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第四章

第四章-序-※

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「はあはあ……」
 スラム街の入り組んだ細道を、ひとりの少年が息を乱しながら走っていた。
 年の頃は十四か十五くらいだろう。艶やかな黒髪と大きな黒い瞳に、浅黒い肌をした南国の特徴を持った容姿だ。
 少年は物心つく前からスラムにいるため、自分の故郷が何処なのか、誕生日がいつなのかも分からない。両親もおらず、身内と呼べる者もいない。彼は同じような生い立ちの子供たちと共に育った。当然、学校へ行ったこともなければ、スラムから出たこともない。
 外の世界に憧れたこともあったが、夢を見るだけ辛いのは自分だ。一生この掃きだめスラムから出ることもないので、今となっては考えないようにしている。
 故に、少年の世界はとても狭かった。
「はあ……っ、はっ――」
 不安と恐怖の混じった表情を滲ませ、少年は前へ前へと走り続ける。
「いたぞ、こっちだ!」
 背後で男の声がした。

 ――もう追いついてきた!

「逃がすな!」
「――っ!」
 少年は焦った。捕まりたくない一心で逃げ道を求め、次の角を曲がると――。
「見つけた!」
「あっ……!」
 ふたり目の男が先回りをしていた。腕を掴まれ、強引に壁際へ連れていかれる。
「フェイ、もう逃げられないぞ!」
「やぁっ……」
 フェイと呼ばれた少年は、怯えた目で男の顔を見上げた。腕を掴む男は残忍な笑みを浮かべている。
「抵抗すんじゃねぇ!」
「うあっ」
 拳を振り上げ、男がフェイの顔を殴った。
「金を払ったら好きなことをしていいって言ったのは、お前だろ! 逃げんじゃねぇよ!」
「うう……」
 口端が切れ、一筋の血が流れる。視界に星が瞬き、痛みで顔を歪めるフェイを男は何度も殴った。
「このっ……このぉっ!」
「……っ」
 遅れてきた男も暴力に加わる。
「捕まえたか……。このガキ、よくも逃げたな!」
「ぐっ……」
 殴る蹴るだけでなく抵抗できないフェイの服を、男たちは強引に剥いだ。
「やだ、ここじゃない所でして!」
「うるせぇ!」
「何処でやろうと、俺たちの勝手だろ!」
 男たちはフェイの痩せ細った身体を好き勝手にむさぼり始める。
 地獄の幕開けだ――。
「やっ……やだぁっ、いやああっ!」
 禄に慣らしもせずに楔を打ち込まれ、フェイは絶叫を開ける。咥え込んでいる箇所から赤い血が溢れ、皮肉なことに滑りをよくした。
「あぐ……あ、うっ、ぐ……」
 引き攣れるような強烈な痛みと、揺さぶられ、吐き気を催す下からの突き上げの不快感で、快楽とはほど遠い。肉で覆われた温かな穴の中に性欲を吐き出したいだけの獰猛な行為だ。
 しかもフェイは成熟しきっていない子供で、毎日の食事にも事欠く貧相な体つきである。そんな肉体にねじ込まれる暴力的な肉棒に嬲られれば、あっけなく壊れてしまいそうだ。
「はっ、嫌だと言いながら、さすが身体を売ってるだけはあるぜ。こいつ……すげぇ締め付けだ」
 乱暴に揺さぶられながら、フェイは早く終われ、と心の中で祈った。
 まだ本格的な冬ではないが、夜になれば肌寒い。冷たいコンクリートの上に寝かされ、股関節が悲鳴を上げるほど大きく開かされる。
「ああああっ!」
 ズチュと汚い水音が響いた。同時に雷に撃たれたような強い衝撃に視界が瞬く。
「ははっ、そうだ。もっとだ!」
 グチャグチャと肉棒の掻き回す音が耳障りだ。
「おっ、ぁ、ぐあっ……あっ」

 ――痛い、痛い、痛い!

「は、あっ、ぐ……ふっ、あああっ」

 ――気持ち悪い、嫌だ!

 犯す前から昂ぶっていたのか抜き差しが速い。呼吸を合わせる気もない一歩的に楽しむだけの傲慢な腰の動きだ。フェイからしたら拷問のような時間である。
「痛い……抜いてぇ……」
 快楽ではなく激痛からの涙を流し、身体の中だけでなく顔もくしゃくしゃにして必死に懇願する。
「さっきから、そればっかだな。もっと可愛げのある声を出せよ!」
「あぐっ、おっ、あっ――ああああああああっ」
 ズシンと熱い肉棒が、フェイの最奥を貫いた。
 何度か繰り返され、あばら骨が皮膚の上からでもくっきりと浮かび上がる。そのまま破けてしまうのでがないかと思うほど、フェイは激しくのけぞった。
「逃げんな!」
「いやあああっ」
 無茶苦茶に抱かれ続けたせいで、もう痛み以外の感覚がない。ぐちゃぐちゃと汚い音の中に、男の下品なうめき声。そして、フェイの泣き叫ぶ声が路地裏に響き渡る。
「うっ……!」
 しばらくして、男がフェイの中で果てた。その量は多く、お腹の中が苦しい。
「おい、早く終われよ」
「分かってるって」
「……ぅ」
 終わった……と息をつこうとしたが――。

 ――グチュッ。

 熱くて硬いものが、ぐいぐいと押し込まれる。亀頭を飲み込むと、ズルズルと中程まで挿入された。
「ひっ……いやあっ」
 もうひとりの男がフェイを犯し始めた。最初の男同様に、彼も労る気持ちなど微塵もない。痛めつけるように腰を乱暴に振り始める。
「あっ、ああっ」
「おい、どんだけ出したんだ? ぐちゃぐちゃじゃねぇか」
 卑下た笑いを浮かべ、男は振り返らずに声を掛ける。抜き差しを繰り返す度に、結合部の隙間から世と白濁が混じった薄紅色の液体がジュブジュブと泡を吹く。
「へへっ、最近溜まってたからな」
 体格のいい男たちだ。小柄のフェイは休みなしで相手しているためキツかった。怒張したそれが奥を突き上げるたびに、中でビクビクと痙攣する。
「もう許して……くださ……。ごめ、んなさっ……あっ、うぅ……」
 これ以上、突き上げられたら今度こそ身体がバラバラになりそうだ。
「やめるかよ……。まだ満足してねぇんだからなっと……!」
「ぐ、あ、ぅ……ああっ、あうっ……」
 こうやって滅茶苦茶にされるのは今に始まったことではないが、その度に今日が自分の命日だと思う。悪夢のような時間をやり過ごせても安堵するのは一瞬のことだ。すぐに、やり場のない悲しみと虚無が押し寄せる。
 身体を売る仕事をすることで、フェイは生計を立てていた。そうすることでしか生きる方法がなかったからだ。
 彼を拾った男は、スラムにある娼館を束ねる組織の一つだ。高級娼婦から最下層の娼婦まで手広く管理しているが、フェイはその中でも最下層の男娼だ。店で商売するのではなく、道端で日銭を稼いでいた。
 世の中には女性ではなく男を好む客もおり、少年を抱く好き者もいる。今日の客たちはフェイのような少年を好むようだが、かなり悪質だ。最下層の男娼だからと、一人分の代金で抱かせろと言ってきたのだ。
 それは困るからふたり分の代金を求めると、男たちは激怒した。あまりの剣幕にフェイが怖くなって逃げ出した結果、今に至る。
(お金……貰えないかもしれない)
 フェイは虚空を眺めながら、ぼんやりと思った。
 散々いたぶった後、お金を払わない客もいる。フェイは学校に行っていないため、あまり計算が得意ではない。そのため、騙されることも多々あった。
「よそ見してんじゃねぇよ。おら、俺様のをしゃぶりな!」
「むぐっ……。んんっ、んーっ」
 強引に口の中に肉棒をねじ込まれた。
「下もちゃんと奉仕しろよ!」
「んんーっ!」
「おっ、いいじゃん。その調子で気持ち良く締め付けてくれよな!」
 上も下も犯されている。

 ――熱い、痛い、臭い、辛い……。
 ――早く、この悪夢が終わればいい。

 喉奥に臭いものを、執拗に突き立ててくる。酷い臭いで吐き出したいのに、気持ち良くしないと頬をぶたれた。そして、髪を掴まれて罵られる。フェイは歯を立てないように気をつけながら我武者羅に舌を動かしたり、唇をすぼめたりするしかない。
 けれども口で奉仕することに集中することも許されず、下の奉仕も同時にしなければならなかった。犬のように四つん這いにされ、懸命に腰を振る。腹筋に力を入れようにも、呼吸が合わなくて痛めつけられるだけで………。
 そうしている内に結合部に泡が立ち、グプッと白濁と混ざった血液の色が薄まっていたものが滴り落ちる。卑猥な液体の量も増し、乱暴に突き上げられ続け、お腹の中も苦しかった。
「ふっ……」
 やがてふたり目もフェイの中で果てた。けれども、フェイは一度も達していない。萎えているそれを見て、男たちは苛立った。
「オラ、よがれよ!」
「んっ――ひっ、いやあああっ」
 フェイの顔面に、彼らの白濁をかけられたりもした。
 抵抗を示せば、また殴られた。
 従順な態度を見せたら、更につけあがった。
 何度も、何度も犯され、内も外もドロドロに汚れきっている。
「はあ……こんなもんか」
「満足そうな面の癖に、なに偉そうなこと言ってんだ」
 ようやく解放された時には、もう指先ひとつ動かせなかった。
「…………」
「死んでないよな?」
「まだな。つっても、こんなガキが野垂れ死んでいようが、どうだっていいだろ」
「……お金を……くだ、さ……」
 か細い声でフェイは紡いだ。満足して貰えたのならば、お金を払ってほしい。それがなければ、ボスに納めることが出来ない。
「はっ、ガキに払う金なんかねえよ」
「じゃあな~」
「待って……」
 引き留めようと手を伸ばそうとするが、人差し指を上げるのが精一杯だ。その間も無視され、男たちの姿が遠のいていく。
「う……ぅっ」

 ――また……お金を払って貰えなかった。

 フェイは顔を歪め、目にいっぱいの涙を溜める。
「う、ぁ……」
 声を殺して泣いていると……。
「ぎゃあっ」
「ひぎゃあっ」
 ぼやけた視界の中で男たちの首が飛んだ。切断面から赤い血しぶきが勢いよく噴き出し、飛んだ首がボールのようにコロコロと地面に転がる。
「え……?」

 ――何が起きたのだろう?

 目を凝らすと、黒い大きな影が佇んでいる。足元には、フェイを嬲った男たちの首から下の肉体が力なく横たわっていた。
「あなたは……誰?」
 ふたつの頭を大きな足が踏み潰した。黒い影は自身の足が汚れるのも気にせず、また潰したそれを気にも留めず、フェイの元へゆっくりと近づいてくる。
 刹那、青白い満月が雲の隙間から顔を覗かせた。柔らかい銀色の光が、建物の隙間を縫って差し込む。
「あ……」
 月明かりに照らされ、おぼろげながら姿を映し出す。
 それは奇妙な姿をしていた――。
 全身を銀色の毛に覆われ、鋭い爪には殺した男たちの血がべったりとこびりついている。大きな口から覗く牙もまた鋭く、フェイの細い骨など簡単に噛み砕いてしまうだろう。長い耳と尻尾に突き出した鼻……直立しているが、人間とはかけ離れた異形だ。
 そう、まるで――。
「……狼みたい」
 フェイの呟きに、その生き物は灰色の瞳を細めた。
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