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第43話 考えたくもない閃き
しおりを挟む慣れない馬車の移動で疲労していたとはいえ、眠りにつく時間がはやすぎた。だから夜中に目覚めた時、ここ二日の目覚めとは違って、混乱はなかった。なかったはずだった。
ベッドのシーツを撫でた瞬間、慌てて起き上がる。ランダがいなくなっていたのだ。用を足しに出たのだろうか。それにしてはシーツが冷たい。
私は嫌な予感に体中が蝕まれ、慌てて窓の外を見やった。月はまだ天心で輝いていて、眠りについてからそんなに時間は経っていないようだ。しかしそんな安堵も束の間、視線を下ろした先に、激しい違和感を抱く。
今日の宿泊部屋は二階にあり、月明かりもあって眼下の景色は十分に見渡せた。そこになぜかランダが立っていたのだ。
よく見ると立っていたのはランダだけではない。旅商人のようなローブをすっぽり被った人影。ランダはその者から包みを受け取っていた。
そのランダの大きな手を見た時。
まるで走馬灯のように今までの出来事が脳裏を駆け巡った。そして最も考えたくない可能性が私の全身に覆いすがる。
──私の腹に封印されているのは、ランダの恋人なのではないか?
考えたくもないのに、一度閃くと頭が勝手に記憶をかき集めはじめる。
一貫して話題を避けていた、ランダの愛した男。生死不明だが、ふざけた条件を利用してでも国を離れたかったほどの喪失。
私の腹にランダの愛した男が封印されたのであれば、一連の偶然にも説明がつく。
終戦後、変装をして街歩きをはじめたが、群衆にまぎれ、道を尋ねられたことさえなかった。それが立て続けに二回もあったのだ。
──ねえ、お嬢さん。ここに来るの久しぶりだよね?
誘いの常套句だと思っていたあの邪悪な青年の言葉。しかし街道から外れた私の行きつけの店を知っていた。
──陛下は変わり者だが男色の気はないとダグラスに聞いていたのに、だ。
あの日、私の女装を知っていたのはこの世で三人。だからランダは私の女装姿に逆上したと言っていた。だが、変わり者たらしめる私の女装癖を聞き及び、そうと知りながら口布を取って確認したのならば?
愛する男を失い、計画的にこの国にやってきたとしたら?
奇しくも行方不明の封印師は隣国の国境近くに潜伏している。もしランダの愛した男が我が国の出身者で、弔いのためにリディアの義父に接触していたのならば──。
──あの……ダーマサラへの道をご存知ですか?
まるでランダがいないことを見計らったような偶然。短剣を持ち去らず、ナイフだけを持って逃げた青年。あの後、ランダは問うた。死ぬ以外の危険はないのか、と。私の護身術が予想以上で、手配した配下では敵わないと判断し、その代替案を探っていたならば──。
視線を逸らしたランダの顔がパッと浮かんでは消える。体の経験について話した時、見逃すことができなかった顔──。
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