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第五章
第五章-序-
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聖たちから撤退した輝斗たちは、政宗と千景のいるワゴン車まで引き返した。その後、千景の千里眼を使い周囲に悪魔反応がないか調べたが、彼らは既に姿を消していた。
夜も更けた頃、政宗は狼男の捜査を打ち切ると言い出したので、忍が調査の継続を申し出る。
「まだ狼男を発見できてないのに、ここで切り上げるなんて出来るかよ!」
「上層部からの命令だ」
「チッ……りょーかい」
上からの命令では従わざるを得ない。納得していないとありありと態度に出ているが、忍は渋々了承した。
「まだ話の続きがある。面倒なことになったぞ。明日、本部へ出頭することになった」
政宗は心底嫌そうに顔をしかめ、一同を見回した。
「それって狼男を見つけられなかったから、上層部が怒ってるとか?」
嵐が尋ねると、政宗は首を横に振る。
「狼男の件とは別の呼び出しだ。今回遭遇した大悪魔の中に、元TJ候補生がいたことが問題になってる」
八年前に死亡したとされる元TJ候補生の白瀬聖が生きていた――。
彼は悪魔と契約を交わし、北都市に破壊と混乱をもたらした四凶・檮杌の復活にも関与している。その事実に上層部は騒然とした。
「前代未聞だよね。まさか身内に敵がいたんだから」
嵐は頭の後ろで手を組み、横目で輝斗を見た。
「…………」
合流してから輝斗は一言も喋っていない。今は涙を流していないが、目の周りは赤くなっている。彼の傍にいる幸弘の表情も暗く、声をかけづらい雰囲気を漂わせている。
「明日、状況説明をするために全員で本部へ赴くように、との命令だ」
「ええっ、なんでオレたちまで!?」
まさか自分たちまで出頭するとは思っていなかったので、嵐は思いっきり顔をしかめた。
「隊員全員から話を聞きたいそうだ。そういうわけで、明朝出発する」
「……はーい」
不満を露わにしながらも、嵐は返事をした。
「ほんと最悪」
ぼそっと呟き、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
× × ×
TJ部隊の本部があるのは、東都市の中心にある官庁街だ。今から出発しても、天々来に到着するのは深夜を過ぎてしまう。そのため、今晩は近くのホテルに泊まることにした。
やがて宿泊先のビジネスホテルに到着した輝斗たちは、ふたりずつに別れることになった。部屋割りは輝斗と幸弘。嵐と威。侑李と千景。忍に羽鳥である。隊長の政宗だけ一人部屋だ。
夕食に出かけようと威が誘ってくれたが、輝斗は部屋から出ようとしなかった。聖のことがよっぽどショックだったのだろう。ひとりにするのは心配だから、と幸弘も残ることにした。
「ごめん。オレらはいいから、みんなで行ってきて」
「うん、分かった。じゃあ、コンビニでお弁当を買ってくるね」
「ありがとう」
威にお礼を言った後、幸弘は扉を閉めた。
「後で、お弁当を買ってきてくれるって」
「…………」
輝斗はベッドの上で壁に背を預けた体勢で座っていた。
「疲れているなら、もう休む?」
「…………」
やはり返事はない。しかし、幸弘が隣に腰を下ろすと、無言で身体を預け寄りかかってきた。
俯いているので、どんな表情をしているのか分からないが、きっと泣きそうな顔をしているはずだ。
そんな輝斗の頭を、幸弘は優しく撫でながら天井を見上げる。
(これから、どうするか……)
気持ちの整理が出来ていないのは、幸弘も同じだ。
死んだと思われていた聖が生きていた。
――また額を狙うのか?
聖の言葉を思い出した瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
「……っ」
息が詰まり、身体が小刻みに震え出す。
あの日、本当は撃ちたくなかった。
それなのに……。
――君ならば、この距離でも狙えるはずだ。いいか、額を狙え。決して外すな。
教官の言葉がこだまする。
聖を殺したくない、と拒む幸弘に教官は「早くしろ!」と急かした。
――このままだと神条候補生まで失うことになるぞ。早く撃て!
「あ……ああ……」
瞳が不安定に揺れ、視界がぐにゃりと歪んだ。
ホテルの室内ではなく、あの日の光景――大雨の演習場に変わる。
――東候補生、撃つんだ!
「はあ、はあ……っ」
自分の呼吸音と教官の怒鳴り声。
土砂降りの雨の音がザアザアと鳴り響き、頭の中がガンガンする。
撃つのか。
撃たないのか。
早くしないと輝斗が危ない。
でも聖を殺すことになる。
どうする?
どうしたらいい?
「あああ……」
このままだと、自分がどうにかなってしまいそうだ――。
「幸弘」
すぐ傍で輝斗の声がした。
「……輝……斗?」
いつの間にか、景色が元のホテルに戻っている。
恐る恐る首を動かすと、こちらを見ている輝斗と目が合った。
「大丈夫か?」
「うん……」
額に滲んだ汗を拭い、幸弘は何でもないように答える。
いつの間に手を握ってきたのだろう。しっかりと繋がれた輝斗の手を見て、ふっと笑う。
(ひとりじゃなくて良かったと思うのは、むしろオレの方かもな)
輝斗の温もりを感じながら、幸弘は安堵のため息を吐いた。
× × ×
一時間ほど経った頃、インターホンが鳴った。威が戻ってきたのだろう、と幸弘が扉を開ける。
「ありがとう、威……って、隊長!?」
威ではなく、政宗が立っていたので仰天する。
「夜分遅くにすまない」
「遅くなっちゃって、ごめんね」
政宗の背後から、ひょっこりと顔を出した威はコンビニの袋を見せて笑った。
「ねえ、いつまで待たせる気? 早く中に入れてよ」
腕を組んでいる嵐が、不機嫌そうに人差し指をトントンと動かしている。千景や羽鳥、そして忍と侑李もいるので、ますます分からない。
「みんなもどうしたの?」
全員揃っているとは思わなかったので、幸弘は目を瞬かせる。
「お前たちに聞きたいことがあるそうだ」
「えっと……とりあえず、中へどうぞ」
全員入るかな、と思いながら、幸弘は仲間たちを招き入れた。
「お邪魔しまーす。焼き肉弁当を買ってきたよ。疲れた時は肉に限るよね! 輝斗くんが好きそうなチョコバーもあるから、一緒に食べよう!」
輝斗の元へ駆け寄った威は、弁当とお菓子を差し出した。
「飲み物はミネラルウォーターで良かった?」
「お茶とジュースも買ってきたから好きなの選んで」
続いて千景と羽鳥も声をかける。
「焼き肉弁当って……部屋中に臭いが充満しませんか?」
「威が肉の方が元気出るって聞かなかったんだよ」
呆れた様子の侑李と嵐は鼻をスンと鳴らしている。
「別にいーじゃん。美味しい匂いなんだし」
輝斗がいるベッドに威がジャンプをして座る。もう一つのベッドに嵐と侑李は腰を下ろし、鏡の前に千景が立った。
「お前ら、もっと詰めろよ。入りきらねえだろ」
「さすがに九人もいると狭いな」
忍と政宗が窓際に立ち、玄関側に羽鳥が佇んでいる。三人は特に背が高いので居心地が悪そうだ。
幸弘は輝斗の近くへ移動し、ベッドの横に立った。
これだけの人数が集まっているため、部屋の中は一気に窮屈になる。
「それで、話って何ですか?」
幸弘が尋ねると、政宗が口を開いた。
「白瀬聖のことが聞きたいそうだ」
「……っ」
大きく目を見開いた輝斗と幸弘を真っ直ぐ見据え、政宗は言葉を続ける。
「俺はお前たちの隊長だから、八年前の経緯を知っているがな」
「僕は昔、幸弘が話してくれたから大体のことはね」
「俺も前に千景と幸弘と飲みに行った時に、少しだけ事情を聞いてるから……」
千景と羽鳥が口を挟む。
「それで何も知らないのは不公平だって、嵐と侑李が聞かなくてな。本人が不在のまま、俺たちの口から喋るのは違うだろう。だったら、直接本人に聞こうってことになったわけだ」
そう言って、政宗は肩をすくませた。
「輝斗くんが、あんなに泣いてるの初めて見たし……」
「明日、本部に出頭するんです。その時に説明するでしょうが、その前に仲間内で情報を共有すべきです」
もごもごと喋る嵐に対し、侑李は淡々と答える。
「俺は興味ねえって言ってんのに、羽鳥さんが引っ張ってきたんだよ」
「そんなこと言って、本当は知りたいくせに。忍は素直じゃないなぁ」
憮然とした面持ちの忍に、羽鳥は苦笑を漏らす。
「言いたくないかもしれないけど、俺も何があったのか知りたい」
遠慮がちに言うと、威は身を乗り出した。
「お前たちが話したくないのなら、俺が説明するが……」
「……いいえ、俺から話します」
政宗の言葉を遮り、輝斗が口を開いた。
「輝斗……」
気遣うように幸弘が名前を呼ぶ。
「大丈夫だ」
「……うん」
小さく頷き、それ以上何も言わなかった。
「八年前、まだ俺と幸弘が候補生だった頃だ……」
輝斗は全員を見回した後、静かに語り始めた。
夜も更けた頃、政宗は狼男の捜査を打ち切ると言い出したので、忍が調査の継続を申し出る。
「まだ狼男を発見できてないのに、ここで切り上げるなんて出来るかよ!」
「上層部からの命令だ」
「チッ……りょーかい」
上からの命令では従わざるを得ない。納得していないとありありと態度に出ているが、忍は渋々了承した。
「まだ話の続きがある。面倒なことになったぞ。明日、本部へ出頭することになった」
政宗は心底嫌そうに顔をしかめ、一同を見回した。
「それって狼男を見つけられなかったから、上層部が怒ってるとか?」
嵐が尋ねると、政宗は首を横に振る。
「狼男の件とは別の呼び出しだ。今回遭遇した大悪魔の中に、元TJ候補生がいたことが問題になってる」
八年前に死亡したとされる元TJ候補生の白瀬聖が生きていた――。
彼は悪魔と契約を交わし、北都市に破壊と混乱をもたらした四凶・檮杌の復活にも関与している。その事実に上層部は騒然とした。
「前代未聞だよね。まさか身内に敵がいたんだから」
嵐は頭の後ろで手を組み、横目で輝斗を見た。
「…………」
合流してから輝斗は一言も喋っていない。今は涙を流していないが、目の周りは赤くなっている。彼の傍にいる幸弘の表情も暗く、声をかけづらい雰囲気を漂わせている。
「明日、状況説明をするために全員で本部へ赴くように、との命令だ」
「ええっ、なんでオレたちまで!?」
まさか自分たちまで出頭するとは思っていなかったので、嵐は思いっきり顔をしかめた。
「隊員全員から話を聞きたいそうだ。そういうわけで、明朝出発する」
「……はーい」
不満を露わにしながらも、嵐は返事をした。
「ほんと最悪」
ぼそっと呟き、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
× × ×
TJ部隊の本部があるのは、東都市の中心にある官庁街だ。今から出発しても、天々来に到着するのは深夜を過ぎてしまう。そのため、今晩は近くのホテルに泊まることにした。
やがて宿泊先のビジネスホテルに到着した輝斗たちは、ふたりずつに別れることになった。部屋割りは輝斗と幸弘。嵐と威。侑李と千景。忍に羽鳥である。隊長の政宗だけ一人部屋だ。
夕食に出かけようと威が誘ってくれたが、輝斗は部屋から出ようとしなかった。聖のことがよっぽどショックだったのだろう。ひとりにするのは心配だから、と幸弘も残ることにした。
「ごめん。オレらはいいから、みんなで行ってきて」
「うん、分かった。じゃあ、コンビニでお弁当を買ってくるね」
「ありがとう」
威にお礼を言った後、幸弘は扉を閉めた。
「後で、お弁当を買ってきてくれるって」
「…………」
輝斗はベッドの上で壁に背を預けた体勢で座っていた。
「疲れているなら、もう休む?」
「…………」
やはり返事はない。しかし、幸弘が隣に腰を下ろすと、無言で身体を預け寄りかかってきた。
俯いているので、どんな表情をしているのか分からないが、きっと泣きそうな顔をしているはずだ。
そんな輝斗の頭を、幸弘は優しく撫でながら天井を見上げる。
(これから、どうするか……)
気持ちの整理が出来ていないのは、幸弘も同じだ。
死んだと思われていた聖が生きていた。
――また額を狙うのか?
聖の言葉を思い出した瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
「……っ」
息が詰まり、身体が小刻みに震え出す。
あの日、本当は撃ちたくなかった。
それなのに……。
――君ならば、この距離でも狙えるはずだ。いいか、額を狙え。決して外すな。
教官の言葉がこだまする。
聖を殺したくない、と拒む幸弘に教官は「早くしろ!」と急かした。
――このままだと神条候補生まで失うことになるぞ。早く撃て!
「あ……ああ……」
瞳が不安定に揺れ、視界がぐにゃりと歪んだ。
ホテルの室内ではなく、あの日の光景――大雨の演習場に変わる。
――東候補生、撃つんだ!
「はあ、はあ……っ」
自分の呼吸音と教官の怒鳴り声。
土砂降りの雨の音がザアザアと鳴り響き、頭の中がガンガンする。
撃つのか。
撃たないのか。
早くしないと輝斗が危ない。
でも聖を殺すことになる。
どうする?
どうしたらいい?
「あああ……」
このままだと、自分がどうにかなってしまいそうだ――。
「幸弘」
すぐ傍で輝斗の声がした。
「……輝……斗?」
いつの間にか、景色が元のホテルに戻っている。
恐る恐る首を動かすと、こちらを見ている輝斗と目が合った。
「大丈夫か?」
「うん……」
額に滲んだ汗を拭い、幸弘は何でもないように答える。
いつの間に手を握ってきたのだろう。しっかりと繋がれた輝斗の手を見て、ふっと笑う。
(ひとりじゃなくて良かったと思うのは、むしろオレの方かもな)
輝斗の温もりを感じながら、幸弘は安堵のため息を吐いた。
× × ×
一時間ほど経った頃、インターホンが鳴った。威が戻ってきたのだろう、と幸弘が扉を開ける。
「ありがとう、威……って、隊長!?」
威ではなく、政宗が立っていたので仰天する。
「夜分遅くにすまない」
「遅くなっちゃって、ごめんね」
政宗の背後から、ひょっこりと顔を出した威はコンビニの袋を見せて笑った。
「ねえ、いつまで待たせる気? 早く中に入れてよ」
腕を組んでいる嵐が、不機嫌そうに人差し指をトントンと動かしている。千景や羽鳥、そして忍と侑李もいるので、ますます分からない。
「みんなもどうしたの?」
全員揃っているとは思わなかったので、幸弘は目を瞬かせる。
「お前たちに聞きたいことがあるそうだ」
「えっと……とりあえず、中へどうぞ」
全員入るかな、と思いながら、幸弘は仲間たちを招き入れた。
「お邪魔しまーす。焼き肉弁当を買ってきたよ。疲れた時は肉に限るよね! 輝斗くんが好きそうなチョコバーもあるから、一緒に食べよう!」
輝斗の元へ駆け寄った威は、弁当とお菓子を差し出した。
「飲み物はミネラルウォーターで良かった?」
「お茶とジュースも買ってきたから好きなの選んで」
続いて千景と羽鳥も声をかける。
「焼き肉弁当って……部屋中に臭いが充満しませんか?」
「威が肉の方が元気出るって聞かなかったんだよ」
呆れた様子の侑李と嵐は鼻をスンと鳴らしている。
「別にいーじゃん。美味しい匂いなんだし」
輝斗がいるベッドに威がジャンプをして座る。もう一つのベッドに嵐と侑李は腰を下ろし、鏡の前に千景が立った。
「お前ら、もっと詰めろよ。入りきらねえだろ」
「さすがに九人もいると狭いな」
忍と政宗が窓際に立ち、玄関側に羽鳥が佇んでいる。三人は特に背が高いので居心地が悪そうだ。
幸弘は輝斗の近くへ移動し、ベッドの横に立った。
これだけの人数が集まっているため、部屋の中は一気に窮屈になる。
「それで、話って何ですか?」
幸弘が尋ねると、政宗が口を開いた。
「白瀬聖のことが聞きたいそうだ」
「……っ」
大きく目を見開いた輝斗と幸弘を真っ直ぐ見据え、政宗は言葉を続ける。
「俺はお前たちの隊長だから、八年前の経緯を知っているがな」
「僕は昔、幸弘が話してくれたから大体のことはね」
「俺も前に千景と幸弘と飲みに行った時に、少しだけ事情を聞いてるから……」
千景と羽鳥が口を挟む。
「それで何も知らないのは不公平だって、嵐と侑李が聞かなくてな。本人が不在のまま、俺たちの口から喋るのは違うだろう。だったら、直接本人に聞こうってことになったわけだ」
そう言って、政宗は肩をすくませた。
「輝斗くんが、あんなに泣いてるの初めて見たし……」
「明日、本部に出頭するんです。その時に説明するでしょうが、その前に仲間内で情報を共有すべきです」
もごもごと喋る嵐に対し、侑李は淡々と答える。
「俺は興味ねえって言ってんのに、羽鳥さんが引っ張ってきたんだよ」
「そんなこと言って、本当は知りたいくせに。忍は素直じゃないなぁ」
憮然とした面持ちの忍に、羽鳥は苦笑を漏らす。
「言いたくないかもしれないけど、俺も何があったのか知りたい」
遠慮がちに言うと、威は身を乗り出した。
「お前たちが話したくないのなら、俺が説明するが……」
「……いいえ、俺から話します」
政宗の言葉を遮り、輝斗が口を開いた。
「輝斗……」
気遣うように幸弘が名前を呼ぶ。
「大丈夫だ」
「……うん」
小さく頷き、それ以上何も言わなかった。
「八年前、まだ俺と幸弘が候補生だった頃だ……」
輝斗は全員を見回した後、静かに語り始めた。
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