ドミナントモーション

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
27 / 41
Side-Hanada

聞かされていない転職

しおりを挟む
 人心掌握術で出世に邁進する俺にも友達らしい友達がいた。同僚の榊という男で、入社オリエンで意気投合してから毎日のように飲み歩いては会社での立ち回りを話し込んだ。出世頭の若手2人としてお互いの価値を高め合い社内外で大いにモテた。今考えれば1人で出世するには出る杭を打たれやすく、俺は榊を隠れ蓑にしていた節があったし、もしかしたら榊もそれに気がついていたのかもしれない。ある日社内の掲示板で榊の退職を知る。一度もそんな話題を出さず勝手に会社を去る榊を責める心よりも、自分の行動や態度を省みるくらいには榊を信用していた。しかし俺は榊が去ると聞いてから途端に怖くて連絡をしなくなった。退職後一度だけ榊から連絡があったが、俺は榊に会うことができなかった。


「ご、ごめん、ちょっと一旦家に戻っていいかな? 仕事で思い出したことが……」

 そう言っている間に先生は足早に歩き出したのでびっくりして腕を掴んだ。完全なる拒絶で俺の手を振り解いて数歩、歩いた途端、キッチンに走り出す。対面キッチンから先生の姿が見えなくなったと思ったら、嘔吐する音が聞こえてきた。慌てて駆け寄り先生の背中を撫でながら、流しに水を流す。

「ごめ……すごく美味しかったのに……ごめんなさい……」

 まだえずきながらそんなどうでもいいことを呟いていた。俺は先生の口の中に指を突っ込み嘔吐を促した。抵抗する態度とは裏腹に素直に吐いて、揺れる薄い肩。

「急に食べるにしては今日の料理は重かったかもしれない。お粥作るから、ちょっと待ってて」

 コップの水を差し出して口を濯ぐように指示をする。口を濯いだ後、先生はしばらく俯いたまま謝り続けていた。

「申し訳ないと本当に思うなら、俺の作ったお粥ちゃんと食べてよ?」

「なんで……」

 なんでと聞かれて理由をスラスラと言えるほど自分の頭が理路整然とはしていなかった。口を布巾で拭いて抱き寄せた拍子にそのまま担いでソファまで先生を運ぶ。キッチンに戻る時に再生し終わったCDを取り出して、先生に向き直って聞いた。

「先生はどんな音楽が好きなの?」

 先生はまたぼんやりして目の焦点が合っていなかった。

「わからない……」

 そっか、そう言って適当に選んだ兄貴のCDを突っ込んで再生した。ちょうどソファが定位になるようスピーカーを配置してある。

 お粥を作ってソファに戻ってきた頃には、先生はソファでうつらうつらしていた。俺が前に立つと姿勢を戻し申し訳なさそうな顔をする。お粥を少量すくって冷ました後、先生の口に入れようとするが、先生は自分でできると拒絶した。俺は顔を掴んで舌を出すよう命令し、口が開いた隙にレンゲを突っ込んだ。飲み込んだのを確認したら一つ唇にご褒美のキスをする。

「ちゃんと食べたらもっとエロいのしてあげるよ、先生」

 俺がこう言うと、先生は素直に舌を出した。一口食べる度に少しずつ濃度をあげてキスをする。お粥を平らげる頃には先生はまるで発情期のように顔を紅潮させて息も荒くなっていた。俺もやりすぎたと思うが、先生のこの顔は俺の下半身を燃やす威力がある。お望み通りこのままめちゃくちゃに犯したかったが、先生の体力的に難しいだろうと思いベッドに運んで一緒に布団を被った。

「先生、そういえば仕事大丈夫?」

「うん……ごめんね……」

 あの時腕を引っ張らなかったら、先生は家で吐いて何事もなかったかのようにまたこの部屋に戻ったのだろうか。あまりそんな風には考えられなくて、俺は先生を抱き寄せて目の下にキスをした。

「リョウのお兄ちゃんはどんな人なの?」

 唐突な話題に平静を装う演技も忘れて黙ってしまった。

「リョウが話したくないことは、話さなくたっていいんだからね……」

「すごく変わった人。でも俺と同じで顔がいいから昔からすごいモテてた」

「そっか、リョウかっこいいもんね……」

 その安心したような声が胸に直接伝わって何故だか胸の奥が震えた。

「先生さ、明日は仕事あるの?」

「締め切りはあるけど……まだ先だから大丈夫」

「明日もちゃんと食べられたらうんと抱いてあげる」

 俺の腕の中で丸まっていた先生が急に伸びて顔を覗かせた。ゆっくりゆっくり近づいて、俺の唇の位置を確認するかのように柔らかくキスをした。急なことだったからビックリしたんだと自分に言い聞かせる程、今まで感じたことのない痛みが全身を走り抜けた。驚きで唇を離した先生の綺麗な目を直視できない。

「心配かけてごめんね……仕事もほどほどにするから……そういうのじゃなくて、ちゃんと抱いて……」

 急速に体中の血液が腰の裏に集まり、先生とくっついている自身の下半身が熱くなったのが恥ずかしくなった。

「ごめん……先生、明日までちゃんと我慢するから……」

 言ってるそばから先生が俺の股間に手を伸ばす。

「口でさせて……リョウ……お願い……」

「明日先生とめちゃくちゃしたいんだ。バナナあるからさ」

 唐突なバナナに先生が手を止めて虚をつかれた顔で俺を見る。

「先生も明日の朝まで我慢して、バナナを俺だと思って食べてよ」

 我ながら最低だと思ったが、自分の下半身は正直に先生がバナナをしゃぶる絵を想像し暴れていた。先生はその下半身の反応を感じたのか吹き出して爆笑する。

「リョウだと思って……丁寧に舐めて……引き千切って食べるね……ふふっ」

「千切ることはないでしょ。優しくしゃぶってよ」

 先生は笑いを堪えながら俺の名前を何度も呼び、電池が切れたようにスッと眠りに落ちた。綺麗な顔に張り付いた髪をどかしてそこにキスをする。さっきのような衝撃はなかったが、唇をつける時鈍い痛みが胸に広がる。俺は今まで一体何をしてきたのだろう、と先生の寝顔を見つめ続けた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...