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いち『時は金に換えろ』
4 足下の床
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とうとう部屋の前まで来てしまった。
降り行くエレベーターの中で(このまま下まで連れてってください)と何度も何度も願った。そんな思いが届くはずもなく、結局、彼の背中についていくことしか出来なかった。
(あぁ、今すぐ走って逃げてしまいたい……)
サキの深刻な思いなど知るはずもなく、ハルは淡々と部屋の鍵を開けた。
すぐに閉まろうとするドアを片手で押さえ、先に入れと誘導する。サキはそわそわしながらハルの脇を通り部屋へ踏み入れた。
さすが、部屋の中も広い。暗闇の中、レースカーテンの奥にはやはり夜景が広がっていて、ここでも自己主張するように光り輝いている。その光に向かって助けてと叫んだらどれだけの人が振り返り、どれだけの人が助けてくれるだろうか。そんな人がこの世にいないことはわかっている。今はもう夜景が綺麗だなんて思えなかった。
ドアが閉まると、部屋の明かりが点いた。
「脱ぎなさい」
言葉に驚き、振り向く手前で体が固まった。
男の一言で場の空気が一変したことがたまらない。
嫌な脂汗が手のひらを一気に濡らす。
目的はやり取りをはじめる前から決まっていたこと。それを決断したのは自分自身。今さら考えたって仕方のないことなのに、サキは、頭の中でグルグルと必死に返答を探した。そして、聞き間違いであってほしいと願った。
「聞こえませんでした?」
切迫した空気に体はもう動かない。
「やるんだろう?」
背中を向けたまま硬直する小さな体に男の手が触れると、その肩はビクンッと飛び跳ねた。
「なにをビクついている? 私を誘ったのはあんただ」
男は、口調の変化に戸惑うサキの体をグルリとひるがえし、体を向かい合わせる。男の顔を見ることが出来ず、サキはうつむいたまま、カーペットの絵柄を凝視していると、ふいに男の足が動いた。
男が一歩体を近づけると、少女はおぼつかない足取りで一歩後ずさりをする。また一歩、また一歩と怯える少女を気に止めることもなく、男はあおる。今度はグイグイと一気に迫り、小さな体を壁際まで追いやった。
ここまできて「やっぱりやめたい」なんて気弱な少女に言えるはずがない。そんな言葉を口にしたら男はきっと激怒する。
(せめて、もう少し時間をください……)
祈りを打ち砕くように、男はサキの肩を両手で掴むとそのままグンと壁に押し付けた。
突然のことにたじろぐサキの耳元に顔を寄せささやく。
「……怖いか……?」
吐息が耳にかかり思わず肩をすぼめた少女は、強がるように首を横に振った。そしてまたすぐに後悔した。
男の手が緩む。掴まれていたところがジンジンと熱い。それに、男の低い声がまだ頭の中で響いていて集中できない。
「私を見ろ」
そう言われても、恐怖と恥ずかしさで目を向けられずにうつむいたままでいると、男はサキの顎に手をかけグイと持ち上げた。サキは思わず目をつぶってしまった。震える唇に親指が触れる。これからキスされると思うと全身に力が入った。
キュッと締まる唇を置いて、その手は肩へ伸び、カーディガンをずり落とした。
その下はノースリーブのワンピース。折れてしまいそうな柔い腕が現れた。
男の手のひらは、直立不動の少女の冷えた色白の腕に触れ、指の先、そしてももへゆっくりと滑らせる。
触れたそばから熱く燃えゆく素肌。
火照る体で感じる、彼の手は冷たい。
一度下りた手が赤面する頬に触れた。髪をサイドにかきあげ耳に引っかけると、赤くなった耳が露になった。
サキはたまらなく、ますます赤面する。
そんな少女の気持ちを知るようにいたぶり続ける男は、恥じて赤らむ耳を指で挟んだりつまんだりこねたりといじくる。その音がダイレクトに耳へ入ってくると、サキはさらに追い込まれた。
(あぁ……どうしよう……)
男は手を止めた。
今度は何をされるのか。思っていたことと違う男の行動一つ一つが、サキを戸惑わせ不安にさせる。
サキの体をまたもクルリとひるがえし、後ろを向かせた。
サキの目の前には壁。目からの情報はなくなってしまった。わかるのは体に触れる男の手つきだけ。振り向く勇気もなく、ただじっと男に身を任せ堪えようとした。
ワンピースの裾をたくしあげる男の手は、小さなお尻に触れた。
しっとり濡れている肌を舐めるように撫でる。サキは眉間にシワを寄せ身をよじった。
「ふぅっ……」
手のひらを這わせ、ヌルリヌルリとワンピースの中へ侵入する。その男の手つきがくすぐったく、思わず声が出そうになるも我慢した。
時おり止まる少女の息づかい。平常心を保とうと小さく深呼吸して必死に取り繕おうとしている。
男の手が上部へ進むと、ワンピースの裾の位置も高くなっていく。
腹部のくぼみ、控えめなくびれ、薄く浮き出る肋骨を、じれったく、ジリジリと攻め入る。 健気に乱れる少女の呼吸に合わせ、嫌なほど、ゆっくりと……。
「あのっシャワーを……!」
その震えた声は、ついに耐えかねた少女の、こわばる喉から必死に出した精一杯の小さな抵抗だった。なのに男は「必要ない」と、少女の勇気をあっけなく蹴り飛ばした。
拒んで想像よりもっと怖いことをされるくらいなら従うべきだと悟り、サキはギュッと目をつぶって下唇を噛んだ。
汗は小刻みに震える全身をじっとりと濡らしていく。
「ふっ……はぁっ……」
荒くなる息を整えようとしたが、呼吸の仕方がわからなくなっていた。
男の手にはすでにサキの心臓の鼓動が伝わっていた。というよりもう全身が心臓のようで、バクンバクンと大きく揺れている。
拍動はとても速く、大型肉食動物から必死に逃げ捕らえられた小さな草食動物のよう。
男は少女の緊張をさらにあおるように、今にも皮膚を突き破って飛び出しそうなほど活発に跳ねている左胸を手で覆った。男の手のひらにすっぽりと納まる未発達のハリ。男がグッと圧力をかけると少女は痛そうに背中を丸め、掻くように爪を立てると声を出した。
「うあぅぅ……」
脇から垂れる少女の汗が男の手に伝う。
我慢する気力もなくなった少女の目には大量の涙。一度崩壊したダムはもう止められない。
涙と鼻水混じりの苦しい息づかいを押し殺すように口元に手をあてがった。その手は大きく震えている。
なぶる男の手が突然力なくだれた。かと思うと、いきなり少女の腰を掴みグイと自分の体に引き寄せた。
足元がふらつきバランスが崩れるサキ。上体が前へ倒れ壁に手をついた。
驚く少女を尻目にワンピースをめくり上げる。
ボタボタと落下する大粒の涙がカーペットに染み込んでいくのを、ただ見届けることしかできなかった。
指先がパンツのゴムに掛かった時だった。
男の手つきが不意に止まる。気づくとサキは男に対し拒否の言葉を発していた。
「……嫌?」
何てことを言ったのだと、赤らんだ顔はみるみる青ざめていく。
男の手が体から離れると、呆れたように鼻で息をつく音が背中越しに聞こえ、サキはとっさに(殴られる!)と思い反射的に体に力を入れ身構えた。
「どうぞ」
サキは固まったまま。
「このままだと嫌なんだろう?」
(……え?)
呆気に取られるサキ。停止した思考を一生懸命回転させたが、その一言がどういう意味かわからなかった。
男は困惑するサキの体からスルリと離れ、窓辺の一人掛けソファに浅く腰かけた。
(やめて……くれた……?)
力が抜けヒョロヒョロとへたり込みそうになったが、意地で踏ん張り壁にもたれ掛かった。
「一緒に入ると言ったらあんた、困るだろ」
その言葉で、さっき自分が発したできるかぎりの抵抗を思い出した。
「ついでにその化粧も落としなさい」
極度の緊張から解かれたサキは返事もできずに、床に落ちたカーディガンを震える手で掴み、ふらつきながらも急ぎ足でバスルームへ向かった。
降り行くエレベーターの中で(このまま下まで連れてってください)と何度も何度も願った。そんな思いが届くはずもなく、結局、彼の背中についていくことしか出来なかった。
(あぁ、今すぐ走って逃げてしまいたい……)
サキの深刻な思いなど知るはずもなく、ハルは淡々と部屋の鍵を開けた。
すぐに閉まろうとするドアを片手で押さえ、先に入れと誘導する。サキはそわそわしながらハルの脇を通り部屋へ踏み入れた。
さすが、部屋の中も広い。暗闇の中、レースカーテンの奥にはやはり夜景が広がっていて、ここでも自己主張するように光り輝いている。その光に向かって助けてと叫んだらどれだけの人が振り返り、どれだけの人が助けてくれるだろうか。そんな人がこの世にいないことはわかっている。今はもう夜景が綺麗だなんて思えなかった。
ドアが閉まると、部屋の明かりが点いた。
「脱ぎなさい」
言葉に驚き、振り向く手前で体が固まった。
男の一言で場の空気が一変したことがたまらない。
嫌な脂汗が手のひらを一気に濡らす。
目的はやり取りをはじめる前から決まっていたこと。それを決断したのは自分自身。今さら考えたって仕方のないことなのに、サキは、頭の中でグルグルと必死に返答を探した。そして、聞き間違いであってほしいと願った。
「聞こえませんでした?」
切迫した空気に体はもう動かない。
「やるんだろう?」
背中を向けたまま硬直する小さな体に男の手が触れると、その肩はビクンッと飛び跳ねた。
「なにをビクついている? 私を誘ったのはあんただ」
男は、口調の変化に戸惑うサキの体をグルリとひるがえし、体を向かい合わせる。男の顔を見ることが出来ず、サキはうつむいたまま、カーペットの絵柄を凝視していると、ふいに男の足が動いた。
男が一歩体を近づけると、少女はおぼつかない足取りで一歩後ずさりをする。また一歩、また一歩と怯える少女を気に止めることもなく、男はあおる。今度はグイグイと一気に迫り、小さな体を壁際まで追いやった。
ここまできて「やっぱりやめたい」なんて気弱な少女に言えるはずがない。そんな言葉を口にしたら男はきっと激怒する。
(せめて、もう少し時間をください……)
祈りを打ち砕くように、男はサキの肩を両手で掴むとそのままグンと壁に押し付けた。
突然のことにたじろぐサキの耳元に顔を寄せささやく。
「……怖いか……?」
吐息が耳にかかり思わず肩をすぼめた少女は、強がるように首を横に振った。そしてまたすぐに後悔した。
男の手が緩む。掴まれていたところがジンジンと熱い。それに、男の低い声がまだ頭の中で響いていて集中できない。
「私を見ろ」
そう言われても、恐怖と恥ずかしさで目を向けられずにうつむいたままでいると、男はサキの顎に手をかけグイと持ち上げた。サキは思わず目をつぶってしまった。震える唇に親指が触れる。これからキスされると思うと全身に力が入った。
キュッと締まる唇を置いて、その手は肩へ伸び、カーディガンをずり落とした。
その下はノースリーブのワンピース。折れてしまいそうな柔い腕が現れた。
男の手のひらは、直立不動の少女の冷えた色白の腕に触れ、指の先、そしてももへゆっくりと滑らせる。
触れたそばから熱く燃えゆく素肌。
火照る体で感じる、彼の手は冷たい。
一度下りた手が赤面する頬に触れた。髪をサイドにかきあげ耳に引っかけると、赤くなった耳が露になった。
サキはたまらなく、ますます赤面する。
そんな少女の気持ちを知るようにいたぶり続ける男は、恥じて赤らむ耳を指で挟んだりつまんだりこねたりといじくる。その音がダイレクトに耳へ入ってくると、サキはさらに追い込まれた。
(あぁ……どうしよう……)
男は手を止めた。
今度は何をされるのか。思っていたことと違う男の行動一つ一つが、サキを戸惑わせ不安にさせる。
サキの体をまたもクルリとひるがえし、後ろを向かせた。
サキの目の前には壁。目からの情報はなくなってしまった。わかるのは体に触れる男の手つきだけ。振り向く勇気もなく、ただじっと男に身を任せ堪えようとした。
ワンピースの裾をたくしあげる男の手は、小さなお尻に触れた。
しっとり濡れている肌を舐めるように撫でる。サキは眉間にシワを寄せ身をよじった。
「ふぅっ……」
手のひらを這わせ、ヌルリヌルリとワンピースの中へ侵入する。その男の手つきがくすぐったく、思わず声が出そうになるも我慢した。
時おり止まる少女の息づかい。平常心を保とうと小さく深呼吸して必死に取り繕おうとしている。
男の手が上部へ進むと、ワンピースの裾の位置も高くなっていく。
腹部のくぼみ、控えめなくびれ、薄く浮き出る肋骨を、じれったく、ジリジリと攻め入る。 健気に乱れる少女の呼吸に合わせ、嫌なほど、ゆっくりと……。
「あのっシャワーを……!」
その震えた声は、ついに耐えかねた少女の、こわばる喉から必死に出した精一杯の小さな抵抗だった。なのに男は「必要ない」と、少女の勇気をあっけなく蹴り飛ばした。
拒んで想像よりもっと怖いことをされるくらいなら従うべきだと悟り、サキはギュッと目をつぶって下唇を噛んだ。
汗は小刻みに震える全身をじっとりと濡らしていく。
「ふっ……はぁっ……」
荒くなる息を整えようとしたが、呼吸の仕方がわからなくなっていた。
男の手にはすでにサキの心臓の鼓動が伝わっていた。というよりもう全身が心臓のようで、バクンバクンと大きく揺れている。
拍動はとても速く、大型肉食動物から必死に逃げ捕らえられた小さな草食動物のよう。
男は少女の緊張をさらにあおるように、今にも皮膚を突き破って飛び出しそうなほど活発に跳ねている左胸を手で覆った。男の手のひらにすっぽりと納まる未発達のハリ。男がグッと圧力をかけると少女は痛そうに背中を丸め、掻くように爪を立てると声を出した。
「うあぅぅ……」
脇から垂れる少女の汗が男の手に伝う。
我慢する気力もなくなった少女の目には大量の涙。一度崩壊したダムはもう止められない。
涙と鼻水混じりの苦しい息づかいを押し殺すように口元に手をあてがった。その手は大きく震えている。
なぶる男の手が突然力なくだれた。かと思うと、いきなり少女の腰を掴みグイと自分の体に引き寄せた。
足元がふらつきバランスが崩れるサキ。上体が前へ倒れ壁に手をついた。
驚く少女を尻目にワンピースをめくり上げる。
ボタボタと落下する大粒の涙がカーペットに染み込んでいくのを、ただ見届けることしかできなかった。
指先がパンツのゴムに掛かった時だった。
男の手つきが不意に止まる。気づくとサキは男に対し拒否の言葉を発していた。
「……嫌?」
何てことを言ったのだと、赤らんだ顔はみるみる青ざめていく。
男の手が体から離れると、呆れたように鼻で息をつく音が背中越しに聞こえ、サキはとっさに(殴られる!)と思い反射的に体に力を入れ身構えた。
「どうぞ」
サキは固まったまま。
「このままだと嫌なんだろう?」
(……え?)
呆気に取られるサキ。停止した思考を一生懸命回転させたが、その一言がどういう意味かわからなかった。
男は困惑するサキの体からスルリと離れ、窓辺の一人掛けソファに浅く腰かけた。
(やめて……くれた……?)
力が抜けヒョロヒョロとへたり込みそうになったが、意地で踏ん張り壁にもたれ掛かった。
「一緒に入ると言ったらあんた、困るだろ」
その言葉で、さっき自分が発したできるかぎりの抵抗を思い出した。
「ついでにその化粧も落としなさい」
極度の緊張から解かれたサキは返事もできずに、床に落ちたカーディガンを震える手で掴み、ふらつきながらも急ぎ足でバスルームへ向かった。
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