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色付く日常
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しおりを挟む「友だちは、……今はいないですね」
イスミはあえて今はと付け加えた。
イスミにとって友人とはストーリーテラーになるずっと前に失ったものの一つだった。
今でこそそれに対して何かを抱く感情こそないが、その当時は悲しいという思いを抱いたような記憶がある。
しかし、イスミは理解していた。
高校生にもなって友人の一人もいないなど、それはきっと世の普通ではない。
だからイスミは敢えて無理やり作ったような笑顔を浮かべて目の前の二人に明るく声をかけた。
「まだ入学したばっかりですし! そのうち一緒に行動する人も出来ますよ」
「お前……」
返された返答にはじめに狼狽えたのはシシーだった。
そしてキジトもやや戸惑いの表情を浮かべている。
なんとなく理由は察するも、敢えて口にはしない。
これ以上は、ボロが出るだけだ。
それは普通ではない。
「お前、その、イジメられでもしてんのか」
キジトの言葉にイスミは首を傾げた。
イスミの想定と違う方向に話が向かっている気配を感じて、対処に迷う。
結果として先程同様に、イスミは深読みせずに身の回りの環境を思い返して首を横に振った。
「いえ、イジメとかはないですね。単なるクラスメイトの関係性です」
「でもそれにしては……」
ここに来るまでに感じたのであろう嫉妬の混じった他人の感情を思い出してか、キジトは眉を顰めて言葉を濁した。
イスミとてそれに対してはきちんと事実として受け止めている。
「あの、キジトさんやシシーさんって人気者だと思うんです。学園でも、ストーリーテラーでも」
「それは間違ってるな!」
「お前は黙れ」
イスミの言葉にシシーが胸を張ってどや顔をする。
茶化したような形になったためか、キジトはシシーのその頭を横から叩いた。
シシーは何も言わずに叩かれた頭を自分の手で撫でて居住まいを正す。
大した話ではないのにちゃんと聞く姿勢を見せる二人に、イスミは箸を膝の上に揃えて置いた。
「俺は、人気者と関わってる人に嫉妬するのって普通だと思うんです」
自分よりも他人の方が優れている。
好きな人が別の人を好きだった。
仲良くなりたいと思っても近くに行けない人に、平然と近づく人がいる。
嫉妬など、人の数だけ存在する。
「だから、あなたたちが何で僕に構うのかはわかりませんが、僕が妬まれるのは当然なので、それはイジメではないですよ」
そう。
それは普通のことなのだ。
話の終わりを察知して弁当箱を巾着にしまうと、イスミは屋上を後にした。
シシーもキジトも複雑な表情でイスミを見送っていたのには、気が付かないふりをした。
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