特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
426 / 450
第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -18話-[魔王協定締結]

しおりを挟む
「——これで協力関係は締結です。皆さまお疲れさまでした」
 宰相アンデスヘルが代表者全員の血判が押された契約書を手に取り、最後に隅から隅まで再々再確認を行った末に労いの言葉を口にした。
 魔王ヴァルザーも息を吐き出し恙なく進行した事に安心した様子だ。
「魔王ヴァルザー、宰相アンデスヘル。改めて急な訪問、急な要望に真摯に取り次いでくれたことに感謝する。これで各地の魔族も多少は安心出来る生活が送れるだろう」
「こちらこそ。我がグリウス領によくぞ話を持ち込んでくれたと感謝したい。避難民の中から領民になってくれる者らも出て来るならばこれほど良い話はない」
 宗八そうはちが握手を求めると魔王ヴァルザーは快く応じてくれた。続けて差し出した手を宰相も握り返してくれる。

「さて。ではそろそろ魔王イクダニムがどうやって各地の避難民をこの地に連れて来るのかを教えてもらおうか」
 ヴァルザーの視線は宗八そうはちから傍に控えるメイド猫耳の闇精に移る。
 如何に魔力を持っている魔王でも、もとは人間が魔力濃度の高い魔族領で生活する中で進化した魔族だ。自分とそこまで規格外の力の差があるとは思えないヴァルザーの予想は、精霊の力が関係していると予想していた。
「……丁度仲間からの連絡が入った。地図で言えばこの辺りの集落が禍津屍マガツカバネの集団に襲われたらしい。流石に数が数だから押し込まれて集落自体は壊滅的被害を受けた様だが、魔族達は無事らしい。数は278人。すぐに呼び寄せるから避難民用の区画へ案内してくれ」
 通信の主はセーバーPTだった。
 高高度まで上昇したセーバーが、配布された地図と目視情報から座標を割り出し、[揺蕩う唄ウィルフラタ]を用いて宗八へ状況を報告したのだ。

 魔王と宰相は一瞬、言葉を失った。まるで未来を見てきたかのような宗八の即応に、ただ沈黙するしかなかった。
「……かしこまりました。ご案内いたします」
 宗八そうはちの言葉に戸惑いを見せつつもアイコンタクトで宰相を促し、各々が案内に従って彼らを追って通路を進む。
 そのまま城下町に入ると、宗八そうはちが魔王ヴァルザーに引き攣られるように行進する姿に不安そうだった魔族達も高濃度魔力に足を震わせながらも安堵の表情を浮かべる。ヴァルザーは臣民から慕われる程度には抑止力としての戦力と治安を行っているようだ。

 人族領の王都とは違ってこじんまりとしたグリウス領の王都行進は数分も歩けば目的地に辿り着いた。
 王城に辿り着いた段階で指示を出していただけはあり、簡易的なテントが所狭しと組み上げられていた。さっそく責任者を呼び出したヴァルザーは状況の確認を聞き出し宗八そうはちに告げる。
「現在、二百張近くの世帯用テントがすでに設置済みだ。四~五人家族を基準にすれば、およそ三百人までは即座に収容出来る」
「了解した、感謝する。——クーデルカ」
 名を呼ぶだけで己が成すべきことを理解する次女はさっそく空間を繋げる。
『《ゲート》《解錠アンロック》』

 幼い闇精が手早く鳥居を描き、その中心に指を指し込み捻ると鳥居が急激に大きくなり空間が歪む。
 ヴァルザー、アンデスヘル、その他兵士達が見守る中で歪んだ空間が安定して来ると、向こう側には夥しい数の禍津屍マガツカバネの死骸を背景に出迎えるセーバーPTの姿が映る。
「お待ちしておりました、盟主」
 宗八そうはち役割演技ロールプレイ中であると知るセーバーが膝を折り宗八そうはちに敬意を持って言葉を掛ける。
 背後ではセーバーPTの面々も同様に膝を折っていた。
 その姿から関係を知らぬ者でも、上下関係を如実に理解する。だが、魔王と宰相は宗八そうはちの仲間が戦っているという話を聞いていたが、彼らも同様に異常に高い魔力量を有していることを認識し驚愕していた。併せて、魔王イクダニムの率いる集団が本当に得体の知れない集団という認識も強める結果となる。

 そんな彼らの危機意識が高まっていることなど露知らず、宗八そうはちは仲間に声を掛けた。
「時が惜しい、礼は不要だ。ひとまず避難を完了してしまおう。魔王ヴァルザー、案内人は誰だろうか?」
 宗八そうはちの演技に笑いが込み上げそうになるのを必死にこらえ立ち上がったセーバー達から視線を外し、ヴァルザーに問いかけると、先ほど呼び出された責任者が一歩前に出る。
「避難民の受け入れはこの者に任せるといい。それと、これが紹介状だ」
 セーバーにアイコンタクトを送るとすぐに責任者に引継ぎ作業を始めた。
 宗八そうはちはヴァルザーから手渡された紹介状を受け取ると、再びクーデルカに声を掛ける。
 事前に念話で状況は伝えていたので、次の指示内容をすぐに実行に移す。
『《ゲート》《解錠アンロック》』

 新たなゲートが開くと、出迎えたのは次の目的地に先行していた諜報侍女アナスタシアだ。
 一方、出入口のゲートは大きめに作ったというのに、避難民たちはおっかなびっくりしながら集団で固まり歩みが遅い為か避難作業は時間が掛かりそうだった。
 その様子に不満そうな表情を浮かべる宗八そうはちは、視線を傍に控える闇精クーデルカに戻し指示を出す。
「避難が終わるまでこっちに残ってくれ。引継ぎが終わり次第占い師の店に合流して各所の調整を頼む」
『かしこまりました。避難が完了するまで、門の維持を継続しておきます』
 残るは、今のところ質問に答える以外は付いてくるだけしか仕事がない勇者PTだ。
 ある程度の流れは事前に伝えてはいたものの、想定以上に敵の広がりに“偏り”が生まれ始めていた。
 このままでは、七精の門エレメンツゲートだけでは対処しきれない地域が出てくる。事態は、すでにその一歩手前まで進行していた。
 予定では、魔王行脚に勇者も連れて行く事で顔合わせと大魔王討伐に邪魔を挟まない様に釘を刺すところだったが、魔王ヴァルザーと占い師パメラ、魔王イクダニム、勇者プルメリオの血判がされた協力関係を示す書類が用意出来たことで勇者の存在はこの一枚で魔王界隈に知らしめることが可能になった。故に、無理に連れ回す必要は無くなったと宗八そうはちは判断していた。

「メリオ達は禍津屍マガツカバネの討伐の方に回ってくれ」
 振り返り、予定とは違う指示をする宗八そうはちにメリオは慌てて聞き返す。
「え!? いいんですかっ!?」
 流石に唯々諾々と連れ回されて質問に答えるだけは辛かったらしい。声音に喜びが見え隠れする。
 その背後で会話が聞こえていた勇者PTも各々嬉しそうに視線を交わしていた。マクラインとクライヴの男二人は拳すら突き合って大々的に喜びあっている。

「一旦情報屋の店で占いをやり直してもらおう。それで次に危険な場所に送り込むから準備だけしておいてくれ」
「わかりましたっ!」
 見れば引継ぎを急いで終わらせたセーバー達が慌ててこちらへ駆けて来るところだった。
 宗八そうはちが気にせず次のゲートを開いているシーンを目撃した事で置いて行かれると思った様だ。だが、お前達は勇者と共に別ルートだ。
 追加で発動したゲートの先が占い師の店に繋がる。
「休憩も兼ねて一旦セーバー達はメリオ達と一緒に情報屋の店に帰れ。パメラ抜きで占い結果が出次第、次のゲートをクーが設置する。あと、ゼノウPTと寄せ集めPTとマリエルに状況の確認をしておいてくれ。回収と再配置も任せる」
 次々と指示を出す宗八そうはちに全員が胡乱な視線を向ける。
 休めと言いつつ占いにそこまで時間が掛かるとは思えない。その短い時間で魔族領に散らばった仲間たちの状況確認と回収に向けた準備を進めろというのだからそれも仕方ない事だろう。

「はよ行け」
「へいへい仰せのままに」
 セーバーが動き出せば彼の仲間たちもゲートを潜っていく。
「じゃあ、また後程」
「無理はするんじゃないぞ」
 人族の中では桁外れに強いはずの勇者PTにそんな声を掛けられるのは、世界広しと言えど宗八そうはち達だけだろう。
 むず痒い気持ちを抱きつつ勇者PTが次々とゲートを潜る。

 宗八の視線がプーカの背中に止まる。
 まだ幼い。けれど、怠けるには惜しい力を背負っている——。
「プーカ」
 ゲートを通っていく勇者PTの眺めていた宗八そうはちがその背に声を掛ける。
「は、はいっ!」
 勇者PTの間に緊張感が走る。
 まだ幼さの残る面立ちのプーカに対してウキウキ魔王ムーブ中の宗八そうはちが人の心が無いセリフを吐くのではないか……。そういう心配が緊張感となって漂った。

「いい加減ゲートを使えるようになれ。勇者の魔法は町などの拠点となる規模をしていないと使えないクソ魔法だ」
「『クソ魔法……』」
 そっと傷付く勇者と聖剣を無視して宗八そうはちの言葉は続く。
「闇魔法の汎用性は非常に高い。身を粉にする必要は無いが、魔王討伐直前に加入したんだ。この運命にお前がどう立ち向かうのか見物だな」
 鼻で長く息を吐き出した宗八そうはちの表情は「言ってやったぜ」とでも言いたげに満足気だ。
 確かにプーカの契約闇精ダスクは中位精霊で宗八そうはちの子供に比べれば個人で強力な力を持っている。その力をうまく利用すれば前衛のマクラインやプルメリオに負けない戦力に並ぶだろう。それだけに留まらずサポートとして優秀なのは闇精クーデルカを見れば一目瞭然の事実だ。
 だが、親馬鹿である宗八そうはちですらクーデルカが特別優秀であることは理解しつつも、中級精霊ともなればその力は絶大なのだ。決戦直前の参戦とはいえ、彼女たち戦力を腐らせる理由はなかった。

 故に発破する。
「エクスは聖剣の姿をしているが古い精霊だ。未だに剣の姿で勇者を支えればいいとか考えている時代遅れの精霊にお前達が後れを取る理由は単純に怠慢だ!参考になるクーデルカや闇精王アルカトラズを前にすればいくらでも吸収出来る事は視えてくるだろう!ここが貴様の踏ん張りどころだっ!」
 見えない言葉の刃が聖剣の姿の光精エクスを切り刻む。
 ただ、宗八そうはちの言葉は真理であり事実でもあった。上位精霊の中でも特別な剣の姿を持つ精霊であり、以前の戦争でも魔王を討伐せしめた実績を持つ精霊。その過去の栄光に胡坐を掻いている間に宗八そうはちの子供達は新たな魔法を産み出し、契約者と共に新しい戦術を組み上げた。
 幼くとも契約者と共に高みを目指す彼女たちを思い浮かべれば、自分との隔絶とした差が見える。
 宗八そうはちの言葉はプーカを鼓舞すると同時に、決戦前になっても怠惰な骨董品の荒療治も兼ねた鋭すぎる刃であった。

「が、がんばります!」
 精一杯の強がりで言葉を返したプーカの姿に満足した宗八そうはちは、彼らが潜ったゲートを閉じた。
「パメラ、行くぞ」
 避難者用ゲートの回収は闇精クーデルカに、避難民の対応は魔王ヴァルザー達に任せた宗八そうはちはアナスタシアが待つゲートを潜る。
 後に続いてパメラゲートを潜った。
 新しい魔王の町は、ヴァルザーとはまた趣向の違う街造りがなされた良いところであった。しかし、すでにアナスタシアの魔力を察知した住人が兵士に伝えていたらしく、町の入り口は先ほども見た覚えのある人混みが発生している。
「面倒くせぇなあ……」
「高い魔力のおかげで十分なパワープレイなのだから、余計な波風を立てないで頂戴」
 出会ったばかりとは思えない軽快な会話を挟んだ二人は、新たな魔王への謁見に歩を進め始めた。
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...