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番外編

第二章-番外編:輝斗の私服-

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「フンフン~♪」
 陽気に鼻歌を歌いながら、増田威は中華屋『天々来』にやって来た。まだ開店前のため、入口に暖簾は下がっていない。威は裏口に回って厨房へ顔を出す。
「おはようございまーす。小鉄さん、美華メイファちゃん」
你好ニーハオ、今日も元気そうね」
「タケル、你好ニーハオ
 開店準備中のために野菜の下ごしらえをしている店主の小鉄と看板娘の美華は、威に気づくと笑顔で挨拶を返した。
「他のみんなは、もう出勤してる?」
「ハトリさんとチカゲさんが一番乗りね。ふたりとも上にいるよ。あと、さっきアキトとユキヒロが来たね。下で着替えてると思う」
 美華が親切に教えてくれた。
「そっか、ありがと。またあとでね」
拜拜バイバイ
 笑顔で手を振る美華に、威も手を振り返して厨房を後にする。店の裏口にある階段を軽い足取りで降りていく。地下への扉はロックが掛かっており、部隊手帳に登録されている識別コードを認証しないと入室できない仕組みになっていた。
 部隊手帳は電子化されていて名前、生年月日、血液型や階級だけでなく属性やアミュレットなど持ち主の情報が登録されている。
 また、過去に担当した任務内容や部隊規約なども任意に画面表示が可能だ。おまけに弾道計算や任務に必要なアプリも各種搭載されている優れものである。
「えっと、手帳……あった」
 手の平サイズのタブレットをドアノブにかざす。数秒たってからカチッと音がした。
「よしっと……」
 上着のポケットに手帳をしまい、ドアノブに手を回して中に入る。
「ランランラ~ン♪」
 歌いながら真っ直ぐロッカールームを目指す。
 ロッカールームには輝斗と幸弘以外に忍の姿もあった。小鉄と美華が把握していないということは、厨房に顔を出さずに直で地下に向かったらしい。
「みんな、おっはよー!」
 威は元気よく挨拶する。
「おはよう」
「おはよう、威」
「うっす」
 忍だけそっけないが、ちゃんと答えてくれた。
 輝斗と幸弘はこれから着替えるところで、忍はほとんど着替え終えていてネクタイを締めている。
「相変わらず、眩しい服着てんな」
 威の服装を見るなり、忍は眉をひそめた。
「そうかな? 今日は控えめにしたんだけど」
 きょとんとした表情を浮かべ、威は自身の服装を確かめる。白ベースのTシャツは、でかでかと虹がプリントされ、その上に水色のパーカーを羽織っていた。下は紺色のスラックスに明るいイエローのスニーカーを履いている。リュックは水色とイエローのツートンカラーだ。
「お前の私服は、いつも原色か蛍光色だよな」
「あはは、明るい色が好きだからね。そう言う忍さんは、私服がスーツだよね。ジャケットはともかく、赤シャツに尖った革靴でサングラスだから……堅気の職業には全然見えないっていうか」
「あん?」
「ま、まあ、忍さんも個性的ってことで!」
 ジロリと睨まれ、その先を言うのを止める。
「忍の私服は、ヤクザみたいだ」
「輝斗、はっきり言い過ぎだよ」
 話を聞いていた輝斗が真顔で指摘すると、間髪入れずに幸弘が口を挟んだ。
「うっせーな。てめぇにだけは言われたくねぇよ。今日の服もなんだよ、それ」
「何が?」
 輝斗は不思議そうに小首を傾げている。
「どれどれ……って、うわあああっ! 輝斗くん、そのTシャツなに!?」
 ジャケットを脱いだ輝斗を見た威は、あまりのダサさに思わず叫んでしまった。
「なにってTシャツだ」
「見て分かるよ。そうじゃなくて、プリントの柄というか……えっ? ほんと何それ?」
 Tシャツのデザインを、まじまじと見つめる。白Tシャツの真ん中にでかでかと太陽のマークがプリントされている。しかも太陽には顔があった。
「妙にリアルだし、こっちガン見してるの怖いよ」
「そいつに見つめられると、だんだん不安になってくるよな」
 困惑する威に、忍も同意する。絵画のモナリザのように、どこにいても視線が合うような技法が施されているわけではないが、目が合うと反らせなくなるのだ。虚ろな目の中に吸い込まれそうで、なにか呪術が施されているのではないかと不安になる。
「太陽の周りにも模様があるけど、なんか意味あるのかな? いろいろ凄すぎてツッコミきれないよ。こんなTシャツ売ってるんだね」
「一本挟んだ通りの店で買った。安かったぞ」
 少しもおかしいと思っていない輝斗は、淡々と語る。
「あー、あそこか……」
 エスニック系を扱っている雑貨屋だったはずだ。店主オリジナルデザインの不思議な雑貨や服が売られているが、まさか輝斗が立ち寄ると誰が想像できるだろう。
「確かに、あそこは安いけど……。よりにもよって、なんでそのTシャツを選ぶわけ?」
「なんとなく。あとこっちを見てたから」
「目が合ったからって、買っちゃダメだよ!」
 輝斗の両肩に手を置き、威は蒼白で詰め寄る。
「はっ、そんなダサいシャツ着ても平然としてられるんだから、神条のセンスは壊滅的だな」
 言い終わると、忍は仕上げにサングラスをかけた。
「別に着られれば問題ない。店長もすすめてきたぞ。なにより、買ってほしそうにTシャツも見つめていた」
「輝斗くん、騙されてるんだよ! 店長さんの口車に乗っちゃダメ! いくら買ってほしそうに見つめられても、ダメなものはダメだよ!」
「そうか」
 あまり響いていないのか、反応がイマイチだ。眉ひとつ動かさない輝斗に、威はなおも訴える。
「前から服装に無頓着だと思っていたけど、今日の服は特に酷いよ。輝斗くん格好いいんだし、もっとお洒落に目覚めよう?」
「興味ない」
「せめて、あそこの店で変な服を買わないで。お願い!」
 泣きそうな顔で必死に訴える威に、輝斗は考える仕草を見せた。
「威が悲しむのなら、あそこの店で服は買わない」
「良かった……」
 心底安堵した威は、輝斗の肩から手を離した。
 ロッカーの鍵を閉めた忍は、輝斗の隣で着替えている幸弘に視線を移し、声を掛ける。
「つーか、東。てめぇがついていながら、なんでダサい服着せてんだよ。真っ先に止めるべきだろ」
「そうだよ。幸弘くんの私服って、いつもお洒落じゃん! 読者モデルになってほしいって、街でスカウトされたことあるんでしょ? 輝斗くんの服も選んであげればいいのに」
 当本人の幸弘は曖昧な反応を示す。
「うーん、オレは好きな服を着ているだけだし。輝斗も好きな服を着ていいと思うからなぁ」
 自身の頬を人差し指で掻きながら、のんびりと幸弘は答えた。
「いや、このセンスはアウトだろ」
「黒髪に赤い瞳が目を引く整った顔してる。背だって低いわけじゃない。スタイルだっていいんだよ? こんなに格好いいのに、ダサイ服が全部台無しにしてるの気づいて!」
 忍と威の指摘に、幸弘は苦笑を漏らすばかりだ。
「オレは、輝斗が何着てもいいと思うから」
「良くねぇよ! つか、俺だったら私服の神条と絶対歩きたくねぇ。全く気にしないお前の神経どうなってんだ。どんだけ甘やかしてんだよ」
「幸弘くん、輝斗くんに優しいからなぁ……」
 申し訳ないと思うが、威も忍と同意見だ。私服の輝斗と並んで歩くのは気が引ける。
「そもそも東が何も言わねぇから、ダサい私服のセンスがエスカレートしたんじゃね?」
「だよね……」
「こうなったのは、てめぇのせいだぞ」
「そんな……」
 忍の辛辣な言葉に幸弘は眉根を下げた。
「そうだ……!」
 ひらめいた威は、ぽんと手をついた。
「ねえ、輝斗くん。お古で良ければだけど、俺の服をあげようか?」
「いいのか?」
「うん!」
「ありがとう、威」
「ダメだろ」
 きっぱりと忍が否定する。
「どうして?」
「お前の私服って派手だろ。そんな眩しい色を神条が着こなせると思うか?」
「そうかな? 可愛いと思うけど」
 目をぱちくりさせる威に、忍は深いため息を吐いた。
「あのなぁ……。神条に似合うわけないだろうが」
「えー」
 不満そうな威に、忍は羽虫を追い払うように片手を振る。
「眩しい服を着た奴なんて、ふたりもいらねぇよ。神条はファッション雑誌でも買って服の勉強しろ」
「何の雑誌がいいんだ?」
「知るかよ。てめぇで調べろ」
「そのままでいいと思うんだけどな」
「絶対ダメだ!」
「絶対ダメだってば!」
 幸弘の呟きだけは看過できないと、忍と威は声を揃えて否定する。
 輝斗が、お洒落だと褒められる日が果たして訪れるのだろうか――。

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※輝斗の私服はダサイです。
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