53 / 80
第5章 眠る月
第5話 不可解な条件
しおりを挟む俺は腑に落ちなかった。
確かに今日は本気の決闘というわけではない。
しかし稽古ならばシーバルが本気の方が良いのではないか? サーガが稽古中の勝敗に固執するように思えなかったし、同じくらいの実力の方が稽古にはいいように思うのだ。
「なぜ今日、シーバルは妖眼を使ってはいけないのですか?」
俺の問いにカインとタルムーは顔を見合わせて笑った。
「シルヴァル皇は寿命を縮めてでも、リノ様にかっこいいところを見せたいのでしょうけど……ふふっ。サーガはシルヴァル皇の実力を見極め、どうせリノ様にかっこいいところを見せられないのだったら、そんなくだらないことで命を縮めるなと……」
「え……?」
カインの言葉に疑問が口をついて出た。
「シルヴァル皇には、サーガの実力がお見えになっておられないのです」
タルムーが補足めいたことを付け加えるが、俺が疑問を抱いたのはそこではなかった。
「黄金の瞳になると命が縮んでしまうのですか?」
「それが、王たる所以ですからね」
その当然のような口ぶりに呆然としていると、遠くからサーガの怒声が響き渡る。
「シルヴァル皇! 終了です!」
サーガがなぜ終了の合図を叫んだのか、理由は声量で理解した。俺は一目散で駆け寄る。
「シーバル!」
「リノ! 危ないからこっちに来ちゃダメだよ!」
シーバルの言葉を無視して真っ先に目の色を確かめる。シーバルの瞳は黄金にはなっていなかった。
「リノ、大丈夫。サーガは俺よりもずっと強いんだ。俺が本気を出したって怪我なんか……」
「俺は……っ!」
このままだと、なにを言ってもサーガとの決闘をやめないと思った。だから叫んでみたものの、言葉が続かない。
この場にいる全員が俺の予期せぬ行動に困惑している。その空気に身を刻まれていたら、意外な言葉が飛び出た。
「サーガと! 剣を交えてみたい!」
「リノ様と? ええ、いいですよ」
サーガはあっさり快諾する。思ってもみない幸運に飛びつこうと口を開いた時、響いたのはシーバルの声だった。
「ダメだ!」
「シルヴァル皇、私はこの国随一の剣使いです。リノ様にお怪我をさせることなどございません」
「シーバル、国の宝剣と剣を交えるなんて、こんな機会は2度とない。お願い、絶対に怪我はしない。無理もしない。俺を信じてほしい」
「じゃ、じゃあ……甲冑を着て……」
「シルヴァル皇、私が甲冑を脱ぎます。カイン、タルムー!」
サーガの号令でカインとタルムーは甲冑を脱がしにかかる。
「お前の怪我などどうでもよい! リノになにかあったら……」
「リノ様も男だ。対等でなければ失礼でしょう?」
サーガの言葉でシーバルは口を噤む。俺を心配するあまり、サーガの言う「対等」に接してこなかった事実が、彼の口を噤ませたのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
110
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる