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番外編

第三章-番外編:侑李の秘密-

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 ある晴れた日、もうすぐ開店時間のため美華メイファは暖簾を持って店の外に出てきた。
「あっ、ユーリ!」
 路地裏から侑李が出てきたのに気づき、手を振る。
「っ!? ああ……美華か」
 呼ばれた侑李は大きく肩を揺らした。美華だと気づくと、ほっと胸をなで下ろしている。
「今日は、お店に来るの早いね」
「そうかな」
 態度が妙にぎこちない。侑李は落ち着きなく、あさっての方を見ている。
「ユーリ、なんか変だよ?」
「そ、そうかな」
 怪訝そうに小首を傾げる美華に、侑李は曖昧に答える。
「じゃあ、着替えてくるね。美華、また後で」
「うん……」
 そそくさと地下へ向かった侑李の背中を見送る。
「ユーリ、何か隠してる」
 路地裏から出てきたが、その先に何かあるのだろうか。普段、彼が出勤してくる道とは逆方向のはずだ。
「美華」
 不意に、背後から名前を呼ばれ顧みる。
「ユキヒロ、アキト」
 微笑を浮かべ、幸弘が片手をあげている。その隣で輝斗が無表情で佇んでいた。ふたりは、いつも一緒に出勤してくる。
「何かあったのか?」
 訝しげに路地裏を見ていた美華を見逃さなかった輝斗が口を開いた。
「あのね、ユーリの様子が変なの」
「侑李が?」
「変って、どんな風に?」
 不思議そうに目を瞬かせているふたりに、美華は躊躇いがちに話し始める。
「さっき、あそこの路地裏から出てきたの。アタシに気づいたら、凄くびっくりした顔してた。もしかしたら見られたくなかったのかも」
「分かった。見てくる」
 言うや否や、輝斗は路地裏へ向かった。
「あっ」
 しばらくして、戻ってきた輝斗は真顔で答える。
「不審な点は何もなかった」
「そう……」
「美華、気にすることないんじゃないかな」
 幸弘がそう言うと、美華は苦笑を漏らし頷いた。
「……うん」
「オレたちはもう行くね。じゃあね」
「それじゃあ……」
 ふたりが地下へと向かったのを見送った美華は、改めて路地裏の方へ首を動かす。
「ユーリ、あそこで何してたんだろ」
「おーい、美華。ちょっと手伝ってくれないか?」
 店の中で、小鉄が呼んでいる。
「はーい!」
 急いで暖簾をあげた美華は、小走りで中へ向かった。

     × × ×

 任務へ向かった輝斗たちが天々来に戻ってきたのは、夜も更けた頃だった。報告書を提出し終えると、ひとり、またひとりと退勤していく。
「…………」
 ミーティングルームに残っていた輝斗は、政宗に報告書を渡している侑李の背中を無言で見つめていた。
「……何ですか?」
 視線に居心地の悪さを感じていた侑李は、訝しげに振り返る。
「別に」
「用がないなら見ないでくれますか?」
 輝斗を一瞥し、侑李は壁に掛かった掛け時計をチラリと見た。
「では、隊長。お疲れ様です」
「時間を気にしているようだが、用事があるのか?」
「ええ、まあ……」
 一瞬、言葉を詰まらせた。
「まさかデートじゃないよな?」
「ち、違います!」
 ニヤリと笑いながら政宗が尋ねると、侑李は顔を真っ赤にして否定した。
「小猿に限って、んなことわるわけないだろ。ねむっ……」
 片手を振り、忍は欠伸を漏らした。
「バカにしないでください! 僕だって……」
「なんだよ?」
「……何でもないです」
 ぐっと唇を固く引き結ぶと大股で歩き出した。
「とにかく、失礼します!」
 乱暴に扉を閉めて出て行ってしまう。
「あ~あ、怒らせちゃった」
 困ったように眉根を下げ、羽鳥が嘆息する。
「別に怒らせたわかったわけじゃ……」
「用事って何だろうね。今日は俳句の会じゃないしなぁ」
 顎に手を当てて考え込む千景に、忍は目を丸くした。
「ちょっと待った。俳句の会って?」
「知らなかった? 僕と侑李は俳句仲間なんだ」
 朗らかに笑う千景に、忍はソファーからずり落ちそうになる。
「なんだそれ。爺さんじゃあるまいし……」
「俳句は奥深いよ。限られた文字数の中に想いを込めるんだ」
 しみじみと呟く千景に、忍はますます複雑な表情を浮かべる。さっぱり理解出来ないと首を捻っていた。
「俳句もだけど、侑李って多趣味だよね」
 思い出した、と羽鳥が口を挟む。
「確か、映画鑑賞や写真も趣味だったはず。絵心もあったと思うよ」
「へえ、そうなんだ。知らなかったな」
「俺も初耳だ」
 感心している幸広に、輝斗も首を縦に振る。
「みんなの趣味は何?」
 羽鳥の質問に、輝斗は考える素振りを見せてから口を開いた。
「趣味と言えるのか分かりませんが、スキューバダイビングの資格を持っています」
「マジかよ!?」
「そうなんだ」
「輝斗は海が好きなの?」
「ほう、意外だな」
 忍は仰天し、羽鳥と千景、そして政宗は興味深そうに目を細めた。
「子供の頃から海が好きなんです。あと気になるのは宇宙でしょうか」
「輝斗の部屋には、室内用のプラネタリウムの装置があるもんね」
 輝斗の言葉を次いで幸弘が話す。
「いいなあ、今度遊びに行ったときに見せてよ」
「僕も見たいな」
「いいですよ」
 目を輝かせている羽鳥と千景に、輝斗は承諾する。
「幸弘の趣味は何だ?」
 政宗に促され、幸弘は苦笑を漏らす。
「オレは輝斗みたいにお洒落なものじゃないですよ」
「いいじゃないか。聞かせてくれ」
「舞台や映画鑑賞です。あとは夜景が綺麗な所に行くのが好きですね」
「夜景って……ひとりで行くわけじゃないよな?」
 忍の問いに、幸弘は曖昧な笑みを浮かべた。
「ひとり……かな。ほら、海から船で回る工場見学とかアレです」
「そっちかよ」
 想像と違っていた夜景巡りに、忍がツッコミを入れる。
「アレかぁ。俺も参加してみたいなって思ってたんだ」
「じゃあ、今度一緒に行きましょう」
「うん!」
 幸弘と羽鳥が盛りあがっている。
 そんなふたりを眺めていた千景は顎に手を当てた。
「僕の趣味も観劇なんだ。あとはパソコンいじりだね」
「あー、それっぽいっすね」
 見たまんまだと忍は頷く。
「そういう忍の趣味は?」
「俺は……別に普通っす」
 言いたくないのか、言葉を濁している。
「みんな話してるんだ。忍の趣味も知りたい」
 輝斗が言うと、忍は視線を逸らした。
「……読書だ」
「意外だな」
「うるせえよ! つか、隊長がまだ答えてねぇだろ」
「俺の趣味は、みんな知ってるだろ」
 言いながら、政宗は背後を顧みた。
「そうですね」
「確かに」
「ああ、これか」
「いつ見ても達筆ですよね」
「今回は『純情』なんですね」
 額縁に入れられた書を見上げ、輝斗達はしみじみと呟いた。
「さて、全員の報告書が集まったことだし、ここらで解散だ。みんな、お疲れ様」
 にっこり笑い、政宗は周囲を見回した。

     × × ×

 天々来も閉店時間を迎えていた。美華が暖簾を下ろし、二階の明かりを見上げて微笑む。
「ミンナ、今日も一日お疲れ様」
「あっ!」
 聞き覚えのある声が、路地裏の方からした。
「美華……」
 ばつの悪そうな表情で、侑李が姿を現す。日中も同じ所から出てきたのを思い出し、美華は暖簾を持ったまま近寄る。
「ユーリ、昼間もそこから出てきたね。何かあるの?」
「べ、別に……」
 またはぐらかした。むぅっと美華は眉を寄せる。
「ユーリ、何か隠してる」
「それは……」

 ――ニャア……。

 弱々しい猫の鳴き声が聞こえた。
「猫?」
 何処から聞こえるのだろう、と美華は辺りを見回す。

 ――ニャア……。

「……っ」
 その声は、侑李から聞こえた。よく見ると、コートが僅かに膨らんでいる。
「あ、こら……」
 もぞもぞと膨らみが蠢き、隙間から真っ白な子猫が顔を出した。
「ニャァ」
「わあ、可愛い。でも、元気なさそう」
「そうなんだ……」
 子猫の頭を優しき指先で撫でながら、侑李は頷いた。
「一週間前まで、親猫と一緒にいるのを見かけてたんだ。でも……いつの間にか、こいつだけになってて。しばらく様子を見てたんだけど、全然親猫が姿を現さなくて。たぶん、育児放棄したんだと思う」
 だから衰弱しているのだろう。寒いのか、小さな身体はプルプル震えている。
「面倒を見ようと思った矢先に、任務が重なっちゃって……。今から動物病院に連れて行くんだ」
「もうっ、隠さなくていいのに。アタシも一緒に行くから、ちょっと待ってて」
「えっ?」
 侑李の返事を待たずに、美華は急いで店へ向かった。ほどなくして、上着を羽織って戻ってきた美華は、にっこり笑う。
「お待たせ。行こう」
「本当に、いいの……?」
「うん。アタシもこの子が心配だから」
「ありがとう……」
 ふわりと表情が和らいだ。
「でも知らなかったな。ユーリ、猫好きなんだね」
「うん。実家でも、いっぱい猫飼ってたんだ」
 実家の猫の話をしながら、近くの動物病院へ向かった。

     × × ×

 夜間だったが、動物病院は受け入れてくれた。診察の結果、しばらく入院することになったが、数日後には元気に回復した。
 里親募集のポスターを天々来に貼ってから、三日後――。
「子猫の里親募集ってあるけど……?」
 常連客のサラリーマンが声を掛けてくれた。
「実は……」
 美華が事情を説明すると、サラリーマンは自分が里親になると名乗り出た。
 すぐに侑李に連絡し、美華と一緒にサラリーマンと面談する。猫好きの家庭で、去年先住のお婆ちゃん猫を看取ったそうだ。
「うちの猫も真っ白な猫でね。これも何かの縁だと思うんだけど……どうかな? 責任もって面倒を見ると約束する」
「よろしくお願いします!」
 こうして子猫は引き取られることになった。
「良かったね、ユーリ」
「うん。協力してくれてありがとう」
「なーに、ニヤニヤしてんだ?」
 煙草をくわえた忍が、訝しげに階段を降りてきた。
「っ!?」
 ギクリとした侑李が頬を引きつらせたが、既にサラリーマンと子猫の姿はない。内心安堵のため息を吐き、侑李は忍に向き直る。
「どうだっていいでしょう。御堂さんには関係ないことです」
「まあな」
 ふーっと紫煙を侑李に吹きかけた。
「けほっ。このっ……副流煙は身体に悪いんですよ! そもそも路上喫煙禁止です!」
「うっせーな小猿」
「小猿言うな!」
「ふふっ」
 口論を始めたふたりを見つめ、美華は小さく笑う。
 侑李が無類の猫好きだと知っているのは、美華だけが知っている。
 これはふたりだけの秘密だ。

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※侑李は大の猫好きです。
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