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異国の女剣客編

第22部分 刀鍛冶のドワーフ

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 ワイバーンに乗って、半日でトレーク村に着いた。
 トレーク村は元々、ドワーフが中心になって起こした村だ。

 周囲の山では多くの鉱石が取れる。
 鍛冶職人にとっては、うってつけの環境だった。

「この村に刀鍛冶がいると聞いたのですが?」

 村のギルドで話を聞く。
 村なのにギルドがあるのは、ここに多数の職人がいるからだろう。
 重要視されているようだ。
 しかし、ギルドといってもレイドアにあるような大きなものではない。
 小さい規模で受け付けも一人しかいなかった。

「はいはい、私はこの村唯一のギルド嬢、クレサです。観光ですか? 依頼ですか?」

「依頼です。刀鍛冶を探しています」
 リスネさんから渡された紹介状を渡す。

「なるほど、ということはドラズさんですね。念の為、冒険者登録の確認をします………………はい、大丈夫です。確認できました。少々、お待ちください」

 クレサさんは紙に簡単な案内地図をスラスラと書いた。

「これがドラズさんの家の場所です。あの人、山の中に家を構えているので」
「分かりました。ありがとうございます」

 俺は紙を受け取り、山の中に入った。

「この山の中に住んでいるって本当か?」
 リザは渋い顔をする。

「弱いとはいえ、魔物の痕跡がある。襲われたら、大変だぞ」
「元々、旅をしていたらしいから、凄腕なのかもな」
 にしても、わざわざ山の中に家を作ることはないだろうとは思った。
 物語の定番だとこういう場合、頑固者のことが多い。
 交渉になった時のことを考えた方がよさそうだ。

 山道は迷うかと心配したが、大丈夫だった。
 ドラズさんの家までは奇麗に石畳で整備されていた。
 そして、山の中に家が見えてくる。外見から工房だとすぐに分かった。

「すいません。どなたかいませんか?」

 少しすると家の中から足音がした。

「お待たせしました。ご用件は?」

 出てきたのは人間だった。
 恐らく、香と同い年くらいの男の子だ。
 背は俺より少し高いから、結構、長身な方だ。

「依頼です。刀を打って頂きたいのですが」

「分かりました。ドラズさん、仕事ですよ!」

 青年の言葉に返事はなかった。
「多分工房だ。ちょっと待っていてくださいね」
 青年は家の中に駆けていく。

 しばらくして、青年はドラズさんを連れて帰ってきた。
 俺が驚いたのは、ドラズさんが女性だったことだ。
 刀鍛冶、ドワーフ、それに名前の響きで完全に男だと思っていた。

「お兄さんが刀を打ってほしいっていうお客かい?」

 気難しい感じはしない。印象は田舎のおばさん、って感じだ。

 ドワーフは女性も髭を生やすなんて昔の小説で読んだことがあったが、そんなことはなかった。
 ただ、背は極端に低い。青年の半分くらいだ。
 肌は褐色で、腕は俺よりも太い。
「いえ、刀を打ってほしいのは俺じゃありません」
 そう言って、あとの紹介を香に任せた。

「私が刀を打ってほしいと頼みに来た愛洲香です」

「愛洲?」

 ドラズさんはその部分に反応した。
 そして、香に近づく。
「驚いたね。あいつにそっくりの魔力だ。あんた、愛洲久忠の娘かい?」

「えっ!? お爺様を知っているのですか?」

「お爺様? ああ、孫かい? もうそんなに時間が経つんだね。あたしはね、あんたの爺様と一緒にジンブを旅したんだよ。久忠は別の思惑があったみたいだったけど、あたしはジンブの持っている武器の製造技術を学ぶためにね」

 えっ、じゃあ、ドラズさんって一体、何歳なんだ? 見た目では40歳前後だけど…………

「えっ、でも、お爺様がジンブを旅したのは50年以上前のことですよ」

 香も同じことを思っていた。

「何かおかしいかい。あたしが30歳くらいの時さね。エルフに比べちゃ、寿命は短いが人間からすれば、あたしたちは倍くらい生きるからね。体は今が全盛期さ」

 なるほど、と納得するしかなかった。

「ジンブからの来訪者が久忠の孫っていうのも驚いたけど、エルフに会うのも久しぶりだね」

 ドラズさんの視線がリザに向かった。。
 確認していなかったが、もしかして、エルフとドワーフって不仲なのか?
 小説では確かに仲が悪いことが多々ある。

「エルフはドワーフを嫌いっている奴が多いけど、お嬢ちゃんは大丈夫そうだね」

「初めて会った人を嫌う理由はない」

 俺のそんな心配はすぐに無くなった。
 リザがドワーフというだけで人を嫌うとは思えない。
 ドラズさんもエルフを嫌っている様子はない。
 そもそも種族主義なら、わざわざジンブに旅へ出たりしないだろう。

「賢いお嬢ちゃんだね。さて、家先で立ち話も悪い。上がって頂戴! お腹は空いていないかい? この前、裏の森で暴れ回っていた魔猪を狩ったんだよ」

「猪!? 肉!」とリザの眼が光った。

「あら、お嬢ちゃん、エルフなのに肉を食うのかい? 無理しなくてもうまい山菜もあるよ」
 リザはブンブンと首を横に振った。

「私、ハーフエルフ、肉大好き! 草嫌い!」

 リザ、君の自己紹介はそれでいいのかい?
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