ハンティング・プレイヤー

日々菜 夕

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【ファースト・デート09】

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 ああ、そうだ……。

 もう一つだけ…こんな窮地を逃れる術があった。
 それは誰かが助けてくれるという希望的観測に願うことである――

【警告。敵正規プレイヤーNo.3が索敵範囲内に侵入。推定移動速度時速75キロ。敵正規プレイヤーNo.3が敵モンスターをターゲットに設定。交戦中の敵モンスターを横取りされる確率100%。報告。敵正規プレイヤーNo.3に克斗との戦闘意思無し。克斗の生存率100%と判断】

 逃げるもなにも無かった。全ては一瞬で終わっていたのだから――

 そいつは突如空中から出現すると、左足を軸にして降り立ちモンスターを脇から一蹴。
 まるで絶好のポイントでパスを受け取ったエースストライカーがシュートする瞬間を見ているみたいだった。
 鋭く綺麗な軌跡を描く蹴り。研ぎ澄まされた鋭利な日本刀のように重々しくも美しく延びるつま先――
 一目で心を虜にされていた。
 その、一蹴りで――あっさりと、恐怖の対象を消滅させていたのだから。
 もし、そいつに翼があったのならば、漆黒の天使とでも名づけていたのかもしれない。
 それほどに悠然とした姿だった。すらっとした長身に長い手足。
 つや消しされた黒いライダースーツを着込み。同色のフルフェイスヘルメットを被っている。
 バイザーは真っ黒で顔は全く見えない。
 リアルにモンスターが沸くようになってから現れるようになった存在。サイレントだった。
 それは、立ち止まる事なく――
 そのままの勢いで、向かいにある屋根の上に舞い上がると、直ぐに視覚ではとらえられなくなった。

「助かったのか……おれ……」
【肯定。敵正規プレイヤーNo.3により敵モンスター撃破確認】

 だいたい最初っからサイレントの連中目当てで書き込みしてんだから、予定通りっちゃ予定通りだけど……
 ヒーローは遅れて来るものらしいが……いくらなんでも遅すぎだろ?

【報告。ナナシにより制御されていた各種感覚機器及び動作機器を初期状態に復帰完了。報告。克斗の各種感覚機器及び動作機器に複数の問題発生確認。確認。克斗の思考及び各種感覚機器、動作機器に不具合を感じますか?】

 色の戻ってきた世界は少しばかりぼやけていた。
 鼻はツーンとした痛みを強く感じ。のどはヒリヒリして息苦しい。
 それでもモンスターの残した異臭と汚れたコンクリートの嫌な臭いを微かに感じる。
 手足の感覚は痺れと痛みが混在しているものの…微かに動く。時間が経てば普通に動きそうな気がした。

「ああ、こんくれーなら全く問題ない。それから、いちいちめんどくせー確認なんぞするな。むしろ丁度良かったくれーだよ」
【了解。現在の肉体的損傷レベルを問題ないと判断】

 俺は自分の声が全く聞こえない事に気付く。
 口が動いている感覚を感じられた以上。おかしいのは耳ということになる。

「なぁ、音が聞こえねー気がするんだが…気のせいか?」
【回答。敵モンスターによる音波攻撃により一時的な聴覚障害が発生しています。推測。自己修復機能により、聴覚障害は復帰可能と判断。提案。ナナシの補助により聴覚機能を仮復旧させる事が可能ですが実行しますか?】
「ああ、よろしく頼む。それから、やりゃ~、できんじゃねーか。さんざん出来ねぇだのダメだの言っといてなんとかなったじゃねーかよ。完璧だったぜ」

 せっかく俺が褒めてやったというのに、ナナシは相変わらず喜びを感じさせない抑揚のない返答で応える。

【否定。完璧とは、全く問題なく事態を収拾した時に使うべき言葉と認識しています。説明。今回の戦闘においては――】

 俺は相手のバカ正直な発言が分かりきっていたがために、いらっとして台詞をぶった切った。

「バカ! 俺が問題ねーって言ってる以上、全く問題なんてねぇーんだよ! せっかく褒めてやってんだ! ちったー喜びやがれ!」

 一時的に感覚を増幅した音。聞こえて来た自分の声は水中で音を聞いた時みたいにぼやけているが聞き取れないレベルではなかった。
 全くの無音で生きて行かなければならない事を考えればじゅうぶんである。

「っしゃー! サイレントブラックゲット~!」

 周りには、怪我をした人も居るというのに…不謹慎な喜声が上がる。

「こちらも、ばっちりでありますよ!」

 そこには、ハンディームービーやら携帯端末やらで一部始終を録画していた奴らが居た。
 ある意味命がけでなければ得られない映像を撮ることに情熱を燃やす彼らの事に憧れる者も居れば、「ちっ! 気に入らんな」きつい目の先輩みたいに毛嫌いする者も多い。
 その最もな理由は、有益な情報の提供と称して撮影をするだけで、怪我人の救助をほとんどしないからだった。
 音に驚かされてホームから落ちたと思われる中年女性なんかは額から血を流しているというのに……
 にやにやしながら、それにカメラを向けるだけ。別の意味でモンスターよりも不気味な存在と言えた。

【報告。今回の戦闘報酬によりポイントを入手しました。振り分けは攻撃力、素早さ、防御力の3種類に振り分け可能。確認。振り分けはどうしますか?】

 やはり、俺の創り出した彼女は相当変な電波を受信しちまってる娘らしい。
 意味が分からん。
 それでも付き合ってあげるのが俺の役目なんだろう。

「全部お前に任せる、とにかく死なないようにしてくれ」
【了解しました。以後ポイントの振り分けはナナシの一存で行います】
「あぁ、よろしくたのむよ……」
「おい外道! ところでいつまでそうしてるつもりだ⁉」

 鋭い目つきの美人が俺を見下ろしていた。

「どうも、こうもないっすよ。なんか体が動いてくれないんで……」
「そうか。まぁいい救急車は手配してやった詳しい事は後でじっくりと聞かせてもらうが異論はないな⁉」

 こういうのを蛇に睨まれた蛙と言うのだろうか?
 全くに持って言い逃れ出来る気がしなかった。
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