12 / 17
真相
しおりを挟む
その夜、またあの夢を見た。
……甘い香りだ。目を開けると、狭い、箱のような物の中にいた。香りは着物からも、辺りの空気からも強く漂ってきた。私は目の前にあった扉のような物を開けようとしたが、開かない。
「江戸へ行くのが一番なのだ。観念せい」
外から男のダミ声がする。大勢の人の気配もする。狭い箱の中に細い光が幾本も差し込んでいた。
簾の隙間に目をこらすと、香の白い煙に包まれた蔵が見える。胸が苦しくなり、涙が勝手に溢れ、絞るような声が出た。
「月之丞…! 嫌! 江戸なんて、お嫁になんて行きたくない! 月之丞! 月之丞ー!」
「諦めろ。この香の中じゃ、奴はお前を見ることもできんだろう」
先ほどのダミ声が言うと、箱が動いた。ああそうだ、これは江戸時代の駕篭、という乗り物なのだろう。隙間から見える蔵がだんだんと小さくなる。涙が溢れ、私は拳でぐしゃぐしゃと拭った。
涙を拭い顔を上げると、駕籠に揺られていたはずの私は、土の上に立っていた。
……ん? なんで?
気のせいか、普段よりも地面が近い。ダミ声の男に捕まってしまうと思ったけども、人の姿はない。
右手には蔵がある。元の家の庭に戻っているのだ。
そして蔵の陰には、幼い少年が立っていた。切れ長の眼に、すっと通った鼻筋。どこかで見覚えがあるな、と思っていたら、口から勝手に言葉が出た。
「ねえあんた、どこの子?」
子供のように高い声だ。すると少年の眼が三日月のように笑い、
「一緒に、遊ぼう?」
と言って、私に向かって手を差し出した。気のせいか、綺麗な黒髪の中に金色の毛の束が混じっている。そこだけが、明るく光り輝いて見えた。
……夢だけど、今度は、子供の頃の雪さんの夢を見ているんだ。
朝、目覚めると、頬が濡れていた。やっとわかった。いつも見ていた夢の、蔵の光景。甘い香りの中で感じていたあの胸の痛みは、雪さんの痛みだったのだ。無理やり月之丞の元を去らなければならなかった、雪さんの。
このことを月之丞に伝えないと。でも、何と言って伝えよう?
こんな夢を見ました、じゃ、さすがに信じてもらえないよね。
……甘い香りだ。目を開けると、狭い、箱のような物の中にいた。香りは着物からも、辺りの空気からも強く漂ってきた。私は目の前にあった扉のような物を開けようとしたが、開かない。
「江戸へ行くのが一番なのだ。観念せい」
外から男のダミ声がする。大勢の人の気配もする。狭い箱の中に細い光が幾本も差し込んでいた。
簾の隙間に目をこらすと、香の白い煙に包まれた蔵が見える。胸が苦しくなり、涙が勝手に溢れ、絞るような声が出た。
「月之丞…! 嫌! 江戸なんて、お嫁になんて行きたくない! 月之丞! 月之丞ー!」
「諦めろ。この香の中じゃ、奴はお前を見ることもできんだろう」
先ほどのダミ声が言うと、箱が動いた。ああそうだ、これは江戸時代の駕篭、という乗り物なのだろう。隙間から見える蔵がだんだんと小さくなる。涙が溢れ、私は拳でぐしゃぐしゃと拭った。
涙を拭い顔を上げると、駕籠に揺られていたはずの私は、土の上に立っていた。
……ん? なんで?
気のせいか、普段よりも地面が近い。ダミ声の男に捕まってしまうと思ったけども、人の姿はない。
右手には蔵がある。元の家の庭に戻っているのだ。
そして蔵の陰には、幼い少年が立っていた。切れ長の眼に、すっと通った鼻筋。どこかで見覚えがあるな、と思っていたら、口から勝手に言葉が出た。
「ねえあんた、どこの子?」
子供のように高い声だ。すると少年の眼が三日月のように笑い、
「一緒に、遊ぼう?」
と言って、私に向かって手を差し出した。気のせいか、綺麗な黒髪の中に金色の毛の束が混じっている。そこだけが、明るく光り輝いて見えた。
……夢だけど、今度は、子供の頃の雪さんの夢を見ているんだ。
朝、目覚めると、頬が濡れていた。やっとわかった。いつも見ていた夢の、蔵の光景。甘い香りの中で感じていたあの胸の痛みは、雪さんの痛みだったのだ。無理やり月之丞の元を去らなければならなかった、雪さんの。
このことを月之丞に伝えないと。でも、何と言って伝えよう?
こんな夢を見ました、じゃ、さすがに信じてもらえないよね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる