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餅蔵

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赤き竜と白き死神の物語

叡智の塔 2

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 ウェンドラントには冒険者の宿がまだ無いため一般の宿へと宿泊し、次の日の早朝。

 僕たちは件の廃塔、通称『叡智の塔』へやって来た。

 廃塔と言っても何らかの術がかけられているのか外見はかなり綺麗で真新しさすら感じる灰色の煉瓦造りの塔だ。

 かなり高い塔だが、ウェンドラントの街からは認識できず、近くまで来てようやくその存在に気づいた。


「認識阻害の元素術がかけられてますねぇ。光の元素による術なんですよぉ」

「こんなデケェ建物全体に術をかけるってそんな簡単なことなのかよ?」

「あたしとシロの元素が枯渇するまで頑張ってもまず無理」


 アイリスが首を振るように、魔術に自信のある僕とアイリスが全力を出してもこんな大きな対象に認識阻害の術をかけ、しかもそれを維持するのは不可能だ。


「この術は一体いつから?」

「補佐臣のユージーン様曰く、廃塔に先代司長の隠し子様が監禁されて暫くしてかららしいですよぉ。およそ三十年程でしょうかねぇ?誰がこうしたのかは分かっていないそうですよぉ」


 三十年もの間この術を維持し続けるとは、途方もない技術だ。

 まさかとは思うが、その『隠し子』とやらが術者なのではないだろうかと思う。

 もし先代やその取り巻きが施したのならば、監禁したその時にするだろうから、暫くしてというのがどうもその線を濃くさせている。


「取り敢えず入り口は……これだな」

「普通に扉あるんだ。開けてみる」


 アイリスが塔の入り口と思しき木造の大きな扉の、立派な装飾がなされた取手を掴もうとした瞬間、バチンと何かが弾けるような音がして、アイリスが咄嗟に手を扉から離した。


「お姉様!大丈夫ですかぁ!?」

「あたしは大丈夫……でもこれはかなり強力な術っぽい」

「力でぶっ壊して開けるか」


 レオンが大剣を呼び出して構えた。

 アイリスの「多分無理だと思うけど」という呟きは気にせず、レオンは思い切り振りかぶって渾身の一撃を扉に放つ。

 ドゴォォン!!!

 爆発音とも思えるような轟音を立ててレオンの大剣が扉にぶつかるが、扉は依然として傷一つつかずに静かに閉じたまま佇んでいた。


「まァ、これで開きゃ他の冒険者も入れてるわな」

「相当強力な術のようですねぇ……レオン様の馬鹿力でもびくともしないなんて……」

「僕が試してみてもいい?」


 さっきから扉にかかっている術の、元素の流れ方やどういう術式なのかを見ていたのだけれど、かなり古い術のようで普通にやってもたぶん解けないのだろうと思う。

 ただ、僕の魔術の知識は五百年ほど前から集積されてきたものだ。

 ユウェを呼び出して扉に向かって立つと、何とも言えない拒絶のようなものを扉と、扉にかけられた術式から感じた。


「『Sesta Siika Siska, Olta Cheska, Lusta Ulta』」


 ほんの短い詠唱だが、この術を解くにはこれが必要だった。

 杖を扉に向ければ『パシュッ』と軽い破裂音が鳴って、先ほどまで扉を覆っていた拒絶の圧が消え失せた。


「シロ様、今の詠唱ってものすごい古い魔術ですよねぇ!」

「何語なんだ?」

「あたしも知らない」


 ソフィアは流石エルフィンといったところか、この詠唱を知っていたらしい。

 眼鏡をクイっと片手で上げながら得意げに解説してくれる。


「あれはアーティファクトが人々に宿るずっと前からある、元素を必要としない『古代魔術』に使われる魔術言語ですよぅ」

「『古代魔術』ならあたしも聞いたことあるけど、実際には見たことなかったな」

「シロ、すげーな!!!」

「ありがとう。昔、古代魔術を研究してたことがあったから。この塔を封印した人も古代魔術に明るい人なんだろうね」


 ……ちなみにこの三人は僕がすでに五百歳を超えていることは知らない。ホムンクルスだということも。

 いつかは言わねばならないと思っているが、今はまだ勇気が出ない。

 とりあえず古代魔術については嘘にならない程度にふんわりと話したが、一応納得してもらえたみたいだ。


「とりあえず、扉も開いたみてェだし入ってみるか」


 レオンが扉に手をかけると、今度は弾かれる事もなく重々しい音を立てて扉は開いた。



3に続く


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