度絞られた話に進んでいる。もう、ここまで話が煮込まれていればリクオウの王族に準ずる立場に戻る事は出来ない現実を前提に今後どうするか。親としては娘の将来をどのように思い描いているのか擦り合わせをする必要がある。
「本人の意思は必須ですが親御さん方の意見を聞かせてください」
「あ~、俺たちの意見って言われても……なぁ?」
「先に確認なのですが隊長さんは私達の、主人の家の事をどこまでご理解しておいでですか?」
「本人の口やクレチアさん達の口からは何も聞いていませんよ。
ただリクオウが鎖国している国である事とリッカの言動からそれなりの地位。端的に言えば姫に近い立場だったのかなと思ったくらいです。そうなるとマサオミ氏は君主の血筋である可能性が高く、担ぎ上げられそうだったから亡命して来たかも?って程度の妄想だけですね」
時代錯誤もいいところだがどういう訳か昔の日本を彷彿とさせる条件が複数ヒットしている。
俺も鎖国時代の歴史や背景なんてもう覚えていないけど、島国を出るって事は時代的に船の用意は難しいと思うから個人ではなく商会などの団体、もしくは金を持つ立場となるだろう。とか妄想を膨らませた程度で実際使える人材なら血筋とか面倒だしどうでもいい。
「あなた……」
「まぁ…その、なんだ。水無月殿の推測はほぼ正解です。
俺は君主の末の弟なのですが政治などに興味はなく専ら鍛冶場でなまくら刀を造る毎日を送っていました。
しかし妻も出来、リッカも十歳に近くなると長男である君主の体調不良と共に俺を祀り上げる連中やリッカを他家と婚姻させようとする動きが見られた為、君主の長男に伝えユレイアルド神聖教国に亡命する運びとなりました」
「じゃあリッカは本当にお姫様だったわけですか……」
ちょっとクレチアさん。そんな表情で真っ赤な顔したリッカを見るもんじゃありませんよ。
「おそらくリッカはリクオウに居る時から自分の意思で何かを選択するという事が少なかったのでしょう。
生まれた立場、習い事、亡命に至るまで指示されたりなんとなくでやったりと流されて来た結果が今のリッカなのでしょう。
だからこそ、親御さんにはリッカの選択に背中を押していただきたい。どちらを選んだとしても俺もクレチアさんも悪いようにはしないと誓います」
「リッカはアナザー・ワンの訓練や侍女としての作法も言われればすぐに熟せる器用な娘でした。
ただ、剣を振るう事は好きな様子でしたが他の事は言われればやる、という短所はどうにかしたいと私も思っていました。
以前までは元の地位に固執していましたが今ならばどちらを選んでも、もしくは別の道を選んでも私達は出来る範囲でリッカを支えましょう」
背景の謎は解明された。ここからはリッカがどう選択するか、それをどのように後押し出来るかだ。
先ほどリッカが口にした展望は自分の意思ではなく場の展開によってはどちらでも構わないというリッカ個人の希望が含まれない回答だった。
俺もクレチアさんも彼女個人の侍女としての能力も戦闘力も高く評価しているからこそ、自分の意思で決められなければ一定のラインから伸びなくなることを。才能がこれ以上開花しない事を恐れている。
「私と出会うまでは主人もリッカと同じで自分の意思で何かを決める事は苦手なようでした。
唯一決めた事と言えば鍛冶をする事と亡命する事の二つだけ。結婚だって私から迫りましたし子作りだって私から言い出さないと手を出す事も決められないお坊ちゃんでした。でも、主人は自分とリッカを重ねていつも心配はしていたのです。口には出しませんでしたが……」
そこは言わないとわからんだろお父さん。
「亡命後も主人は鍛冶師として、娘はアナザー・ワンとしての立場を確立し安定を求めた。
その結果、主人は安定しましたがリッカは流されるままの状況から脱することが出来なかった。だからこそ今、隊長さんには感謝しています。リッカ……、お父様は口下手だけれど貴女を愛し行く先を心配していますが背を押す準備はいつでも出来ているのですよ。もちろん私も貴女の選択を応援します」
「お母様……」
「伝えたい言葉は全て母さんが言ってしまったな……。
あー、まぁ、そういうことだ。やりたいことが出来たなら自分の意思を周りに伝える努力をしなさい。
俺も母さんもリッカを愛しているし好きな事をさせてあげたいのだから」
「お父様も……。二人ともありがとうございます……」
ご息女の事で相談があるとアポイントを取ってから気が気じゃなかったのかもしれないご両親だが彼らは彼らで娘の性格を改善したいと思っていたようだ。ここまでお膳立て出来れば最後の一手はリッカの本当の希望を聞き取るのみ。さぁ、どうなるか…。
「ではリッカに聞きましょう。提示出来る先は三つ。
一つはユレイアルド神聖教国に戻りアナザー・ワンとして生きていく事。一つがアスペラルダ所属となり王女殿下の部下となる事。そして最後は他の道をあなたが選ぶ事。重ねて伝えますが私も水無月様も貴女の意思を尊重しますしご両親は貴女の選択を支えてくださるでしょう。リッカ、貴女はどうしたいですか?」
俺たちが最初にリッカへ今回の面談をする事を伝えた時に決断を迫る旨も併せて伝えた際に彼女は即決で回答を出来ず保留となっていた。先の回答でも流されるがまま決まった結果に追従する素振りも見せていたけれど、最後のクレチアさんからの問い掛けに対しては俺たちやご両親の顔を順々に真剣な表情で見つめた後にリッカは若干震える唇を開いた。
「私は……。はぁ……っ…アスペラルダに行きたいです。
提示された中で三つ目の別の道は私の中で選択肢はありませんでしたし、御恩あるユレイアルド神聖教国に戻る道も迷いはありました。しかし、先の魔神族戦の絶望感とそれに抗うクーデルカ様とメリーさんの姿が瞳に焼き付いて忘れられないのです。
私の攻撃も剣聖の体術もヤマノサチの拳さえ届かなかった魔神族を追うアルカンシェ王女殿下と水無月様の志しを私も共にしたいと……強く願います」
「わかった。水無月殿、今までお世話になりました。
そして、これからはよりアスペラルダの力になるよう娘のご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」
「こちらこそ、娘さんにはより危険な戦闘を強制する事もあるでしょう。
しかし、必ず生き残り元気な姿をお見せできる様に努力の手助けをさせていただきます」
リッカの意思を受け、マサオミ氏から大切なご息女を託された。ルビディナさんも隣で同意を示す微笑みを見せてくれている。
これにて正式にアスペラルダに所属することになりましたとクレチアさんに目を向けるとあちらからも一安心という眼差しで頷かれた。
「手続きはギュンター王と教皇様で行っていただく事になる。
一日くらいはご両親とアナザー・ワンの仲間との時間に使ってもいいぞ」
「いえ、ご配慮はありがたいのですが状況的にご子息との連携に時間を割く方が今は重要かと思いますのですぐ訓練に入りたいです」
「私達からもお願いします。すぐに死ぬほど柔な鍛え方はしていないつもりですがリッカの様子からも一筋縄では行かない相手なのでしょう? 生きてさえいれば家族の時間などいつでも取れるのです。配慮には感謝しますが何卒」
「わかりました。では、本日はここまでとしてリッカは連れ帰らせていただきます。
近日中に武器や防具の強化に伺うかと思いますので、その際はまたよろしくお願いします」
よし。これで残るは五女の光精ベルトロープの副契約者を決めるだけだな。
一応リッカには魔法剣の練習はさせていたし制御もゼロからのスタートではない分、契約すればそれなりに扱えるだろう。
それに加護の目途も別口で立ったからそっちもすぐに行動に移すとしよう!
とは言っても目下の危機として既に確認されている黄竜の巣に時折出現している異世界の入り口。アレが魔神族の一人、霹靂のナユタの世界であり世界樹を破壊して異世界を消滅させれば敵の戦力を一人減らせる。と想定して準備を進めているところだが……。
「ふぅ……こっちもまだ肌寒いなぁ」
「そうですね。やはり風の月六十日を超えるあたりでやっと暖かく感じますから」
『お父様、リッカさん。通りの人はまだ多くありませんから早めに向かいましょう』
今日はお借りしているリッカ=ニカイドウの今後について親御さんと話し合う為にユレイアルド神聖教国に来ております。
朝早くの時間しか確保が出来ない人が参加するからこんな時間に俺たち用の拠点に[ゲート]で渡ってきたが、俺とリッカが気温の低さを話している間に次女で闇精のクーデルカ=シュテールはさっさと玄関から外を確認して人通りの少なさを報告してくる。
「じゃあ、先にクレチアさんと合流しよう」
『「はい」』
一応リッカがアスペラルダに正式所属した暁には長男の火精フラムキエ=メギドールと副契約者契約をする為連れて来てはいるものの、本人がまだ幼く時刻も早朝という事もあって剣の姿で今もお寝んね中だ。
そうこうしている内に通りを抜けて目的の大神殿が見えて来た。
「おはようございます。アスペラルダ所属、水無月宗八です。
約束がありクレチア=ホーシエム様にお目通りを……」
「話は伺っております。案内しますので彼に付いて行ってください」
「はい。案内よろしくおねがいします」
「おおお、お疲れ様です!」
聖女クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリを通して伝言をしておいたがちゃんと門番にも話は伝わっていた様で何よりだ。
もしここで止められたら連絡が取れるクレアに何とかしてもらわなきゃならなかったからな。
それにしてもリッカの緊張癖は相変わらずだな。人見知りでというか緊張しいというか、喋り慣れていない相手だとどもりから始まって気合いの入った締めで終わる。大人になってこういう癖が残るって相当に特殊な環境で育たないとならないと思うんだよなぁ。
「あら、水無月様にリッカ。もうこちらに着いていたのですね」
「お久しぶりですクレチアさん」
「お客様を案内中ですがどう致しますか?部屋で待っていただく予定でしたが…」
「私が引き継ぎますから貴方は仕事に戻ってください。ここまでありがとう」
「勿体ないお言葉です。それでは失礼いたします」
いやぁ流石はアナザー・ワンのトップ。威厳が違いますなぁ。
「本来は合流予定の部屋に案内するつもりでしたがこのまま目的地まで行きましょう」
それだけ言うとさっさと踵を返して目的地へと風を切りながら進み始めるクレチアさんを俺たちも遅れずに追った。
部下のマリエル=ネシンフラは「姫様の為に頑張る!」ってわかりやすいタイプだったから親御さんも割とすんなり理解を示して危険な旅に出させてくれたが、リッカはどうにも今までの生き方からなのか流されるタイプで自分で決める事が出来ないらしい。
だから今回は親御さんと元上司も含めてリッカの今後を決めるべく鍛冶場のある離れへと俺たちは向かうのだった。
* * * * *
「本日はお時間をいただきありがとうございます」
「あぁいや、こちらこそ。いつも娘がお世話になっています。
水無月殿、ご息女、クレチア様もようこそいらっしゃいました」
この状況に慣れないのか自宅のテーブルだというのに鍛冶師マサオミ=ニカイドウ氏は目を白黒させながら戸惑いつつも俺たちへ歓迎の言葉をくれた。同席しているのは俺、マサオミ氏、奥さんのルビディナさん、二人の娘でリッカ、娘の元上司クレチアさん。その中心となる人物はリッカだ。
以前はアナザー・ワンの任務先が決まっていない補欠扱いだったリッカだが誤魔化されている情報の中に彼女と父親の出身がネックとなっている。実際リッカは優秀だ。しかし、おそらく元はやんごとなき立場であった父親の娘であるリッカはアナザー・ワンの立場に納得が出来ていない様子だった。そして扱いに困った元上司のクレチアさんが俺たちに押し付け彼女の世界を広げようとしたのが事の経緯である。
「今日の目的はお嬢さん、リッカの今後について話し合おうと思ってお時間をいただきました。
現在のお嬢さんの立ち位置はご理解いただいてますか?」
「クレチア様から話は伺っています。アルカンシェ王女殿下のアナザー・ワンの仮奉仕中だと……」
「事実は少し異なりまして、うちの王女にも子供の頃から付いている専属侍女がいます。
なので侍女業務のほとんどは振り分けられていない状態になります。あくまで専属侍女が別の対応中に代わりに入る程度です。
メインとしては戦力としてしか現状見る事が出来ていません」
アナザー・ワンは侍女業務だけでなく主を一人でも多数を相手に立ち回れる戦闘力を有した万能メイドの事を指す。
つまり彼女を正式採用しても数少ない万能メイドの無駄遣いにしかならないのでどうするのか?という相談をしたいのだ。
「アスペラルダに所属してからは欠点であった移動しながらの戦闘を行えるように修正を加える毎日です。
王女の近くで侍女業務を行えるのなんて一日のうち一時間もないくらいなので、元上司のクレチアさんも含めてどうするかを話したいのです」
「わかりました。リッカ、貴女は何か希望はありますか?」
「わわわっ!私はっ……今の生活も楽しいと思っていますっ……。
アルカンシェ様や水無月様が私を不要というのであればそれは私の力不足ですし……。教国に戻れというのであればそれに従う所存です……」
「俺はリッカの戦力は純粋に欲しいと思っています。あくまでアスペラルダの益の為ですが……。
もしアスペラルダに正式に所属するならばアルカンシェ王女を頂点にした部隊の隊長にやがては据える事になるでしょう」
俺が居なくなった後の構想はずっと前から考えていたし幹部候補たちには伝えている。
現在はアルシェの水、マリエルは風、メリーは闇の直属部隊の設立を予定していて、他の土・火・光も併せて構想を練っているところだ。
まぁ、タルを隊長にするなら彼女よりも知能が低い魔物の部隊も検討するべきだろうか?
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「教国に戻るのであればアナザー・ワンとしての人生を歩むことになるでしょう。ただし、主人を得られるかは本人次第です。
これは一生の問題です。アスペラルダ所属にしろユレイアルド所属にしろ、元の地位に戻ることは出来ません」
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リッカとは事前にある程度話は済ませて今日に臨んでおり、クレチアさんにも同じく話は通しているからこそ方向性はある程度絞られた話に進んでいる。もう、ここまで話が煮込まれていればリクオウの王族に準ずる立場に戻る事は出来ない現実を前提に今後どうするか。親としては娘の将来をどのように思い描いているのか擦り合わせをする必要がある。
「本人の意思は必須ですが親御さん方の意見を聞かせてください」
「あ~、俺たちの意見って言われても……なぁ?」
「先に確認なのですが隊長さんは私達の、主人の家の事をどこまでご理解しておいでですか?」
「本人の口やクレチアさん達の口からは何も聞いていませんよ。
ただリクオウが鎖国している国である事とリッカの言動からそれなりの地位。端的に言えば姫に近い立場だったのかなと思ったくらいです。そうなるとマサオミ氏は君主の血筋である可能性が高く、担ぎ上げられそうだったから亡命して来たかも?って程度の妄想だけですね」
時代錯誤もいいところだがどういう訳か昔の日本を彷彿とさせる条件が複数ヒットしている。
俺も鎖国時代の歴史や背景なんてもう覚えていないけど、島国を出るって事は時代的に船の用意は難しいと思うから個人ではなく商会などの団体、もしくは金を持つ立場となるだろう。とか妄想を膨らませた程度で実際使える人材なら血筋とか面倒だしどうでもいい。
「あなた……」
「まぁ…その、なんだ。水無月殿の推測はほぼ正解です。
俺は君主の末の弟なのですが政治などに興味はなく専ら鍛冶場でなまくら刀を造る毎日を送っていました。
しかし妻も出来、リッカも十歳に近くなると長男である君主の体調不良と共に俺を祀り上げる連中やリッカを他家と婚姻させようとする動きが見られた為、君主の長男に伝えユレイアルド神聖教国に亡命する運びとなりました」
「じゃあリッカは本当にお姫様だったわけですか……」
ちょっとクレチアさん。そんな表情で真っ赤な顔したリッカを見るもんじゃありませんよ。
「おそらくリッカはリクオウに居る時から自分の意思で何かを選択するという事が少なかったのでしょう。
生まれた立場、習い事、亡命に至るまで指示されたりなんとなくでやったりと流されて来た結果が今のリッカなのでしょう。
だからこそ、親御さんにはリッカの選択に背中を押していただきたい。どちらを選んだとしても俺もクレチアさんも悪いようにはしないと誓います」
「リッカはアナザー・ワンの訓練や侍女としての作法も言われればすぐに熟せる器用な娘でした。
ただ、剣を振るう事は好きな様子でしたが他の事は言われればやる、という短所はどうにかしたいと私も思っていました。
以前までは元の地位に固執していましたが今ならばどちらを選んでも、もしくは別の道を選んでも私達は出来る範囲でリッカを支えましょう」
背景の謎は解明された。ここからはリッカがどう選択するか、それをどのように後押し出来るかだ。
先ほどリッカが口にした展望は自分の意思ではなく場の展開によってはどちらでも構わないというリッカ個人の希望が含まれない回答だった。
俺もクレチアさんも彼女個人の侍女としての能力も戦闘力も高く評価しているからこそ、自分の意思で決められなければ一定のラインから伸びなくなることを。才能がこれ以上開花しない事を恐れている。
「私と出会うまでは主人もリッカと同じで自分の意思で何かを決める事は苦手なようでした。
唯一決めた事と言えば鍛冶をする事と亡命する事の二つだけ。結婚だって私から迫りましたし子作りだって私から言い出さないと手を出す事も決められないお坊ちゃんでした。でも、主人は自分とリッカを重ねていつも心配はしていたのです。口には出しませんでしたが……」
そこは言わないとわからんだろお父さん。
「亡命後も主人は鍛冶師として、娘はアナザー・ワンとしての立場を確立し安定を求めた。
その結果、主人は安定しましたがリッカは流されるままの状況から脱することが出来なかった。だからこそ今、隊長さんには感謝しています。リッカ……、お父様は口下手だけれど貴女を愛し行く先を心配していますが背を押す準備はいつでも出来ているのですよ。もちろん私も貴女の選択を応援します」
「お母様……」
「伝えたい言葉は全て母さんが言ってしまったな……。
あー、まぁ、そういうことだ。やりたいことが出来たなら自分の意思を周りに伝える努力をしなさい。
俺も母さんもリッカを愛しているし好きな事をさせてあげたいのだから」
「お父様も……。二人ともありがとうございます……」
ご息女の事で相談があるとアポイントを取ってから気が気じゃなかったのかもしれないご両親だが彼らは彼らで娘の性格を改善したいと思っていたようだ。ここまでお膳立て出来れば最後の一手はリッカの本当の希望を聞き取るのみ。さぁ、どうなるか…。
「ではリッカに聞きましょう。提示出来る先は三つ。
一つはユレイアルド神聖教国に戻りアナザー・ワンとして生きていく事。一つがアスペラルダ所属となり王女殿下の部下となる事。そして最後は他の道をあなたが選ぶ事。重ねて伝えますが私も水無月様も貴女の意思を尊重しますしご両親は貴女の選択を支えてくださるでしょう。リッカ、貴女はどうしたいですか?」
俺たちが最初にリッカへ今回の面談をする事を伝えた時に決断を迫る旨も併せて伝えた際に彼女は即決で回答を出来ず保留となっていた。先の回答でも流されるがまま決まった結果に追従する素振りも見せていたけれど、最後のクレチアさんからの問い掛けに対しては俺たちやご両親の顔を順々に真剣な表情で見つめた後にリッカは若干震える唇を開いた。
「私は……。はぁ……っ…アスペラルダに行きたいです。
提示された中で三つ目の別の道は私の中で選択肢はありませんでしたし、御恩あるユレイアルド神聖教国に戻る道も迷いはありました。しかし、先の魔神族戦の絶望感とそれに抗うクーデルカ様とメリーさんの姿が瞳に焼き付いて忘れられないのです。
私の攻撃も剣聖の体術もヤマノサチの拳さえ届かなかった魔神族を追うアルカンシェ王女殿下と水無月様の志しを私も共にしたいと……強く願います」
「わかった。水無月殿、今までお世話になりました。
そして、これからはよりアスペラルダの力になるよう娘のご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」
「こちらこそ、娘さんにはより危険な戦闘を強制する事もあるでしょう。
しかし、必ず生き残り元気な姿をお見せできる様に努力の手助けをさせていただきます」
リッカの意思を受け、マサオミ氏から大切なご息女を託された。ルビディナさんも隣で同意を示す微笑みを見せてくれている。
これにて正式にアスペラルダに所属することになりましたとクレチアさんに目を向けるとあちらからも一安心という眼差しで頷かれた。
「手続きはギュンター王と教皇様で行っていただく事になる。
一日くらいはご両親とアナザー・ワンの仲間との時間に使ってもいいぞ」
「いえ、ご配慮はありがたいのですが状況的にご子息との連携に時間を割く方が今は重要かと思いますのですぐ訓練に入りたいです」
「私達からもお願いします。すぐに死ぬほど柔な鍛え方はしていないつもりですがリッカの様子からも一筋縄では行かない相手なのでしょう? 生きてさえいれば家族の時間などいつでも取れるのです。配慮には感謝しますが何卒」
「わかりました。では、本日はここまでとしてリッカは連れ帰らせていただきます。
近日中に武器や防具の強化に伺うかと思いますので、その際はまたよろしくお願いします」
よし。これで残るは五女の光精ベルトロープの副契約者を決めるだけだな。
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〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
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初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
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