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第五章
第五章-10-
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激しい乱撃が続いていた――。
「はあっ!」
「…………」
白刃が煌めきローザの脇腹を狙うも、残像を残して避けられてしまう。大鎌を軽々と振るうローザは息一つ乱れていない。
対する忍は休みなしで戦闘を繰り返していたので、消耗が激しかった。
「はあ……。そんなでかい武器を操ってるくせに疲れねぇのかよ?」
「問題ありません。お疲れのようですが降参なさいますか?」
感情のこもっていない声でローザは問うた。
「はっ、誰が降参するかよ!」
「では、更にスピードを上げましょう」
言うや否や、ローザの動きが加速した。
「おい、まだ速くなるのか!?」
連激が繰り広げられるが、忍は辛うじて攻撃を防いでいた。反射的に腕を動かしているが、一瞬でも気を抜けば大鎌の餌食だ。だんだんと後退していることに気づき、顔をしかめる。
「俺が押されるわけ……ねえだろうが!」
興奮した忍の瞳の色が濃くなる。
苛烈さを増した剣劇に、ローザの目が僅かに見開く。
「人間にしてはやりますね。しかし……」
一閃がひらめいたかと思うと、忍の手から刀が離れた。大きく弧を描いて地面に突き刺さる。
「痛っ……」
右手の甲に一筋の傷が生まれ、そこから血があふれ出す。手を押さえ、忍はうずくまった。
刹那、大鎌の切っ先が首筋に触れる。
「スピードは私の方が上ですね」
涼やかな瞳を細め、ローザは見下ろしている。
「忍!」
「よそ見をしている暇はありませんよ!」
忍に気を取られていた輝斗の鳩尾に、アレクセイのステッキの先端がめり込んだ。
「ぐはっ」
呼吸が一瞬止まり、視界が瞬く。バランスを崩した輝斗をアレクセイは仰向けに押し倒した。抵抗できないように両腕をひとまとめにし、ステッキで押さえつけると前屈みになる。
「チェックメイト、私の勝ちです」
「くっ……」
膝蹴りを放とうとするが、足が動かない。見ると地面から茨のツタが伸び、輝斗の両足を拘束していた。
「さあ、次はどうしますか?」
アレクセイは、この状況をどう切り抜けられるのかと楽しそうに様子を窺っていた。
× × ×
「輝斗と忍が危ない!」
千里眼で様子を探っていた千景は焦っていた。
「すぐに助けないと……」
「待つんだ」
輝斗の元へ向かおうとする幸弘を千景が呼び止める。
「瞬間移動や加速じゃないと、ここからじゃ間に合わない」
「でも……」
身体能力が優れていたとしても、幸弘はどちらのクラフトも持ち合わせていない。
「一番有効な方法は、この場からの狙撃だ」
「侑李は?」
千景は再び能力を使って侑李の様子を探る。
「美華に精神干渉を試みている。……ああ、左目を負傷しているみたいだ。困ったな。あの傷じゃ狙撃は無理だ」
「……羽鳥さんたちは?」
「羽鳥たちはカオルとヤマトと戦闘中だ。加勢するのは難しい」
「そんな……」
最悪の状態だ。幸弘の顔が強ばり握りしめる手に力を込める。
「一つだけ方法がある」
千景は幸弘を真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「君が狙撃するんだ」
「――っ!」
声が出なかった。呼吸が激しくなり、心臓が早鐘を打っている。
「でも……」
何とか絞り出した声はひどく擦れていた。
「僕が遠方感知で羽鳥に連絡を取る。それから侑李の狙撃銃の座標を伝え、彼の能力で転送してもらう。それを受け取り、君が撃つんだ」
「千景さん、オレは……」
狙撃銃のスコープを覗くことができない――。
「君は輝斗を失ってもいいのか!?」
珍しく千景が大声を発する。
「やるか、やらないか決断するのは君だ」
迷っている時間はない。だが心に穿たれた傷は根深く、幸弘を苦しめている。
聖を撃ってから狙撃銃のスコープを覗くことが出来なくなってしまった。
あの日の光景がフラッシュバックして呼吸困難になり、手の震えが止まらず、胃の中のものをすべて吐き出してしまうのだ。
――君は輝斗を失ってもいいのか!?
千景の言葉がこだまする。
(もし……ここでオレが拒絶したら、今度は輝斗を失ってしまう)
親友であり、密かに想いを寄せている――失いたくない大切な人だ。
覚悟を決めなければ、永遠に失ってしまう。
――助けなければ……!
ゴクリと唾を飲み込み、決然とした面持ちで口を開く。
「千景さん……」
――迷うな、恐れるな……!
「オレに狙撃銃をください」
その言葉を耳にした千景は、大きく見開いた後、笑顔で頷いた。
「ああ。必ず、君に銃を届ける!」
× × ×
大量に浮かぶ墓石が衝突し、砕け散る。バラバラと降り注ぐそれらを羽鳥たちは押し潰されないように避けながら、カオルとヤマトに向かって銃を放った。
「ふふっ♪」
「当たるかよ!」
ふたりの前に移動した墓石が壁となって弾丸を防ぐ。
「おかえしよ!」
「させないよ!」
威が両手を突き出し、向かって来る墓石の動きを止めた。
「やるじゃない。でもね、坊や。パワーはあたしの方が上ね!」
カッと見開いたカオルは、更に墓石の数を増やした。
「いきなさい!」
「わわっ」
「任せて!」
嵐がベルトに装着していたナイフを数本引き抜き、落下する墓石に向かって放つ。
刃が淡く輝き、瞬時に結界が張られた。ぶつかった墓石が弾かれ、あさっての方向へと飛んでいく。
「小細工ばかりね」
「お前こそ、墓石をぶつけてくるばっかで馬鹿力を披露するしかできないわけ? 動物園のゴリラの方がまだ可愛げがあるんだけど」
「口が減らないクソガキね……死になさい!」
「そっくり返すよ」
嵐はニヤリと笑った。
「カオル、避けろ!」
ハッとしたヤマトが叫んだ。
「なによ……っ!?」
「羽鳥さん!」
「いっけぇぇぇ!」
嵐の呼びかけに応じ、羽鳥がカオルの頭上に大量の墓石を出現させた。
「なんですって!?」
それは先ほどカオルが放ち、嵐の結界で弾かれたものだ。
――ドゴォォォッ!
至近距離で落下した墓石によって、周辺が土煙で覆われる。
「嵐に意識が集中すると思ったら、案の定だったね」
「全然嬉しくないんだけど」
「物体移動のクラフトでぶつけただけでも、それなりにダメージはあるはず……」
羽鳥は額の汗を拭い、呼吸を整える。大量の墓石を寸分狂いなく同じ座標に転送させたのだ。かなりの霊力を消耗していた。
「やだ、ネイルが割れちゃった」
「そんくらいで済んだんだ。むしろ感謝してほしいんだが」
煙が薄れてくると、五体満足のカオルとヤマトが佇んでいた。
「嘘でしょ。無傷なの……?」
「頑丈ゴリラ」
「ヤマトの念力で墓石の軌道をねじ曲げたんだ」
右手の爪をしきりに気にしているカオルにため息を吐いてから、ヤマトはこちらへ向き直った。
「もう同じ手は通用しねぇぞ。仕返しを……」
「白けちゃった。帰りましょ」
「は?」
「え?」
ヤマトと羽鳥は同時に間の抜けた声を上げた。
「見て、ネイルが割れちゃったのよ。いつだって綺麗でいないと意味ないわ」
「あのなぁ~。だから爪は短くしろって、いつも……!」
「じゃあ、こうしましょ。最後にとっておきのをあげるから。これでおしまい♪」
言いながら、カオルは背後にある一際大きな書物を持った男性の石像をクラフトで持ち上げると、一直線に羽鳥たちに向かって放った。
「嵐!」
「今やってる!」
羽鳥の呼び掛けに応じ、嵐はベルトに残っていたナイフを全部引き抜いた。
自分たちを囲むように地面に突き刺すと、素早く印を結んだ。
――ドガアアアアンッ!
刹那、石像が直撃し、土煙が周囲を覆った。
「けほっ……ふたりとも無事?」
「ギリギリセーフ……。さすがオレだね」
「カオルとヤマトは!?」
咳込みながら、羽鳥は銃を構える。
「この手でクソガキを殴ってやりたいところだけど、あとは悪霊に任せるわ。また遊びましょ♪」
「つーわけだ。じゃあな」
声だけが響き、やがて気配が完全に消えた。
「消えちゃった」
「まだ本気出してないって感じで、ほんとムカつく!」
「でも……三人とも無事で良かったよ」
安堵のため息をこぼし、羽鳥は笑みを深めた。
『羽鳥、聞こえる――?』
不意に、頭の中で千景の声が響いた。
「千景?」
『輝斗たちが危ない。座標を伝えるから、今すぐ侑李の銃をこっちへ転送してくれ!』
切羽詰まった様子に、ただ事じゃないと察した羽鳥は厳しい表情で頷いた。
「はあっ!」
「…………」
白刃が煌めきローザの脇腹を狙うも、残像を残して避けられてしまう。大鎌を軽々と振るうローザは息一つ乱れていない。
対する忍は休みなしで戦闘を繰り返していたので、消耗が激しかった。
「はあ……。そんなでかい武器を操ってるくせに疲れねぇのかよ?」
「問題ありません。お疲れのようですが降参なさいますか?」
感情のこもっていない声でローザは問うた。
「はっ、誰が降参するかよ!」
「では、更にスピードを上げましょう」
言うや否や、ローザの動きが加速した。
「おい、まだ速くなるのか!?」
連激が繰り広げられるが、忍は辛うじて攻撃を防いでいた。反射的に腕を動かしているが、一瞬でも気を抜けば大鎌の餌食だ。だんだんと後退していることに気づき、顔をしかめる。
「俺が押されるわけ……ねえだろうが!」
興奮した忍の瞳の色が濃くなる。
苛烈さを増した剣劇に、ローザの目が僅かに見開く。
「人間にしてはやりますね。しかし……」
一閃がひらめいたかと思うと、忍の手から刀が離れた。大きく弧を描いて地面に突き刺さる。
「痛っ……」
右手の甲に一筋の傷が生まれ、そこから血があふれ出す。手を押さえ、忍はうずくまった。
刹那、大鎌の切っ先が首筋に触れる。
「スピードは私の方が上ですね」
涼やかな瞳を細め、ローザは見下ろしている。
「忍!」
「よそ見をしている暇はありませんよ!」
忍に気を取られていた輝斗の鳩尾に、アレクセイのステッキの先端がめり込んだ。
「ぐはっ」
呼吸が一瞬止まり、視界が瞬く。バランスを崩した輝斗をアレクセイは仰向けに押し倒した。抵抗できないように両腕をひとまとめにし、ステッキで押さえつけると前屈みになる。
「チェックメイト、私の勝ちです」
「くっ……」
膝蹴りを放とうとするが、足が動かない。見ると地面から茨のツタが伸び、輝斗の両足を拘束していた。
「さあ、次はどうしますか?」
アレクセイは、この状況をどう切り抜けられるのかと楽しそうに様子を窺っていた。
× × ×
「輝斗と忍が危ない!」
千里眼で様子を探っていた千景は焦っていた。
「すぐに助けないと……」
「待つんだ」
輝斗の元へ向かおうとする幸弘を千景が呼び止める。
「瞬間移動や加速じゃないと、ここからじゃ間に合わない」
「でも……」
身体能力が優れていたとしても、幸弘はどちらのクラフトも持ち合わせていない。
「一番有効な方法は、この場からの狙撃だ」
「侑李は?」
千景は再び能力を使って侑李の様子を探る。
「美華に精神干渉を試みている。……ああ、左目を負傷しているみたいだ。困ったな。あの傷じゃ狙撃は無理だ」
「……羽鳥さんたちは?」
「羽鳥たちはカオルとヤマトと戦闘中だ。加勢するのは難しい」
「そんな……」
最悪の状態だ。幸弘の顔が強ばり握りしめる手に力を込める。
「一つだけ方法がある」
千景は幸弘を真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「君が狙撃するんだ」
「――っ!」
声が出なかった。呼吸が激しくなり、心臓が早鐘を打っている。
「でも……」
何とか絞り出した声はひどく擦れていた。
「僕が遠方感知で羽鳥に連絡を取る。それから侑李の狙撃銃の座標を伝え、彼の能力で転送してもらう。それを受け取り、君が撃つんだ」
「千景さん、オレは……」
狙撃銃のスコープを覗くことができない――。
「君は輝斗を失ってもいいのか!?」
珍しく千景が大声を発する。
「やるか、やらないか決断するのは君だ」
迷っている時間はない。だが心に穿たれた傷は根深く、幸弘を苦しめている。
聖を撃ってから狙撃銃のスコープを覗くことが出来なくなってしまった。
あの日の光景がフラッシュバックして呼吸困難になり、手の震えが止まらず、胃の中のものをすべて吐き出してしまうのだ。
――君は輝斗を失ってもいいのか!?
千景の言葉がこだまする。
(もし……ここでオレが拒絶したら、今度は輝斗を失ってしまう)
親友であり、密かに想いを寄せている――失いたくない大切な人だ。
覚悟を決めなければ、永遠に失ってしまう。
――助けなければ……!
ゴクリと唾を飲み込み、決然とした面持ちで口を開く。
「千景さん……」
――迷うな、恐れるな……!
「オレに狙撃銃をください」
その言葉を耳にした千景は、大きく見開いた後、笑顔で頷いた。
「ああ。必ず、君に銃を届ける!」
× × ×
大量に浮かぶ墓石が衝突し、砕け散る。バラバラと降り注ぐそれらを羽鳥たちは押し潰されないように避けながら、カオルとヤマトに向かって銃を放った。
「ふふっ♪」
「当たるかよ!」
ふたりの前に移動した墓石が壁となって弾丸を防ぐ。
「おかえしよ!」
「させないよ!」
威が両手を突き出し、向かって来る墓石の動きを止めた。
「やるじゃない。でもね、坊や。パワーはあたしの方が上ね!」
カッと見開いたカオルは、更に墓石の数を増やした。
「いきなさい!」
「わわっ」
「任せて!」
嵐がベルトに装着していたナイフを数本引き抜き、落下する墓石に向かって放つ。
刃が淡く輝き、瞬時に結界が張られた。ぶつかった墓石が弾かれ、あさっての方向へと飛んでいく。
「小細工ばかりね」
「お前こそ、墓石をぶつけてくるばっかで馬鹿力を披露するしかできないわけ? 動物園のゴリラの方がまだ可愛げがあるんだけど」
「口が減らないクソガキね……死になさい!」
「そっくり返すよ」
嵐はニヤリと笑った。
「カオル、避けろ!」
ハッとしたヤマトが叫んだ。
「なによ……っ!?」
「羽鳥さん!」
「いっけぇぇぇ!」
嵐の呼びかけに応じ、羽鳥がカオルの頭上に大量の墓石を出現させた。
「なんですって!?」
それは先ほどカオルが放ち、嵐の結界で弾かれたものだ。
――ドゴォォォッ!
至近距離で落下した墓石によって、周辺が土煙で覆われる。
「嵐に意識が集中すると思ったら、案の定だったね」
「全然嬉しくないんだけど」
「物体移動のクラフトでぶつけただけでも、それなりにダメージはあるはず……」
羽鳥は額の汗を拭い、呼吸を整える。大量の墓石を寸分狂いなく同じ座標に転送させたのだ。かなりの霊力を消耗していた。
「やだ、ネイルが割れちゃった」
「そんくらいで済んだんだ。むしろ感謝してほしいんだが」
煙が薄れてくると、五体満足のカオルとヤマトが佇んでいた。
「嘘でしょ。無傷なの……?」
「頑丈ゴリラ」
「ヤマトの念力で墓石の軌道をねじ曲げたんだ」
右手の爪をしきりに気にしているカオルにため息を吐いてから、ヤマトはこちらへ向き直った。
「もう同じ手は通用しねぇぞ。仕返しを……」
「白けちゃった。帰りましょ」
「は?」
「え?」
ヤマトと羽鳥は同時に間の抜けた声を上げた。
「見て、ネイルが割れちゃったのよ。いつだって綺麗でいないと意味ないわ」
「あのなぁ~。だから爪は短くしろって、いつも……!」
「じゃあ、こうしましょ。最後にとっておきのをあげるから。これでおしまい♪」
言いながら、カオルは背後にある一際大きな書物を持った男性の石像をクラフトで持ち上げると、一直線に羽鳥たちに向かって放った。
「嵐!」
「今やってる!」
羽鳥の呼び掛けに応じ、嵐はベルトに残っていたナイフを全部引き抜いた。
自分たちを囲むように地面に突き刺すと、素早く印を結んだ。
――ドガアアアアンッ!
刹那、石像が直撃し、土煙が周囲を覆った。
「けほっ……ふたりとも無事?」
「ギリギリセーフ……。さすがオレだね」
「カオルとヤマトは!?」
咳込みながら、羽鳥は銃を構える。
「この手でクソガキを殴ってやりたいところだけど、あとは悪霊に任せるわ。また遊びましょ♪」
「つーわけだ。じゃあな」
声だけが響き、やがて気配が完全に消えた。
「消えちゃった」
「まだ本気出してないって感じで、ほんとムカつく!」
「でも……三人とも無事で良かったよ」
安堵のため息をこぼし、羽鳥は笑みを深めた。
『羽鳥、聞こえる――?』
不意に、頭の中で千景の声が響いた。
「千景?」
『輝斗たちが危ない。座標を伝えるから、今すぐ侑李の銃をこっちへ転送してくれ!』
切羽詰まった様子に、ただ事じゃないと察した羽鳥は厳しい表情で頷いた。
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