口なしに熱風

大田ネクロマンサー

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第19話 諦めがつかない

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やっとダグラスの気配が動いた。あんなどこの馬の骨とも知れぬ青年に殺されるよりは、ダグラスの方が……。


「そんな想像、男なら誰でもする。前向きに死を検討するな」

「ラ、ラララランダ!?」


振り向こうとした私を、ランダは羽交い締めにする。


「な、なんで黙って聞いていたんだ! どう考えても人違いだってわかるだろう……!」

「ダグラスに抱かれる想像で何回抜いたんだ?」

「そ、そそ、そんなことを聞いてどうするのだ! 今更ダグラスに告げ口するつもりか!?」

「俺はどんな心境でダグラスに告げ口すればいいんだ……。単純な興味だよ」


脇から突っ込まれた屈強な両腕が、私の胸や腹を撫で回す。さっきまでの冷気はどこへやら、体の芯から熱が噴き上げた。


「やめっ……」

「何回だ? 言え」

「三回……くらいだ……!」

「案外、少ないな」

「ダグラスなんて三回くらい想像すれば十分だ! あんな善良な人間は退屈な抱き方しかしないんだっ!」


私の耳元で、ランダは馬鹿みたいな音量で笑う。


「じゃあ、俺は?」


混乱と熱が、スッと引いた。そこへさっき振り払われた拒絶の衝撃を思い出した。


「数え切れないほどか? 俺はどんな抱き方をするんだ」

「一回も……していない……それは誓う」


私の肌の上を這い回っていたランダの手のひらがピタッと止まった。一体どんな心境でそんなことを聞くのか。わからないのは私の方だ。しかし、私の卑屈さでランダの自信を失わせるようなことがあってはならないとは思った。


「諦めるために、想像をする……から……」

「ダグラスは三回で諦めがついたのか? 随分と諦めがはやいな。それで、俺は想像するまでもなかったと」

「そうだとよかったな。軽蔑してくれて構わない」

「ちゃんと、俺がわかるように言え」

「諦めがつかなかった……」


ランダと出会った日から卑しくも毎日昂り、何度も孤独を味わったが、ただの一回も想像できなかった。笑顔や肌の感触を思い浮かべても、いつも娼館の男性客に邪魔されてしまう。

自分自身、口に出すまで気づきもしなかった。私はランダを諦められなかったのだ。


「俺は陛下を十二回以上は犯している」


十二回?


「け、計算が合わないではないか! まだここに来て一週間だぞ!」

「節操がないんでね」


い、いや。問題は回数ではない。


「大体、六人の女性に夜伽をさせているのに、どの口が……!」

「女と寝ていない。そもそも男色趣味で国外追放されているわけだからな」


男色趣味!?
大混乱だった。なにから整理をつけたらいいのかわからないのに、ランダの唇が首筋を這って手のつけようがない。

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