エロゲーの主人公になってみたい人生だった

日々菜 夕

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 まっ、普通に考えりゃ『大きくなったらお父さんのお嫁さんになりたい』ってのと大差ねぇ話しだが。
 ムキになって反論したあげく。『兄妹は結婚出来ねぇんだよ』的な話しを持ち出されてちまって、泣くしかなかったんだろうな。
 やたらと親父達の結婚に反対してたから、よっぽどの理由がかあると思ってたが。
 よもや、小学一年生レベルの勘違いだとは思わなかった。
 ネットでちょっと調べりゃすぐに分かっただろうに……無駄な意地張って現実逃避し続けた結果が、これとかマジ笑えねぇ。 

「バカみたいって思ってるならそう言えばいいじゃない!」
「あぁ、思ってるよ!」
「う、っく」

 なんなんだよ!
 なんで夏実のくせにそんな声出してんだよ!
 テメェは、もっとごう慢でムカつくヤツだったはずだろ?
 これじゃガキの頃に逆戻りじゃねぇか。
 もうダメだ、さすがに我慢の限界。
 顔を上げると同時に原稿用紙を突き返す。
 襲い来る眠気を意地で押しとどめる!

「字もへったくそなら、文法だってめちゃくちゃ。でもな! ひねくれて、やつあたりばっかりのテメェに比べたら、こっちの方が何倍もましじゃねぇか! 好きなら好きってはっきりいゃあいいんだよ!」
「だい好きよ! 子供の頃からずっと好きだったわよ! なのにあんたは全然分かってくれないし! エロゲ―ばっか買いまくってるし! ちあきとか言うわけ分かんない娘まで出てくるし! どーして私じゃダメなのよ!?」

 思いっきり頭押さえられちまい、視線はまたしても黒パンに固定。

「うっぐ……」

 あぁ、やっぱこのてのタイプ苦手だわ。
 泣きゃあいいとか思ってんのかね?
 まったくにもってめんどくさい。
 とりあえず脱いどきゃあいいんだよ脱いどきゃ!
 そうすりゃあ、だいたいなるようになるもんなんだよ!
 少なくとも俺のバイブルにはそう書いてある。

「ダメもクソもあるか、バカ! 兄妹だからとか、なんだとかぬかしてる時点でテメェはダメなんだよ! 本当に好きなら血が繋がってようがなかろうがきっちりこくって玉砕すりゃいいじゃねぇか! その方がよっぽどすっきりするわ!」
「なによ! 私がどれだけ悩んでたか知らないくせ――」
「ごちゃごちゃ言ってねぇではっきりしやがれ!」

 順序良く段階を踏んで、とかやってられるほどおひとよしじゃねぇんだよ!

「テメェがどう思ってて、どうしてぇかをいやぁいいんだよ! バカ! ちったぁ昔の自分見習ってみろ!」

 いじけ虫の始まりだろうか?
 それとも、さすがに言い過ぎたか?
 泣き声を押し殺そうとしても出来ず。

「っく、だ……き、も……。ず…とっ……、……っ……、らぃ……っく……んっ、ら……んっ……ぜ、っ……ぅっ、……よっ、め……にっ……りっ…うっく……もん……」

 単語にすらならない声ばかりがしばらく続いていた。
 まったくにもって理解できん。
 このごにおよんで何を悩む必要があるんだ?
 はっきり言って答えは出てる。
 経緯はどうであれ、夏実は一樹に恋をしている。一樹は夏実の想いを受け入れるしかない状況に追い込まれている。
 ほれ、見ろ。説明するのに100文字も要らねぇ。
 なんでリアルってのは、こんなにもめんどくさいんだよ!

 ――って!?

「ば、バカかテメェ。なにいきなり脱ごうとしてんだよ!」

 思わず余計なこと言っちまったじゃねぇか!
 せっかくパンツに手をかけてくれてたっつーのに!
 バカか俺は!?
 いや、まて、焦るな俺。
 まだ、終わったわけじゃないだろ!?

「だって、約束は約束だし。それに、どうせ履き替える時に見られちゃうわけだし、そ、それに……」
「あ、あぁ、んだよ?」

 ちくしょ―、なんで声が震えてんだよ。
 これじゃ俺の方がびびってるみてぇじゃねぇか!

「私きちんと言ったよね。旦那さんになる人にしか見せないって」
「あぁ、」

 そういや、そぅだったな、言われてみれば納得だった。
 俺が視線を外さない限り。パンツを履き替えれば大事なところだって目に入るに決まってる。
 しかも目をつむったりしたもんなら確実にちあきの居る世界に旅立つだろう。
 そして、それは夏実がもっとも嫌がることでもある。
 そうなれば夏実が選ぶ道筋は一本しか思いあたらない。
 だからこそ夏実は、あんなにも食ってかかってたってことか……

「だからさ、今すぐに好きになってとは言わない。でも、例え、こんな子供じみたもんでもさ、あにきが喜んでくれるならアリかなって。まぁ、要するに誘惑してでも自分のものにしちゃえって感じかな」

 薬が効きすぎたというやつだろうか?
 妙にすっきりした声色である。

「バーカ。最初っからそぅしときゃ今頃エロゲ―に使ってた金で旅行の一つや二つ出来たつーのによ」
「えっ?」
「『えっ?』じゃねぇよ。俺のこと好きなんだろ? 付き合いてぇんだろ? だったら俺好みの女になる努力くれぇしやがれ!」
「ぇ~と……」
「とりあえず今からでもキャンセル出来るヤツはキャンセルするとして、浮いた金で……そぅだな。よしっ! これからは下着も服も全部俺が選ぶから覚悟しとけ!」
「それって、つまり、ぷ、ぶ、プレゼントしてくれるってこと?」
「はぁ? なに言ってやがる。玉潰されたくねぇからに決まってんじゃねぇか!」

 てか、なんで俺は照れ隠しなんぞしてんだよ!
 これじゃツンデレみてぇじゃねぇか!

「え、えへ、へへへ」

 気持わりい笑いかたしてんじゃねぇ。
 まるで、俺が負けたみてーじゃねぇか。

「じゃ、じゃあ、脱いで見せるから、しっかり見ててね」
「お、っおぅっ」

 ゴクリ……

 まるでスローモーションみたいだった。
 ゆっくり、ゆっくりと黒い下着が下がっていく。
 同時に増え続ける肌色面積。恵おばさんだったら、確実にアフロゾーンに入っているラインを通過してもなお――それらしきものは何も見られない。
 ついに、ついに!

 女神様きたー!

 って思った瞬間!?



 ピピピ、ピピピ、ピピピ――

 視界は暗転していた。

 ちくしょー! なんで寝落ちすんだよ!
 まさか、パンツ以外のもんに目を奪われてたからか!?
 いやいや、それならそれで夏実が殴ってでも起こしてくれるはずだ!
 とにもかくにも、身体を揺すってでも目を開けようともがけば――
 簡単に身体を起こすことが出来ちまった。

「は? どこだ、ここ? ってか、寒っ!?」

 ピピピ、ピピピ、ピピピ、……

 枕元では小学生の頃に、始めて買ってもらった携帯電話がモーニングコールを響かせていた。

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