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レイドア防衛編

第142部分 大戦果

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「ここは…………?」

 ローランが目を開けた。
 続いてリザたちも意識を取り戻す。

 それを見て、俺は体の力が抜けた。

「みんな、ありがとう」

「あれ、私、何してた? 記憶が飛んだ?」
 リザが頭を振る。

「私もです。でも、何かとても怖い体験をした気がします」
 香が言った。

 何があったのか、俺にも分からない。
 リンク状態だったのに、一時的にリザたちの意識が消えていた。

「みんな、どうしたんだ?」
 ローランはまだ半分寝ているようだった。

「馬鹿、動かないで! あんた、内臓も骨もぐちゃぐちゃ……あれ?」

 リスネさんはローランの体に手を当てて、確認する。

「治ってる? 一体どういうこと?」
「私も分からない。でも不思議だ。体がとても軽い」

 ローランは何もなかったかのように立ち上がった。
 俺含めて、周りの人間は唖然とする。

「君、実はアンデットだったりする?」
 俺がそう尋ねると、

 ローランはジト目で、

「失礼なことを言うな。私はれっきとして人間だ。でも、夢の中で誰かにあった気がするな」

「それって、女神か? 実は一回死んで、転生したんじゃないのか?」

「君と一緒にするな。……いや、女神とかそういうんじゃなくて、もっと身近の、会ったことがある誰かで……駄目だ。思い出せない」

 ローランは頭を振った。

「でも、とにかく、生き返ってよかったよ。君、さっきまで死んでいたから」

「死んでいた?」
 ローランは驚く。

「そうよ。呼吸も心臓も止まって……」

 リスネが泣きながら、抱きついた。

「お、おい、リスネらしくないぞ」
 ローランは困惑していた。

「うるさいわね!」

 戦いは二日目を終えた。

 四臣の一人の一人を討ち取る大戦果だ。
 レイドアの士気は上がる。


 しかし、問題は明日だろう。
 魔王が来る。



 二日目の夜、屋敷にて。


 ついさっきまで広場でガンウォールを討ち取った英雄、フィールレイやワイバーンを撃退した英雄、などと称賛されていた二人は屋敷に帰って来るなり、喧嘩を始めた。

 喧嘩の内容は、二人が勝負していたワイバーンの撃退数である。

 数だけなら、リザが圧勝だ。
 しかし、香にも言い分がある。

「勝負は私の勝ちだ」
 リザは勝ち誇っていた。

「待ってください。途中で私が抜けたんだから、勝負は無効です」
 香が主張する。

「香が残っていたって私の勝ちだった」
 リザは自信満々で言い切った。

 まぁ、そりゃ大爆発したもんな。
 その代償にリザは『怪鳥の群れ』から騎乗禁止を宣告されたけどさ。

「とにかく、こんな結果認められません!」

「往生際が悪いぞ、香!」

 どうもこの二人の喧嘩は終わりが見えない。
 逃げるとしようか。

 食堂に降りるとローランがいた。
 一人で酒を飲んでいるようだった。

「やぁ、体はもう大丈夫なのかい?」
 厨房からコップを持ってくる。
 そして、ローランの対面に腰かけた。

「ああ、不思議だが、何ともない。あれだけボロボロになったはずなのにな。ハヤテが何かしてくれたんだろ?」

 ローランは酒を注いでくれた。

「俺は大したことしていないよ。リザや香、それにリスネさんのおかげだ」

「そうだったな。リスネもついにハヤテハーレム加入か」

 俺は飲みかけていた酒を吹き出しかけた。
 
「おい!」

 ローランは笑った。

「なぁ、必死に助けてくれてこんなことを言うのは変かも知らないが、私は必要か?」

「…………」

「私は君たちとは違う。優れた能力も道具も持っていない。君たちといても足手纏いじゃないのか? そうなら、遠慮なく言ってくれ。それが私の為でもある」

 ローランは真っ直ぐに俺を見た。
 どんなことを言っても構わない、という意思を感じる。

「そこまで言うなら、言わせてもらうね。……ローラン、君がいないと困る」

「えっ!?」

 ローランは言われたことが意外だったらしく、驚いていた。

「アイラはともかく、リザや香たちはまだ若い。戦いになると無茶をしたがるし、敵の思惑に嵌りそうになる。ローランみたいに冷静でいてくれる人がいないと困るんだよ」

 別にローランに気を使っているわけじゃない。
 これが本心だ。
 リザたちは強力な力を持っているけど、危ういところがある。
 俺だけじゃ、不安だ。

「…………そうか、私は必要か」

「そう、必要だよ。もし、ローランが俺たちと一緒にいたくないと言うなら、しょうがないけどね」

 俺が苦笑すると、ローランも苦笑いをした。

「凡人として必死にくらいついていくさ。君たちと一緒にいる楽しさを知ってしまったからね」

「そう言ってもらうと助かるよ」

 俺たちが静かに話をしているとドタドタと近づいてくる足音がした。

「いた! なんでローランと一緒にいるんだ!?」
 リザが頬を膨らませる。

「やっぱりあれですか。同じくらいの年の方が良いですか…………?」

 香の眼から光が無くなっている。

「あーー、えっと、ローラン、さっそくだけど助けてくれる?」

 ローランはフッと笑い、席を立つ。
 酒を飲んでいるからなのか、少し顔が赤かった。

 テーブルを回って、俺のところに来た。
 そして、俺の肩に手を乗せた。

「ローラン……?」

「君の倫理観でも私になら手を出していいんじゃないか? 子供じゃないぞ」

 …………おい!

「ふ~~ん、ローラン、もう一回、生死を彷徨うか?」

 リザ、激おこである。

「ローラン、リザちゃんはともかく私は大人ですよ」

 香はリザのとある部分に視線を向けた。
 まぁ、どことは言わないけど。

「何が言いたい?」
「もう少し成長すると良いですね」
「よし、まずはお前からだ!」

「二人ともいい加減にしろ! 今日の戦いで二人とも魔力を使い切っているんだから、早く休め!」

「やっぱり君たちと一緒にいると楽しいな」
 ローランは笑う。

 いや、笑ってないで止めて欲しいんだけど……
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