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第4部 手負いの獣に蝶と花
第25話 クルトの願い
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朝目覚めたらカミルが僕を抱えて寝ていた。体格差から考えるにこれが自然だ。けれどそれがなんだか情けないような気がして、せめて腕枕だけでもしてあげられないだろうかと悪戦苦闘している時に食器の音がした。
僕は飛び起きる。今日もクルトは空気を読まず、飄々と朝食の配膳をしている。
ーークルトに……いや! 今日は非番じゃない! 今何時だ! 今から王都に戻るには! そんなことよりクルトになんて言い訳すれば!
混乱に陥っているとクルトが至って普通に僕の方へ向いた。
「昨日夜中にバーンスタイン卿から遣いガラスが来ました。要約いたしますと、明日の朝までテオ様が屋敷にいたら、今日は非番にしておくと伝えろ、と」
混乱を招いたうちのひとつは今、解決した。バーンスタイン卿の粋なはからいに感謝しかない。しかしもう一つだ。
「クルト……」
クルトから見たら、ここに足繁く通った客と僕は同じに見えるだろう。友達として協力すると約束したのに、こんな乱れたベッドの上でどう弁明すればいいのかわからなかった。
クルトは僕の言葉を待っていた。だから自分の誠意を述べた。
「カミルを幸せにします。バーンスタイン卿の元で仕事に励み、出世して、この屋敷に庭師を雇うことを約束します。僕はまだ若いですが……」
僕が決意を言い終わらないうちに背中に軽い衝撃があった。両方からカミルの手が伸びてきて僕をガッチリ、拘束する。
「私にも言ってくれないことを、クルトに言わないでください。クルト、テオは午後まで滞在できるな? 昼食は2人分と、今から2人で湯を浴びるからその間にベッドメイクを」
僕は恥ずかしさで口をパクパクさせて、クルトを見つめることしかできない。
「テオ様が坊ちゃんを救ってくれると信じていました。テオ様が屋敷で暮らしていただいたあかつきには、このクルト一生をかけて支えさせていただき……」
「クルト、この屋敷を売って王都で暮らすぞ。使用人もお前しかいないのだ。ついてきてくれるか?」
「ぼ、坊ちゃん! 惚れた男のために先祖代々受け継がれた領地と屋敷を手放すなんて!」
「兄は死亡していたのでしょう?」
カミルが僕の耳に唇をつけてそっと言葉を落とした。身動きが取れないまま時間だけが過ぎていく。
「クルトも知っていて黙っていたのでしょう?」
クルトは俯いた。ルークも言っていた。
ーー本当に兄に戻ってもらいたいのならば、そのくらいの調査はしているのではないか?
クルトは調査で兄の顛末を知っていた。しかしそれを言い出せなかったのだ。彼が歩んだ過酷な運命の先に待っていたのは絶望だけだったと、告げることができなかった。
僕はカミルの商売をやめさせるよう頼まれた。しかしクルトは真相解明を望んでいたわけではなかったのだ。彼を愛し心の救済を求めていた。バーンスタイン卿もクルトの真意をわかっていたのだ。だから兄を探さなくともと言い淀んでいた。
「カ、カミル。庭師を雇ってあげます。き、綺麗な花の苗も、なんだったら王宮の庭からくすねてくることも可能です。だから屋敷を売らないでください。非番の日には必ず前の晩にここに来ます」
「そうしたら昨日のようにしてくれますか?」
クルトがじっと僕を見つめる。どんな拷問だ。
「もっと……すごいことをしてあげます……」
カミルはギュウと抱き寄せ頭や頬に何度もキスをする。クルトはやれやれといった顔で部屋を後にする。
「2人で湯を浴びませんか? 湯溜まりも大きいので2人で浸かることができます」
「は、はい」
服を探すより先にカミルがブランケットで僕を包んでくれた。彼は僕の後ろにピッタリと寄り添って、風呂に案内する。
僕は飛び起きる。今日もクルトは空気を読まず、飄々と朝食の配膳をしている。
ーークルトに……いや! 今日は非番じゃない! 今何時だ! 今から王都に戻るには! そんなことよりクルトになんて言い訳すれば!
混乱に陥っているとクルトが至って普通に僕の方へ向いた。
「昨日夜中にバーンスタイン卿から遣いガラスが来ました。要約いたしますと、明日の朝までテオ様が屋敷にいたら、今日は非番にしておくと伝えろ、と」
混乱を招いたうちのひとつは今、解決した。バーンスタイン卿の粋なはからいに感謝しかない。しかしもう一つだ。
「クルト……」
クルトから見たら、ここに足繁く通った客と僕は同じに見えるだろう。友達として協力すると約束したのに、こんな乱れたベッドの上でどう弁明すればいいのかわからなかった。
クルトは僕の言葉を待っていた。だから自分の誠意を述べた。
「カミルを幸せにします。バーンスタイン卿の元で仕事に励み、出世して、この屋敷に庭師を雇うことを約束します。僕はまだ若いですが……」
僕が決意を言い終わらないうちに背中に軽い衝撃があった。両方からカミルの手が伸びてきて僕をガッチリ、拘束する。
「私にも言ってくれないことを、クルトに言わないでください。クルト、テオは午後まで滞在できるな? 昼食は2人分と、今から2人で湯を浴びるからその間にベッドメイクを」
僕は恥ずかしさで口をパクパクさせて、クルトを見つめることしかできない。
「テオ様が坊ちゃんを救ってくれると信じていました。テオ様が屋敷で暮らしていただいたあかつきには、このクルト一生をかけて支えさせていただき……」
「クルト、この屋敷を売って王都で暮らすぞ。使用人もお前しかいないのだ。ついてきてくれるか?」
「ぼ、坊ちゃん! 惚れた男のために先祖代々受け継がれた領地と屋敷を手放すなんて!」
「兄は死亡していたのでしょう?」
カミルが僕の耳に唇をつけてそっと言葉を落とした。身動きが取れないまま時間だけが過ぎていく。
「クルトも知っていて黙っていたのでしょう?」
クルトは俯いた。ルークも言っていた。
ーー本当に兄に戻ってもらいたいのならば、そのくらいの調査はしているのではないか?
クルトは調査で兄の顛末を知っていた。しかしそれを言い出せなかったのだ。彼が歩んだ過酷な運命の先に待っていたのは絶望だけだったと、告げることができなかった。
僕はカミルの商売をやめさせるよう頼まれた。しかしクルトは真相解明を望んでいたわけではなかったのだ。彼を愛し心の救済を求めていた。バーンスタイン卿もクルトの真意をわかっていたのだ。だから兄を探さなくともと言い淀んでいた。
「カ、カミル。庭師を雇ってあげます。き、綺麗な花の苗も、なんだったら王宮の庭からくすねてくることも可能です。だから屋敷を売らないでください。非番の日には必ず前の晩にここに来ます」
「そうしたら昨日のようにしてくれますか?」
クルトがじっと僕を見つめる。どんな拷問だ。
「もっと……すごいことをしてあげます……」
カミルはギュウと抱き寄せ頭や頬に何度もキスをする。クルトはやれやれといった顔で部屋を後にする。
「2人で湯を浴びませんか? 湯溜まりも大きいので2人で浸かることができます」
「は、はい」
服を探すより先にカミルがブランケットで僕を包んでくれた。彼は僕の後ろにピッタリと寄り添って、風呂に案内する。
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