魔法使いの大曲線

大田ネクロマンサー

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第23話 魔法使いとお父さん

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演習というと久遠さんの家の庭でやるのかと思い込んでいた俺は、もはや遠征といっても過言ではない長距離の車移動にびっくりした。高速道路の看板を見て久遠さんにどこまで行くのかと聞いたら、さらりと山梨までと言われたのだ。途中まで一緒に走っていた真下さんは、渋滞が発生したところで運転席の窓を小突いて、3つ先のパーキングで待ってると言って走り去った。

途中までキャッキャはしゃいでいた狂犬たちは2人身を寄せ合って眠ってしまっている。その姿を見て思わず呟いてしまった。

「こうしてみると、2人の方がよっぽど恋人同士みたいですよね……」

久遠さんは少し笑った。

「冬馬君は優しいね……でも玲音君の気持ちにちゃんと応えるのが本当の優しさだよ」

久遠さんは誰も触れてこなかった俺の心に、優しくスッと入ってきた。

「男同士というのは、結婚とかそういったものがないから、なかなか難しいよね。玲音君を安心させるのも」

俺の本音をさらりと言う久遠さんを思わず見つめてしまう。

「冬馬君もか……」

久遠さんの優しい声と、ずっと誰にも相談できなかったことを理解されてて、鼻の奥がツンと痛んだ。はい、そう言って涙を堪えるのがやっとだった。

「俺はもうそろそろ27歳で、社会人になってからそろそろ10年なんだ」

久遠さんの口調が砕けたことと、突然の話題で俺は少し困惑する。

「多少失敗したって取り返しがつくことばかりだけど、本当に好きな人と出会えることっていうのは、この年になるとないんだなって思うよ」

久遠さんはチラッと俺を見て笑う。

「玲音君のことも多少失敗したっていい。でももう出会うこともないかもしれないんだってことと、失うくらいだったら多少の度胸も必要だってことを……まぁ、俺みたいなクズが言っても説得力ないけど……」

頭をボリボリ掻きながら久遠さんは言葉を濁した。初めて久遠さんの素の横顔を見た。
でも言ってる事は俺の悩みが見えてるのかと思えるほど的確なものだった。

俺は後ろで狂犬が寝ていることを確認してから久遠さんに聞いた。

「真下さんは久遠さんの恋人なんですか?」

「えええええっ!!??」

久遠さんの驚愕の叫びは俺の腹に響くほどだった。

「お父さん、なに?」

円華ちゃんが起きて不機嫌そうに睨んでいる。玲音も一緒に起きてしまった。

「冬馬君。これは大人としての忠告なんだが、その質問は絶対に真下にはしないように」

玲音が俺を睨んでいるのがバックミラーで見えた。
は……はい。声にならない声で返事をした。
あんだけ驚愕するって事は恋人じゃないんだ……。すごく円華ちゃんに教えてあげたいけど、そんな親切心を踏みにじるかのような狂犬たちの睨み……。演習前に俺は殺されるかもしれない……。

真下さんとの約束のパーキングで休憩して、ついでにそろそろお腹が空いただろうと、少し早い夕食をみんなで食べた。食べ終わると同時に真下さんは演習をセッティングすると言って、先に出発して行った。あたりはすっかり夜になってしまった。

お腹がいっぱいになって元気の出た狂犬たちは、さっきとは打って変わってピーチクパーチク喋り出した。

その中で知ったのだが、普段の演習は幻術を円華ちゃんが担当しており、幻術内での演習は久遠さんのみだということだった。真下さんは総監督で、円華ちゃんの幻術をさらに幻術で囲み、円華ちゃんと久遠さんのアシストをするのだそうだ。久遠さんと真下さんが連れてきた相手が戦うところを円華ちゃんがアシストして、それがちゃんとできているか監督するのが真下さん……なんだか複雑な入れ子構造だった。

でも今日は俺たち初心者がいるということで、円華ちゃんは真下さんの幻術の中で俺たちと一緒に演習を行ってくれるらしい。なんとも心強い。さっき殺されそうだと思ったけど、味方になった途端この安心感である。

「円華も幻術の中で戦うの初めてなの?」

玲音がウキウキしている。

「そうよ! だからすごい楽しみ! あ、お父さんちゃんとあれ持ってきた?」

「もちろん持ってきたよ」

「なになに?」

玲音の質問に物凄いタメを作った後で円華ちゃんが吹き出す。

「後でのお楽しみー!」

「なんだよ、円華すごい嬉しそう!」

「別に嬉しくないですー!」

そうやってまた円華ちゃんと玲音はキャッキャウフフしだした。楽しそうでなによりです……。

前半よりも気分が高揚してきたのか、腹が満たされたからなのかはわからないが、2人ともやんや騒ぎ出して、終始和やかな雰囲気で真下さんとの待ち合わせ場所に到着した。
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