1 / 1
巨乳魔法使いのおっパブ体験
しおりを挟む魔法使いレプには、強い憧れがあった。
「い、いいなぁ···」
あまり見てはいけないと自身に言い聞かせながら、レプはついつい目線をそちらに向けてしまう。
レプはグリックラン皇国の、冒険者向けのカフェにいた。
彼女の周りには粗雑そうな男達が、昼日中から酒を浴びるように飲んでいる。彼等はがははと豪快に笑いながら、大ジョッキのビールをごくごくと飲んでいる。ちなみに雪国の田舎から出てきたレプにとっては慣れないことだが、グリックラン皇国ではビールのことを「ビルラ」と呼ぶらしい。
飲んだくれる男達とは違い、カフェの中でレプは浮いていた。浮いている理由は、彼女が雪のような美少女だからだ。
寒い国から出てきたレプの肌は、とても白かった。雪のように白い肌に、光に照らされるときらきらと輝く長い銀髪。端正な顔立ちは、まさに美少女と言って過言はないだろう。肌に合った白いローブのおかげか、どこか儚げな印象を人に与える。
穢れを知らない、雪のような美少女。
まさに、他者から見た目線としては、そう表現するのが正しいだろう。
あくまで、他者から見た目線としては――だ。
「···羨ましい」
そんな”穢れを知らない、雪のような美少女”は小さくため息を零す。
男達を見つつ、カフェラッテを飲みながら。
「やーだーよ!ちょっとぉ!」
男達の中心にいる獣人の女が、ぎゃははと笑いながら身をくねらせる。
彼女は、猫の獣人だった。灰色の耳と尻尾で、彼女が獣人であることはすぐにわかる。
身をくねらせると、彼女の首についた首輪の鈴がちりんと可愛らしく鳴る。
このグリックラン皇国には、奴隷制度がある。
人族で奴隷に落ちる者もいるが、獣人の方が圧倒的に多い。グリックラン皇国は大陸の3分の2を支配する大国で、植民地も多数存在する。そのため植民地から獣人を連れてきて、奴隷化しているのだ。
男達の中心で騒ぐ猫の獣人の格好は、限りなく半裸に近い。
奴隷化している女の獣人は、性的奴隷として使役されている場合が多い。攻撃力もなく、回復魔法を使うのでもなければ、女としての使用用途しかないのだ。
猫の獣人の彼女の場合、冒険者カフェにいるということは恐らくはパーティメンバーとして使役されているのだろう。街に出れば全裸の女奴隷も多いが、彼女の申し訳程度の布をまとった恰好は、まだ獣人としてはマシな方である。
だが、やはり奴隷の獣人は奴隷の獣人。
「やぁっ、ちょっとぉ、こんなところでぇ!」
男に肩を掴まれ、猫の獣人は胸をはだけさせられていた。
大きすぎないが、小さくもない胸が、露わにさせられている。
「いやーん!」
口では「嫌」と言いながらも、猫の獣人は扇情的に笑う。
ごくり、と思わずカフェオレを、音をたてて飲んでしまった。
(う、羨ましい···!)
同じ女として、軽蔑すべきなのだろう。
肌をはだけさせ、大衆の面前で胸をさらされることに憤慨すべきなのかもしれない。
最低!と男達を蔑むべきなのかもしれない。
でも、レプは違った。
レプは外見の清純さに反して、公衆の面前で肌をさらすことに興奮を覚え、そして男達にもみくちゃにされることに、強い憧れを持っていた。
「やめてよぉ!こういうのは夜に···!」
「いいだろー?触りたくなっちゃったんだし」
「ちょっとぉ!」
猫の獣人の背後から、腕力に自信がありそうな男が彼女の乳を揉みし抱く。
形が変わるくらいに揉みしだかれている。
ふっくらとした形の良い乳房が、男の荒っぽい手つきで蹂躙される。
「あっ···それ···そこはぁっ!」
その胸の乳首に男が触れた時、大きく猫の獣人の声が変わった。
甘く、快感に酔いしれる声。胸から快感を感じ、どうしようもなく声が抑えられなかった声音。
自然と、手が震えた。コップを掴む手が震え、慌ててレプは膝の上に手を置く。
(う···いいなぁ、いいなぁ)
自分も、そんな風にもみくちゃにされてみたい。
白いローブの下に隠された、自分の大きな胸を蹂躙されてみたい。
雪国出身の真っ白い肌を、男達の前に露わにしたい。
少し考えるだけで、レプの羨望の目は猫の獣人に向けられ、もみくちゃにされる胸を見つめてしまう。
自分の胸も、あんな風に―――。
「レプ!」
「きゃっ」
後ろから名前を呼ばれ、思わず驚いてしまう。
「ごめん!こんな所に1人にして···!」
夢想している途中に話しかけられ、「あ、あわわ」とレプは慌てる。カフェオレのカップを手に持ち、机の上に置き――を繰り返す。
「ら、ラケスさん···よ、用事は終わったの?」
レプは息を整えつつ、柔らかく微笑む。
目の前にいるのは、自分のパーティメンバーであるラケスという青年である。
黒髪に黒い目の凡庸な容姿の青年だが、背中に背負っている長剣が、彼が剣士であることを証明する。
いつもバトルでは、その重そうな長剣を振り回し、モンスター達をぶった切っている。
勇敢な青年である。
「ああ。だから···すぐ行こうか」
ラケスはレプの手を取り、強引に立たせる。
無理やり店から出そうとしていることがわかり、レプは小首をかしげた。
「ごめんな。レプには良くなかったな、こんなところ」
ラケスは顔を少し赤らめ、こっそりと耳打ちしてきた。
(そっか。ラケスさんは、ああいうの好きじゃないもんね)
レプはちらりと、猫の獣人を男達で囲っている団体を見る。
ラケスは、グリックラン皇国の奴隷制の反対派である。全裸で歩かされる獣人の女達に同情しつつ、その主人達を強く嫌悪しているのだ。彼もホイマという獣人を使役してはいるが、それは家でホイマがひどい扱いを受けていたから、自分の手元に置きたいと志願したらしい。彼は獣人であるホイマにも優しく、レプと同様に扱っている。
とても優しいラケスに、レプは淡い恋心を抱いていたが―――。
「レプみたいな女の子に、良くなかったな。あんなの」
(···うーん)
レプの外見は、”穢れを知らない、雪のような美少女”である。
あの猫の獣人がもみくちゃにされているのを見て、とても羨ましいなどと思っていただなんて誰も思わないのだろう。
勿論レプも、そんなことを想い人であるラケスに言えない。
獣人が酷い扱いを受けているのに、何て破廉恥なことを考えるんだと嫌悪されたくはない。
(あんなおっぱい触られて···気持ちいいんだろうなぁ)
レプはラケスの隣を歩きながら、こっそりと夢想する。自分があんな扱いを受けることなど、ありえないだろう。でも、もしあれば――良いなぁと思う。
男性との経験が皆無だからこそ、どのくらい気持ち良いのだろうかと考えてしまうのだ。
自分で触るのと、どう違うのだろう。
「お、来た来た!」
ラケスとレプはカフェ近くのギルドを訪れ、ホイマと合流する。ホイマが軽く手を振ると、ラケスも「おお」と手を振った。
彼女がラケスの使役する奴隷の、ホイマである。狼の獣人だ。
褐色の肌の少女である。本来なら女奴隷は全裸であることが普通だが、彼女の場合はホットパンツに胸バンド姿で、局部を隠せている。
顔立ちも獣っぽく粗野な感じがするが、まるで太陽のように明るく、快活な少女だ。外ハネする黒髪は艶やかで、健康的に見える。
「ねぇねぇレプー、面白そうなクエストいっぱいあるよ」
「本当?見たい見たい」
ホイマに腕を引っ張られ、レプは笑みをこぼす。
一見、逆のタイプである2人の少女だが、逆のタイプだからこそ2人の仲は良好だ。レプはグリックラン皇国ではなく雪国の田舎の出身なので、奴隷を差別したりはしない。
「おいおい、もうクエスト依頼受けたし、もう行くぞー」
「いーじゃん!見るだけー」
もう既にラケスがクエスト依頼を受領した後である。これから出かけようという時だったが、ラケスは「やれやれ」と肩を竦めるだけだった。
ギルドのクエスト表は、高い天井近くまで貼りつけられている。モンスター退治だけでなく、魔法を使って欲しいという依頼まで様々だ。
自分たちのパーティはそれなりに戦力もあるため、主にモンスター退治のクエストを行っている。だからこそか、ちょっと変わったクエストを見るのは面白いのだ。
「ほらほら、変装したいから魔法かけてくれとかいうクエストがあるんだよー?レプ、そういうのもできるの?」
「あー、できるよ。髪色を変えたりとか、それこそ獣人に変身したりもできるし」
レプが得意なのは炎系の魔法と、回復魔法だ。初歩的な魔法であれば、詠唱なしでもこなすことはできるが、ラケスのパーティに入ってからは全然使っていない。
「そういうの変身系の魔法が使えると、潜入系のクエストもできそうだなぁ」
「そうだね」
後ろにいるラケスが思案するように言った。潜入するために変身系の魔法を使うのも、自分には問題がない。
「あ、あれさー、意味わかんなかったんだ」
「ん?どれどれ、読める?」
ホイマが指さしたのは、天井近いクエスト紙だった。
さすが獣人。視力が良すぎて、ホイマが指さした紙はわかるけれどもレプには文字が読めない。
「獣人の「おッパブ」のキャスト募集。犬・猫のキャストなら好待遇!って」
ぶっ!とラケスが後ろで吹き出していた。
「おッパブってさ、何?」
無邪気にホイマが首をかしげている。
レプは―――硬直した。
意味がわからないのではない。耳年増で、はっきり言ってむっつり助平なレプは、よく知っている。
「そ、それは···」
正式名称は、おっぱいパブ。
女性の胸を揉んだり、好きなようにできる風俗のことだ。人族の女性をキャスト、いわゆる胸を触らせる接客係にしているところもあるが、ここは奴隷制があるグリックラン皇国だ。獣人のキャストを接客係にしている店も、勿論ある。
そんなこと、レプは···口に出して説明できないりはた目から見たら、レプは恥じらって見えた。
意味が分かるけども、顔を赤らめ、とても言えないと困っているようにしか見えなかった。
「あー、ホイマ。そろそろ行こうか」
ラケスが助け船を出す。えー、とホイマは不満そうに声をあげる。
「何?なんなのさ」
「いーの、お前はそういうの気にしなくて。絶対行ったらダメだからな」
「何それ!ラケスのケーチ!」
ラケスは強引にホイマの背中を押し、ギルドを後にしようとする。慌てて、レプは2人の後ろを追いかける。
顔を赤らめ、おどおどとしているように見えた。
(そっか···おっパブ···。変身魔法···)
レプはまた、夢想していた。
先ほど見たクエスト表の言葉と、冒険者カフェでのことを思い出した。
もみくちゃにされる猫の獣人。
他人に胸を触られるのって、どんな快感を得ることができるのだろうという興味。
(······少しだけ、ほんの少しだけなら···)
レプはドキドキしながらも、とろんと惚けた顔で夢想した。
(やって···みたい···かも)
△△△
「あなたが、猫のキャストさん?」
地下に潜った店内は、薄暗かった。照明があることにはあるが、わざと暗い照明を使っているのだろう。ある意味ムーディな雰囲気が、部屋中を満たしている。
レプの目の前にいるのは、人族の男だった。とても細く、ガリガリの身体をしている。
カールしている髭が特徴的だなと思ったが、話し始めると、彼が女性的であろうと努めていることがわかった。いわゆる、おネェなのだろう。
「は、はい」
レプは――猫耳と、細い猫の尻尾を、魔法で出現させていた。
胸を見られ、男性に触られるということに興味があるレプは、クエスト紙を頼って獣人がキャストのおっパブに訪れていた。わざわざ獣人向けでなくても良いのかもしれないが、もし知り合いがいたらと思うと、バレたくないという気持ちが強まったためだ。あえて、獣人に化けて獣人キャストがいるおっパブに入店することにした。
ふりふりとわざと猫の尻尾を振り、男に笑みを向ける。
「あたしはカタリナ。ここのオーナーよ」
「わ、私は···ホイマって言います」
レプは源氏名など考えてはいなかった。自分の名前を名乗るわけにはいかず、つい知り合いの獣人と言えばーーホイマの名前を名乗ってしまったのだ。
「ホイマ。呼びやすくて良い名前じゃなぁい。それ、そのまま使いましょう」
(あ···あわわ···これって、採用で良いのかな?)
一応面接かと思っていたのだが、レプは慌てる。カタリナは何やら紙に文字を書きこんでいき、自分をキッと睨んだ。
「ところで、あなた、種類は?」
「へ?種類?猫···ですけど」
「そうじゃなくて、猫の種類」
「あ···あわわ?」
カタリナは黒い瞳で睨んでくる。彼の場合ただ目つきが鋭いだけなのだろうが、レプは慌てた。
猫の種類――大して詳しくはなかった。
「ざ、雑種です···」
レプが魔法で作った耳と尻尾は、自分の銀色の髪の色と同じにしてしまった。
銀色の毛色の猫の種類なんて、知らない。そもそもそれが、自分の白い肌と合っているかすらわからなかった。
(雑種だとダメとかあるのかな···。そもそも、魔法だとバレたり···)
レプは一抹の不安を覚えたが。
「そう、ロシアンブルーってことにしなさい。暗いから毛色もよくわかんないわよ」
大丈夫だったようだ。
ホッと胸をなで下ろす。
「ところで胸のサイズは?見たところ、結構大きいわよね」
レプは、いつもの白いローブではなかった。
魔法使いということを隠すためという理由もあるが、仮にもおっパブだったら、多少露出があった方が良いのだろうと思い、上はキャミソール姿だった。
普段、肌をさらさないレプにとっては大冒険だ。
背筋を伸ばすと、胸の谷間が強調され、恥ずかしい。
「じ、Gカップです···」
自分の口から出た言葉が、信じられない。
今までレプは、自分の胸のサイズを言ったことなどなかった。
しかも、異性に対して――初めて言ったのだ。
(い···言っちゃった。言っちゃったよぉ···)
自分の胸のサイズを、初めて言ってしまったことに対して高揚する。
きゅ、とホットパンツの下の秘処が引き締まる。
ふぅんとカタリナが胸をじろじろと見る。その視線に、思わず身を隠しそうになるが――
「きゃっ!」
両胸を寄せるように持ち上げられ、びくりとレプは反応する。
重さを確かめるように、カタリナはレプの両胸を持ち上げる。
無遠慮で、物を吟味するような手つきである。
「Hカップということにしましょう。底上げすればわかんない。それに今、巨乳の猫っていないから」
パッと手を離され、慌ててレプは胸を隠した。あまりのことに、頭が追い付かない。
(え···大丈夫かな···)
性的ではなく、物を見るような目だったことにショックを受ける。
考えてみれば当然のことではある。
オーナーにとってキャストは商品で、あくまでレプの胸も商品の一部でしかないのだ。
少しだけ触られてみたいという興味だけで、踏み入れて良い世界だったのか。
レプは今更ながら後悔した。
「もしかしてさぁ、ホイマちゃん、男性経験ない?」
「え」
カタリナの目は、じぃっとレプの顔を見つめていた。
ぎょろりとした彼の目に押され、レプは嘘などつけない。
「な···ないです」
正直に、言うしかなかった。
もし訊かれたら、少しだけある、と答えようと思っていたが、そんな雰囲気でもない。
「あ、あの、ないと···ダメでしょうか?」
もしダメだ、そんなキャストはいらないと言われたら、引き返そうと思った。
元から無理だったのだと、少しの興味で来て良い場所ではなかったのだと。
ドキドキしながらレプが答えを待っていると、カタリナは、にかっと笑った。
「ううん、大丈夫。うちは初心者歓迎よ」
「そ、そうですか···」
良かった。でも、大丈夫だろうかという2つの気持ちが入り混じる。
自分に、できるのだろうか。
「じゃあホイマちゃんは、今日営業開始からご予約頂いているチャキリス様を対応してもらいましょうっと」
「チャキリス···様ですか?」
「経験がない新人の子、大好きな方なのよ」
名前を言われ、レプはドキドキした。
もう引き返せないところまで、来てしまった。
自分はどうなるのだろう。
弾む心を抑えながら、控え室で待たされる。控室には多くの獣人の女達が自分の待っている。
(みんな···すごい格好している)
彼女達は、半裸だった。街中の獣人の女は全裸の者も多いのに、彼女達は扇情的な服を着ている。胸を大きく見せようと際立たせる服を着ていたり、小さな胸でもフリルで可愛らしく見せたりしているから、余計に色っぽく感じられた。
(私、こんな格好で良かったのかな)
キャミソールで大きな胸を強調して見せているが、他の女性に比べると布地が多かったかもしれない。ドキドキする胸を押さえながらも、自分の格好が合っているかどうかという不安もあり、レプは落ち着いてなどいられない。
「ホイマちゃーん」
「は、はい!」
緊張している最中、カタリナに呼ばれ、勢いよく立ち上がった。緊張していることが周りのキャストにもわかり、くすくすと笑われる。
「さ、チャキリス様来たわよぉ。リラックスして行ってらっしゃい」
「は、はい」
カタリナに両肩を掴まれつつ、レプは店内に出ることになった。背中を押され、少し奥まった部屋に連れていかれる。
カーテンで仕切られた部屋だった。店内に流れるBGMや、女性の「あっ、あっ」という嬌声も聞こえてくる。
「君が、ホイマか」
その部屋にいたのは、肩幅が広い男だった。恰幅が良いのとは違う。
彼は――冒険者なのだろうと、レプにはすぐにわかった。身なりの良いスーツのような恰好はしてはいるが、鍛えられた身体であることは一目瞭然だ。
左目を分断するような大きな傷があり、今まで戦歴を重ねてきた男なのだろう。年頃は中年くらいか。黒い髪に白髪が入り混じっている。
黒髪に黒目という特徴や、発音に変なクセがないことから、グリックラン皇国出身者だということがわかる。
「今日入ったホイマちゃんですぅ。Hカップもあるんですよ。お楽しみ下さいねぇ」
カタリナは猫撫で声で話し、レプの背中を押す。
レプは長年冒険者をやってきたであろう男に委縮し、身をこわばらせる。
「れ···ホイマです。初めてなので···や、優しく、して下さい」
レプは緊張で顔をこわばらせたまま、深々と頭を下げる。彼の近くに座るが、決して寄り添えなどしなかった。
(この人に···私、触られるんだ···)
男の人に胸を触られたいと思い、ここまで来たはずなのに。
男性を前にして、レプの心中を占めた感情は――恐怖でしかなかった。
自分などで、大丈夫だろうか。もっと露出度が高いキャストもいたのに、偽りの自分などで満足してもらえるのだろうか。
(こんなところまで来て···怖い)
恐怖に身を縮ませていると、ふわりと温かみがあるものが、レプの頭に置かれた。
ぽん、ぽん、と優しく撫でられる。
「ホイマちゃん、可愛いなぁ」
レプは顔をあげた。
目の前にいるのは、優しい顔をしたおじさんだった。
大きな傷はあるし、傷がある左目も閉じられているが――優しく目を細めてくれているのがわかる。
(悪い人···じゃないのかも)
縮こまっているレプに優しい微笑みを向けるくらいなのだ。
悪い人ではない、とレプは思った。
「ロシアンブルーって聞いたぜ。猫のキャストは少ないから嬉しいなぁ」
「あ、ありがとうございます」
軽く尻尾を振る。
本当は獣人ではないので、多少の罪悪感はある。
「おっぱい大きいなぁ」
「あっ···あわわ」
レプは腕で胸を隠す。
男性に直接的に言われたことなどなくて、顔を赤らめる。
(そうだ···この人は、おっぱい触りに来てるんだもんね···)
先に調べておいたが、決してこの店の値段は安いものではない。チャキリスの外見年齢からしてそれなりに稼げてはいるのかもしれないが、自分が冒険者カフェで飲んだカフェオレの何十倍もするのだ。
(ちゃんと···しないと)
レプは恥ずかしいながらも、腕を取る。
「突き出して見せてみろよ」
「えっ」
「突き出して、よく見せて」
優しい口調ではあるが、有無を言わさない口調でもあった。
突き出して見せる――って、どうやるのだろう。
「あ··あわわ···こ、こうですか」
レプは苦心しながら、チャキリスに胸を突き出して見せた。
大きな胸は、両腕で挟むと余計に強調される。
(み、見られてる···)
自分の胸だけを、チャキリスはじぃっと見ている。
そこだけを集中的に見られたことなどない。
「ちょっとかがんで」
「は、はい」
少しかがめば、重力に従って胸が揺れる。
また、余計に胸が大きく強調して見えた。
「良い大きさだなぁ。これがHカップかぁ」
「は···はい」
本当はGカップだけれど、さすがに言えない。
「その体勢のまま、上を脱げよ」
「えっ」
レプは驚く。
(こういうのって、自分から脱ぐんだ)
てっきり男性側から脱がされると思っていた。
男性の目の前で、自分から脱ぐなんて――男性経験がないレプには、そんなの恥ずかしすぎる。赤面し、困ったように眉を寄せる。
(で、でも···して、みても···いいかも)
男性の前で、自分から肌を晒す。
大きい、素晴らしいと言ってくれる男の前で肌を晒すことに、レプは言いようのない興奮を覚えてもいた。
「は···い」
戸惑いながら、レプは肩ひもをゆっくりと外した。躊躇しながらも、腕から肩ひもを外し、胸から衣服を、本当にゆっくりと取り去る。
暗い照明の下で、大きな胸を露わにした。
雪のように白い肌は、暗すぎる照明の下でもひどく目立つ。
レプは顔を真っ赤にし、戸惑いながら、先ほどと同じように胸をチャキリスに突き出して見せる。両腕で挟むと胸の大きさがより強調される。
(私···男の人におっぱい見せてる···見せたこと、ないのに···)
異性に対して初めて胸を見せたことに、レプは甘いため息を呑み込んだ。
「素晴らしいなぁ」
胸を露わにして、ほぅっと感動するようにチャキリスは言った。
感動してもらえることが、嬉しく感じられる。
今まで自分を慰めるための妄想の延長で、自分でしか触れたことがない。
なかなか形が良く、男性も喜んでくれる胸であろうとは思っていたので――純粋に褒められ、レプは嬉しかった。
「本当に大きいなぁ」
「はい···」
「乳首も桜色で」
「は···い」
触られるのではなく、しげしげと巨乳を眺められる。
真っ白な肌に、唯一色がある桜色の乳首は目立つ。乳首は少し小さめで、埋もれている。
(すごい···見られちゃってる···)
胸を突き出すことで、自分の胸を見てほしいと強請っているようで――恥ずかしかった。
「乳首も立ってきたな」
「あっ···いや···っ」
レプはつい条件反射で胸を隠そうとしてしまうが、腕をチャキリスに取られてしまう。
「隠すなよ」
「あ···あわわ···」
腕を取られたことで体勢こそ変わってしまったが、レプの大きな胸の乳首がつんと尖っていることは、丸わかりだった。固くなりきった乳首は、レプが興奮をしていることをチャキリスに知らせてしまう。
(乳首がたっているところ、見られちゃう···っ)
レプは涙目になっていた。
恥ずかしくて、たまらない。自分が、胸を見られただけで興奮してしまう女だとわかられてしまう。
チャキリスは、自分が今日は初めての店だということを知っているのに。
「さ、こっちこいよ」
「えっ、きゃっ」
がばりと身体を抱きかかえられ、膝の上に乗せられる。チャキリスの太い足の上に乗っかると、視線が彼よりも上になる。
ちょうど、大きな胸が彼の顔の目の前にさらされる感じだ。
レプはより顔を赤くし、一度身をよじったが――腰をがっつりと掴まれているため、逃げられなかった。
「い、いやぁ···こんな」
男の前で、より近くで胸を見られるなど――恥ずかしすぎる。諦めずに身をよじるが、チャキリスは緩やかに笑った。
「可愛い猫だなぁ」
「あっ」
びくりと、レプは大げさなまでに身体を震わせた。
(な···なにこれ)
初めて、自分の大きな胸を、男の大きな手が包んできた。その柔らかさを愉しむように、ふにふにと触れてくる。肉の感触を確かめるような触り方だったが、指先は尖り切った乳首を刺激してくる。
親指の腹で乳首を転がすようにじっくりとした仕草に、電流が走ったような衝撃が与えられる。
「んっ···あぁっ···!」
レプは大きな声で、おさえきれない喘ぎ声を漏らす。今まで与えられたことがない緩やかな刺激に、びくびくと身体が跳ねる。腰が震え、ついチャキリスの頭を抱いてしまった。チャキリスの髪は固く、男性特有の整髪剤の匂いがする。
(さ、触られてる···私のおっぱい)
そう考えると、よりレプは高揚していく。
誰にも触られたことがない敏感な部分をじっくりと、けれどレプの反応を見て執拗に責めてくる。
(こんなの···感じちゃう)
両胸の乳首を同時にこねられているのだ。
秘処が熱を持ち、痛いぐらいの甘い刺激を受ける。つんと痛いぐらいの刺激に、自分の秘処の中がしまっていくのを感じた。
きゅんきゅんと、自分の中にないはずのものを締め上げようとしてくる。
ホットパンツに、じんわりと愛液が垂れていくのがわかった。
「喜んでもらえて、嬉しいよ」
「あっ···よ、喜んでは···いません」
レプは必死に顔を横に振った。
喜んでいるだなんて――恥ずかしい。
「そうなのか?」
「んっ、んぅっ···そ···ですぅ···」
指先でくるくると円を描くように乳首の周りを触られる。先ほど与えられていた刺激よりももどかしく、直接的な刺激にはならないけれど――快感の余韻のようなものに、腰が跳ねた。
(いじわる、されて···る)
彼は優しい顔をしているのに、意地悪をされているようにレプには思えた。
「猫なのに、嘘つきだなぁ。いや···猫だから強情なのかね」
「んんんっ···」
「じゃ、こういうのはどうだ?」
「きゃっ」
胸に吸い付かれる。
びんびんと固くなり、赤く熟した乳首を、ころころと転がすように舐められる。
「あっ、あっ、あんっ···!!」
絶え間なく、レプは喘ぐ。
ちゅうっと乳首を吸われると、身体全体が震えていく。
(ダメ···ッ!こんなの、されたら···イヤっ)
片方の胸は吸われ、もう片方の胸の乳首を弾かれる。両胸それぞれに与えられる刺激に、愛液が零れ落ちていくのがわかる。
腰が跳ねると、ホットパンツの中の秘処が、クリトリスが擦れる。服の中でこすれる快感に震え、もっと感じたいと思ってしまう。
(こすれちゃう···っ)
いやだと思いながらも、レプは刺激を求めて、腰を動かす。するとホットパンツの中のクリトリスが刺激され、余計に限界に近くなっていく。
「イきそうなんだな?」
「んんぅっ!」
腰を抱き寄せられ、チャキリスと密着をさせられる。大きな胸をチャキリスの顔に押し付け、チャキリスはレプの巨乳にむしゃぶりついてきた。
腰が密着すると···自分の秘処の下に、もっこりとした男の股を感じた。
(この人···大きくしてる)
自分に興奮して、大きくしているのだ。
「あっ···ふぅ···んぅ!」
自分のクリストスの下に大きな男の股があることが、レプの興奮を逆なでする。
「腰、自分で動いちゃいますね」
「やぁっ···!そ、そんなこと···っ!」
彼の荒い息が、胸に吹きかけられる。
(···感じてる私に興奮してる)
あられもない自分に男が興奮している事実に、もうレプは我慢などできなかった
片方の胸はちゅぱちゅぱと音をたてて吸われている。弱く吸われていることが、自分の秘処に潤いを持たせる。もう片方の胸の乳首は親指と人差し指で挟まれ、こねられる。
そしてレプは、自分自身で腰を動かし、男の大きくなったイチモツと、自らのクリトリスをこすり合わせた。
もどかしい刺激が重なっていき、レプは大きな快感を受け入れるしかない。
「イっ、イッちゃう···っ!!」
大きな刺激に、声が大きくなる。
レプは男に抱き着き、自分の秘処から下腹部にかけて電流のように流れる刺激に、どうしようもないほどの快感を覚えた。
一瞬周りが真っ白になるような刺激は、両方の足先まで響いてく。
(イくところ、見られちゃった···)
快感を感じながら、レプは惚けた顔で夢想する。
(男の人の前で···初めてイッちゃった···)
ドキドキする。初めてイッたことに恥ずかしさを感じながら、続く胸の愛撫に快感が高められる。
(私、すごくエッチなことされてる···)
いつもの自分からはありえないことだ。
「さて、イッたなぁ」
「きゃっ!そこは···」
優しく、ホットパンツ越しに秘処を触られる。イッたばかりのそこは振られると痛くて、少しだけレプは苦痛に顔を歪めた。
「もうそろそろ、俺も気持ちよくしてもらっていいかねぇ?」
「えっ、そこはぁ···」
(あ、あれ?)
おっパブって、胸を触らせるだけのところだと思っていた。局部は触らず、胸だけを堪能する場所だという認識だ。
「だいぶ感じてたし、ちゃんと濡れてんだろう?」
チャキリスは優しく笑い、自分の秘処に触れる。
(ん!?んー!?)
達したばかりのレプの体は敏感だったが、頭が急激に冷めていく。
チャキリスは、優しくしてあげますよと言った。現在秘処も触られ、ホットパンツのボタンも彼は外そうとしている。
これは···もしかして、自分の中に入りたいということではないか。
「最初言われた通り、優しくしてやるよ」
「えっ···!」
レプは、青ざめた。
予想だにしていなかったことだからだ。
(あ、あわわ···?え、え?おっバブっておっぱい触るだけのところだよね?本番もするの?)
本来ならしないはずだが、レプの知識は浅すぎた。
自分が間違っていたのかと、後悔をし始める。
心の準備ができていない。
自分はまだ男性経験がなく、そしてそこまでは心づもりがなかった。
(初対面の人に···それだけは···!!)
さぁっと血の気が引いていくというのは、こういう感覚なのだろう。
目の前の男は、きっと悪い男ではない。
自分に優しく、官能の世界に導いてくれるだろうが···。
「嫌ですぅ!!」
レプは、悲鳴をあげた。
処女を捧げることだけは、ここではしたくはない。
(銀色の月よ、かの者に良き眠り与えたまえ···ッ!)
「え?」
心中で魔法詠唱を行い、詠唱を省く。咄嗟の行動すぎて、男は何が起こったかわかっていない。
ーー急に悲鳴をあげ、銀色の輝きをまとった少女を見つめ、チャキリスは驚愕していた。
レプの身体は、魔法詠唱の輝きを放つ。
耳と尻尾が、最初からそこになかったかのように消えるが、チャキリスには見えていなかっただろう。思わず目を抑えたくなるほどの光が、レプの身体からは放たれたからだ。
「ヒュプノスっ!」
大きな声で、レプは睡眠魔法を詠唱した。
△△△
「いやー今日のバトル、レプ最高だったなぁ」
モンスター退治のクエストが終わり、バトルからの帰り道、ホイマは快活に言った。
空は茜色に染まり、多くの冒険者たちが街の大通りを歩いている。
彼女は頬や腹部などに小さな傷をつけていたが、もうレプには彼女を回復できるだけのマジックポイントは残されていなかった。
「今日のレプ、何だか攻撃魔法多かったよなぁ」
「あ、ごめんなさい。ついつい···」
レプは思わず謝る。ラケスも、多くの傷をつけていた。HPも残りわずかである。彼を回復させるだけのマジックポイントも、レプにはない。
「いや、責めてない。ただ、凄かったなぁと···何かあった?」
「え!?な、ないよ!?」
レプは、昨日のことを忘れたくて···今日のクエストでははりきって攻撃魔法を連発させた。得意な炎系の魔法ばかりを繰り出し、回復魔法は1回しか使っていない。
前衛は回復してもらえず、後衛である魔法使いがばんばん攻撃魔法を繰り出していたら、回復魔法など使われる暇はない。
(だって···昨日のこと、恥ずかしすぎて···何度も思い出しちゃう)
自ら「おっパブ」なんて場所に行き、胸を触られ、イかされて···。
(···すごく、気持ちよかったけど···もう怖いから行きたくない)
自分だけ気持ちよくなってずるいとは思うが、怖かったものは怖かったのだ。
男を眠らせ、レプは店から逃げ出した。しかしその快感と恐怖は忘れることができず、記憶を振り払うように、今日のクエストははりきってしまった。
「ま、そういうレプも良いよなぁ。攻撃的で、攻めててさ」
「あはは···ありがとう」
ホイマに肩を抱かれ、レプは笑う。
やはりパーティの仲間は、良い。
大人しく、パーティの仲間たちとクエストをこなしていこう。
(あんなこと···忘れよう)
レプは、そう決意する。
「あっ、遠征組だ」
ラケスが、声をあげた。前を見ると、自分達とは逆方向に向かっていく団体が歩いてきていた。20人以上の剣士や魔法使い、武装した屈強そうな獣人の団体だ。荷台にも多くの武器を積んでおり、これから長期のクエストに行くことは明らかだった。
彼等の面持ちは硬く、ついレプはごくりと息を呑む。
「えんせー?なになに、皆でどっか行くの?」
ホイマは呑気に、ラケスに訊く。
「そう。カラスさんのパーティと、チャキリスさんとこのパーティが合同でモバーニに遠征するんだって。何でもモバーニの東の崖に、結構強いモンスターが現れたらしくてさ」
「え?」
レプは、反応した。
「ああ、モバーニってレプの故郷だよな?でも強いモンスターが現れたのは、レプの故郷よりももっと西寄りだ。安心して良い」
確かにモバーニはレプの出身国だ。だから反応した―――のではない。
ラケスは気を遣ってくれたようだが···。
(今、何て言った?)
レプは昨日聞いた名前がラケスの口から出てきたことに驚愕したのだ。
「お、ラケスじゃないか」
ぞろぞろと歩いてきた遠征組の1人が、ラケスに声をかけてきた。遠征組の皆が強張った顔なのにも関わらず、彼だけが柔らかい笑みを浮かべている。
左目を分断するような傷がある、中年の男だった。
(あ···)
レプは、自然と体が震えるのを瞬時に抑えた。
顔を俯かせる。
(冒険者だと思っていたけれど···)
間違いなく、チャキリスだ。
昨日おっパブで、自分の胸を蹂躙した男。
(私が···イ、イっちゃったのを見た人···)
冒険者だとは思っていたが、まさかラケスの知り合いだとは思わなかった。大国であるグリックラン皇国には、冒険者も多い。人口が多い分、クエスト依頼も多いからだ。冒険者だからといってバレるはずがないと思っていたが、知り合いとなれば話は別だ。
「だーれ?」
ホイマはレプが身を固くしていることなど知らず、呑気に首をかしげる。
「こら失礼だろ。チャキリスさんは超有名な剣士で、俺の師匠だった人だよ」
ただの知り合いではなく、師匠。
レプは目まいを覚えた。
まさかラケスの師匠と、昨日あんなことをしてしまっていただなんて。
(や、やだ···ラケスさんの知り合いだとわかれば、あんなこと···)
「ラケスもクエスト帰りか?」
「ええ、パーティメンバーと。この子がホイマ、彼女が魔法使いのレプ。俺にはもったいないパーティメンバーなんですよ」
後ろから首を絞めつけられたような衝撃だった。
名前を言うことなどないと思ったのに、わざわざラケスは言ったのだ···わざわざ!
「ホイマ?」
チャキリスは、ホイマと、自分を見た。怪訝な瞳に、心臓は高鳴るしかない。
間違いなく、彼はホイマの名前を覚えていることだろう。
「え?なに?」
怪訝に見られているホイマは、不思議そうな顔をする。ホイマとしては身に覚えなどあるはずがない。
(や···っ!い、いやぁぁっ)
レプは冷や汗を垂らした。心の中で絶叫しつつ、顔を見えないように俯かせる。フードを被りたかったが、そんなことをしたら余計に怪しまれるだろう。
昨日、「ホイマ」と店内で名乗ってしまった自分にファイアボールをかましてやりたい。
仲間の名を名乗るなど、どうかしていたのだ。
(バ···バレちゃう。絶対バレちゃう!私がホイマの名前を名乗ったこと···)
自分は髪色も変えずにいたのだ。いくら暗い店内と言えど、自分の髪色は見えただろう。
それでバレないはずがない。
ホイマという名前を名乗り、おっパブなどに潜り込んだこと。
仲間の名前を使い、淫靡な欲望を満たした最低な女と。
「ホイマをご存知なんですか?」
「い···や、獣人だけど、いぬ···だよなぁ」
どきりとした。
「えー!あちし、狼だよー!」
「あ、あぁ、悪いな」
チャキリスは目を瞬かせ、苦笑いする。自身の考えに苦笑したのだろう。
「で、そっちのお嬢ちゃんは魔法使いか」
チャキリスの視線を感じ、自分はこくこくと縦に頷く。
「魔法使い···」
チャキリスは、自身の言葉を口内で持て余しているようだった。自分の姿を見て、何かを考えているらしい。
(や、やだ···!)
チャキリスの視線が、自分の頭に注がれているのがわかった。
フードを被っていなくて、逆に良かったかもしれない。
獣耳がないことが、よくわかる。
「···他人のそら似かな」
これほど、安心した時はなかっただろう。胸をなで下ろすという言葉だけでは、レプの深い安堵は表現しきれない。張り詰めていた緊張の糸がようやく和らいだように、どっとした疲れが身体を襲う。
(た、助かった···)
「遠征、頑張ってくださいね」
「ありがとうな。長期遠征になるから暫くは帰ってこねえよ。ま、モバーニは良い国だから、長期滞在を楽しんでくる」
チャキリスは丁寧な口調でラケスにも接し、ではと礼儀正しく頭を下げる。
長期滞在。
これから向かうということは、今日からグリックラン皇国にはいなくなるということだ。それが、どれだけレプを安心させることか。
チャキリスは颯爽と去っていく。
自分たちはその背中を目で追う。
「ね、ねぇ。長期滞在ってどれぐらいなのかなぁ?」
チャキリスが十分に離れてから、レプはラケスに訊いてみた。
「あー、モバーニ遠いからなぁ。1年ぐらいかな?わかんないけど」
「1年···」
それだけ離れていれば、バレる心配はないのではないかと思った。
彼は自分とおっパブのレプを、別人だと思ってくれているようだし――あまり近寄りたくはない相手だ。
「こ、怖そうな人だね」
あえて近づきたくないので、レプはマイナスなことを言ってみた。
「そう?すごい優しいよ。女性にも人気あるし。でもなぜか独身なんだよなぁ」
「へぇ···」
「硬派なんだよなぁ。女性には興味ないって感じ」
「それは···ないと思うなぁ」
「え?」
何故か力強い、確信を持ったレプの一言に、ラケスは不思議そうだった。
(あんな触り方する人が、女性に興味ない訳がないよね)
レプにはそれだけがわかっていた。
硬派そうに見えて、「おっパブ」に通い、新人の胸を触りたがる常連なのだ。レプと一緒で、単にむっつり助平なだけなのだろう。
(あんな···触り方)
レプは、ついついまた思い出してしまう。甘い快感を思い出し、つい足をきゅっと閉じる。
(また、濡れてきちゃった···いけない)
抑えようとしても、下の蜜はとめどなく溢れてくる。
自ら得た快感を、忘れさせないように。
(また···触られたいなぁ···)
自然とレプはとろけた顔で、もう過ぎ去ってしまった遠征組の歩いた道を目で追う。
思い出した快感を余韻に残しつつ、レプも寂しく帰路につくしかなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる