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第13話 魔法使いと利益の代償

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日が落ちた。時々、魔法も履行りこうしているから、かなり消耗していた。焦りと疲労で汗だくになっていたが、そんな努力とは無関係に法具ほうぐには魔力が注げなかった。

いつからいたのか知らないが、俺の後ろから玲音が突然話しかける。

「冬馬、ご飯だって」

俺は振り返る気力もなかった。合わせる顔がなかった、という方が正しいだろうか。
俺は無言のまま、玲音の横を通り過ぎて、家に入った。キッチンにいる母に言う。

「かーちゃん、先に風呂入る。ご飯食べてて」

母は俺になにか言いかけたが、汗だくの俺を見て口をつぐんだ。俺はそのまま風呂に入った。

風呂の中で否応無しに考えてしまう。
なぜ今までこんな大事なことを教えてくれなかったのか、そしてなぜ俺にはできないのか。

でも、今日午後に魔法に向き合ってみて痛感した。

法具なしでの魔法履行ですら、試したことがないのだ。興味が無かった。そのくせ、いざできないとなれば自分の無関心を人のせいにする。自分は、できることしかやってこなかったのに。

自分の思い上がりに喉の奥が焼けるくらいムカムカとした。

法具を作らなければ玲音に電車賃すら渡せない。法具を作ったとしても、陣が引けなければ玲音も連帯責任で外出ができない。

玲音に魔力を送れないばかりか、自分のせいで玲音の自由を奪っていることが腹立たしかった。玲音の法縄ほうじょうを引っ張る資格なんて俺には無いのに自由さえ奪っているんだ。

風呂から上がると、母は洗い物をしていて玲音は食事が終わりリビングでくつろいでた。

俺は無言のまま残された夕食を食べ始めた。母が俺の前に座ったので言った。

「今日1個もできなかったから、後でもう少しやってみる」

母は少し考え込んで言う。

「今日は家の陣を引き直すから、もうやめなさい。法具作りも。玲音にも魔力分けないとダメなんだから」

俺はこれを言われるまで、玲音に魔力を分けなければならないことを忘れていた。しかし疲労からか何も考えられずに食事の後片付けをして、俺は自分の部屋のベッドに倒れこんだ。ベッドに寝転んでみると、疲れているのに全然寝付けなかった。魔力は消費しても体力は消費してないからなんだろうか。

なかなか寝付けずにいると、多分玲音が部屋に入ってきた。壁側を向いていて、よくわからなかったが、振り返る気力もなかった。寝たければいつもみたいに乱暴にベッドに入ってくるだろうと思っていたが、今日は違った。
玲音はゆっくりベッドに入り、俺を後ろから抱き寄せた。

玲音は俺のことを心配してくれてるんだ。きっとこんなぐちゃぐちゃな気持ちをわかっているんだ。ただそれが一層苦しくてつい声を漏らしてしまう。

「玲音……ごめんな……」

明日もちゃんと練習するし、法具も作って玲音を鎌倉に行かせる。ただ、今日まで何もしてこなかった自分の甘さを許してもらいたかった。

「冬馬はなんでいつも自分が悪いわけじゃないのに謝るんだ」

玲音はそう言って俺をきつく抱きしめた。

「冬馬、鎌倉一緒に行きたい」

玲音は俺の背中でそう言った。あんなにひた隠しにしてきたのに、俺と行きたいと玲音は言った。多分、俺が陣を引けるまで待ってるとか、そういったことを照れて言えないんだろう。

俺は寝返りをうって、玲音を抱きしめた。
こんな主人として失格の俺へ信頼を寄せてくれている玲音に、また心がぐちゃぐちゃになった。玲音の優しさに、ありがとうとも、不甲斐なくてごめんとも、もう少し待っててとも言えず、関係のないことを言った。

「魔力を玲音に送れるようになったら、もうこうやって一緒に寝れないんだな」

寂しいな。それは流石に恥ずかしくて言えなかった。俺はそのまま眠りに落ちた。

俺は眠りに落ちる時に、自分の胸あたりになにかが流れ込んでくるのがわかった。表現しようがなかったが、暖かく、優しいものだった。多分これは玲音の魔力だ。今日は魔法を履行しすぎて、俺の方が魔力が減ってしまっていたんだ。

本当にごめんな、玲音。


朝起きたら、俺はこれでもかってくらい玲音に絡まってた。自分の所業に小さく悲鳴を上げて、そーっと玲音の顔を見たら、玲音の目はバッチリ開いていた。

「まだ5時だから、もう少し寝れば?」

自分でもわかるくらい狼狽していたが、玲音はそんな俺には構わず頭を抱き寄せた。
俺は恥ずかしかったが、顔を見られたくもなくて、もうこの際とことん甘えるか! ということで玲音の腕の中に顔を埋めた。
魔力を送り込まれるのってこんな感じなんだな。優しくて、暖かくて、少し懐かしい。
玲音にこんな幸福感を与えていたのかと思ったら、昨日までのイライラが少しだけ解消できた。

「ありがとう、玲音。でももう起きるわ」

「あっそ」

玲音は素っ気なく返事して乱暴にベッドから出た。多分玲音も恥ずかしかったんだろう、そう思うと申し訳ないのでせめてもの罪滅ぼしで俺は言った。

「玲音お腹すいただろ? 朝ごはん作ろうか?」

玲音が笑顔で振り向く。

「食べる食べる食べる食べる!」

うーん、朝から眩しい!

俺が朝ごはんをこしらえている間、玲音は洗濯物をしていた。母は6時くらいに起きてきて、玲音のために作った豪華な朝食を、朝から重い、とこぼしながら食べた。
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