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奪還編

第55部分 『青炎のハーフエルフ』

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「香を離せ」

 リザは簡単に『竜圏』を突破し、アイラの腕を掴んだ。
 その瞬間、アイラの腕が燃えた。

「一体何が…………!」

 アイラは咄嗟に香を放した。
 危険を感じ、距離を取る。

「香、大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です……リザちゃん、その姿は…………」

 リザの背中には青色の炎の翼が生えていた。

「あとは私がやる」

 リザはアイラと対峙した。
 その時、リザの手元に弓が現れる。

「これは…………そうか、ハヤテは気付いていたんだな」

 それは俺がドラズさんに頼んで作ってもらった弓だ。
 素材には火のドレイクの角が使用されている。

 リザはその弓を手に取った。
「アイラ、最終決戦だ!」

「今更、エルフが一人で何ができるんじゃ!」

 アイラは初めて本気なる。
 本能でリザを脅威と感じていた。

 リザは火のついた矢を放つ。

「ふん、火矢如きで儂の『竜圏』を…………!」

 火矢は『竜圏』に触れた瞬間、大炎となった。

「何が起きたんじゃ!?」

 炎の渦から抜け出したアイラの全身は火傷で爛れていた。

「まさか、この火は…………!?」

「気付いたか? この炎は無属性魔法を燃料に燃え広がる。無属性魔法頼りで戦うお前みたいな奴の天敵だ」

「そんな火の魔法があるのか!?」

「火属性じゃない。これは炎属性、私の『固有自然魔法』だ」

「エルフが固有自然魔法じゃと?」

「エルフじゃない、私、ハーフエルフ。半分は人間だ! 魔法付与の矢(炎)『青炎せいえん』!!』

「ちっ……!」

 アイラは必死に矢を躱す。
 膨大な魔力を誇るアイラは、リザにとっては燃料庫だ。
 もし、一矢でも受ければ、体は発火する。

「舐めるな、ハーフエルフ!」

 アイラはリザが連射する矢を躱し、接近した。

「『竜爪』!」

 アイラの爪がリザの左肩に刺さる。

 リザは痛みに一瞬、表情を歪め、次に笑った。
 
「ハーフエルフ、貴様…………」

「お前は勝負を焦った…………」

 リザはアイラの腕を掴んだ。
 そして、青い炎の翼を畳み、自身とアイラを包み込んだ。

「止めろ! 放せ!!」

「放さない。燃え尽きろ! 『大青炎柱だいせいえんちゅう』!」

 青い炎柱が天高く燃え上がる。

「リザちゃん!」

 香が近寄ろうにも炎圧で近づけない。
 そもそも、香は体中がボロボロで一人では満足に動けなかった。

 炎が徐々に弱くなり、二つの人影が現れる。

「これで死なないとか、やっぱり化け物…………」
「抜かせ。その化け物をここまで追い込んだのはどこのどいつじゃ?」

 アイラの両手、両足は黒く焼けていた。
 もう回復しなかった。

「私だけの力じゃない。お前は余裕がありそうに見せていたけど、香の奥義を喰らった時、深手を負っていた。体の表面は治ったように見せても中身がボロボロだった」

「だとしても、お主の力が予想外じゃった。こんなことなら、最初から本気でやるべきじゃったかの…………」

 リザは矢を構える。
 止めを刺すつもりだろう。

「待ってください!」

 突然、王女様がリザとアイラの間に割って入った。



 地上の戦いが終結したことで上空にも変化が起きた。
 ドレイクの動きに統率が無くなった。
 リントブルムが攻撃するとあっさりと逃げてしまった。

『地上で何かあったか?』

「そうなんだけど、ちょっと妙なことになってる。リントブルム、降りてくれるか」


『分かったぞ。急ぐから掴まれ』

 リントブルムはほぼ垂直に下降する。

 そして、地面が近づいたところで急減速して、着陸した。

「リザ! 香!」

 最後に見た光景から少し変化があった。

 王女様がアイラを抱き抱えている。

 リザは矢を構えているが、明かに戸惑っていた。
 こっちも気になるが、その前に香とレリアーナさんの治療をしないとまずそうだ。

「『紺碧スライム』を召喚。二人を止血してあげてくれ」

『紺碧スライム』は二つに分裂して、香とレリアーナさんの止血を開始した。


 さてと、後はこっちだな……

「リザ、大丈夫か?」

「私は大丈夫だ。ハヤテ、私…………ううん、今はやめる。それよりこの姫様は本当に操られているのか? そんな気がしない」

 俺は王女様に視線を移した。

「王女様、なぜアイラを庇うのですか?」

「アイラは私の友達です。もう私たちに構わないでください。帰ってください!」

 王女様は俺たちに敵意を向ける。
 確かに操られているようには思えない。
 だったら、なぜ、王女様はアイラを庇う?

「私は操られていません。どうすれば、それを信じてもらえますか?」

 その方法はある。
 しかし、いや、でも…………

「ハヤテ、手っ取り早い方法があるだろ」

 リザに指摘される。
 
「でも、それは…………」
「躊躇っている時間ない。これだけ騒いだのに誰も来ないのが不思議なくらいだ」

「誰も来ませんよ。だって、アイラが結界を張っていますから」

「結界? なんでそんなことを?」

「あなた達が私を取り戻すために来たことが魔王にバレれば、私の立場は今よりもさらに悪くなります。アイラはそれを防ぎたかったんです。どうすれば、私が操られていないと信じてくれますか? 地面に額を擦り付けて懇願すればいいですか? 裸であなたの相手をすればいいですか? あなたの靴を嘗めればいいですか?」

 この王女様、いきなり何言いだした!?

「シャルロッテ、もういい。元々、無理じゃった。お前は国に帰れ」

 駄目だ、全然話が見えてこない。
 それに結界が本当だったとしても、アイラがこんな状態じゃいつまで機能しているか分からない。
 
 分かったよ、もう!
 やればいいんだろ!!

「じゃあ、王女様、一つ、お願いがあります。リザ」

 リザは短剣を王女様に渡す。

 あなたの血をこの魔具に一滴でいいんで、垂らしてください。

「それで何が分かるんですか?」

「全てが分かります」

「……良く分かりませんが、従いましょう」

 王女様は指を少しだけ切り、血を一滴、召喚盤に垂らした。

 王女様のカードが生成される。


 ロキア王国第二王女 シャルロッテ・ロキア
 レベル①属性(水) パーソン ソウルポイント+2000


 なんか、とんでもないレアカードを手に入れた気がする。
 
 俺はそれを召喚盤にセットした。
 直後、俺の記憶が王女様に流れたのだろう。
 王女様は目を丸くしていた。

 俺は俺で王女様の記憶の中から今回のことに関する情報を集める。

「――――そんなことがあったのか…………リザ、弓を降ろしてくれ。王女様は操られていない。誘拐も自演だ」
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