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第41話 背中を預け合うふたり
しおりを挟む「そうか……封印が解けたらどうなってしまうんだろうな……」
自分で言いながら、なんとなく答えはわかっていた。記憶がない時間、それは私のようであり、私ではない。これから、私は私でなくなっていくのだろう。今日午後の馬車でランダの口から聞いた「私」の話は、自分であると判断ができなかった。
「でも、午前中の私も、周りから見たら私だったのだろう?」
私とは一体何者なのだ。正体を失った状態の私でも、同じような条件反射をすれば、周りから見たら私なのだ。
「ダグラス、今日はこんな状態だったから近場の宿にしてもらったが、明日はどのくらい距離を伸ばせる?」
ランダは私の呟きを無視して畳み掛けるようにダグラスへ質問をする。
「予定では明後日の午前に到着予定だったが、明日の朝早く出れば夜に目的地に着くことはできる」
「じゃあ早朝から出発しよう。リディア。ブラッシングは夜のうちに済ましておいてくれないか? 明日は距離を走らせるから親友をゆっくり休ませてやってくれ」
「はい! 夜にブラッシングしてきます!」
ランダに素直な返事で従うリディアを、ダグラスは思い詰めたように見つめ、動かなかった。
「ダグラス、なにか心配事でもあるか?」
ランダとダグラスはしばらく無言で見つめ合う。私が知らない午前中で、この二人の仲になにかあったのだろうか?
「リディア」
突然ダグラスは膝を折って、リディアの前にかしずいた。
「昨日、今日と一緒に運転席にいたな? リディアは乗馬の才能がある。ジンバルもミニアもリディアを信頼している。だから明日、馬車の運転をリディア一人に任せられるか?」
「ダグラス、一体どうしたのだ。こんなところでダグラスに離脱されては……」
ランダの問いに手のひらを向ける形で制し、ダグラスはリディアに続ける。
「これは男の仕事だ。失敗は許されない。ジンバルとミニアと力を合わせて頑張れるか?」
リディアはダグラスの言葉にガクガクと震えはじめて、んーっと奇声をあげた。
「僕は、ジンバルとミニアのお友達だから、頑張りたい! 失敗もしない!」
「いい子だ。ランダ。今から馬を一頭借りてくる。明日、私はその馬で駆ける。これで軽くなる分、もっと距離を伸ばせるはずだ。必ず明日中に目的地に辿り着く。リディアも約束できるな?」
「明日中に辿り着く!」
私はリディアがまともにダグラスと話しているところを初めて見た。大抵はダグラスの後ろでモジモジしていたリディア。その様子から、ダグラスの庇護の下でしか生きられない儚さを感じていた。しかし彼の目に宿る光と、力強い言葉で、それまでの幻想は吹き飛んだ。彼らは互いに、背中を預け合っていたのだ。
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