【完】好きだから

翠月 歩夢

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取り合い

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 どこかにある、何の変哲もないボロアパートの一室で、喧嘩が勃発していた。

「ねぇ、邪魔なんだけど。退いてよ」
「は? なんで退かなきゃならないわけ?」


 寝転がり、寛いでいる黒ずくめの男に喧嘩を吹っ掛けたのは全体的に茶色っぽい男だった。二人は互いに睨みを利かせ、今にも飛びかかりそうな剣幕である。つり上がった目と目が交わり、空中でバチバチと火花を散らす。


「退く気ないなら落とすけどいいの?」
「勝手にすれば? まぁ、お前如きにできると思わねぇけど」


 唸り声を上げて、互いに相手を威嚇する。どちらも引くつもりがないようだ。ピリついた空気の中、先に動いたのは茶色い男だった。

 素早く飛びかかり、顔を殴ろうと振りかぶる。だが、黒ずくめの男は易々と躱し余裕そうな表情を浮かべる。反撃できる体勢になった黒ずくめの男を警戒し茶色い男は悔しそうにしながらも、一旦後ろに飛び退いた。


「ぬくぬくした環境で育ったお前とは経験が違うんだよ」
「……ふざけんな、調子乗りやがって」


 馬鹿にされた茶色い男が、怒りを露わにする。再び飛びかかろうと、姿勢を低くしギラついた瞳で足を強く踏み込む。


「あーっ! また喧嘩してる!」


 割って入ったのは一人の女だった。臆する様子もなく、二人の間に立ちはだかり、仲裁を図る。


「ち、ちょっと首根っこ掴まないでよ!」
「ははっ、だっせ……っ!」


 首根っこを掴まれ身動きが取れなくなっている茶色い男を、愉快そうに見ているのは黒ずくめの男だ。


「もー、どうしてノラとメッシュは仲良くできないのかなぁ」
「だって、あいつ偉そうで腹立つ」
「いや、実際俺の方が偉いし」
「だから! 二人ともにゃーにゃー騒いで喧嘩しないの!」
「う……そんな怒んないでよ……」
「俺喧嘩してないよー」


 真っ黒い猫のノラと、茶色い毛に一部だけ白色が入った模様の猫であるメッシュを叱りつけながら、主である女は溜息を吐く。

 ノラのお気に入りの場所であるキャットタワーの頂上を狙い、メッシュが攻撃を仕掛けるのはいつものことだからだ。

 好きな場所を取られるのは嫌な気持ちは分かるものの、毎回取り合いが起きるのはどうしたものか……と女は頭を悩ませていた。

「元気なのはいいけど、あまり喧嘩しちゃダメだからね!」
「はーい……」
「だから俺は喧嘩してるつもりないんだけど」


 女はしょんぼりした様子のメッシュと反省した様子のないノラを眺めた後、静かになった猫達を撫でながら、もう一つキャットタワーを買ってみようかと考えるのだった。
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