罪と魔女

大田ネクロマンサー

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第13話 魔女との契約

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 帰りの道中、真下さんは僕を気にしているようだった。何度か振り返っては無言で見つめる彼女の視線に耐えかねて僕から口を開いた。

「あの、今日は僕のためにありがとうございました。知れてよかったです」

 僕の言葉に2人は沈黙してしまう。求められていた言葉ではなかったかと思い、やるせなさから俯いてしまう。

「幻術だって言わなかったのは失敗だったな」

「そういうことじゃねーだろ」

「ノブはどんだけお人好しなんだ、あんなの自首させるなり賠償金払わせるなりしたらいいだろうが!」

「お前はすぐそうやって……」

「ノブが支払った示談金で仲良く暮らしてるんだぞ! 頭にくるじゃないか!」

「頭にきてるのはお前だろうが!」

 僕の言葉を皮切りに2人が喧嘩をし始めてしまった。なんとか止めようと割って入る。

「僕のお金で幸せに暮らしてるなら嬉しいです」

 その言葉にまた2人は黙り込んでしまう。僕はなんとか2人が喜ぶ言葉を言いたいと考えあぐねているうちに、真下さんがポツリと言った。

「ノブがまた女性を愛せるならそれでいいんだ」


 車中気まずい雰囲気ながらも久遠さんは僕らを会社まで送ってくれた。僕はいつの間にか寝てしまっていて、車を降りた時土下座する勢いで謝った。なんの関係もない久遠さんにあんなことをさせて、帰りの車中寝るなんて言語道断だった。あの汗を見れば、久遠さんだってやりたくてあんなことをやっているわけじゃないことくらいわかった。

「久遠さん……本当にありがとうございました。どうやって恩を返せばいいのか……」

 その言葉にまた2人が黙り込む。もうこれ以上喋らない方がいいのではないか。そう思って久遠さんを見たら、優しい顔で笑っていた。

「世良さん、もうわかってるから大丈夫です。あと、真下も寝てたんでそういうことは気にしないでください」

「なんでそういうこと、いちいちバラすんだ!」

 真下さんに絡まれて久遠さんは面倒臭そうに車に戻って、そのまま帰宅した。




「真下さん」

 2人でベッドに入った時声をかけた。

「どうした? やっぱりあいつを訴えるか?」

「いえ……」

「そうしたくなったらいつでも言え。そういうことは格好つけなくたっていいんだからな」

 その口ぶりが愛おしかった。だから彼女が望むことは叶えたい、それは祈りのようなものだった。

「来週からまた就職活動しようと思います。資格が取れたら事務業で仕事を探してみます」

 真下さんはこっちを向いた。その顔は、依頼者を送り出す顔だった。

「そうか、でもあんまり無理しなくていいからな。ノブが童貞の限りここにいていいんだぞ」

僕は真下さんの腰辺りから腕を差し入れて抱き寄せた。

「胸が痛むのか?」

「真下さんが好きです」

「私もノブが好きだぞ。正確には童貞のい……」

 どす黒い下ネタを言おうとしたその口を塞いだ。真下さんは多分本気で僕の胸を押しているのですぐに唇を離した。そして次に見た魔女の顔は怒りに満ちていた。

「久遠さんがまだ好きですか?」

「な……あいつは腐れ縁なだけでそんなこと一度も考えたこともない!」

「じゃあ他の誰のことが忘れられないんですか?」

「何を言ってるんだ!」

「真下さんが好きなんです」

「ノブは女性を愛して、幸せな家庭を築く」

「真下さんと出会えなければ彼らのことも許せなかった」

「違う」

「真下さんを幸せにしたい」

「違う!」

「自分の都合の悪い時だけだ、人の考えてることがわからないなんていうのは。真下さんがそう言ったんです」

 魔女は黙った。

「迷惑ならちゃんと否定してください。僕をまた犯罪者にさせないでください」

 唇をゆっくり近づける。唇の先同士が触れて、全身に痺れるような感覚が走る。口元が緩んだ隙に舌を差し込んで、魔女の舌の形を確かめるようになぞる。それは怯えるように辿々しく僕の舌に触れ、震えていた。

「魔女を愛する。真下さんを幸せにする」

 念を押すようにゆっくり言いながら唇を離す。
 与えることに一生懸命で、受け取ることに不慣れな魔女は、半ベソをかいて目を逸らしていた。人の当たり前に感激し、人を愛してやまず、躓く者には尊敬をもって手を差し伸べる。何者でもない僕の気持ちをもったいないと遠慮して、そしてこんな僕の気持ちをありがたいと泣いている。こんな魔女をどうして愛さずにいられるのか。

 僕の胸を掴んでいた魔女の手に触れる。ずっとこの手に触れたかった、そう思うと握るのを躊躇い撫でてしまう。

「ノブ……ノブ……魔女の契約は厳しいんだぞ……」

 泣きながら言うそれはとても幼稚な言い回しに聞こえ、我慢のタガを外すには十分なかわいらしさだった。

「契約違反でどんな恐ろしい制裁が待ってるかはよくわかってますよ」

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