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番外編

第三章-番外編:もしもTJ部隊がホストだったら?-

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 東都市ミナトシティにあるホストクラブ『イェーガー』には個性的なホストたちが集まっていた。
「いらっしゃいませ」
 扉を開けるなり、恭しく頭を下げて出迎えてくれた男に向けて、カオルの厚い唇に微笑が滲む。
「ふふっ、店長自ら出迎えてくれるなんて思わなかったわ」
「いつもこの時間にいらしてくださるので」
 カオルは目を瞬かせる。常連客の自覚はあるが、訪れる時間まで把握しているとは思っていなかった。
「あらそう? でも、悪い気はしないわ」
「立ち話も何ですし、どうぞ中へ」
 店長の政宗に促され、カオルはドレスの裾をなびかせ、颯爽と歩き出す。シャンデリアに照らされた貴金属が動く度にキラキラと輝いている。
 モノトーンで統一された店内は、落ち着いた雰囲気を漂わせている。決して華美ではないが品があった。
「あら……?」
 目に飛び込んできたのは、目が覚めるような深紅のバラだ。いつもは赤、白、黄……と色とりどりの花が飾られているのに、今宵は赤で統一されている。
「全部赤いバラなのね」
「ええ。今日は輝斗の誕生日ですから。彼の瞳の色にちなんで、店内に飾っている花は全て赤で統一しています」
「ふーん、いいじゃない」
 本日――三月七日は、輝斗の誕生日だ。彼は人形のように整った容姿をしているが、ホストにあるまじき愛想のなさで、いつまで経ってもナンバーワンになれなかった。けれども、その美しい緋色の瞳をカオルは気に入っていて、来店する度に指名している。
 ホストの上辺だけの言葉を信じていないが、遊びとして割り切れば楽める。これまでも様々なホストに接客をさせてきたカオルだが、どれも味気ないと感じていた。そこに現れたのが輝斗だ。
 輝斗は接客下手だが、決して嘘をつかない。思ったままを口にする正直さが、むしろ好ましかった。
「あたしも、輝斗ちゃんのお祝いに来たの。彼をテーブルに呼んでくださる?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 カオルを席に案内した後、政宗は一礼してその場を去る。
 待っている間、改めて店内を見回すと奥のテーブルから賑やかな笑い声が聞こえる。
「あそこにナンバーワンがいるのかしら」
 この店のナンバーワンは、包容力のある羽鳥だ。客の悩み相談も真摯に応えていて、どんな客にも嫌な顔ひとつ見せない。そのため指名が絶えなかった。
 彼と同じテーブルについているのは、ナンバースリーの千景だ。このふたりは、いつも一緒にいる気がする。
「お待たせしました」
 しばらくして、輝斗が席に着いた。相変わらず、無表情で何を考えているのか分からない。言い換えれば、ミスレリアスな雰囲気とも言えるので、これも彼の魅力だ。
「輝斗ちゃん、会いたかったわ!」
 カオルは両手を伸ばし、輝斗にぎゅっと抱きつく。
「どうも」
 普通のホストならば、ここで甘い言葉を紡ぐものだが、輝斗はそっけない一言だけだ。
「カオルさんは、輝斗が本当にお気に入りなんですね」
「あら、ユッキーも来てくれたの? カオル、嬉しい!」
 カオルを挟むように、幸弘も席に着いた。彼は羽鳥に次いで二番目に人気のホストだ。柔らかい雰囲気に、優しい声音で話しかけるので会話がしやすいと評判である。
「――で、注文は?」
 黒服の忍は、冷めた声で尋ねてきた。
「んもう、忍ちゃんは相変わらず冷たいわね」
「こっちも出来ることなら、お前と話したくないんだけどな」
 忍の刺々しい物言いに、カオルは唇を尖らせる。
「ひどーい。カオル、泣いちゃう」
 輝斗に抱きついたまま、泣いた振りをする。
「忍、お客様に失礼だぞ」
「けっ、どうせ嘘泣きだろ。おら、さっさと注文しろ」
 ペロリと舌を出して笑って見せたカオルは、忍を見上げて唇を動かした。
「もっと愛想良かったら、あんたもホストとしていい線いけるのに。もったいないわ」
「はっ、俺がホストだと? 冗談じゃねぇ」
 思いっきり顔をしかめ、忍は腕を組んでふんぞり返る。黒服らしからぬ尊大な態度だ。
「注文するのか、しねぇのか?」
「せっかちねぇ。輝斗ちゃんが誕生日だから、ドンペリをちょうだい。あとフルーツの盛り合わせを一つ」
「はいよ」
 返事をすると、忍はテーブルを離れた。
「ドンペリ、いいのか?」
「ええ。輝斗ちゃんのお祝いですもの。ぱぁ~っといきしょう」
「良かったね、輝斗」
 笑顔のカオルと幸弘を交互に見てから、輝斗は微笑を浮かべて頷いた。
「……ああ」
「もうっ、可愛い~! 食べちゃいたい!」
 輝斗の笑みにキュンときたカオルは頬ずりをする。
「なになに、ドンペリ入れてくれたの?」
「さすが、お金持ちのオネェは違うね」
 テーブルに威と嵐もやって来た。
「ちょっと威くんはともかく、生意気な小僧を呼んだ覚えはないわよ」
 嵐を見るなり、一瞬にして冷めた表情に変化する。
「オレも、お前のテーブルにつきたくないんだけどね。店長が行けって言うから、仕方なく来てやったんだよ。ありがたく思いな」
 カオルの射貫くような鋭い視線を、嵐は平然を受け流している。それどころか蔑んだ眼差しを注いでいた。
「いらないから、あっち行ってなさい」
 しっしと片手で追い払う仕草をするカオルに、嵐は頬を引きつらせる。
「やだなぁ、おじさんってば心狭い~」
「……あん?」
 カオルは片眉を僅かに上げた。その言葉は禁句である。見た目は絶世の美女だが、カオルは男性だ。
「黙りなさい小僧。あたしのことは“お姉様”と呼びなさいって、いつも言ってるでしょう」
「嫌だね。お・じ・さ・ん」
 絡まる視線に、火花が散っているような錯覚を覚える。心なしか周囲の温度が下がっているようだ。
「はいはい、そこまでにしようね」
 場の空気を変えようと、幸弘が手を叩いて笑いかける。
「今日は輝斗の誕生日なんだし、喧嘩は禁止。嵐、カオルさんはお客様なんだ。失礼な態度はいけないよ」
「……フンッ」
 ぷいっとそっぽを向いた嵐は、それっきり黙り込んでしまう。
「あのね、嵐も輝斗くんの誕生日をお祝いしたいんだ。一緒にいたら迷惑かな?」
 仔犬のようなつぶらな瞳が、じっと見つめてくる。そっと小声で話しかける威に、カオルは苦笑を漏らす。
「仕方ないわね。威くんに免じて特別よ?」
「えへへ、ありがと」
 無邪気な笑顔で威はお礼を言う。
「なんだよ、人数が増えてんじゃねぇか。グラス増やさねぇと」
 ドンペリとフルーツの盛り合わせを持ってきた忍は、威と嵐を見て舌打ちをした。
「はいはーい、シャンパンコールやろう!」
「いいわよ。どんどんやっちゃって!」
 手を挙げる威に、カオルは輝斗から身体を離す。
「それじゃあ、いっくよー」
 ドンペリを忍から受け取った威は、軽く咳払いをした。
「せーの! 今日も!」
「ハイ!」
「シャンパン!」
「ハイ!」
「飲めるのは!」
「ハハイ!」
 威の掛け声に応じて、テンポ良く合いの手が続く。ノリノリなのは威と嵐だが、幸弘も笑顔で乗っている。別のテーブルにいる羽鳥と千景も手拍子をしていた。
 本日の主役である輝斗は真顔で、ぼそぼそと合いの手を入れている。
 彼らから離れた所にいる忍は引き笑いを浮かべていた。
「いつでも! あなたのおかげです!」
 さっと手を伸ばし、威はカオルを見た。
「感謝の気持ちを! 込めまして! 最初は三回、真ん中二つ! 最後は一つ~!」
 店内から「ハイー!」と一際大きな声が響き渡る。
「せーの!」
「いただきまーす!」
 シャンパンコールが終わり、グラスにドンペリが注がれる。
「はあ~、威くんのシャンパンコールは、いつも楽しくていいわね」
「えへへ、ありがとう」
「それじゃあ、輝斗ちゃん。改めて、お誕生日おめでとう」
「どうも」
 乾杯、と大盛り上がりのテーブルを侑李はカウンター席で眺めていた。
「何がそんなに楽しいんですかね」
「羨ましいの間違いじゃないか?」
 むすっとしている侑李に、政宗はニヤリと笑いかける。
「まさか……」
 侑李は鼻で笑って否定する。その反応に、政宗はおどけて見せた。
「そうか? 輝斗の誕生にを祝いたいなら、混ざってもいいんだぞ」
「結構です。仕事が終わったら、後で本人に直接伝えるので」
「ふふっ、素直じゃないな」
 政宗は笑みを深めた。興味なさそうにしているのに、ちゃんと輝斗に伝えるつもりなところが真面目な侑李らしい。
 店内を見回し、政宗は目を細めた。今日もホストクラブ『イェーガー』は賑わっている。
「さて、何本ドンペリが追加されるかな」
 カオルは気前がいい。おまけに酒豪だ。この後も輝斗の誕生日記念だと追加注文が来るのは間違いない。
 ホールのケーキを持っていく忍の後ろ姿を眺めながら、政宗はますます笑みを深くした。

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※IFのネタ系小話&輝斗誕生日を絡めたものです。
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