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第五章

第五章-01-

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 対悪魔殲滅部隊トイフェルイェーガーになるためには、TJ機関学校を卒業しなければならない。
 入学資格は、義務教育を終了していること。特殊能力に目覚めている者。または、その素質がある者とされる。
 在籍期間は三年間で、様々な悪魔払いエクソシストの訓練を受ける。入学資格は満十五歳以上だ。能力に目覚める時期にも個人差がある。TJ機関学校の偏差値は非常に高く、難関中の難関だ。故に、全員が十八歳で部隊に配属されるわけではない。実際、生徒の年齢もバラバラだ。
 最初の二年間は訓練生として悪魔払いエクソシストになるための基礎を学び、それぞれ適正に沿った実戦訓練をこなす。残り一年の前半である六ヶ月間は、候補生として富士宮ふじのみや演習場で実戦さながらの訓練に参加する。後半の六ヶ月間は、配属される部隊に入隊し、実戦訓練に参加する。全ての訓練を終え、学校を卒業して、ようやく正式に部隊配属されるのだ。
 八年前――輝斗と幸弘はTJ候補生として、富士宮演習場の演習に参加した。
「四大陸の中心にある島の一つ、富士宮演習場か……。さすが四つの国が共同で運営しているだけあるな。島全体を覆う結界も強固だ。軍事施設も充実してる」
 聖は双眼鏡で何処までも広がる森を眺めていた。
 巨大な鉄塔が島を囲むように並び、薄い光の膜のようなものが島全体を覆っている。
 聖たちがいるキャンプ地の他にコンクリートの建物もあった。ここには四大陸の軍隊と各国のTJ部隊が常駐している。不可侵領域で、ここでは四大陸での争いは禁止されていた。空港と港も存在するが、特に結界が厳重に施されている。
 TJ機関学校に入学して二年半だ。特殊能力の他、個々に適した属性を自在にコントロール出来るまで随分と時間がかかった。輝斗は発火能力パイロキネシスという珍しい火を操る能力者だったので、他の候補生より力加減を掴むのに苦戦した。
 バディである聖が根気よく付き合ってくれたおかげで、ある程度能力を調整出来るようになっている。もし彼がいなかったら、輝斗も最終試験に残れなかっただろう。
(入学してから、今までで同期の人数も減った。こうして聖と一緒に残れただけ俺は運がいい)
 特殊能力者だから全員TJ部隊に入隊するわけではない。途中で挫折した者も数多く存在する。脱落者の中には軍隊や警察になる者もいた。実家が神官職ならば家を継ぎ、またはそれに準ずる役職に就く。四神を守護する聖地の警備隊になる者もいた。
 そもそも特殊能力を宿す者の方が少ない。ほとんどの人は無能力者だ。特別な力を持つ故に様々な現場で重宝されるが、同じくらい畏怖の対象でもあった。公的な職に就くことは、能力者自身を守ることにも繋がる。
 まして最終試験に残った候補生たちは、ここまで来て脱落するわけにはいかない。是が非でも合格してみせる、とみんな真剣だ。
「この最終試験をクリアすれば、その後は入隊したようなもんだ。ここが正念場だな」
「ああ」
 聖の隣にやって来た輝斗は、相づちを打つと空を見上げた。
 灰色の雲が覆っている。風も冷たく湿っていて、輝斗は秀麗な眉を寄せる。
「雲行きが怪しい。雨が降りそうだ」
 気温や湿度によって銃の威力も変わる。いつも以上に念入りに装備をチェックした方がいいだろう。
「輝斗、聖!」
 キャンプから出てきた幸弘が輝斗たちの元へ駆け寄る。その手には、愛用の狙撃銃があった。
「最終試験では、別のチームになっちゃったね」
「まあ、俺と幸弘が同じチームだと戦力が偏るからな」
 そう言って、聖は双眼鏡から顔を離した。
「少量の水と食料。そして最低限の装備で過酷なサバイバルだ。気合入れてけよ?」
「もちろん。聖もヘマしないでね」
「ははっ、言ってろ」
 聖は笑いながらトン、と拳で幸弘の胸を軽く突く。
 首席の聖と次席の幸弘は余裕があるようで羨ましい。緊張している輝斗とは大違いだ。
「輝斗、怪我には気をつけて」
「分かってる。幸弘もな」
 同じチームになれなかったのは残念だが、幸弘ならば上位の成績で合格するだろう。それだけの実力がある。
「この半年間の演習結果によって配属先が決まる。他の連中も本気だ」
 輝斗は背後を顧みる。キャンプ地で待機している生徒たちは、緊張した面持ちで自身の装備を準備していた。
「聖、幸弘。誰ひとり欠けることなく卒業しよう」
「ああ。絶対合格するぞ」
「みんなで卒業しよう」
 顔を見合わせ、三人は力強く頷く。
「全員集合!」
 教官の呼び声に応じ、生徒達が整列しようと集まりだす。輝斗たちも列に加わろうと駆け足で向かった。
「最終試験は、演習場内に放たれた下級悪魔をより多く倒した者が成績上位者になる。戦闘時は必ずふたりひと組で行動すること。五組でひとつのチームとし、合計十名の小隊で構成する。各小隊は、それぞれ与えられたエリア内で展開し、制限時間内に悪魔の全滅を目指すように」
「了解!」
 生徒たちは教官に大声で返事をする。
「これより、最終試験を開始する!」
 いよいよ最終試験の幕開けだ――。

     × × ×

「はっ!」
 輝斗が放った炎の飛礫つぶてが、ノミノンの群れに直撃する。高温で焼かれ、蒸発したノミノンたちから発せられた水蒸気で周囲が白い煙に包まれた。
「ノミノン相手なら、お前の炎で一掃できるから楽だな」
「ああ」
 濡れた前髪を指で払いながら輝斗は答える。
「っ! 輝斗、三時の方向からゴブリンが向かってくる」
 聖が能力を使って、次に襲いかかってくる悪魔を察知した。
「ここは足場が悪い。場所を変えよう」
「分かった」
 足早に移動を始めた聖の後を追って、森の奥深くへ進む。
「雨が降ってきた……」
 ぽつぽつと雫が落ちてきたと思ったら、あっという間に大雨へと変化した。マントに付いているフードを被り、輝斗たちは森の中を疾走する。
「ひとつ、ふたつ……」
 聖が数えながら木の幹に触れている。手を離すと淡い光を発し、紋様が浮かび上がった。一瞬でそれは消え、また別の木に移動すると同じように術をかけている。自分たちの周りに生えている木々に細工を施した後、聖は輝斗と背中合わせになった。
「来るぞ」
「了解」

 ――ボコォッ!

「ギャギャッ!」
 刹那、ふたりを挟み撃ちにするように、大地から大量の小鬼が出現した。地霊のゴブリンだ。
「こいつらは石頭だからな。弾丸を無駄に消費したくない。頭以外を狙え!」
 高々と叫び、聖は大地を踏みしめた。

 ――カアアアアアアアアッ!

 すると周囲の木々が淡く輝き出し、ふたりを中心に蜘蛛の巣のような網が張り巡らされる。
「ギャッ!?」
 光の糸に絡め取られたゴブリンたちが逃げようともがいているが、力を込めてもちぎれることはなかった。
「いまだ、撃て!」
「ふっ!」
 聖の合図に従って、輝斗は銃の引き金を引く。
「ギャッ」
「ギャアアッ」
 ゴブリンの胸や腹に狙いを定め、銀の弾丸を撃ち込んだ。命中した者から悲鳴を上げ、みるみる消滅していく。
 最後の一匹の消滅を確認し、聖は一息ついた。
「ふう……。雨のおかげで、俺の術も威力が増してたからな。思ったよりも早く片付いた」
「聖は水と相性がいいからな。この天候は逆に有利か」
「まあな。けど、この雨で身体は冷えるし、服が張り付くから気分は最悪だ」
 術者本人としてはラッキーとも言えない、と聖は苦笑を漏らした。
 先ほど、木の幹に細工していたのは結果術だ。五大元素の水と木は相性が良い。おまけに天気は大雨だ。水属性を得意とする聖の能力は最大限に発揮される。
「これだけゴブリンの血が流れると、周辺の大地も穢れるな……。いちおう浄化しておくか」
「俺がやる。その間に、聖は他の仲間たちに連絡を取ってくれ」
「了解。この雨だし、仲間と合流して態勢を立て直した方が良さそうだ」
 輝斗は装備品の中から聖水が入った小瓶を取り出す。蓋を開けて中身を大地に振りまくと、ゴブリンの血と泥でぬかるんだ大地が淡い光を発した。ほどなくして、血は綺麗さっぱり消え失せた。
「終わったぞ。どうした……?」
 他の仲間と連絡を取っていた聖が怪訝そうにしている。
「……変だな。応答しない」
遠望感知テレパシーでも?」
「やってみる」
 聖の特殊能力クラフトは三つだ。一つは遠方感知テレパシーで、心は読めないが相手に念を送ることが出来る。二つ目は予知能力だ。これは未来を読むのではなく、敵を察知する予測感知の方が近い。最後の三つ目は、人や物に残った残留思念を読み取る千里眼サイコメトリーだ。
「……ダメだ。まったく反応がない」
「何かあったのかもしれない。ひとまず合流ポイントへ向かおう」
「そうだな」
 泥でぬかるんだ地面は滑りやすく、人の手が加えられていない森の中は草が生い茂っていた。地図を頼りに合流ポイントを目指していたが、途中で聖が足を留めた。
「どうした?」
「近くに悪魔がいる」
 厳しい表情で呟いた聖は、すぐに銃を構えた。
「距離は?」
「百メートル先だ」

 ――パァンッ。

 視線を送る先で、銃声が響いた。
「悪魔と交戦中か!?」
「うわあっ」
 遠くで悲鳴が聞こえる。
「行こう!」
 輝斗たちは森の中を走り抜ける。
 やがて視界が開けると――。
「この先は崖か……」
 では、悲鳴は何処から聞こえてきたのだろう。
「輝斗、こっちだ!」
 聖の声がする方へ首を動かす。
「っ!」
 少し離れた所で、血だらけの候補生がうつ伏せに倒れている。同じ小隊の仲間だ。
「大丈夫か!?」
「……いや」
 彼の傍に片膝を付いていた聖が緩く被りを振った。
 半開きになった口に容赦なく泥水が入り込んでいても、彼はピクリとも動かなかった。瞳孔が開き、息をしていない。
 彼は既に死んでいる――。
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