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第五章
第五章-02-
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物言わぬ骸と化した仲間を見下ろしていた輝斗は、彼と行動を共にしていたはずの者がいるはずだと周囲を見回した。
「彼のバディは……っ!?」
すぐ近くにいたが……。
――ポタ……ポタポタ……。
「あ……」
頭を大きな手で掴まれ宙にぶら下がった状態に、輝斗は大きく目を開けた。雨に混じって赤い血が、つま先から滴り落ちている。
「あれは……何だ?」
灰色の羽毛で覆われた身体に、背には大きな翼が生えている。巨大な鳥かと思ったが、奇妙なことに頭は鳥でも人間のような腕を持ち合わせていた。足は鳥と同じ構造をしており、鋭い爪が地面に食い込んでいる。
「ふむ……。こいつらよりも霊力の高い人間の気配がする」
しゃがれた声で人語を話すそれは、どう見ても下級悪魔ではない。
「貴様らの身体……どちらかオレに寄越せ」
言うや否や、悪魔は大声で鳴いた。
「うわっ」
輝斗と聖は咄嗟に耳を塞いだ。超音波を発しているのか耳が痛い。
悪魔は掴んでいた死体を投げ捨てると、輝斗に向かってきた。
「くっ……」
咄嗟に火の玉を生み出し、悪魔に向かって放つ。
「ギャッ」
小さな悲鳴をあげ、悪魔は怯んだ。その隙に銃弾を浴びせて距離を取る。
「あの悪魔は何だ?」
「少なくとも試験用じゃなさそうだな」
聖も引き金を引いて攻撃すると、輝斗の元へ駆け寄る。
「うう、痛い……。貴様らは、いつも銀の弾をぶつけてくる。忌々しい……」
痛みで泣いているのだろうか。悪魔はしきりに目をパチパチさせている。
「シャックス様を虐める奴は嫌いだ。つべこべ言わずに身体を寄越せ。乗っ取って人間に化ける」
「どこかで聞いた名前だな」
「ソロモン七十二柱のひとり、序列十六番目の大悪魔と同じ名だ」
聖の呟きに、シャックスは感心したように目を細めた。
「貴様、オレのこと知ってるんだな。ふふん。オレ様、有名人」
うんうんと頷いているので、本人で間違いないだろう。
輝斗は授業で習った悪魔の情報を思い出す。
「シャックス……野鳩の姿で出現し、しゃがれ声で話す悪魔か。確か、大天使ラファエルの下で連絡業務に従事していた元天使だ」
堕天した結果、今のような異形になってしまったのだろう。シャックスの能力は、視聴覚や理解力を奪うことで国庫から金品を盗み出すのを得意とする。
この悪魔は呼び出した術者でさえ欺き、虚言を為す。その卑しい性格故に、悪魔内でも信用はされていない。悪霊三十個軍団を率いるが、ソロモン七十二柱の中でも、その地位はそれほど高くなかった。
「奴は、人間に化けられないのか?」
「あの姿を見るに、顕現したばかりなんだろうよ。意地でも俺たちの身体を乗っ取りたいらしい」
人間界で、悪魔は本来の力を満足に発揮出来ない。精霊と同じ精神体である天使や悪魔は、人間界に存在し続けるために人間や動物に憑依しなければならなかった。
悪魔を召喚、または呼びかけに応じて契約を交わした者は代価として自身の肉体を差し出すか、己の魂を捧げる。
肉体の場合は、差し出した人間の意識が残る場合と完全に乗っ取られる二種類だ。
魂の場合は一定期間、悪魔の姿のまま人間界に留まることができるが、その時間は食らった数に比例するため、継続して接種し続けなければならない。
もちろん、すべての人間が適応するわけではないが、TJ候補生は条件としては持ってこいの宿主だ。
では、死んだ候補生たちは宿主に選ばれなかったのか――。
極度の飢餓状態だったため、憑依の前に食事を選んだ結果だろう。
「それにしても……何故、こいつが演習場に現れたんだ? この島に放たれたのは、下級悪魔だけのはず……」
「聖、あれを見ろ」
投げ捨てられた死体の傍に、他の死体も転がっていた。雨で濡れて泥だらけになっているが、その紋様はシャックスを表すもので、悪魔召喚の魔方陣で間違いない。
輝斗と聖はそれを見て、何が行われたのか瞬時に察した。
「あいつら……下級悪魔だけじゃ物足りないからって、シャックスを召喚したのか」
「自業自得とはいえ、何てことをしてくれたんだ」
ふたりは顔を渋面にする。大悪魔を倒せば、成績上位を狙えると思ったのだろうか。それとも遊び半分で召喚したのか……。全員死体となった今では、真相は闇の中だ。
「身体を寄越せ!」
再びシャックスが大声を発した。
衝撃波が襲いかかるが、身につけていたアミュレットで防壁を築く。
だが、その隙にシャックスが輝斗に覆い被さってきた。
「うわっ!?」
「輝斗!」
仰向けに倒れた輝斗の顔を、まじまじと覗き込んだシャックスは、ケタケタと笑いだす。
「お前、目の色が赤い宝石みたいでキラキラしてて綺麗だ。それほしい。オレに寄越せ!」
くちばしの先端で、輝斗の目を抉ろうとしてくる。
「なんて馬鹿力だ……」
懸命に引き剥がそうとするも、しっかりと足で押さえ込まれて動けない。
「輝斗から離れろ!」
「ギャアッ」
聖の放った弾が、シャックスの横腹に命中した。
「邪魔するな!」
「なっ!?」
聖に向かって超音波を発すると、間髪入れずに衝撃波も放ってくる。
「ぐうっ……」
「聖!」
吹き飛ばされた聖は、地面に背中を強く打った。
「貴様の身体がほしい」
「あああああっ」
肩に食い込んだ爪が、皮膚を突き破る。焼けるような痛みに、輝斗は顔を歪めた。
――ズブリ……。
「うあっ!?」
身体の中に、何かどす黒いものが染み込んでくるような不快感がした。
輝斗の精神を乗っ取ろうと、シャックスの意識が侵食してきている。
召喚されたばかりのシャックスは、かなりの空腹状態だ。このままでは人間界に留まっていられないので、早急に多くの魂を食らうか人間と契約を交わさなければならない。かなり焦っているのか、強引に輝斗の肉体を乗っ取ろうとしていた。
「ぐああああああああっ」
身体の内側から、じわじわと精神が蝕まれていく。
「この……化け物め!」
聖の鋭い声が響いた。
「ギャアッ!」
水の槍がシャックスの身体を貫いた。続けざまに二本目と三本目が打ち込まれ、さすがに耐えられなかったのか輝斗から離れ、その場に転げ回る。
「大丈夫か?」
「身体が……痺れて、動けない……」
駆け寄ってきた聖に抱き起こされるも、輝斗は自由が利かなかった。辛うじて言葉を紡ぐが、上手く舌が回らない。
「精神干渉のダメージが響いてるんだ。すぐに浄化しないと後遺症が残る。本部に戻ろう」
「でも……」
シャックスを野放しには出来ない。
「分かってる。奴にとどめを刺す!」
聖は左手で輝斗を支え、右手をシャックスにかざした。
――ザアアアアッ。
頭上に、水の奔流が渦を巻いている。
「ま、待ってくれ。もう貴様らを狙わない。地獄に戻るから、命だけは奪わないでくれ。この通りだ!」
急に弱腰になったシャックスは、地面に手をついて頭を下げた。
「……去れ」
聖は、かざしていた手を握りしめる。動きに応じて水の奔流も四散した。
「いいのか……?」
「ああ。さっさと消えろ」
「ありがとう……」
ぺこぺこと何度もお辞儀をしながら、シャックスは聖の横を通り過ぎようとした――。
「な~んてな!」
シャックスは翼を広げ、いまだに動けない輝斗目がけて飛びかかってきた。
「危ない!」
咄嗟に聖は輝斗を突き飛ばした。
「っ!?」
水たまりの上に倒れた輝斗は、頭から泥を被ってしまう。
「ぐああああああああっ!」
聖の絶叫がこだまする。
輝斗が顔を上げると、聖に覆い被さっているシャックスが視界に飛び込んできた。
「聖!」
「この際、貴様でもいい!」
みるみるうちにシャックスの身体が溶け出し、ドロドロになった黒い液体が聖の身体の中に入り込む。
「ぐっ……ふ、うっ……がはっ」
聖は自信の胸に手を当て、悶え苦しんでいる。
――助けないと!
輝斗は指に力を込め、上体を起こそうとする。
「ひ……じり……」
――動け、動け、動け!
「くる……な」
苦しいはずなのに、聖は笑いかけている。
「大丈夫だ……から……」
「……っ」
自分を庇ったせいで、聖が悪魔に憑依されてしまった。完全に精神を乗っ取られる前に引き剥がさないと手遅れになってしまう。
「ぐ、あっ、ああああっ。うああああっ!」
目の前で苦悶の表情を浮かべ、必死に抗っている。
「動け……動いてくれ……頼む……!」
「輝……斗……」
こんな弱々しい声で名前を呼ばれたことがなかった。
聖が苦しんでいる。
早く助けないと――。
(俺のせいだ……。俺を庇ったから、聖は……!)
なんとか上体を起こしたその時――。
――パァンッ。
強烈な破裂音が響き、聖の額の真ん中を一発の銃弾が貫いた。
「あ……」
スローモーションのように、ゆっくりと見えた。仰向けに倒れようとしている聖に手を伸ばすも……。
――ズドドドドドドドドドドドッ!
そこに追い打ちをかけるように、集中砲火が襲いかかる。
「わあっ」
爆風に輝斗も吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がり全身泥だらけになりながら、輝斗は首だけを動かす。
「聖……っ!?」
ようやく静かになった頃には景色が一変していた。
硝煙の臭いが鼻をつき、黒く立ち上る煙が視界を覆っている。先ほどの一斉攻撃で地滑りを起こしたのか、聖が立っていた場所そのものが、ごっそりと消えていた。
教官は悪魔に憑依された聖もろとも始末するため、幸弘に狙撃させた後、ありったけの火力を叩き込んだのだ――。
「彼のバディは……っ!?」
すぐ近くにいたが……。
――ポタ……ポタポタ……。
「あ……」
頭を大きな手で掴まれ宙にぶら下がった状態に、輝斗は大きく目を開けた。雨に混じって赤い血が、つま先から滴り落ちている。
「あれは……何だ?」
灰色の羽毛で覆われた身体に、背には大きな翼が生えている。巨大な鳥かと思ったが、奇妙なことに頭は鳥でも人間のような腕を持ち合わせていた。足は鳥と同じ構造をしており、鋭い爪が地面に食い込んでいる。
「ふむ……。こいつらよりも霊力の高い人間の気配がする」
しゃがれた声で人語を話すそれは、どう見ても下級悪魔ではない。
「貴様らの身体……どちらかオレに寄越せ」
言うや否や、悪魔は大声で鳴いた。
「うわっ」
輝斗と聖は咄嗟に耳を塞いだ。超音波を発しているのか耳が痛い。
悪魔は掴んでいた死体を投げ捨てると、輝斗に向かってきた。
「くっ……」
咄嗟に火の玉を生み出し、悪魔に向かって放つ。
「ギャッ」
小さな悲鳴をあげ、悪魔は怯んだ。その隙に銃弾を浴びせて距離を取る。
「あの悪魔は何だ?」
「少なくとも試験用じゃなさそうだな」
聖も引き金を引いて攻撃すると、輝斗の元へ駆け寄る。
「うう、痛い……。貴様らは、いつも銀の弾をぶつけてくる。忌々しい……」
痛みで泣いているのだろうか。悪魔はしきりに目をパチパチさせている。
「シャックス様を虐める奴は嫌いだ。つべこべ言わずに身体を寄越せ。乗っ取って人間に化ける」
「どこかで聞いた名前だな」
「ソロモン七十二柱のひとり、序列十六番目の大悪魔と同じ名だ」
聖の呟きに、シャックスは感心したように目を細めた。
「貴様、オレのこと知ってるんだな。ふふん。オレ様、有名人」
うんうんと頷いているので、本人で間違いないだろう。
輝斗は授業で習った悪魔の情報を思い出す。
「シャックス……野鳩の姿で出現し、しゃがれ声で話す悪魔か。確か、大天使ラファエルの下で連絡業務に従事していた元天使だ」
堕天した結果、今のような異形になってしまったのだろう。シャックスの能力は、視聴覚や理解力を奪うことで国庫から金品を盗み出すのを得意とする。
この悪魔は呼び出した術者でさえ欺き、虚言を為す。その卑しい性格故に、悪魔内でも信用はされていない。悪霊三十個軍団を率いるが、ソロモン七十二柱の中でも、その地位はそれほど高くなかった。
「奴は、人間に化けられないのか?」
「あの姿を見るに、顕現したばかりなんだろうよ。意地でも俺たちの身体を乗っ取りたいらしい」
人間界で、悪魔は本来の力を満足に発揮出来ない。精霊と同じ精神体である天使や悪魔は、人間界に存在し続けるために人間や動物に憑依しなければならなかった。
悪魔を召喚、または呼びかけに応じて契約を交わした者は代価として自身の肉体を差し出すか、己の魂を捧げる。
肉体の場合は、差し出した人間の意識が残る場合と完全に乗っ取られる二種類だ。
魂の場合は一定期間、悪魔の姿のまま人間界に留まることができるが、その時間は食らった数に比例するため、継続して接種し続けなければならない。
もちろん、すべての人間が適応するわけではないが、TJ候補生は条件としては持ってこいの宿主だ。
では、死んだ候補生たちは宿主に選ばれなかったのか――。
極度の飢餓状態だったため、憑依の前に食事を選んだ結果だろう。
「それにしても……何故、こいつが演習場に現れたんだ? この島に放たれたのは、下級悪魔だけのはず……」
「聖、あれを見ろ」
投げ捨てられた死体の傍に、他の死体も転がっていた。雨で濡れて泥だらけになっているが、その紋様はシャックスを表すもので、悪魔召喚の魔方陣で間違いない。
輝斗と聖はそれを見て、何が行われたのか瞬時に察した。
「あいつら……下級悪魔だけじゃ物足りないからって、シャックスを召喚したのか」
「自業自得とはいえ、何てことをしてくれたんだ」
ふたりは顔を渋面にする。大悪魔を倒せば、成績上位を狙えると思ったのだろうか。それとも遊び半分で召喚したのか……。全員死体となった今では、真相は闇の中だ。
「身体を寄越せ!」
再びシャックスが大声を発した。
衝撃波が襲いかかるが、身につけていたアミュレットで防壁を築く。
だが、その隙にシャックスが輝斗に覆い被さってきた。
「うわっ!?」
「輝斗!」
仰向けに倒れた輝斗の顔を、まじまじと覗き込んだシャックスは、ケタケタと笑いだす。
「お前、目の色が赤い宝石みたいでキラキラしてて綺麗だ。それほしい。オレに寄越せ!」
くちばしの先端で、輝斗の目を抉ろうとしてくる。
「なんて馬鹿力だ……」
懸命に引き剥がそうとするも、しっかりと足で押さえ込まれて動けない。
「輝斗から離れろ!」
「ギャアッ」
聖の放った弾が、シャックスの横腹に命中した。
「邪魔するな!」
「なっ!?」
聖に向かって超音波を発すると、間髪入れずに衝撃波も放ってくる。
「ぐうっ……」
「聖!」
吹き飛ばされた聖は、地面に背中を強く打った。
「貴様の身体がほしい」
「あああああっ」
肩に食い込んだ爪が、皮膚を突き破る。焼けるような痛みに、輝斗は顔を歪めた。
――ズブリ……。
「うあっ!?」
身体の中に、何かどす黒いものが染み込んでくるような不快感がした。
輝斗の精神を乗っ取ろうと、シャックスの意識が侵食してきている。
召喚されたばかりのシャックスは、かなりの空腹状態だ。このままでは人間界に留まっていられないので、早急に多くの魂を食らうか人間と契約を交わさなければならない。かなり焦っているのか、強引に輝斗の肉体を乗っ取ろうとしていた。
「ぐああああああああっ」
身体の内側から、じわじわと精神が蝕まれていく。
「この……化け物め!」
聖の鋭い声が響いた。
「ギャアッ!」
水の槍がシャックスの身体を貫いた。続けざまに二本目と三本目が打ち込まれ、さすがに耐えられなかったのか輝斗から離れ、その場に転げ回る。
「大丈夫か?」
「身体が……痺れて、動けない……」
駆け寄ってきた聖に抱き起こされるも、輝斗は自由が利かなかった。辛うじて言葉を紡ぐが、上手く舌が回らない。
「精神干渉のダメージが響いてるんだ。すぐに浄化しないと後遺症が残る。本部に戻ろう」
「でも……」
シャックスを野放しには出来ない。
「分かってる。奴にとどめを刺す!」
聖は左手で輝斗を支え、右手をシャックスにかざした。
――ザアアアアッ。
頭上に、水の奔流が渦を巻いている。
「ま、待ってくれ。もう貴様らを狙わない。地獄に戻るから、命だけは奪わないでくれ。この通りだ!」
急に弱腰になったシャックスは、地面に手をついて頭を下げた。
「……去れ」
聖は、かざしていた手を握りしめる。動きに応じて水の奔流も四散した。
「いいのか……?」
「ああ。さっさと消えろ」
「ありがとう……」
ぺこぺこと何度もお辞儀をしながら、シャックスは聖の横を通り過ぎようとした――。
「な~んてな!」
シャックスは翼を広げ、いまだに動けない輝斗目がけて飛びかかってきた。
「危ない!」
咄嗟に聖は輝斗を突き飛ばした。
「っ!?」
水たまりの上に倒れた輝斗は、頭から泥を被ってしまう。
「ぐああああああああっ!」
聖の絶叫がこだまする。
輝斗が顔を上げると、聖に覆い被さっているシャックスが視界に飛び込んできた。
「聖!」
「この際、貴様でもいい!」
みるみるうちにシャックスの身体が溶け出し、ドロドロになった黒い液体が聖の身体の中に入り込む。
「ぐっ……ふ、うっ……がはっ」
聖は自信の胸に手を当て、悶え苦しんでいる。
――助けないと!
輝斗は指に力を込め、上体を起こそうとする。
「ひ……じり……」
――動け、動け、動け!
「くる……な」
苦しいはずなのに、聖は笑いかけている。
「大丈夫だ……から……」
「……っ」
自分を庇ったせいで、聖が悪魔に憑依されてしまった。完全に精神を乗っ取られる前に引き剥がさないと手遅れになってしまう。
「ぐ、あっ、ああああっ。うああああっ!」
目の前で苦悶の表情を浮かべ、必死に抗っている。
「動け……動いてくれ……頼む……!」
「輝……斗……」
こんな弱々しい声で名前を呼ばれたことがなかった。
聖が苦しんでいる。
早く助けないと――。
(俺のせいだ……。俺を庇ったから、聖は……!)
なんとか上体を起こしたその時――。
――パァンッ。
強烈な破裂音が響き、聖の額の真ん中を一発の銃弾が貫いた。
「あ……」
スローモーションのように、ゆっくりと見えた。仰向けに倒れようとしている聖に手を伸ばすも……。
――ズドドドドドドドドドドドッ!
そこに追い打ちをかけるように、集中砲火が襲いかかる。
「わあっ」
爆風に輝斗も吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がり全身泥だらけになりながら、輝斗は首だけを動かす。
「聖……っ!?」
ようやく静かになった頃には景色が一変していた。
硝煙の臭いが鼻をつき、黒く立ち上る煙が視界を覆っている。先ほどの一斉攻撃で地滑りを起こしたのか、聖が立っていた場所そのものが、ごっそりと消えていた。
教官は悪魔に憑依された聖もろとも始末するため、幸弘に狙撃させた後、ありったけの火力を叩き込んだのだ――。
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