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第5章 眠る月

第5話 不可解な条件

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俺は腑に落ちなかった。
確かに今日は本気の決闘というわけではない。
しかし稽古ならばシーバルが本気の方が良いのではないか? サーガが稽古中の勝敗に固執するように思えなかったし、同じくらいの実力の方が稽古にはいいように思うのだ。


「なぜ今日、シーバルは妖眼を使ってはいけないのですか?」


俺の問いにカインとタルムーは顔を見合わせて笑った。


「シルヴァル皇は寿命を縮めてでも、リノ様にかっこいいところを見せたいのでしょうけど……ふふっ。サーガはシルヴァル皇の実力を見極め、どうせリノ様にかっこいいところを見せられないのだったら、そんなくだらないことで命を縮めるなと……」

「え……?」


カインの言葉に疑問が口をついて出た。


「シルヴァル皇には、サーガの実力がお見えになっておられないのです」


タルムーが補足めいたことを付け加えるが、俺が疑問を抱いたのはそこではなかった。


「黄金の瞳になると命が縮んでしまうのですか?」

「それが、王たる所以ですからね」


その当然のような口ぶりに呆然としていると、遠くからサーガの怒声が響き渡る。


「シルヴァル皇! 終了です!」


サーガがなぜ終了の合図を叫んだのか、理由は声量で理解した。俺は一目散で駆け寄る。


「シーバル!」

「リノ! 危ないからこっちに来ちゃダメだよ!」


シーバルの言葉を無視して真っ先に目の色を確かめる。シーバルの瞳は黄金にはなっていなかった。


「リノ、大丈夫。サーガは俺よりもずっと強いんだ。俺が本気を出したって怪我なんか……」

「俺は……っ!」


このままだと、なにを言ってもサーガとの決闘をやめないと思った。だから叫んでみたものの、言葉が続かない。

この場にいる全員が俺の予期せぬ行動に困惑している。その空気に身を刻まれていたら、意外な言葉が飛び出た。


「サーガと! 剣を交えてみたい!」

「リノ様と? ええ、いいですよ」


サーガはあっさり快諾する。思ってもみない幸運に飛びつこうと口を開いた時、響いたのはシーバルの声だった。


「ダメだ!」

「シルヴァル皇、私はこの国随一の剣使いです。リノ様にお怪我をさせることなどございません」

「シーバル、国の宝剣と剣を交えるなんて、こんな機会は2度とない。お願い、絶対に怪我はしない。無理もしない。俺を信じてほしい」

「じゃ、じゃあ……甲冑を着て……」

「シルヴァル皇、私が甲冑を脱ぎます。カイン、タルムー!」


サーガの号令でカインとタルムーは甲冑を脱がしにかかる。


「お前の怪我などどうでもよい! リノになにかあったら……」

「リノ様も男だ。対等でなければ失礼でしょう?」


サーガの言葉でシーバルは口を噤む。俺を心配するあまり、サーガの言う「対等」に接してこなかった事実が、彼の口を噤ませたのだ。
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