神々のストーリーテラー

みん

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色付く日常

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 屋上から教室に戻る傍ら、行きと同じような生徒の視線を受け流して、イスミはため息をそっと飲み込んだ。

 恨み、妬み、嫉み。
 そこに混じる僅かな興味と、好奇。

 それらをいくら向けられても、その事実以上にイスミに刻まれるものは一つもなかった。


 イスミの脳内は基本的に事実のみで構成されている。

 犬が歩いた。
 棒にあたった。
 ただそれだけである。
 それに対してかわいそうや面白いと言った感情をイスミは抱くことが出来ない。

 キジトの対価が、他人の感情が否応なくわかるというものなら、それがイスミの対価だった。

 キジトがイスミの傍が落ち着くと述べるのも、おそらくイスミの対価故のことだろう。
 キジトといても、ヤタマルといても、誰といても。
 イスミの凍てついた感情は何も表さない。

 反して、言動の全ての意味を理解するシシーは、イスミを奇妙なものとして認識したに違いなかった。

 イスミの言葉に嘘はない。
 故に本心だということは、容易に伝わる。
 しかしそこに感情から発露する行動は乗らない。
 イスミの行動原理はすべて、他者が普通だと思う言動をする、ただそれだけだからだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 イスミは自らを自分勝手で自分本意な人間だと思っている。
 自分が普通を行使することは、他者に普通を強いることと変わりない。

 普通でいること、それはイスミが感情を失う前に決めたルールだった。
 自らにルールを課したあの日から、イスミは普通から逸脱することを厭っていた。
 今となっては嫌という感情こそ抱けないが、感情を失った自分にとって、ルールもなしに行動することは困難だった。
 かつての自分が自分の心を守るために生み出した鎧が、心のない今の自分の剣となるなど、なんという皮肉だろうか。


 イスミは教室の扉をくぐると、何もなかったかのように午後の授業の準備に取り掛かった。

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