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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -16話-[再探索①]

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 再び焔獄世界へ侵入した宗八そうはち達は魔物が集まる前に移動を開始した。
 今回は増員した事で周囲を見回す眼も増えたのである程度の塊になりつつまっすぐ進む方針を採用した宗八そうはち達は瘴気を浄化しつつ風精霊使いの面々の様子を見る事にした。

「《エアクリーナー!》」
 進む先に事前に瘴気を祓う魔法を放つことで進行方向を皆がわかりやすくする。予定通り周辺の瘴気は吸い込まれて視界の確保に一定の効果を発揮した魔法をそのままに次々と進行方向に同じ魔法を撃ち放って行く。

「マリエル。エアロサーモスの効果はどう?」
 アルカンシェが自分の上を飛ぶマリエルに確認を取る。マリエルは高度を下げてアルカンシェに答えた。
「熱気は抑えられているのは確かですね。それに[クールルーム]を併用する事で涼しく過ごせているくらいです。問題ありません」
 快適だと答えたマリエルの言葉に安堵し他の風精使いも同様と判断したアルカンシェは時折襲い掛かる魔物と時折建っているオベリスクを破壊しつつ先へ進む。

 全員が着いて来られる行軍速度で進み続けて数時間。
 探索メンバーの中で以外にも一番速度が出なかったのは元アナザー・ワン、リッカだったのは多くのメンバーが驚きの声を上げた。原因としては長年武人として鍛え続けていた弊害で魔法で自身をサポートする事に慣れていなくてついつい筋力だけで宗八そうはち達に追い付こうとしてしまう。だが、移動距離を考えても筋力で移動など誰だろうと無理が祟るのは明白だ。
 リッカは燃えるブーツでランディングと爆発利用の長距離ジャンプを繰り返す[フレアライド]を使用していたのだが、自分の足で飛び上がろうとして空中の態勢を良く崩していた。

「こら、リッカ。お前は重心だけ気にしていれば勝手に進むだろうがっ!いい加減置いていくぞっ!」
 宗八そうはちの叱責に苦し気な表情をさらに歪めて申し訳なさそうにリッカは答える。
「も、申し訳ありません!練習はしていたのですがここまでの長距離は経験していなかったので……フラム君に任せられる様に気を付けます!」
 精霊に頼る事に慣れていないリッカは全て自分でどうにかしようとして爆発時に余計に踏み込みをするので足にダメージを負ってしまっていた。怒られるリッカの様子に周囲のメンバーが代わる代わるフォローを口にする。

「厳しい事言ってるけど隊長は子供達におんぶに抱っこだから気にしなくて良いですよ」
 これはマリエル。続いてライナー。
「俺も最初は慣れなかったけどな。本当に力を抜いて精霊に身を委ねるのも大事だぜ」
 さらに弟子のトワインとディテウスもフォローし始める。
「師匠は厳しい事を言いますが今みたいに速度を落としてちゃんと待ってくださいます。落ち着いて」
「あの人は口だけですから。リッカさんも分かってると思いますけどちゃんと待ってくれます。言われた通りにフラム君に任せると良いですよ」

 仲間も増えて厳しいリーダー像に近づけようと慣れない叱咤をしたのに何故仲間達はそれを台無しにするのだろうか。弟子も宗八そうはちと接する機会が多いからその心中は知っているだろうに……。横で並走するアルカンシェは宗八そうはちの傷付いた心を察して寄り添い慰めた。
 やがて一同の前に姿を現したのは巨大な穴だった……。

「穴っていうか崖っていうかよ……なんだここ?」
 セーバーの呟きに誰も答えられない。数十mから数百mの崖下に滝の如く重い瘴気が雪崩れ込んでいく光景と漂う瘴気により遠くまで見通すことが出来ない一同は底知れない大穴を前に呆然とする。

「《エアクリーナー》」
 いくつか空気清浄する魔法を深さを確かめるべく放り込むと全員が縁に立って瘴気を吸い込み綺麗にしていく光景を見守る。想像以上に深く底が見えるまで時間が掛かったが闇の底がようやく垣間見えた。
「お、見えた見えた」
「いや見えないし。隊長だけ技能スキルで見えるの狡くないですか?」
 竜眼の遠見と暗視を使用して底を観察する宗八そうはちにマリエルが口を尖らせて文句を口にする。獲得した技能スキルを使って何が悪いと鼻で笑う宗八そうはちは改めて底の様子を確認する。何やら砂の様な物が大量に底に溜まっている様だった。
「あ~……なるほどなぁ……。この地形……どこで見たかなぁ? 暗視じゃ色がわからないのが問題だな」
 宗八そうはちの独り言を聞いている者は一体化している子供達くらいなものでアルカンシェですら傍で周辺警戒に気を配るほど時間を消費して宗八そうはちは底の地形と穴の広さからある推測を導き出した。

「この穴、海かもしれない。めっちゃ深い所は海峡だわ」
 傍のアルカンシェが宗八そうはちの呟きを拾い上げ反応する。
「海と聞こえたのですが、この大穴は水が無くなった海なのですか?」
 頷く宗八そうはちが説明を始めると続々と仲間も解説を聞きに集まって来た。どうせなので光魔法と闇魔法で宗八そうはちが見た光景を上映し始める。
「海底の地形と珊瑚礁の化石みたいなのが多く見えたから間違いないと思う。何かの攻撃で破壊されて開いたしては整い過ぎているし飛び出ている崖もある。アレは海水が崖に何度もぶつかって出来る地形だからこの穴も自然にあった代物と考えると途方もない大穴も納得出来る。あと、底に溜まってる砂みたいなのは塩と考えれば。海だろ」
 暗視界映像なので説明を受けないといまいち不明な地形映像になってしまうが宗八そうはちの説明に海の近くで生活して来たアルカンシェとマリエルが同意を示した事でこの大穴が海なのだと皆が納得した。

 大陸横断は必要だろうと考えていた宗八そうはちとアルカンシェだが、まさか海水が蒸発しているとは考えが及んでいなかった。あまりにも常識が通じない異世界に改めて今後が不安になったが表情には出さなかった。それよりもこの世界の雲が高く分厚い事にも納得がいった。広大な海の海水が空の上で降雨と蒸発を繰り返して地上には水が一切ない世界とは想像だにしていなかった。超高温の気温で暑い暑いと思っていたが逆に異常過ぎて少し考えれば分かる事も頭に浮かぶことが無かったのだ。

 海底に降りても大量の天然塩で足が取られかねないうえに地上よりも瘴気の濃度が高くて変に強力な瘴気モンスターが湧いていても面倒だ。空を行くにしても水精使いと火精使いは空を飛べない。オプションの力で唯一の空飛ぶ水精となった長女アクアーリィは先進的な娘なのでアレは例外だ。
 という訳で、どうせ空を行くにしても数時間は掛かる事を考えて今回は地上を行けるところまで進む事となった。空を飛べない水精使いフランザと火精使いリッカだけではなく、宗八そうはちの様に自由自在に[魔力縮地まりょくしゅくち]を使用出来ない七精使いトワインと四精使いディテウスも安堵の息を漏らした事に宗八そうはちは気付いていなかった。

「仕方ないな。海を行くしか無くなった時は一時的に行けない奴を抜くしかないな」
 一瞬だけ海底へ行き異世界産の天然塩をお土産にインベントリに確保すると仲間の元へ戻り地上を進み始める。
「お兄さん、塩は融けていなかったんですか?」
「あ、そうだよな。普通ここまで暑かったら融けるよな!二百℃程度なら誤差なんだろうけど海底は涼しかったのかも……全然気づかなかったけど……」
 アルカンシェの指摘で宗八そうはちは塩の融点を正確に覚えてはいなかったがかなり高かったことを思い出した。鉄が溶けるまではいかないが柔らかくなる事は確認済みだ。おおよそ千度前後がこの世界の気温なので多少前後しても気にしていられないから気付かない。加護や魔法で緩和していても命がけの環境だ。

 その日は前回同様に元の世界が夕暮れになる頃合いに戻る事にした。
 今回はゲートを繋げっ放しにしていた為、前回の様に三日後の夕暮れなんて事にはならないはずだ。だが、進軍した分ゲートの更新を行う必要があり僅かなりにも閉じる時間が生まれる事でどれだけ予想よりも時間が進んでしまうのかが怖過ぎる。朝、寝起きに瞬きしただけなのに一時間経っていたくらい怖い。
 その恐怖体験を皆に語ったところ、予定よりも早めに更新する事を勧められた。確かにどのくらい時間が進むかはっきりわかっていないし今後の事も考えて実験的に早めに更新を行うのは悪くないと判断して宗八そうはちは光魔法で辺り一帯を浄化するフィールドを作り出すとゲートを遠隔で閉じる。

「《施錠ロック》」
 続けて新しく描いたゲートに接続する。
「《解錠アンロック》」
 描いたゲートが広がっていき世界は再び繋がる。向こうの景色がはっきりと映ると既に夜の帳は下りていた。季節的に暗くなるのが早いにしても推定数時間はズレているのは確かな様だ。宗八そうはちとアルカンシェを先頭にゲートを潜りヴリドエンデに帰って来ると気温の差に頭がおかしくなりそうだ。サウナの後に冷水に浸かる様な整う事もなくただただ頭がおかしくなりそうだ。

 探索メンバーはゲートから流れ出て来る熱気から逃れると[クールルーム]や[エアロサーモス]の魔法を解除してひと心地付き始めていた。全員が戻ってきたことを確認してからゲートを閉じると熱気の影響の少ない距離を保っていた残留メンバーが続々と集まって来る。

「おぉ~!にぃに!ねぇね!おかえりなのだ~!」
宗八そうはちぃ~!おかえりぃ~!』
 まず突っ込んで来るタルテューフォの突進を受け止め「うっ!」と声が漏れ、肩乗りサイズのフリューアネイシアが頭に抱き着いてくるのを受け止め「ぐっ……」と首がイカレそうになるのを耐えきった。
「おかえり。ずいぶん予定よりも時間が掛かったな」
 残留組のリーダーを務めたゼノウが遅れて声を掛けて来た。ただ、宗八そうはちはそれどころでは無いのを見てアルカンシェが返事をする。
「ゼノウもお疲れさまでした。ゲートを更新する僅かな時間で大きなズレが生じてしまったみたいで……。心配させたかしら?」
 ゼノウは首を振り否定する。
「いえ、現在は夜の九時頃なのでまぁ……三~四時間ほどのズレでしょうか。前回も心配はしていなかったのでこの程度なら尚更心配するほどの時間ではありませんよ」
 ゼノウの言葉は宗八そうはちにも聞こえており仲間達も互いの苦労話に花を咲かせそうだったので解散を急ぐことにした。

「今日はこのまま解散するぞ!飯は城で用意してもらえる事になっているから兵舎の方の食堂に移動!飯の間か宿に帰ってから大いに語れ!明日からも数か月は同じ事を繰り返すんだ、盛り上がり過ぎて今後話すことが無くならない様に気を付けろよ!以上、移動開始!」
 ここは城下町からも離れた原っぱだ。熱気で広範囲に草が草臥くたびれているが原っぱだ。ここから城に戻って晩御飯にありつくとなるとかなり急がないといけないしゆっくり食べている時間も無い。城にある食堂とはいえ閉店時間はあるわけなので、食堂のおばちゃんもヤキモキしている事だろう。皆を急かして移動を開始し去っていく俺達の跡には異世界の熱気は霧散して残るのは冬の冷たい空気だけだった。
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